5スレ>>482

あるトレーナーの家の話。

「ヌケニン~!こっちこっち!」
「………。」
「おーい、こっちだってばー。」
「………。」
みどりのさんぽみちの一角。
アメモース、モルフォン、そしてヌケニンの3人は、いつものように草むらに遊びに来ていた。

萌えもんタワーの幽霊騒動…「あの日」から大体1ヶ月。
あの後、彼女達のマスターは、行き場のないヌケニンを引き取った。
彼曰く、「俺達で、なんというか、どうにかして癒してあげたい…そういうことだ。」とのこと。
その一言もあってか、アメモースとモルフォンは、ヌケニンに何とか明るくなってもらおうと、最近は彼女を連れて毎日遊びに出ている。
だが、努力に反して、ヌケニンは2人と慣れあわず、いつも1人離れてしまうのだった。

…今日も今日とて、ヌケニンは1人で座り込んで土いじりである。
「…ヌケニンっ!!」
「……フン。」
痺れを切らしたアメモースがヌケニンに強く呼びかける。
しかし、ヌケニンはぷいっと向きを変えると、さらに離れて行ってしまった。
アメモースはむすっとした顔をする。
「…もうっ!毎日これじゃん!つまんないー。」
「あ、アメモースちゃん?キャッチボールなら、私が…。」
「ヌケニンとしないと意味ないでしょっ!」
「そ、そうですよね…。」
それはそうだ。今回もメインはヌケニンなのだから、彼女と遊ばないと意味がないのだ。
だが、ヌケニンがちっとも乗らないせいで、最近は2人とも遊び足りないようだった。
「ってかヌケニンは毎日毎日土いじり。つまらなくないのかしら?」
「…そうですね。少したずねてみましょうか。」
モルフォンはヌケニンに近づいていった。
ヌケニンはそんなモルフォンに目もくれず、またひたすら地面をつついていた。
「…あの、お話、しましょう?」
「………。」
「何故、いつも土いじりを?」
「……好きなの。」
「…好き?」
「土…好き。私の生まれた場所…。」
「あ、なるほど。私も土の上で生まれましたから、わかります。」
「…違う。」
ヌケニンは土を手に取った。目はいつもと変わらず虚ろである。
「私は…土の中の生まれ。…暗い…湿った…土の中。
 あなたは…明るい地面の上…でしょ。」
「う…。」
相変わらず思考が暗い。
「…私は、土の中に帰りたい…。
 地面の上にいても…どうせ…私なんか…。」
「そ、そんなことないですよ!私だって、毒萌えもんです。あなたと同じ、嫌われ者です。
 でも、地面の上は楽しいですよ。“どうせ”なんてことはないです!」
モルフォンが突然必死になって説得する。
一度見捨てられ、死にかけたところを救われたモルフォン。彼女には“自分の存在をあきらめる”ことなぞ、許せないのだ。
だがしかし、ヌケニンは冷たく言い放った。
「…生きてるだけ…ましでしょ。」
「あ、う…。そんな…。」
「……フン。」
ヌケニンはそっぽを向いた。そして一言。
「…帰る。」
そう言い残し、すたすたと歩いていってしまった。
「あう…あと、もう一押しだったのに…。」
「…お疲れ、モルフォン。はい、これ。」
アメモースはどこからかサイコソーダを取り出す。
「あ、ありがとうございます。んくっ…ぷはっ。」
「うわぁ、モルフォン、炭酸を一気飲みなんてやるじゃん。」
「ふぅ、スカッとしました。意外にいけますね、これ…あ。」
モルフォンはぱっと明るくなって相槌を打った。
「そうだ…これ!これです!」
「わっ!び、びっくりした~。な、何、モルフォン?いきなり大声で。」
「アメモースちゃん、ヌケニンちゃんの好きなものって何でしょう?」
「知らないわよ、そんなの。…ってか、さっき土って言ってたじゃん。」
「土、ですか…なるほど。アメモースちゃん…ヒソヒソ…。」

………

「あー、いてて…。まだ痛むのかよ、ったく…。」
俺はベッドの上で、老人みたいにもがいていた。

萌えもんタワーの幽霊騒動…どうやらあの時、俺は相当無理をしていたみたいだ。
あの後家に帰った途端、不甲斐なくもダウンしちまったんだ。
ガスだの熱だの霊気だの、色々浴びたお陰でついに体がもたなかったらしい。
まぁ、大事にはならずにすんだんだが、1ヶ月たった今になっても完治せず。
そういうわけで、俺はこんな風にくらげみたいにうごめいている、ということだ。

「…俺も年を取ったのかなぁ。」
俺はきしきし痛む体をゆっくりと起こし、庭に立った。
日はだいぶ落ちている。そのくせに、じめじめとした暑さが抜けない。夏も近いな。
「アメモースがまた騒ぎそうだな…。『うーみーっ!』って。」
「うーみーっ!」
あまりに不意打ちな言葉が耳を刺す。俺は心臓が口から飛び出さんばかりに驚いた。
「うわっ!…何だお前。いつのまに帰ってやがったのか。」
「今、帰ったのよ。そしたら、マスターがおっさんみたいにつぶやいてるんだもん。」
「…やっぱ、おっさんに見えるか?あー、やだやだ。」
ええい、俺は20代!まだまだ若いっての。
「…ところで、その手に持ってるのは…。」
「あ、これ?ふふーん、どろ団子!」
「見ればわかる。そうじゃなくて、何でそんなもん持ち帰ってきたんだ?」
「ふふん、何でだと思う?」
「知るか。」
「あーらら、予想もできないってわけ?まぁ見てなさいっ。」
…何だこいつ。
「アメモースちゃん!ほら、こっちです!」
「あ、うん!」
モルフォンがアメモースを呼ぶ。その近くには、ヌケニンがぼんやりと立っていた。
「…何?」
「うふふ…はい、これ!」
アメモースは勢いよく、どろ団子をヌケニンの前に突き出した。
「………。」
「はい、プレゼント。」
「…おいおい、それはないだろ。」
思わずあきれた俺は、アメモースの頭を押さえ込んだ。
「な、何よ!ヌケニンが、土が大好きだからって。」
「だからって、こんなのもらったところで、どうしろと?」
「え、えーと…食べる?」
「いや、その発想はないだろ。」
どろ団子を受け取ったヌケニンにふと目をやる。ヌケニンはどろ団子をじっと見つめて…。
「…あむっ。」
「「「ゲッ!」」」
まさに仰天。ヌケニンはゆっくりと、そして一口で…。
「食った…。」
「食べた!?」
「食べちゃいました…ね。」
ヌケニンは口をもぐもぐと動かして、味わっているように見える。
ままごとでどろ団子を作るのはよく見るが、本当に食べちまう奴ははじめて見た。
「…おいしい…。」
ヌケニンは珍しく―いや、俺が見たのは初めてだろう―薄く、微笑んで見せた。
…言葉はずいぶんと意外だったが。
それに答えるかのように、モルフォンもヌケニンに笑いかけた。
「よかったです。喜んでもらえたようですね。」
「…え?…あ、う…。」
ヌケニンは途端にもじもじしだした。
どうやら、思わず“素”を見せてしまったことが、恥ずかしいらしい。
「……あ…、ありがと…。」
「え?何?聞こえなかったよ?」
アメモースが(たぶんわざと)言葉を続ける。
「…ありがと!」
ヌケニンは捨て台詞を残し、そそくさと部屋に駆け込んでいってしまった。
しばしの沈黙。それを破ったのは、モルフォンの笑い声だった。
「うふふ…一歩前進ですね!」
モルフォンには珍しい、ぐっと気合の入った声だった。

まぁ、確かに一歩前進なのは確実だ。
俺は体の不調もあってだが、ヌケニンの様子を静かに見守ることしかできなかった。
それがどうだ、ちゃんとアメモースとモルフォンが世話していてくれるとはな。
萌えもんの気持ちは萌えもんが知っている、ってことか。
俺は薄く、しかし明るく微笑むヌケニンの顔を思い出して、思わずほくそえんだ。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

※端書
すごくお久しぶりです、蛾です。
まぁしばらくはヌケニンを中心にすえると思います。でも暗くはない。
暗いのは嫌ですからねぇ、ある程度明るくないと。うん。
ってか、これヤンデレ?単にダウナーでネガティブなだけですよね(ぁぁ
駄文ながら最後までお付き合いくださってありがとうございます。

書いた人:蛾

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最終更新:2008年07月07日 22:11
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