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RED・MOON~2つ名狩りの魔女~第9章:静かなる報復(2)

  {初めに…
 この作品は東風の作品「MELTY KISS」の人狼側からの話です。
 よって、その作品と世界観が同じはずですが、稀に違うところもあるかもしれません。その時は温かい目で見過ごしてください…

 仔細あってこの章は2つに分けることになった~!



 教員たちが仕切りに動き始めていた。来る戦いに備えて、今夜中に戦力としては幼すぎるパルアス組の生徒を避難させようというのだった。
 ミディアス、そしてマグアスの生徒達もそれを手伝う。そして先生達は彼女らに連絡する。
『翌日、人狼達の村を襲撃するから、それに際し準備を怠らないように』
 生徒達の顔が緊張に包まれていた。いくら魔法を学んだといっても実戦など初めての素人達だ。目に怯えがあるのは否定しきれなかった。彼女らは口ぐちに姉妹達と話す。恐れを紛らわすために。
「はいはい。みんな。並んで!」
 アムネリスが自分の生徒達を並ばせていた。元通りとは言えないが、空元気なりにも立ち直っているようだった。
「しぇんしぇ~。私達、どうなるの?」
 パルアスの生徒の一人が涙目で聞いてきた。彼女らは何が起きているのか正確にはわからないにしろ、周囲の並々ならぬ雰囲気に尋常ではないものを感じ取っているのだろう。アムネリスはその子の頭を撫で安心させる。
「大丈夫よ。避難訓練だと思えばいいの」
「悪い人狼が攻めてくるんでしょ? お姉ちゃん達が噂してるよ。先生は戦うの?」
 アムネリスは返答に困った。
「その通りだ。だが、安心しろ! ここには俺がいるんだからな!」
 返答に困っているアムネリスの後ろから颯爽とレントが現れた。彼の登場で少女達は顔を輝かせ、「バリスタンス!」と彼の周りに近づいていった。毎日のようにアムネリスの話に合わせて勇者・バリスタンスの役を演じるレントは、彼女らにとっては恐らく本物以上に勇者・バリスタンスとなっているのだろう。
「俺がいるかぎり、人狼の一匹や二匹……いや、十匹や二十匹相手になんねぇよ」
 冷めた感じで見るアムネリスだが、一方期待と憧れの眼差しで純真無垢な少女達はレントを見ていた。
「そう、あれはまだまだ俺がガキだった頃。三匹に人狼に襲われたことがあった。鋭い爪に牙、小山のような体躯はまさに闇夜に降り立つ化け物。対する俺は素手だった。やつらは獲物の臭いを楽しむように、ゆっくりと俺に近づいてくる……」
 レントの長い話に少女達の心は鷲掴みにされている。そしてその眼差しはすでに憧れなどを超え、崇拝の域に達するのではないかと言うほどであった。
「そう言うわけで、百匹や二百匹こようと俺が蹴散らしてやるよ」
「増えてる。さりげなく数が増えてる」
 アムネリスが突っ込んではみるものの、少女に囲まれたレントにはすでに聞こえてはいなかった。向けられるキラキラと輝く眼差しに、もっと俺にその視線を向けてくれと、軽くポーズをとっている。
 そのさりげないポーズの合うこと合うこと。まさに崇高なる聖画の一つにあってもおかしくはない。冷めているアムネリスですらドキリとするのだから、心底憧れを持つ少女達には堪らないだろう。目から出るキラキラで目が潰れてしまいそうだ。
「バリスタンス! 先生を守って」
「バリスタンス。学校を守って!」
「バリスタンス! アンナマリアの加護があらんことを」
 少女達が口々にレントに言うのを、レントは一人一人の頭を撫でながら頷いた。そしてアムネリスに視線を送り、深く頷く。
「……はいはい。じゃぁ、シャローン先生が安全な場所に連れてってくれるからね」
 アムネリスも軽く頷いてから、レントに群がる少女達を並ばせ連れて行った。


 アムネリスは加護の塔のさらに奥にある鍾乳洞へ来た。多くの光が灯されそこは明るくなっている。
「全員、集まりましたね~」
 シャローンがアムネリスの姿を確認すると、いつも通りののんびりした口調で言った。その声は鍾乳洞のせいで大きく反響した。
「では行きましょうか~」
 彼女の言葉で、周りから魔女達が現れる。それはアンナマリアの教師達である。
「アンナマリアの加護があらんことを」
「大丈夫。ここは加護の塔ですからね」
 ジルベルトが大きな胸を揺らし言い、イリスは影に隠れながらボソリを言った。軽い口調で入っているが緊張が見える。それは各教員とも同じである。その場に平然と、悠然立つ者がいるとしたら、感情を欠如させたレイアスを覗いてただ一人。シャローンその人であった。
 彼女は柔らかな笑みを浮かべ言う。
「さぁ、参りましょう」

★   ☆   ★

 人狼の総数は約千。アンナマリア勢の総数は多くて六百といった所である。しかしこの戦い今のところ人狼は不利であった。数の上では勝る人狼ではあるがこちらのほとんどは人間から人狼へとなった裏返った者達がほとんどで、能力を自在に使いこなせる者は一体どれほどいるのかわからない。その点、《アンナマリア》の魔女達はこのような状況を予期し、そのために日々鍛錬してきたいわば、力だけならば立派な兵士であろう。そしてなによりも、《アンナマリア》とこの村を隔てるように存在するグレーランドである。そこから先は、アンナマリアの領域であった。
「やはり、鍵はあの魔女っ子か」
 現状を見ながら、ビートは顎を摩り呟いた。
「シャシャのことですか」
 ビートの前にマーブルが現れる。彼はビートの前に腰を下ろした。
「コロンの若造のおかげでお前さんも疲れた顔をしとる」
「いえ……いや、はい。正直。荷が重くて。計画が一カ月早まった時点で、できることなら今日にでもグレーランドを進行したかったのですが」
「賢明な判断であるぞ」
 マーブルは先ほど全員を集め、グレーランドへの進行は明日決行すると宣言していた。彼が焦る理由はいくつかあるが、最大はオリスの力は満月と前後一日に最も蓄えられるのだ。そして今日が満月の一日前なのである。グレーランドに加え、相手の反撃を考えると簡単に落ちる場所ではない。そのためにはオリスの力はやはり必要なのだ。
「明日だ。早くても明日にあの娘はグレーランドを消すだろう」
「シャシャは、成功するでしょうか?」
「するさ。あの娘は必ず成功して見せる」
「なぜ? と聞いても」
「それが一番主のためになるからだ」
 ビートは低く笑うだけだ。マーブルはそれ以上尋ねたりはしなかった。
「そんなことよりも、《アンナマリア》(あちら)の様子は? 恐らく、攻めてくるだろうからな」
 随分と笑った後で、真面目な顔をしながらビートは言った。
「はい。ヴァンの報告によれば、明日こちらに攻撃を仕掛けるとか。今日は、戦力にならない者達を避難させるので手一杯だそうです」
 マーブルの答えに、ビートは納得のいかない顔をして顎を摩る。マーブルは訝しげに彼を見ていると、顔を上げ何かを言おうとしたが止めた。
「いかがなされたのですか?」
「うーむ。どうも先ほどからこの一帯に変な色が見えるのだ」
 ビートは色を見る目を持っていた。物事や感情などの色が見えるのだ。戦いが起きる場所や、崩壊する砦、そういったものは見ればわかった。また戦場において、どこの場所が不利で、どこの場所が優勢であるのかもいち早くその色が教えてくれるのだ。ただ、ハッキリとした未来の予期ではないため曖昧になってしまうのだ。
「では警戒のレベルを上げましょう……」
 ピクリと何かを感じ取ったようにマーブルの表情に緊張が走る。ほぼ同じくしてビートの目にも鋭さが増す。
「魔女だ!」
 どこからか叫び声が聞こえてきた。瞬間に騒がしくなり始める。二人も立ち上がり臨戦態勢をとった時、複数の悲鳴に爆発が鼓膜をうった。


「我、命じる。氷よ。万に集結し……」
「私は望む。光明よ。万の矢となりて……」
「私は乞う。闇よ。万の杭となりて……」
「我は言う。疾風よ。万の刃となりて……」
 音もなく、影もなく現れた約百人の魔女達。《アンナマリア》の教師達は村を囲むように立つと、人狼達が休んでいるその村へ一斉に放った。
「「「「悪しき者どもを一掃せよ!」」」」
 彼女らの魔法は油断していた人狼達にとっては寝耳に水である。不意を突かれ、慌て飛び出してくる人狼達が瞬く間に彼女らの魔法の餌食と化した。
 人狼は氷漬けにされ、光に頭を射抜かれ、闇に心臓を貫かれ、風に首を刎ねられる。彼女らは奇襲に成功した。
 僅かにかけた月に照らされた彼女らは、鈍く魔法により色を変えた瞳が不気味に反射し輝く。そして彼女らは村へと進行していった。


 アポロは急いで走っていた。緊急事態である。明日と聞いていた魔女達が攻めてきたのだ。完全に騙されたのだろう。情報を把握すればするほどに、ガセに踊らされるとはまさにこのことだ。
 アポロは急いで走り目的の場所まで来た。
「俺は隠れるわけではない。相手の不意打ちの場所を潰すのだ」
 誰に言うでもなくアポロは井戸の中へ隠れようとするが、中には先客がいた。
「やっぱり、兄貴。ここに来ると思ったぜ」
「お先、失礼してます」
 そこにはダースとルックがいた。
「お前ら! 敵が攻めてきたのにこんな所にいるとはどういう神経しているんだ? 仲間が懸命に闘っているのに、恥ずかしくないのか!」
 自分のことを棚に上げて怒るアポロ。どちらかと言えば、自分の隠れ場所をとられていることにこそ、怒っているのは明らかであった。
「兄貴だって、隠れようとしてるじゃねぇかよ!」
「馬鹿言ってんじゃねぇよ。俺はお前らが不意打ちの心配をせずに安心して戦いえるようにしてるんだぞ。隠れるとか心外だわ~。俺だって手柄を立てないのに」
 井戸から出てきたルックとダースは冷めた目をしているのに対し、アポロは懸命に自分を正当化した。
「じゃぁ、ここは俺らが守ってるから兄貴は戦ってこいよ」
「バカバカバカ。俺が出て行ったら俺のあまりの強さにみんな手柄を上げられなくなるだろうが、俺はお前らに強くなってもらいたいんだ。さぁ、行ってくるがいい! 行け~!」
 半分強制的にダースとルックは追い払われた。

「土さん土さん。私がお願いします。この子達に安らかな眠りを」
 シャローンは一か所に集められた姉妹達の死体の前に立つ。そして土が死体を飲み込む、死体の山は姿を消した。
「私のベッドを消すなんてね~。責任とってくれるかな? ん?」
 シャローンの前に人狼化しているコロンが立っている。蔑みの眼差しはシャローンを捉えている。
「はやはや。あなたですか~。私の愛すべき姉妹達を死してなお辱めを受けさせたのは」
 シャローンの顔から温和な笑顔が消える。冷たく射抜く目は背筋を凍らせる。
「躾のいなってない犬ですね~。首輪は必要ですか?」
「その首輪は貴様がつけろ!」
 コロンとその周りの者達がシャローンに向かう。
「土さん土さん。彼らを飲む込んで~」
 彼女の足元の土が盛り上がり壁となりそのままコロン達を飲み込んだ。咄嗟にコロンは爪を立て、土の塊は腐り滅びそれを逃れた。
「穿(うが)て」
 シャローンの言葉で人狼達を飲み込んだ土のあちこちで杭が突き出た。土が元に戻り人狼達を吐き出す。彼らは血まみれで朽ちている。
「うまく逃げましたね~」
 残ったコロンにシャローンはいつも通りの笑顔を向ける。
「包め」
 土が渦を巻くようにコロンを足元から包むが、コロンの爪はそれを分散する。そして土の塊を手にシャローンに投げつけた。弾丸の様な土塊に続き、コロンも前へ。
「土さんは私の友達なんですよ~。守れ」
 シャローンが手を差し伸べるとその土は目前で広がりシャローンを包む。コロンはその土ごと爪を突きたてた。確かな感触。土は腐り、崩れ落ちるがその中には彼女はいない。と、コロンは足を取られ倒れた。その上に圧がかかる。
「座り心地の悪いベッドですね~」
 シャローンがコロンの上に座っていた。
「上に乗られるのは嫌いなんだよ!」
 腕を振りシャローンを振り落とした。彼女はニコニコ笑っている。
「魔女風情がこの私を尻下にするとは……耐えがたい侮辱だ」
 コロンの体は震え、ふつふつとその眼に怒りが湧いてきている。その時、角笛の音が響いた。
「そうですか~。もっと与えて差し上げたいんですがね~。では」
 シャローンはそう言うと地面に消えた。


 戦いながらもパニック状態の人狼達を集め、指揮をとるマーブルとビート。
「惑わされるな! 敵は少数だ。押し返せ。三人で一組をつくり戦うのだ」
 マーブルの声に次第に人狼達は我を取り戻し、マーブルの指示に従っていき反撃を開始する。
「小僧! 右から来るぞ」
 ビートの声に、マーブルが腕を振る。彼の斬撃は小屋を一件斬り裂き、その向こうの魔女を切り伏せる。
「意地を見せよ。戦士たちよ!」
 ビートの言葉に人狼達の闘志に火がついた。
「ヴァンは? ヴァンはどこにいる?」
 押し始めた人狼達を見ながら、マーブルは心配そうに呟いた。
 角笛の音が聞こえる。マーブル達は音の元へと向かう。


 オリスの前に三人の魔女。“光明の魔女”ジルベルト。“”闇憑きの魔女“イリス。そしてもう一人、エキゾチックな服をした女”境隔(きょうかく)の魔女“スカース・グラップズであった。
「お初にお目にかかる。己がレッドムーンかいの~」
 スカースがオリスを指し言う。目の据わっているスカースにジルベルトとイリスは「うわー、スカース、人格変わってるよ~」と引いた目で見ている。
 一方のオリスはただ、彼女らを見るのみ。彼の目は一気に殺気を増し、それは気の弱い者は殺してしまいそうなほどであった。まだ何もしていないにもかかわらず、感じられる圧倒感に三人は背筋に冷たいものを感じた。
「ほお~。レッドムーン。大神。おもろいやないかい! のお? ジル。イリス!」
 挑発的なスカースの言葉に、オリスは一歩前へ出る。
「私は乞う。月闇よ。私達を守り、紛らせ」
 オリスが一歩前へ出ると、そこで生まれる微かな空気な波が刃と変わり彼女らを襲う。が、その刃はイリスから出る闇により吸い込まれ消えた。そしてその闇は濃くなり、彼女らを包む。
 オリスは軽く息を吹く。すると、突風が生まれその闇もろとも吹き飛ばす。しかし、そこには彼女らはいない。
「私は乞う。闇夜よ。神すらも押し込めろ!」
 イリスの言葉に、オリスの周囲の空間が凝縮するように集まりオリスを覆う。
「私は望む。天より下りし光明よ。闇夜ともども潰し隔てよ」
 ジルベルトは天へ手を掲げると、オリスの真上から一筋の光。それは彼を包む闇ごと押し潰した。
「その程度か?」
 オリスは光の中で立ち上がる。それはゾッとするような声だ。
「冗談! んなわけあるかい! こっからや!
 ワシが命じる! 光よ。闇よ。扉となりて滅せよ」
 スカースの魔法により、オリスを包んでいた闇や光がオリスの体ごと泡のように弾けて消えていく。
「結界か……しかし、この程度で私を閉じ込められるとでも?」
「まぁ、無理やろうなぁ~。ただ、ほんの少しでええねん! 己はそこで休んどけや!」
 オリスはそのまま泡となって消えていった。
「ヒヤッとしましたね。もどしそうです」
「でも、もって数分ですかね。早く目的を果たしましょうか」
 ジルベルトとイリスは消えたオリスの後を見て言う。
「うまくいきましたね。ジル。イリス。わたくし、ドキドキしちゃった! エヘ」
 まるで人が違うかのようにスカースが二人に振り向いてニッコリ笑った。
「うわ、エグイわ~。急に戻られると、心臓にくる」
 ジルベルトがその大きな胸を抑えながら死んだような顔をし、イリスはすでに闇にまぎれてその場を去っていた。スカースはそんな二人にキラキラと笑顔を向けていると、角笛の音が聞こえてきた。
「さぁ、時は金なりよ。ジル。イリスに負けてられない!」
 スカースが去っていくのを見送り、ノロノロとジルベルトもついて行く。


 魔女達は強力で、次々と裏返った人狼達を薙ぎ払っていく。それはすでに戦いではなく狩りに近かった。バラバラの統率のとれていない人狼達は逃げまどい、それを彼女らの魔法が狩っていった。
 広場へ追いつめられた彼らは次々と仕留められていたが二人だけ、立っている人狼がいた。アルタニスのダースとルックである。彼らは背中を合わせ立っている。
「へ! お前らのそんな攻撃じゃ、俺の装甲に傷すら付けられねぇよ」
 ダースが放たれた雷撃を片手で受け止め握り潰す。アルタニス最硬と言われるダースの毛皮は、いかなる攻撃も通さない。
「だからって、完璧じゃないんだ。調子に乗るなよ。
 K(ケルビン)」
 向かってくる炎にルックは小指を立てると、足元から氷の柱が発生しそれを受け止める。魔女達もこの二人は別格であると気付いている。このままでは不味いことはルックにはわかっている。しかし、不意に笑いが出てきた。それはダースも同じである。
「クククク……」
「クハハハ……」
「フアッハッハッハッハ~」
「ア~ハッハッハッハッハ」
 お互いの笑い声が共に高め合うかのように、ルックとダースは笑いだす。この光景が、この状況が愉快で仕方がないというかのように笑う。
「なぁ~親友! 魔女がこんなにも張り合いのある奴らだったなんて知ってたか?」
「さすがはアルタニスと対になる存在だ。死ぬに値する相手だ」
 二人の笑いは周囲を圧倒する。
「「かかってこい! 魔女共」」
 が、そこで角笛の音。魔女達は顔を見合しすぐさま踵を返す。


「あかん! 見つかった! 俺の完璧な隠密が!」
 魔女達に追われるのはアポロである。もう後ろなど見ない。前のみを見て全力疾走である。
「井戸は? 確かまだ井戸はあったはず……あった~!」
 急いでそこへ隠れようとしたが、また目があった。
「わぁ! ……あ、アポロさん」
「あぁ~。アポロさん」
 幼い視線が彼を捉える。それはガルボと共にいる二子。ドランとグランである。アポロは固まった。不安そうなウルウルした二人の瞳を受け、しばらく思考してから、プルプル震え。
「お前らはそこで隠れていろ! おじさんは戦地へ向かうぞ!」
 アポロは隠れることを諦め、ブワッと泣きながら戻っていくとすぐそばで角笛の音が聞こえた。


「我、命じる。大地よ。凍てつきその者達の動きを封じよ」
 アムネリスの目は血走っている。自制しているつもりであったが、この村に来て巨大な氷の塊を見た時、自分の親友の死を確信してしまった。
 彼女の魔法が人狼達の足元を凍り付け、動けなくした。
「氷柱(フェウ)!」
五十㎝ほどの鋭利な切先をした氷が人狼達を襲う。動けない彼らは弾き防ぐが数が多過ぎ、氷が彼らの体に突き立ち、切り裂く。
「氷柱氷柱氷柱氷柱氷柱――……」
 アムネリスは必要以上に魔法を放つ。すでに動かなくなった人狼にまで撃ち続けていた。
「死ね、死ね死ね死ね。死んで、滅びろ!」
 彼女が手を振るたびに放たれる氷はすでに肉塊とかした人狼達に突き刺さる。そんな彼女の手を掴み止める者がいた。掴まれて初めてアムネリスは我に返る。
「……レイアス先生」
「私が味方で良かったですね。死にたいのですか?」
 相変わらず感情のない冷たい瞳でアムネリスを見る。それには蔑みもなければ、憐みもない。ただ事実を口にする。
「だから感情は不要なのです。人はすぐに流されてしまう。
我は言う。疾風よ。刃となりて、人狼に止めを」
死骸を押しのけ呻きながら出てきた人狼を横目に見て、レイアスは魔法を放つ。彼女の魔法は人狼の喉首を掻っ切る。
「しかし、感情に任せるとは問題ですね。それでも《アンナマリア》の教師ですか? もっとシャキッとなさい。そのような情けない背中を教え子に見せるのですか?」
レイアスの言葉はいくら感情のこもっていない言葉であっても、アムネリスの胸に突き刺さる。自分が恥ずかしくなった。アムネリスは両頬を叩く。
「アムネリス先生。自傷行動は推奨できませんね」
「え? あ……違います」
 間抜けな事を言っていると、二人の人狼が逃げてくる。すぐさまレイアスはそれに対応し、魔法を放った。
「“風の支配”」
 レイアスの放った魔法はそよ風となって消える。現れたのは手足の長い人狼のポポロンと、まだ人狼化もしてない怯えた目をした細身のボサボサ頭の少年だ。
「ヴァン・ホーテン。マティレスの情報と一致しました。彼ですね」
 ヴァンを確認したレイアスはアムネリスに角笛を渡す。
「標的を確認しました。吹いてください。私は吹きたくないので」
 そう言われてアムネリスは角笛を吹いた。それは村中に響く。
「私は言う。大気よ。鎌となりて、あの少年を刈れ」
“風の支配”
 レイアスの魔法をポポロンがヴァンの前に立ちはだかり、掻き消した。それに一切表情を変えず、レイアスは撃ち続ける。それにアムネリスも加わった。
「鋼鉄の絶対風神(アン・ボレアス)」
「氷雨(グラキウィア)」
 強大な圧を発生させた大気と、空を覆う鋭い切先の氷がポポロンとヴァンを襲う。
「マジかよ!」
“空気の支配” レイアスの圧は消える。
“氷の支配” ポポロン達の寸前の所で氷は分散した。
「ヴァン、逃げろ!」
 目元が痙攣し始めたポポロンは視線を前の二人から外さずにヴァンに叫ぶ。ヴァンもそれに従おうとするが、背後の影から何か不気味に出てくる。
「お化けだ!」
 ヴァンの叫びにポポロンも背後を見ると、黒い女(イリス)が出てきた。ポポロンも「ギャー!」と悲鳴を上げる。
「浸食の刃(エーローシス・ラーミナ)」
 彼女に纏わりつく闇がまるで増殖するように動き、刃となって彼らを襲う。
「気持ちわりー! なんかよくわかんねぇけど、“あれの支配”」
 ポポロンの目が闇を支配し、掻き消す。と、すぐさま視線を戻し、レイアス達の放った新しい魔法を打ち消す。魔女達はドンドン集まり、飛んでくる魔法の数が増えてくる。ポポロンは魔法を打ち消すのがやっとで、反撃ができなかった。
「くっそ~、キリがねぇ」
「ポポロン! 目から血が……」
 ポポロンが血涙を流していることに気付きヴァンが悲鳴を上げたが、ポポロンはそれでも魔法を打ち消す。
 “支配の目”は元々ポポロンの技ではなかった。ホルンというアルタニスの能力を奪ったのだ。しかしそれはあまりに負担が大きく、ポポロンの体への消費が激しいのだ。
 目が霞み、血で前が見えなくなってきた。歯を食いしばり、体に鞭打つが限界だった。ポポロンはほとんど見えない目でヴァンを見て、親指を立て笑う。
「安心しろって。お前は俺が守ってやるよ。何せ俺はお前の兄貴分だからな!」
 迫りくる攻撃に、ポポロンはヴァンを庇うように立った。
「俺は、アポロさんみてぇな強ぇアルタニスになるんだぁ!」
「よく言った。ポポロン!」
 それは背後から聞こえる。イリスよりも背後から。その声に振り向いたイリスは声の主からの攻撃を受け家屋へ激突した。そしてそいつは走りポポロンの前へ来ると迫る魔法の全てを弾き飛ばした。彼らの両側面の家屋が跡形もなく消し飛んだ。
「アポロさん!」
 アポロの登場にヴァンが歓喜の叫びを上げた。
「お前ら。俺が相手になってやろうか? 取り敢えず俺は一歩前へでよう」
 アポロが踏みだすと、その地面に亀裂が走りあちこちで地割れが起きる。彼の能力に魔女達の顔から色が消える。
「“大神に継ぎし者”(デウス)」
 魔女の一人が忌々しそうに言った。噂以上の存在であることを呪った。
「退いた方がいいですね。取り敢えず、シャローン先生に指示を」
 頬を抑えながら、影から現れたイリスの発言に魔女達は退き始める。しかし、行く手を塞いだのはガルボが率いる人狼達。魔女の一人の死体を放り、ガルボが黄色い目をランランとさせている。そしてさらに、そこへマーブル、ビートの率いる軍も加わり完全に形勢は逆転した。
「退き時ですかねぇ~」
 地面からシャローンが現れる。
「そろそろレッドムーンも結界を抉じ開けますしね」
 シャローンの提案にスカースが賛成した。
「しかし、あと一押しで目的は達成される」
 レイアスが無機質な目で人狼達の奥にいるヴァンを見ている。
「あと数秒待ってください」
 レイアスが魔女達の陰で体を捻る。それにビートが色の変化に気付き叫んだ。
「早く仕留めよ!」
 その後起こったのは一瞬の出来事。
大気が震えオリスは空間の亀裂と共に降り立つと、地面に拳をたてる。地面が鉄となり覆っていった。
 円形の陣を張る魔女達が襲いかかってくる人狼達へ向け魔法を放った。それを斬り裂き、躱し、弾き飛ばしてマーブル、ガルボ、アポロが彼女らへ襲いかかる。
 シャローンの魔法の詠唱により、魔女達の体が地面に飲み込まれていく。
 そして、レイアスが捻った体から腕を振った。
「見えざる大鎌(アンウェデーレ・マーグルクス)」
 彼女が生み出す風は人狼達をすり抜けて走る。それはヴァンの方へ。それを感じ取ったポポロンは見えないながらも体を前に立ちはだかるが、すり抜け背後のヴァンの胴を薙いでいた。
 そしてオリスによる地面の鉄化がシャローン達の所を覆うのと、マーブル達の攻撃が届くのは同時であった。
 しかしそこにあったのはシャローンの無残な姿になった帽子のみで、魔女達の姿はなくなっていた。


 その後、死んでいった者達へ送る遠吠えが続いた。
 その中でもポポロンの声は長らく悲痛に泣いていた。ヴァンの亡骸を抱え、泣き続ける彼の声。
「五月蠅いな~。誰か、この耳障りな声を、止めてこい!」
 ポポロンの声に苛立ちを抑えきれないコロンが怒鳴るが、誰もそれに従うことはしなかった。みんな下を向いて、黙り込んでいる。
「フン。仕方がないね。では私が止めてくる……」
 立ち上がるコロンの前にガルボが立つ。
「いいから、放っておいてやれ」
「しかしだね~。ガルボ。この情けない泣き声は士気を落としかねないよ」
「いいから。お前はそこに座っていろ!」
 噛み殺すかのように漏れる声と、貫くような黄色い瞳。先に退いたのはコロン。小さく溜め息をつき、腰を下ろした。
 人狼達は疲労していた。肉体的にも精神的にも。おまけに通信役のヴァンが殺され、《アンナマリア》の情報がわからない。
 この戦いで約百名の人狼が命を落としている。また負傷者は三百を超えている。その大体は裏返りの者達で主戦力の者たちは残ってはいたが、やはりヴァンはやられたのは痛い損失であった。
「どうした? 負けたような面だな」
 項垂れる皆の中をマーブルが歩く。
「まだ、戦いも始まっていないのになんて面をしてる! 顔を上げろ!」
 マーブルの叱咤に人狼達がビクリと顔を上げマーブルを見た。
「今宵、同胞達が死んだ。だが我々は負けたわけではない。確かに今回は後れを取り、同胞が血を流した。だが明日は違うぞ。明日のこの時間は、今度は魔女共が血を流す番だ。奴らが悲痛の泣き、絶望に頭を垂れるだろう。奮い立て、誇り高き戦士たちよ! 我らは明日、グレーランドの地を蹂躙する」
 マーブルは空を見ると、それ続き人狼達が次々に空に浮かぶ欠けた月を見上げる。その目はすでに失墜の色ではない、死した同胞たちへ向けた決意の証、血走った瞳はまさにオリスの赤い目のようにランランと闘志を漲らせていた。
「喜べ。明日は我ら人狼の月。満月だ」

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