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Suffering of Paladin … part3

 この作品は、「MELTY KISS」及び籠龍の作品「REDMOON」と世界観を共にした作品です。
思いっきり番外編なのでよしなに。
久々に書いた―www


-Part 3- THE 5th Sword ...SIREN

Another side

「しっかし汚ねえとこだな、まったくよ!」
 キエルが怒鳴ると、スールも口には出さないが、嫌悪感を露わに顔をゆがめている。
「こんなゴミ屑みたいなとこまできて慰問なんて、うちの姫さんは何考えてんだろうなあ!」
 これみよがしに大仰な振る舞いをし、後ろの方に眼をやる。彼らの後ろには白い聖衣に身を包んだ行列が続いている。周囲の街並みと比べ、見ているだけで潔癖そうな連中である。
「んで?わざわざこんなとこまで来たのはどういう了見だよ?」
「ここは、魔女の発見例がある。ついでにいうと、人狼との交戦も確認されている。加えて言えば、脱走した聖騎士のヴェアも見つかったらしい」
「おいおい、点数高すぎていっきに役満じゃねえか。んで? 今日はそのうちのどれを狩りに行くんだよ?」
 キエルは卑しい笑みを浮かべながら、スールに尋ねる。スールも、すましてはいるがこれから行う嗜虐の宴を思うと、自然と頬が緩む。
「いやなに、俺らの流儀は決まってるだろ。今日は特別に姫様がご見学に来てくださってるんだ」
 二人は自らの武器に手をかける。目の前には、何も知らずにこちらを見る人々。
「この街のせん滅だ」


Clare side

行列の前の方では悲鳴と、狂喜の声が響きあう。
 聞いていた時間よりも早くことが始まってしまったようだ。彼らの血の気の多さに嫌気がさす。
「辛いですか?」
 目の前で、聖女が笑う。私は慌てて姿勢を正す。
「いえ、そんなことは…」
「隠す必要はありませんよ。私は〟聖女〝ですから、貴女のことも、よくわかりますよ」
 透き通るような瞳でほほ笑む。その瞳は、一瞬だけ真っ白に染まる。
「…神の御力には敵いませんね」
 最初に騎士に任命されたときから何度か彼女のこの力を見たが、魔女、人狼双方を考えてもなお異常な力だということは理解できる。
「貴女にお願いするのは、この後のことです。辛いとは思いますが」
「それ以上は仰らないでください。ジャンヌ様の御心、私はすべてわかっております」
 背に回した腕に、こつんと一本の槍が当たる。
 それを目にしたジャンヌは、にっこりと、聖女のほほ笑みで槍を見つめる。
「本当に、貴女には…期待しています」


Another side

「はははっ! たまんねえな! これだから粛清ってやつはやめられないぜ!」
 キエルは鎧の中から次々と剣を抜き、村人を切り捨て、刺殺し、とどめには逃げ行く女の背中に剣を投げ突き立て、再び剣を引き抜く。
「ふん、あまり剣の無駄使いをするな。こんな汚い血で何本も汚すものじゃない」
 スールは冷静に、大剣を振り払う。逃げ遅れた人間たちは、皆その一閃でまっぷたつになっていく。皆、一様になぜこんなことをされるのか、理不尽な殺戮、抗いがたい暴力に絶望の表情を浮かべる。
「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおい! 足りねえぞ! 
こんなゴミ掃除で俺たちここまできたのかよ! 噂の魔女も、人狼も、ヴェアの野郎もいねえじゃねえか!」
「魔女と人狼はともかく…俺もヴェアとはヤってみたかったね。ヴェアもハウンドもスタルタスもなぜか上の奴らのお気に入りだったしな」
 スールはキエルの悪態に反応する。
「違いねえ。まあ、スタルも死んだしヴェアはどっかでのたれ死に。バカのハウンドはそう長くねえだろ! なんなら俺たちが粛清してやるか?」
 笑いながら、今度は娘をかばう母親ごと、長剣で貫く。ずぶりと重い感触が彼の手の中に残る。
「か、神よ…なぜ…」
 母親が祈るように、自分とともに貫かれた我が子をなでる。涙を流しながら、キエルをにらみつけるが、じきにその瞳には光がなくなる。
「あっははは! 神サマ? いねえよんなもん! 崇めたいならうちの姫サマは絶好の存在だけどな、あいにくとお前らを救ってくれるような存在じゃねえと思うぜ!」
 そう言って、次々と村人を切り捨てていく。
 彼らがあらかた村人を全滅させた時、あらたな一人の男が立っているのに気がついた。
「さて、あいつで終いだ。楽な仕事だった――」
「まてよ。どうやら大本命みたいだぜ」
 スールが目を細めながら男を見る。見ると、男の腕からは毛が生え、手には鋭利な爪。顔はまさしく野獣のそれと同質であり、牙と獰猛な瞳がこちらを睨む。
「私には、平穏な生活すらも与えられないようだな…」
 ゆっくりとその男――人狼が声を出す。しわがれたようなその声は、まさしく壮年の兵士のようだ。しかし、油断でいない空気が漂ってくる。
「わが名はスニッカー。朽ちてなお生き続けるアルタニスの末裔だ」
「あぁああ? アルタイルだかアンタレスだか知らねえけど、ホンモンの人狼なら死ねよっ!」
 キエルとスールは、満面の笑みでスニッカーに飛びかかった。


Clare side

 ひとつの大きな波長が動き出した。それに向かっていく、中程度の波長がふたつ。おそらくこの近隣に潜む人狼に、キエルとスールが向かっていったのだろう。
「始まりましたね」
 顔を上げると、ジャンヌがほほ笑みながら言う。
「ええ。三つの気がぶつかり合っていますが…おそらく人狼が優勢かと」
「あらあら、もうその槍の力を引き出しつつあるのですねっ。やっぱり貴女で正解だったかしら」
 私は槍に手をかける。ここに来る前――ジャンヌの騎士となったときに頂いた槍だ。
「その槍は、この大陸に眠る七宝剣が一角。名を流剣シレーンといいます」
 槍を渡された時、彼女はそう言った。
 流剣シレーン。波の流れを汲むように、もしくは波の流れを漕ぐようにして、波長――ひいては波を生み出す魂そのものを管理する、七宝剣の中でも特に特徴的な一本らしい。
剣という名前を冠してはいるが、形そのものは槍であり、私本来の長物の武器としてぴったりである。
「やっとその武器を託せる御仁がいて助かりました…間に合わないかと思いましたしね」
 目の前のジャンヌは、安堵のため息をついている。
「間に合わない、とは?」
「それは、ふふ…じきに話します。ひとまずは、そろそろ貴女にも出てもらおうかしら」
 そういって、ジャンヌは戦闘の方向へと手を向ける。そろそろあちらの戦闘も頃合いということなのだろう。
 私は外に出て立ち上がり、槍を構える。
「それでは、“聖女”ジャンヌ・ビスマルクが第一の騎士、クレア・ルージュ。ただ今より異端者“たち”のせん滅に向かいます」
 そういって私は歩きだす。


Another side

 キエルもスールも、決して聖騎士の中では他の騎士にひけをとるような存在ではない。聖騎士の中でも第一班から第三班までは任務の差こそあれ、実質のところ実力は拮抗しているといっても過言ではなかったはずだ。同じ班であったハウンドもマタギも、魔女や人狼となったヴェアを相手に帰ってきた。ここで負けられるはずがないのだ。
 しかし、二人は目の前の人狼に対し防戦の選択肢しか選べない状況を強いられていた。
「私が大本命ではなかったのかね? いいかげん飽きてきたのだが」
 スニッカーは表情を崩さずに淡々と話す。先ほどから踊るようにしてステップを踏んでいるが、それが二人のリズムを狂わせる。
「ふむ。そろそろ利いてきたようだ。人間にしては耐えた方だ」
「な! …んだよ、これ…」
「あ、頭が、くらくらしてきたぞ…」
 キエルとスールの二人は突然、上下左右が混乱したようにふらつく。気付かないうちに何かされていたのか。これが彼の能力なのか。
「旧い戦友に習っていた戦技が役に立ったようだ。まあこれは対人狼が本分なので、貴様らにはその程度が限界だろうが…十分だろう」
 そういって、スニッカーは爪を振り下ろす。キエルとスールらにとどめを刺すには、他愛もない一撃だ。


Clare side

 その一撃を、私は受け止める。
「む…女?」
 いぶかしむ壮年の人狼は、私の存在を見て、しかし油断はしなかった。冷静に私の実力と、私の槍を見てすぐに距離をおく。
「く、クレアぁ…助かったぜ。ナイスフォロー」
「悪い、な。普段ならこんな油断しないんだがな…」
 二人の騎士は、各々謝辞を述べる。しかし、もう既に私はその声を聞かない。もはやこの瞬間から、私は感情を殺した神の使途である。
 私は槍を一閃する。
 ごとり、と首が落ち胴体は力なく崩れ落ちる。
「ク、クレ…ア…?」
 スールは震える声で私の名前を呼ぶ。無理もないだろう。今の私は彼らにとっても死神だ。
「どうしてだ? 何故、キエルの首を落とした…?」
「貴様たちは異端者に認定された」
 感情のこもらない声で、そう言い放つ。
「女…! その槍はまさか…」
 人狼――スニッカーは、私でもなく、私の槍でもなく、既に息絶えたキエルの死体を見ながら言った。
 キエルの死体は、急速に色を失っていき、肉はそげていき、眼球は乾くようにしてしぼんでいく。一瞬にして百年が過ぎたような変わり果てた死体となったキエルのそれは、もはや直視できないほどに変容してしまっていた。
「…まさか噂に聞く“龍の剣“、か…? くっ、まさかこんな所で見るとは…」
 そういって、すぐさまスニッカーは踵を返す。
「お、おいクレア、人狼が逃げるぞ…追え、追うんだ…」
 スールが息も絶え絶えに声をかける。しかし、私の眼はまっすぐにスールをとらえる。その様子を見て、彼も気づいたようだ。
「や、やめろ…人狼のほうが重要だろ! なんだって聖騎士同士でこんなことするんだ! ばかばかしいだろ! 落ち着け!」
「ばかばかしい…?」
 私は、つい、その言葉を繰り返してしまった。
 そう。確かにばかばかしい。こんな、生かしておく必要もない男たちを野放しにしていたなんて。
「あなたたち、今の村人たちに同じこと、言ってよ。さぞ面白い答えが返ってくるんじゃない?」
 私はもはや笑いを浮かべながら尋ねる。スールは恐怖のまなざしで、先ほどの殺戮の現場を眺める。今まさに彼の中の何かが崩れただろう。
「人狼のことなら、大丈夫。ジャンヌ様が、あえて逃すようにとの御命令だから」
 その言葉が、彼にかける最後の言葉だった。私は彼の胸に槍を突き立てる。数瞬のうちに、彼はどんどん血の気が失せていき、やがて枯れ葉のように干からびてしまう。
 ふたりの元先輩を見て、私の心はどんどんと冷えていく。とともに、槍から何かが伝わってくるような感覚を感じる。
「な、なにこれ…」
 槍から、波のようにして力というか、生命エネルギーとでもいうべきものが流れ込んでくる。先ほどから感じていたキエルとスールの波長に酷似している。
 それは私の体の中に流れていき、より強く残っていく。
「槍が…彼らの波長を吸って、私に流した…?」
 流剣シレーンを見つめる。ジャンヌには、大神の力の一端を顕現した武器だと言っていたが、こういうことなのだろうか。
 私は、スニッカーが去った方を見つめる。彼の向かう先には、それよりもはるかに巨大な波長の塊が待ち構えていた。
「ジャンヌ様…」


Janne side

「くっ、まさか七宝剣がこの世に戻りつつあるというのか…」
 スニッカーは息が切れることもいとわずに走っていた。
「あれは大魔女が封印したと聞いていたのに…ということは、大魔女もまた復活しているということか? 禍の月の再来など、あってはならぬ…。私は、もう争いなど好まぬというのに…」
 ぶつぶつと一人で呟いていると、突然彼は全身に電流が流れたような感覚を覚え、身動きが取れなくなった。
「な…なんだ、この力…波長自体に干渉しているというのか…」
『妾に従え万物の根源、縛れ』
 その瞬間、スニッカーは体全体が引きちぎれるような痛みを感じる。目には見えない鎖のようなものが全身を締め付け、電流を流し続けているような感覚だ。
「これは、魔女、の…力か…?」
『魂鎚(ラクシュミ)』
 全身が波によって打ち抜かれる。体の細胞のひとつひとつを焼くような、突き刺すような、ひねり潰すような感覚に襲われる。
『魂鎚(ラクシュミ)、魂鎚(ラクシュミ)、魂鎚(ラクシュミ)、魂鎚(ラクシュミ)、魂鎚(ラクシュミ)、魂鎚(ラクシュミ)、魂鎚(ラクシュミ)、魂鎚(ラクシュミ)、魂鎚(ラクシュミ)、魂鎚(ラクシュミ)、魂鎚(ラクシュミ)…』
 最後の方は、笑っているような声だった。まるで、子供が悪意なく虫を踏みつけているような、屈託のない声。
 スニッカーはもはや白目をむきながら、血の涙、血の涎、血の汗を流して見えざる波に縛り付けられている。
「あ…あぁあ…」
「あらあら、どうしたんですか? まだまだ一番下級の旧魔法ですよ? いっぱい遊びたいから殺さずにおいてるんですから。もう少し頑張ってくださいよぉ」
 ジャンヌは、ふわりと歩きながら彼の前に立つ。もはや意識が遠のいている彼には、もはや彼女を視認できない。
「ん~? ではこうしましょうかぁ。白き衣(ブランチュール)♪」
 瞬間、スニッカーの体が淡い光に包まれる。彼の傷、血、あらゆる外傷が取り払われる。
「私の力で、傷を取り払ってあげましたよ」
「くぉ…お、お前、は…ジャンヌ?」
「では改めて、魂鎚(ラクシュミ)」
 再び彼の体が弾ける。
「やっぱり人狼は頑丈だから好きです。人間ではなかなか力の加減が利かないので、難しいのですよ」
 繰り返し、白き衣(ブランチュール)と魂鎚(ラクシュミ)を呟き続ける。一通り時間が経つと、満足したのかジャンヌはくすりとほほ笑む。もはやスニッカーは精神崩壊寸前の体だった。
「ぁ…ぅ…この、力、まさか…大魔女、か…」
 スニッカーがかろうじて言葉をしぼりだすと、ジャンヌは怒ったように彼を見る。
「あらあら、失礼ですね。私をあんな不出来な子と一緒にしてほしくありません」
 その時、はじめてスニッカーは彼女の顔をまともに見る。その時まで透明なガラスのようだった瞳は、一瞬にして純白に染まる。
「私は〟聖女〝ジャンヌ・ビスマルク。それ以上でも、それ以下でもありません」
 ジャンヌは、そっとスニッカーの頬に手をやる。
「スニッカー…アルタニスの末裔でありマティレスという同志と、大神や人狼・魔女の確執を超えた思想を持ち、双方の調和のために人間の中に住む。能力は…あらあら、珍しい、転移能力ね。でも残念ね、私の波は貴方の能力ごと縛り付け、身動きを封じるから」
「わ、私のこと…を…?」
 スニッカーが驚いた表情でつぶやく。
「貴方のその思想は私と通じる部分もあります。魂の前には人狼とか、魔女とか、人間とか、そんなもの関係ない…ね。いいんじゃない? 私は嫌いじゃない、その思想」
 白い瞳でスニッカーを眺める。
「でもね…神が与えた力を持つ存在なんて、いらないの」
 彼女の言葉に、波はさらにしめつけを増していく。スニッカーはもはや呻く気さえ起きなかった。
「オリスもアークもどうだっていい。ゲルバもディーヴァもエリーゼも、アポロもマーブルもガルボも…皆滅べばいいの」
 ころころと笑いながら、スニッカーをぼろぼろの雑巾のようにつるし上げる。
「もう死にたい? 辛い? 絶望してる? 魔女と人狼と人間の共存なんて馬鹿げてるわ。人狼は滅ぶべし、魔女は朽ちるべし、そして人間は、支配されるべし…よ?」
 ジャンヌはゆっくりとスニッカーの頬に手を添える。そして、いとおしそうに彼の猛獣と化した顔を眺め、満足そうに吐息をこぼす。
「素敵。転移能力は、まだ私はストックしていないから…ありがたくいただくわ」
 にこりとほほ笑み、彼女はゆっくりとその人狼と唇を重ねる。
『聖女の接吻(フォルトゥネイト・キス)』
 瞬間、スニッカーはくしゃりと音を立て、消滅した。体は一瞬にして枯れ果て、砂と化していく。後に残るのは満足そうに口元を撫でるジャンヌ・ビスマルクただ一人。
「ふふ…光栄に思うがいいわ。〟万魂の巫女〝ジャンヌ・ビスマルクを、“聖女”にする糧となるのだから…。貴方の魂、能力、力、命、その全て、私に捧げなさい」
 ジャンヌは心底愉快だとでも言うようにそう言うと、天を仰ぎながら呟いた。
「アークもオリスも、さっさと潰し合え、この古臭い神々共がっ♪」
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