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Chopin Asort… Part4

  この作品は、籠龍の作品「REDMOON」と世界観を共にした作品です。
一応こっちのほうが本編となってますがそっちの方も見ると世界観が上手く補完できると思います。


Part4. Chopin Asort

Gerba Side

「人狼の能力、魔女の魔法、そして大神…レッドムーンの力でさえ、ヴェアはかき消すことができる」
 それがルーナの切り札である。大魔女の力を失ってもなお彼女が前を見続ける意思を硬くさせているのは、間違いなく彼である。二人がどんな出会いをしたか知らないが、こうして一緒にいるということ自体、奇跡や運命に近いものであると思う。
「この大剣はね…私がアークだった頃に、人間のために作った剣なのよ。魔に対抗する力を、ってね」
 ヴェアが少しずつ歩いていく。大剣に近づくにつれてヴェアの波長が、大剣の力が空気を振動させていくのを感じる。
 ヴェアはゆっくりと剣の柄に手をかけていく。しかし、空気がふるえるだけで、彼の表情は硬いままだ。
「…抜けないぞ、これ」
 ヴェアが呟くと、ルーナはこともなげにうなずく。
「私がアークだった時に何重にもかけて封印したからねえ。そう簡単には抜けないと思う」
「じゃあどうすればいいんだ? お前が封印解けるのか?」
 ヴェアが聞くが、私もルピスも首を横に振る。魔法は使役者のもとに還るものもあるが、この七宝剣の封印はもう既にアークの手を離れている。ここから封印を解くには名のある魔女でも数百人クラスで数日間の魔力消費を要するだろう。
「それは無理ね。私でなくても、相当な実力の魔女が何人か集まって数日起案死に物狂いでt光としなければ解けないくらいのものだから」
 ルーナは私の思いと同じように彼に説明する。
「なら、どうするんだよ」
 ヴェアは苛立ちながらそう言う。時間がないことはわかっている。ルーナも、こんなところで時間をかけたくはないだろう、この場にいる全員が思っていることである。
「ヴェアが、自分の力で抜くの。自分の全てを喰らい尽くす咆哮(クラッシュ・ル・マンド)で剣を引き抜いて」
 ヴェアは絶句する。しかし、方法はそれ以外にないのだ。
「む…無茶言うなよ、俺だって自分の能力なら自由に使いたいと思ってるけどさ、さっきも言っただろ。この前もそうだがなんで俺は自分の能力が使えるのか分かってないんだ」
「ならわかるの」
 ルーナが冷徹に言い放つ。
「わからない、できない、時間がない。それが一番の逃避で、一番愚かだよ」
 ヴェアは剣の柄を手に、ルーナを見つめる。
「可能性を出したんだから、選択肢を出したんだから、応えてよ、ヴェア。レッドムーンを捕まえるんでしょ?」
 彼は黙りこむ。大神の力を強く受け継いだ数奇な運命の聖騎士と、力を失ってしまった大魔女。二人はよくよく考えてみると一見非なるもののように見えるが、似ているようにも思える。
「分かった」
 沈黙の後、ヴェアは一言だけそう呟く。そして、深々と大岩に突き刺さっている大剣の傍らに座して目を閉じた。
 ここからは彼の問題だ。これ以上は私たちが手助けできないところである。
「それじゃあ、私たちもここで待つしかないかしらね」
 ルピスがそう言ったとき、私は頭の片隅に何か引っかかるものを感じた。最近よくある感覚である。
私の魔力が警告しているのだ。
 この森に、侵入者が来たのだと。
「セイとルピスはここにいて、ヴェアを見守ってて頂戴な。ルーナ様はちょっと、一緒に来てもらえます?」
「え、いいけど…?」
 うなずくと、ルーナはこちらに来る。ルピスはそのまま黙って待機している。今この場所で侵入者を感知できているのは、この森全体に結界を張っている私だけである。
「ちょっと揺れますけど我慢しててくださいねー…影の道(リレクシテリア)」
 私が指を鳴らすと、私の足元の影が盛り上がり、ルーナを含め私たちの周囲を包んでいく。外からであれば黒い球体のように見えるだろう。
 私たちはその球体に運ばれるままに森の中、木々の間をすり抜けていく。木漏れ日によってできる木々の影。それが私の道となり、魔力の源となっていくのだ。
「ゲルバ、いきなりどうしたの?」
 ルーナが尋ねる。無論、彼女を連れてきたのには理由がある。
「この森に入ってくる奴がいます。敵の可能性が高いですよー」
 短く告げる。それだけである程度は伝わったようだ。彼女は顔を引き締めて進む方角を睨みつける。
「これはひとつの試練になるかもですね。今からの敵を倒せないようなら…レッドムーンはおろか、取り巻きの人狼も倒せない」
 過酷なようだが事実なのだ。見たところこの大魔女は未だ戦力として成熟していない。
 彼女がこの戦闘でどれだけ成長するか。それもまたヴェアのクラッシュルマンドと同じくらい大きな問題だ。
「襲ってくる敵は三人。どれも人狼ですー」
「人狼…」
 少したじろいでいる。しかし、ルーナはすぐに顔を上げて私を見る。
「ま、やるしかないよね。ヴェアにあそこまで説教しちゃった手前、自分が頑張らないなんてかっこ悪すぎるし」
 そう呟くと、私は大きくうなずく。月日が流れ、話し方や態度、強さが愕然と変わってしまった大魔女は、しかし根っこの部分は全くと言っていいほど変わっていなかったのである。そのことに大いに安心し、私は満面の笑みを浮かべる。
「それでは、いきましょうか。影を解いたらすぐ目の前にいるはずです。できるだけ私から離れないように」
 ルーナは私の背に回る。私は、近づいてくる大きな気配を感じながら、ゆっくりと自分が創りだした黒い球体を解く。
 うっそうと茂っていた森は、まるで台風が過ぎ去ったかのように荒れていた。木々は薙ぎ払われ、土は陥没し、生きた動物の気配すらない。それでいて、空虚な印象ではなく、吐き気を催すような嫌悪感と、突き刺すような敵意のまなざしにあてられる。
 そこには、三人の男が立っていた。



Luna Side

 一瞬で相手方の強さを感じ取る。もちろん私だって、相手に負けるつもりはない。相手がどんな能力を持っていようとも、勝たなければならない。大きく息を吸い込むと、目の前の人狼たちを見る。
 荒っぽい風貌の男たちだ。
「お前ら、魔女だな…こんなところで何をやってんだ?」
 三人の中の一人、一番背の高い男が尋ねる。
「こっちのセリフでしょ。ここはジャンバルキアの森だよ? 三姉妹の魔女がいたって問題はないでしょう?」
 私はあくまで攻撃的に返答する。しかし、相手は嘲笑したようにこちらを見て、鼻を鳴らず。
「おいおい、ジャンバルキアの三姉妹は殺されたんだぜ? それにお前ら――ジャンバルキアの三姉妹ほどの実力があるのかよ」
「ご挨拶ねえ…名前も名乗らず、人さまの結界ぶち破ってまで来るなんて。首輪でもつけてもらいたいの?」
 ゲルバが一歩前に出る。さすがに彼女の力は把握したようで、人狼三人は警戒してゲルバを見つめる。
「ははっ、そうだな。自己紹介でもするか。俺はトッポ。そしてこっちのひょろっとした奴がカット。こっちの小さい奴がエアーズだ」
 礼儀正しいのか、ふてぶてしいのか。彼らは律儀にこちらに名を名乗る。
「んでお前らは…ああ、自己紹介しなくていいぜ。雌の名前なんて知る必要はないしな」
 トッポは笑いながら私たち三人を見つめる。脅威になり得るのはゲルバただ一人だと思ったのだろう。反論できないところが悔しい。
「さて、殺すか。魔女は殺せと、アルタニスの掟でな。この前のアンナマリア同様、俺の狩場だぜ」
 そう言って、トッポたちが襲ってくる。
「妾は命ず―――」
「あたしに従え―――」
 私の詠唱に続き、セイとゲルバも魔法を使う。人狼たちはそれぞれ一人ずつ私たちの前に出る。
「風よ刃となりて敵を切り刻め!」
 私の目の前の人狼、確か背の小さい人狼なので、エアーズだったはずだ。彼は私の風を直撃し、そのまま切り刻まれていく。しかし、エアーズは風を受けながらもにやりと不気味な笑みを浮かべる。
「さああああ来たぜ俺の大好きな風使いがっ! ふき飛べ俺の風!」
 エアーズが手を大きく振ると、突然突風が私の体を打ちすえる。すぐさま私の体は吹き飛び、風によって地面にたたきつけられる。
「あぐっ…」
「影よルーナの兵を形作れっ」
 ゲルバの声が響く。すると、森の木々の蔭から這うようにして黒い人形が浮かび上がってくる。先ほどゲルバが私たちにふっかけた、影の戦士だろう。影使いの基本的な魔法ではある。
「ルーナ様、大丈夫ですか? 相手も風使いのようですよ。しかも、あっちの方が格上――」
「言わなくていいっ! そういうのわかってるから! 言われたら傷つくから! それよりも私こいつと戦うから!残りの二人押さえてて!」
 まくしたてる。涙目になってるかもしれない。ゲルバは了解しましたと呟き、残りの二人を見る。エアーズは私を睨んで笑う。
「お前がアルを殺した奴か?ずいぶんと弱そうだが…」
「アル? アルって、誰のこと?」
 私がその名前に気がつかないことで、余計彼の怒りを買ってしまったようだ、彼はひとなぎで刃のような鎌鼬を発生させ、私に撃ってくる。
「ひっ…風の防壁(ヴィ・ゼラ)!」
 私の出した風で、相殺するが、確かに彼の力は強い。
「アルだよアル! 俺たちと同じ人狼だ! 手前ぇらに殺されたって聞いてるぞ!」
 確かに、先日そんな名前の人狼が出てきたのは覚えている。確か声を使う人狼で、ヴェアたち聖騎士組が倒したのだ。
「そ、それ私関係ない――」
「知らねえよ! とにかくムシャクシャするんだ! 手前ぇらみたいな魔女を見てると、殺したくなる! 覚悟しろよ!」
 そう言って、再び二度、三度鎌鼬を飛ばしてくる。私はそれをなんとか回避しながら彼を倒す方法を考える。まともな力のぶつけ合いでは負けた。それは先ほど立証されている。ならば罠や小細工で勝負するか。
「妾は命ず、風よ私を運べっ!」
 風に乗って、私は森の中を高速で移動していく。そのまま、木々の中に魔法を打ち込む。
「風の槍(ジェタ)」
 威力は非常に低いが、ある程度魔法に追尾性を持たせることのできる、私の数少ない風の攻撃魔法だ。風の槍は森の陰を突き進み、エアーズにまでたどり着く、しかし、直前でエアーズが反応してその槍を殴り消してしまう。
「おいおい、こんな茶番いらねえぞ。さっさと見せろよ、魔女の本気ってやつをよ」
 私に残された手段はほぼないに等しい。なかなか相手もあれでいてしっかり強い。今私に残されているのは、再び――
「いや、ダメだ。今メルティキスをすると、アークになっても力が制御しきれない…」
 今の自分の魔力の限界では、アークに戻ったときに私の体自体が壊れてしまう。小さな器には、巨大なものは入らないのだ。
「ははは! どうした! 矮小な魔女よ! 狩りなんだからもっと楽しませてくれ!」
 私は小さく舌打ちする。自分の力の無さが歯がゆい。転生しただけで清木の大魔女と呼ばれていた自分がこんなにも弱くなってしまった。
――これでは、あの時と同じだ。
 脳裏に凄惨な光景がよみがえる。村の人間たちは死に絶え、自分だけが生き残り、全ての事象に絶望し回だけなかった名もなき少女のころ。 大神に拾われ、力を与えられ、皆を引っ張っていく者、方舟(アーク)と名付けられた。
「ねえ、あんた…エアーズ…ていったっけ…?」
 小さく、呟く。しかし声だけはエアーズに届いていたようだ。彼は見下すようにして私を睨む。
「気安く名前を呼ぶな、魔女が。そろそろとどめを刺してやるさ」
「いらない、わ…そんなもの。私はまだまだ生きなきゃいけないんだもの」
 力なく、しかし確かに一言一言噛みしめるようにして言葉をつなげる。
 そうだ、今まで魔力の暴走が恐ろしくて、死に瀕する時まで使えなかった魔法。今、私は自分の器を広げなければいけないのだ。
 私は速度の上がった足で素早くエアーズの懐に入る。彼が拳を突き出すが、私は避けようともしない。彼の拳を腹に受けながらも、私は全力で頭を掴む。
「お前の、魔力――吸わせてもらうよ。大魔女の接吻(メルティキス)」
 これで、二回目だ。ただし、今回は前とは違う。私は自分の殻を破るために、この魔術を使うのだ。
 エアーズから、私の手を通して魔力が流れ込んでくる。さすが人狼というくらいの魔力の量はあった。ただやはり、ヴェアと違ってそれほど大神にあてられていないせいか、人狼としての魔力の高さにある程度限界があるようだ。
 しかし、それでよかった。これ以上魔力を吸収してしまうと、逆に私自身手がつけられなくなるだろう。
 魔法を使い終わったあと、私は独特の開放感を感じる。私の奥のさらに最奥に籠もっていた者が出てきたような感覚だ。
「お、お、お前は…」
 エアーズが恐怖の目で私を見る。何か私が怖がらせることをしただろうか。私は黒い長髪を手ですくい、自分の体を見る。ルーナの頃の子供の体型ではない。大魔女当時の姿に戻っている。身体に魔力が溢れ、全ての魔力の流れが目に見える。
「どうした? 妾が怖いかの? ん?」
 私は彼に手をのばす。それだけで周囲の風は形を作り、死神の鎌のように彼の首に刃を突き立てる。
「少し風が使えるからといっていい気になるでないよ」
 私は手を天にかざす。記憶がよみがえってくる。失われし魔法の数々、そしてその行使、魔力の扱い、その全てがわかるのだ。
「去れ、はかなき命よ。風葬砂塵(リリ・レアフ)」
 その瞬間、エアーズは一瞬にして砂となり地面に伏していく。
「くくくくく…あは、あははははは」
 強大な力を思い出し、私は笑いを漏らしてしまう。まるで先ほどまで別の個体であったかのように、アークの存在がルーナを喰らっていく。魔力暴走だ。
 私は全力で自分の力を押さえこもうとするが、うまくいかない。それどころか、この力をどこかしこにぶつけたいとさえ考えてしまう。
「ぐ…ううう…げ、ゲルバ…」
 側近の名を呼ぶ。ゲルバは残り二人の人狼を見ながら、のんきにこちらを振り返る。
「ああ~、戻ったんですね、ルーナ様…いや、アーク様か。でも、そのままだと暴走しますよ」
「止めて…、この私を止めて…」
 言葉が続かない。絞りだすように言うが、ゲルバは眼を閉じる。
「本物のアーク様の力なら、私には止められないです。アーク様…いえ、ルーナ様。どうか、ご自分の力で制御を」
 ゲルバはそう言って、二人の人狼を見る。
「それまでは、不肖大魔女の三黒柱〝影兵〟のゲルバ・ケルン。ルーナ様に指一本触れさせたりはしません」

Gerba side

目の前の人狼は二人。一旦はアークの力に恐れをなした二人だが、ルーナが制御しきれていないとわかると、こちらを睨んで交戦の構えを取る。
「そいつ、大魔女の転生体だな。今ここで潰しておくのがいいだろう」
 トッポが言う。やはり、ルーナの存在はこちらにとってもあちらにとっても大神との戦闘での重要な役者であるようだ。
「それは、つまり私に挑もうってこと? ちょっと信じられないわー」
 嘲笑する。相手はおそらく実力差をわかっていないのだろう。大きく開いた目には、殺意しか浮かんでいない。
「お前こそ、笑わせるなよ?」
 そう言うと、瞬時に左右にトッポと同じ姿の人形が数人現れ、私を攻撃する。そして、カットと呼ばれた細い男が一瞬にして間合いを詰めて、腕を伸ばしてくる。
「暗黒柱(レフリカント)」
 周囲に影の柱を突き出させ、トッポの人形たちを貫いていく。カットはその柱をよけながら私に近寄り、腕から何か吐き出す。
「――っ、骨?」
 カットは、まるで腕から生えた剣のようにして自分の骨を武器にしていた。
「どうだ? トッポが翻弄して俺が刺す。わかっててもそうそう攻略できるもんじゃないぜ?」
 カットはさらに勢いを増して骨で攻撃してくる。カットに集中して相手をすると、周囲のトッポの分身のような人形からの攻撃に足元をすくわれる。しかし、トップの分身に気をまわしすぎるとカットの一撃が重くはいってくる。
「っちぇ…数十年しか生きてないガキ狼が、よくやるねー」
 瞬間的に、私は全ての波長、魔力と合わせるようにして、両手を上げる。
 そして、万物の音を聞くように、万物の上に立つもののように、ゆっくりと腕を動かしていき、指揮していく。それはさながら大演奏会の中の指揮者のようでもあるだろう。
「数には、数を、ってね。アンタら人狼、調子乗りすぎ」
 私の指の動きに合わせて、影の兵士が一人、また一人と出現してくる。その数は次第に百を超え、二百を超え、ついに視界を埋め尽くさんばかりの大軍となって私にひれ伏す。
「地獄送りの大演奏(ショパン・アゾート)…さあ、私の指揮に従え、暗黒の兵士ども」
 一番簡単な指示を下す。敵を殺せと。ただそれだけの目的のために、数百の兵士は意思も表情もなく人狼に向かっていく。人狼たちも、ある程度は対応できるだろうが、私の魔力の敵ではない。
 影の兵士たちの中で、か細い断末魔が聞こえたような気がした。
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