藩王をはじめとしたよんた藩国の面々が手紙を回し読みしている間、ダーゴは壁一面の本棚の前を歩きながら、指をつつーと、背表紙に走らせていた

「不思議だった」
「二つ故郷があるのって、どんな感じだろうって」

この本はやわらかい、これはかたい

「絵葉書かぁ…いくらでも送るのになぁ…」
「・・・遺品って仰ってましたよね・・・」

裕樹と支那実がつぶやく
だごがよんた藩国にいたころはまだ、支那実はいなかったのだが、彼女も名前を聞いた事があった。

「建国当初の資料で、お名前を見かけたことがあります・・・」


「お酒も。いくらでも、付き合うのになぁ…」
「…苦労なんかじゃなかったさ…あぁ」

古参の国民は、建国時の苦労を分かち合った中であり、手紙にもそれぞれ個別のメッセージが記されていた
特に裕樹と、だごが整備を担当していたI=Dパイロットの八軒は知己であり・・・

「お酒も。いくらでも付き合うのになぁ・・・八軒の馬鹿はそういや酒グセ悪かったな。二人揃ってとは全く…」


思い出の数が多いほど。涙も重くなっていくのか。
ためておけない涙の重さが、次々と雫になって、こぼれていく
流れたぶんだけ軽くなるかといえば、そうとは限らないけれど


藩王、眼鏡をとって、眉間を指で揉み解しながら


「はぁ・・・ばっかだなぁ・・・まったく。さっさとだしとけってんだよ・・・」


その声は、裕樹や蒼麒ほどではなかったにせよ、震えていた


「あのあと何人きたと思ってんだよ・・・。穴なんかとっくにうまってんだから、さ。気にすんなよなあ」


支那実は切なくなってか、真砂に抱きついて泣いている
真砂は・・・これは人生経験の差か、それとも支那実が泣いている手前なくわけにもいかないと思っているのか。平静を保っていていた。
こんなときに、声を押し殺して泣けるのは、男の専売特許かもね、とも思った。


「お葬式には出なかった」
「お祭りみたいだって、思ったし」
「遺体さえ、残ってないって」
「伏見藩国にきて、そんなに経ってないのに、亡くなって」
「私が、伏見藩国に来る直前で。」
「入れ替わり、じゃないけれど」
「私と似た名のこの人が、どんなところで生まれ育ってきたのか」
「そして、旅立って、死んだのか」
「知りたいと思った」


笑って。


「来てみたら、いい国でした」


「…あ。面識は、ないのですか。ダーゴさん。だごさんは、良い人で、男前でしたよ」
裕樹が言う。
死んだ人は、まぁよほどのことがない限り悪くは言われないもので、良い様に言われるのが常だが。本心からの言葉であろうと、そう、思われた


「ですか」
「故郷がいやになって出てきたのかな、それで伏見藩国に来て」
「それで死んだのなら」
「悲しいな、って思った」
「でも違った、きっとこの人はこの国が大好きで。きっと笑って、やることのために出て行ったんだ」
「それがわかったから、ちょっと」
「ちょっと嬉しい」


つつ、と背表紙を滑る指が止まる

─よんた藩建国史─


この国に彼の人物がいたことをしめす、数少ない資料である
足跡の、その証明であった


その本をあえて取り出すことはせず、ダーゴは、涙止まらぬ支那実にハンカチを差し出した


「・・・あ・・・りがとう」


だごがよんた藩国にいたころはまだ、支那実はいなかったのだが、彼女も名前を聞いた事があった。

「建国当初の資料で、お名前を見かけたことがあります・・・」
「うん」
「私が来る前に出て行っちゃって、どんな人かは全然わからなくて」
「うん」
「・・・真砂姐ぇ・・・」
「はは、よしよし」



「……(唐突に)タバコが吸いたくなりました。すみませんが、僕は一服してきます」
女性二人とダーゴのやりとりに、ついに何かに耐え切れなくなったのか、裕樹が外に出て行く。

執務室から出て、タバコに火をつけようとする
失敗
      • まただ

畜生、よく見えねぇ



「俺も……少し実験室が気になるから見て来る」


蒼麒もまた、後を追うように出て行った


「泣きながらタバコを吸う、か。映画のワンシーンのようだな」
「ほっといてください」
「俺にも一本くれるか?」
「タバコ、吸いましたっけ?」
「・・・たまにはいいかと思ってな」
「まぁ僕は女性に煙吸わせたくなかっただけですけどね」
「・・・カッコつけるなよ」


そんな、男二人のやりとりであった。
紫煙の向こうに見えるのは、いまだ国礎幼きよんた藩国と、その同志の姿であろうか


「その方とは面識はありませんが、その方がいなければ、こうして今、藩王に仕えることも出来なかったのかもしれません」
「そういってもらえて、喜んでるんじゃないでしょうか」
「…できれば、お会いしてみたかったです…」
「ご案内しますよ、お墓参り」


よんた藩王がすっと立ち上がり、本棚から厚い本を取り出して、ダーゴに手渡す


「日記だ。これにあいつのことが詳しく書いてある。読むといい」
「ありがとうございます。うちの藩王にも見せなきゃ」


しっかりと本を抱きしめるダーゴ


「そろそろ帰らなきゃ。でぃ~さまもいいですが、ヌル様のもちもち度も懐かしくなってきました」
「そうか、もう少しゆっくりしていってもいいが・・・」
「仕事、残ってますから。藩王様も」

そういって、仕事机の上の書類の山を指差すダーゴ

「こりゃ、参ったな」


藩王、苦笑い。


「いつか、皆で会いに行きましょう。あなたが支えた国はこんな素敵になりましたって」

泣き止んだ支那実をなでなでしながら真砂が言う


「ありがとうございます」


ついにダーゴは泣かなかった