個人としてはいいさ。
ただ、集団は信頼していない。
全くもって悲しいけれどね。

                  裏で槙が語った言葉

/ * /

「新国民の入居が82%完了しました。形態としては、一世帯に1棟となっています。家族の無いものはB地区、身分を証明できない者に関してはC地区の集団宿泊施設に集めております」

「うん。ありがとう」濃すぎる珈琲をすすりながら、槙は答えた。

「あの、伺っても宜しいでしょうか?」報告を持ってきた衛兵が言う。
「うん。いいよ?」2杯目の珈琲を注ぎながら答える槙。

「自警団。あぁ、ええと。新国民を交えた警備組織なんですが、暴徒化する恐れは・・・」

「あぁ、うん。無い。とは言えないね。ただ、まぁ」
槙は目を閉じて、自分の言う事に暗澹とした気分を感じた。その感情を殺して、ため息を吐いて答える。

「身分情報・・・、写真、名前、家族構成、職業、病気、食物アレルギーに至るまで、入国時に調査済みだ。表向きは住居提供と仕事の斡旋なんかでね。でも勿論、裏の意味もある。仮に彼らが暴徒化したとしよう。その時、逮捕拘留といった罰を被るのは、実際に犯行を行った者だけではない『可能性が』ある。つまり、彼らの可愛い妻や息子は事実上の人質となる訳だ。暴徒となるのは集団で、彼らが余程の莫迦でないなら、その意味を理解するだろう。それすら思い付かない莫迦は単なる個人的犯行、または愉快犯だ。逮捕拘留に躊躇う余地は無い。」
条文を読み上げるように言う槙。

「それは・・・」

「勿論。実際の所は家族にまで被害は及ばない。社会的風評はともかくね。ただ、その可能性を無言で示唆すれば良い。領民を守るのに正義だけでは足りない。衣食住が保障され、仮にも我が国の国民となった者が他の臣民をただ、己の欲望の捌け口として攻撃するなら、相応の罰則を適応する必要がある。」

「現国民との間に差別・・・が、発生する可能性は?」
「当然、差別はあるだろう。現国民、新国民、及び新国民の中の民族。文化の違い。対立要因に困ることは無い。」

「だが、まぁ。それを消すのも俺たちの仕事だろうよ。今までは一色だったが、これからこの国は様々な色に彩られることになる。それが極彩色の美しい絵となるか、それとも混ざり合って混沌とした黒となるかは、僕、そしてキミら次第だ。頑張っていこう。」衛兵の肩に手をかける槙。

衛兵は敬礼すると、部屋を後にした。


「それに・・・まだ、やる事はあるしな」

都市全土への監視カメラの設置提言、職業斡旋の為の公共事業乱発に掛かるコスト。
その重みは租税として、あるいは生活の質の低下として、民にのしかかるだろう。
支持率低下を阻止する為には、藩王には表舞台で正義を貫いて貰わなければならない。

 悪役を買うような、捻くれたナスシズムには反吐が出るが、まぁ、性格の差だ。最後まで、裏で作業するさ。と槙は思い、写真撮影時に取った虹彩データと、個人的ネットワークから入手した共和国各国での犯罪歴のデータ照合を始めた。

衛兵にはというより、上部組織以外には話せない機密の仕事は、まだまだ残っていた。

FIN