「藩王の宣言(国民竿崎 裕樹の場合)」





「あそこには我が国の民であった者がいました。ですが、彼は敵と勇敢に戦い、散りました」
うん、そしてもう一人。
仇は取らないと、ねえ。先輩としちゃあカッコつけとかないと。



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時は藩王の演説が始めるその、少し前。
藩国政庁に隣国からの2通目の報が届いて37分後のこと。



「え? 今なんつった?」
「だからぁ、…って人と、うちの元国民のだごさんが。戦死だって」



竿崎裕樹は、その日は最後のOFF日だった。
のんびり自室で絵の練習をしていたところ、同僚が駆け込んで来たのだ。
同僚の言葉を聞いた瞬間に竿崎が思ったのは「ああ、よくよく縁があるのかな」と、そんな感想。



一瞬遅れて、毛が逆立つような感覚。
悲しいような、そうでもないような。
そんな、へんな感情が湧き出て来た。
体中の血が逆流するような熱い感じ。
顔は、犬が怒る時のあの表情になる。



はっと、我に返る。
落ち着け俺。落ち着け俺。同僚びびってるし。
んんー、と考えて、態度を決めかねた。
結局、皆にはしばらく黙っていることにする。
「…ゲーム関係ないしなぁ」
と呟いて、だからまあ、自分のやることやろうと思う。
どんな時にも自分の仕事をしなさい、ってじーちゃんも言ってた。
愚痴は言うな。悲しい時は黙って働け。
だろう? じいちゃん。



考えたのは2秒だけ。
次の瞬間には自分の仕事場までの最短コースを走り出す。
OFFは返上だなー。いいけど別に。
「おい、これから藩王の演説が」
同僚の言葉は悪いけど無視。
藩王は立派なわんこだ。わんこは友誼を守る。
だから言うことなんか分かってる。
聞く時間があれば、俺は仕事をする。



出撃できるかは分からないけど、でも、できることはいくらでもある。
俺は初心者だし、仕事も遅い。できることも少ない。
でも、だから。自分に出来ることは、きっちりやろう。



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だごさんもそうだけど、竿崎はもう一人の戦死者である八軒と縁がある。
ゲームでは先輩で、リアル第1世界では後輩。
一緒にお酒を飲んだこともあるし、お互い貧乏学生なのでゲームやリプレイを貸し借りしたこともある。
酒グセ悪いけど、いいやつ。ゲームする時はカッコいいに違いないと思う。
どうゆう風に死んだかは知らないけれど、きっと勇敢に戦ったに違いない。



俺もわんこだ。わんこは、友誼を守る。



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走る。走る走る走る。
雪の上で遊ぶのには、慣れている。もー躊躇なく走れ…危ねっ!
勢いあまって滑る。前につんのめる。
なんの! とハンドスプリング決めて、仕事場到着。



さて、これから徹夜仕事だ。
できることをやるだけってのがポリシーだけど、独り言くらいは景気良く言ってみるかと思う。
その方がカッコいいしー。
「さーて、それじゃあひとつ気合を入れて…」
やっぱりちょっと言葉を切る。格好良いのもいいけど、自分らしいのもいい。
「自分の仕事を、やりますか」



(文:竿崎裕樹)