タイトル「祭りの前のエトセトラ」


「で、今回の桜娘のコスチュームだが・・・メードスタイルというのは、どうだろう?」

(ざわざわ)

「い、異議あり!議長、かくた選考委員は明らかに個人的趣味でコスチュームを選定しようとしています!」

(ざわざわ)

「否、それは断じて否だよ。A君。私は決してメード服を着た桜娘を見て眼の保養をしたい訳じゃない。
そう。私はあの服の機能性、保温性、耐久性そして何よりもあの優美さを知るものとして提案しているだけだ。」

(ざわざわ)

「し、しかし・・・」

「ふむ・・・ではこうしよう。当日は私と君もメード姿だ!身をもってその能力を証明しようではないか!」

(ざわざわざわざわ)

「な、なんで俺まで、」

「え~、では参加、並びに衣装については当人達の了承を得ること。かくた委員並びにヒロキ委員はメード姿で当日参加すること。以上で宜しいですか?」

「ちょ、待っ、議ちょ」

(パチパチパチパチパチ)

「では、以上を持ちまして、第47回桜娘選考委員会を終了します。該当の委員は今年の桜娘にその旨を伝えること。以上、解散。」

                                                      ~第47回桜祭り議事録より~


/ * /


夕方、春先とはいえ急激に冷え込んできた普段の帰り道を通り、家に帰り着いた私を待ち受けていたのは

灯りの消えた普段の家だけじゃなくて、その前で背中を縮めながら立っていた変な2人組で

その人たちの言ったことも、その、やっぱり私にとっては変なことだったんです。とてつもなく。


「はぁ、えっと、あの、さくら娘ってあの『桜娘』ですか?」
とりあえず、縮こまった2人に温かいお茶を出しながら聞く私。曇ったメガネを拭きながら、「かくた、と申します」と名乗った年上の方の人がゆっくりと答える。

「はい、あの『桜娘』でございます。我々、桜娘選考委員会は厳正な審査の結果、支那実さま。貴方様に今年度の桜娘をお願いする事になりました。」

「あの、確かアレって申し込みで決まったような気がするんですけど・・・」
おそるおそる尋ねる私。少なくとも応募した覚えは無い・・・と思う。と、今度はもう一人の「えと、ヒロキです」と名乗った若い方の人が答えた。

「えーと、それはですね。実は今年から推薦枠が出来まして、支那実さまを推薦した方がいらしたので選考対象とさせて頂いたんです。勿論、推薦ですので拒否権はありますよ。そう、衣装とかにも!」

その言葉に私は「はぁ・・・」と曖昧に答えた。目の前の委員会の2人組みは、それぞれ別々の表情で不安そうだ。

マグカップを掴む自分の両手を見ながら「さくらむすめ」と私は発音してみる。うーん。なんとも現実感が沸かない。
あーゆーのは、もっと、こーキリッとした美人がやるものじゃないかなぁとか思う。

思いながらとりあえずお茶を飲む。だって目の前の二人は、‘ちょっとお待ちを’と言って後ろ向いてヒソヒソと喋っていたし。


(もういい加減あきらめろよ。な?A君)

(絶対あきらめませんよ。俺は。それよりちゃんと約束守ってくれるんでしょうね?)

(勿論だとも。桜娘の一人でもメードスタイルを理由に拒否したら、私から議長に直接衣装の取り消しを申請するさ)

そう言うとニッコリ笑って、‘もっとも、残るは彼女一人だがね’と付け足す。

(うぅ、ならいいんですけど、それと前から気になってたんですけど、何なんですか、その「A君」って呼び方は)

(だってキミ、この前お腹を空かせた子供によんた饅を大量に奢ってやったそうじゃァないか。しかも匿名で。
私はそりゃもう関心してね、ここは古典に則って「貴族院議員A」・・・じゃ高級すぎるから「A君」と呼ぼうかな、っと)

楽しげに答えるかくた。絶句するヒロキ。言ってる意味はよく分からなかったが、このままこの人のペースだと‘花見で特等席を取れる’という選考委員特権の対価に、自分の中の大切な何かが失われる事になるのはよく分かった。


振り返り、再び支那実と向き合う二人。ついでに現実と向き合って何か沈んでる片方とは対照的に、年上の方は微笑している。

「それで、いかがなさいますか?支那実さま。ちなみに、今年の衣装は国家予算を潤沢に使用した特注のメードスタイルですが」

後半を強調して訪ねるかくた。

「い、い、嫌なら拒否権もあるんですよ?す、好きな格好でやって頂いてもかまいませんし!」

どもりながらも熱弁するヒロキ。

「めーどすたいる・・・かぁ」

お茶を飲みながら、ふあーいいなぁ。かぁいいなぁ、でもなぁ・・・とか考えてた私。


その後の5秒ほどの沈黙は意外な形で破られた。

(ドンドンドン!)

「よおーぅ、お邪魔するぜー」

ノックもそこそこに、ドアを開けて入って来た猟師。こんな人を私は一人しか知らない。

「あれー、チキロさん。どうしたんですか?こんな時間に」

「んあ?おぅ、ウチのかぁちゃんがよ、作りすぎたからコレ持ってけっつーもんだから、持ってきたんだ・・・が」

そう言って籠に入った大量のよんた饅をテーブルに置くと、委員会の人を訝しげな眼で見る。

「誰でぇ、このアンちゃん達は?」


/ * /


「ダァッハッハッハ!いやぁ、それならそうと早く言ってくれりゃイイのによぉ。すまなかったなぁ、若いアンちゃん」

「いえいえ、いいんですよー。ヘッドロックを掛けられるのも、また一つの人生勉強ですからー」

涼しい顔で笑って答えるかくた。ちなみにヘッドロックを掛けられた本人は床で「く」の字になって伸びてる。

「なんせ、この子は衣笠サンと万里香サンの忘れ形見でなぁ、まぁ俺達近所の連中にとっては娘みたいなもんだからよ。つい、な?
にしても、まさかホントに桜娘に選ばれるなんてなぁ、推薦状を書いた甲斐があるってもんだ。ダァッハッハッハ!」

「えーッ!チキロさんが書いたんですか?推薦状。」
驚いて尋ねる私。ちなみに床に寝てる人はさっきからピクリとも動いてない。

「ん?おう、正確には俺も だな。言いだしっぺはウチのかぁちゃんで、賛同者はここら一帯の住人全部だ」

「推薦には15名以上の署名が必要ですからね」と寝ていない委員の人が付け加える。

サラリと15人以上と言われて、面食らう。嬉しいような、申し訳ないような、でもやっぱり嬉しいかもしれない。そんな気持ちになる。

「皆さん、それにエルザさんが・・・」と私が言ったその時

(トントントン)

「もしもーし、エルザだけどーそっちにウチの旦那が来てない?」

当の本人がドアを叩いた。


/ * /


「いやー、良かったじゃないの支那実ちゃん!こりゃ近所の連中呼んでお祝いしなきゃねぇ」

私の前の席に座り、満面の笑みで自分の事の様に喜んでくれるエルザさん。
そうやって優雅にお茶を飲む姿は、もう見慣れたとは言え、とても1分前までチキロさんに「なに油売ってんだい!こンの宿六が!」で原爆固めを極めてた人とは思えない。
ちなみにチキロさんは、ヘッドロックを掛けられた人と仲良く床で寝ている。

「そう、ですね・・・」とカップに視線を落としたまま曖昧に答える私。

それ見て「ん~、出たく、ない?」と囁くように聞くエルザさん。
その声は母親の様に優しく、姉のように頼もしかった。そして実際、彼女はそんな人だった。

それを聞いた瞬間、様々な感情が噴出してきて「そんな事は!」と思わず大声を出してしまう私。

「・・・・ない、けど。」

「けど?」

そういってエルザさんは、あたたかな笑みをうかべて、堅く握られていた私の手を包み込むようにとった。

「えっと、その、桜娘の人って、何て言うか、TVや映画の中にいたり、雑誌の表紙で微笑みかけてたり、そうゆう種類の人だから、私、その、場違いって言うか、向いてないんじゃないかな、と、思って。」

と私が消え入りそうな声で言うと(それでも頑張ったのだ)、エルザさんは目をまん丸にして

「クッ、アッハッハッハッハ、ウッ、プッ、ちょ、ごめんなさい。で、でも、支那実ちゃん。やっぱりアナタって可愛いわ。もぅ、私が男ならこのまま手を取って逃げましょうって言うくらい」

そう言って、もう限界とばかりに爆笑する。委員の人は口に手を当て、耳まで真っ赤にして小刻みに震えている。

私は私で訳がわからない。

「え?え?で、でも私、これまで男性に声を掛けられた事とか、その、無いですよ?」ぐるぐるになって言う私。

その問いに答えたのは床からの声だった。

「オゥ!よくぞ聞いてくれた。今こそ説明しようじゃねぇか!」

「チ、チキロさん?その、大丈夫ですか?首とか。」

「なぁに、いつもの事だからどーってことねぇよ。ほんのチョッと死にそうだったけどな。」
と言い、ガハハと笑ってるけど、まだ立ち上がれないみたい。

「俺ら兄弟を中心とする、我らカエデ町青年会は10数年前、極秘裏に秘密結社を設立。
その名も『支那実ちゃんを悪漢から守ろう団』別名『支守団』支那実に言い寄りそうな男は、片っ端から秘密裏に尋も・・じゃなくて適正検査を行い、それに適わなかったヤローには丁重にお引取り願うように一応努力だけはしたぜ。最も、今までパスした男はいねぇがよ」

と一気にまくしたて、ガハハと笑う。

ガハハと笑うチキロさんの後ろに黒いオーラ。張り付いた笑顔が、その、婉曲に表現しても鬼気迫る迫力がある といった所か。

「ちょっと、失礼するわねぇ。支那実ちゃん。今からこの宿六に聞くことが、いぃぃっぱいあるからー」
と言いチキロさんの首根っこを掴んで、引き摺ってゆく。

ただ、ドアを出て行く時

「あ、そうそう。貴女のお父さんとお母さん、衣笠さんと万里香さんって、万里香さんが桜娘をやってた時のお祭りが出会いのきっかけらしいわよ。じゃ、頑張ってね」

と優しく笑って出て行った。

あまりの展開の速さに、何だか頭がポーッとする。
ただ、うん。なんだかあの2人が来て、胸の内のモヤモヤがスーッと溶けて、風に吹かれて消えたような気分だった。

私は何事も無かったかの様に、お茶を自分で継ぎ足して飲んでる委員の人に尋ねる。

「あのー、なんでしたっけ。あのメードさん達の頭に乗ってるふわふわなのって、着けられますか?」

「ヘッド・ドレスですね。ええ、ええ。勿論。特注で桜の飾りの付いたものを用意させましょう」

さて、これから忙しくなるから、スケジュールを調整しなきゃ と私は思った。




おまけ


(没ネタ)

「なぁに油売ってんだい!この宿六が!」

「で、でたーアトミックスープレックスだー!!」実況かくた

「プロレスの芸術品が自宅で拝めるとは思ってませんでした」解説支那実


(文:槙 昌福)