「祭りの中のエトセトラ」 side-A-2~仁義無き舞踏~



 色鮮やかな桜景色の会場は、帝国中から観光に来たわんわんと、越境してきたにゃんにゃん達であふれかえっていた。
普段なら、ええい。にゃんこめコンチクショーという所だが、今日はお祭り。守備兵も見てみぬふり、というか、ニコニコ顔でよんた慢なんかを薦めてたりする。

 ずんちゃっちゃ~ずんちゃっちゃ~♪と陽気なリズムを刻んでいたバンド演奏が壮大な和音を響かせて演奏を終えると、会場からは初夏の雷雨にも似た、ごうごうとした盛大な拍手が沸きあがった。

 と、次の瞬間。キィィィー……ンと酷い耳鳴りのような音がその拍手を遮り、舞台袖にいる男が、囁き声で歌う歌手のようにマイクにほっぺたを寄せ、喋りだす。


というより叫びだした。


多段階加速ロケットな、怒涛の勢いで。


「ッさぁーーーーーーーーーア、本日会場にお越しの800万のレィディーースェーーンドジェントゥルメぇェンの皆様!!いよいよ、待ちに待った第47回よんた藩国桜祭りの開催時刻が近づいてま・い・り・まぁしたァ!!えー手元の資料によりますとぉ、今年の開花は例年より、、、ッてこんな事は、どーでもEe-------ぃえあァ!!以下メンドーな所はぜぇんぶ省略といたしまして今回の祭りの司会進行はかえるぴょこぴょこみぴょぴょこバスガス爆発な瓜売りが瓜売りに来て瓜売り残し売り売り帰る瓜売りの声!!よっしゃきょーぉも、絶・好・調の私ヴァイス・左京。奥さんバイスじゃないですよヴァイスですよ奥さんハァハァなヴァイス・左近と文族なのに出番が少ない・未だに手品師キャラが掴めない・何でお前だけメードじゃないんだ・あと関西弁がわかんねぇよでお馴染みのライ~ライ~ラ~イ・La ・i・La・ Lai♪雷羅 来さんの解説でお送りします」

「よろしゅーお願いします。あとこの文章書いた奴は洩れなく体中の関節を面白い方向に曲げたるんで、覚悟せえや」

「おーっとぉ、早くも腹黒トークが炸裂の来さんですが、どうですかぁ。今年の桜祭りは」

「せやなぁ。天気も良くて桜もキレーやけど、いかんせん鳩が足りな、」

「おっと、ここで桜祭りのメーンイベント。桜娘の登場まであと10分と連絡が入りました。っと、どうかしましたか解説の来さん?鳩なんか取り出して。」

「……まぁ、ええわい。今からが自分の出番やしな」
いそいそと懐に鳩をしまう来。心なしか背中がひと回り小さく見える。

「ハイ、では桜娘登場までの10分間ですが、自称手品師。来さんのマジックショーで暇を潰しましょう。
あ、皆さん空き缶とか食べ残しは投げないで下さいね。掃除が大変ですから」

コイツは後でハトの糞まみれにしてやると呪詛を吐きながらマジックの準備に入る来。

 今回の仮設舞台は軍務に付く整備兵やエンジニアが1週間がかりで造り上げた大掛かりな物だった。
その広さと豪華さは一般の大劇場と比べても遜色が無い程の出来栄えである。

 そして、そのステージに来は、数日に渡り、準備に準備を重ねてマジックのタネを仕込んでいた。
華やかなラストを終え、拍手喝采に包まれる自分を想像して、むふふと笑う来。


 準備が終わり、サイドに設けられた楽団席に居るコンマスの言成に合図する。
      • 視線の先の言成は一升瓶片手に既にベベレケだった。
大丈夫かいなと本気で心配する来に、言成はニッと白い歯を見せて笑うと、指を躍らせリュートをかき鳴らしはじめた。

その途端、流れるようなリュートの旋律と低音の鼓動が手を取り合い情熱的なリズムが生まれ、会場全体に流れ出す。

 来は一度深く息を吸い込んで、ギュと腹に力を入れると、久々の大舞台に指先まで喜びに震えながら開演の挨拶を始めた。
「みなさぁーーーん。どうも、どうも。コンチワー!手品師やらしてもろぅてる雷羅 来いいます~短い時間ですけどね、皆さんに楽しんで貰えたら、もー、しゃーわせですわ~。
ほな、とりあえず一発目いきましょか。この箱ね。タネも仕掛けもないただの箱ですわ。
ね?中身なんも入ってないでしょ?これをね。こー、布で包んで3・2・1」


ドォーーーーーーーーーーーン!!!


/ * /

「かぁ~~くぅ~~たさぁぁんン!!」地の底から漏れ出したかのような声が会場に響く。

 轟音と共に飛び出したのは鳩ではなかった。
来の背後。舞台中央の壁が吹っ飛び、木片と一緒に飛び出してきた、箒を手にするメード姿の男だった。

 パラパラと木片が舞い散る中、状況が飲み込めず、水を打ったように静まる会場。

 もうもうと立ち込める煙の中から、声の主たる着物姿の女性が登場する。その手には物騒な獲物が握られていたが、それを差し引いてもなお、否、それを持つからこそ、ひとしおに引き立つその美しさに全ての者が息を呑んだ。

 それを見て、とっさに言成に合図を送る来。彼は天性の芸人であった。そう。そこが舞台の上ならば、いつ誰よりも的確に行動することの出来る人間であった。

 言成は合図を受けると、ヘッ、今日の俺っちはサイッコーにカッコイイとこ見せるッスよ と呟き、一升瓶をぐびりと傾けると、静かにリュートを置く。

未だ静寂が支配する桜の園。

静寂を引き裂く為に、言成が手に取るは銀に輝くトランペット。

言成の胸いっぱいの風を受け、フォルティッシシモな独奏より始まりしは、仁義無き旋律。

静寂の終焉を聞き、束の間の眠りから目覚め始めた楽器たちが、ベース、ドラム、ギターと緩やかに、だが確実に追随し始める。

 それを聞いた赤ら顔の観衆は、その曲と共に徐々に、だが確実に盛り上がりを取り戻し、言成入魂のソロが終わる頃には、やんややんやの大盛りあがり。方々から、「今年の演出はスゲぇーなぁ」「あのオネーさんキレーねぇ」などの喜声や歓声が上がっていた。
来と言成の機転により、この状況を完全に祭りの演出。というか、余興芝居とみたようだ。


「フフフッ、まさかこの姿を貴女に見られてしまうとはね。
だが、この高機動メードかくた。そんな豆鉄砲で殺られはせん。殺られはせんよ!!」

威勢がいい上に、この上なく変態な敵役の台詞にさらに沸き返る会場。

 その言葉にニコッと微笑み「あら、そう」と素っ気なく言うと、真砂はCA870を捨て、着物の裾を大胆にまくった。

 表れた美脚に、おぉぉぉぉ!!!とどよめく会場。
一部に黄色い声援や『姐さんステキー!』な声も混じっている。

その美脚には皮帯で留められた、機能美を湛えし暴力装置が整然と並んでいた。

 そのうちの一つをクルクルと廻し手に取る真砂。その獲物の名は「ライトニング」拳銃形ながら、27mmグレネード弾2発を発射できる化物である。
真砂は何の躊躇いもなく、かくたに銃口を向け、かぎ型に曲げた白魚の如き指でクンッとトリガーを引く。表情は笑顔のままだった。ただ、その眼差しは慈しむようでもあり、射るようでもあった。

ぴゅるるるるっ と何処か間抜けな音を立てて、かくたに迫る2発のグレネード弾。

通常ならば避けられる距離ではない。仮に避けたとて破片と爆風による損傷は避けられない。

しかし

今のかくたは、かくたにして、かくたに非ず

そう。この日、この時、この瞬間のかくたは『高機動メードかくた』

かつて硝煙弾雨の戦場を疾風の速さで華麗に舞い、かすり傷一つ負う事無く、箒一本を武器に敵を蹂躙し尽くした正真正銘の生体兵器。


着弾。爆発。爆発。


 着弾地点を中心に、大気はヒステリックに悲鳴をあげ、炎はその長い舌を伸ばして獲物を求め暴れ狂う。

 殴られるような大気の咆哮を、口を開けて笑って受け流し、無数の破片を全て箒で叩き落とす。本当に笑い声を上げている事からすると、それは鼓膜を守るためというより、本当に楽しんでいるようだった。あるいは悲しんでいるのかもしれないが。


 熱狂は不可視の大波となりて全てを飲み込み、もはや桜の園の視線全てが二人の舞踏に注がれようとしていた。


/ * /

 次々と獲物を変え、全弾必殺で撃ちまくる真砂と、その全てを、もはや人外の動きで悉く避け、あるいは叩き落すかくた。

それを遠目に見ていた者達がいた。

「・・・アレ、本物よ、ね?」
 その言葉が指すのは本物の変態という意味なのか、それとも実弾よねという意味なのか。もしくはその両方か。
半笑いしながら、あきれた様に呟くフィサリス。ホントこの国に来て以来、退屈しないなぁとか思う。

「そうだよなぁ・・・」紫煙を吐きながら、力なく言う士朗。
 苦心して作り上げた舞台が秒単位でスクラップになっていくのを、表情にこそ出さないが、内心ルールーと泣きながら見ている。
初の出番がコレってどうよ?な心境でもあるが、まぁ次回以降に期待して頂きたい。

「こりゃ、まぁた、派手な痴話ゲンカだなぁ。止めに入らなくていいんですかい?ハンオゥさま」頭を掻きながら眠たげに呟くのは、蒼麒。白衣のポケットはその辺から拝借してきたよんた慢で膨れており言葉とは裏腹に、絶対この光景を楽しんでるふうである。

「いいんじゃねぇの?観客に被害は及んでないしー。それより、フィサリスちゃん。この桜よんた慢美味いねぇ。どう?ムサイ文族同盟なんか抜けて、ウチの城で料理人しない?」
もふもふと桜よんた慢を頬張りながら暢気に言う藩王。
そう言いながらも、最初の爆発と同時に観客に被害が及ばないようにSPに前列の観客の誘導を指示していた。

「ホントっス。この桜よんた慢はリアルに美味いッス。フィサリスさんホントに店とか出さないんスか?」藩王の隣で、同じく、もふもふと桜よんた慢を頬張る忠汰。と言いつつも、目線は舞台に釘付けである。やっぱりサクラと喧嘩は祭りの華ッスねぇ とか考えていた。


/ * /

 手元の銃器をすべて使い尽くした真砂は接近戦に持ち込んだ。

武道というよりは舞踏と表すべき流麗な動作でかくたの懐に入り、水月に捻転を加えた渾身の一撃。くの字に曲がり飛び出た顎に真下から掌を決め、かくたを空中に浮かす

会場からはどよめきと歓声。ヴァイスも完全に実況者モードである。

「おぉーーーっとぉ、空中を舞う変態を他所に、着物のお嬢さんがクルクルと回り始めましたよ。いっかーい。にかーーい。さんかーーーい。あっ、そっか。体重が足りないぶん、遠心力で威力を増してるんですねぇ!!」

遠心力が限界まで載り切ったヒールを、墜ちて来たかくたの背中に強かに打ち込む真砂。

四肢を面白い方向に曲げて再びクルクルと蒼天に舞うかくた。

それをデジカメで激写するダビサ婆さん。今年のピューリッツァーはイタダキだと思った。


/ * /

 大穴の開いた壁から顔を出した支那実が見たのは、空中をクルクルするかくただった。

「あ、あのー…いったい、何が…」近くにいた来に声を掛ける支那実。

声を掛けられた来は、なんと言ったものかと思案したが、支那実の持つウィンチェスターを見て、何か思いついたのか、その眼を輝かせる。

「ちょ、ちょいとそれ貸してんか」と支那実の銃を奪うと、何やらゴソゴソと細工しはじめた。

来が支那実に銃を返したのと、真砂が支那実を見つけたのは同時だった。

「打つのよ!しなみちゃん。私が許すわ!!」かくたを指さし、笑顔で言う真砂。ただ眼がマジだった。

許すって…と苦笑し固まる支那実に「撃ってええよ」と来。そして

「ええから、自分に任しとき。奇術師に不可能はないんやで♪」

と、場違いなほど愉快そうにそう続け、固目を閉じる来を、見て

何か思うところがあったのだろう

しなみは、ゆっくり頷くと

ウィンチェスターを

空中のかくたに

放った。


パァーーーーーーーーン!!


 その銃から舞い出るは無数の桜花と紙吹雪。そして陽光を浴びて金銀に輝く無数の紙帯。おまけに背後からは大量のハトが飛び出し、言成達の奏でるファンファーレが響き渡る。


その瞬間、会場の盛り上がりは最高潮に達した。


「っさぁーーーア、例年にないド派手な演出で幕を開けた第47回桜祭りィィ!!皆様、どうぞ存分に熱狂と感動と美酒美食に酔いしれ、最後まで楽しんでいってくださぁぁぁい。以上。実況は私、バイスじゃないよ。ヴァイスだよ。ヴァイス左京がお送りしました」

かくしてついに、祭りの幕は上がった。

かくも楽しき祭りの幕が。

                        → side B-2へ続く。


(文:槙 昌福)