よんた藩国・某地下研究所 再び。
ただ、部屋は別である。

何も無い広い部屋に、少女が一人。

ドクターの言いつけ通り、待機している彩である。

その部屋には、たった一つだけ特徴があった。
それは天井に開いた、いくつもの穴である。

通気口にしては数が多い。

某ビキニなど一発で落としそうなほど、かわいらしい仕草でそっと腕時計を確認する。

「そろそろかな?」

彩が呟いた直後、穴の一つにシャボン玉のような膜が張られた。
さらにその穴から、膜に包まれるようにして人が降りて・・・いや落ちて来た。

さきほど、正体不明なものに食われた支那実である。

本当にシャボン玉のようになった膜に覆われ、ゆっくりと床に着地する。

「支那実さん、お疲れ様です。どこか、怪我とかはされませんでしたか?」

当然のように話しかける彩だが、当の支那実は完全に当惑している。

「あ…やさん・・・? どうしてここに・・・、じゃなくてここは?」
「驚かせてすみません、詳しい説明はドクターから聞いてもらうように言われてるんです。
 とにかく、お怪我とかはされてないか確認するようにと。」

支那実は目をつぶって小さく深呼吸し、気持ちを落ち着かせる。
ゆっくりと腕や脚を動かしてみる。

「・・・大丈夫です。痛みとかありませんので。」
「そうですか、安心しました。では、ご案内します。こちらへ。」

彩は扉の方へと、支那実を促した。



一方その頃、地上にて。

裕樹の前には、さっきの“あれ”が再び現れていた。
ただし、裕樹を囲むように、大小様々な大きさでうねうねとたくさん現れている。

「一体、なんなんや・・・。新手の敵襲か?」

裕樹、軽く本気モードである。
のちに、メードの心得を徹底的に植えつけられ戦闘力も増した彼だが、
幸か不幸か、実はもともと筋がよかったという証言があった。

常に執務から逃げ出す藩王よんたや、それを追うかくたほどではないが、
日ごろ政庁で過ごしているだけあって、いろいろ鍛えられてもいる。

支那実を襲った時の動きから軌道を読み、うねうねからタイミングを計る。

大きめの一つが動き始めたのを目の端で捕らえ、一気にダッシュをかける。
走って近づき、紙一重で回避する。
横からの追撃は、しゃがんでやり過ごす。

再び走り出し・・・こけた。

足元にいた手のひらサイズの“それ”が、裕樹の足をしっかりとはさんでいた。

裕樹は何とか抜け出そうとするが、閉じた状態から開く気配はない。
顔を上げた裕樹が見たのは、一番始めに回避した“あれ”が迫り来る姿だった。



再び、地下研究所。

「ドクター、支那実さんをお連れしました。」
「ありがとう、彩。そろそろ裕樹君も来る頃だ。迎えを頼む。」
「わかりました。」

そそくさと戻っていく彩。
椅子を後ろに向け、支那実と向き合う蒼麒。

「驚かせて申し訳ない。まぁ、いろいろと事情があってああなってしまった。
 もしも、文句が言いたかったら来に言うといい。全部、ヤツの差し金だ。」
「あの・・・それで事情ってなんなんでしょう? それに、さっきの“あれ”はなんだったんですか?」

「あれは捕獲用の特殊メカだよ。
 開発中の別のメカの試作機だったんだが、改修してデータを取っていたんだ。
 なんでも、鼠だろうが人だろうが無差別に捕獲できるメカを用意してほしいらしくてな。」

のちに、チュートリソウと呼ばれることになる、よんた藩国食糧倉庫の用心棒メカである。

「それで支那実さんと裕樹君には、人に対してどのくらい有効か、というデータ集めに協力してもらったというわけだ。」
「どうして、わたし達だったんですか?」
「人選については苦労したんだが、まさか食べ物からませて藩王に実験台になってもらうわけにもいかず、
 かといって、かくたさんではデータ収集の前に攻略される可能性が高い。
 そんな理由で裕樹君あたりが適任であろうと結論が出て、彼に本気を出させるため支那実さんにもお手伝いいただいた、というわけだ。」

支那実、いまいち事情が飲み込めない。
特に『彼に本気を出させるため』のあたりが。

「まぁ、気ぃ悪くせんとってや、支那実ちゃん。
 これも、冬の食糧難を回避するためなんやから。」

毎度ながら、いつの間にやらやって来ていた来である。

「で、どや、ドクター。データは取れたか?」
「ああ、問題ない。」
「そりゃ、よかった。こっちもおもろいもん、取れたしな。」

いつもの微妙な笑みを浮かべる来。
蒼麒は特に興味がないらしい。

「あ、支那実ちゃん。帰るんやったら案内するで。たぶん、簡単にはここから出られんと思うから。」
「でも、裕樹さんが・・・」
「心配せんでも、あとでちゃんと送り届けとくから。」

余計に心配だ、という心の声が響いたような気がした。


 //*//

裕樹が目を覚ますと、なぜかそこはクエルクスだった。

「大丈夫ですか? 裕樹さん。」
「・・・アルバさん?」

クエルクスのマスター、アルバが心配そうに覗き込んでいた。

「あれ、俺、なんでここにおるんやったっけ・・・?」
「飲みすぎたんですね、今日はこれでお休みになったらどうですか?
 ああ、そうでした。今日のお代はすでにいただいてますので、そのままお帰りいただいて構いません。」

いつ払ったんだろうか・・・俺。

とか考えながら目をこすって立ち上がる。

「それと、これをお預かりしております。なんでも、酔い覚ましなんだとか。」
「ありがとうございます・・・」

アルバが差し出した小瓶を受け取り、中の液体を一気に飲み干す。
裕樹は2・3歩歩き、そのままブラックアウトで卒倒する。

「・・・何の薬だったんですか。あれ。」
「いや、ただの睡眠薬。疲れてるやろうから寝かせたろうと思って。
 まぁ、即効性の睡眠薬は劇薬みたいなもんやからな。」

奥から現れた来は、こともなげに言い放つ。

「とりあえず、明日の朝には起きるやろう。今晩はぐっすりやけどな。
 ああ、ちゃんと家には送り届けとくから、問題無しや。」

その言葉が一番不安を掻き立てるんですがねぇ・・・。

グラスを磨くアルバの心の声が聞こえた。


//*//

一応、終わり

(文:雷羅 来)