その日、言 成は出仕を終え、よんた藩国へと続く帰り道をピケにのって走っていた。周りに誰もいないのを確認してからぽつりとつぶやく

「はぁ~。今日もお勤めご苦労さん!ってとこッスかねぇ・・・」

しばらく走ると街道沿いにぽつんと建物が見えた。そこは旅人たちがよく利用する宿場だった。かくゆう言 成も何度か世話になったことがある。

「さてと、ちょうど夕飯時ッスからあそこで食べていくッスかね・・・」

などと言いながら、進行方向を宿場に向ける。今日の日替わりは何かな?と考えているうちに宿場に到着した。

「こんちゃーッス!日替わりで」

店の前にピケをとめ、ドアを開け、挨拶もそこそこに料理を注文してカウンターに腰かけた。カウンターでグラスを磨いていたマスターがそれに答えたあと言 成に話しかけた。

「おいおい、成。もう夜だぜ。仕事帰りか?」

「細かいこと気にしちゃダメッスよ。朝でも夜でもオレッチの挨拶はこんちゃーッスなんス。そうッス、仕事帰りッスよ。マスター。」

マスターはにやりと唇をゆがませたあとグラスに黒い液体を注ぎ言 成にさしだした。

「おまえはかわんねぇなぁ。そらよ、これはサービスだ。」

「人はそうそう簡単に変わるもんじゃないッスよ。にしてもマスター・・・すきっ腹にコーヒーはきついッスよ。」

「バカやろう!すきっ腹だからこそいいんじゃねぇか。」

「コーヒーは食後と相場が決まってるんスよ!」

「はん!そんな相場なんざ馬にでも食わしちまいな!」

二人はにらみあいながら言い争っている。その周囲にいる何人かがとめようと立ち上がった。
言い争いはひとまず収まったが二人はまだにらみ合っている。立ち上がった人たちが近づく。
二人はまだにらみあっている。言 成が立ち上がり、マスターがつめよった。周囲に緊張が走る!と、そのとき

『ふ、ふはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは』

二人がいっせいに破顔した。腹を抱えて笑いまくっている。
二人はひとしきり笑いあったあと握手をかわした。周囲の人たちは呆然としている。
この宿の常連客だけは「またか・・・」とつぶやきながらコーヒーを飲んだり、仲間との談笑を再開する。

「あんたたち!またかい!お客さんたちがビックリしているじゃないか!すいませんねぇ。この二人のこれは挨拶みたいなものでして、本気じゃないんですよ。ビックリさせちゃってごめんなさいねぇ・・・」

カウンターのおくから女性がひとり顔をだして、二人を叱りつけ、立ち上がった人たちにあやまった。
この宿のおかみさんである。

「俺と成のお約束みたいなもんだ。ははははははは」

「そうッス。そうッス。お約束ッス。ははははは」

「まったく・・・。」

おかみさんはあきれつつ、手に持ったお盆を言 成の前においた。

「はい。今日の日替わりだよ。」

「ありがとーッス。おいしそう。いただきます。」

箸を天に突き上げくるりと回す。今日の日替わりは秘伝のソースで煮たハンバーグに自家製の生クリームがかかっている。ハンバーグ定食だった。

言 成はあっという間にたいらげると「ごちそうさまでした。」といいながら食後のコーヒーを飲み干した。
と、マスターが

「そういえば、成。同じような宿場をやっている仲間から聞いた話しなんだが、リワマヒ国で食の万国博覧会っつうものがひらかれてるらしいぞ。」

その話を聞いた言 成の眉毛がピクピクと動いた。

「マスター。その話、詳しく教えてほしいッス。」

言 成は身を乗り出した。

「あぁ、なんでもその食の万国博覧会は各国の特産品や厳選された食べ物が食べ放題ちゅう話だ。参加して・・・」

「いい話を聞いたッス。ありがとーッス。早速準備してくるッス。お金はここに置いておくッスよ。じゃあまたッス」

というなり、言 成は一陣の風となって去っていった。

「ふっ、さすがというかなんと言うか・・・」

シニカルな笑みを浮かべながらマスターはカウンターを片付け始めた。

宿場を出た言 成はピケに飛び乗りアクセルフルで街道を爆走した。よんた藩国に着くなりそのままの速度で城門まで走りぬける。途中何人か轢きそうになったが、轢いてないのでOKとしておこう。さらに城の中にまでピケを走らせ、よんた藩王の執務室の扉をぶち破り、やっとピケをとめる。城の中でも誰も轢いてないと思うのでOKとしたいと思った。
ピケ大活躍!である。

「よんた藩王!大変ッスよ!ビックニュースッス!」

「成くん。今のこの状態がニュースになりかねないと思うのは私だけでしょうか・・・?」

よんたは机の上でこめかみをおさえている。机の上には書類が積まれているため言 成にはその姿は見えなかった。

「こんなの比較にならないくらいのニュースッスよ!」

「どんなニュースですか?それを話してくれないことには、話が進まないのですが・・・」

「あぁ、申し訳ないッス。興奮しててそこまで気が回らなかったッス。実は・・・・・」

言 成はよんたにリワマヒ国でおこっていることを伝えた。
よんたの顔が徐々に険しくなっていった。

「成くん・・・その話本当ですか・・・?」

「本当ッス。」

よんたのメガネがキラリと光った。

「本当に本当ですか?」

「本当に本当ッス」

よんたの瞳が輝きだす。

「本当の本当に本当なんですか?」

「本当の本当に本当ッス。完全無欠に本当ッス」

よんたは腕を組みながら、独り言を言い始める。
言 成はその場の雰囲気にのまれ、様子をうかがうしかできない

「これは、由々しき事態ですよ・・・ぜひとも参加しなくては・・・だが、この書類の山を片付けるまでは、外出なんて許されないでしょうし・・・かといって書類を片付けていると間に合わなくなる・・・いや、しかし・・」

よんたが考え込んでいるうちに、先ほどのピケ騒ぎを聞きつけた何人かが藩王執務室に向かってくる足音が聞こえた。よんたとこの騒ぎの原因である言 成はあせり始める。

「藩王!急がないと人が来るッスよ!行くんスか?行かないんスか?」

「よし!行きましょう!この機会を逃すわけには行きません!」

「了解ッス!でも、どうするッスか?何人か向かって着ているッスから、抜け出すのは難しいッスよ」

言 成が言ったとおり、何人かが「藩王~!どうしました!」などと言いながら駆け寄ってきている。言 成は窓に視線を向ける。

「だめです。その窓は使えません。」

窓への視線に気づいたよんたはそういいながら、机の上にある万年筆を手に取り、窓めがけて力いっぱい投げた。言 成はガラスが割れると思い、耳をおさえたが来るべき音は来なかった。万年筆が当たったガラスは割れるどころか傷ひとつついていなかった。
度重なる窓からの脱走に業を煮やした側近たちは、窓からの脱走を防ぐために、窓枠を木から鉄に変え、開かないように仕掛けを施し、ガラスを強化ガラスに変えていた。さらに万が一に備え、窓の下には常時2名の兵士が見張っていた。

「強化ガラスッスか・・・これは八方塞りッスね・・・」

窓の線はこれで消えた。残るは出入り口しかないが、このままでは人が集まりつかまってしまう。この状況をいかに打破しようかと言 成は途方にくれていた。そのとき

「成くん。大事なものを忘れていますよ。」

「へっ?」

よんたの言葉に言 成はまぬけな声を上げる。

「あなたはどうやってここに来ましたか?」

「ここにッスか・・・?えーと、ピケに乗って扉をぶち破り・・・・・あーっ!」

「気づきましたか?そう、われわれにはピケがあるじゃないですか。それを使えば簡単に突破できるはずです。」

「さすが藩王様ッス。そうときまれば早く行きましょうッス。」

言 成はピケにまたがりエンジンをかけながらよんたをせかした。当のよんたはなにか書いている。

「ちょっと待ってください。・・・・・これでよしっと。さぁ行きましょう。」

よんたは机の上に紙を置くとピケにまたがった。

「では、飛ばすッスよ!しっかりとつかまるッス!」

言 成はそう言うとフルスロットルでピケを爆走させた。城内だろうがお構いなしである。と、執務室に向かっていたかくたたちの一団とすれ違った。

「藩王~!どこに行くつもりですか!仕事は終わったんですか!?」

「おい、成!どこに行くつもりや!」

「かくたさん。机の上を見てください!」

よんたは大声で叫ぶ。

「えっ?ちょっと藩王!」

二人を呼ぶ声は次第に小さくなっていった。

「そういえば、藩王。さっき机に何を残してきたんスか?」

「あぁ、ただのメモですよ。」


一方そのころ藩王室・・・・

かくたは机の上にあるメモを手に取り書かれていた内容を読むと、クシャクシャに丸めて投げ捨てた。周囲の人間はこんなしぐさをするかくたをはじめて見たので多少困惑していた。

「いままで、多少は見逃してきましたが、今回という今回は許せません!」

かくたはしずかに闘志を燃やしていた。遅れて裕樹が部屋に入ってくるなり、クシャクシャになったメモを広げて読んだ。メモにはたった一言だけ書かれていた。

「えーと、なになに・・・・『いざ、リワマヒへ!』」


「そういえば、成くん。リワマヒに行くのはこの二人だけですか?」

「今のところはそうッスね。話を聞くなりすっとんで来たッスから・・・。ただ、リワマヒへの土産としてヨンタ饅を大量にもっていこうと思ってるッスから、なにか足が必要ッスね・・・」

「足ですか・・・そうだ、コヤドを借りてみてはいかがですか?」

「おぉ、ナイスアイディアッス。たしかこっちに来る途中、城門前広場で支那実ちゃんとフィサリスちゃんを見たッスから、お願いしてみるッス。」

「そうですね。ついでに誘ってもいいかもしれませんね。」

二人を乗せたピケは、城門を突破した。

『いざ、リワマヒへ!』



(文:言 成)