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貴族が統治する大都市――ロストール。
ここにある一軒の宿屋のベランダで1人の少女が苛立った表情で空を眺めていた。
見上げる空には憎たらしくなるぐらいに輝く月と、いくつもの星々が輝いている。
しかしその美しさを持ってしても、少女の心を落ち着かせる事は出来なかった。

(ああ、もう! 気に入らない! 気に入らないわ~!!)

今にでもその場で地団駄を踏みそうな様子の少女、フェティ。
しかし内心に居る彼女は、もう何十回も地団駄を踏んでいた。
自分がこんなに苛立っている原因はとっくに分かっている。
自称“高貴なエルフ”は鈍感ではないのだ。

「フェティ……そこで苛々してても、アレンは帰ってこないよ?」

室内からずっとフェティの後ろ姿を見ていた少女、エステルは呆れ気味に言った。
同じ仲間であるコーンス族の少年、ナッジも読んでいた本を閉じ、苦笑している。
アレンとはこのパーティのリーダーであり、無限のソウルの持ち主である青年の名だ。

「べ、別にアレンの帰りを待っているわけではなくてよ! ただ空を眺めてただけよー!」
「ふ~ん……」

エステルがニヤニヤとした表情を浮かべた。

「な、何が可笑しいんですの!」
「単に気付いてないだけかもしれないけどさぁ……」

エステルが未だに苦笑しているナッジに視線を移した。
どうやら代わりに言え、と言う事らしい。

「空を見ながらアレンの名前、二十回以上呟いてたよ……?」
「――――ッ!?!?」

ナッジにそう言われた瞬間、フェティの顔がグローギガースのように真っ赤になった。
顔から火が出るとは、まさに今の彼女の事なのだろう。見事に体現してしまっている。

「な、な、な……何を下らない事を数えているのよーッ! 下らない、下らないわーッ!」

癇癪を起こしている彼女を宥めつつ、やんわりとナッジが言った。

「もうすぐここに帰って来ると思うよ? アトレイアのところに行ってから、もう随分経つし……」
「でも今回、いつもより長いよねえ。アレンが沢山話してるのか、アトレイアが引き止めてるのか……」

アトレイア――ロストールに住む姫君であり、以前は盲目だった女性である。
しかしとある依頼をアレン達がこなした事によって、眼に光が戻ったのだ。
その縁からか、ここロストールに寄った時は、アレンは彼女の元を度々尋ねるようになったのである。
そして尋ねる度、自分が今まで仲間と共に体験した数々の冒険話をアトレイアに聞かせてあげていた。
今まで暗闇の世界に住んでいた分、外の世界の楽しさを知ってほしい――アレンの純粋な願いだった。

(それが気に入らないのよ……!)

フェティは昂った己の感情を抑えつつ、苛立ちの原因であるアレンの事を思い浮かべた。
彼と冒険してから、もう随分と時間が経つ。出会いこそ最悪だったものの、こうして上手くやってきていた。
彼は言った、世界は驚きに満ちていると。彼は笑顔で言った、旅の中で驚きに満ちた世界を見せてあげると。

確かに彼は言葉通り、驚きに満ちた世界を沢山見せてくれた。今まで自分がどれだけ世界を知らなかったか思い知らされた。
その過程で多くの仲間達と出会い、時には危機に陥りながらも、こうして旅を続けてきた。とても充実していて楽しかった。
彼と過ごす時間が、仲間達と旅をする時間が、とても楽しく――彼が愛おしかった。だが今彼は別の女性と時間を過ごしている。
アレンがとても優しく、お節介な性格である事は仲間内なら誰もが知っている。しかしフェティは納得する事が出来なかった。

(アタクシの気持ちも知らないで……!!)

卑しいまでの嫉妬心――高貴なエルフを自称する自分が心底愚かしいと思った。
以前の自分ならこんな感情など、鼻で笑い飛ばしていただろう。だが今は違う。
こんな些細な事でさえも、嫉妬と言う感情は敏感に反応し、自分を狂わせる。

「ただいま!」

室内に能天気な声が響いた。たった今噂をしていた人物、アレンである。
声を聞いたフェティの耳がピクリと動き、ゆっくりと彼の方へ向く。

「お帰りアレン。アトレイアは元気だった?」
「ああ、笑顔で出迎えてくれたよ。冒険話も興味津々で聞いてくれたしね」

ナッジに笑顔でそう報告したすぐ後、アレンはエステルに引っ張られた。
驚く暇も無く、アレンはエステルによって、ある方向に首を向けられる。
そしてみるみるアレンの顔色が青くなっていった。

「うわぁ……」
「ほらアレン、高貴なエルフ様がお怒りだよ?」
「…………いつ頃からでございましょうか?」
「アトレイアのところに出掛けてからずっと」
「…………マジ?」
「冗談だと思う……? ほら行って!」

エステルに背中を押され、アレンは恐る恐るフェティに近づいていく。
彼女は背を向けているものの、身体中から黒いオーラを放っていた。
あのままの状態ならば、ダークエルフ化してしまいそうなぐらいだ。

「あの~……フェティさん?」
「…………」
「フェティ様? 高貴なエルフ様ぁ~?」

無言である。だがそれ故に怖さが一層増す。
その恐怖を振り切り、アレンが彼女の肩に手を掛けようとした時――

「この――下等生物ッ!!」

腕を掴まれた。しかも罵倒されながら。

「えっ? ちょ、フェティ?」
「話があるわ! アタクシに付き合いなさい!!」
「いや、でも俺、今帰ってきたばかり……」
「貴方に拒否権は無くってよ! 付き合いなさい!」

そう押し切られ、アレンは引きずられるようにフェティに連れて行かれた。
唖然としながら2人を見送るナッジと、呆れながら溜め息を吐くエステル。
妙に対照的な居残り組だった。

「行っちゃったね? 2人とも」
「ホント。協力なライバルがもう1人……はあ、ザギヴだけで十分なのに」
「エステル? どうしたの?」
「……ううん、何でもない。それよりナッジ、ちょっと愚痴に付き合って」
「あ、うん。別に良いけど」
「2人が戻るまでお願いね。ふふ……」