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されるがまま、アレンはフェティに引っ張られて行った。
宿から出たかと思うと、連れて来られたのはロストールの広場にある噴水であった。
そこに到着するや否や、フェティは乱暴に掴んでいたアレンの手を離した。

「っとと。フェティ……一体どうしたんだよ」

僅かに痛む左手を撫でつつ、アレンはそっぽを向いてしまっている彼女へ問い掛ける。
一息の間を置いた後、問い掛けられたフェティはゆっくりとアレンの方に向いた。

「……随分とお楽しみのようでしたのね」

フェティが一歩、アレンに詰め寄った。
彼女の表情は何故か怒気に満ちていた。

「…………えっ?」
「アトレイアと楽しい時間を過ごせて、良かったですわね!」
「いや、過ごしたと言うか、ただ話をしに行っただけで……」
「ここに着いた途端に! 嬉しそうに彼女の所に行って! ホントだらしない!」

そう一言強めに言う度に、フェティはアレンに詰め寄って行く。
何時の間にかアレンのすぐ傍までフェティの顔が近づいていた。
予想もせず彼女の接近に、アレンの頬が若干赤く染まる。

「ほ、ホントにどうしたんだよフェティ。何か変だよ?」

冷静さを保ちつつ、アレンは彼女にそう言った。
するとフェティは顔を俯かせ、ポツリと呟いた。

「……どうして通うんですの?」
「……えっ?」
「どうしてそこまで彼女に構いますの!!」

顔を上げたフェティを見て、アレンは内心驚愕した。
彼女が、あのいつも強気なフェティが――泣いていた。

「依頼は果たしたんでしょ……? アトレイアは眼が見えるようになったんでしょ……?
アタクシ達がそれ以上関わる事は無いのに……貴方はどうして彼女の所に通いますの……?」

眼から涙を零しながらフェティは震える声でアレンに言った。
アレンはそれをただ黙って聞いていた。

「アタクシがどれだけ不安なのかも知らないで……アタクシの気持ちも――」

次の言葉を言おうとした瞬間、フェティの眼が驚愕に見開いた。
言おうとしていた事も忘れてしまった。アレンに――抱き締められたのだ。

「あ、アレン……」
「ゴメン……。不安にさせちゃってたみたいだね」
「イヤ、ちょ……」

途端に顔が熱くなり、フェティは弱々しくアレンの胸の中でもがいた。
しかしもがけばもがく程にアレンは強く、きつく抱き締めてくる。
いつしかもがく事を忘れ、フェティはアレンの胸に身体を預けていた。
長い冒険の中で鍛えられた彼の身体は無骨ながらも、暖かった。

「心配しないで。俺が好きなのは、愛してるのは――君だから」

フェティの身体がビクリと震えた。

「えっ……あっ……だって、アトレイアの所にずっと……」
「彼女とは本当に話をしているだけだよ。冒険の事や仲間の事や色々と」

胸に抱く彼女の髪を撫でながら、アレンはフェティに聞かせた。

「でもホントにゴメン。俺が最初にこう言っていれば、不安にさせる事はなかったよね」
「……本当ですわ。そうしていれば、こんな無様なアタクシを見せずに済んだのに……」

ソッと眼を閉じ、フェティは呟くように言った。

「アタクシも貴方を愛していますわ。アレン……」

ゆっくりとアレンの背中に両手を回すフェティ。
まるで割れ物を扱うかのように、優しく彼を抱き締めた。

「うん……俺も愛してるよ。フェティ」
「…………嬉しいですわ」
「ふふ。でも嫉妬してくれたのは嬉しかったかな? 俺としては」
「なっ――――!?」

再び顔が熱くなったかと思うと、フェティはアレンをドンと突き飛ばしていた。
抱擁から解放された彼女は肩で息をしながら、ヨロけているアレンを睨んだ。

「く、下らない事を言うものではなくてよ! あ、アタクシは別に嫉妬なんて……!」
「いやいや。さっきまでの君の言動を見てさ、嫉妬と言わずに何と言えば……?」
「う、うるさい!! うるさーーーーーい!! 全くもう……!!」

またそっぽを向いてしまった彼女にやれやれと言った表情を浮かべるアレン。
ご機嫌ナナメの彼女に近づいて優しく名を呼び、こちらに振り向かせた。
そしてゆっくりと――彼女の唇に自分の唇を重ねた。まさに不意打ちだった。

「ん……」
「ん……! ふあ……! あっ……!」

驚いたまま固まっている彼女の口内を舌で蹂躙した後、アレンはソッと唇を離した。銀色の糸が引いた。

「不安にさせちゃったお詫び。へへっ……」

フェティは突然の事に呆然としてしまっていた。眼の前には意地の悪い笑みを浮かべるアレンが居る。
先程キスをされ、蹂躙された口内はまだ熱が残っていた。思わず唇に手を当てると、ここも熱かった。

「こ、この――!」

アレンは不味い、と言った表情を浮かべた。フェティが手を振り上げている。
確実に頬を打たれるだろう。だがそれも仕方無いなと考え、アレンは眼を閉じる。
そして来たるべき痛みに備えた瞬間――アレンの両頬に彼女の手が優しく触れた。
そして唇に温かい物が重なる。その温もりは一瞬にして去り、アレンは慌てて眼を開けた。
眼の前にはしてやったり! と言った様子フェティの姿があった。

「やられっぱなしでいるアタクシじゃありませんのよ? ふふ……」

そう微笑むと、フェティは宿の方に向けて歩を進めて行った。
不意打ちの仕返しにアレンは暫く呆然とした後、苦笑した。

(やられたなぁ……はは)

そう思いつつ、アレンはフェティの後を追って歩き出した。
月が2人を祝福するように、美しく輝いていた。

~FIN~