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暴虐の王から解放された町、テラネにある一軒の宿屋――
ここに無限のソウルを持つ者をリーダーとした冒険者の一行が泊まっていた。
男女別々に部屋を取り、各々が身体を休めていた時の事であった。

「悪ぃなイーシャ。急に呼び出しちまって」
「別に構わないけど……何か私に用事? ヴァン」

同じパーティのメンバーであるヴァンと、彼の親友であるナッジに呼ばれたイーシャ。
用事があるのなら早くそれを済ませ、引き続き旅で疲れた身体を癒したかった。

「僕から説明するよ。……実はカイルの事なんだ」
「カイルの事……?」

自分も気に掛けていた青年の名を出され、イーシャは顔を顰めた。
カイル――無限のソウルを持つ者であり、パーティのリーダー。
――そして人の手によって作られた人造人間の名前だった。

「うん。魔道の塔のシャロームから自分の事を聞いてからさ、元気が無い気がするんだ」
「まあ俺達の考え過ぎかもしれねえけどさ、ますます無口に磨きが掛かったっつーか……」

イーシャが顔を少し俯かせた。実際彼女も彼の変化は感じ取っていたのだ。
仲間達と淡々と話し、ギルドの依頼を達成した時も表情を変えず、ただ黙って報酬を受け取る。
モンスターや夜盗と対峙した時も無表情、無言のままそれ等を容赦無く斬り捨てていく。

(また前の頃に……戻ってしまったのよね)

今の状態はイーシャが初めて彼と出会い、最初に彼とパーティを組んだ時期と同じだった。
シャロームから真実を聞く前は、その状態は徐々に改善され、表情の変化も出ていたのに――

「あいつ仮にもリーダーだし、俺達の大事な仲間だろ? だから少しは元気づけてやれる事はねえかなぁって……」
「そうね。……だけどこれはカイル1人が向き合い、乗り越える問題よ。私達が迂闊に手を出して良い物じゃないわ」
「冷たい事を言うなよ! せめて少しは笑える切っ掛けぐらい作ってやりてえじゃねえかよ……」

俯き、深く落ち込む様子を見せるヴァン。
そんな彼を見て、イーシャは少し言い過ぎたかと内心反省した。
だがそんな彼女の気持ちを読み取ったかのようにナッジが言う。

「実は昨日ヴァンがカイルを笑わせようとしてさ、思い付く限りのダジャレを沢山言ったんだ。けど……」
「効果は全くと言って良いほどに無かったわけね」

ナッジが苦笑しながら頷いた。

「カイルの冷たい視線と無言の圧力が物凄かったよ。流石のヴァンもその時は不貞寝しちゃって……」

なるほど、ヴァンが急にこんな事を言い出した理由も頷ける。
大方付き合いが比較的長い自分から、彼が笑いそうな事でも聞き出そうと言う魂胆なのだろう。
先程の反省を少しだけ撤回、イーシャが呆れたように溜め息を吐いた。

「とにかく今は見守っていくしかないと私は思うわ。下手な優しさは余計に彼を傷付けるだけよ」
「…………分かったよ。ナッジ、俺達はいつものようにカイルの傍に居てやろうぜ。仲間として」
「うん。勿論だよ」

そんな2人の様子を見た後、イーシャはゆっくりと部屋を出て行った。
そして自室に足を進めようとした時、カイルと通路でバタリと出会った。

「カイル……何処に行っていたの?」
「外だ。少し歩き回っていた」

相変わらずの受け答えだった。
表情を変えず、淡々としている。

「そう言うお前は何をしていたんだ?」
「ヴァンとナッジに呼ばれてね、他愛も無い事を話してたの」
「そうか」

そう言い終わると、カイルはナッジとヴァンの居る部屋に向けて歩き始めた。
イーシャの横をサッと通り過ぎ、彼は何も言わぬままドアノブに手を掛ける。
そんな彼の何気ない行動にも、イーシャは得体の知れない不安に駆られた。

「――カイル!」

そして唐突に彼の名を呼んでいた。彼女自身自分の行動に驚いていた。
カイルのドアノブを回す動作がピタリと、機械のように止まる。

「……何だ?」
「あ、あの……その……今日少し話せる?」
「今か?」
「う、ううん。今じゃなくて、夜にでも……」
「……問題は無い」
「そ、そう。なら外で待ってるから、夜になったら来てちょうだい」

カイルが無言のまま頷いた後、部屋へと入って行く。
思わず約束を取り付けたイーシャは、ドッと壁にもたれ掛かった。
今の自分の迂闊過ぎる行動を内心で激しく攻めていたのだ。

(自分からヴァンに言っておきながら……何をやっているのかしら)

今日二度目となる溜め息を、イーシャが吐いた。