ノエルが目を覚ますと、押し倒されていた。
「……ん……」
「ほう。起きたか」
 ノエルは冒険者の起床の習慣として、まずあたりを見回す。
「ここは……」
 ノエルがきょろきょろと首を左右に振る。そこはどこかの宿屋のようだった。
 窓から差す日差し。夕日はまだ強く窓から強烈な光が差している。
 木造の部屋の片隅に木造のベッド。そこに自分が寝ているようだ。
 視界のすみっこに、自分の見慣れた小さな体。愛用の鎧を着込んだままだ。
「あ、そういえば」
 鎧を着たまま。そのおかげでノエルは思い出す。
 さっきまで目の前の男と実戦試合をやっていたこと。
 そして魔法の使い過ぎで気絶してしまったことを。
 そこまで思い出したところで、ノエルは恥ずかしさのために顔を赤くした。
「すいません……と、あれ?」
 きちんと謝るため上体を起こそうとして、起き上がれないことに気づく。
 右を見る。右手首を抑えられている。
 左を見る。左手首を抑えられている。
 上を見る。軽装の男の、見慣れた綺麗な瞳がそこにある。
 なんとなくドキドキする。これはいやなドキドキではなく、いいドキドキだ。
 ノエル自身にも意味がわからないがとにかくそんな感じだ。

「なんだ?」
「……えーと……訓練、ありがとうございました」
「うむ。苦しゅうない」
「……」
 男の言動に突っ込みを入れる段階は、とうに過ぎている。
 とりあえず、今問題になっていること、本当に言いたいことはお礼ではない。
 覚醒のステップとして今の状況は明らかにおかしい。
 樫の木のベッド、純白のシーツ。その上で馬乗りにされている自分。
「(うあ……)」
 ノエルは頬が熱くなってくるのを感じた。近い。訓練の時も剣を挟んで
向かい合っていたが、それとは次元が異なる。この家は宿屋でここはベッドなのだ。
そんな場所で押し倒されていれば、ノエルの反応も当然のことだった。
「……あの、介抱していただいたんですよね?」
「ああ、ベッドに運んだだけだが」
「それで、あの……動けないんですけど」
 ノエルはぐいぐいと両腕を動かそうとする。だがびくともしない。
「それは、俺が腕を抑えているから当然だな」
「あのー」
 意を決して、ノエルは聞いた。
「……わたし、なぜ押し倒されてるんでしょう」
「別に特別な理由ではない」
「そ、そうですよねー。わたしなんかを押し倒すなんてあり得ないですよねー」
 あはははー、とノエルは安心して笑う。
 背中に流れる冷や汗は気のせいだと思いながら。
「それで理由とはな」
「はい」
「今からノエルとセックスするためだ」
 一拍おいて、
「なんだ、せっくすをするためだったんですかー」
 これは安心。とノエルは思った。
「うむ」
 五秒経過。
 沈黙。
 十秒経過。
 まだ何も起きない。
 十五秒経過。
 びしり。
 氷にヒビが割れるかのように、ノエルの表情が崩れ落ちる。
「せ、せ、せ、せ、せ、せ、せせせせせせっくくくくすす!?」
 そしてノエルはようやく理解した。
 じたばたじたばた。ともがくが動けない。
 当然だった、ノエルは押し倒されているのだから。
 その当然が既にしてあり得ないのだ。
「わわああああわわああああ!?」
 あまりの衝撃に、ただでさえ拙い口がうまく回らない。

「まずは落ち着け。セックスを知らないのか?
 言い換えると交尾でありファックでありユナイトスペルマである」
 落ち着けと言いつつ、落ち着けない単語が大量に並んでいる。
「ちょ、ちょ、ちょちょちょっと待ってくださいっ! えとえとえとっ!?」
 沸騰寸前の脳細胞を力ずくで押さえ込もうとして、そして敗北する。
 思考が暴走する。
 なんというかそれはあまりにあんまりな急展開すぎないだろうか普通
こういうものは食事に誘ってデートしてを百ぺんも繰り返したアトにな
んやらかんやらでムードが作られた最終結果で神聖なものなのではない
か少なくともノエルの知識範囲では!
 ひるがえって男の誘いは、唐突にもほどがあり過ぎた。
 それが内心密かに(とノエルは信じている)あこがれている人からの
誘いとあらば、なおさらである。ノエルは必死の表情で男に言った。
「まま待ってください! わたしなんかじゃとてもとても申し訳ないです!」
「ほう? なぜに」
「わ、わたし胸小さいですしっ」
「確かにちびっこいな。鎧で隠してるがパッド補強してるし」
「うわんっ!?」
 自爆だった。というか見抜かれていたのか。
 ぐさぐさぐさとノエルの乙女心臓が痛む。コンプレックスの源を隠そうと
する儚い努力を憧れの人にストレートに指摘されると、それはもうとても
とてもとても傷つくのだ。たとえ自分から言い出したことであっても。
「だが問題ない。ちっちゃいにはちっちゃいなりの楽しみがある」
 が、男の手はまったく止まらなかった。両肩当ががちゃりと外される。
 布の肌着があらわになる。ノエルの肌着は汗を吸ってじっとりと湿っていた。
「きゃ……!」
 慌てたノエルが手足をばたつかせてさらに主張する。
「あの! 剣ばかり振ってて、おしゃれとか全然ですし! ほらこんな力こぶまで!」
「偉大なる先人曰く、戦う美少女というのはそれだけでステータスだ。それと」
 いきなりぐに、と二の腕をつかまれる。ノエルの腕はほっそりとしている。
 しかし冗談のような大きさの剣を振るうためか、筋肉は標準的な女性よりも
かなり多い。
「あう……!」
「うむ、健康的ないい腕だ。これでしごかれると気持ちよさそうだな」
「しごく!?」

「安心しろ、しごくのはあとでだ」
「あとでしごくんですかっ!?」
 何をするのかナニがなんだかさっぱりわからないが、えっちなことに違いない。
 ノエルはなんとか言葉での抵抗を続ける。
「わ、わたし、ただの田舎娘で! 美人でもないです!
 かえるみたいだって言われたし、色気もないです!」
「許す。顔は好みの範囲に入る」
「え……!」
 実際、男の好みの範囲は果てしなく広い。
 すべての処女は俺のものと公言してはばからない男である。
「色気については」
 ふっと、耳たぶに息が吹きかけられた。いきなりの性的な刺激で
びくびく、とノエルの身体全体が反り返る。それだけではなく、ノエルの
背骨を電撃にも似た何かが駆け巡っていった。
「はあンっ……!?」
 己の中から出てきたとは思えない声にノエルは驚く。
 そんなノエルの様子を見て男は満足げに言った。
「うむ。俺が引き出すので完璧に問題ない」
 ガシン、と膝当が外される。
 もう上半身も下半身も肌着だけになってしまった。
「よーし。準備OKだ」
「!?」
 すぽぽぽーん、と男は一瞬で服を脱ぎ捨てた。僅か三秒の早業である。
 鎧と服と下着がたちまち床に投げ捨てられた。ノエルのすぐそばで、
逞しい戦士の身体が惜しげもなく露出していた。男はノエルの戒めを解いて、
ベッドの上で膝立ちになった。
「わあああっ!?」
 当然、アレである。
 ノエルの性知識を壮大に超えた物体がそこで自己主張していた。思考が
沸騰を通り越して蒸発しそうになった。なにしろどどどどーんと、反り返って
いるのだ。捲れ上がったカリ。青い血管の浮き出た竿。左右一対の大きな玉。
肉棒。要するにナニが。
「わ、わわ、わわわわわあああっ!」
 ノエルは両手で頬を押さえる。ノエルの頬はさっきからずっと火照ったままだ。
 トマトのように赤くなっていることは想像に難くない。足と手は伸びたまま。
 間接が緊張でかちんこちんになっている。
 眼前のあまりに非日常的な風景に目を奪われたまま、ノエルは銅像のように固まる。
 ノエルは目の前で反り返る肉棒から視線を離せない。絶対に離せない。

「うむ。美少女の視線だ!」
 ノエルの視線に反応したかのように、びくんと肉棒がはねた。
 てかてかと張り詰めた赤黒い亀頭の先端が、ノエルの鼻先にぐんと押し付けられる。
「ひゃあっ!」
 それに合わせてノエルの体もびくんと跳ね上がった。
 ノエルの乏しい性知識でも、これが何のための器官なのかぐらいは把握している。
つまりこのグロテスクにそそり立つ肉棒こそが、男女の愛の究極的な姿を体現する
あれでありなんやらかんやらでいんぐりもんぐりがいやんうふんあはーんな感じ
なのだ。
 窓から差す光が妙に黄色く見えた。ノエルは視界がぐるぐると回っていくのを
感じた。高揚感と羞恥が入り混じって倒れそうだ。鏡で自分の表情を見ると、
きっとふにゃふにゃにとろけていることだろう。
 いっそ失神してしまえば楽になれそうだったが、冒険者として養った精神力は
ノエルに圧倒的な非現実感を無理やり受け入れさせてしまった。
「大丈夫そうだな」
「な、何がですかっ!?」
 少なくとも心情的にはぜんぜんさっぱりこれっぽっちも大丈夫ではない。
 が、男にとっては問題ではなかった。
「愛があるから問題ない」
「……え……」
 ノエルは男の目を見つめる。許しが来るわけもない。むしろ判決を下す目だ。

「そうだな?」
 確認を求めてくる。真剣だと、ノエルは直感した。
 ノエルは選択を迫られた。
 違う――などと即答できる関係ではない。
 恩人などという次元ではない。ソウルイーターの悲劇。ナーシェスの裏切り。
カフィンとレイブンとの別離。そして旅立ちの日。ノエル自身ではどうにもならず、
心が打ち砕かれそうだったときに、闇の淵から救い上げてくれた人。
 それだけではない。旅立ちの日からずっと、ノエルにとってのヒーローは
彼だった。輝かしい伝説をバイアシオンに残しつつも、片手間で未熟な冒険者
だったノエルの面倒を見てくれる。ノエルはその大きな背中を見て、この人のように
なりたいと常に思っていた。
 憧れという表現が一番正しいのだろう。
「……う……」
 それが愛なのかとか、あるいは愛に変わるのかというと、今の段階では
答えられない。というか恋愛という過程が完全に吹っ飛んでいるので感情が
追いついていかない。今すぐ決断しろというのは無理がありすぎた。
 だが男が愛だというのなら、そうですね愛ですねわかりましたと従いたかった。
 ノエルには男の言葉が間違っているという思考がない。
 思考が終着点にたどり着く。
 とりあえず任せてみては、どうだろうかと。

 いつの間にかノエルの身体の震えは止まっていた。ノエルは口元を引き締めて
ベッドから男の顔を見上げる。頭一つ分、背の高いひと。いつだってそうだった。
「あ……」
 ノエルは憧れの対象に返事をしようとする。が、声にならない。言いたいことが
多すぎていくつもの言葉が浮かぶが、どれも適当でないように思える。先ほどとは
別の種類の震えが始まろうとしていた。
 ノエルは衝動をふりきって、懸命な様子で、ゆっくりと首を縦に揺らした。
 その仕草は傍から見れば、恋する乙女そのものだった。

 最初に、ノエルは正面から抱きすくめられた。ノエルのくびれたお腹のあたりに
太くて硬くて熱いものが当たっているが、全力を費やしてなんとか無視する。
「(平常心、平常心ですっ!)」
 でないと頭がどうにかなりそうなのだった。
 だいたいコレを抜きにしても、全てが刺激的に過ぎるのだ。
 暖かな腕に包まれて、憧れの人の首元に顔を突っ込んでいた。男性を強く
感じさせるにおいが、嗅覚を通じて全身をじんじんと刺激する。体温は内からも
外からも上がる要素しか無く上がりっぱなし。互いの血の脈動を感じる。
「ノエル」
 声につられて、上を向く。瞬間の出来事だった。
 ノエルの唇に柔らかいものが触れた。
「んっ!」

 青い火花が脳内に散る。キス、されている。その事実を理解するために
五秒かかった。そして理解した直後に、次の段階に進んでいた。ぬるりと、
ノエルの口の中に舌が進入してきた。
「!?」
 戸惑うノエルを無視して、男の舌がノエルをぬるん、ぬるんと、舐めたくる。
 舌の先端がノエルの舌をくすぐる。まるで男と女が抱き合うかのように、
 舌と舌とが複雑に絡み合って唾液を交換する。
 男の唾液が、ノエルに流し込まれていく。
「(あ……つい……っ)」
 熱い。ノエルはぼんやりとそう感じ取った。体温は変わらないはずなのに、
男の唾液はとてつもなく熱い。ノエルは本能のまま流し込まれた唾液をごくんと
飲み込む。するとノエルの体が芯から火照ってきた。
「よし……可愛がってやるぞ」
「え……あっ!」
 ノエルの肌着が一気に捲り上げられた。入れていたパッドがころりと間抜けに
転がり落ちた。それを恥ずかしいとノエルが感じることはなかった。直後に
もっと恥ずかしいことが起こったからだ。
「っ!? ひゃあっ!」
 ノエルの小さな胸に、男が顔をうずめていた。
「ふあああっ!」
 乳首に、暖かな感触。見れば右の乳首が口中に含まれてしまっていた。
 くるん、くるんと、舌の先端が乳首を転がり回していた。
 くすぐったげな感触が、ノエルの快感をいやおうなく高めていく。
「あ、うあ、ああんっ!」
 胸に埋まった男の顔を抱え込んで、ノエルは激しく悶えた。
 小さな胸の小さな先端が、ころころと転がる。それだけなのに、
 凄まじい快感。ピンク色の突起が、悦びにツンと跳ねてしまっている。
「あ、あ、あっ!」
 ぺろりぺろりと、男の舌が撫で回すように乳首を一周する。
 するとノエルの意識はぼやーっと、もやがかかったように薄らいでいく。
 快楽の霧だ。
「ふあっ!?」
 快楽の霧がいきなり針になってノエルを襲った。
 かぷり、と歯と唇で乳首の先端が優しく閉じられた。快楽が一気に増幅させられた。
 乳首の先端が、舌で笛を吹くかのようにプニ、プニとつつき回された。歯と唇、
そして舌による変幻自在な刺激によって、ノエルの乳首は一気に高められていく。
 逆の胸への愛撫も続けられていた。右胸の僅かなふくらみへの優しく、
愛おしげな仕草のマッサージ。先端には触れてもらえない。脂肪がつままれ、
ゆるやかに圧迫され、そして弛緩する。その繰り返しだけで乳首の勃起が痛いほどに
促されてしまう。

「あ、あああううう……」
 ノエルは全力で眼をつぶる。とてもこれが現実のことだと思えない。
 わずか数分前まで、この人とこんなことをするなど考えられなかった。
 思考が現実に追いついていかない。
 男はノエルに現実に追いつく隙を与えない。胸を指でいじりつつ、顔を徐々に
ずらしていく。そして下の肌着を取る。
「ひゃう!?」
 直後。男はノエルの股に顔を突っ込んだ。そして太ももの付け根のにおいを、
くんくんと嗅がれる。ノエルはその事態に気づいて瞬時に体温が上昇するのを
感じる。ノエルは慌てた口調で言った。
「や……あ、汗がっ! だ、でゃめですっ!」
「心配ない。良い匂いだ」
「そ、そんな……ふあ……うあうっ!」
 股の付け根、およそ考えうるもっとも恥ずかしい部分に、憧れの人が鼻を
押し付けてきている。くんかくんかと、匂いを嗅がれている。ノエルはその
事実だけで死んでしまいそうだった。しかもときおり、
「ふうっ」
「!? ふあああっ!」
 暖かな風が、逆流してくるのだ。緊張極まって神経過敏となった太股に、
生暖かな風が唐突に当たる。それだけでノエルは腕と腰が震えるのを感じた。
 と、ぴちょりという湿った音が、一室に響いた。
「!」
「ほう」
 ノエルは目を指で隠したまま、ゆっくりとその音の源を見やる。純白の下着。
 なんの色気もなかったはずの質素でかざりのないショーツが、淫猥に濡れていた。
 股の中央から後ろにかけての部分を中心に、濃い染みが広がっているのが見えた。
 他人に見られることなど想像もしていなかった恥ずかしい場所が、
こともあろうに濡れているという事実を、最も見られたくない人に見られている。
 ノエルは羞恥に身を震わせ、目を硬く瞑った。
「や……やっ……」
 せめて言葉だけでも、とノエルは儚く抵抗する。だが無駄だった。男の指は
躊躇鳴くそこに触れる。直後、ノエルは目を見開いてしまった。ぐにん。と、
ショーツが押さえつけられたからだ。
「ふああっ!?」
 押さえつけられたのは、それまでの愛撫で既にとんでもなく敏感になっている
ノエルのクリトリス。それが下着越しとはいえ、指の腹で押さえつけられたの
だからたまらない。
「や、そ、んんああああ!」
 そのまま円の動きが、ずる、ずるっ、と下着越しにクリトリスを刺激してくる。
 的確、かつ不規則な動きに、ノエルはたまらず腰を引かせた。
 だが指は引いた腰に合わせて追随してくる。人差し指での圧迫。
 その次は、親指と人差し指による、両側面からの圧迫。
 くりくり、くりくり、とクリトリスが擦りあわされる。
 下着の上からとはいえ、その快感は想像を絶するものだった。
「ノエル。気持ちいいか」
「ふあああん!?」
「どうだ、答えるべし」
 ノエルは必死で質問の意味を理解する。その程度の理性は残っていた。
 逆に言うとその程度しか残っていなかった。憧れの人から辱めを受け、
ノエルの思考力は激しく低下していた。
 ノエルは涙とよだれを目と口からとめどめなく流し、下の口からは愛液を
垂れ流しつつ、それでも真剣に答えた。

「うあっ……は……い……! きおちいいでう、きもちいいでしゅうっ……!」
「よし。褒美に直接しごいてやろう」
 下着の中に手を突っ込まれる。そして同じ動き。ただし今度は緩衝材がない。
 ノエルの脳裏に電撃が走った。一瞬、全身の神経がおかしくなったかと思った。
 視界が真っ白になるほどの快楽がノエルを襲った。
「はああっ!?」
 クリトリスが圧迫され、直後に撥ねられた。ちゅるん!
 と、小気味良い音がした。たったのそれだけで、ノエルは絶頂に達した。
「ふあああああんンンっ!」
 ノエルは快感に打ち震える。愛しい人の体温を感じる。眼前で、愛しい人の
瞳が自分の痴態を観察している。視界の遥か下で、愛しい人の指が自分の恥ずかしい
場所を愛している。その事実だけでもおかしくなりそうなところに、
このとんでもない刺激だ。無理もなかった。
「あ、あああうう……」
 ノエルの絶頂の間も優しく、痛みにならない程度にクリトリスは擦られ続けている。
 ノエルは絶頂後の快感を享受して、ますます表情をとろけさせていった。
 あまりの快楽、絶頂の連続。常人ならとっくに意識を失っているところだ。
 ノエルでさえほとんど上の空でだった。
「入れるぞ」
 かけらほどの理性で、ノエルはその言葉に反応する。
「あ……う……」
 瞳の光で、ノエルは相手の眼を射抜く。確信を持った眼だったので、
ノエルは全てを受け入れることを、漠然と決心した。
 先端が当たる。そして、ぬるり、ぬるりと進入してくる。
 グロテスクな肉棒がノエルの未踏の部分即ち女性器を侵していく。
 少しずつ、少しずつノエルの秘部に男の巨大な男性器が侵入していく。

「んんっ!」
 ぷつり。と、ノエルの目の前で火花が散っていた。処女幕が散らされていく。
 膣壁が、肉棒を待ち望んでわなないている。全身が男の進入を歓迎している。
 その証拠として、愛液がぷぴゅっと可愛らしい音を立てて、とめどめなく
分泌されている。
「ふあ……!」
 完全に這入った。こつん、と子宮の入り口に男の尿道口が接続された。
ノエルは一度大きく息を吸い込み、そして吐いた。泣いていた。痛みと快楽と
喜悦、セックスの全てを飲み込んでノエルは泣いていた。
「あ、あああ、ふあああああ……」
 ノエルは自分を犯した男の背中に手を回して、強く強く抱きしめた。
そうしたかったからだ。ぴんぴんに張り詰めた乳首を相手の乳首に押し付けて、
こすりつけた。触れられる全ての場所にキスの雨を降らせてマーキングをした。
本能だった。
「動くぞ」
 男の宣言と同時に、ぐちょん、という水分に満ちた音。
 注挿が開始された。
「ふああああっ!」
 ノエルの鳴き声がひときわ大きく部屋に響いた。
 ぐちゅ、ぐちゅ、という水音と嬌声がその場を支配していた。
 小陰唇と大陰唇のはざまで愛液があわ立っている。
 だがノエルに快楽を与えていたのは、外側ではなく内側、すなわち
膣壁と子宮口だった。肉棒が突き入れられると、膣壁が押し広げられた。
強烈な摩擦の快楽がノエルの全身を突き動かした。腰が浮く。腰がねじれる。
連動して、全身に快楽の信号が走る。
「や、や、あ、あ、あっ!」
 ぬちゅん、と引き抜かれる寸前まで肉棒が後退すると、ヒダヒダがカリで
 持ち上げられ、排泄にも似た感触がノエルを襲う。喪失感。不安感。
 決して離したくないという思いが心の中から生まれ出てくる。
「ふにゃあああああっ!」
 そして直後、ひときわ強く突き入れられる。子宮の中にまで届きそうな挿入に、
ノエルは泣いた。ぐにぐに、と尿道と子宮口がこんにちはをしている。
ぐりぐりぐりと円形に動く。抵抗のしようもない充実感、幸福感が子宮から
湧き上がってくる。
「あ、あ、あ、うあああっ!」
 それが何十度と繰り返される。ノエルの脳はスパークして火花が散っていた。
 背中に回した爪で引っかいても、快楽は収まるどころか幾何乗数的に増していく。
 「ふああっ! あ、うあああっ!」
 痛みと、痛みを遥かに超える幸福感が、ノエルを同時に満たしていた。
 失禁したかのごとくシーツを濡らしている愛液は、今もノエルの秘部から
絶え間なくぴちょぴちょと分泌されている。それをかき乱すのが、繋がったままの
ペニスだ。
 膣内の粘膜が擦られる。肉棒の傘がノエルの最も敏感な部分を愛液のぬるみを
借りて擦り上げ、表現しがたい電撃でノエルを痺れさせた。突かれるごとに粘膜が
ぬ゛るんと悲鳴を上げた。
 ペニスが引き抜かれるごとに子宮の口がちゅぽんと音を立てて続きを欲した。
「ああ、こ、こん、こんなっのっ!」 
 ずにゅ、ずにゅ、と挿入と後退のペースがどんどん速まっていく。
 快楽の波が押し寄せたまま引かず、後続の波によってどんどんと高められていく。
 ノエルはほとんど半狂乱の嬌声を上げていた。処女喪失の痛みなど、満足感と
快楽で消し去られてしまっていた。

「いくぞっ!」
「あ、あ、あああああああっ!」
 ノエルの膣内で快感が爆発した。二人の絶頂。迸る熱気がノエルの奥底で
解き放たれた。びゅくん、びゅくんと肉棒が脈動して、膣壁を拡張しつつ、
子宮口に精液を送り込んできた。
 ぐちゅ、ぐちゅ、と膣全体を精液が満たしていった。
「ああうっ!」
 子宮に直接精液が当たる。
 腰全体で快感を受け止めて、ノエルは耐え切れず顔を上げた。
 快感で表情がゆがんでいた。
 口はだらしなく開けはなたれ、自分の唾液と相手の唾液でシーツが
ぐしょぐしょになっていた。背筋は体験したこともない快感で限界まで
反り上がってしまった。
 それでも両の腕で愛しい人の背中を抱きしめたまま、ノエルはすべてを
受け止めた。
「ふあああっ! あ、ううあああん!」
 びゅく、びゅく、とノエルの膣内で射精は続く。肉棒の動きが止まらない。
溜め込んだ全てを放出するまで、精液がノエルを犯し続ける。粘膜をぬるみで
圧迫する快楽をノエルに与え続ける。
「うあ……あうっ!」
 射精の間も細やかな動きは止まらない。出された精液を更に書き散らそうと、
第二射が発射される。同時にノエルもまた絶頂を迎えた。
「はあうっ! ……は……うう……」
 背中を逆に駆け上がっていく快感がノエルの神経を末端まで犯していった。
 ノエルの思考と視界は、真っ白に染まっていった。

 数分して、ようやく射精を終えた肉棒が引き抜かれる。白い泡で縁取られた
肉棒があらわになった。ノエルの膣口からは、同じように白濁した液体が
だらしなく漏れ出ている。
 精液と愛液の交じり合った淫猥な液体は、ノエルの膣口付近でぽこりと小さく
あわ立つと、ヒダヒダを伝って白い太ももをたどり、シーツにとろりと流れ落ちた。
その中には、一筋の赤い線も混じっていた。
「はあ、はあっ……」
 ノエルは胸を大きく上下させていた。意識はもうほとんどない。
 常人ならとっくに気を失ってしかるべき快楽を受け止めて、思考が発散していた。
 あるべき理性がバラバラに散ってしまっていた。
 ノエルはそこに残っていたただ一つの思い、すなわち本能に従って、
目の前の肌色に沈み込んだ。口元には微笑が浮かんでいた。
 それに反応したのか、男はゆっくりとノエルの髪をすいた。
「……ん……」
 するとノエルは全身を弛緩させて、安らかな寝息を立て始めた。

 ノエルが目を覚ますと、今度は一人だった。
 外では雀がちゅんちゅんと鳴いている。朝だった。
 ノエルは代えの下着と代えの肌着を着て、身支度を整え武装をして、宿屋の外に出る。
 森の宿のそば、広がる林にぽっかりと空いた広場、朝日の中にその男はいた。
 ロングソードを二刀流で構えた戦士。バイアシオンの英雄にして無限のソウル。
 ノエルが声をかけると、男は振り向いて微笑んだ。
「起きたな」
「……おはようございます」
 男はソードをそれぞれの鞘に納めると、ノエルに言った。
「うむ。今日こそはマグダラの洞窟を制覇するぞ」
「え、はい。えと……あの……」
「なんだ」
 あれが夢だった……そんなことはあり得ない。可能性から排除せざるを得ない。
 なにせ部屋の隅のゴミ箱がとてつもないことになっていた。
 あとカレンダーでは今日が明日になっていたし。とどめにノエルは裸で寝ていた。
「その……え、えっとですね……」
 考えてみれば……自分はとんでもないことをしてしまった気がする。
 だが、男の態度はいつもと完全無欠に変わりない。
 どう切り出したものか、とノエルは迷う。
「ところでノエル」
 ノエルの考えを感じ取ったのか、男が言った。
「男の名前を考えろ。俺は女の方を考えておく」
 十数秒の後、ノエルは顔全体を真っ赤に染めつつも、ほがらかに返事をした。

(完)

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最終更新:2009年12月22日 20:33