とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part05

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~2nd day ういくろてん~


そうこうしている内に、目的のデパートにたどり着く。
第7学区内にある、結構大きめのデパートだ。
このデパートでゲコ太フェアが開催されていると言う事実があるが、きっと関係ないはずだ。
1週間前くらいにチラシが配布されていて、美琴が食い入るように見ていたが、たぶん気のせいだろう。
その夜、常盤台の寮で美琴が大興奮してゲコ太、ゲコ太言いながらニヤニヤしていたのを黒子が目撃していたが……関係は……

「お姉様、そんなにそわそわしなくてもフェアは逃げませんわよ」

「な、何を言ってるの黒子!? べ、別にそわそわなんてしてないわよ」

今にでも駆け出しそうな美琴の様子に、黒子がじとーッとした目を向ける。

「だ、大体フェアなんてあったの知らないし、ゲコ太とか関係ないわよ!」

「ゲコ太っ!!」

きゅぴーんと麻琴が、目を見開いた猫の様な妙な表情を浮かべ、『ゲコ太が何? どうしたの!?』ときょろきょろと周りを見回している。
この親にしてこの子あり、まさにカエルの子はカエル……と3人が思ったのは言うまでもない。
やがて麻琴の視線がある一方で止まる。
その視線の先にあるのは件のゲコ太フェアのポスター、とそれを見ているツンツン頭の……

「あれ? お父さん、何してんだろ」

麻琴のお父さん発言に4人がしゅばっと顔をそちらに向ける。
美琴は、何でアイツが――と動揺して
黒子は、あんの類人猿ッッ――と怒りを煮えたぎらせながら
初春と佐天は、御坂さんの未来の旦那様ってどんな人!?――と好奇心に胸を膨らませ

「お~い。お父さん、こんなとこで何してんの?」

「ん? あぁ、麻琴か。それに……何、変な表情してんだ美琴」

美琴は上条に会えて嬉しいのと、何でこんな所にと言う動揺とが綯い交ぜになって複雑な表情を浮かべている。

「ほぅほぅ、この方が御坂さんの将来の旦那さんなんですね」

ニタ~ッとした笑みを浮かべる佐天。
初春も興味津々と言った表情を浮かべている。

「旦那って……まぁ、でも実際、ずっと美琴と歩んでいくつもりだし、麻琴もいるから間違ってはいないのか?」

「な、な、にゃにゃにを、い、言ってんにょよ!?」

ボンと美琴の顔が一瞬で真っ赤に染まる。
何気ない上条の惚気とも取れる発言にろれつが回らなくなってしまう。

「きゃぁ~。御坂さん愛されてますね!」

「あ、愛……あぅ」

もじもじとうつむく美琴を佐天がこのこの~と言いながら肘で突っついている。
美琴は何も言えないようであぅあぅしているだけだ。
上条としては、そんな美琴も非常に愛らしく、いつまでも見ていたいのだが、さすがにこのままにしておくわけにもいかず話題の転換を図る。

「え~っと、ところで君たちは、美琴の友達なんだよな」

「あ、すみません。自己紹介してませんでしたね。御坂さんと仲良くさせてもらってます、柵川中学1年、佐天涙子で~す」

「初春飾利です。御坂さんにはいつもお世話になってます」

「上条当麻だ。このじゃじゃ馬娘の彼氏をやってる。よろしくな」

そう言いながら、美琴の頭を右手でぐしゃぐしゃとなでる。

「だ、誰がじゃじゃ馬娘よ!」

「お前だ、お前。付き合う前は会うたびに電撃ぶっ放してただろ、俺じゃなかったら大変なことになってたぞ。いくら構って欲しかったとは言え、あれはないだろ」

「だ、だって……あれは当麻がいつも私を無視してたからで……それにアンタ以外にはしたことないわよ」

拗ねたように頬を膨らませ、ぷいっと顔をそらす。
美琴から、電撃を放っていた理由を聞いたときは呆れた上条ではあるが、その素直じゃない美琴が今はたまらなくかわいらしい。
上条の自称鉄壁な何かが美琴の愛らしさにぼろぼろと崩れていった。

「あぁ、もう。美琴たんはかわいいな!」

「ふにゃ、ちょ、ちょっといきなり何!?」

辛抱たまらなくなった上条は頭をなでていた手を背中に回し両手でぎゅっと抱きしめる。
突然の抱擁に美琴はなすがまま、されるがままだ。
元々、上条に抱きしめられるのは美琴的には暖かくて気持ちいいから拒む理由はないのだが。

「美琴たんはどうしてこうも抱き心地いいんでしょうかね。暖かくて柔らかくていい匂いもするし」

美琴の髪に顔を寄せ、スンスンと匂いを嗅ぐ。

「上条さんは、こんなかわいい美琴たんを独り占めできて幸せもんですなー」

「……ばかとうま」

あまりの恥ずかしさに美琴は上条の胸の顔をうずめてぼそりとつぶやく。
いつの間にか美琴の腕も上条の背に回されており、その存在を確かめるようにギュ~ッと抱きついていた。

「は、はわわ。佐天さん、いいんですか!? これ私たちが見てていいんですか??」

「う、初春。これは現実? それともドラマかなんかのワンシーンを見てるの!?」

突如目の前で展開された桃色空間にあてられて、ある種のパニックに陥ってしまっている。
そして、普段なら鉄矢かテレポドロップキックでもかましてくるはずの黒子はと言えば……
白井黒子の名が表すとおり、真っ白に燃え尽きていた。
先ほどのファミレスで聞いてはいたとはいえ、目の前でやられては、たまったものではなかったのだろう。

「ところで、お父さん、お母さん。ここがどこだか覚えてる?」

「へ?」

麻琴の言葉に上条と美琴が顔を上げる。
6人を囲むように人だかりが出来ていた。
ただでさえ目立つ、常盤台中学の制服を着た少女が二人。
しかもそのうち一人は男と抱き合っているのだ。
デパートの前という人通りの多い場所でこんなことをすれば人の目を集めるのには十分すぎた。
周囲からは、羨望や嫉妬の声がちらほら聞こえてくる。

「あう……」

「あ、あはははは。し、失礼しましたーーーーっ!!」

ここに来て自分がどれだけ恥ずかしいことを言ってたか思い出す。
もう、なんと言うか、盛大に惚気ていたような気がする。
周囲からの視線に耐え切れなくなった上条は、固まったままの美琴の腕を掴んで、脱兎の勢いでデパートの中に逃げていった。
逃げる上条と美琴の背中に『彼氏ー、彼女を幸せにしてやれよ~!』だの『リア充爆発しろ!』だのと言葉が投げかけられていた。

その後、取り残された麻琴たちが上条たちを見つけたとき、二人はデパートの奥の方にある休憩所のベンチに気まずそうに座っていた。
時折、申し合わせたように顔をあわせ、そして先ほどのことを思い出して赤面してそっぽを向いて悶えるということを繰り返していた。
麻琴たちが声をかけなければ、そのままずっと同じことを繰り返していたに違いない。

「そういえばさ、さっき答えてもらえなかったんだけど、お父さんこんなとこで何してたの?」

デパート内をぶらぶらと見て歩きながら、麻琴が上条に尋ねる。
先ほども聞こうとしたのだが、佐天たちの介入ですっかり聞けなかったのだ。
上条の暮らしぶりから、あまりこういうデパートには縁がないはずである。
それに、そもそも何故あのゲコ太フェアのポスターを見ていたのか。

「あ~、いや、そのたまたま通りかかっただけで……」

顔をそらせて、頬を指でぽりぽりとかきながら、歯切れ悪く答える。
どことなく頬が赤く染まっているようにも見える。

「もしかして、御坂さんのためにあのフェアを見に来たんですか!? 御坂さん、ゲコ太が好きだから」

「うっ……何故それを…じゃなくてだな、別に美琴にプレゼントして笑顔が見たいとかそういうのではなくてですね。あわよくば抱きついてきてくれたり……って、うわぁぁぁっ、何言ってんだ俺ぇぇえええ!!」

佐天の鋭いツッコミに、思わず本音が漏れた。
取り繕うとするが、それが余計に本音をばらすことになってしまっている。

「ふ、ふにゃー」

美琴はといえば、先ほどから続く赤面イベントの数々についに精神が限界を超えたらしく、パチパチと漏電しながら意識を手放した。
あわてて上条と麻琴が支えたので転倒は免れたが。

「ん……あれ私?」

「あ、起きましたか、御坂さん」

美琴が目を開けると、そこには心配そうに覗き込む佐天と初春。
そして呆れ顔の黒子と麻琴だった。
となりから暖かい心地よさを感じ目を向けると、上条が安堵の表情を浮かべこちらを見ていた。
どうやらベンチに座って上条に寄りかかっていたようだ。

「私どれくらい気を失ってた?」

「5分くらいですよ。急に気を失うからびっくりしましたよ」

「ごめんね、心配かけて」

「ふっふっふ~。でもいいもの撮れましたからね、おあいこです」

「さ、佐天さん!? 撮れたって何を撮ったの!?」

携帯電話のカメラを向け、にま~っとした笑みを浮かべる佐天に、なんだか嫌な予感がする。

「何って、上条さんに寄り添って幸せそうに眠る御坂さんですけど。何なら後で送りましょうか?」

「あ、うん。後で送ってね。じゃなくて、そんな写真撮んなー! 貸しなさい、そんなもの消してやるわ!」

じゃれあうように佐天と美琴が携帯を取り合う。
さすがに能力を使って無理矢理奪おうとはしないようで、傍目から見ればどことなく楽しそうである。

「あっはっは~。これを消してもすでに初春が支部のパソコンにバックアップとってますから無駄ですよ~」

「ちょっ、何してんの初春さん!?」

ひょいひょいと美琴の追撃をかわしながら爆弾を投下する佐天。

「だって、御坂さんのレアな写真ですよ! 永久保存版じゃないですか!」

初春がなにやら興奮気味に答える。
お嬢様の恋に興味津々と言った風で、いつの間にかリミッター解除されていたようだ。

「こ、こうなったら能力で……」

「御坂さん。そんなことしたら学園都市中、もしくは世界中に先ほどの写真がばら撒かれることになりますよ」

「い、いやぁぁぁっ!!」

初春飾利、さすがその辺は抜け目がなかったようだ。
なお、この写真が現像され、麻琴のいる未来でアルバムの中にしっかりと収められていたりする。
なんやかんや言いながらも本人も結構気に入ってはいたようだ。

「お姉様。それくらいになさいませ。また衆人の目を引くおつもりですの?」

黒子の言葉に、我に帰り、周りを見渡す。
少し騒いでいたからか、また注目を浴び始めたようだった。

「ぐぬぬ……佐天さん、初春さん。他の人に見せちゃ絶対にダメなんだらかね!」

この場で騒ぐのは得策でないと判断したようで、最後の抵抗とばかりに若干涙目でキッと二人を睨む。
もちろんです、とうなずく二人だがニマニマした笑みがなんだか信用できない。
そんな3人を麻琴はどことなく寂しそうな表情で見つめていた。

「麻琴? どうしたんだ、そんな顔して」

その様子に気付いたのは上条だった。

「ちょっと、友達のことをね」

麻琴の脳裏に浮かんだのは、幼馴染でルームメイトでクラスメイトな親友の少女。
本来なら自分たちも、こんな風にじゃれあってたかもしれない。
そう思うと、少し寂しさが湧き出てきた。

「でも、今は今を楽しまないとね」

笑顔を浮かべ、寂しさを振り払うように美琴たちのもとに駆け寄っていった。
上条も、小さく微笑むとその後を追っていった。



――20年後、学舎の園内のとあるカフェ――

「――っくしゅン」

きめの細かい白い肌、切れ長の鋭い目に紅い瞳の少女がくしゃみをする。
鈴科琉璃(すずしなるり)。
常盤台中学2年に在籍する、麻琴の親友にて幼馴染で更にクラスメイトでルームメイト。
ある意味、麻琴の両親並に彼女のことをよく知る少女だ。

「鈴科様。お風邪ですか?」

「すこぶる健康よ。たぶン、マコ辺りが噂でもしてるンじゃないかしらねェ」

昨日から研究所で缶詰になっているらしい親友を思い浮かべる。
実際は過去にタイムスリップしてしまっているのだが、当然そんなことは知らないし、騒動にならぬよう、この時代の美琴や上条が手を回した結果、麻琴は研究所にしばらくいることになっている。

「上条様は昨日から研究の手伝いに出向なされているんでしたわね」

「どうせ、あのマコのことだから、資料をなくしたり、ミスしたりしてるンじゃないかしら。『不幸だ~』って言いながらね」

カップに入ったコーヒーに口をつける。
学舎の園にあるカフェだからか、その香りと苦味は上等なものだ。
琉璃の母が入れる、あのカフェイン中毒ともいえる父のために研究したという特別なブレンドのコーヒーには遠く及ばないが。

「『常盤台の新電磁砲(レールガン)』なンて呼ばれている割には抜けてるから……」

そう言って琉璃はくすりと小さく微笑んだ。


――時は戻って現代――


「誰が抜けてるって言うのよ!!」

突然うがーと麻琴が吼える。

「ど、どうしたのよ、突然?」

ショッピング中に突然吼えた娘の奇行に、近くにいた美琴が驚く。
何事かと、上条や、少し離れた所にいる佐天たちもこちらに顔を向けている。

「なんか誰かに馬鹿にされたような、そんな電波を受信したといいますか……」

なんだか急にムカッときて、思わず叫んだが、思い返せば何してんだろうと自分の行動に疑問が浮かぶ。
電撃使いって妙な電波まで受信してしまうんだろうか、と少し自分の能力が嫌になった。

「な、なんですの!? 何かありましたの!!」

シュンと空間移動で目の前に現れる黒子。
鋭くにらみつけるように周囲を警戒している。
手にはすでに鉄矢を数本持っている。

「変質者でも出たんですの!? わたくしの麻琴さんには指一本振れさせまs―――」

「むしろアンタが変質者よ! 人の娘を自分のものにすんなっ!」

怪しげな言動を始める黒子の脳天に美琴の拳骨が炸裂した。
黒子が痛みに頭を抑えてうずくまる、天罰覿面と言ったところだろう。

「美琴、ちょっと来てくれ」

しばらくして、、上条が美琴を手招きしながら呼んだ。

「どうしたのよ?」

「いや、これ美琴に似合うかなと思ってさ」

そう言って差し出したのは陳列棚に置いてあった、白い花をあしらったヘアピン。
美琴がつけているのより、少し大人っぽいものだった。
上条が美琴の髪にヘアピンを合わせてみようとしたところで声がかけられた。

「お姉様。わたくしたちはあちらの店にいますので、ご用件が終わったらお呼びくださいませ」

美琴の一撃から復活した黒子がとなりの店を指差して言う。

「え、あ、うん。わかったわ」

「さぁ、初春、佐天さん、麻琴さん、行きますわよ」

美琴が了承したのを見ると、黒子があっけにとられている3人を連れて隣の店へと向かっていった。

そして、美琴と上条がこっそりと見える位置に隠れる。

「ふぅ、少しばかり二人きりにして差し上げてもよろしいでしょう。お姉様も幸せそうですし」

影から見える美琴と上条は、柔らかな笑みを浮かべあって他のアクセサリーを選んで試着したりしている。

「白井さん、御坂さんたちを二人きりにするためにあたしたちをここに連れてきたんですね」

「白井さん……」

美琴にべったりだった白井が自分からこういう行動にでたことに、佐天と初春は少し目頭が熱くなった。

「さ、わたくしたちもショッピングを楽しみましょう」

そう言って黒子が店の物を見始める。
冷静な対応を続ける黒子。
あぁ、人ってこんなときに大きく成長するんだなと、佐天と初春は感動していた。

「麻琴さん。こちらの服なんてお似合いになるのでは?」

そう言って麻琴に手に持った服を渡す。

「ありがとう黒子さ…………布少なっ!」

その服を広げてみると、それはもう、いろんな意味で大胆な服だった。
学生中心の第7学区のデパートで何売ってんだこの店は、けしからん、そんな感じの服である。

「さぁさぁ、麻琴さん試着しましょう。着方が分からないのならば黒子がそれはもう手取り足取り腰取り、くんずほぐれつ教えて差し上げますわよ。ウヒヒヒヒ」

「いやいやいや、着ない、着ないからこんなの! ってかなんでこんなのあるのよ!?」

「そうおっしゃらずに、黒子にすべてを任せていただければ、めくるめく愛の世界へ連れていって差し上げますわー!」

「ひぃっ、こっちくんなぁっ! 不幸だぁー!!」

にじり寄ってくる黒子に持っていた服を投げつけ、その場から逃げ出す麻琴。
目隠しにされた服を振り払った黒子は、わきわきと怪しい手付きでそれを追っていった。
単にターゲットを美琴から麻琴に変えていただけのようだ。
成長のせの字も結局ない黒子であった。

「か、感動して損した……」

「やっぱり白井さんは白井さんでしたね……」

結局、黒子は美琴に取り押さえられ、再び拳骨(ただし電撃付き)で制裁された。


―デパートのゲコ太フェア特別会場―

「ゲコ太がいっぱい、えへ、えへへへ」

「ゲコ太~、右を見てもゲコ太~、左を見てもゲコ太~、ふにゅ~」

美琴と麻琴の母娘は、数々のゲコ太グッズの前にものの数秒で陥落してしまったようだ。
ニヤニヤと締まりのない顔で、二人揃って誘われるようにふらふらとある一角に歩いていく。
普段の見栄も外聞も、この圧倒的なゲコ太の物量の前にすっかり吹き飛ばされてしまっているようだ。
佐天と初春も、このフェアの限定品は可愛いと思うようで、手にとって見ている。

「お姉様や麻琴さんだけでなく、初春に佐天さんまで、まだまだ子供ですわね……」

自称淑女の黒子にとってはさすがにこの空間はあわないらしい。
特に他にやることもないので、この空間の力でふやけている愛しのお姉様&麻琴に視線を向け、欲望を満たそうとする。
そこにはいつの間にか上条が混ざっており、3人で色々物色しているようだ。

「こ、これは……あたしの時代では絶版のケロヨン、ピョン子、ゲコ太、3匹揃ってのプレミアム風呂上りブルーメタリックコーティングVer.ka!!」

思わぬお宝の発見に、麻琴はゴクリと唾を飲み込んだ。
この時代では新発売のこの置物は麻琴の時代ではすでに入手不可能な珍品なのだ。
ゲコ太マニアにとっては垂涎の一品だ。
値段もこのフェアの限定品とは言えど、プレミアが付いている訳でもないのでそこまで高くない。
これは買うしかないと、財布を取り出そうとする。
と、ここで思い出した。
現在の全財産とも言えた美琴からもらったお小遣いは、全て自販機に飲まれてしまったということを。
がくりと膝をつきうなだれる。

「どうしたの麻琴? それ買うんじゃなかったの?」

「うぅぅ、買いたいのはやまやまなんだけど、朝、お母さんにもらったお小遣い、自販機に全部飲まれたのよ……」

「……上条さんは今、麻琴が本当に俺の娘なんだなと新たな実感を感じてますのことよ……」

上条は麻琴の自販機にお金を飲み込まれるという不幸に共感を覚え、さめざめと涙を流す。

「アンタたち……」

過去に自分も飲まれた事実は棚に上げ、父娘の不幸に大きくため息をついた。
今度は飲み込まれないようにと念を押しながら、麻琴にお小遣いをあげるあたり、なんやかんやで娘に甘い美琴である。
もちろん、そのお小遣いは自販機に飲まれる前に全てゲコ太グッズに変わってしまったが。
本来怒るべき美琴も、それに気づいたときは山のようにゲコ太グッズを買い漁った後であり、強く出れず、二人して上条から無駄遣いについて説教されるはめになってしまった。
ゲコ太は無駄じゃないと反論するものの、そんなことは当然まかり通るはずもなくこってりと絞られた二人であった。
説教が終わった時には、最終下校時間まで残りわずかとなっていて、ここで解散と言うことになった。
別れの挨拶を済ませ、それぞれ自分たちの住む場所へ帰っていく。
美琴は最後まで上条たちに夕飯を作りたいと言っていたが、黒子に諭され、しぶしぶ帰っていった。
上条と麻琴の父娘は、帰る途中で買い物を済ませ、不幸体質が二人いながらも何とか無事に食材を部屋まで運ぶことに成功した。
まぁ、玄関を開けたとたん、空腹で激怒した銀髪シスターに上条が噛み付かれ、不幸だー、と叫んでいたが、いつものことでもあるので問題ないだろう。

「いてて…あのナインデックス、ドア開けるなり噛み付いてくるとはどういう了見だ、危うく食材落としてダメになるところだったぞ」

夕飯の食材を冷蔵庫に入れながら上条がむすっとした表情を浮かべて言う。
先ほどドアを開けるなり噛み付かれたとき、痛みに食材の入ったスーパーの袋を手放したのだ。
すかさず麻琴がキャッチしたため中身はかろうじて無事だったが、キャッチできなければ卵などは全滅していただろう。

「私を空腹にして放置したとうまが悪いんだよ! 主も天罰を与えるべきだと言ってたんだよ!!」

空腹のインデックスに何を言っても無駄なのか、まるで反省するつもりはないらしい。
なお、麻琴はといえば、奥の部屋で先ほど買ったゲコ太グッズを広げ、一人悦に入っている。
ふへ、ふへへへへ、などと怪しげな笑いが聞こえてくるが、なんだか邪魔をしちゃいけないと言うか、関わりたくないと言うか、不気味なオーラが背後から漂ってくるようでインデックスはあえて目をそらしていた。


一方、美琴はといえば……

(しくじりましたわ……あの類人猿の元にお夕飯を作りに行けなかった事を落ち込んでたのを励まそうと、ゲコ太グッズを勧めるべきではありませんでしたわ)

黒子が自分のベッドに腰をかけながら心の中でつぶやいた。
テーブルを挟んで反対側では美琴が今日収集したゲコ太グッズを広げ、一人悦に入って不気味な笑みを浮かべている。
いくら敬愛するお姉様だとは言え、なんだか近寄りがたい。
というか、先ほど話しかけたら、1時間もの間、延々とゲコ太について語られた。
さすがにげんなりしてくるというものだ。
この後も就寝間際まで美琴がずっとゲコ太グッズを愛でていたことは言うまでもないだろう。
また、当然のように、麻琴も就寝間際まで悦に入ったままであり、不意に話しかけたインデックスがゲコ太について異様に詳しくなってしまったらしい。


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