一章 復活下着


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 地下鉄の駅は、鳩ハウスから南に10分程度の場所にある。
○○町は碁盤目状の札幌市らしく真四角に陣を得、住宅街の静けさを保っている。
時間は10時。大学生の通学にしては少し遅い時間だ。
「あんた、最近変身しなくなったね。」
赤の傘で雨を弾きながら、隣で歩く嫁が言った。
「何にさ?」
俺が青の傘をブルンっと回すと、雫が嫁に降り掛かる。
「・・・・・・やめてよ、もぅ・・・。」
梅雨のような雨のなか二人は○○町を抜けるように歩いていた。
最近はいつもこうだ・・・。
北海道には基本梅雨がない。
確かに六月は他の月と比べ雨の日は多いが、一月ちかく続くような雨じゃない。
湿気だって少ないからカビとかとは無縁だ。
しかし、今年はやたらと雨が多い。本州の梅雨は経験したことはないが、それの近い雨だと予想できた。
知り合いが言うには「本州に侵食されつつある」だそうだ。
夏も年々暑くなってきている。温暖化というやつだろうか。
また「無職マン」のかっこうのネタになるんだろうな・・・。
「パンツマンよ・・・。」
体についた雫をハンカチで丁寧に拭く嫁。
胸のあたりが水滴で薄くなっているのが気になっているようだ。
だったらそんな服着てこなければいいのに。
「ああ、アレね・・・。」
「アレって・・・前までは凄い夢中になってたじゃん。」
そのような時もあったなっと俺は曖昧に返事をする。
正直、嫁から言われるまで忘れていた。・・・いや、忘れようとしていたのだ。
あの短パンを見れば、きっとあの時のことを思い出す。
それは今の俺にとって不要なことだ。それは記憶ではなく幻想であるべきものなのだ。
そう言い聞かせることしかできない自分が嫌になる。
「いいだろう・・・べつに。」
「いいけどさ・・・。アンタ最近おかしいよ?」
昨日の姉みたいなことを言う。やっぱり双子なんだな・・・この姉妹。

○○町を抜け、駅へとつなぐ大きな通りと差し掛かる。
『我々はここに断言しよう!!日本ハムを地獄の果てまで追いかけて、応援歌をもってけ!セーラー服 にすることを!!』
駅前のほうから、スピーカーで大きくした汚い声が響いてくる。
『それだけではない!!コンサドーレはお兄ちゃんどいて!そいつ殺せない!だ!!』
「無職マン」による恒例の街頭演説だ。
この駅は中心から少し外れ利用客もそれほど多くない。
大通や札幌駅、ススキノでは毎日年中無休でやっているのだそうだ。アニメイト何十人で主張をしているとか。
そんな彼らの演説を立ち止まって聞く者も少なくない。
現に今も人だかりができてるぐらいだ。
「やだ・・・ここまで来てんの?」
嫁が愚痴を漏らす。
確かに気持ちはわからないでもない。
彼ら蜂起したのは二ヶ月前。
近年続く就職難とアニメーターの雇用体勢問題。落ち続けるアニメのクオリティに秋葉ブームに乗っかったニワカの出現。
数々の問題に業を煮やした一部ニートが日本政府に対して宣戦布告。
その勇気に賛同して多くの隠れが職を手放し戦線に参加。
しかし彼ら自身のオタク人口が少数なのと、人とまともにコミュニケーションがとれない特性が裏目にでて多くのメンバーが集まらないという事態に。
この事態を重く見た「無職マン」は人員確保を第一前提に置くことに。
札幌に付随するスポーツチームの応援をしたり、北海道の名産品を各地に宣伝したりと地域住民に貢献する活動を行い人員増強に乗り出したのだ。
しかも政府は「オタクのちょっとした遊び。」「頭が可哀想な集団」としか思っていなかったため事態は好転することになる。
サミット事件だ。
各国の代表者が一斉に洞爺湖に集まると聞いた「無職マン」はテロを開始。
サミット会場に突入しアニメの素晴らしさを全世界にたらしめたのだ。
この行動により、爆発的に人員は増強されいまや一万人にものぼる大部隊ともなった。
日本中からオタクが集まり今も活動を続けている。
『それこそが我が国の文化!誇りである!!ツンデレ万歳!!ヤンデレ万歳!!』
人だかりが一斉に盛り上がる。
「ホント・・・いい迷惑。あんな少数派の人間のせいで腐女子が勘違いされるのよ。」
「オタクもだろう・・・。」
俺がすかさず合いの手を入れる。区別したがるのは嫁の悪い癖だ。
愉しむものは違うけれどオタクと腐女子は位置的には同じはず。両方とも底辺なのだ。
無理に誇りとか持ってても無駄だろうに。
二人は無言で人だかりを通過する。
全身黒タイツでカッパを被っている戦闘員がまだ万歳を行っている。
『釘ミー万歳!!アヤたん万歳!!ナナたん万歳!!』
伝染するように他の人間に熱が伝わる。
これはもう呪いだな・・・。
呪詛のように人を取り込み、永遠にアンダーグラウンドから抜けなくされる。
一般人からしたらいい迷惑だろう。
我々は住み分けを大事にしなければいけないのだ。他者と違うのは当たり前。
無理に同一にしてしまう必要などないのだ。
だから彼はいずれ破綻する。
他者との齟齬に戸惑いながら空中分解するだろう。なんせオタクというやつはコミュができない人種なのだから。

だったら「パンツマン」の出番なんて必要ない。きっと彼らは自然に消える。
そうでなくては困るんだ。
だから・・・
「バカな連中だ。」
俺が吐き捨てるように言う。
「同属でしょ・・・」
「んなわけない。水橋かおりだろ・・・jk」
二人は地下への階段を下りて行く。
有名どころの声優を適当に神聖化した万歳合唱を背に。


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