とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part06

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匿名ユーザー

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 上条は、美琴の肩を抱き、寮へ向かっていた。
 お互い何も言わず、ただ月明かりに照らされた、2人の影だけが揺れている。

 上条は内心、これから起こるであろうことを想像するが、どこか実感が湧かない。
 だが照れとか懼れとかは無い。
 自分の気持ちがどこへ向かっているのか、それだけを考えていた。
 今夜、美琴の想いを受け入れることが、果たして自分の、そして彼女の気持ちの行き着く先なのだろうかと。
 このまま彼女を抱くことが、これからの自分の生き方に適うものなのかと。
 あれこれ考えても、結局答えは出ない。

――お前は、どうなんだ……

 上条が美琴を抱くことは、本当に彼女が本心から望むことなのか。
 その場の雰囲気で、その場の流れで彼女を抱くようなことはしたくない。
 なら、自分はどうしたら彼女を抱こうと思うのか。
 一緒にいてほしいからだけなのか。
 相変わらず答えは出ない。

 やがて上条の部屋の前に着いた。
 無言のまま、部屋の鍵を開け、ドアを開ける。
 何も言わず、そっと美琴の背中を押し、部屋の中へ迎え入れる。
 美琴は小さく「お邪魔します」と言っただけだった。

「とりあえず、そこ、座れよ」
「……」

 黙って壁を背にして、ガラステーブルの前に座る美琴。

「何か飲むか?といっても…紅茶にするか」

 そう言いながらコンロにやかんをかけた。

「ええ、なんでもいいわ……」

 美琴は俯いて、ただ床に目をやっている。
 その表情は、無表情のようにも見えたが、これから起こるであろうことを考えているのか、ほんのり赤みが差していた。
 上条は視線を逸らしたまま、黙って美琴の反対側に座った。

「……」
「……」

 照れなのか、意識しているのか、2人とも何も言わない。
 ただやかんの沸き立つ音だけが聞こえてくる。
 それでも2人の間に重苦しい雰囲気はない。
 ただ時だけが過ぎていく。
――やがて沸騰する音に急き立てられるように上条が席を立つ。
 その動きを美琴は目で追うだけだ。

 やがて上条は、紅茶を入れたマグカップを2つ、ガラステーブルに置いた。

「ミルクティーだけどいいか」
「ありがと……」

 美琴はカップを両手で持ち、そっと口をつける。
 冷えた身体に、その暖かさが染み渡る。
 ほのかな甘味と、ふくよかな茶葉の香り、ミルクのコクが相まって美味しく感じる。

「おいしい……」

――美琴が気に入ってくれてよかった……

「これでも英国製ブレンドだぜ。貰い物だけどな」
「へぇ、なんて銘柄なの?」
「なんていったかな。プリンス…?」
「プリンス・オブ・ウェールズね」
「さすがお嬢様は違いますね。上条さんなんて飲めれば何でもってやつで」

 ちょっとした軽口が場を和ませる。
 クスリ、と笑った美琴の笑みを眩しく思った。

――やっぱりコイツの笑った顔を眺めているのが好き……なんだ……。
――好き……か。
――そうなんだ。
――多分、いや間違いなく俺は美琴のことが好きなんだ。
――でも……

「俺、ちょっと風呂の準備してくるわ」

 いきなりそう言うと、上条は顔を赤くして立ち上がり、風呂場へ行った。

「そう……」

 どぎまぎしたように美琴がつぶやいた。
 再び顔が赤くなる。

「先、シャワー浴びろよ」
「うん、そうさせてもらうわ」
「これ、着替えの代わりだ」

 そう言って上条が洗いざらしのワイシャツを渡す。

「タオルは適当に使ってもらっていいから」
「ありがと……」

 そして美琴は脱衣場へ行った。

――そういえば、土御門が入用なものを入れておくと言ってたな。

 マグカップを台所に片付けながら、ドアについている新聞受けを見た。
 小振りな紙袋が1つ。
 ベッドに腰掛け、紙袋を開けてみると、入っていたのは1箱の男性用避妊具。

――あんにゃろう……

 その生々しさが余計に本能を刺激する。
 外堀を埋められ、ついには内堀までも埋められたような心地が、なんとも不本意な気がした。
 そのまま箱ごと枕元に放り出し、ベッドに背中から倒れこむ。
 天井の模様と、照明の光をぼんやり眺めながら、再び自意識の海へ潜ろうとするが、結局出来なかった。

「シャワー、ありがとうね」

 美琴の声がした。
 顔を上げると、シャツを羽織った美琴の姿が目に飛び込んできた。
 シャツのボタンは留めていない。
 前が開いたシャツから、見える胸の谷間が刺激的だ。
 ショーツをつけているが、その姿に劣情を覚える。
 湯上りなのか、緊張しているのか、顔が赤い。
 その顔を見た瞬間、からみつくような視線を投げつけて来た。

「――俺もシャワー浴びるわ」

 美琴の視線を外すように、上条は目を伏せベッドから体を起こした。 

「待って……」

 美琴はベッドに近寄り、そのまま上条の身体を押し倒した。
 上条の両腕を押さえつけ、馬乗りになり、のぞきこむように顔を見下ろしてくる。
 はだけたシャツから2つのふくらみがこぼれる。

「美琴……」
「黙って……」

上条は魅入られたように、美琴の目を見た。

――お前の目は誰を見ている?
――何を見たいんだ?
――何が欲しいんだ?

「私が欲しいものは……当麻の全て……もうどこへもやらない……誰にも邪魔はさせない……」

――そうか……

「当麻の身体の中にも外にも、私の全てを刻み込んであげる」

――なら……

「そうすれば……当麻は……死ねないのよ」

――!

「死なないのじゃない……死ねないのよ!」

 そういうと上条の顔に、美琴の顔が被さってきた。
 美琴の唇が、上条の唇を蹂躙していく。
 目を、鼻を、耳を、頬を、顎を、首筋を、嬲りつくしていく。
 唇で、舌で、歯で。

「私は当麻を……私の中にも外にも、刻み込んでおくの……。
当麻の傍にずっと居られるように……
前に言ったこと、覚えてる?
それでも私は…アンタに生きて欲しいんだと思うって」

 それはあの夏の日、妹達(シスターズ)を助けるため、一方通行を倒した時に言われた言葉。

「ああ、覚えてるぜ」
「だから今夜は……私の好きにさせてもらうわ……
アンタに拒否権はないわよ」

 上条は美琴が押さえつけた手を跳ね除け、彼女の身体を抱き締めるや、体を入れ替え組み敷いた。
 再び互いの目を見合う。

「覚悟は出来てるんだな……」
「今更……」
「俺の気持ちを知った上で?」
「後悔なんてしないわ……」
「なら……カラダから始まる恋っていうのもありかもな……」

 上条の唇が、美琴の唇を蹂躙する。
 腕を上条の首に巻きつけ、目を閉じた。
 さっきとお返しとばかり、目を、鼻を、耳を、頬を、顎を、首筋を、嬲りつくしていく。
 唇で、舌で、歯で。

「――ん……うそつき……」

 美琴の首筋に、きつく印を付けた。
 美琴は小さく喘ぎ、全てを受け入れた。

 少年が少女を貫いた時、少女は少年の背に腕を回した。
 少年が動きだした時、少女は少年の背に爪を立てた。
 少年の動きが激しくなる時、少女の爪は、少年の背に深く食い込んだ。
 やがて少年は男になり、少女は女になった。
 互いに流した血の跡が、2人が刻み込んだ絆となる。


 濃紺のベールを少しずつ剥がすように、やがて白い空に変わる夜明け。
 冷えた空気が、窓の内側に湿ったカーテンを作る。
 生まれたままの姿で寄り添う男女は、暖かなベッドの中。

 栗色の頭が寄り添い、ほのかな甘い香りが鼻腔をくすぐる。
 右腕の心地よいしびれが、今の決意を鈍らせる。
 腕の中で眠る美琴は、未だ静かな寝息を立てていた。
 上条はその横顔を見ながら、過ぎてきた日々を思い返していた。

――離れていた時間も、つらい時間もいつか癒えるだろうか。
――俺はお前の想う場所を守れるか?
――お前は俺の想う場所を守れるか?
――これからお前と同じ道を歩いていけるか?
――これから同じ夢を見て行けるか?
――ああ、地獄の果てでも、お前となら行けるだろうな。
――なら……
――今はこうしてお前の横顔を見ていたい。 
――お前のぬくもりを感じていたい。

 そっと美琴の頬に手を触れた。

「――ん……」
「ごめん、起しちゃったか……」
「おはよう…、当麻……」
「おはよう……、俺の美琴」
美琴は顔を赤くして言った。
「――ありがとう」
「何が?」
「――なんでも無いの……。ただなんとなくだけど……」
「そっか……。まだ時間早いし、寝てて良いよ。朝食用意するから」
「大丈夫……、私も手伝うから」

 そう言うと、美琴はベッドから出ようとして……、固まってしまった。

「どうした?」
「まだ……、はいってるみたいで……、ちょっと……」
「あ……。そ、そうか」
「――ちょっと歩きにくい……、かな?」
「無理するなって。寝てたらいいよ」
「当麻……」
「ん?」
「一緒に……居て……」
「朝食は?」
「だから……一緒に用意するの……」
「じゃ、無理しないようにな」
「ありがと……」
「ま、その前にシャワーでも浴びておこう」

 そう言いながら上条は、未だにベッドの上にしゃがみ込んでいた全裸の美琴を抱き上げる。

「あっ……」
「じゃあ、風呂場にご案内しましょうかね」
「まって……」
「ん?」
「シーツ…、ついでに洗濯機に…。血…、染みてないと良いけど…」
「なんか妙に生活感感じるセリフだな」

 美琴は顔を赤くしながら、上目遣いに上条に言った。

「私、当麻のお嫁さんだから…ね」
「あああ、もうそんな顔で言われたら、上条さんの理性は残骸すら残らないですよ。すっごく可愛いなって」
「そんな可愛いって…ふにゃ~」
「こら、漏電すんなって」
「ごめん……」

 なら、といいかけて、上条が美琴を下に降ろす。

「――おはようのキスはどうかな?美琴」


 2人で浴びる熱いシャワーが心地好い。
 上条の背中の傷に、美琴がそっと触れた。

「この傷、もしかして……」
「そうさ。お前がたてた爪の痕」
「ごめんね。こんな傷付けちゃって。痛かった?」
「ん?これが俺に刻み込まれた美琴の証しだろ」
「――んふ。そうね」 笑った美琴の顔が何かを物語る。

――昨夜の覚悟は、もう刻み込まれた……か。
――なら、後は進むだけ……

「お前となら、手をつないで行けるか?」

 ふと口から出た言葉に、美琴が真直ぐ上条の目を見て答えた。

「地獄の底までもね。よろしく私の当麻」
「そうだな。よろしく俺の美琴」

――抱き合い、また唇を重ねた。

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