とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part01

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匿名ユーザー

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御坂がこんなに可愛いわけがない


私上条当麻は、現在いつも住んでいる寮ではなく訳あって学園都市上層部から与えられたマンションに無期限で住んでいる。
その部屋は1Kといかにも学生らしい部屋だが軽く12畳はあるだろうこの広さ。しかも
家電、棚、テーブル、茶碗や皿、生活に必要な物まで完璧に揃っている。
いつも住んでいる寮はユニットバスだけどこの部屋はトイレ、風呂は別、キッチンなんて
コンロが3口もあるという貧乏学生上条さんにとっては贅沢極まりない。

おまけに生活費も多少だが支給される。インデックスとスフィンクスは今回のことでしばらく小萌先生の所に
お世話になっており、いわばこの支給されるお金は全て上条さんの物!この上条当麻、恐らく
人生初であろう「贅沢」というものを堪能している訳であります。


インデックスによって消えて行く食材、家計なんて気にせず自分の好きな料理を作り
好きなだけ食べる。俺がどれだけバカ食いしてもインデックスのいつもの食事代の10分の1はかからない。
というより多少といえども支給額はいつもの生活費の2倍にもなるから上条さんからすれば
「このお金でなんでもできちゃう」のですよ。ふふふ・・・


そしてこれも訳あって学校もしばらく行かないで済み(なんと欠席扱いにもされない!小萌先生から届くプリントを済ませるのみ)、
好きな時間に起きて好きな時間に外出し、好きな時間に食事を取り好きな時間に床につく。

こんなに幸せでいいのでせうか?
いいえ、必ず幸せとは限らないのです。というより今のは不幸中のほんの幸いとでも言いますか。

何せこの部屋には・・・・・・


まずそこから話しましょう。


突然隣の住人の土御門が俺の部屋を訪問して来て、問答無用でこの部屋に連れて来られた。

「カミやんにしかできない指令なんだぜい?羨ましいにゃ~」

と言われたがさっぱりだった。のだがこの部屋の充実感、支給される金額に心を奪われ、インデックスの
保護は学園都市、イギリス清教連携での保護というあまりのVIP体制に頷くしかできなかった。
だがもちろん学園都市は無償でこの上条さんにこの幸せ生活を与えてはくれなかった。

そう。これは全て上層部からの指令。

適任は上条当麻しかいないと上層部が勝手に決めつけ、俺に有無を言わせない程の待遇を準備したとのこと。
まあ、これくらいで喜ぶ俺だから上の連中からすれば痛くもかゆくもない金額だろうが・・・


そんなこんなでこの部屋に連れて来られた時はまだ俺一人だったがある程度説明をしてくれた土御門は

「カミやん以外にもう一人ここに来るぜい」

としか教えてもらえなかった。それが誰か?俺をここまでVIP扱いするくらいだからまた
生死をかけて魔術師とでも戦うのか?
もしかして魔術師の誰かとここで重大な任務を任せられるとかいう不幸なのか?いや、
もっと不幸な任務なのか?

ない頭をフル回転させても無駄だと思ったからベッドに身を投げ出す。

「まあ、誰が来ても関係ないか」

とポツリと呟いたけど、全然関係あった。

ピンポーン!
チャイムが鳴りきっと俺と同じ扱いのヤツが来たんだろうと思いながらドアを開けると・・・


「は?何で・・・お前が?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

常盤台中学の制服を身に纏いトランク片手に顔を真っ赤にした御坂美琴がそこに立っていた。


「これ・・・」

御坂が固まったまま俺に封筒を差し出してきた。


『上条当麻様

この度は誠に勝手ながらあなたに学園都市を代表する超能力者で第3位の御坂美琴様に対する御協力をお願いします。
御坂美琴様は現在、「自分だけの現実」が著しく崩れかけておりその理由が我々でも不明です。
ですがその理由に上条当麻様が関係しているということだけわかりました。
このままですと御坂美琴様は超能力者から大能力者にランクダウンしてしまう恐れがあります。
「自分だけの現実」が崩れている原因の上条当麻様にも解決策を御坂美琴様と一緒に探していただきたいのです。
最善を考えた結果お二方が同じ屋根の下で生活をすれば早いと思い、この場所を提供させていただきました。
なので問題が解決するまでの期間、生活面はある程度の額ですが支給させていただきますので
心配なさらず。
あとこの事は学園都市全体に大きく関わりますので外では絶対口しないようにお願いします。

是非、御坂美琴様と学園都市のために御協力お願いします。

                                 学園都市統括理事会』

「なあ御坂、つまりお前の「自分だけの現実」が元に戻るかそれ以上にならない限りここに二人で生活すると?」
「うん・・・ごめん」
「あ、いや・・・お前が謝ることなんてないんだぞ?俺が原因なんだろ?」


確認を取るための質問のつもりだったが御坂を傷つけてしまったように思えた。しかし
俺が知っている御坂じゃないみたいだ。
俺の顔を見る度に顔を赤くして下を俯くし、強気な口調も仕草もまだ一回も見ていない。
出会い頭に突っ込みたかったがそんな空気でもなかった。

「ま、まあとりあえず中に入れよ。ここで話しても何だからさ、トランク貸せよ、持ってやるぞ?」
「あ・・・・・あり・・・ありがとう」


とりあえず御坂が重症なのはわかった気がする。ありがとうがまともに言えないなんてよほどだよ。
でも何故俺が原因なんだ?トラウマになるような事はしてないハズだし・・・
俺の後を恐る恐るついて来る様子も変だ。とりあえず部屋の隅っこにトランクを置き、詳しい話を聞こうと
椅子に座らせる。

「ほら、この部屋にあるもの好きに使っていいらしいから座って話そうぜ?」
「・・・・・・・・・うん」

こんな大人しい御坂も気持ち悪いものだ。御坂も椅子にゆっくりと座ったのだが

「っ・・・・・・!!!」

俺と目が合った途端頭から電気をバチバチ言わせて漏電し始めた。

「み、御坂!?」

慌てて右手を頭に置いたが御坂は

「いや!離して!」

と拒否して右手を振りほどこうとしてきた。

「バカ!ここで手を離したら部屋がめちゃくちゃになっちまうぞ?」
「ごめん」
「謝るなって、「自分だけの現実」が回復するまで俺とここで生活しないといけないんだぞ?
そう考えたら早く治したいだろ?少しの辛抱だから頑張れ御坂!」
「・・・・・・・・・・・・」

しばらくしてようやく漏電も収まり、「詳しいことは今じゃなくてもいいからいつか話してくれ」と一旦話は止めることにした。

「そうだ御坂、晩飯買いに行って来るから少し留守番頼むわ」
「うん」

支給されたお金を持ち、急いで玄関の外に出た。

「ふう・・・御坂・・・大丈夫なのか?」

部屋の中から御坂の泣いている嗚咽が聞こえてきた。先ほどから今にも泣き出しそうだったし
傍にいてもさっきみたいに拒否されたら俺が怖いし・・・
それにあの場所からすぐにでも逃げたい自分がいたことに腹が立った。


食材を買いにスーパーに着くと

「カミやんどうだい?新婚生活気分を味わえているかにゃ~?」

土御門が待ってましたと入り口付近に立っていた。


「何が新婚気分だ。どうしたんだよ御坂のヤツ?ちょっと見ない間に人が変わったようだったぞ?」
「さあにゃ~、俺には全くわからんことぜよ。でもそれを解決するのが今回のカミやんの使命だぜい」
「成績も悪い俺がどうやってレベル5の問題を解決するんだよ?訳わかんねーよ」
「じゃあ言い方を変えよう。超電磁砲を助けるのがカミやんの使命だ」
「助ける?」
「そう、人は解決策を求める=助けを求めているんだ。物理的、論理的解決とかじゃなくカミやんが
今までやって来たように今回また超電磁砲を助けてあげれば問題ないと思うぜい?」
「とは言われてもさっぱり・・・」
「そうかい。俺が海原だったらカミやんをぶっ飛ばしているセリフだぜい今のは」
「御坂に・・・恋をしている?」
「にゃ~、俺はいつでも舞夏一筋だぜい。でも今のは友人からささやかなヒントだぜい?
んじゃ、俺はこれから舞夏の愛ある晩飯が待っているから帰るにゃ~」


そう言ってにゃーにゃーうるさい土御門は去って行った。

「アイツに言われるとムカつくけど・・・恋・・・か」

御坂が誰かに恋をしても当たり前だろう。そういう年頃だしあの顔立ちといい性格といいモテるに
決まっている。でもそこに何故俺が原因なんだろう?やっぱり自分の頭の中から解決策に
導く答えが出てこなかった。



今日の御坂はあんな状態だし俺が料理を作ろうと張り切ったのは良かったが食材を選ぶのに時間が
かかりすぎて帰るのが予定より結構遅れてしまった。

「ただいまー。悪い!食材選ぶのに時間かかって遅れちまった!」

部屋に入ると御坂は普段着なのだろうか、女の子らしく可愛らしい服に着替えておりベッドに座って
枕を抱き顔をうずめていた。
きっとさっきまで泣いていたのだろう。
俺が帰ってまだ泣いていたら余計心配させてしまうかもという彼女のプライドなのかもしれない。


でも

「バカ、遅い」

とだけ言ってきた。泣いて鼻声でまだ弱弱しい声だったけど俺はこれだけの事で少し嬉しくなった。
少しだけいつもの御坂に戻ったのかなと。

「今日は俺が飯作るから御坂は適当にくつろいでていいぞ?」
「・・・・・バカ」
「・・・・・・・・・・・・・?」

何故ここでバカと言われるのでせう?まあコイツとは昔から話が噛み合わないのはよくあることだから
そう気にしなくてもいいよな?


出来上がった料理は見るからに男料理。豆腐しか入れてない味噌汁、牛と豚を適当に入れた生姜焼き、
気休めに盛り付けた野菜サラダという地味で変哲もないメニュー。
お嬢様の御坂の口に合うとかは気にしなかったが御坂の出来上がった料理を見る目が

「何この適当感丸出しの料理・・・」

だったためここで初めて後悔した。インデックスに食べさせる訳ではなかったんだと・・・

「文句があるなら食べてから言えよ?」

御坂に言うがやはり顔を赤くして俯いたままだった。でもいざ食べてみると意外と口に合ったらしく完食してくれた。
でも食事中も俺が話しかけると顔を赤くして俯くの繰り返し。


「なあ御坂、もし俺に何かしてほしいことがあるなら言ってみてくれ」

ソファーに座りテレビを見ていても何をしていても御坂は落ち着かない様子だったし、俺もその姿を見ていると
こっちも落ち着かない。何かしてあげたいけど何をすればいいかわからないのもあり、
聞いてみたほうが早いと思った行動でもあった。
でも今日御坂と会話をしたと言えば最初に封筒をもらった時と漏電したときのみ。果たして御坂は
少しでも俺に何かサインを出してくれるのだろうか。


「・・・・・・・・・・・ある」

ついに答えてくれた&今日初めての御坂とまともな会話!!つい嬉しくなってしまった。

「何だ?俺ができる範囲で頼むぞ?電撃喰らえってのはナシだからな?ハハハ」

もちろん最後の言葉はギャグのつもりで言ったのだが御坂はギャグとは受け取っていなかったようだ。
心底怒っている顔をしていた。

「そんなことしない・・・・・ここ・・・・座って?」
「??」

御坂が指をさした先は自分が座っているソファーの隣。相変わらず顔はリンゴのように赤い。

「そんなんでいいのか?でもさっき漏電したとき離せって言ってたけど・・・大丈夫か?」
「大丈夫、もし漏電しても防いでくれるから」
「・・・わかった。でも嫌だったらすぐに言えよ?」

御坂がコクリと頷いたのを見て俺は御坂の隣に座った。でも御坂は早速

「うぁ・・・もうダメ・・・」

パチパチと嫌な音が聞こえてきた。ゆっくりと右手を頭に乗せるが今度はさっきと違う反応をしてくれた。

「・・・ありがとう。すっごい嬉しい」
「っ・・・・///・・・お安い御用ですことよ?」

相変わらず俯いたままだったが初めて緊張を解いたような顔をしていた。不覚にも俺はこの時
御坂にドキっとした。



「ありがとう、私お風呂入るから・・・」
「そっか」

右手を御坂の頭から離し、御坂はトランクごと風呂場へ持って行った。

「あ・・・着替えとかあるんだよな・・・」

今のは完全に俺のミスだと思った。


御坂が風呂場から出てきた。ゲコ太の柄が入ったいかにも御坂らしいパジャマを着ていた。
相変わらず御坂は何でも似合う。こんな子供っぽいパジャマも御坂が着れば流行のファッションにもなりそうだと思う。

「あ~、御坂?俺も風呂入るからその間に服とか、し・・・下着とか棚に入れておけよ?
一応こっちは使ってないから」

言いづらいな~と思いながらタンスを指差し助言のつもりで言う。ここでもまた顔を赤くされ
こっちも顔が熱くなるのを実感した。

急いで風呂場に入り湯に体を入れる。考えてみると今日初めてリラックスできたのかもしれない。
御坂の「自分だけの現実」が回復するまでこの生活が続くと思うと・・・不幸だ。
いや、御坂はもっと辛いはず。俺が初日からこんなこと言ってたら御坂はもっと辛い。
御坂のために何かできることはないか・・・でもやはり今の俺の頭は導いてくれない。

考えるのをやめて風呂場から上がったが、ここでの生活での最大の問題点を見つけてしまった。


御坂は服や下着をタンスの中に入れ終わって既にベッドで眠っている。そう、この部屋にベッドは一つしかない。
どことなく誰かのスペースが空いているように見えるのは気のせいだろうか・・・
深く考えるのはやめよう。紳士上条さんが取る行動はただひとつ!

この部屋には俺の寮にはないものがある。そう、ソファーという素敵アイテムが。
風呂場で寝るという地獄より500倍天国だ。迷わず俺はソファーで横になり、眠りについた。
記憶が薄れて行く最中、御坂が「バカ」とぼやいていたのはきっと寝言だったんだろう。



翌朝、目が覚めると・・・

「うわぁ!!」
「ひゃ・・・・・・」

俺の目と鼻の先に御坂の顔がどアップであった。近い、近すぎ。俺が悲鳴を上げると御坂はサッと
キッチンのほうへ消えて行った。
相変わらず顔は赤い。でも昨日と変わった所があった。

「お・・・・おはよ」
「おぉ、おはよう」

姿は隠れて見えないが御坂から話しかけてくれ(ただの挨拶だが)た。

「き、昨日、晩御飯作ってくれたから朝ごはん・・・私が作った・・・から」
「あ、だから今起こそうとしてくれたのか?」
「・・・・・・・・・・/////」

う~んわからん。何故ここでまた固まるんだろう?恐らくこのパターンだと顔も赤くしているに違いない。

顔を洗い服を着替え、御坂が作った朝食を取る。やばい、めちゃくちゃ美味い。これが本当に
何でもできるという典型的な女の子なんだな~と実感した。

「御坂、これ全部凄い美味いよ!」
「・・・失敗したけど」
「どこが失敗してるんだよ?」
「全部・・・」

顔は俯いたままだけど少し会話ができるくらいになってきた御坂。でもそろそろ顔を合わせてくれないかな~と思うが
ここはもう少し時間をかけて解決していかないといけないのだろう。
朝食を食べ終え、御坂は「私が片付けるから」とさっさと食器を持ってキッチンへ再び消えて行った。

朝からこう特にやることがない。テレビをつけても朝のニュースしかやっておらず俺の興味を
持つようなものはない。ソファでいつの間にかまた眠ってしまった。

何だか右手を握られている気がする。それに気がつき目が覚めたのだが・・・

「・・・な、何をされているのでせうか御坂さん」
「ごめん」
「いや、謝られても・・・」

御坂は両手で俺の右手を握って黙ってこっちを見ていた。そんな見られるとさすがの上条さんも
ときめいてしまうと言いますか・・・

「あ・・・アンタを見ていたらまた漏電しそうになって」
「そうか。落ち着くまで待ってるよ」
「うん、ありがとう」

そうして御坂はなんと平日のお昼人気バラエティー番組が始まるまで俺の右手を握っていた。

別に御坂と手を繋いでいるからって紳士上条さんはドキドキなんてしませんことよ?

「なあ御坂、どこか行かないか?」

昼になり、部屋にいてもすることないし退屈しのぎに外出でもと思って発案したら御坂は
今日一番の「いい顔」をした。

「行きたいっ」

いつもみたいな元気はまだないがこの生活始まって一番嬉しそうな表情だ。

「着替えるから外で待って」
「ああ、お前まだパジャマだもんな」

必要最低限のものだけ持って玄関の外で着替え終わるのを待つ。10分、20分と経過する。
ちょっと長くないですか?制服に着替えるだけだろ?と思っていたがそれは間違いだった。

「おまたせ」

現れた御坂は私服。白いワンピースが凄く似合っており、少し弱っている今の御坂を際立たせていた。
正直に言うと「守ってあげたい」キャラに脳内で変換されてしまった。

「制服じゃないんだな?」
「平日のこの時間に制服で歩くとおかしいでしょ?私服での外出も許可出てるから」

昨日から御坂の一番長いセリフだった。すると御坂は俺の右腕にしがみつき

「いつ漏電するかわからないからこうしてていい?」

現在か弱いお嬢様と化している御坂にこう言われるとNOとは言えない。いや、いつもの御坂に
言われてもNOとは言えないだろう。

「そんなにひっついて歩きづらくないか?」
「歩きづらくてもこっちのほうがいい。安心するから」

御坂はどうやら俺を頼りにしてくれているようだ。昨日は触っただけで拒否したのに不思議なもんだ。
女の子の気持ちはわからない物だとどこかの偉い人が言っていたけどそれは頷ける。


「んじゃ、地下街にでも行くか」

御坂が右腕にくっついて歩きづらいがここは我慢して地下街へと足を運んだ。




「御坂、どこ行きたい?」
「あ・・・アンタが行きたいとこでいい」

地下街に着くまでは以外と会話ができた。御坂は「うん、いや」しか言っていないが
それでも御坂の表情が緩んでいたのでよかったなと思っていたが、地下街に着いてから
また大人しくなり、俺の右腕にしがみついた動物みたいだ。
でも御坂の性格上、こうやって俺の行きたい所でいいと言うのはきっと行きたい所があるのだろう。
この素直じゃないお姫様が行きたい所に連れて行くのが今の俺の使命だと思った。

「じゃあ、こっちだ」

俺が急に方向を変えたので御坂は俺の腕から離れそうになったが慌てて腕を握り返してくれた。
その仕草が可愛いと思ってしまった俺はこの時からもう手遅れだったのだろう。

「まずは、ここかな?」

連れて行った店は御坂が好きそうなファンシーショップ。御坂が喜びそうだと考えたが
御坂は「はっ?」という顔をしていた。

「お前、こういう店好きだろ?なんかいつもの100倍以上大人しいからここで少しでも
スッキリできればと思って最初にここを選んだのですが・・・」
「・・・うん」

アンタにすればよくできた行動じゃない?とでも言いたいのかな?眉間にしわをよせ俺の顔を覗いてくる。
しかも結構顔が近い・・・

「は、入るぞ?カエルのストラップでも買ってやるよ」
「カエルじゃない!ゲコ太!」

作戦成功。ようやくいつもの感じに近い御坂に戻ったようだ。俺は御坂のこの突っ込みをどれだけ
待っていたのだろう。素直に嬉しかった。でも唯一違うのはずっと俺の腕にしがみついて離れないこと。
気に入った品物を手に取りジーっと眺めている時も「これ欲しい」と決めた時も右腕に巻きついたままと
表現したほうがわかりやすいだろう。嫌じゃないけどさすがに人が多い所だとちょっとなぁ・・・
さすがの上条さんでも恥ずかしいのですよ。

「これ、あげる」
「んあ?あぁ、サンキュー」

会計を済ませ、御坂は買ったばかりの袋からおもむろに取り出したカエルストラップ(ゲコ太ではない違うキャラとだけわかった)
を唐突に俺に差し出して来た。自分で持っていろよといいそうになったが、俺が何らかの
原因で御坂の「自分だけの現実」を崩していると考えると御坂のこの要望を断ることはできない。

「御坂、次どこか行きたい所あるか?」
「・・・じゃあこっち」

俺の腕をグイっと引っ張って歩き出した。さきほどより表情が落ち着いたようにも見える。
でも実際俺はまだ何もしてない。ただ御坂が元気になればと思って案を出したり右手を貸した
だけであって助けになっている訳でもない。一緒にいるだけだ。

でも俺はそれだけでも御坂と一緒にいると楽しいと思った。御坂は俺が原因でこんなに苦しんでいるのに俺は
なんて能天気なことを思ったのだろう。助けになれないか御坂?俺は何をすればいい?
こんなこと直接聞ける訳ない。でも俺は御坂に腕を引かれている時にある決意をした。

「御坂美琴を守る」と胸に・・・
「楽しかったか?」
「うん」

地下街からの帰り道、口数は少ないが会話らしい会話がようやくできてきた御坂。そろそろ
本人のためにも色々聞いておいたほうがいいかもしれない。部屋に到着し、途中スーパーで買った
食材をテーブルに置き、一息つこうとソファーに身を投げ出した。御坂はというと・・・

俺・・・ではなく俺が座っているソファーの空いている所を見てもじもじしている。
座りたいなら座ればいいのに・・・俺が座っているから座らないのか?

「御坂、ソファーに座りたいならいいぞ?俺、椅子でもいいから」

立ち上がろうとしたら突然

「待って!!」

慌てたように俺を制止させてきた。

「あの、隣に座るから・・・また漏電するかもしれないから・・・行かないで」
「お、おぅ」

弱弱しい喋り方でお願いをしてくる姿が正直やばい。隣くらい勝手に座ってくれよ!!
俺が意識してしまうだろ!?

御坂は俺の隣に座り、外にいた時のように俺の右腕にしがみついてきた。最初より慣れて来たが
最初よりドキドキしている俺がいる。理性よ落ち着け!今の御坂は俺が原因で苦しんでいるんだ!
勝手な行動は許しませんよ!?


「・・・・・・・・・・けど」
「え?」

俺が数秒トリップしている間に御坂が俺に何か言っていたようだ。

「聞いてもらいたい話があるんだけど」

御坂が言い直した言葉ははっきりと聞こえた。弱弱しい態度から一転、しっかりと喋っていた。
御坂はきっと今回のことについて何かあるのだろう。

「ああ、聞いてやるよ」
「私の「自分だけの現実」なんだけど。何故原因がアンタだと思う?」
「考えたけど正直俺にはわからない、すまん」
「アンタらしいわ。でもね、私には理由がわかるの」
「じゃあ何で・・・」

御坂は目で俺の言葉を遮った。

「もし回復しなくてもレベル5からレベル4にランクダウンしても私は全然いいんだ。だって・・・」
「だって何だよ?」


「アンタといっしょにいるだけで今凄い嬉しいもん」




嬉しい・・・その言葉を聞いただけで俺の心も嬉しくなった。

「でも原因は俺ってどうしてなんだ?」
「ここまで言わせておいてまだ気付いてないの?」
「悪い、さっぱり・・・」
「何故私はこんなに顔が赤いの?何故私はアンタの隣にいると漏電してしまうの?
何故私はその漏電を言い訳にしてアンタの腕に抱きついているの?何故私はアンタにほんの少し
気遣いされるだけでこんなに嬉しくなるの?何故アンタはその私の気持ちに気付いてくれないの?それが理由よ」

大胆というか何というか・・・一変して御坂のキャラが変わった気がするのは俺だけだろうか?
いや、その前に答えを出さないと。

「・・・すまん、わからない」
「嘘・・・ここまで言わせておいてそれはないでしょ」
「悪い」
「やっぱりアンタみたいな鈍感には直接言うしかないのね」
「なら言ってくれよ。俺がこういうのもなんだけどさ」
「ダメ、無理・・・私が死んじゃう」
「はあ?それじゃ解決できないだろ!」
「いいの。だって・・・解決しなければずっとここでアンタと生活できるでしょ?」
「それでいいのか?」
「いい。ずるいけどこれで少しずつ「自分だけの現実」するかもしれないし」


とまあ、こうしてズルズルと御坂との生活ももうすぐ一ヶ月になろうとしている所だ。
御坂というと・・・あれからは少しはまともに会話もできるようになった。どちらかといえば
元の御坂に戻ったと言ってもいいだろう。でも何かしら腕にしがみついて来るし外出する時も
俺の腕はがっちりロックされている。漏電はしなくなったし顔も赤くすることも減った。
そして俺たち2人が一番変わったことは・・・

お互いを下の名前で呼び合うようになった。


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