とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part01

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匿名ユーザー

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 だんだん寒くなってた秋の昼下がり、上条当麻は目を覚ました。

(あれ……俺いつのまに寝たんだっけ……)

 ふぁぁ、と大きなあくびをして、右手で目をこする。
 なんだか寒い上に腰が痛い。
 変な体勢で寝たからか、とか考えながら周囲を見回す。
 寝起きの上条の目に飛び込んできた景色は、なぜか美しい紅葉。
 家の中や学校の中に、木があるわけがないので、つまりここは

「………公園? あれ? 俺なんでこんなとこで寝てんだ?」

 道理で寒いはずだ。
 上条が寝ていた場所は、いつも学校の帰り道などで通る公園のベンチだった。
 いくら太陽が照っているとはいえ、この季節に外で寝るのは『私は風邪を引きたいです』と言っているようなものだ。
 しかも自分の格好は制服とちょっとした上着一枚、間違いなく風邪を引く。

「ここで寝るとか上条さんはバカなのか…………まてよ、マジでなんで俺ここにいるんだ?」

 ここで寝ることになった経緯を思い出そうとしたのだが、上手く思い出せない。
 記憶があやふやだ。

(今日は朝から学校行って、いつものようにアイツらとふざけあって、テストの点が低かったことに絶望して……憂鬱なまま午後の授業を受けて…………その後どうしたっけ――)

 思考を巡らせている途中ではあったが、上条は素早く視線を左に移した。
 別に殺気を感じたから、とかではない。
 左腕に違和感を感じたのだ。
 何か重い、というか何かくっついている。
 その正体は――

「み、御坂!?」

 違和感の正体は、学園都市で3位の実力を誇る少女、御坂美琴。
 常盤台の制服姿の彼女は上条の左腕に抱きつくような形で、実に気持ち良さそうに眠っている。
 しかし、上条にはなぜこのような状況になっているのか、全く意味がわからない。

(? ? ? なんで? なんで御坂が俺の隣で寝てんの?)

 もう一度目をこすってみたり、閉じてみたり、『幻想殺し』でちょっと触ってしたりしたが、やはり美琴の姿は消えたりしない。
 紛れも無い、本物だ。 

(御坂が何か知ってるのか? それともまた魔術か? だとしたら土御門に連絡を……って、その前に御坂を起こさねーと)


「おーい、御坂さーん。 寝てるとこ悪いけどちょっと起きてもらえます?」
「ん…………」

 上条は美琴を起こすため、彼女の肩を優しく揺する。
 すると、どうやら目が覚めたらしく、美琴はゆっくりと目を開けた。

「ふわぁ……おはよ…………ん……??」

 未だに上条の右腕に抱きついたままの状態。
 どうやら美琴も何が起こっているのか理解できていないようだ。
 目をしばしばさせながら、可愛らしく首を傾げている。

「…………?」
「御坂、大丈夫か? で、そのだな、とりあえず左手から離れてほしいんだけど」

 正直この体勢はもうキツい。
 一度立ち上がって伸びをしたいというのもあるし、公園のベンチという人目につく場所でこれ以上女の子とくっついているのは気が弾ける。

 まあ周囲に人いないけど。

 そして当の美琴は、一度周囲を見回してから、『離れてほしい』という言葉の意味を理解した。

「離れる……って…………えええええええええええええええええッッッッッッッッッッ!!??!!?」

 美琴は思い切り上条の腕とベンチから離れた。
 それはもう、すごい勢いで。

「あ、あの御坂……」
「な、な、な…………なんでアンタが私の隣にいるのよ!!?」
「…………はぁ……」

 どうやら美琴もなぜこうなっているのか知らないらしい。
 今のリアクションを見ればわかりきったことだった。

「落ち着けって御坂。 俺だって意味わかんねーんだから。 だから戻って来なさい」
「は? え? 何どういうこと!?」
「いや、だからわからないんだって……とりあえず座れよ」
「う、うん……」

 若干興奮気味だった美琴を、なんとかなだめることに成功。
 再び隣に座った彼女が自分と少し距離をおいているのは気のせいだろうか。

「それで御坂、一応聞くけどなんでここにいるか覚えてないか?」
「え、うん。 ていうかいつの間に寝たのかも覚えてないわね。 最後の記憶は……5限目が始まった時……いや途中、かな? 確かそれくらいだったと思うんだけど……」



 どうやら美琴も上条と同じ状態らしい。
 記憶があやふやで、いつの間にか意識を失った、といったとこだろうか。
 美琴はうーんとうなりながら、自分の記憶を探っている。

「おかしいわね……なんで覚えてないんだろ…………あ、そうだ。 アンタさっき“俺だってわかんねー”って言ってたけど、アンタも私と同じ感じなの?」
「ああ、なんでこうなったのかさっぱりだ。 この感じだとまた何か起こったっぽよな……今度は科学科か魔術のどっちなのかね……」
「確かに何かしらは起こったみたいだけど…………ここいつもの公園よ? 普通に帰れるんじゃない?」
「………………」

 言われてみれば。
 別に海外へ吹っ飛ばされたわけでもないし、自分の住んでいるマンションなんてここからそう遠くない。

「…………………それもそうだな……」
「でしょ? まあなんでこうなったのかは謎だけどさ」
「原因か…………あ、学校に戻って誰かに話を聞きゃすぐにわかるんじゃないか?」
「あー、それもそうね。 じゃあ学校に…………もう戻っちゃう……?」
「戻っちゃうってなんだよ。 戻らないと何が起きたかわからないだろ…………」
「そ、それはそうだけど……だってアンタと……もうちょっと一緒に…………な、なんでもない……」
「なんだよ一体…………そうだ、今何時だ? もし放課後だったら学校に戻っても誰もいないかもしれないぞ」
「あ、えっと……あれ?」

 時間を確認するため、携帯電話を取り出した美琴は、眉をひそめた。

「どうした?」
「いや……この時間でほんとに合ってる?」

 美琴から携帯を見せてもらうと、表示されていた時間は『14:07』
 別におかしくないように思えるが、最後に覚えている記憶の時間から多分10分も経っていない。
 たった10分で学校からここまで移動するのは、車を使ったとしても不可能だ。

「合ってないかもな……故障か?」
「故障ねぇ……携帯の時間がズレるなんてことあるの?」
「わかんねぇけど……あ、そういやこの公園時計あるじゃん。 なんでここにいたのかは一旦おいといて見に行こうぜ」
「え? アンタの携帯は? それで見ればいいじゃない」
「ばっちり家に忘れてきた」
「…………はぁ……」
「なんだよその反応は。 忘れたのはしょーがないじゃん」

 美琴に呆れられながら、2人は時計の場所に移動し始める。
 時計は2人が眠っていたベンチから、そう遠くない場所にあるはずだ。
 すると、歩き始めてすぐ、美琴が異変に気づいた。

「ねぇ……なんかさ、おかしくない?」
「え? 何が?」
「いや、雰囲気っていうか…………この公園ってこんな感じだったけ?」
「? 何が言いたいんだ?」
「だから、なんかいつもと違うことない? ほら、あの木とかもっと別の形してなかった? あっちの花壇もなんかいつもと違う気がするし……何かおかしいのよね……」
「そんなこと言われても上条さん木とか見ないし…………あれ?」

 上条の足が止まった。
 『木』とか、普段注目してないものの変化はわからないが、上条でも気づくある変化があったのだ。

「なあ、あの自販機なくなってるぞ」
「え? あ、ほんとだ」

 上条が指差した先には、例のお金を飲み込む自販機が跡形も無くなっていた。
 その場所には、変わりに小型のベンチが置かれている。

「いつのまに撤去されたんだろうな、こないだ見た時はあったのに」
「ていうか昨日まではあったわよ? まああの自販機は無くなっていいけど」
「ああ金飲み込むし……あ、あそこにゴミ箱なんてあったっけ? 俺の記憶ではなんか宣伝の看板があったと思うんだけど」
「やっぱり……絶対おかしいわよ、ここ」

 自販機、ベンチ、ゴミ箱、看板、周囲の感じ、この公園は何かが変だ。
 最初に美琴に指摘された時にはわからなかったが、徐々に上条も彼女が『何かおかしい』と言った意味が分かってきた。

(なんだこの感じ……学園都市だけど学園都市じゃないような……)



 上条は違和感を抱きながら、公園を歩き続けた。
 その間もたびたびおかしなことに気づいたりもしたが、数分後、無事に時計の前に辿り着いた。

「あ、ほら時計あったわよ。 さっきまで自販機がなかったりしたから時計も無いかと思っちゃったわよ」
「俺も同じ事考えてたよ。 でもまあ、これでようやく時間がわかるな。 なんか改めて時計の大切さを思い知られたな」

 これを機に腕時計でも買おうか、上条がそんなことを考えた時だった。

「…………………え?」

 隣を歩いていた美琴が目を丸くしていた。
 まるでとんでもないものを見たような表情、上条に緊張が走る。

「こ、今度はなんだよ、まさかこの時計まで時間がおかしいなんて言うんじゃ……………は?」

 美琴に続き、上条もお同じようなリアクションを見せた。
 2人のそれは時計を見たからではない。

 彼らの目には、別の物、空を飛ぶ『飛行船』が目に入っていた。
 学園都市に住む者ならば、誰もが日常的に目にするもので、毎日学園都市内の状況などを知らせてくれるなくてはならないもの。
 だが、おかしなことは『飛行船』が飛んでいることでも、本体の様子でもない。

――映し出されている文字だ。

 2人は見間違いではないかと思い、何度も目をこするが、映し出されている文字は変わらない。
 史上最大級の嫌な予感がする。
 あの表示が正しければ、自分たちは今とんでもないところにいることになる。
 しばらくの沈黙、そしてそれを先に破ったのは美琴の方だった。

「…………ねぇ、まさかとは思うけどさ、“ここ”って――」
「い、いやいや……さすがの不幸少年上条さんでもそれはないだろ…………で、でもあれがほんとなら……マジで“ここ”は――」

 彼女も自分と同じ事を考えている、そう思った上条は美琴と目を合わせ、お互いの答えを確かめ合う。

「「――――未来?」」

 飛行船に映し出されてた時刻は『20XX年11月22日14時13分』
 上条と美琴の時代から5年後の日付だった――


 ♢ ♢ ♢


 タイムスリップ、という言葉を知っているだろうか。
 意味は『現実の時間・空間から過去や未来の世界へ移動する』ということだ。
 普通に生活していれば体験することはまずない、SF世界で起こるような出来事。



「どうしてこうなった」
「言わないでよね……」

 その不思議体験を見事に体験してしまった上条と美琴は、2人揃って公園のベンチでうなだれていた。

 もちろん最初は信じる事ができなかった。
 飛行船の表示が間違いだ、と公園から町の様子を伺ってみたが、残念ながら現状を思い知らされるだけに終わった。
 そこには、自分たちが先ほどまで生活していた学園都市とは、大きく異なる光景が広がっていた。
 ここが5年後の未来であると確信した2人は、一度公園に戻り話し合うことにしたのだが、そんな気など起きない。

(俺が不幸なのは十分わかってたけどさ……ここまで不幸か!?)

 ぶっちゃけありえないような不幸さ。
 いつの間にか寝ていて起きたら5年後、とか笑えない。
 美琴も相当なショックを受けたようで、ため息が耐えない。

「ねぇ……一つ聞くわよ? あそこで寝る前に未来へ飛ばされるきっかけみたいなこと、思い当たらない?」
「きっかけねぇ……起きたらもうベンチにいる状態だったからな……原因なんて全くわからん」

 上条は顔を伏せ、美琴と同じく大きなため息をついた。
 タイムスリップの原因を強いて挙げるならば、何者かの魔術の可能性が高いのだが、時空間魔術なんて聞いたこともない。
 また、いくら科学が発展している学園都市といえども、現代の科学の力でタイムスリップできるはずもなく、このままだと今回の原因は迷宮入りしそうだ。

 だが、2人にとって今は原因を探し出すよりも、もっと大事なことがある。
 上条は伏せていた顔を上げ、辺りを見回す。

「つーかこれってさ……どうやって戻るんだ? まさかずっと帰れない、ってことないよな……?」

 帰る方法がわからないのだ。
 5年後に来た方法すらわからないのだから、当然のこと、どうすればいいか考えれば考えるほど不安はどんどん大きくなる。
 今までなら、目の前に存在した敵を倒せばどうにかなってきたが、今回『敵』は存在しない。
 いや、自分たちをここへ連れてきた犯人がいるのかもしれないが、一切の情報も無しに見つけられる気がしない。

「また寝れば戻れるのか? なあ御坂、どう思う?」
「そんなの私がわかるわけないじゃない…………あ、わかるかも」
「え? マジで!?」

 上条の顔がグルンと美琴の方向を向く。
 彼女の顔は、何か確信を掴んだような表情をしていた。



「今までは気が動転してたから気づかなかったけどさ、冷静に考えたら簡単なことじゃない」
「簡単……?」
「うん。 だってこの5年後の世界にも私たちはいるわけでしょ? てことは5年後の私かアンタに聞けばいいじゃない」
「あ…………なるほど!!」

 希望が見つかった瞬間だった。
 美琴の言う通り、5年後の自分たちだって、過去に同じ事を経験しているわけだから、見つけて解決策を聞けばいいということだ。

「そこに気づくとはさすが御坂だな。 お前がいてマジで助かったよ」
「ほ、ホント!? えへへ……」
「いやでも意外とあっさり解決策が見つかったな………あ」

 戻れなくなる、という不安が薄らいだことで、上条はあることを思いついた。
 ニヤリと笑って、美琴へ話しかける。

「5年後ならさ、俺って21歳だよな」
「そうだけど……急に何よ」
「いや、21ってことは俺成人してるんだぜ? てことは、ひょっとして上手くいってりゃ彼女とかいるんじゃね、と思ってさ」
「…………は?」
「可愛い子だといいんだけどなー。 な、どう思うよ」

 そう言ってから、はっはっはと上条は軽く笑う。
 今は全く女子との付き合いはないが、5年もありゃ少しは出合いとかあるだと、とか上条は考えていた。

――まあ今でも出合いはあり過ぎるくらいあるのだが

 この場の雰囲気を和ませる、絶妙なジョーク。
 の、はずだったのだが

「か、彼女がいるって……何ありえないこと言ってんのよ!!」

 美琴が急に声を荒げた。
 今までのご機嫌な様子が嘘のようだ。

(お、俺何かマズいこと言ったか?)

 と、思っても既に時遅し。
 なぜかわからないが、美琴にはジョークにならなかったらしく、相当怒っていらっしゃる。
 上条は慌てて自分の発言を自分でフォローしようとするが……

「だ、だって21歳なら別にありえない話じゃないだろ? 高校生や中学生でも付き合ってるやついるんだぜ?」
「そうね!! ていうかいつまでも座ってないで!! 早く5年後の私たちのどっちかを探しに行くわよ!!!」
「ええー!!? なんで怒ってるんでせう!?」
「うっさい!! 怒ってないわよ!! ほら早く!!」
「いや怒ってるじゃん……ってわかった! 御坂さんは怒ってないです!! だから電撃は勘弁してくれっ!!!」

 ジョークを言っただけなのに、なぜ電撃をお見舞いされなければいけないのか。
 不幸だー、と心の中で思いながら、上条はまだビリビリしている美琴と共に、5年後の町へと繰り出す――――







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