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決戦(完結編)」(2008/08/17 (日) 23:39:27) の最新版変更点

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**決戦(完結編)◆1qmjaShGfE 胸がざわつく感覚に、事情を聞くのを中断して村雨は建物の外に飛び出す。 ラオウの後姿がビルの中へと消えて行き、少しした後その建物全てが崩れ落ちるのが見えた。 「覚悟! 何があった!」 頭部、ヘルメットに当たる強化外骨格を外し、覚悟は答える。 「戦士が逝った」 それは予想以上に村雨に衝撃を与えた。 「……そう、か……」 巌のようにそびえ立つあの男が倒れる姿が想像出来なかったのだ。 「急ぐぞ村雨。独歩とヒナギクさんが待っている」 「あ、ああ、わかった」 二人が同時に一点を凝視する。 そこに何時こちらに来たのか、黒シャツ赤髪の大男、範馬勇次郎が居た。 「おい、ラオウが……死んだのか?」 「然り、天晴れな最後であった」 勇次郎はそれがショックであったのか、頭を垂れる。 如何な狂獣とて、その衝撃は覚悟にとっても察して余りある。 戦うべき強敵を失った衝撃は、善悪の理屈ではない。 そんな感覚を村雨は覚悟と違ってはっきりとわかるわけではないが、 漠然とそれが自然だと思うようにはなっていた。 「…………ク………クック…………」 だから、勇次郎からそんな声が漏れた時、最初にそれが何なのかわからなかった。 勇次郎は勢い良く顔を上げ、エリア一帯に響き渡らんばかりの大声で笑い出したのだ。 「クハーーーーーッハッハッハッハ!! ハーッハッハッハッハッハッハッハ!!」 勇次郎の笑い顔を見て理解する。 この男はラオウの死を悼んだりなどしていないと。 それを見た覚悟は、正視に耐えぬと顔を顰める。 何時までも止まらず哄笑を続ける勇次郎。 その声に引かれ、服部が、ジョセフが、独歩が、エレオノールが、御前が、この場に集まってくる。 意識を失っていたヒナギクも、その気配に気付いて目を覚ます。 「ば、馬鹿じゃねえのかコイツ! あんだけかっこつけといて俺以外に殺されてんじゃねえよ!」 堪えきれぬとばかりに腹を叩く。 笑い声は何時までも止まない。 「北斗神拳はどうした! 無敗だの拳王だのはったりだったのか!? は、腹がよじれる……クハーッハッハッハ!!」 ジョセフはすぐ隣に来た服部に言う。 「俺には良く事情がわからねえが、あの金髪は……戦士だったんだと思う。戦士はそれに相応しい死に様見せるもんだ」 「……そんなもんなんか?」 「ああ、許せない敵でもよ、敬意を払いたくなるような戦士ってのは居る。だからこそ……」 拳を強く握り締める。 「あの赤髪に無性に腹が立って来たゼェェェ!!」 下着姿のまま、あっちにふらふらこっちにふらふらするヒナギクを、 独歩は両肩引っ掴んで無理矢理その場に座らせる。 「いいからおめぇは大人しくしてろ」 「う~る~ぅさーいー。アイツ叩きのめすのは、わ~たーし~らっ」 まだ頭がしっかりしていない模様。 無いよりはマシだろと、雨に濡れ重く湿った上着をヒナギクにかける。 ヒナギクは煩わしそうにそれを払おうとするが、腕をうまく狙う位置に移動出来ず、その手はわたわたと宙を掴むのみだ。 覚悟と村雨が並んで立つそこに、エレオノールが歩み寄る。 「あの男を倒すのであれば、是非手伝わせて下さい」 その肩に乗る御前は、エレオノールが消耗している事を知っていたが、 アレを倒さなければ、先が無い事にも気付いており、エレオノール参戦に異は唱えない。 「もっちろん俺もやるぜー! この御前様に任せろい!」 覚悟がそれに答えようとするが、その前に村雨がエレオノールの肩に手をやる。 「体力の消耗が激しいのだろう、お前は休め」 「しかしっ!」 「いいから、お前はそこで見ていてくれ」 それだけ言うと覚悟に向き直る。 「覚悟、アイツは俺がやる」 覚悟は無言だ。 そのまま二人は静かに睨みあう。 すっと覚悟が村雨から視線を外し、村雨に背を向け、勇次郎の方を向く。 「……骨は拾ってやる。存分に戦え」 「任せろ」 村雨にも味方の戦力状態を把握するぐらいの事は出来る。 服部は身動きすら取れず、ジョセフは辛うじて動けるようだが、それも僅かの時間だろう。 独歩はまださしてダメージを負っていないように見えるが、足止めであの傷を負っているのだ。 勇次郎の相手をするのは難しいだろう。 ヒナギクは、何やらとんでもない格好になっているが、いずれにしても戦闘は無理だ。 エレオノールは話を聞けば、随分と無茶な戦闘を繰り返してきている。 見た目にわかる火傷もあり、これ以上の戦闘をさせるべきではない。 そして覚悟だが、当人は涼しい顔をしているが、ラオウとの戦闘の直後である。 あの鎧の下にどれだけの怪我を負っているのか、想像もつかない。 そして…… 勇次郎へと歩み寄る村雨に、後ろで見守るかがみからの贈り物。 「村雨さん! 頑張って!」 これで、もう何も恐くない。 「お前達の命! この俺が預かる!」 腕を振り上げ、ゆっくりと回す。 これが俺の正義のスイッチ。 「 変身! 仮面ライダーゼクロス! 」 そしてこれが俺の正義の信念だ! 範馬勇次郎はこの男が一人で前へと出てきた事が少し意外であった。 覚悟、そう呼ばれている男が息子刃牙のように甘ったるい男である事はわかる。 だが他の者達は必ずしもそうではない、奇襲を仕掛けてきた者にしても、 命を賭して飛び込んで来たあの女にしても。 しかし、村雨が前に出ると、明らかにヤるつもりだった彼らも静観の構えを見せる。 これだけ居るのだ、一瞬で蹴散らしてやっても一人二人は残るだろう。 その程度に考えて居たのだが、一人一人時間をかけて楽しんでも良いというのなら、 そうさせてもらうだけの事だ。 一挙手一投足に至るまで、何一つ見落とすまいとその挙動を凝視する村雨。 怒りに目を曇らす事無く、それでいて溢れんばかりの闘志を漲らせる。 そうあらんとした時、村雨の全身から余分な力が抜け落ちる。 視覚情報だけでは、残像しか残らぬ勇次郎の瞬歩。 それに付いていけるだけのスペックは、充分持ち合わせている。 左側から回り込もうとする勇次郎の真正面に移動し、こちらの機動力を誇示する。 再度背後を取ろうとする勇次郎の、その又後ろを取る為速度を上げる村雨。 単純な速度勝負ならいざ知らず、こういった駆け引きにおいて村雨は勇次郎に遠く及ばない。 それを互角にまで持っていかねばならない、集中力だけが頼りだ。 経験の差、それは可能性を何処まで把握しているかの差でもある。 特に雨が降り続き、戦場全体に悪条件が重なっているこの場ではそれが顕著に現れる。 アスファルトの大地は雨ごときに左右はされないが、戦闘の余波により砕けたそれはその限りではない。 そして勇次郎は村雨の動きの先を読み、それを誘発するぐらいの事は容易くやってのけるのだ。 案の定悪い足場に踏み込み、バランスを崩す村雨。 すわとばかりに先制の一撃を見舞う。 一度は崩れた村雨の体勢、しかしこのタイミングで攻撃を受けるのは初めてではなかった。 膝に力を込めると、それだけで強い体勢を確保する。 振り下ろされる勇次郎の腕に合わせ、村雨は肘を突き出す。 コンマ数秒遅れた。 村雨の肘も勇次郎に当たるが、その僅かの差故、損害は村雨の方が大きい。 しかし、肘を当てるべく踏み込んだ分、次の一打は村雨の方が早いはず。 逆腕の肘を振りぬく村雨。 勇次郎はそれを村雨と同じく、肘を当てて止める。 そこから次への連携は、勇次郎の方が早い。 右膝、逆肘、頭突き、これらで距離が開くなり次は回し蹴り、左フック、飛び膝と繋がっていく。 村雨は、この全てを反射的な動きのみでかわす。 かわす動作の訓練を受けていない村雨には、これ以外手段が無いせいでもあるが。 訓練によらぬ動きは、次への繋ぎに支障をきたす事が多い。 それを見抜いて即座にそこを突くのもまた、範馬勇次郎の能力故だろう。 連携の組み立てで、村雨の回避をすりぬけ頭部に一撃。 そこから崩れた村雨に暴風のごとき乱打を。 しかし村雨は頭部への一撃のみでは崩れず。 その後の乱打を半分は避け、受けてみせる。 受けた拳の反動と、自らの両足の力で距離を取り、一呼吸開ける村雨。 御前とエレオノールは呆けた顔のまま村雨を見送る。 「驚きました……」 「うん……あの優しそうな顔、ケンみたいだった」 「村雨、そう呼ばれていましたね。きっと彼は……」 「ああ、ケンみたいに凄い奴なんだと思うぜ!」 服部はまんじりともせず戦いを見つめるジョセフに訊ねる。 「一回だけなら、ニアデスハピネスで奴の注意そらせるで」 「……村雨がヤられたら、その時は頼むわ」 「今参加せえへんのか?」 「『命を預けろ』そう奴は言ったぜ。だから俺はそうする」 村雨を見送った姿勢のまま、身動き一つしない覚悟。 『覚悟よ、村雨の体を隈なく調べた結果を聞け』 「体を?」 『奴の体は全身これ機械。その性能だけならば何人にも引けは取らぬ』 「ほう」 『そして何より、あの作りは我等強化外骨格に類似している』 「零と似ている……と?」 『然り、強化外骨格に比べれば微々たる物であるが、あれは霊魂の寄り代に足る』 「それが意味する事がわからぬ」 『目的は不明。しかしかなり高位の霊魂でなくばそれを為すには力不足であろう事はわかる』 「だとすると村雨はどうなる?」 『不明!』 つまり村雨の実力同様、将来性は未知数という事かと覚悟は無理矢理零の言葉を納得する。 二人で並んで座りながら仲間の戦いを見つめる独歩とヒナギク。 「村雨さん倒れたら、次私が行くわよ」 「……縁起でもねえ事言うなよ」 「縁起でもないような事になる前に、行くわよ」 「そん時ぁ全員で万歳突撃とするかね」 辛うじて戦闘にはなっている。 不利は否めないが、体の頑強さでそれを補っているといった形だ。 しかし村雨から勇次郎への効果的な命中打は未だ無し。 焦る心を自ら戒める村雨。 『考えるんだ、どうすれば奴に攻撃を当てられるか。どうすれば奴を倒せるか……』 そんな村雨の思考を嘲笑うかのように勇次郎の猛攻が始る。 全力で集中すれば半分はかわせる。 そうであったのは、最初の一度のみ。 勇次郎は村雨の未熟な技術を見切り、それに相応しい攻撃を繰り返す。 村雨が倒れるまで、何度でも何度でも飽きる事無く。 村雨には背負っているものがある、決して倒れる事は許されない。 そんな村雨の決意を感じ取った勇次郎は、満面の笑みでこれを駆逐する。 秒単位で蓄積されていくダメージ、意識すら刈り取られそうな打撃を何度も喰らい、 その都度自らを支えるもの達にすがり、堪える。 意地でも倒れまいとするその足元を刈られ転倒する。 跳ね起きた側から背後より蹴り飛ばされ、またも転倒する。 起き上がりこぼしのように何度も蹴り殴り転ばされ、そんな様を笑う勇次郎を、 睨み返して再びその身を起こす。 届かぬ拳を何度も振り上げ、その都度手痛い反撃を被る。 どうすれば奴を倒せるか。 それを考え実行すると、決まって勇次郎はその先を読み、村雨の浅慮を嘲笑う。 頭部への集中打により、意識が朦朧とする。 これを避ける為に頭部の防御を優先させると、手足への打撃にあっさり切り替えられ、 その動きに集中すると、今度は胴中央正中線に連打を打ち込まれる。 何もかもが裏目に出る。 一度膝を折れば、二度と立ち上がれないかもしれない。 そう感じた次の瞬間、勇次郎の回し蹴りが膝裏に入り、低くなった頭部に肘の一撃を打ち込まれ転倒する。 ただの一撃でいい、そう思えば思う程に勇次郎が遠くなっていく。 手を、足を出さなければ、勇次郎の攻撃を止める事は出来ない。 ただ守るだけでは駄目だ。 そう言い聞かせ、どんな状態からでも反撃を行ってきた。 それも、もううまく行かない。 何をすればいいのかわからない。 しかし同じくらい諦める事も出来ない。 今までにこんなにも一つの事を考え続けた事は無かった。 ここまで考える前に答えが出るか、それとも諦めるかしていたから。 だが、今回ばかりはそうは行かない。 答えが出ようと出まいと、考える事を止める訳にはいかない。 勇次郎を倒す、その為にどうするかを考え続けなければならない。 きっと何かを背負うという事は、そういう事なのだろうから。 村雨の戦闘を見守る者達、誰も一言も発しなくなって随分と経つ。 降りしきる雨の音と、時折勇次郎の放つ哄笑と罵声。 ある音と言えばそのぐらいだ。 零は二人の戦闘を確認し、二人の戦力分析を終えていた。 村雨良の勝率3.6% これはこの戦闘における村雨の異常な成長を含めた数字である。 これにもし覚悟や零が声をかけ、村雨の成長を促すよう計らえば勝率は1.2%程上昇する。 これで4.8%。約二十回に一回は勝てる計算だ。 しかし、ここから更に自ら成長する可能性が未知数である。 覚悟や零が声をかければ成長は1.2%分で終わる。 村雨はそれ以上に自ら成長する可能性がある。 ならば、それに賭けるが上策と零は無言を続けていた。 覚悟は零のように計算の上で無言を保っているわけではない。 戦士の戦に口出し無用とそう思っているだけだ。 怒りには限度がある。 そう他の人間は言うであろうが、覚悟にそれは無い。 怒りとはどんな時でも堪えるべきものであり、であるのなら、須らく忍耐すべき物。 そうとでも考えなければ、とても堪えられそうに無い。 村雨の感じる悔しさ、怒りを我が事のように思う覚悟は、 両腕を組み、その腕を強く握る事でこれに耐え続けていた。 既に考えつく手は全て打ち尽くした。 それでも勇次郎には届かず、いずれこのまま消耗し倒れるだろう。 そんな村雨に、ふと思いついた手があった。 それは余りに無謀な手で、幾らなんでも通じはしないだろうと思いやっていなかった事だ。 そんな事をしてしまう事自体、思考停止なのでは、とも思ったが、 よくよく考えてみれば、これはあのラオウの取った手段。 村雨にはわからなくても、何らかの良い効果がありうるのでは、そう思い実行に移す事にした。 体を大きく後ろに捻り、拳の強打にて勝負を挑む。 今から右拳で一撃する、それ以外読み取れないその体勢。 奇しくもそれは、勇次郎に殺害された花山薫の構えに酷似していた。 正に必殺の一撃を、勇次郎は両手を垂らし、構え一つ取らずに迎え撃つ。 数メートルある距離をただの一歩で埋め、前にラオウに仕掛けた時より一歩分浅く踏み込む。 ラオウが村雨にしたように、寸前での最後の加速を成す為に。 速さとパワー、その双方のみを追及した一撃。 しかしいかに速度があろうと、狙う場所のわかっている打撃を受ける程勇次郎は甘くない。 拳の軌道を見切り、首を捻ってこれを回避。 直後の反撃を狙う。 村雨の拳を空を切り、辛うじて勇次郎の耳をかするのみ。 しかし、勇次郎から即座の反撃は来なかった。 村雨の放つ拳がかすった事により、勇次郎の脳がほんの僅かだが頭蓋骨内で揺らされたのだ。 僅かでもかすらせる速度と、僅かにかすっただけでも脳を揺らす威力。 どちらが欠けてもこの成果は成し得なかっただろう。 そして、村雨はラオウにそうされて反撃の余地が持てなかった攻撃、 必殺の一撃後の乱打を狙う。 一撃目は獣の反射神経によりかわされる。 二撃目はぶれる視界の中で強引に振り上げた勇次郎の腕に阻まれる。 三撃目、今まで村雨がやった事のない、下から突き上げるような拳を勇次郎の顎に叩き込む。 遂に命中打を与えた村雨。 これで止まってはならないとばかりに更なる拳を繰り出すが、その時既に勇次郎は回復していた。 四撃目の拳に合わせ、カウンターにて村雨を蹴り飛ばす。 それにより、またも大きく距離を開ける事となった。 かがみにはもうどうしてあげる事も出来ない。 代わりに殴られてあげたい。代わりに立ち上がってあげたい。 そんな事ばかり頭に浮かぶが、そんな事は出来っこない。 どっちが有利でどっちが不利か、そんな事すらわからない。 たった一人で戦う彼の為に、自分が出来る事は何か無いのか。 そう思った時、かがみは自然に幼い頃から教わってきた、 両手を胸の前に合わせ祈る仕草を行っていた。 劉鳳が立ち尽くす神社の敷地内。 社の中、衝撃を受け、ヒビ割れた漆喰の奥の奥に、それはあった。 強化外骨格、そう呼ばれるその鎧は魂を受け入れやすいようそこに安置されている。 決して触れられるような事があってはならぬ品。 そんな室内であったはずのその部屋の壁は、一部が明らかに崩れ落ちていた。 それは劉鳳の信念の証。 彼の正義はラオウを貫き尚留まる事を知らず。 遂には、社に安置されている、強化外骨格にまで傷を負わせていた。 『間合いがぬるい』 そんな声が聞こえた。 『踏み込みはあれで良い。しかし彼我の距離感を計るが甘い』 勇次郎の飛び蹴りが村雨に襲い掛かる。 拳にて迎え撃たんとした村雨は、肩をぽんと叩かれた気がした。 そのタイミングに合わせて拳を振りぬくも、勇次郎の蹴りの速度が勝る。 顔面を強打され、後方に転がり倒れる村雨。 『愚か者が、腰の伸ばしが足りぬ。一流に対し後先考えた拳を放つなど、  鋼板に水鉄砲を放つがごとき所行ぞ』 すぐに立ち上がり次の攻撃に備える村雨。 その表情、構えは次の一撃に全てを賭けんとする気迫に満ちていた。 再び襲い来る勇次郎。 正面から来る、そう思われてた姿が村雨の眼前から消え失せる。 『右斜め後方、放つ時は教えてやる』 「ゼクロス……」 振り返り様に、学んだ全てを注ぎ込んだ拳を叩き込む。 「パーーーーーーンチ!!」 勇次郎の宙空からの蹴りは村雨の脇をすり抜け、村雨の拳が勇次郎の胸板へと吸い込まれていく。 肉が裂け、骨の砕ける確かな感触と共に、拳を振りぬくと、 勇次郎は大きく殴り飛ばされ、十メートル近く道路を転がる。 常の勇次郎のようにすぐに立ち上がれなかったのは、一重にその威力故。 「散……」 相応しい不遜な笑みを村雨は見た気がした。 『こっちです村雨さん』 また声が聞こえた。 空から聞こえるその声に導かれるように飛びあがる村雨。 『さあ、三度目の正直です。今度こそ絶対に倒しきりますよ』 飛びあがる村雨に並ぶように彼は居た。 「ハヤテ……」 逆側には村雨と良く似た姿の男が居てくれる。 「本郷……」 マスク越しなので良くわからないが、今彼が笑ってくれたと、そう村雨には思えた。 覚悟の右腕が自然に額へと上がる。 「兄上、どうぞ村雨をお導き下さい」 両手を口元に当てるヒナギクの両目から、止め処なく涙が零れだす。 「本郷さん、ハヤテ君……」 村雨の全身から真っ赤な輝きが迸る。 怒りを、悲しみを、悔しさを、喜びを、感謝を、全身に漲らせ、 かつて無い程の力が体中を駆け巡る。 「ゼクロス!!」 お前達に会えて、本当に良かった。 「キーーーーーーーーーーーック!!」 真っ赤な閃光の軌跡が、範馬勇次郎の目に止まる事はなかった。 範馬勇次郎をして反応出来ぬ程の速度。 その肉体をして耐え切る事の出来ぬ力。 村雨が彼を越えられる唯一の可能性は、そこにあったのだ。 輝きは勇次郎の腹部を貫き、その体を真っ二つに引き裂く。 勇次郎の背後に抜けた村雨は、そのまま路面を滑り徐々にその速度を落とす。 村雨のボディは勇次郎により機能不全寸前まで痛めつけられていた。 再生能力はある、いずれ体は回復しようが、今すぐという訳にもいかない。 何より、ようやく役割を果たせたのだ。 今はとにかくこの達成感に浸りながら横になりたい、と思った。 それを油断と呼ぶのは酷であろう。 空高く舞う勇次郎の上半身が、未だ自らの勝利を露程も疑っていないとは誰であろうと夢にも思うまい。 大地に激突する寸前、その両手を付き、腕の力のみで跳躍。 村雨の背後を突くなどと予想出来る方がどうかしている。 「たかが半身をもぎ取った程度でこの俺に勝てると思うな!」 振りかざす左腕。 振り向く事すら出来ない村雨の、後頭部をその拳は捉える。 ズリッ 村雨は頭部を襲う衝撃が思っていた程無かった事に驚き振り向く。 全力でたたきつけた反動で、勇次郎の左腕のみが大きく跳ね飛んでいた。 その切れ口は、まるで鏡のように綺麗である。 これには勇次郎も驚いたようで、目を大きく見開いている。 仕方なく一度右腕にて着地を試みる勇次郎。 今度はその右腕が奇妙な音を立て、へし曲がる。 当の勇次郎にも何が起こっているのか理解出来ていないようだ。 では、次はどうやって攻撃してやろう。 そこまで考えた所で、首まで辿り着いていた石化現象が顎、鼻、目とを順に覆い、 遂には頭頂にまで辿り着き、砕けて散っていった。 範馬勇次郎がその身に負った傷の数々が、身体の衰弱に伴い表面化した。 そう言葉にする事は簡単かもしれない。 しかし、村雨にはそれ以上の理由があるような気がした。 ここまでたくさんの人に支えられ戦い抜けた自分が、 最後の最後で運に救われたとは、どうしても思えなかったからだ。 きっと、これもまた見知らぬ誰かの助けであろうと、そう思えてならなかった。 今にも倒れる。 もう限界だ。 しかし、これだけは言わなければならない。 みんな聞いてくれ。 「勝ったぞおおおおおおおおおおおおお!!!」 拳を握り、その腕を天へと向かって振り上げる。 そこかしこから歓声が返って来た気がするが、それが誰の声なのか、もう良くわからなくなっていた。 &color(red){【ラオウ@北斗の拳 死亡】} &color(red){【範馬勇次郎@グラップラー刃牙 死亡】} &color(red){【残り11人】} [[状態表>決戦(状態表)]] ----

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