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**戦う運命 ◆TJ9qoWuqvA 『周囲に人影なし』 「そうか……寂しいもんだな」  カバンを担ぐ少年が、一人呟いていた。  浅黒く鞣革のような皮に巌のような鍛え抜かれた肉体を持っているが、その顔は幼く、年の頃は十七といったところだった。  第三者がこの光景を見ていれば、不審に思っただろう。  少年、範馬刃牙は一人しかいなかった。なのに、「会話」をしている。  彼はカバンを担ぎ直し、川沿いに土手を駆ける。  街灯は点いているものの、人影は一切なく、精神の弱いものなら異常をきたすような、不気味な光景だった。  もっとも彼、範馬刃牙にとって、この程度の不気味さなど意にも介しなかった。  彼は十三という若さで、一人で山へ篭り夜叉猿という化け物と戦いへ向かったのだ。  不気味と思う感情など、そのときにどこかへと置いてきた。 「本当に殺し合いなんて行われているのか? 徳川さんは戦いを見るのは好きだけど、殺し合いを楽しむような人とは……」 『だが、あの老人は少女を殺した!』 「……そうだよな。あの娘、死んじゃったんだよな。徳川さんのせいで」  刃牙は光成に対して、少なからず感謝していた。  父であるオーガ、範馬勇次郎を超えるため、自分は死闘を何度も経験する必要があると感じ、死闘の機会が多い地下闘技場への参加を光成へ願い、叶えてもらった。  今の自分があるのは、光成のおかげだといって良い。  その光成が、殺し合いを始めた。それが自分や親父、独歩や拳王と名乗った男だけの戦いなら分かる。  「世界で一番強い」という男なら一度は憧れ、捨てる夢を今だ求め続ける馬鹿だからだ。  そういった男は、死闘の果てに命を落としも恨み言はない。  光成もそういう男たちの戦いが見たくて、地下闘技場トーナメントを開催したはずである。  なのに…… 「殺しちまったんだな。徳川さん」  ひたすら冷たく、腹の底から響く声で確かめるように、もう一度告げる。  女が死ぬのは、母親が勇次郎に殺されたときから、刃牙の望むことではない。 『応。我々がすることは、民間人の保護! そのためには覚悟と再会する必要がある!』 「分かっている、零。何度も聞かされたって」  カバンから声が上がり、それが自然であるかのように刃牙は返事をする。  彼は一時間ほど前に、零と名乗るカバンと出会った事を思い出していた。  惨劇の後、刃牙は気がつくと、川原で佇んでいた。  静かな音を立てて流れる川に向けていた視線を、星の瞬く夜空へ向ける。  星が、自愛に満ちた母親をかたどっているように錯覚した。  少し視線を下げると、繁華街が見える。だが人の気配はなく、寂れた感じを受けた。  ため息をつき、光成が言った殺し合いをしてもらうという言葉に呆れながらデイバックをあさった。  武器には興味は無い。適当なトレーニング機器が無いか探しているのだ。  もっとも、無くても構わなかった。上は繁華街、重りになるものなど、いくらでもあるだろう。  この殺し合いという異常な場でも、刃牙は父親を越える事を第一に考えていたのだ。  しかし、中から見つけたのは、食料や地図など以外には紙があっただけだ。  光成から自分に対するメッセージがあるのかと思い、強化外骨格「零」と書かれた紙を開いてみる。  ドズンと、重い音が静かな川原に響いた。  紙を開くと同時に現れたカバンに驚き、紙を上下を反対にしたり、上を見たり、下から覗いたりする。  それは不気味に思っての行動ではなく、単純に好奇心から紙を隅々見ているように見えた。  その彼に、カバンから声がかけられた。 『少年、現在の状況の報告をお願いする!』  一瞬、刃牙はポカンとするが、気を取り直す。 「 そうか、あんたが強化外骨格「零」というのか。俺は刃牙、よろしく」 『了解。刃牙は我々の名を知っているのか。覚悟の行方を知らぬか? 最初の場所で悪鬼に宣戦布告を行った男だ』 「ああ、あの人か。強そうだったな。ごめん、今は知らない」 『そうか……』  気落ちしている零に苦笑を浮かべる。随分と人間臭いカバンだと刃牙は思ったのだ。 「そう落ち込むなって。俺も、覚悟って奴に会いたいから、探すの協力するよ」 『まことか!!』 「ああ。その代わり、覚悟って奴との手合わせをお願いしてもらえないか?」 『何故だ? 回答を求む』 「親父を超える為さ……」 『父親?』  零に対して頷く。彼の胸中にあるのは、世界最強の男に挑む、自分の母親。  ――勇次郎! 私が相手だ!!  彼女の、最初で最期の母親としての言葉が、刃牙の胸を焦がす。  復讐の念と、最強の渇望を混ぜて胸に無理矢理秘めさせる。  地下闘技場トーナメントを通じて、最強となるべく戦っているのか、勇次郎に対して復讐する為強くなっているのか、多少分からなくなっていた。  それでも、母親の死は今の自分の原点といえる。ゆえに、彼は強くなり続ける事をやめない。  例え、それが途方も無い道のりだとしても。 「ああ、地上最強の親父、範馬勇次郎を超える。それが今までの俺だし、これからの俺だ。 そのために戦い続ける必要がある」 『刃牙。父親を超えるのは男子の本懐! なんら恥じることなど無い!!』 「ありがとう。そろそろ行こうか。覚悟に会うんだろ?」  言いながら、無造作にカバンを掴む。その刃牙の様子に、零は慌てる。 『待て! 我々の重さは……』 「よっと」  刃牙は難なく、カバンを担ぎ上げた。  その様子に、ほう……っと零は吐息をつく。 「これくらい重いほうが、ウェイトトレーニングとしては丁度良いさ。いや、軽いくらいかな?」 『ふむ。随分鍛えているようだ。これなら、覚悟ともいい勝負になるかもしれない』 「もちろん、そのつもりさ。そして、勝つのも俺だ」 『言うではないか。覚悟との再会、楽しみが増えた』  刃牙は笑みを浮かべて、川原を駆けた。  一人と三千の英霊が宿ったカバンは、宵闇に包まれた道を何の恐れも無く進み続ける。  現在、その一人と三千の英霊は、コンクリートで舗装された道を下っていた。  零の探知能力を頼みに、覚悟を探しているのである。  しかし、零は探知能力が下がっているらしく、数百メートル単位でしか人を察知できないらしい。 『この謎、いずれ解き明かす必要がある。強化外骨格のときにも影響が出なければ良いが……』 「そうか。それにしても人が見つからないな」  刃牙は、ランニングには丁度良いと言いながら、街を全速力で駆けていく。  無防備だが、その姿は例え襲われても返り討ちにするという考えゆえであった。  やがて、病院を前にし、零と刃牙が会話するため止まる。  九十キロはあるカバンを担いで全力疾走したというのに、刃牙は涼しげな顔をしていた。 『随分鍛えられているな。その肉体、どういった経路で手に入れた?』 「十三まで親父とお袋に鍛えられたのさ。その後は自己流」 『……覚悟も、十三までは兄と一緒に父親に鍛えられていた』 「へぇ……兄貴がいるところまで一緒か」 『だがその兄に、覚悟は父親を殺された。散は悪鬼となったのだ』 「嫌なところまで似ているな。俺は、母親を親父に殺されたよ。 もっとも、親父は最初から鬼だったけどね」  苦笑をしながら、零の語る覚悟は本当に自分に似ていると思った。  それは、運命を感じるほどに。 (それほど似ていて強いなら、戦い甲斐がある。地下闘技場トーナメントで優勝した直後はもう戦いたくないと思ったのに……)  一瞬、自らの体が異常な熱を発し、周囲の空間を歪ませた錯覚に陥った。  戦いの予感に、刃牙は比喩でなく身体を熱くする。 (もう、戦いたくなった)  そう、刃牙は覚悟に、戦う運命を感じたのだ。  退屈を紛らわせる存在として鍛えられた刃牙。無力な人を守るために鍛えられた覚悟。  鍛えられた目的は違うが、鋼の肉体を持つ二人。神が仕組んだのか、出会わないはずの二人に接点ができた。  二人の戦士が出会うとき、もたらすのは死闘か、共闘か。  それは、天に煌く星しか知らなかった。 【F-4、病院前/1日目・深夜】 【範馬刃牙@グラップラー刃牙】 [状態]:健康 [装備]:強化外骨格「零」(カバン状態)@覚悟のススメ。 [道具]:支給品一式。未確認支給品0~2。 [思考] 1:親父を超える。 2:覚悟を見つけ、勝負を挑む。 3:強者と戦う。ただしゲームには乗らない。 ※地下トーナメント優勝直後。ただしトーナメント戦で受けた傷は治っている。 |024:[[狂喜の宴]]|[[投下順>第000話~第050話]]|026:[[繰り出す螺旋の技、その極意は温度差の魔拳]]| |024:[[狂喜の宴]]|[[時系列順>第1回放送までの本編SS]]|027:[[TWINS GIRLS]]| |&COLOR(#CCCC33){初登場}|武藤カズキ|029:[[好きなら素直にスキと言え]]| ----
**戦う運命 ◆TJ9qoWuqvA 『周囲に人影なし』 「そうか……寂しいもんだな」  カバンを担ぐ少年が、一人呟いていた。  浅黒く鞣革のような皮に巌のような鍛え抜かれた肉体を持っているが、その顔は幼く、年の頃は十七といったところだった。  第三者がこの光景を見ていれば、不審に思っただろう。  少年、範馬刃牙は一人しかいなかった。なのに、「会話」をしている。  彼はカバンを担ぎ直し、川沿いに土手を駆ける。  街灯は点いているものの、人影は一切なく、精神の弱いものなら異常をきたすような、不気味な光景だった。  もっとも彼、範馬刃牙にとって、この程度の不気味さなど意にも介しなかった。  彼は十三という若さで、一人で山へ篭り夜叉猿という化け物と戦いへ向かったのだ。  不気味と思う感情など、そのときにどこかへと置いてきた。 「本当に殺し合いなんて行われているのか? 徳川さんは戦いを見るのは好きだけど、殺し合いを楽しむような人とは……」 『だが、あの老人は少女を殺した!』 「……そうだよな。あの娘、死んじゃったんだよな。徳川さんのせいで」  刃牙は光成に対して、少なからず感謝していた。  父であるオーガ、範馬勇次郎を超えるため、自分は死闘を何度も経験する必要があると感じ、死闘の機会が多い地下闘技場への参加を光成へ願い、叶えてもらった。  今の自分があるのは、光成のおかげだといって良い。  その光成が、殺し合いを始めた。それが自分や親父、独歩や拳王と名乗った男だけの戦いなら分かる。  「世界で一番強い」という男なら一度は憧れ、捨てる夢を今だ求め続ける馬鹿だからだ。  そういった男は、死闘の果てに命を落としも恨み言はない。  光成もそういう男たちの戦いが見たくて、地下闘技場トーナメントを開催したはずである。  なのに…… 「殺しちまったんだな。徳川さん」  ひたすら冷たく、腹の底から響く声で確かめるように、もう一度告げる。  女が死ぬのは、母親が勇次郎に殺されたときから、刃牙の望むことではない。 『応。我々がすることは、民間人の保護! そのためには覚悟と再会する必要がある!』 「分かっている、零。何度も聞かされたって」  カバンから声が上がり、それが自然であるかのように刃牙は返事をする。  彼は一時間ほど前に、零と名乗るカバンと出会った事を思い出していた。  惨劇の後、刃牙は気がつくと、川原で佇んでいた。  静かな音を立てて流れる川に向けていた視線を、星の瞬く夜空へ向ける。  星が、自愛に満ちた母親をかたどっているように錯覚した。  少し視線を下げると、繁華街が見える。だが人の気配はなく、寂れた感じを受けた。  ため息をつき、光成が言った殺し合いをしてもらうという言葉に呆れながらデイバックをあさった。  武器には興味は無い。適当なトレーニング機器が無いか探しているのだ。  もっとも、無くても構わなかった。上は繁華街、重りになるものなど、いくらでもあるだろう。  この殺し合いという異常な場でも、刃牙は父親を越える事を第一に考えていたのだ。  しかし、中から見つけたのは、食料や地図など以外には紙があっただけだ。  光成から自分に対するメッセージがあるのかと思い、強化外骨格「零」と書かれた紙を開いてみる。  ドズンと、重い音が静かな川原に響いた。  紙を開くと同時に現れたカバンに驚き、紙を上下を反対にしたり、上を見たり、下から覗いたりする。  それは不気味に思っての行動ではなく、単純に好奇心から紙を隅々見ているように見えた。  その彼に、カバンから声がかけられた。 『少年、現在の状況の報告をお願いする!』  一瞬、刃牙はポカンとするが、気を取り直す。 「 そうか、あんたが強化外骨格「零」というのか。俺は刃牙、よろしく」 『了解。刃牙は我々の名を知っているのか。覚悟の行方を知らぬか? 最初の場所で悪鬼に宣戦布告を行った男だ』 「ああ、あの人か。強そうだったな。ごめん、今は知らない」 『そうか……』  気落ちしている零に苦笑を浮かべる。随分と人間臭いカバンだと刃牙は思ったのだ。 「そう落ち込むなって。俺も、覚悟って奴に会いたいから、探すの協力するよ」 『まことか!!』 「ああ。その代わり、覚悟って奴との手合わせをお願いしてもらえないか?」 『何故だ? 回答を求む』 「親父を超える為さ……」 『父親?』  零に対して頷く。彼の胸中にあるのは、世界最強の男に挑む、自分の母親。  ――勇次郎! 私が相手だ!!  彼女の、最初で最期の母親としての言葉が、刃牙の胸を焦がす。  復讐の念と、最強の渇望を混ぜて胸に無理矢理秘めさせる。  地下闘技場トーナメントを通じて、最強となるべく戦っているのか、勇次郎に対して復讐する為強くなっているのか、多少分からなくなっていた。  それでも、母親の死は今の自分の原点といえる。ゆえに、彼は強くなり続ける事をやめない。  例え、それが途方も無い道のりだとしても。 「ああ、地上最強の親父、範馬勇次郎を超える。それが今までの俺だし、これからの俺だ。 そのために戦い続ける必要がある」 『刃牙。父親を超えるのは男子の本懐! なんら恥じることなど無い!!』 「ありがとう。そろそろ行こうか。覚悟に会うんだろ?」  言いながら、無造作にカバンを掴む。その刃牙の様子に、零は慌てる。 『待て! 我々の重さは……』 「よっと」  刃牙は難なく、カバンを担ぎ上げた。  その様子に、ほう……っと零は吐息をつく。 「これくらい重いほうが、ウェイトトレーニングとしては丁度良いさ。いや、軽いくらいかな?」 『ふむ。随分鍛えているようだ。これなら、覚悟ともいい勝負になるかもしれない』 「もちろん、そのつもりさ。そして、勝つのも俺だ」 『言うではないか。覚悟との再会、楽しみが増えた』  刃牙は笑みを浮かべて、川原を駆けた。  一人と三千の英霊が宿ったカバンは、宵闇に包まれた道を何の恐れも無く進み続ける。  現在、その一人と三千の英霊は、コンクリートで舗装された道を下っていた。  零の探知能力を頼みに、覚悟を探しているのである。  しかし、零は探知能力が下がっているらしく、数百メートル単位でしか人を察知できないらしい。 『この謎、いずれ解き明かす必要がある。強化外骨格のときにも影響が出なければ良いが……』 「そうか。それにしても人が見つからないな」  刃牙は、ランニングには丁度良いと言いながら、街を全速力で駆けていく。  無防備だが、その姿は例え襲われても返り討ちにするという考えゆえであった。  やがて、病院を前にし、零と刃牙が会話するため止まる。  九十キロはあるカバンを担いで全力疾走したというのに、刃牙は涼しげな顔をしていた。 『随分鍛えられているな。その肉体、どういった経路で手に入れた?』 「十三まで親父とお袋に鍛えられたのさ。その後は自己流」 『……覚悟も、十三までは兄と一緒に父親に鍛えられていた』 「へぇ……兄貴がいるところまで一緒か」 『だがその兄に、覚悟は父親を殺された。散は悪鬼となったのだ』 「嫌なところまで似ているな。俺は、母親を親父に殺されたよ。 もっとも、親父は最初から鬼だったけどね」  苦笑をしながら、零の語る覚悟は本当に自分に似ていると思った。  それは、運命を感じるほどに。 (それほど似ていて強いなら、戦い甲斐がある。地下闘技場トーナメントで優勝した直後はもう戦いたくないと思ったのに……)  一瞬、自らの体が異常な熱を発し、周囲の空間を歪ませた錯覚に陥った。  戦いの予感に、刃牙は比喩でなく身体を熱くする。 (もう、戦いたくなった)  そう、刃牙は覚悟に、戦う運命を感じたのだ。  退屈を紛らわせる存在として鍛えられた刃牙。無力な人を守るために鍛えられた覚悟。  鍛えられた目的は違うが、鋼の肉体を持つ二人。神が仕組んだのか、出会わないはずの二人に接点ができた。  二人の戦士が出会うとき、もたらすのは死闘か、共闘か。  それは、天に煌く星しか知らなかった。 【F-4、病院前/1日目・深夜】 【範馬刃牙@グラップラー刃牙】 [状態]:健康 [装備]:強化外骨格「零」(カバン状態)@覚悟のススメ。 [道具]:支給品一式。未確認支給品0~2。 [思考] 1:親父を超える。 2:覚悟を見つけ、勝負を挑む。 3:強者と戦う。ただしゲームには乗らない。 ※地下トーナメント優勝直後。ただしトーナメント戦で受けた傷は治っている。 |024:[[狂喜の宴]]|[[投下順>第000話~第050話]]|026:[[繰り出す螺旋の技、その極意は温度差の魔拳]]| |024:[[狂喜の宴]]|[[時系列順>第1回放送までの本編SS]]|027:[[TWINS GIRLS]]| |&COLOR(#CCCC33){初登場}|範馬刃牙|029:[[好きなら素直にスキと言え]]| ----

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