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鳥の歌に導かれて」(2008/11/06 (木) 07:13:25) の最新版変更点

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**鳥の歌に導かれて ◆rnjkXI1h76 「どうして……どうしてこんなことになっちゃったのかな……?」  エリアF-5に位置する6階建てマンションのとある一室。そこに柊つかさはいた。  部屋の明かりは点いておらず、つかさも部屋の隅で体育座りをしながらじっとしていた。  ――いや。『じっとしていた』というのはさすがに間違いかもしれない。なぜなら彼女の体はまりで貧乏ゆすりをしているかのように小刻みに震えているのだから。  もちろん、その理由は恐怖によるものだ。  今しがた自身がそう呟いたように、どうしてこのようなことになってしまったのかつかさには理解できなかった。  いきなり見ず知らずの場所にいて、いきなり殺し合いを強要され、さらには目の前で一人の少女が頭を吹っ飛ばされて死んだ……  悪い夢なら早く覚めて欲しいとつかさは思う。しかし、自身のいる空間に漂う空気と首に付けられている首輪のひやりとした金属独特の感触が彼女にこれが夢ではないことを告げていた。  ――恐怖でさらに体が震える。 「お姉ちゃん……こなちゃん……ゆきちゃん…………」  自身と同じくこの殺し合いに参加させられている姉や友達の名を口にしながら、つかさは両手にぐっと力をこめて、ただでさえ体育座りという体勢で丸くなっていた体を丸くする。  その様子はさながら外敵から身を守ろうとするダンゴムシやアルマジロのようだ。  本当ならすぐにでも行動を開始して姉たちを見つけ出して合流したかった。  ――しかし、今まで体験したことがない絶対的な恐怖の前にはただの一般人に過ぎないつかさはあまりにも無力であった。肉体的にも、精神的にも。  さらに、現代人の一般的な連絡手段であり、こういう状況における頼みの綱である携帯電話も先ほどからずっと『圏外』という二文字を液晶画面に映し出し彼女の精神に追い討ちを掛けていた。  心が恐怖で押しつぶされそうになるのをなんとかギリギリのところで耐え抜きながら、つかさはとりあえず今は早く朝にならないだろうかと思うのであった。  ◇ ◆ ◇ ◆ ◇  つかさのいるマンションから少し離れた場所に位置する駅、ステーション8。そこの出入り口に川田章吾はいた。  川田は無言で地下に通ずる階段に堂々と腰掛けながら、ただじっと頭上に広がる夜空を眺めていた。  その姿は一見、『隙だらけ』というイメージを漂わせていたが、見る者によっては何かに対して怒りを露にしながら『俺を殺せるものなら殺してみろ』と言っているいるようにも見えた。  ――しばらくすると、川田は目線を夜空から足元に置かれているデイパックへと下ろし呟いた。 「やれやれ……神様ってのは本当に人間を不幸のドン底に叩き落とすのが好きみてえだな…………」  “二度あることは……”ってやつか、などと付け加え、苦笑いを浮かべつつ川田はデイパックを開帳した。  ――デイパックから出てきたのは水・食料のほかに、会場の地図やランタン、筆記用具……そして折り畳まれた紙が二枚。 「――ハズレか……」  そう言って残念そうにデイパックに支給品を戻す作業に取りかかろうとする川田。  しかし、紙――どうせあまり役に立たないメモか何かだろう――とはいえ、一応詳細の確認くらいはしておこうと紙の二枚のうちの一枚を広げてみることにした。  すると―――― 「――!? な、なんだあ!?」  突然紙の中から封が切られていないチョココロネが5つ現れ、川田が驚いている間に階段に落ちて数段下にごろごろと転がった。  ただの紙からいきなり食べ物が現れるという前代未聞の超常現象に、さすがの川田も一瞬ぽかんとしてしまったが、すぐさま我に返る。  ――だが、さすがに驚きは未だに残ったままである。 「……も、もしかして、この紙の中に支給品が入っているっていうのか?」  川田はそう言ってもう一枚の紙を手に取ると、先ほど同様それをゆっくりと広げてみる。  すると、今度は銃――それもサブマシンガンとその予備マガジンが6つも紙から出てきた。 「ほ、本当にどうなってやがるんだ……?」  すでに川田は『当たりの武器を支給された』ということよりも、『ただの紙から物が出てくる』というミステリアスな現象のことばかりに目と頭がいってしまっていた。  こんな魔法じみたことなど人間――いや、この世界では普通不可能だからだ。  ――そう。普通ならば………… 「――まあ、現に俺や桐山たちがここにいるんだ、本物の魔法使いがこの世界にいてもおかしくはねえな……」  とりあえず目の前の不思議な紙の件は強制的に打ち切り保留すると、川田はあまり彼らしくないそんな言葉を呟き再び夜空に目を向けた。  ――川田はここに来る前の記憶を復元してみる。  最後に残っている記憶は確かあの船の操舵室だ。  そう。あの時――七原秋也、中川典子の二人と協力して政府の糞ったれ共に見事カウンターパンチを食らわせることに成功したあの時だ。  ――あの時、自分は無茶をしすぎたせいで内蔵を破いてしまい、それが致命傷となって死んでいくはずだった。  ――否。自分は間違いなくあの時死んだはずだ。自身が最期に七原と典子に看取られていたのもちゃんと覚えている。  その時に自分が二人に言った遺言の内容もちゃんと記憶していた。  ――それなのに、何故自分はここにいるのだろうか?  ――考えても、やはり答えは出てこない。 (やれやれ……頭がどうにかなりそうだぜ…………)  こういう時こそ一服しようと思いポケットを漁る――が、肝心のタバコがなかった。出てきたのは愛用のジッポーライターだけだ。 (ああ……。そういや『向こう』で全部吸っちまったんだよな)  川田はここに来た当初は、ここが俗にいう『あの世』って場所なのだろう、と思っていた。  なぜなら、ここに来た最初に目を覚ましたあの空間に、自身よりも先に死んだ桐山や三村、杉村の三人の姿があったからだ。  ――だが、その空間のあまりにもリアルな空気と自身の心臓が元気に鼓動を響かせていたこと等により次第にその考えは薄れていった。 「もしかして、あの光成とかいうジジイがわざわざ俺や桐山たちを生き返らせてこのプログラムもどきに参加させたっていうのか…………?」  普通なら間違いなく信じ難い、というより信じないし考えもしない憶測だが、現状が現状である。 (確かあのジジイ、英霊がどうのこうのとか言ってたな…………。なら、このくだらねえデス・ゲームにもプログラムと同じく何か開催せざる終えない理由があるってことだ。  ――だが、俺はこのデス・ゲームに乗る気は断じてねえ。そう。あのジジイがやろうとしていることは政府の糞ったれ共とまったく同じだ。  それなら俺がやるべきことは変わらねえ……奴らに一発強力なカウンターパンチをぶち込む! それだけだ……!)  そう決心すると川田はデイパックを肩に提げ、サブマシンガン――マイクロウージーを手に取った。  ちなみに、このマイクロウージー、外見が前回の殺し合いにて桐山がメインウエポンとして使用していたイングラムM10サブマシンガンとどこか似ているため、当初川田はやや複雑な心境だったことはここだけの話である。 「よし……!」  川田は身支度を整えると、まずは周辺の地形を確認するため、駅を後にして目の前にそびえるマンションに向かい歩き出した。  あそこの屋上なら夜でもこの付近一帯の地形を把握できるだろうという判断である。  ◇ ◆ ◇ ◆ ◇  一方、マンションにいるつかさは未だに部屋の隅で震えていた。  彼女のその瞳からは、すでに何粒かの雫が零れ落ちている。 「うくっ……ひくっ……」  薄暗い部屋につかさがすすり泣く声が静かに響き渡る。 「ひくっ……ううっ…………あ……」  ――しかし、ある程度時間が経ったところでつかさは突然泣くのを止めた。  つかさの目線の先には自身に与えられたデイパックがある。 「…………そうだ。支給品……」  まだデイパックの中身を確認をしていなかったことを思い出し、つかさはデイパックをゆっくりと開帳する。  もしかしたら姉たちの居場所が分かる道具が出てくるかもしれないと思ったからだ。――『藁にもすがる思い』とはまさにこのことだろう。  もちろん、現実とはそんな都合のいいことがほいほいと起きるとは限らない。  ――出てきたのは見知らぬ制服(少なくとも学校の制服でないことは確かだ)とスケボー、手のひらサイズのこれまた見たことも無い小さな物体だった。 「はあ……」  支給品がどれも今の自分にはまったく役に立たない代物ばかりだったので、つかさは軽くため息をついて落胆する。 「…………なんか暑くなってきたかな?」  そして、部屋が蒸し暑くなってきたような感じがしたので、とりあえず空気を入れ替えようとベランダの戸をゆっくりと開けた。  戸を開けた瞬間、夜風がやさしくつかさと彼女のいる部屋に吹き抜けた。 「…………」  つかさはそっとベランダに出て周囲の様子を見渡してみる。  今彼女がいるのはマンションの4階だ。そのため、ある程度マンションの周辺を見渡すことは出来た。  辺りの民家は今自分がいる部屋同様電気がついておらず、街灯と空に浮かぶ月明かりだけが住宅街を照らしていた。  そして――――とても静かだった。 「――静かだなあ……。本当に殺し合いなんかしているのかな…………?」  そう。つかさがそう呟いたように、本当に殺し合いが行われているのかと思ってしまいたくなるくらい静かであった。  ――だが、現に殺し合いはつかさの知らない所ですでに幾度も起きているのだ。 「……そういえば……これ本当になんなんだろう?」  そう言ったつかさの手には先ほどデイパックから出てきた支給品のひとつである小さな物体があった。  よく見ると、その物体には本体のほかにレバーのようなものが付いていた。 「? 引っ張れば何か起きるのかな?」  つかさは思わずそのレバーに手をやり、それを軽く引っ張ってみた。  ――が、何も起きないどころかレバーはピクリともしなかった。 「あれ? え、えっと……じゃ、じゃあ、これならどうかな?」  そう言うと今度はレバーのような部分を軽くひねってみた。  すると――――  ちいちいちいちい…… 「わっ!?」  レバーではなく本体の方が軽くひねり、鮮やかで大きな小鳥の鳴き声――いや、正確には小鳥の鳴き声のような音が辺りに響き渡った。  そう。つかさに支給された3つ目の支給品の正体――それはバードコールだった。 「……び、びっくりした~……」  突然鳴り響いた音に思わずビクリと反応してしまったつかさだったが、気を取り直してもう一度バードコールをひねってみる。  ――暗く静かな夜の町に、再びちいちいという穏やかな鳥の歌声が響く。  ――つかさは何度もそれをひねってみる。  近くに殺し合いに載っている者がいたら狙われるかもしれないのに、そんなことはお構いなしで何度もバードコールをひねった。 「……えへへ……。なんかコレ、気に入っちゃった……」  危険極まりない行動ではあったが、バードコールから奏でられる鳥の歌声は暗く沈んでいたつかさの心をある程度回復させるには充分な効果があった。  なにはともあれ、こうしてつかさはこの殺し合いが始まってはじめて笑顔を見せたのだった。 「あ……ちょっと肌寒くなってきたかな? そろそろ部屋に戻ろう……」  夜風がやや強くり肌寒くなってきたので、つかさはベランダからいそいそと部屋に戻った。  ――そんな時であった。突然自分の隠れていた部屋の玄関が力強くドンドンと叩かれる音と男の声が聞こえたのは…………  ◇ ◆ ◇ ◆ ◇  駅を後にして数分歩いたところで川田は目的のマンションに到着した。  軽く調べたところ階数は六階。最近の住宅街に建てられるマンションとしては高くものなく、低くもなくといったところか。  ――だが、夜の闇に彩られたその建物は、見るものからすれば天高くまでそびえ立つ巨大な墓標のようにも見える。 「…………」  川田は何も言わず、マイクロウージーをいつでも撃てるように身構えておく。  無論、これは万一の状態に備えておくためだ。  今の川田のその姿は、もはや一年留年した中学三年生ではなく、一人前の兵士のそれに類似していた。  ――まあ、過去に二回も同じようなデス・ゲームに参加しているのだから身体が自然とこういう状況に慣れてしまっただけなのだろうが…… (……ま。あまり良いことじゃねーけどよ……)  またしても軽く苦笑いを浮かべると、川田はゆっくりとマンションの中に足を踏み入れた。  マンションの内部、エントランスはやはり夜であるからか明かりが点いていた。  これは時間になると勝手に点くタイプのものなのか、それとも管理者によって点けられるタイプなのかは分からなかった(後者ならば人がいる、もしくはいたという証拠になる)が、川田は別に気にすることなく先へと進む。   やがてエレベーターの前に立つが、彼はあえてそれには乗らず、階段を一段一段慎重に上っていくことにした。これはもちろん用心のためだ。  万一、このマンションにゲームに乗ったものがいた場合、エレベーターの出入り口で待ち伏せをしている可能性は極めて高い。  ――というより、もし自分がこのゲームに乗った参加者なら、絶対にそうするだろう、と川田は思った。  ――静かだった。  川田が階段を一段一段上がっていく度に足音がマンションに僅かに響くほど静かだった。  ――だから、川田が二階から三階へと上がろうとした時、その音もしっかりと川田の耳に届いてた。  ちいちいちいちい…… 「!? こいつは……!」  ちいちいという穏やかな鳥の鳴き声。川田はそれを以前から聞いたことがあった。  ――いや、その表現は間違っているかもしれない。  なぜなら、この声は川田にとって決して忘れてはいけない記憶の断片(ピース)の中でも特に大切な部分なのだから……  ――そして、次の瞬間には川田は無意識のうちに階段を駆け上がっていた。 「ここの部屋か!?」  四階のとある部屋の入り口のドアの前に川田は立ち止まる。 (――確かにこのあたりからあのバードコールの音が聞こえた。慶子の形見であるバードコールの音が……!  そして、あれが鳴っているってことは誰か人がいるってことだ……!)  川田は考える。  こんな、どこに敵がいるか分からないような状況であのバードコールを何度も鳴らすなどという自殺的行為をする者がゲームに乗っているとはまず考えられない、と。 ――だが、ゲームに乗ったものが近くの参加者をおびき出すために使用しているという可能性だって充分にある。  ――しかし、今の川田にはそんなことはどうでもよかった(いや、本当はよくないのは自分でも分かっているのだが)。 (随分と焦っているな……俺らしくもない…………) まあ、当然といえば当然か、と思いながら、川田は今日で何度目か分からない苦笑いを浮かべる。  そう――川田自身、もう目の前で誰かが死ぬのを見たくもなかったし、人を見捨てることが出来なかったのだ。  人を信じるのは難しい――だが、だからこそ信じてみたいこともある。  どうやら七原の『熱血正義バカ』というタチの悪い病気が自分にもうつってしまったようだ。  ――川田は目の前の扉を力強く叩いた。そして叫んだ。 「中にいる奴、そのままでいいから聞いてくれ! 俺の名前は川田章吾、城岩学園中学校3年B組、出欠番号は男子3番! いろいろとワケありで一年留年していて歳は16だ!!  俺はこのふざけた殺し合いには乗っていないし、これから先、断じて乗る気もない!  もし、この声が聞こえていて、あんたもこのゲームに乗っていないならこのドアを開けてくれ! この糞ゲームを叩き潰し、あの光成とかいうジジイを叩きのめすための力を俺に貸してほしい!!」  ――しばしの沈黙。  ――が、しばらくするとドアの鍵が開くガチャリという音がして、次の瞬間にはドアがゆっくりと開き………… 「こ、こんばんは……」  一人の少女がビクビクとした様子で姿を見せた。 「あ…………。どうやら驚かせちまったみたいだな。すまん」  川田はまた苦笑いを浮かべながら目の前の少女――柊つかさに謝罪した。  ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 「――じゃあ、その桐山くんはゲームに乗っている可能性があるんだね?」 「ああ。こいつはとにかくヤベエ。奴は『感情』というものを一切もってねえ……。だから一度ゲームに乗ると決めたら最後までルールに従うだろうな。注意するにこしたことはねえ。  ――で、つかささんが探しているのは泉こなた、高良みゆき、そして双子のお姉さんの柊かがみ、この三人でOKだな?」 「うん。みんなこんなゲームに乗るような人たちじゃあないよ」  参加者名簿を手に問いかける川田につかさは頷いて答える。  それに対して川田も「OK♪」と返事をして名簿のチェックを終える。  ――今二人はそれぞれの情報を交換しながら部屋の中から使えそうな道具をいろいろと物色している最中である。  ちなみに、これまで見つかった役立ちそうなものは文化包丁、救急箱、裁縫道具、ツールセット、そして鍋やガスコンロ、缶詰、レトルト食品……といったところだ。  それと、つかさの支給された品についてだが、調べてみたところ制服はともかくスケボーの方は実は凄い代物であることが分かった。  実はこのスケボーはターボエンジンが搭載されている特注品で、ペダルを踏めば自動車並みのスピードで走ることが出来るという優れものであった。  さらに動力はソーラー、つまり太陽光で、バッテリーをフル充電しておけば夜など暗闇の状況でも30分は稼動できるとのことであった。  そのことを知った二人は「最近の技術はやはり凄いんだな」と改めて人間のもつ知識の凄さを思い知ったのであった。 「ええと……。まずは電車に乗って繁華街へ向かう……でいいのかな?」 「ああ。ここなら人が結構集まるかもしれねえし、もっと役に立ちそうなものが見つかるかもしれねえしな」  荷物をまとめながら川田たちはこれから先の自分たちの行動を確認する。  さすがにお互いいろいろと騒ぎすぎてしまったためこれ以上このマンションに長居は出来ない。  ならばと、川田の勧めで近くの駅から地下鉄に乗り、繁華街の方へと向かうことにしたのだ。 「――ところで、つかささん。本当に俺がこいつを持っていてもいいのかい?」  そう言った川田の手には先ほどつかさが鳴らしていたバードコールがあった。 「うん。だってそれは川田くんにとって大切なものなんでしょ? だったら、ちゃんと川田くんが持っていないと駄目だよ」  つかさは先ほどの情報交換の際に川田が自身の持っていたバードコールをやけに気にしていたので、その理由を聞いていた。  ――その質問に対して川田は、さすがに過去に二度殺し合いに参加したことがあるということは話さなかったが、バードコールが死んだ恋人の形見であるということは嘘偽り無く話していた。 「……すまねえ」  川田はそう言うとバードコールをそっと自分のポケットにしまった。 「――今更言うのもなんだが……。つかささん、本当に俺を信用していいのかい?  もしかしたら俺は、あんたを騙して利用しようとしている可能性だってあるんだぜ?」  荷物の整理を終え出発しようとした際、川田はつかさに冗談を言うみたいにそう尋ねた。  ――確かに川田の言っていることには一理ある。  こういう状況では一人よりも二人以上の複数人で行動するほうが明らかに安全だ。  そのため、ゲームに乗った参加者が自身の生存率を上げるために他の参加者を利用する可能性だって無いとは言い切れない。  ――しかし、つかさは…… 「……だから川田くんを信じるんだよ」  笑顔でそう答えた。 「自分からそういうこと言ってくれる人に悪い人はいないと思うんだ。  だから、わたしは川田くんを信じる。――それに、こういう時こそ他の人たちを信じなきゃいけないってわたしは思うよ?」 「…………」  その答えを聞いた川田は、前回のプログラムで七原と典子が今回と同じような質問をした自身に対して慌てた様子で「信じる!」と言ってくれた時のことを思い出した。 (――やれやれ、どこにも同じような甘ちゃんはいるもんだな……)  川田はそう思いながら密かにフッと笑った。 「ありがとよ、つかささん。  ――だが、覚悟は決めてくれよ。  俺も出来れば自分の手は汚したくはねえが、この先俺たちが生き残るためには時には誰かを殺さなきゃいけねえかもしれないってことをな……」 「うん…………」  川田のその言葉につかさは 「おいおい……。そういう顔はしないでくれよ。  大丈夫だ。絶対につかささんのお姉さんや友達は俺が見つけ出してやる。そして、つかささんたちをもとの生活に帰してやるからよ」 「う、うん……!」 「それに……女の人ってのはやっぱり笑っているほうが素敵だぜ。せっかくのかわいらしい顔が台無しだ」 「っ!? も、もう! どさくさに紛れてなに言ってるの!!」  つかさは顔を真っ赤にして川田の背中を数回叩いた。  一方、叩かれている川田は、先ほどから表情をコロコロと変えるつかさを見ながら女って本当に面白い奴だなあ、などと思うのであった。 「ははは……。んじゃ、“善は急げ”ってことで早速駅に向かうぞ。これからが本番だ」 「あ……。うん!」  ――こうして一組の男女がそれぞれの目的と決意を胸に戦場へと足を踏み入れたのであった。 【F-5 マンション 一日目 黎明】 【川田章吾@BATTLE ROYALE】 【状態】健康 【装備】マイクロウージー(9ミリパラベラム弾32/32)、予備マガジン6、ジッポーライター、バードコール@BATTLE ROYALE 【道具】支給品一式、チョココロネ(残り5つ)@らき☆すた、文化包丁、救急箱、裁縫道具(針や糸など)、ツールセット、ステンレス製の鍋、ガスコンロ、缶詰やレトルトといった食料品 【思考・行動】 基本行動方針:ゲームに乗っていない参加者を一人でも多く救出し、最後は主催者にカウンターパンチ 1:S8の駅から地下鉄で繁華街へ向かう 2:つかさの姉や友人を探すのに協力する 3:ゲームに乗っている参加者と遭遇した場合は容赦なく殺す 参戦時期:原作で死亡した直後 【備考】 桐山和雄の動きを警戒しています 桐山や杉村たちも自分と同じく原作世界死後からの参戦だと思っています つかさには過去に2回プログラムに参加していること、首輪解除技能やハッキング技術を会得していることなどは話していません。医者の息子であることは話しています。 【柊つかさ@らき☆すた】 【状態】健康 【装備】なし 【道具】支給品一式、ホーリーの制服@スクライド、ターボエンジン付きスケボー @名探偵コナン 【思考・行動】 基本行動方針:ゲームには絶対に乗らない 1:川田に同行し、S8の駅から地下鉄で繁華街へ向かう 2:お姉ちゃんやこなちゃんたちと合流したい 【備考】 川田を完全に信用しています 【総合備考】 首輪は原作バトロワと少し構造が違う物のようです |027:[[TWINS GIRLS]]|[[投下順>第000話~第050話]]|029:[[好きなら素直にスキと言え]]| |026:[[繰り出す螺旋の技、その極意は温度差の魔拳]]|[[時系列順>第1回放送までの本編SS]]|029:[[好きなら素直にスキと言え]]| |&COLOR(#CCCC33){初登場}|川田章吾|050:[[摩天楼の死兆星]]| |&COLOR(#CCCC33){初登場}|柊つかさ|050:[[摩天楼の死兆星]]| ----
**鳥の歌に導かれて ◆rnjkXI1h76 「どうして……どうしてこんなことになっちゃったのかな……?」  エリアF-5に位置する6階建てマンションのとある一室。そこに柊つかさはいた。  部屋の明かりは点いておらず、つかさも部屋の隅で体育座りをしながらじっとしていた。  ――いや。『じっとしていた』というのはさすがに間違いかもしれない。なぜなら彼女の体はまりで貧乏ゆすりをしているかのように小刻みに震えているのだから。  もちろん、その理由は恐怖によるものだ。  今しがた自身がそう呟いたように、どうしてこのようなことになってしまったのかつかさには理解できなかった。  いきなり見ず知らずの場所にいて、いきなり殺し合いを強要され、さらには目の前で一人の少女が頭を吹っ飛ばされて死んだ……  悪い夢なら早く覚めて欲しいとつかさは思う。しかし、自身のいる空間に漂う空気と首に付けられている首輪のひやりとした金属独特の感触が彼女にこれが夢ではないことを告げていた。  ――恐怖でさらに体が震える。 「お姉ちゃん……こなちゃん……ゆきちゃん…………」  自身と同じくこの殺し合いに参加させられている姉や友達の名を口にしながら、つかさは両手にぐっと力をこめて、ただでさえ体育座りという体勢で丸くなっていた体を丸くする。  その様子はさながら外敵から身を守ろうとするダンゴムシやアルマジロのようだ。  本当ならすぐにでも行動を開始して姉たちを見つけ出して合流したかった。  ――しかし、今まで体験したことがない絶対的な恐怖の前にはただの一般人に過ぎないつかさはあまりにも無力であった。肉体的にも、精神的にも。  さらに、現代人の一般的な連絡手段であり、こういう状況における頼みの綱である携帯電話も先ほどからずっと『圏外』という二文字を液晶画面に映し出し彼女の精神に追い討ちを掛けていた。  心が恐怖で押しつぶされそうになるのをなんとかギリギリのところで耐え抜きながら、つかさはとりあえず今は早く朝にならないだろうかと思うのであった。  ◇ ◆ ◇ ◆ ◇  つかさのいるマンションから少し離れた場所に位置する駅、ステーション8。そこの出入り口に川田章吾はいた。  川田は無言で地下に通ずる階段に堂々と腰掛けながら、ただじっと頭上に広がる夜空を眺めていた。  その姿は一見、『隙だらけ』というイメージを漂わせていたが、見る者によっては何かに対して怒りを露にしながら『俺を殺せるものなら殺してみろ』と言っているいるようにも見えた。  ――しばらくすると、川田は目線を夜空から足元に置かれているデイパックへと下ろし呟いた。 「やれやれ……神様ってのは本当に人間を不幸のドン底に叩き落とすのが好きみてえだな…………」  “二度あることは……”ってやつか、などと付け加え、苦笑いを浮かべつつ川田はデイパックを開帳した。  ――デイパックから出てきたのは水・食料のほかに、会場の地図やランタン、筆記用具……そして折り畳まれた紙が二枚。 「――ハズレか……」  そう言って残念そうにデイパックに支給品を戻す作業に取りかかろうとする川田。  しかし、紙――どうせあまり役に立たないメモか何かだろう――とはいえ、一応詳細の確認くらいはしておこうと紙の二枚のうちの一枚を広げてみることにした。  すると―――― 「――!? な、なんだあ!?」  突然紙の中から封が切られていないチョココロネが5つ現れ、川田が驚いている間に階段に落ちて数段下にごろごろと転がった。  ただの紙からいきなり食べ物が現れるという前代未聞の超常現象に、さすがの川田も一瞬ぽかんとしてしまったが、すぐさま我に返る。  ――だが、さすがに驚きは未だに残ったままである。 「……も、もしかして、この紙の中に支給品が入っているっていうのか?」  川田はそう言ってもう一枚の紙を手に取ると、先ほど同様それをゆっくりと広げてみる。  すると、今度は銃――それもサブマシンガンとその予備マガジンが6つも紙から出てきた。 「ほ、本当にどうなってやがるんだ……?」  すでに川田は『当たりの武器を支給された』ということよりも、『ただの紙から物が出てくる』というミステリアスな現象のことばかりに目と頭がいってしまっていた。  こんな魔法じみたことなど人間――いや、この世界では普通不可能だからだ。  ――そう。普通ならば………… 「――まあ、現に俺や桐山たちがここにいるんだ、本物の魔法使いがこの世界にいてもおかしくはねえな……」  とりあえず目の前の不思議な紙の件は強制的に打ち切り保留すると、川田はあまり彼らしくないそんな言葉を呟き再び夜空に目を向けた。  ――川田はここに来る前の記憶を復元してみる。  最後に残っている記憶は確かあの船の操舵室だ。  そう。あの時――七原秋也、中川典子の二人と協力して政府の糞ったれ共に見事カウンターパンチを食らわせることに成功したあの時だ。  ――あの時、自分は無茶をしすぎたせいで内蔵を破いてしまい、それが致命傷となって死んでいくはずだった。  ――否。自分は間違いなくあの時死んだはずだ。自身が最期に七原と典子に看取られていたのもちゃんと覚えている。  その時に自分が二人に言った遺言の内容もちゃんと記憶していた。  ――それなのに、何故自分はここにいるのだろうか?  ――考えても、やはり答えは出てこない。 (やれやれ……頭がどうにかなりそうだぜ…………)  こういう時こそ一服しようと思いポケットを漁る――が、肝心のタバコがなかった。出てきたのは愛用のジッポーライターだけだ。 (ああ……。そういや『向こう』で全部吸っちまったんだよな)  川田はここに来た当初は、ここが俗にいう『あの世』って場所なのだろう、と思っていた。  なぜなら、ここに来た最初に目を覚ましたあの空間に、自身よりも先に死んだ桐山や三村、杉村の三人の姿があったからだ。  ――だが、その空間のあまりにもリアルな空気と自身の心臓が元気に鼓動を響かせていたこと等により次第にその考えは薄れていった。 「もしかして、あの光成とかいうジジイがわざわざ俺や桐山たちを生き返らせてこのプログラムもどきに参加させたっていうのか…………?」  普通なら間違いなく信じ難い、というより信じないし考えもしない憶測だが、現状が現状である。 (確かあのジジイ、英霊がどうのこうのとか言ってたな…………。なら、このくだらねえデス・ゲームにもプログラムと同じく何か開催せざるをえない理由があるってことだ。  ――だが、俺はこのデス・ゲームに乗る気は断じてねえ。そう。あのジジイがやろうとしていることは政府の糞ったれ共とまったく同じだ。  それなら俺がやるべきことは変わらねえ……奴らに一発強力なカウンターパンチをぶち込む! それだけだ……!)  そう決心すると川田はデイパックを肩に提げ、サブマシンガン――マイクロウージーを手に取った。  ちなみに、このマイクロウージー、外見が前回の殺し合いにて桐山がメインウエポンとして使用していたイングラムM10サブマシンガンとどこか似ているため、当初川田はやや複雑な心境だったことはここだけの話である。 「よし……!」  川田は身支度を整えると、まずは周辺の地形を確認するため、駅を後にして目の前にそびえるマンションに向かい歩き出した。  あそこの屋上なら夜でもこの付近一帯の地形を把握できるだろうという判断である。  ◇ ◆ ◇ ◆ ◇  一方、マンションにいるつかさは未だに部屋の隅で震えていた。  彼女のその瞳からは、すでに何粒かの雫が零れ落ちている。 「うくっ……ひくっ……」  薄暗い部屋につかさがすすり泣く声が静かに響き渡る。 「ひくっ……ううっ…………あ……」  ――しかし、ある程度時間が経ったところでつかさは突然泣くのを止めた。  つかさの目線の先には自身に与えられたデイパックがある。 「…………そうだ。支給品……」  まだデイパックの中身を確認をしていなかったことを思い出し、つかさはデイパックをゆっくりと開帳する。  もしかしたら姉たちの居場所が分かる道具が出てくるかもしれないと思ったからだ。――『藁にもすがる思い』とはまさにこのことだろう。  もちろん、現実とはそんな都合のいいことがほいほいと起きるとは限らない。  ――出てきたのは見知らぬ制服(少なくとも学校の制服でないことは確かだ)とスケボー、手のひらサイズのこれまた見たことも無い小さな物体だった。 「はあ……」  支給品がどれも今の自分にはまったく役に立たない代物ばかりだったので、つかさは軽くため息をついて落胆する。 「…………なんか暑くなってきたかな?」  そして、部屋が蒸し暑くなってきたような感じがしたので、とりあえず空気を入れ替えようとベランダの戸をゆっくりと開けた。  戸を開けた瞬間、夜風がやさしくつかさと彼女のいる部屋に吹き抜けた。 「…………」  つかさはそっとベランダに出て周囲の様子を見渡してみる。  今彼女がいるのはマンションの4階だ。そのため、ある程度マンションの周辺を見渡すことは出来た。  辺りの民家は今自分がいる部屋同様電気がついておらず、街灯と空に浮かぶ月明かりだけが住宅街を照らしていた。  そして――――とても静かだった。 「――静かだなあ……。本当に殺し合いなんかしているのかな…………?」  そう。つかさがそう呟いたように、本当に殺し合いが行われているのかと思ってしまいたくなるくらい静かであった。  ――だが、現に殺し合いはつかさの知らない所ですでに幾度も起きているのだ。 「……そういえば……これ本当になんなんだろう?」  そう言ったつかさの手には先ほどデイパックから出てきた支給品のひとつである小さな物体があった。  よく見ると、その物体には本体のほかにレバーのようなものが付いていた。 「? 引っ張れば何か起きるのかな?」  つかさは思わずそのレバーに手をやり、それを軽く引っ張ってみた。  ――が、何も起きないどころかレバーはピクリともしなかった。 「あれ? え、えっと……じゃ、じゃあ、これならどうかな?」  そう言うと今度はレバーのような部分を軽くひねってみた。  すると――――  ちいちいちいちい…… 「わっ!?」  レバーではなく本体の方が軽くひねり、鮮やかで大きな小鳥の鳴き声――いや、正確には小鳥の鳴き声のような音が辺りに響き渡った。  そう。つかさに支給された3つ目の支給品の正体――それはバードコールだった。 「……び、びっくりした~……」  突然鳴り響いた音に思わずビクリと反応してしまったつかさだったが、気を取り直してもう一度バードコールをひねってみる。  ――暗く静かな夜の町に、再びちいちいという穏やかな鳥の歌声が響く。  ――つかさは何度もそれをひねってみる。  近くに殺し合いに載っている者がいたら狙われるかもしれないのに、そんなことはお構いなしで何度もバードコールをひねった。 「……えへへ……。なんかコレ、気に入っちゃった……」  危険極まりない行動ではあったが、バードコールから奏でられる鳥の歌声は暗く沈んでいたつかさの心をある程度回復させるには充分な効果があった。  なにはともあれ、こうしてつかさはこの殺し合いが始まってはじめて笑顔を見せたのだった。 「あ……ちょっと肌寒くなってきたかな? そろそろ部屋に戻ろう……」  夜風がやや強くり肌寒くなってきたので、つかさはベランダからいそいそと部屋に戻った。  ――そんな時であった。突然自分の隠れていた部屋の玄関が力強くドンドンと叩かれる音と男の声が聞こえたのは…………  ◇ ◆ ◇ ◆ ◇  駅を後にして数分歩いたところで川田は目的のマンションに到着した。  軽く調べたところ階数は六階。最近の住宅街に建てられるマンションとしては高くものなく、低くもなくといったところか。  ――だが、夜の闇に彩られたその建物は、見るものからすれば天高くまでそびえ立つ巨大な墓標のようにも見える。 「…………」  川田は何も言わず、マイクロウージーをいつでも撃てるように身構えておく。  無論、これは万一の状態に備えておくためだ。  今の川田のその姿は、もはや一年留年した中学三年生ではなく、一人前の兵士のそれに類似していた。  ――まあ、過去に二回も同じようなデス・ゲームに参加しているのだから身体が自然とこういう状況に慣れてしまっただけなのだろうが…… (……ま。あまり良いことじゃねーけどよ……)  またしても軽く苦笑いを浮かべると、川田はゆっくりとマンションの中に足を踏み入れた。  マンションの内部、エントランスはやはり夜であるからか明かりが点いていた。  これは時間になると勝手に点くタイプのものなのか、それとも管理者によって点けられるタイプなのかは分からなかった(後者ならば人がいる、もしくはいたという証拠になる)が、川田は別に気にすることなく先へと進む。   やがてエレベーターの前に立つが、彼はあえてそれには乗らず、階段を一段一段慎重に上っていくことにした。これはもちろん用心のためだ。  万一、このマンションにゲームに乗ったものがいた場合、エレベーターの出入り口で待ち伏せをしている可能性は極めて高い。  ――というより、もし自分がこのゲームに乗った参加者なら、絶対にそうするだろう、と川田は思った。  ――静かだった。  川田が階段を一段一段上がっていく度に足音がマンションに僅かに響くほど静かだった。  ――だから、川田が二階から三階へと上がろうとした時、その音もしっかりと川田の耳に届いてた。  ちいちいちいちい…… 「!? こいつは……!」  ちいちいという穏やかな鳥の鳴き声。川田はそれを以前から聞いたことがあった。  ――いや、その表現は間違っているかもしれない。  なぜなら、この声は川田にとって決して忘れてはいけない記憶の断片(ピース)の中でも特に大切な部分なのだから……  ――そして、次の瞬間には川田は無意識のうちに階段を駆け上がっていた。 「ここの部屋か!?」  四階のとある部屋の入り口のドアの前に川田は立ち止まる。 (――確かにこのあたりからあのバードコールの音が聞こえた。慶子の形見であるバードコールの音が……!  そして、あれが鳴っているってことは誰か人がいるってことだ……!)  川田は考える。  こんな、どこに敵がいるか分からないような状況であのバードコールを何度も鳴らすなどという自殺的行為をする者がゲームに乗っているとはまず考えられない、と。 ――だが、ゲームに乗ったものが近くの参加者をおびき出すために使用しているという可能性だって充分にある。  ――しかし、今の川田にはそんなことはどうでもよかった(いや、本当はよくないのは自分でも分かっているのだが)。 (随分と焦っているな……俺らしくもない…………) まあ、当然といえば当然か、と思いながら、川田は今日で何度目か分からない苦笑いを浮かべる。  そう――川田自身、もう目の前で誰かが死ぬのを見たくもなかったし、人を見捨てることが出来なかったのだ。  人を信じるのは難しい――だが、だからこそ信じてみたいこともある。  どうやら七原の『熱血正義バカ』というタチの悪い病気が自分にもうつってしまったようだ。  ――川田は目の前の扉を力強く叩いた。そして叫んだ。 「中にいる奴、そのままでいいから聞いてくれ! 俺の名前は川田章吾、城岩学園中学校3年B組、出欠番号は男子3番! いろいろとワケありで一年留年していて歳は16だ!!  俺はこのふざけた殺し合いには乗っていないし、これから先、断じて乗る気もない!  もし、この声が聞こえていて、あんたもこのゲームに乗っていないならこのドアを開けてくれ! この糞ゲームを叩き潰し、あの光成とかいうジジイを叩きのめすための力を俺に貸してほしい!!」  ――しばしの沈黙。  ――が、しばらくするとドアの鍵が開くガチャリという音がして、次の瞬間にはドアがゆっくりと開き………… 「こ、こんばんは……」  一人の少女がビクビクとした様子で姿を見せた。 「あ…………。どうやら驚かせちまったみたいだな。すまん」  川田はまた苦笑いを浮かべながら目の前の少女――柊つかさに謝罪した。  ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 「――じゃあ、その桐山くんはゲームに乗っている可能性があるんだね?」 「ああ。こいつはとにかくヤベエ。奴は『感情』というものを一切もってねえ……。だから一度ゲームに乗ると決めたら最後までルールに従うだろうな。注意するにこしたことはねえ。  ――で、つかささんが探しているのは泉こなた、高良みゆき、そして双子のお姉さんの柊かがみ、この三人でOKだな?」 「うん。みんなこんなゲームに乗るような人たちじゃあないよ」  参加者名簿を手に問いかける川田につかさは頷いて答える。  それに対して川田も「OK♪」と返事をして名簿のチェックを終える。  ――今二人はそれぞれの情報を交換しながら部屋の中から使えそうな道具をいろいろと物色している最中である。  ちなみに、これまで見つかった役立ちそうなものは文化包丁、救急箱、裁縫道具、ツールセット、そして鍋やガスコンロ、缶詰、レトルト食品……といったところだ。  それと、つかさの支給された品についてだが、調べてみたところ制服はともかくスケボーの方は実は凄い代物であることが分かった。  実はこのスケボーはターボエンジンが搭載されている特注品で、ペダルを踏めば自動車並みのスピードで走ることが出来るという優れものであった。  さらに動力はソーラー、つまり太陽光で、バッテリーをフル充電しておけば夜など暗闇の状況でも30分は稼動できるとのことであった。  そのことを知った二人は「最近の技術はやはり凄いんだな」と改めて人間のもつ知識の凄さを思い知ったのであった。 「ええと……。まずは電車に乗って繁華街へ向かう……でいいのかな?」 「ああ。ここなら人が結構集まるかもしれねえし、もっと役に立ちそうなものが見つかるかもしれねえしな」  荷物をまとめながら川田たちはこれから先の自分たちの行動を確認する。  さすがにお互いいろいろと騒ぎすぎてしまったためこれ以上このマンションに長居は出来ない。  ならばと、川田の勧めで近くの駅から地下鉄に乗り、繁華街の方へと向かうことにしたのだ。 「――ところで、つかささん。本当に俺がこいつを持っていてもいいのかい?」  そう言った川田の手には先ほどつかさが鳴らしていたバードコールがあった。 「うん。だってそれは川田くんにとって大切なものなんでしょ? だったら、ちゃんと川田くんが持っていないと駄目だよ」  つかさは先ほどの情報交換の際に川田が自身の持っていたバードコールをやけに気にしていたので、その理由を聞いていた。  ――その質問に対して川田は、さすがに過去に二度殺し合いに参加したことがあるということは話さなかったが、バードコールが死んだ恋人の形見であるということは嘘偽り無く話していた。 「……すまねえ」  川田はそう言うとバードコールをそっと自分のポケットにしまった。 「――今更言うのもなんだが……。つかささん、本当に俺を信用していいのかい?  もしかしたら俺は、あんたを騙して利用しようとしている可能性だってあるんだぜ?」  荷物の整理を終え出発しようとした際、川田はつかさに冗談を言うみたいにそう尋ねた。  ――確かに川田の言っていることには一理ある。  こういう状況では一人よりも二人以上の複数人で行動するほうが明らかに安全だ。  そのため、ゲームに乗った参加者が自身の生存率を上げるために他の参加者を利用する可能性だって無いとは言い切れない。  ――しかし、つかさは…… 「……だから川田くんを信じるんだよ」  笑顔でそう答えた。 「自分からそういうこと言ってくれる人に悪い人はいないと思うんだ。  だから、わたしは川田くんを信じる。――それに、こういう時こそ他の人たちを信じなきゃいけないってわたしは思うよ?」 「…………」  その答えを聞いた川田は、前回のプログラムで七原と典子が今回と同じような質問をした自身に対して慌てた様子で「信じる!」と言ってくれた時のことを思い出した。 (――やれやれ、どこにも同じような甘ちゃんはいるもんだな……)  川田はそう思いながら密かにフッと笑った。 「ありがとよ、つかささん。  ――だが、覚悟は決めてくれよ。  俺も出来れば自分の手は汚したくはねえが、この先俺たちが生き残るためには時には誰かを殺さなきゃいけねえかもしれないってことをな……」 「うん…………」  川田のその言葉につかさは 「おいおい……。そういう顔はしないでくれよ。  大丈夫だ。絶対につかささんのお姉さんや友達は俺が見つけ出してやる。そして、つかささんたちをもとの生活に帰してやるからよ」 「う、うん……!」 「それに……女の人ってのはやっぱり笑っているほうが素敵だぜ。せっかくのかわいらしい顔が台無しだ」 「っ!? も、もう! どさくさに紛れてなに言ってるの!!」  つかさは顔を真っ赤にして川田の背中を数回叩いた。  一方、叩かれている川田は、先ほどから表情をコロコロと変えるつかさを見ながら女って本当に面白い奴だなあ、などと思うのであった。 「ははは……。んじゃ、“善は急げ”ってことで早速駅に向かうぞ。これからが本番だ」 「あ……。うん!」  ――こうして一組の男女がそれぞれの目的と決意を胸に戦場へと足を踏み入れたのであった。 【F-5 マンション 一日目 黎明】 【川田章吾@BATTLE ROYALE】 【状態】健康 【装備】マイクロウージー(9ミリパラベラム弾32/32)、予備マガジン6、ジッポーライター、バードコール@BATTLE ROYALE 【道具】支給品一式、チョココロネ(残り5つ)@らき☆すた、文化包丁、救急箱、裁縫道具(針や糸など)、ツールセット、ステンレス製の鍋、ガスコンロ、缶詰やレトルトといった食料品 【思考・行動】 基本行動方針:ゲームに乗っていない参加者を一人でも多く救出し、最後は主催者にカウンターパンチ 1:S8の駅から地下鉄で繁華街へ向かう 2:つかさの姉や友人を探すのに協力する 3:ゲームに乗っている参加者と遭遇した場合は容赦なく殺す 参戦時期:原作で死亡した直後 【備考】 桐山和雄の動きを警戒しています 桐山や杉村たちも自分と同じく原作世界死後からの参戦だと思っています つかさには過去に2回プログラムに参加していること、首輪解除技能やハッキング技術を会得していることなどは話していません。医者の息子であることは話しています。 【柊つかさ@らき☆すた】 【状態】健康 【装備】なし 【道具】支給品一式、ホーリーの制服@スクライド、ターボエンジン付きスケボー @名探偵コナン 【思考・行動】 基本行動方針:ゲームには絶対に乗らない 1:川田に同行し、S8の駅から地下鉄で繁華街へ向かう 2:お姉ちゃんやこなちゃんたちと合流したい 【備考】 川田を完全に信用しています 【総合備考】 首輪は原作バトロワと少し構造が違う物のようです |027:[[TWINS GIRLS]]|[[投下順>第000話~第050話]]|029:[[好きなら素直にスキと言え]]| |026:[[繰り出す螺旋の技、その極意は温度差の魔拳]]|[[時系列順>第1回放送までの本編SS]]|029:[[好きなら素直にスキと言え]]| |&COLOR(#CCCC33){初登場}|川田章吾|050:[[摩天楼の死兆星]]| |&COLOR(#CCCC33){初登場}|柊つかさ|050:[[摩天楼の死兆星]]| ----

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