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巨獣 ◆uBMOCQkEHY氏


「我々が『回収』した首輪をいつ、どのタイミングで『処分』するかなど、こちらの自由だ…
生き残るには他の参加者を始末し、優勝する以外ありえない……どうだね、『現状を見直すことをお勧めする』よ…森田くん…?」
森田は黒崎の脅迫めいた勧告を鼻でせせら笑う。
「オレが殺し合いに乗ると思うのかっ…!オレは誰が何と言おうと、人は殺さないっ…!
ましてや、お前たちに騙されて、戦いを強いられている参加者達なら尚更だっ!!」

森田は憤怒を滾らせた眼光で、画面の先にいる黒崎を射抜いた。
拒否権を与えない状況に追い込んでまで、殺し合いを促進させようとする主催者たちのあざとさに、怒りを通り越して、殺意が湧きおこる。
もし、黒崎が目の前にいたなら、胸元に隠しているナイフでその喉を裂いていただろう。
これ以上、こんな屑どもに人生を弄ばれるのはご免だ。
森田は吐き捨てるように言い放つ。
「オレはお前の提案を拒否したっ…!さあ、オレを殺せっ…!」
解除権を零に譲った今、森田がこの島ですべきことはない。
あとは零たちに、未来を託せばよい。
冷静な判断力、行動力を持つ彼らであれば解除権を有益に使ってくれるであろう。
それにこの島には平井銀二がいる。
銀二の真意は分かりかねる点もある。
それでもこの主催者を倒そうとしていることには間違いない。
銀二と零達の目標が同じ方向を向いているのであれば、このゲームを転覆させることができるかもしれない。
確証はないが、確固たる予感が、森田には存在していた。
「やるなら、さっさとやれっ…!」
森田は目を瞑り、首輪爆破の瞬間を待った。

――後は頼みます……銀さん……
森田が心の中で覚悟を決めた瞬間だった。

「まぁ、そんなことを言うだろうと思ったよ…森田くん……」
森田という人間を鑑みれば、殺人という手段を選択するはずがないと、簡単に分かる。
森田にマーダーの役を押し付ければ、会場に戻るどころか、この場で自殺することは目に見えていた。
黒崎はお前の思考などお見通しだと言わんばかりに椅子にもたれ、カメラを見下ろす。
「殺し合いが嫌いな君でも、こう言えば、気持ちが変わるはずだ……」
この瞬間、黒崎の柔和そうに垂れた目に鋭い光が宿る。
「君への要求を変更しよう……。
殺すのはただ一人。帝愛グループ総帥……兵藤和尊っ…!」
「なっ…!」
黒崎の想定外の展開に言葉を詰まらせる。
兵藤和尊はこのバトルロワイアル主催者――最大の要の人間である。
その人間を、部下である黒崎が殺せと命令したのだ。
「な……何を言っているんだっ……!」
森田や他の参加者の知らない所で、大きく事が動き始めようとしている。
寒気に近い不安が大きく膨らんでいく。

森田の反応は期待どおりだったと見えて、黒崎は嘲笑を漏らす。
「兵藤和尊は、今、D-1の発電所にいる…。最もゲームに近い安全圏にな…」
「なぜ、そんなことを教えるっ…!」
「ふふっ……なぜかって…?」
黒崎は身体を少し前のめりに崩す。
「我々に首輪を回収された君は、今や私の駒(ポーン)だ……
ポーンは余計なことなど考えず、黙って“プレイヤー”の指示に従えばよい……」
“これで以上だ……”と、黒崎が腕を伸ばし、画面を切ろうとした瞬間だった。
「待てっ!黒崎っ!!」
森田は画面に掴みかかる。
「どうやって、D-1の禁止エリアに入ればいいんだっ!!
そもそも、本当にそこに兵藤はいるのかっ!!」
腕を止めた黒崎は、焦る森田とは対照的に、“ああ……そういえば言い忘れていたよ……”と余裕に満ちた表情で返答する。
「D-1エリアはこちらで解除しておく……
これで侵入できるだろう……。
もう一つの質問に関してだが、それは行ってからのお楽しみだ……」
「“行ってからのお楽しみ”か……どうして、言葉を濁す……」
森田は胡乱げに眉を寄せる。
「お前からの初めの指示は、“他の参加者を減らせ”だった……。
もし、仮に、オレがお前達の言葉を鵜呑みにしてその場へ行けば、そこにあるのは別の誰かっ……。
例えば、首輪の解除に成功して、禁止エリアの潜入した参加者とかだっ……。
一度、禁止エリアに入ってしまえば、あとはゲームが終わるまでそこに居続ければいいっ……!
けれど、それではお前達には都合が悪いっ……!
そこでオレを送り込んで殺害させるっ……!
違うかっ……?」
「ほほう……」
黒崎は感心したかのように、目を細める。
「ふふっ……君にそこまで言われたら、もう語ることなどない……
そこにいる人間を殺せっ……!
その意志が見受けられない場合は、首輪を爆破させるっ……!」
黒崎は森田の返答を聞かず、通信を切ってしまった。

「くっ……もう一度、黒崎と話はできないのかっ!!」
森田は近くで待機していた黒服に噛みつく。
しかし、黒服からは、“お前が来る直前に、パソコンを用意しておけ”と命令されただけだ。
それ以前に、自分はこのパソコンの使い方がよく分からないと、頼りない答えしか返ってこなかった。
「そうか……」
情報機器に熟知している者であればクラッキングし、黒崎のサーバーに不正アクセスすることもできたかもしれない。
しかし、森田はフロッピーの起動の仕方すら覚束ない、情報機器に対してはド素人である。
そのような高等技術などできるはずもない。
「クソ……!」
森田は黙ってギャンブルルームから出るほかなかった。




「なんとかなったか……」
黒崎は椅子に持たれ、深いため息をつく。
大きな仕事を終えた今、本音を言えばゆっくり休みたい。
しかし、黒崎には定時放送以上に重要な仕事が残されている。
黒崎は椅子から立ちあがり、部屋を出た。

「お待たせいたしました……」
黒崎が赴いたのは袋井の部屋。
そこで待っていたのは袋井と後藤利根雄、そして、誠京グループ会長、蔵前仁である。

蔵前専属の執事という身分だけあって、在全側が袋井に用意した部屋は要人待遇と言ってもよい。
普通のホテルの一室はワンルームであるが、袋井に用意された部屋は居間と寝室が隔離され、ホテルというよりは高級マンションの一室を思わせる。
蔵前たちの面子を立てるためか、室内の調度品は高価なものばかりであり、その力の入り様はさすがに黒崎も苦笑してしまう。
しかし、真の贅沢に慣れた蔵前からしてみれば、所詮、富裕層を演出するためだけの寄せ集めの品。
シルクのカーペットにワインがこぼれようとも、慌てることなく、次のワインへ手を伸ばす。
蔵前にとって、袋井の部屋は通常より少々気を使った作業部屋でしかないのだ。

高齢にもかかわらず、朝からよく飲むものだ。
黒崎はそう心の中で失笑しながらも、顔にはおくびにも出さず、本革のソファーに腰を下ろす。

「これでよろしかったでしょうか……蔵前様……」
「ククク……中々面白い趣向ではないか……」
蔵前はくぐもった笑声を立てた。
「森田鉄雄、平井銀二のおかげで、わしは…いや、誠京はかなりの痛手を被った……」
「確か……民政党代議士58人の借用書と500億でしたか……」
黒崎の言葉に、蔵前は頷く。
誠京という企業にとって、500億円の損失はかなりの痛手であるものの、致命傷とまではいかない。
しかし、問題は民政党代議士58人の借用書の方である。

それを知るには、誠京というグループ企業とその背景を説明しなければならない。
誠京はいくつものグループ会社を抱えていたが、法律上、独立した会社が多く、その会社が出資して子会社・孫会社を作っていった。
本社とグループ会社が切り離された仕組みはグループ拡大と税金対策を狙ったものである。
自治体による土地開発の情報をいち早くキャッチすると、誠京は周辺の土地を安く買い、新たな子会社――誠京傘下の百貨店やホテルなどを立ちあげる。
誠京主導による生活圏形成。
それが軌道に乗れば、おのずと地価も上がる。
地価が最高値まで上がったところで、その土地と、そこの地域を作るために作られた子会社を担保に銀行から資金を借り、新たな地域へ投資する。
企業や土地などの不動産を担保にし、銀行から引き出した融資をそのまま自分たちの資産に変化させる。
この手口は『企業担保法』と呼ばれている。
銀行からの融資だけではなく、子会社が得た利益も、一旦本社へ吸収された後、儲けが少ないグループ会社に分配され、孫会社設立の投資へとまわされた。
資産は増えていくものの、決算上、利益は生み出していないため、会社の利益に対して課せられる法人税や事業税を納める必要がない。
また、名義上、別会社であるため、場所代として課せられる市町村民税やその他地方税は本社がある地域ではなく、その地元へ落とされる。
こうして商店街などの反対勢力を抑え、自治体を味方につけてきた。
誠京の恩恵を授かりたい、新たな自治体が土地開発の情報を提供。
その地域に地価高騰の可能性があると分かれば、誠京グループ総出で進出していく。
無限の連鎖の中での巨大化。
これが“錬金術”と言われる所以である。

しかし、この錬金術もバブル崩壊と共に陰りを見せることとなる。
バブル崩壊後、土地や住宅、株式など、定価が定まっていない時価資産が日本全土、軒並み下落した。
誠京の不動産も例外ではなく、担保としていた不動産は融資額を下回り、差額は不良債権として、銀行の損失となった。
当然、銀行はその不良債権を補うため、追加担保・保証を誠京に求めた。
しかし、利益や融資を投資にまわし続けていた誠京に不良債権の埋め合わせを準備する余裕などない。
そこで、不良債権を審査する基準を甘くし、不良債権を正常債権であると銀行に無理やり認めさせたり、
銀行による一時的な救済処置――補填融資、いわゆる“追い貸し”を繰り返し、
不良債権ではなく正常債権とみなす操作を行うなど、不良債権総額を低く見せて経営状態を取り繕ってきた。
このような横暴とも言える方針ができたのも、民政党代議士に対して、ギャンブルの借用書という名の貸しがあったからである。
借用書という鎖がある限り、誠京の拡大路線は約束されていたようなものであった。
それをこともあろうに、平井銀二と森田鉄雄が麻雀勝負で奪ってしまったのだ。
その日を境に、与党・民政党は誠京グループへ手のひらを返したように不動産の再審査を行うように促してきた。
再審査を行い、正当な不良債権額が露呈すれば、グループとしての信用は失われ、不良債権補填の催促がより一層厳しくなる。
のらりくらりと追跡をかわしているが、それもいつかは限界に来るだろう。
誠京グループは瀬戸際に立たされて始めている。

「やつらさえ……わしの前に現れなければ……わしがこんな苦しい思いをするはずがなかった……」
「ええ、おっしゃる通りです……蔵前様……」
蔵前に同調しつつも、黒崎は悟られない程度の小さなため息をついた。
確かに、銀二達に負けた日から誠京の転落が顕著になったのは間違いない。
しかし、土地は値上がりするが値下がりはしないという“土地神話”を盲目的に信じていたこと――誠京グループの見通しの甘さが全ての原因であった。
銀二と森田に対しては逆恨みとしかいいようがない。

そもそも苦境に立たされているのであれば、バトルロワイアルを悠々と開催しているよりも資金作りに奔走した方がよい。
おそらく、蔵前は苦しい苦しいと喘ぎながらも、心のどこかでは思っているのだろう。
再び経済は回復し、不良債権が正常債権に戻る日が来ると。
だからこそ、このゲームに多額の投資を平気でしているのだ。
不況が長引いているのは不良債権の増加によって銀行の体力が奪われ、他の企業に対して貸し渋りを行っているためである。
もちろん、不況の要因はこれだけではない。
しかし、銀行の不良債権が解決すれば、景気が大きく回復するのもまた事実である。
誠京のような大企業でさえ不良債権を返せずにいるというのに、他の中小企業が不良債権をどうにかできるはずがない。
不況はさらに続くであろう。
数多の判断材料が存在しているというのに、それを受け入れようとしない――未だにバブルから抜け出せない哀れな老人。
それが黒崎の蔵前への評価であった。

黒崎が実は見下しているとも知らず、蔵前は語り続ける。
「わしはやつらに復讐する機会を伺っていた……
その機会はついに訪れた……バトルロワイアル開催の誘いじゃ……」
蔵前は森田と銀二の殺害を何度も考えた。
しかし、彼らの足取りを追うのは難しく、何より、彼らの背後にいる伊沢が与党幹部になってしまい、ますます手出しがしにくくなってしまった。
蔵前自身が誠京グループの不良債権問題に奔走していたのも、それに拍車をかけていた。

そんな時に帝愛から、バトルロワイアルを共同で開催しないかという提案が来たのだ。
殺し合いというフレーズに初めこそは眉をひそめた蔵前であるが、次の一言が気持ちを一転させた。
『平井銀二と森田鉄雄をバトルロワイアルに参加させます……』
蔵前は大いに喜んだ。
帝愛からの話によると、銀二と森田は神威事件をきっかけにパートナー関係を解消。
その後、銀二は伊沢が力を失い始めたこともあり、前ほど派手に活動をしなくなったらしい。
銀二に声をかけ、バトルロワイアルを企画させ、企画が軌道に乗ったところで銀二を捕獲。
それを餌に森田にも声をかけ、参加させるというのが、帝愛が提示した作戦であった。

「奴らがこの島で無様に殺されると思うと……これほどうれしいことはないっ……!」
自分の手で殺したいという欲はあるが、品のないゲームの中で命を奪われるというのも中々の趣がある。
殺される瞬間、彼らはどんなことを思うのであろうか。
人生の幕が呆気なく閉じてしまうことへの悲憤か、それとも、蔵前という絶対的な権力者に楯突いてしまったことへの後悔か――。
想像しただけで、酸っぱいだけの安いワインも極上の美酒に変化する。
そんな展開を蔵前はずっと待ち焦がれていた。
しかし、現実は――

「奴らは殺されなかったっ……!!」
彼らに恨みを持つ者や、無差別に殺人を犯しそうな人間は序盤で勝手に自滅。
残ったのは彼らの考えに賛同するであろう無能者ばかりであった。

「それゆえに……森田鉄雄に首輪回収の依頼をしたっ……!強制的に殺人を犯すようにっ……!」
殺人を積極的にせざるを得ない依頼をすれば、おのずと命を狙われる率も上がっていく。
それで他の参加者に狙われるもよし、殺人を犯したことによる罪の意識から精神が錯乱していくのもよし。
あの首輪回収は停滞していた殺し合いを加速させると同時に、森田の精神と人生を転落させる意味があったのだ。

“我ながら何という名案だ……!”と言いながら、蔵前は奇怪な笑声を出して膝を叩く。
それに対して、黒崎は薄く笑っただけで口に出して反応を示さなかった。
黒崎にとって、これ程厄介な要求はなかった。
このバトルロワイアルは蔵前からすれば復讐の場にすぎないが、帝愛としては立派なギャンブルの種目なのだ。
公平さが求められるにもかかわらず、蔵前の要求はそれを覆すものであった。
袋井を通じて森田の首輪回収の依頼を提案があった時、黒崎は異議を唱えた。
蔵前は要求が通らなければ、黒崎とは手を組まないどころか、自らゲームの中止を宣言すると言い始めたのだ。
黒崎は蔵前の説得を諦め、その意志を尊重することにした。
しかし、蔵前主導で森田に首輪回収を依頼すれば、何を仕出かすか分からない。
そこで黒崎が間に入り、公平さを失わない方向で話を進めていった。
これが森田の首輪回収という特殊イベントの経緯である。

「奴は結局、誰も殺さず、首輪を集めてしまったがの……」
蔵前はつまらなさそうにため息をつく。
黒崎はそんな蔵前を憮然とした眼で見つめる。
蔵前はかつての麻雀勝負から森田のことを金に貪欲な強運の持ち主と思っているようであるが、実は逆である。
森田は冷徹になりきれない、お人よしの人間であり、損得抜きで行動することが多々ある。
それが打算に溢れたギャンブルにおいて、予測できない方向へ転がっていくのだ。
行動原理が金や命に囚われている人間――例えば、蔵前のような人間であれば、
首輪回収依頼の報酬を現金から禁止エリア解除に変更などしなかったし、
効率よく首輪の点数を集めるために、積極的に人を殺していただろう。
しかし、人がいい森田がそんな行動をするはずがない。
首輪回収依頼は森田の人格を理解できない蔵前らしい提案だったと言える。

(蔵前とは同盟関係だ……しかし……)
蔵前のわがままのせいで公平なギャンブルどころか、今や黒崎の立場も危うくなってきた。
森田の首輪回収に不満を持ったギャラリーから非難が相次ぎ、その声を押さえることに労力と神経を使わざるを得なくなってしまった。
また、前例ができてしまったことをいいことに、もう一人の主催者である在全が和也たちに金庫解除という特殊ギャンブルをしかけてきた。
そして、今、ギャンブルルームで村岡の謎の死が――。

(これものちのちのためっ……!)

黒崎はそう自分に言い聞かせ、気持ちを切り替える。
今は酒に自白剤でも入っているかのように饒舌に語る蔵前の機嫌を取ることが最優先である。
「ところでな……」
蔵前の両眼に毒を持った光がちらついた。
「兵藤がD-1にいるのは……本当かの……?」
蔵前の疑問に対して、それまで口を閉ざしていた後藤が答える。
「それは間違いございませんっ…!」
自信に満ちた顔で後藤は用意していたパソコンを蔵前に見せる。
そこに映っていたのはバトルロワイアルの会場の地図であった。
D-1の発電所に赤いポイントが点滅している。
「D-1の発電所はこの島の電力を安定に供給されるために最初から禁止エリアにしておりました……。
万が一、ゲームの転覆を目論む参加者がここを破壊するという可能性をなくすために……。
ゲーム開始から無人のエリアにもかかわらず、そこから通信形跡があり、しかも、それは村岡の空白の時間と符合する……。
そして……」
後藤は画面を操作した。
パソコンから流れ出したのは――

『違う…この声は…会長だ…』
『なんだ…?ワシでは不満かの…?忙しい黒崎の代わりに…お主の要求を呑んでやろうと思ったのだが…』
『いやいや…まさか!この村岡隆…感謝の気持ちこそあれ、不満なんて思いは…これっぽっちも無いざんす…!!』
『ククク…そうか…。ならば…お主には死んでもらうぞ…村岡隆…!』


それは村岡と黒服、そして、兵藤のやりとりと思われる会話の音声であった。
主催者本部で確認が取れている映像は、村岡がギャンブルルームの黒服に難癖をつけようとしていた辺りまで。
その後、突然、映像と音声が遮断。
回復した時、そこに映っていたのは村岡と黒服の死体と、卓に並べられた麻雀牌だった。
その時間、E-2に立ち寄った参加者は誰もいない。
ギャンブルを行ったのは第三者――主催サイドの犯行である。
蔵前とも在全とも意志疎通が行われている今、バトルロワイアルを荒立てて得をする人間はただ一人――兵藤和尊のみである。
しかし、黒だと分かっていても、決定打となる証拠はなかった。
後藤が持ち出した音声は遮断後の村岡と兵藤のやり取りを淡々と記録し続けていた。

「全てのギャンブルルームと盗聴器、隠しカメラは帝愛の方々が準備してくださりましたが、
そこまで帝愛の方々に甘えてしまうのは申し訳なく思い、
こちらも僅かではありますが、ご用意させていただきました……」
後藤は帝愛も把握していなかった盗聴器の存在を恩着せがましく暴露した。

(やはり、在全は帝愛と誠京を信用していなかったか……)
黒崎は皮膚の表面に不快感をにじませた。
しかし、この証拠のおかげでギャラリーに説明することができる――村岡の死は兵藤の身勝手な振る舞いによるものであり、黒崎に非がないということを。
在全サイドの行動は主導権を握る側としては非常に不愉快であるが、結果的にそれが黒崎の首を繋ぎ、森田に兵藤殺害の命令を下すことができた。
黒崎は今回のことは不問に付すことに決めた。

後藤はその音声をコピーしたというCD-Rを黒崎に渡した。
黒崎は安堵にも似た苦笑を浮かべながらそれを受け取る。
「後藤さん、余計な手間を増やしてしまい、申し訳ございません……」
「兵藤の行為は明らかに我々を陥れようと目論んだもの……
これ以上、野放しにしてはゲームが破綻する恐れがあります……
それに兵藤を潰す……我々が結束した理由はそこですからな……」
「そうですな……」

黒崎は後藤に当てて、一通の書類を送っていた。
『今回のギャンブルが成功しました折には兵藤和尊を会長の座から引きずり落とし、
帝愛と在全、そして、誠京…その三者で手を結び、更なる発展を築きましょう』
在全はそれを了解し、三者同盟が成立していた。

在全も兵藤も日本を代表する資産家である。
在全はアミューズメントパークなどのレジャー産業、兵藤は消費者金融業界でそれぞれ勢力を伸ばしていた。
本来であれば業種が違うため、同じ富豪であっても張りあうことはなかった。
しかし、近年、兵藤が在全の得意分野であった、エンターテイメント性を重視した裏ギャンブルを催すようになったのだ。
良い例が、鉄骨渡りである。
金と裏ギャンブルを足掛かりに、帝愛はあっという間に政界と太いパイプを築いてしまった。
噂によると、特に元総理大臣の橋爪竜蔵とは懇意の間柄であり、彼が在任中、通した法案は帝愛が優位に立つものばかりだったという。
自分と同じ手口を使い、社会で伸し上がる。
要は兵藤という存在自体が、在全にとって面白くないのだ。

黒崎と後藤のやりとりを横目で見ながら、蔵前もクスクス笑う。
「在全のところもそうであろうが、わしにとっても兵藤は邪魔な存在っ……!
奴を消すことも黒崎との密約の一つじゃ……」
帝愛と誠京との間で、兵藤を亡き者にすることは確定済みであった。
第一回定時放送前の黒崎と袋井の密会はその相談であった。
いくらこのホテルが在全グループ主導で用意されたものとは言え、どこで兵藤の目が光っているかは分からない。
だからこそ、筆談でやりとりをしていたのだ。

「我々の目的は初めから同じであった……
ならば、初めから我が在全グループも話に加えてくださればよかったものを……」
後藤は拗ねたような表情で腕を組む。
第一回定時放送終了直後、帝愛に疑心を抱いた後藤は主導権を握ろうと、森田と銀二を餌にした取引を蔵前達に持ちかけた。
その密約はすでに黒崎との間で交わされていたため、後藤は突っぱねられてしまうのだが。
図らずも道化を演じてしまった後藤が、不機嫌になるのも無理はない。
そんな後藤を見ながら、袋井は肩をすくめる。
「だからおっしゃったではありませんか……“いずれ分かる”と……」
黒崎と袋井の密会では兵藤失脚のプラン、森田の首輪回収依頼の他に、在全グループと手を組むか否かという議論も含まれていたのは言うまでもない。


黒崎は表情をやわらげると、両手を組んだ。
「兵藤は何かしらの護衛策を用意しているはず……
強運の持ち主と言われた森田鉄雄とて兵藤に敵うかどうか……」
普通に考えれば、碌な武器を持っていない森田が兵藤と戦えば、あっけなくやられてしまうのは目に見えている。
しかし、冷静な判断力と強運を武器に、裏社会のフィクサーの相棒として生きてきた男である。
もしかしたら、相打ちという形で兵藤の息の根を止めることができるかもしれない。
「しかし、それ以前に……」
後藤は顎に手を当て、考え込む。
「森田は本当にD-1へ向かってくれるのか……」
森田が一筋縄ではいかない性格であることは後藤も認識している。
黒崎の命令にきな臭さを覚え、あえて向かわない可能性もある。

「森田は我々の希望通りにD-1へ向かいますよ……」
黒崎は朗らかな表情で後藤の疑問に答える。
「森田はD-1に首輪解除に成功した参加者がいると睨んでいる……。
森田が自分の予測を信じ続けるのであれば、その参加者を助けるため、首輪解除の方法を知るため、向かうでしょう……。
また、もし、我々の発言を信じるのであれば、主催者を倒すチャンスと考え、やはり向かうという考えに行きつくはず……。
もちろん、森田もそこまで愚かでないでしょうから、そこに命を脅かす罠が存在するであろうことは承知しているはず……。
ただ、自分を殺せとまで言える男が、そんな罠程度で怯むことはないと思いますよ……」
黒崎は“まぁ、それでも向かわない時は首輪を爆発させれば済む話です……”という言葉で話を締めくくる。
「なるほど……」
後藤は合点が行ったかのように、満足げに頷く。
「森田は割と慎重な性格だ……。
もしかしたら、多少の準備はするかもしれませんな……
例えば、他の参加者を連れだって乗り込むとか……そうなれば……」
後藤はニヤリと嗜虐的な笑みを浮かべる。
「こちらとしても有難い……
ギャラリーにより刺激的な映像や音声を提供することができますから……」
「実は私もそうなることを願っているのですよ……」
後藤の意見に、黒崎もどす黒い笑いで返した。

「ほう……森田が兵藤を殺害できる可能性があるというのか……」
蔵前の森田への要望はあくまでも参加者の大量虐殺であった。
しかし、強制的に指示をしても森田は動かないであろうと予測していた黒崎は、土壇場になって参加者殺害から兵藤殺害へと指示を切り替えたのだ。
蔵前としては森田が殺人という“醜い”行為を経て、“醜い”人間になり果て、無様に死ぬことを望んでいる。
対象が誰であれ、その過程を目撃することができればいいのだ。
兵藤殺害の手間も省けるということもあり、結果的に黒崎の独断を受け入れた。
「結果が読めぬ戦いか……実に面白いっ……!」
気分を良くした蔵前はワインを一気に飲み干すと、深く息を吐きだした。



「では、さっそく作業に入りましょう……」
黒崎はD-1禁止エリアを解除しようと、自らのパソコンに手を伸ばした、次の瞬間だった。

『そんなことする必要はないぞっ……!!』
黒崎と後藤のパソコンの画面に、新たなアクセスが入った。
「あ……あなたはっ……!」
黒崎と後藤は同時に息を飲む。
映っていたのは在全グループ総統・在全無量であった。
二人の驚きを他所に、在全は晴れ晴れとした微笑で尋ねる。
『ククク……森田が禁止エリアの解除権を託したのは宇海零っ……!
零ならどこを選ぶと思うっ……?』
「彼ならば……」
後藤の口元が不敵に吊り上がった。
「おそらくはD-1っ……!
標の意志を継ごうとしているのであればっ……!」
標はゲームの序盤、赤松と共にD-1エリアの近くまで赴き、その様子をメモに詳細に記録していた。
そのメモは赤松を経由し、零の手の中にある。

欲しい答えを得た在全の表情は笑顔で歪む。
『その通りじゃっ……!!さすが、我が右腕じゃっ…!』
後藤を褒めたたえる在全の全身から陰惨な冷気が帯び始める。
『ゲームはあくまで“公平に”じゃっ……!』

皆、一瞬呆然とするも、在全の意図が分かるや否や、噛み殺したかのような笑いを次々に漏らしだした。
「そうですね……あくまで公平に……」
禁止エリア解除権というルールを設けた以上、そのルールは尊守しなければならない。
このルールを適用したために兵藤が死ぬことになったとしても、それは命が狙われるような場所に居合わせた兵藤自身が悪い。

「ふふっ……ルールは不備がないように設定したつもりだったのですが……」
「それでも起きてしまった事故はやむを得ぬ……。
まぁ、その事故で最も危険な“対主催”が消えてくれれば、わしらも安心してバトルロワイアルと“事業”を続けられる……」
「そうですね……我々の今後のために……」

このゲームに集まった主催者達は猛悪なだけでなく、際限がないまでに自分の利益に貪欲であった。
人間の格好をした獣。
金と権力で膨れ上がった巨獣。
巨獣たちは獲物が弱るのを今か今かと待ちわびている。



【G-6/ギャンブルルーム/朝】

【森田鉄雄】
 [状態]:左腕に切り傷 わき腹に打撲
 [道具]:フロッピーディスク(壊れた為読み取り不可) 折り畳み式の小型ナイフ(素材は絶縁体) 不明支給品0~2(武器ではない) 支給品一式
 [所持金]:1000万円
 [思考]:人を殺さない  銀さんに頼らない E-3銃声の場所を調べる(利根川の死体)
※フロッピーで得られる情報の信憑性を疑っています。今までの情報にはおそらく嘘はないと思っています。
※遠藤がフロッピーのバックアップを取っていたことを知りません。
※黒崎から支給された、折り畳み式の小型ナイフを懐に隠し持っています。
※黒幕が帝愛、在全、蔵前であること、銀二がバトルロワイアルの首脳会議に参加し、今回の企画立案をし、病院がらみのスキャンダルで主催者を潰すこと、D-4ホテルで脱出の申請を行うことができる可能性について聞きました。
※黒崎からD-1にいる兵藤を殺せという命令を受けました。



160:泡沫 投下順 162:出動
155:第三回定時放送 ~契約~ 時系列順 156:集約
155:第三回定時放送 ~契約~ 森田鉄雄
155:第三回定時放送 ~契約~ 黒崎義裕
130:宣戦布告(前編) (後編) 在全無量 162:出動
113:第二回定時放送 ~起爆~ 後藤利根雄
099:投資 蔵前仁
099:投資 袋井




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