とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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本気




満点の星空、あの鉄橋の上で、
美琴は恐怖していた。
ヤツの全力が、想像以上だったのである。

(常盤台の寮には、帰れない…………)

それどころではない。
学園都市中のホテル、ネットカフェに寮監の手が及んでいる。
何が起こったのか。
簡単に言うと告げ口だ。

(迂闊に町の中を歩くこともできない)

学園都市にあるカメラは、既に守護神の手中だ。
さらに不特定多数の人が、美琴を発見した瞬間にるいぴょんに連絡を入れるはずだ。

(能力は使えないし)

AIM拡散力場なぞ、第一位に居場所の情報を提供する場に過ぎない。

(裏路地にも隠れられない)

スキルアウトの情報網なんて、どうやって掌握してんだアイツ。

(…………どうしろってのよ…………)

鉄橋で佇む美琴。
はぁ、とため息を吐いたときだった。

「おっす、美琴」

と声が聞こえた。
そちらを見ずに、逃げ出す美琴。
しかし、

「はい、あとはお願いしますの」

「おう、サンキュな」

瞬間移動で振り出しに戻った。
もう右手で握られている。
逃げられない。

「黒子の裏切りものーーーーー!!」

「最初にわたくしの愛をふりほどいたのは、お姉様ですの」

では、一線だけは越えぬよう、
と言い残し消える風紀委員。


鉄橋に残されたのは、男女2人。

「やっと捕まえた」

3日ぶりだなー、と話すツンツン頭は上条当麻である。
彼の右手に捕まれた美琴はキッと睨みつけるのだった。

「なんでここがわかったのよ!!!!」

「ん? 正確にはお前が誘導されたんだよ。人払い?っていう魔術の応用なんだけどな」

ちょっと待ってくれ、といって、携帯であらゆる方面に連絡する上条。
その間美琴はあの白い少女と小さい少女を思いだし、頭を抱えた。
携帯をしまう上条は、頭を振り回す少女を見て苦笑する。

「もう少しで海外に逃げたことを疑って、秘密裏に国際手配するようスパイや大統領、裏組織の首領にお願いするとこだった」

笑えない。
少し顔を青くして、上条を見る美琴。

「悪いけど、この世で俺からは逃げられないみたいだ。で、聞きたいんだけど、なんで逃げるの?」

青かった顔をみるみる真っ赤にして、ボフンと音を立てて頭を爆発させる美琴。
あう、と言って動かなくなる。

「…………話さないなら、オレから確認しちゃうぞ」

「ま、待って!!」

川の音が耳に入る。
それ以外に聞こえない。
川の音が耳に入る。
それ以外に聞こえない。
川の……

「それは3日前のことだっ「ふにゃあああああああああ!!」もぐっ」

上条の口が美琴の両手で塞がれた。
真っ赤で涙目の美琴。
しかし、上条も我慢の限界なのである。
だから、

「ひ、ひにゃあああああああああああ!!」

なめた。
ペロリと。

「にゃにすんにょ!!」

「3日前」

上条の真剣な顔に、固まる美琴。
心拍数がどんどん高くなるのがわかる。
身動きが、とれない。

「あの公園で、お前が告白してくれたんだよな?」

いつもの帰り道。
いつものように鉢合わせして、
いつものように会話を楽しみながら帰っていた。

そんなとき、ふと公園で彼女が立ち止まったのだ。
上条が振り返って見た景色は、夕日を背にした御坂美琴。
あまりの美しさに息を飲んだ。
自然に。
そう、自然にという言葉が適切だ。
自然に彼女の口は動いていた。

『わたしは、上条当麻のことが、すきです』

思い出しただけで、顔が爆発する美琴。
再び逃げ出そうとするも右手からは逃れられない。
ふと気付くと、落ち着く香りに包まれていた。

上条に抱き締められていたのである。
感情が大爆発し、絶叫する美琴。
しかし、上条が耳元でささやくとピクリ、と動いて固まる。

「なんで答えも聞かずに逃げたんだよ?」

「ぁぅ、あの…………その…………」

そっと肩を抱き、体を離す上条。
「あっ…………」と、美琴が寂しそうに呟いたのは聞こえないふりをした。

「罰ゲームや、なにかのSOSなのかと勘ぐったりしたし、超能力や魔術が美琴に悪さしたのかと心配したんだぞ?」


一瞬で美琴の表情が変わった。
迷惑をかけてしまった。
焦りにも似たその表情を見て、
上条は安心させるよう、言葉を続ける。

「でも、それがよかったよ」

「どう、いうこと……?」

若干涙目の美琴に、
上条はイタズラっ子のように笑いかけた。

「おかげで、美琴がオレのことを好きで好きで仕方がないってことを、知ることができたからな!!」

一瞬沈黙。
そして、

「みにゃぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!」

また絶叫。
そして放電。
んでもってゲンコロ。

「情報を集めるときに、佐天や初春たちに話を聞いたんだ。そしたら、不安だったオレにみんな教えてくれたんだよ」

打ち消しただけではない。
そのままナデナデに移行する幻想殺し。
美琴は、

「ふにゃぷにゃ、ぴゃぁ……ぴー……」

限界だ。
立ったまま意識を放棄。
現実で逃げられないなら、現実から逃げるだけである。
しかし、ヤツはそれすら許さない。

「はい、起きろ美琴~。ギュム~~~~!!」
「べやぁあああああああああああ!!」

もう一度抱き締めやがった。
鼻いっぱいに上条の香りが広がる。
全身で上条の抱擁を感じる。
こんなん起きるに決まっているのだ。
で、もう一回距離を置く。

「で、考えたんです」

「ぁぅ……」

「オレが美琴のことをどう思っているのか」

「」

「あれ? 美琴さーん?」

また止まった。
抱き締めるも起きない。
ため息が出た。

「キスしちゃうぞ」「おはようございます!!」

そこまで嫌かよショックー、とほざくツンツン頭。
そろそろ美琴の心臓はもたない。
しかし、彼は今まで生きてきたなかで、
おそらく最高に本気なのだった。

「オレが美琴をどう思っているのかを伝える前に!!」

「ま、前に……?」

「お前はオレを"異性として"どう思っている?」

「ふわ「次気絶したら絶対にキスする」…………にゃぁ」

真っ赤である。
もう、涙目の末期症状だ。
眉はハの字。
口はぐにゃぐにゃに波打っている。
上条は、困ったような笑みを浮かべた。
だが、ここで許しはしない。

「美琴、オレはな、お前のことを……」

頭に、手を添える。

「"異性として"好きだ」

右手がパキーンと叫んだ。
パクパク動く美琴の口に笑みを殺しながら、
上条は告げる。

「もう一度聞く……。御坂美琴、お前はオレのことを、"異性として"どう思ってる?」

美琴の目はついに我慢の限界だった。
見事なまでに赤い顔に、2筋の線が輝く。

「そん、なの……、決まって、る、じゃにゃい!! すきなんてもんじゃない!! アンタの、ことが、大好きで、しかたにゃいんだがらゃぁぁああああああああああああああああ!!」

逃げた。


もう一度いう。

美琴は、全力で走って逃げた。

彼女を抱き締めるために動いた腕は、
虚しく空振り。

一瞬感情を無くした上条。
少しして表情と背景の文字で、
「え~?」という気持ちを全力で表す。
しかし、気づいた。
少し先の鉄柱。
その影に美琴はいた。

「ぽーー…………」

真っ赤である。
頭の上にふわふわとお花を飛ばし、
熱視線を上条に送る。
つまり、見とれているのだ。
その熱にあてられた上条も、
一瞬顔を赤くする。
しかし頭を振ると、全力で美琴に向かって走り出した。

「えぇ!!? あ、ふにゃ……うわ~ん!!」

あたふたした美琴は、結局逃げることにしたらしい。
今日この日、

「いや!! 絶対に今ではオレの方がお前のことを大好きだもんね!!」

と叫びながら追う男と、

「そんなことないもんっ!! 絶対にわたしの方が大好きなんだからぁぁああああああ!!」

と叫びながら逃げる女が付き合い始めた。
バカップルこの上ない2人だが、数年後にあっさりとバカップルをやめてしまう。

というのも、

アイツがまた本気を出しただけなのだが。










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