とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part66

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ただいま


攻撃を受け、少年は地面を転がる。
ローラはそのさまを、蟻を踏み潰す幼子のような笑みで眺めていた。
しかし、

(……さて)

思考はあくまで機械的に現状を把握する。

操車場の砂利が2名の人物によって踏み潰される。

「……ものものしい装備だね、まるで戦争に赴く騎士のようだ」

煙草からの煙が舞った。

「上条の御大将を探してるんだ。『アネリ』だけでも不安だよ」

確かに、と笑うステイルの耳に、
バイクの駆動音が、心臓の音のように響く。
浜面は、笑って続けた。

「ルーン、っていうのか? 大量に貼ってあるみたいだけど?」

「あのバカに付き合うんだ、あと十倍は準備しておきたいところさ」

きっとそれでも足りねぇよ、と話す浜面の耳に、
アネリが戦闘能力計測不能と、警笛を鳴らし続ける。
ステイルの靴が、先程までくわえていた煙草の火を消した。

「それは駆動鎧、ドラゴンライダーというんだろ? お前にそれをつけさせたら歯が立たないと、アイツが言っていたよ『浜面仕上』」

怪物に、浜面は股がる。

「『ステイル=マグヌス』と戦う時の恐怖はアイツから聞いてる。ルーンが貼ってあるところじゃ無敵らしいじゃんか」

浜面の視線の先には、新たな煙草に火をつける魔術師。
煙草がゆっくり揺れた。

「今回は退け。ヤツは僕たちが対応する」

目の前の機械が退かないだろうとわかっている。
無意味な会話。

「いや、そっちが退けよ。また明日にでも出直してこい」

しばらくの静寂。
次の瞬間、ドラゴンライダーが駆け、魔女狩りの王【イノケンティウス】が吠えた。

騒動の音は鉄橋まで届かない。
しかし、ローラ=スチュアートには手に取るように動きがわかった。

(上条勢力なんて大業な名がつけられてはいるが、組織の体をなさない上条の友達というくくりでしかなし)

同じ携帯の電話帳に、名前があるというだけ。

(それぞれが上条当麻を大切に思っていても、所詮は個々の思惑。たまたま遭遇した"上条勢力の誰か"など、もはや赤の他人。上条当麻を救う、という言葉にも、最後の最後で信用できはしない)

目に映らない事象ですら、
ローラ=スチュアートが遊ぶ盤上からは逃れられない。

(…………御坂美琴は……)

白井黒子は瞬きした。
あちこちに、不穏な空気が蔓延している。
だというのに、何一つ通報も、騒音も届かない。
いてもたってもいられず、デスクワークをお花畑に投げ捨て暗闇の中に飛び出した。

気になるところに何度もテレポートするも、なにも見当たらない。
彼女は、その行動すら自分が知らない法則に従っていることには気づかない。
わだかまった感情を、ため息とともに吐き出しながら、上空を見上げた時だった。

一瞬、御坂美琴の短パンと、こちらに手を振るインデックスが見えた。
ぱちくり。
慌ててビルの屋上に飛ぶが、もはや姿形もない。
慌てて相棒に電話する。

「もしもしっ!! 初春ですの!!?」

「初春ですよっ!! 今日は白井さんが誘ったんですよね!!? 『木原円周の行動パターンを調べて先手を射つ』んですよね!!? なに勝手に飽きてサボってんですか!!」

「そんなことより!! 今空を見上げたら、お姉さまのおみ足とインデックス様が見えましたの!!」

「……はい?」

「わたくしが間違える訳がありません。あれはお姉さまに違いありませんわ!!」

「…………あぁ、ついに幻想まで見えるようになったんですね。上条さん呼ばないと……」

「そこですの」

眉をひそめる初春の花が、次の白井の言葉で揺れた。

「『木原円周の脱走』という大きなイレギュラーがあった翌日に、あの上条さんとお姉さまがなんの動きもしていないなんてことがおこりえますの!!?」

沈黙は一瞬。

「学園都市中のカメラをハッキングします。少し時間をください!!」

(ふむ、もう少しかかるか……)

ローラ=スチュアートは左手を振るいながら思考する。
腕のタイミングに合わせて少年が地面を転がった。

(さて、あちらは…………)

スザザザッ、と靴が地面を擦る。
第23学区。
パラサテライト01発射場の地に立つは、世界に20人しか存在しない聖人。

(まさか、彼と相対することになるとは…………)

彼女はその感想を抱くことすら、あの平凡な高校生の影響であることに気付くと苦笑する。

(…………まったく、科学側の人間と戦わないことをいつの間にか想定しているとは……)

ため息を吐き、再び前を見る。

(時間切れまで逃げ切れば勝ち。これだけわかりやすく…………)

そこに君臨するは、最強。

(これほど困難なことも珍しい)

白い狂気は、笑う。

「テメェら聖人のキャッチコピーは、核に匹敵する戦力だったよなァ。過少評価だ」

笑う。

「だがこちとら、核を撃たれても死なないって評判なンでヨロシク」

その刹那、音が消えた。

ローラは届かないはずの剣撃に耳を傾ける。

(さてと……)

もう少しかな?
という感想とともに、ローラは再び手を振るおうとした。

が、

その直前で後方に跳躍する。
彼女がもといた場所は、紫電の光に包まれた。
ローラは音もなくふわりと着地する。
表情は相変わらずの笑み。
驚愕に染まったのは、少年の顔だった。
嬉しそうにローラは呟く。

「予想以上に早い到着でありしな」

風が、吹いた。
シャンパンゴールドの髪がたなびいた。
チェック柄のスカートがはためき、
その内側に短パンが覗く。
抱きかかえるは、

「ぶぅ!! だーっ!! だうっ!! めっ!!!!」

白に包まれた銀髪の赤子。


雷神、御坂美琴は戦場に立った。











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