とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part053

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匿名ユーザー

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第3部 第13話 第三章(3)


すでに時刻は7時を刻み、朝日が学園都市を照らしている。
開会式は9時に設定され、それまでに木原唯一が企てた計画を阻止しなければ
ならない。

木原唯一は、エレメントという最大全長100mに達する巨大昆虫形態の兵器を
を使い、学園都市を物理的に機能不全にする予定だった。
決行開始は午前8時。開始後エレメントは幾何級数的に増殖し、半日で
学園都市を食いつぶす予定だった。

(だけど・・種さえわかれば・・どうということはない)
まずは・・・右手を伸ばし、窓のないビルの地下下部空間全体を超高圧電流で荷電
させ、空間をプラズマで満たす。

プラズマで満たされた空間から軟X線が放射され、あらゆる機器が火を噴いて
ぶっ壊れる。数万度に達する高温大気に耐えられる元素など存在しない。
莫大な軟X線が空間を包み、瞬間的に蒸発する。その空間に存在していた、あらゆる
物質が、蒸発し、プラズマに還元される。

耐熱被膜も、耐電磁シールドも関係ない。高温プラズマはあらゆる、防護を無力化
する。あらゆる物質が、電荷と磁力が支配する、プラズマへ変換され、私の得意分野に変換
させる。形を失い、電荷と磁場に支配されたプラズマが保護膜へ吸収され雲散霧消する。

(ついでに、あれ壊しましょう・・)

私は、右手を伸ばし、ロケットブースタをマイクロ波で破壊する。
数万度に加熱し、固体だった物質は、液体を飛び越え気体・プラズマへ変わり、雲散
霧消する。本来なら燃料へ誘爆し、窓のないビル自体が雲散し最悪は学園都市自体が
消滅するだろう。だが・・私の保護膜はすべてのエネルギーを吸収し、ロケットブースター
だけを破壊する。

卑屈な志がない独裁者が、魔神に地球をぶっ壊されたときに
脱出する為に作り上げた
窓のないビル=脱出ロケット、全人類70億人を見捨てても自分だけが、助かろうという
浅ましさ・・

そもそもアレイスターが、クローン製造や非人道的な木原の実験を放置し、
ラスボスのふりをして尊大な態度をとれるのも、自分が長を務める街の住民が
全員死のうが、プランは誤差の範囲だとぬくぬくとぬかす。

そんな無責任な態度が取れるのも、自分だけがどんな兵器でも破壊できない要塞、窓の
ないビルにいるせいだろう?自分だけが、安全地帯にこもり、そこからアンダーラインで
監視し、暗部と呪詛で抵抗する人間、不要な人間を暗殺する。

(本当、これを保護者と180万人学生が知ったらどうなるかしら・・)
木原一族は、学生を、能力者を実験動物と言う。だが・・公的な場でそんなことを
言わない。彼らとて彼らの言い分が受け入れられないことは分かっているのだ。

いったい舌が何枚あるのかしらね・・
私は、表向きは科学の発展といいつつ欲にまみれ、学園都市を食い物にする悪党
が大半を占める木原とそれを放置するアレイスターに嫌悪を感じ始める。

ふう・・

(つまらない奴・・結局復讐で、人生を狂わせた男)
だけど、その歴史ももう終わり、アレイスターが使い捨てにした木原唯一に、寝首
をかかれ生命維持装置と指揮管制システムを失った窓のないビルは無力化された。

そして彼が、独裁者としてその尊大さを維持できた根本要因の安全地帯を保証した
保険、脱出装置のロケットブースターも私がついでに破壊した。
(結果的には・・これでアレイスターは窓のないビルを捨てるしかない)

安全地帯から、高見の見物を決め込み超越者を気取った独裁者は、居城を失い
地べたへ突き落とされた。
(皮肉な話ね、私は木原唯一の行為を肯定はできないけど、彼女の狂気が腐った学園都市
に大きな風穴を開けたことも事実・・)

この機会を逃したくない。

そのためには、・・もう少し工作が必要でしょうね・・
私は、やり残した仕事を片付けに窓のないビルの地下から、現場へ向かう。

俺は窓のないビルという密室で、美琴に託された、凶暴な科学者と
さしで対峙している。

本来なら、核兵器でさえ壊せない、独裁者の要塞。
だが、そこに独裁者はおらず、血の跡しかない。散乱した水槽と、独裁者の1700年の寿命を保証した、医療用機器などのコードが雑然と散らかっている。

美琴は、結標とともに退出し、木原唯一が引き起こした惨事の鎮圧に取り掛かっている。
(まあ美琴の事だ、・・なんとかするだろう)
俺は目の前の狂人の相手だけすればいいだけだ・・

(それに、発条包帯も、演算銃器もない。横紙破りも・・そのほかあらゆる武器を美琴
が破壊した)
(まあ1時間もすれば・・どうせ美琴は唯一を回収しに来るだろうし)

少し、電撃の痛みが治まったのだろうか木原唯一は、美琴に生体電流を弄ばれた
痛みに顔を顰めながら俺に苦笑いを浮かべるという器用な顔を形作る。

まだ、逆転する方法でもあるのだろうか?それとも諦念かその表情から、本音を読み取る
ことはできない。
(唯一は呼吸するように嘘を吐くはったり野郎と美琴は言っていたしな)

やがて痛みが収まったのだろうか、木原唯一がおもむろにしゃべり始める。
「ナア上条、・・テメエは御坂美琴をどう思っている?」
「はあ?・・俺の一番大事な婚約者・・だが」
痛みに顔を顰めていた表情を緩め。木原唯一が溜息をつき始める。

「正直、悔しいよ」

「私は、すべてを、時間を、人生を、先生のためにひいては学園都市の為に捧げた」
「だが、アレイスターは先生と私を切り捨て、あの女と幻生を選んだ」

それまで痛みに顔を顰めていた木原唯一が、彼女の屈辱を思い出したかのように
切々を、顔を歪ませながら話始める。

「あれだけのことをしでかしたあの女は、何一つ失うことなく、表から
落ちることもなく、世界有数のお嬢様学校を優等な成績で卒業、表の顔を維持したまま
裏さえも掌握し、私のような存在を追放した。」
「アイツと、アイツを贔屓する学園都市が許せねえ」

俺は、狂人にいいたいように言わせていたが、狂人の半分妄想が入った、戯言に付き合うの
に徒労感を感じ始めていた。俺が知る限り、美琴が積極的にアレイスターに取り入ったことなどないはずだ。風紀副委員長だって面倒くさげに最初は嫌々やっていなかったか?
婚約者として、これ以上なじられるわけにはいかない。俺は事実を告げ始める。

「そうか?美琴はアレイスターと嫌々立場上付き合っていただけだと思うけど」

木原唯一の顔が怒りにゆがみ始める。
「テメエは婚約者の傍にいる癖になにも知らないんだな」
「結局テメエも御坂美琴サクセス・ストーリに騙された口じゃねえのか?」

俺は、あまりに嫉妬に満ち溢れた狂人の戯言に付き合いきれず、反論を始める。

「はあ?」
「能力開発唯一の成功例の御坂美琴を取り上げ、広告宣伝活動に使いまくった
ことをしらないわけじゃないだろう」
「はっきり言って、能力開発と言ったところで、レベル0がレベル5になるなんて、ありえ
ない話だ。」

「レベル1から、レベル5に到達した唯一の例外御坂美琴」
「だが、その裏側を知っている立場からすれば、くだらねえ話だ。素養格付けで
確実にレベル5に到達することが予想され、その予想に従い莫大な巨費と手間をかけて
やっと作り出した、アイドル御坂美琴」
「アイツは、学園都市が外から学生を招くための偶像、アイコンにすぎない」
「それがテメエの婚約者、御坂美琴の不都合な真実という話だ」

俺は、何度も聞かされた、美琴の代わり映えのしない裏話に胸糞が悪くなる。
人間の感情で一番くだらない非生産的な感情は、妬みだ。自分がなすべきことをなさず
成功した人間を、自分の下劣なひん曲がった心で事実を見ようとしない、卑しい性根。
俺は腹に力を籠め、木原唯一に残酷な事実を告げる。

「木原唯一は、御坂美琴よりチャンスが無かったのか?そんなはずないだろう?」
「美琴は、言っていたぞ、研究者として2年前唯一先輩は仰ぎ見る存在だったと、私にはすべてが眩しく見えたとな」

「けえ、御坂美琴は食えねえな、正義の味方面をしながら、裏社会にさえ敵を極力作らねえ」
「裏社会に触れつつも、決して裏社会に落ちない。ある意味化け物だよ。あの女は。」

怒りに満ち溢れていた木原唯一の表情が柔らかくなるのを俺は見逃さない。
御坂美琴には不思議な魅力がある。敵にさえも魅了する不思議な力。
裏とか暗部は、表の人間からは強く見えることもある。だが、裏を知り、裏に触れつつ
決して裏に落ちない人間こそが一番強いのかもしれない。

「なあ上条、ひとつ最後の頼みを聞いてくれねえか」
「なんだ?」
「お互い能力なしで肉体言語で会話をしねえか?」

「はあ 俺はレベル0だけどな」
「私もレベル0だよ。」
「そうか・・テメエも苦労したな」
「上条、正直表街道を突き進む御坂美琴を嫉妬していたのは事実だよ」

「そうだろうな、分かっていたよテメエが美琴を羨んでいたのは」
俺は、すっかり憑き物が取れたような木原唯一を見つめる、怒りも自嘲も取れ
アレイスター側近の誇りを取り戻し、聡明な顔つきを取り戻す。

俺は、拳を握りしめ、木原唯一に対峙する。

「さて、これで全部終わりかしら」

木原唯一が準備した数々の破壊工作活動を、部員で手分けして阻止する。
本人の思考を読んだおかげで手間が省けた。

ファイブ―オーバや、様々な駆動鎧、エクステリアに操られた能力者など。
木原唯一は、大覇星祭妨害にとどまらず、この学園都市自体を破壊するつもり
だったのだろうか?

この事態が表ざたになれば、もはや学園都市機能できなくなるほどの混乱が
巻き起こされたことは間違いない。

だが、それももう終わり、2万体もの駆動鎧、1000機の無人ヘリ、500基のファイブ
オーバーも私と一方通行が全部破壊し、後は未元物質を吐き出す工場を破壊するだけ。
それが終われば、食蜂とともにエクステリアを破壊するだけ。

木原唯一は、垣根帝督の脳細胞を培養し、未元物質を吐き出す、工場を維持していた。
垣根帝督は私と、当麻に敗北後、不可解な事故で行方不明になっていた。
その事実は、木原唯一に隠ぺいされ、誰も知らぬ間に未元物質を吐き出す、装置へ
変容を遂げていた。

私は、その装置から、垣根帝督だったものが、世に放出される前に阻止すべく
地下空間に鎮座する垣根提督の脳細胞から作成された、巨大脳と対峙していた。

地下に巨大空間に設置された、脳を培養する水槽
超硬質プラスチックに保護され、スペック上はいかなる地震も、気化爆弾でさえ破壊
できない装置。その装置と無数の配管とコードがつながり、未元物質を吐き出す装置
と化している。

「こんな気色悪い装置はさっさと破壊しましょう」
私は、その木原の製造した装置を破壊すべく、右手を前に突き出し、手の平からX線
レーザを放出しようとする。

だが私が装置を破壊しようとした瞬間に人らしきものが現れる。
その人もどきは私に声をかける。

「久しぶりだな、御坂美琴」
「アンタ誰?」

垣根帝督の脳が作り出した人もどきが話を続け始める。
「人を殺そうとして、ご挨拶だな・・」
「人?アンタはただの未元物質じゃないの?」
垣根帝督もどきが、人語をしゃべり始める。

「は・・俺は人じゃねえか・・まあ常識ならそうかもな」
「だが、・・そもそも生物とは何か?テメエはそう思ったことはないか?」

「はあ?」
「俺は、エクステリアを使った木原唯一に無理やり、意識を操作され溶解工場で
体を奪われ、こんななりへ変貌を遂げた」
「そうね。木原唯一はそう言っていたわね」
「俺は培養液で脳として生きていた」
「俺は、いったいなんだ?テメエに定義できるのか?」

私は、事態の複雑さに頭を抱え始める。確かに知能と自我のある存在である以上
この人もどきも風紀委員の保護の対象にすべきかもしれない。
(面倒くさいことになったわ・・時間もないし)
私は、垣根帝督もどきに声をかける。

「ごめんなさい、確かにアンタの言うとおり垣根帝督として、アンタを保護すべき
かもしれないわね、ただ・・・少し私に時間をくれない?」
「大覇星祭実行委員として・・か?」

「くだらねえな」
「悪いが、テメエを叩きのめさないと気が済まねえ」

「破壊しようとしたことは謝罪する。だけど、私とアンタに戦う理由がないわ」
「怖いのか?人もどきに負けることが?」
垣根もどきが賢しげに何やら語り始める。
「あの時の俺とは全然違うぞ」
「アンタが、多分強いことは認める。生身のアンタよりもずっと」

私が言い終える前に、垣根がイキナリ攻撃を始める。
羽をとがらせ、羽の先端から未元物質で形成された刃物で私を突き刺そうとする。

だが、・・
私は、硬X線レーザで未元物質剣を粉砕する
「まあ未元物質たって、無限の強度があるわけじゃないわよね」
「こんな攻撃じゃ届かないわよ」

「さすがに、1位様か・・」
「じゃ・・これでどうだ」
突然、私の周りに、妹たち、一方通行に殺されたクローンのドッペルゲンガーが発生し、
私を取り囲む。
「お姉様は、力があるにも関わらず、なぜ実験を止めなかったのですか?」
「お姉様のことなかれ主義がいったい何人殺したんですか?」
妹たちは、口々に私の非道をまくしたてる。私が触れられたくない心の暗部、私の
トラウマ。だが・・
私は、頭をぼりぼりと書き、垣根に相対する。

「垣根もどき・・つまんないわね」
「本物の妹ならまだしも未元物質の人形に、へいこらするほど私は安くないわよ。」

私は、小細工に無性にイライラし始める。垣根もどき・・ひいては木原唯一が
仕組んだ私への心理攻撃にあまり高くない私の心理的沸点が一気に沸点に達する。
「ああ・・せっかく紳士的に対応するつもりだったのに、もう限界だわ・・」

地下空間が、私のAIM拡散力場のゆらぎの反響で大きくきしみ始める。
γ線をベースにした莫大なAIM拡散力場の干渉波は、人形達を内部から崩壊させる。

「お・・おねえ・さ・・ま」
垣根まがいの人形達も含め私のクローンのような、人形も跡形もなく消滅する。

私は、垣根の巨大脳に相対する。

「アンタが未元物質で作った、人形は全部壊した」
「確かにアンタの言うとおり知能のあるアンタを壊すかどうか、統括理事会の判断を得てからにする。だけど、アンタをこのまま放置はできない」

(私は結局アマちゃんかもね、こんな憎たらしい存在すら殺すことができない)
垣根の脳が危機を悟ったのか思念波を私に送り、懇願し始める。
「な・・なにをするつもり・・だ」
「少し眠ってもらえないかな」

私は、強力な睡眠薬を培養液へテレポートし、巨大な垣根の脳を黙らせる。
(それと・・これは保険・・)

私は、保険にある物質を水槽にテレポートし、その場を立ち去る。

(さあそろそろ、仕上げにかかるか)
一通りの鎮圧作業を終え、私は当麻の元へ急ぐ。

 ・・・・・・・・・・
(ただの学者だよな・・)
俺は、木原唯一とさしで能力なしで戦っている。
木原唯一は、ただの女性で卓越した頭脳以外に特別の能力を持たない存在だったはず。

だが、発条包帯もないはずなのに、俺の渾身の右アッパーはかすりもしない。
数々の能力者や魔術師を、黙らせた前兆の関知・・その技が全く通用しない。

俺は息を切らし、肩で呼吸を始める。
(ハア・・かすりもしねえや・・)
木原唯一は合気道か空手の有段者なのかそのフォームに無駄がなく、的確に俺の
攻撃をかわし続ける。
(こんな化け物だったのか・・木原唯一は)
正直俺は木原唯一を甘く見ていた、美琴が瞬殺したので大した奴ではないと
軽く見ていた。だから科学機材、駆動鎧、薬品を奪われた木原など恐れるに足らないと。
だが、科学の尖兵たる木原唯一は自分の体の制御さえ極限まで尖らせまったく、ひとつ
ひとつの所作に無駄がない。俺の自我流のパンチは全く通用せず、時間だけがむなしく
流れ続ける。
(美琴は、こんな化け物を捻りつぶしたのか?)

(このままでは勝てない)
俺の一瞬の雑念を木原唯一は、見逃さない。能力者用に特化し、木原の対能力者戦闘の
決めてのひとつである木原神拳がさく裂し、俺を突き飛ばす。
肋骨でも折れたのだろうか・・激痛が俺を襲う。恐らく、工学的に極大の効果を得るように
極限まで研ぎ澄ました、木原の拳法が俺を打ちのめす。

が・・ァ  俺はノーバウンドで数メートル吹っ飛ばされる。
(なんて強さ・・・だ・・)
背中に激痛が走る。呼吸さえも苦しく痛い。

俺は、何度も体脂肪率数%の100KG越える、スキルアウトと肉体言語で会話をした。
それでもこれほど効果的に能力なしに俺に打撃を与えた奴はいない。
(・・くそ・・このままじゃねじ伏せられる)

木原唯一は、執拗に俺の脇腹をけり、意識を奪おうと攻撃する。まるで残虐性こそが
木原の神髄と言わんばかりに責めつける。

「ケ・・あの御坂美琴の婚約者というからどんなすげえ奴かと思えば、異能を打ち消す
右手以外はただのモブかよ・・がっかりだな」
「オイオイ上条さんよ、仮にも1位の婚約者だろう?御坂美琴には敵は多いんだぞ、
そんなんで、自分の身一つ守れるのか?」
口撃の合間も唯一の攻撃に切れ目がなく、木原の華奢な右手から信じがたい、まるで
駆動鎧のような強烈なパンチが俺の腹を直撃する。
(糞・・なんて強さだ・・下手な肉体強化系より強いぞこりゃ)
(このままじゃ・・美琴がくるまでに殺される)

俺は、木原唯一の戦慄すべき戦闘力に今更ながら驚愕する。
俺は御坂美琴という異常な存在に関わりすぎて、木原唯一のような強者を正当に評価する
目を失っていたかもしれない。
だが、(美琴を侮辱した下衆野郎には負けられネエ)その一念が俺にパワーを与え、痛み
を軽減する。まだ立てる・・よし・・

俺は目を細め、ひたすら唯一の気を目でなく、全身で感じる。極限まで気を
伺い、右手に力を籠める。まるで、呼気の分子、生体電流のわずかな変異、筋細胞
のATPわずかな合成の力場さえ感じる。そんな気さえする。

俺は、態勢を整えつつ、唯一を挑発する。
「何度も、テメエは美琴の邪魔をした」
「ああ?」
「美琴は、邪魔をされ、侮辱されたにも関わらず、テメエを許し、保釈さえ自分で手続を
した」
「そんな三下は美琴が許しても俺が許さねえ」
「な・・なんだと・・」
木原唯一が正気なら、そんな安い挑発には乗らなかっただろ、だが、もともと気に食わない
御坂美琴を擁護され、冷静さを失った、唯一は安い挑発に乗り、大降りに腕を回転させ、上条の意識を刈ろうとする。

(チャンス・・)俺は、ワンチャンスをものにして木原唯一に渾身の一撃をくらわす。
轟音が響きわたり、木原唯一の顔面はゆがみ、口から血をはき、10M以上ぶっ飛ばされ、壁に激突する。白目をむいた唯一はぴくりともしない。
(ふ・・なんとか、倒したか・・?)

安心したのだろうか、骨折箇所がずきずきという表現では陳腐なほど、痛み始める
(まあこれで、少しでも木原唯一が反省してくれればいいんだがな)

ふっと俺が顔を上げると、いつ到着したのだろうか、美琴が俺を見つめている。
「ごめんなさい、もっと早く到着するつもりだったけど、トラップが幾重にあって
手間取ったわ」
「ああ・・いいよ、で、処理は終わったか」
「ええ、AI捜査支援システムも復旧作業も終わっているから、もう安心よ」

「そうか」
美琴が、嘲笑を始める。
「当麻、御免なさい。私は婚約者さえ守れない最低の女だわ」
「他にいくらでもやりようがあった、あげくにシステムを過信し、木原唯一の暴走を
防げなかった。」
美琴が、深々と最敬礼を俺にする。それでもダメなら土下座しかねない勢いで。
「私は、当麻に合わせる顔がない」

御坂美琴は人の痛みを自分の痛みとして感じることができる高潔な人間だ。
そんな人物が、自分のライバルであった、木原唯一を自分への妬みで自滅させ、その
自滅に多くの風紀委員を巻き込み、さらに婚約者に重症を負わせた、その事実に
心を痛めないはずがない。

俺は、そんな美琴が大好きだ。だったら、傷心に苦しむ女にできること・
そんなこと、言うまでもない。そしてどんな言葉も必要ない。

俺は無言で、美琴を抱き寄せる。
美琴の瞼から透明な液体がこぼれ落ちる
他人の前では誰にも見せない涙、俺にしか見せない美琴の涙。
感情をため込んでいたのだろうか、美琴の嗚咽は止まらない。
俺は頭を撫で、美琴の気が収まるの待つ。

やがて、5分が経過し、美琴は涙を拭き、いつもように凛とした表情を取り戻す。
目に輝きが戻り、意思と聡明さに溢れた表情を作り出す。
(やっぱり美琴はこうじゃなきゃな)

見る人に力と勇気を与え、気分を晴れやかにするその笑顔。
俺は、そんな美琴に惚れたんだから。その笑顔を守るためになんでもすると
誓ったのだから。
だから、俺だけは、上条当麻は、いつでも美琴の味方になる。

「当麻、本当にありがとう」
「いつまでもいじいじしてられないわ」
「まずは、このビッグイベントを終わらせましょう」

「ああそうだな」
「じゃ・・そろそろ開会式よ。」

「ああ、で・・これはどうする?」
当麻は、死んだ魚にように無言の木原唯一を指さす。
「そうね、」
「簡単に殺さないわ、犯した罪に見合う、方法で処理する」
美琴は、米俵のように唯一を抱え、俺に告げる。
「じゃ・・本部へ急ぎましょう」

午前9時、木原唯一の反乱は鎮圧され、大覇星祭は何事もなく
無事開会式を迎えた。そのことを知るのは御坂美琴の関係者十数人だけだった。

続く










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