拳王の夢 暴凶星の道

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拳王の夢 暴凶星の道 ◆ozOtJW9BFA



E-3エリアの東部に当たる地点の路地に入る階段で、筋骨隆々たる巨漢が座り身を休めていた。
男は拳王を名乗り、暴力の支配する荒野に覇者として君臨する猛者
銃弾をも通さぬ強靭な肉体と、天地をも穿つ強力な拳足を持つラオウである。

時間を逆上って数分前、ラオウは猛りを内に抑え切れない様子で繁華街に向かっていた。
猛りの原因は、先刻の葉隠覚悟との戦い。
(拳王を相手に迷いの末に敗れるなど、殺すにも値せぬ愚物よ!!)
己が拳に拠ってのみ覇を唱えるラオウには、自分との戦いにおいて情けを持ち込んだ覚悟に怒りを覚えた。
だからこそ覚悟の技を受け、勝利してなお覚悟の命を取らなかった。
甘さを持ってなお一流の武人である事が読み取れた覚悟には、殺す以上の屈辱であると踏んだ上である。
(情に迷う者は、何れ必ず不覚を取る……)
ラオウは猛る。敵対者の物であれ、許せ得ぬ弱さに。
その猛りは気血を逸らせ、息を荒げさせる。
(…………!?)
息の荒げと共に、内臓に痛みが走った。

如何に鍛え抜かれたラオウでも、本郷猛と覚悟との連戦によるダメージと消耗の蓄積は無視出来ないものであった。
本郷は手負い、覚悟は迷いが有ったと言えど両者は共に一流の戦士。
受けた攻撃は確実にラオウに痛手を残し、放った技は確実に体力を削っていた。
身体の芯にダメージが残っているのを感じ取り
歩みを止め、しばしの間自身の身体の調子を図る。

(鼻からの血は完全に止まった。……後問題となる負傷は折れた鼻骨と内腑のみ)
ラオウは秘孔により人体を操作する、北斗神拳を修めているものの
折れた骨を瞬時に治す事や、内臓深くまで負ったダメージを癒す術は持たない。
(時を掛け、傷を癒す他は無し)
強者と対する際、万全の状態でいられぬのはラオウとしても本位ではない。
ラオウは座したまま瞑目し、回復に努める事とした。

 ◇  ◆  ◇

回復に入ってしばらくの後、ラオウは自身の背後の気配に気付く。

「何者だ!?」
「…………ラオウ」

背後の人物からの声は、ラオウに聞き覚えのあるものだった。
「トキか……さすがだな、このおれの背後をとるとは」
その人物はケンシロウとジャギの兄弟子にして、ラオウの実弟トキ。
北斗神拳二千年の歴史において、最も華麗な技の使い手と呼ばれラオウも一目に置く男。

「ラオウよ、これ以上無意味な戦いは止めるのだ……」
「無意味ではない! おれが天を目指す為には、強者との戦いは避けえぬ」

ラオウはトキに背を向けて、座した体勢を崩さない。
トキが決して謀殺を図らぬ者である事を、良く知っている為である。

「望むままに強者を倒し続けても、徒に敵を増やすのみ。その果てに何を掴み得ると言うのだ?」
「フッ……うぬがそれを問うか? 誰よりもおれの生き方を知るきさまが……」
「何故無類の武を持つあなたが、伝承者として選ばれなかったと思う? 何故ユリアもあなたを選ばなかった?」

ラオウは北斗神拳伝承者の候補であったが、先代のリュウケンが伝承者として選んだのはケンシロウであった。
ケンシロウの婚約者ユリアは、ラオウの求めを拒んだ。
だが何れも、ラオウの意に介する所では無い。

「本より伝承者の名など求めておらぬ。そしてユリアがおれを選ぶのではない、おれがユリアを手に入れるのだ!!」
「己の力しか信じ頼めぬ者に、何物も掴む事は出来ぬ。
 あなたが如何に強大になれど、ケンシロウには勝てぬであろう」
「おごるなトキ!! 情に流されるうぬやケンシロウ如きに、この拳王を見切れぬわ!!」

ラオウは怒りを込めトキに目を向ける。
身体は痩せ細り髪の色素は抜けても、澄んだ表情は昔と変わらぬ様に見える。
その悲しみを湛えた眼差しも。
「もはやうぬと語る言葉は無い!! おれは拳王!! 己の生き方を省みる甘さは持たぬ!!」

トキが目を瞑ると、次第にその気配は消えていく。
「…………ではラオウよ、これだけは憶えておくのだな」
やがてその姿も、薄れて消えていった。
「愛も、情けも、悲しみも知らぬ者に決して勝利は無いのだ…………」

 ◇  ◆  ◇

曖昧模糊としていたラオウの意識が、急激に鮮明になっていく。
(今のは、…………トキの幻か?)
思考力が回復するにつれ、トキが現れる事の無理に気付いていく。
(…………夢を見ていたのか……)

現状を思い出したラオウは、自分への憤りに歯噛みする。
(ぬう……この拳王が、戦場で夢想に浸るなど恥ずべき惰弱!!)
本来は眠りについていたからと言って、隙を作るラオウではないが
先程までのラオウは、恐らく敵の接近にも気付か無い程に意識が薄れていた。

(何故今更にトキの夢を見る? 弟への想いが、まだおれに残っているとでも言うのか!? あるいは……)
ラオウは数時間前に自分が戦った相手、覚悟の言葉を思い出す。
『貴殿はもし愛する者の為に、成すべき事の為に望まぬ闘いに身を投じた女人やまだ若年な子供が闘いを挑んできても
 その剛拳で彼らの思いごとねじ伏せる事が出来るか?』
(おれの中にも、覚悟の様な甘さや迷いが潜んでいたか……)

しばしの間、逡巡するかの如く不動を保っていたラオウだが
(フフフ……下らぬ! 今更何を惑う所がある!!)
やがて腕を組んだまま、脚の力だけで悠然と立ち上がる。
(おれの生き方に敗北も後退も無い! もしその果てに拳王として天を握れぬとあらば……)
骨折部分の痛みは消え内臓に痛みは残るものの、ラオウは戦闘に支障無しと破断する。
(魔王となりて天の下の全ての者を敵としても、打ち倒し尽くす覚悟は出来ておるわ!!)
ラオウは再び歩み始める。
未だ見ぬ強敵に思いを馳せ。
未だ見果てぬ天への野心故に。

 ◇  ◆  ◇

歩みの中ラオウは遠目に、赤い十字のマークが描かれた白い建物を見付ける。
地図とコンパスを取り出し、推測される大体の現在位置からの方角や距離から
その建物が地図のF-4エリアに記載されている、病院だと割り出した。

殺し合いの中病院に居る者は怪我人かそれを狙う輩位で、自分の望む強者は居ないと考えていたラオウだがやがて違う推論に至る。
(ケンシロウや覚悟の様に身を賭して他者を守ろうとする者ならば、負傷せずとも病院に居て可笑しくない)
怪我人や弱者が身を隠す場所として守る為、病院の警護についている強者が居る可能性に思い至った。
もっともそれらはあくまで推論であり、確率としては繁華街の方が人が居る可能性は高いとラオウは踏んでいる。
だが一口に繁華街と言ってもその範囲は広く、行き着いてもその中を更に探し回らねばならないだろう。

(向かうとすれば繁華街か病院の何れか……だが所詮は、この地に居る全ての強者を屠るまでの時間の問題よ)
時刻は間も無く、二度目の放送が鳴る正午。
暴虐の凶星が目指す先は―――。

【E-3 東部 1日目 昼】
【ラオウ@北斗の拳】
{状態}内臓に小ダメージ 、鼻の骨を骨折、
{装備}無し
{道具}支給品一式
{思考・状況}
1:ケンシロウ、勇次郎と決着をつけたい
2:坂田銀時に対するわずかな執着心
3:強敵を倒しながら優勝を目指す
4:覚悟の迷いがなくなればまた戦いたい
5:人が集まりそうな繁華街か病院に行く


119:吉良吉影の発見 投下順 121:君には花を、いつも忘れないように
119:吉良吉影の発見 時系列順 121:君には花を、いつも忘れないように
098:SPIRITS ラオウ 130:絡み合う思惑、散る命



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