波紋の記憶 ◆vPecc.HKxU



「……………オオオオオォォォォ――ッ!!!」
「ジョジョッ!? なにするのよ!!?」

エリアG-8の大通りに面した民家の一角で少女、柊かがみの怒声が響く。
怒声の矛先は身の丈195cmを誇る波紋の戦士、ジョセフ・ジョースター。
数分前まで仲間だったはずの彼は今、腕を前後に180度以上広げるというポージングでかがみを見据えている。
そこから湧き上がる波紋のオーラ、そしてジョセフが放つ『スゴ味』にかがみは金縛りにも似たような感覚を体験していた。

(や……やられる……っ…)

背後には壁。全力で逃げたとしても常識破りの速度で走るジョセフから逃げ切ることは無理。
「逃げられない」 かがみは覚悟を決めた。
吸血鬼…不死王アーカードと対峙した時と同じく、激戦を握り締める。
それと同時に、ほんの半日程前に頭部を砕かれた記憶が蘇り、
かがみは恐怖の表情を浮かべ、歯を食いしばり目を瞑った。
だが、ジョセフはそれを見てなおポージングをやめない。

――ピチャッ

ジョセフの手の先から油が垂れて落ちる。
次の瞬間!! あろうことか!!
ジョセフはその筋骨隆々の肉体を思い切り捻り、かがみの頭部目掛けて手刀を突き出したのだッ!!

 メ メ タ ァ ! !


 ◇  ◆  ◇


「……やる時は最初に断ってからにしろ――っ!!」

本日何度目かにもなるかがみの鉄拳がジョセフの顎にクリーンヒットする。
それ自体に大したの威力はなかったのだが、ジョセフがオーバーに吹っ飛んで民家の観葉に突っ込む。
ジョセフ本人はこれで笑いを取って許してもらおうという魂胆だったのだが、依然かがみは怒り心頭だ。

「オーいてぇーッ。そーいやシンジにも同じことやって似たよーなこと言われたっけ」
「懲りないヤツなのね、アンタって……」

半分呆れ気味にかがみが頭に手をやる。
つい先ほど、確かにジョセフの手刀はかがみの頭部に当たった。
だが、かがみが頭にやった手には血の生暖かさはおろか、たんこぶの1つの感触すらない。
しいていうならば、少しおでこにサラダ油がついたくらいである。

「ヘヘッ。だが、今のは意味があったぜ。なんたって…」

そう言い、ジョセフが近くに落ちていた円盤状の物体を拾い、器用に回す。
それはまさしく、かがみが使っていたスタンド―マジシャンズ・レッドのディスクだった。


 ◇  ◆  ◇


時は少しさかのぼる。
かがみが自分の足で歩くことを決意し、駅周辺の探索を始めようとした直後のことだ。

グウゥ…

「オイオイ。かわいい腹の音だな、かがみ」

腹が減っては戦はできぬ。などと言うが、かがみはそんな状況であった。
参加者がこの場に集められたのはもう18時間ほど前のこと。
特にかがみは何度か嘔吐をしていたため、もはや胃の中には何も残っていない。
それでもこの数時間は友人や仲間の死を悼み、気にする余裕がなかった。
しかし、友人や仲間の死に向き合おうと考えた瞬間、身体の緊張が少しほぐれたことで空腹が気になり始めたのだ。

「しょ、しょうがないでしょ! 食べ物もみんな燃えちゃったし、家の中にも何もないし…」

それに気付いたかがみが冷えた腹部を押さえ、顔を赤らめる。

「しょーがねェな。コレやるぜ」

そう言い、ジョセフがデイバックの中からコンビニで売っていそうなカツサンドとコッペパンを取り出す。
デイバックにはあらかじめ食料がいくつか入っているのだが、その内容も実はランダムらしい。
ちなみにそれらの種類は現代日本で食されているものに限られているのだが、特にそれと察する者はいない。

「あ、ありがと。こっち、もらうね」

差し出された二つのうち、コッペパンを受け取り口にくわえる。
それを見てジョセフもカツサンドを口に放り込んだ。

「お、これウマイな。波紋のおかげであんまハラは減らねェけど、やっぱりイイもの食べると心が躍っちゃうネッ!」
「まあ、確かにコンビニで普通に売ってるものでも、お腹減ってるとおいしく感じちゃうわよね」
「コンビニ? こんなのが普通に売ってる店がかがみの住んでるとこじゃあるのか? 便利なもんだぜ」
「……? コンビニくらいアメリカとかイギリスにもあるでしょ?」

まるでコンビニという単語を始めて聞いたかのようなジョセフの質問に、再びかがみの頭に疑問がよぎる。

かがみがジョセフの上に乗っていた時……語弊がありそうなため、言い直そう。
精神疲労のためまともに立てず、ジョセフに背負われていたとき、二人は色々な話をした。
スピードワゴンという老齢の石油王の知り合いがいること、ナチスの科学は世界一なこと、波紋や吸血鬼の力のこと、
まだ生き残っているかがみの友人、こなたのこと、自分の家族のことなど。
みゆきや桂、灰原のことが出てこなかったのは語ることにかがみが辛さを感じていたからである。
3人の死を乗り越えられたらこのことは語ろう、とかがみは決めていた。

その話の中では、少なくともジョセフはアメリカやヨーロッパ諸国を渡り歩いたはずである。
アフリカの奥地で生まれ育ったのならともかく(このときかがみはジャングルで雄叫びをあげてターザンをするジョセフを想像してコッペパンを噴いた)、
コンビニを知らないというのはあまりにも常識外れではないのか?
自他共にオタク・インドア認定をしているこなたですらコンビニにカツサンドが売っているくらい知っている。

先ほどもジョセフが駅の話をした際、はっきりと『汽車』という単語を使っていた。
現代の都会に住むものならばまず『汽車』などという単語は使わず、『電車』というはずである。

(まさかね………?)

こなたと違い、常識人であるかがみはそこで思考を踏み留めようとした。
ジョセフはただ単純にふざけているのであろう、と。

だが、
不滅の再生力を誇る吸血鬼アーカード、
頭に挿入でき、自分の身体より発現したマジシャンズレッド――といった、
明らかに自分がいた世界には存在しないはずのものが頭をよぎる。
もしかしたら、それらに比べればジョセフに抱く疑問である”それ”はまだ普通なのではないかと。

――ジョセフが過去の人間であるということが。


「……かがみ、オイ! 聞いてるのか?」
「な、なにっ?」

突然のジョセフの声にかがみは驚き、振り向く。
するとジョセフはかがみの手を取り、駆け出した。

「ちょっと! いきなり何するの…

「時間が来たみたいだ。電灯のある場所に行くぜ」
「あ…………」

――さて諸君、午後18時の定時放送を始める。調子はいかがだろうか? 


――では御機嫌よう、6時間後の放送を心待ちにしていたまえ。


マイクのスイッチが切れる音を最後に、戦士達の死を告げる放送が終わる。
幸か不幸か、彼らがこれまでに会った仲間……生存者はわずかに三村信史、泉こなた、柊つかさの三名だが、
彼らの名前が呼ばれることはなかった。
そのことにかがみは不謹慎ではあると思ったが、心の中で安堵のため息をつく。

(そういえば、桂さんや灰原さんのこと、あんまり聞かなかったな……)

1人は幼い容姿にも関わらず、どこかダークでシリアスな雰囲気を醸し出していた灰原哀という少女。
もう1人は時代錯誤な格好をしていたが確かな実力を持っていた男、桂小太郎。
かがみは2人の知り合いを知らない。

4人は出会った時、互いを疑いはしなかった。
そのため皆が皆、仲間割れで時間を食うことなく協力して隠れ家を作り、作戦を立てることができた。
この時4人全てが確かに「希望」というものを持っていた。
だからそれ故に彼らはすぐに全ての手持ちの情報を打ち明けあわなかった。
なぜなら、あまりにも早い別れが来るとは思わなかったから。

現状の情報の少なさに、かがみは心もとなさと、多大な後悔の念を抱く。
しかし、あまり不安そうな顔をしてジョセフに気を使わせることもためらわれた。
なるべく不安を顔に出さないよう、かがみは隣で名簿を覗き込むジョセフの方へ顔を向けた。

「………………」

そこには恐らく静かな怒りの表情を浮かべ、それでも闘志の炎を燃やす男がいる。
そうかがみは思っていた。
ところがそこにいたのは、彼曰く『マヌケ面』のジョセフだった。

「ジョジョ……?」

怪訝そうな表情でかがみがジョセフの顔をまじまじと見る。
腹痛か何か? いや、それは突然それはありえないだろう。
だとすればかがみが知らない、ジョセフの知り合いの名前が呼ばれたのだろうか?

かがみは襲われた時とは別の焦りを感じた。
彼女はこれまでの放送の中で他者に励まされたことはあれど、自分が励ます側に回ったことなどない。
子供のように頭を撫でればいい?
後ろからそっと抱きしめる? それも違う。 何より―

―どんな言葉をかければいいのかわからない。
それが彼女の心境だった。

「………く、」

ジョセフがゆっくりと口を開ける。

「空条承太郎……おれにはジャパニーズの知り合いなんざいねェ。
 けど、コイツの名前を聞いた時、まるで親友と息子を同時に失った……そんな気分になった」
「し、しっかりしてよジョジョッ!」

かがみが思わずジョセフの肩に手をかける。
その振動にジョセフがハッと我に返る。

「あ、ああ。ただそんな気がしただけなんだ。
 経験や記憶じゃない、もっと何かを越えた……深い”何か”が、俺を悲しませやがる……そんな気がな」

ジョセフと空条承太郎。時間が時間ならば2名は旅を共にし、
打倒DIOを誓った仲間であり、同時に祖父と孫であった。
またある時は吉良吉影を追う強きスタンド使い達のうちの2名でもあった。

しかし、今ここにいる誇り高き血統の男の中に承太郎の記憶はなく、
空条承太郎の名前を知っていると感じたことすらほんの気のせいかもしれない。
だが、遠い未来に自分の娘より生まれ、
氷のような沈着冷静さを持ち合わせながらも熱き炎のような魂を持って戦った男に、
ジョセフは無意識に涙を流さざるを得なかった。

「ジョジョ………」
「大丈夫だぜ、かがみ」

不安そうに見つめるかがみを元気づけようと、ジョセフが指を涙を拭う。

「サンキュー。まさかこのジョセフ様が心配されるとはな」
「ううん…ごめん。私、なんていったら言いかわからなくて……」
「気にするなよ。かがみの裸思い出したら余計なとこまでゲンキ出てきちゃいそー」
「っっっのスカタン!!!」
「ちなみにウソだぜ」
「……それはそれで腹立つ」

かがみに無力さを感じさせることなく、ジョセフが軽いジョークで場の空気を引き戻す。
しかし、ジョセフの表情はすぐに真剣なものに変わった。

「シンジのヤローも無事だ。
 だが、さすがにこのおれ様でもちょっと危機感を覚えたぜ」


ジョセフはまだこの場に来て、まともな敵と拳を交えたことがない。
そのため、ジョセフは持ち前の力とその場のアイデアのみで誰とでも戦えるだろうと過信していた。
だが、承太郎の死。
それは無意識のうちに自分よりも遥かに強い相手がいるということをジョセフに感じさせていた。
かつての宿敵、ワムウとの戦いと同じ規模のものがあるのではないかと。
また、わずか18時間で参加者が半分に減ったという事実も彼を急かせた。

「新たなパワーが必要だな」
「新たなパワー……って、アテはあるの?」
「アテ? Yes Yes. もちろんあるに決まってる。それはかがみ、オメーだ」
「えぇっ!?」

自分より遥かに優れた肉体を持ち、さらに波紋という技まで持っているジョセフ。
そんなヤツが一体私に何を求めるのだろうとかがみが訝しがった。

「正確に言うと、あの焼き鳥だ。一体全体どーやって出してるんだ? アァン?」
「わっ、私の力じゃないに決まってるでしょ! 支給品よ、支給品!」
「支給品だと!? なァんてベストなんだッ!!
 楽シテ身につく方法サイコ――ッ! どんな道具なんだ!?」

かがみの言葉を聞いた瞬間、ジョセフが目を輝かせて両手を肩前でにぎにぎさせる。

「えっと、支給品の紙からディスクが出てきて…それを頭に入れたら使えるようになったってゆーか…」

が、途端にジョセフの顔がカワイソウなものを見る目つきに変わる。

「かがみぃ~、おれはオメーのことをちょっと意地っ張りなフツーのオンナの子だと思っていた。
 けど、ちょっとオトボケな一面を発見したぜ。頭に穴なんてあいてるわけねーだろガッ!」
「あるわけないじゃない! でも実際入ったのよ!」
「オーケイ。この際信じてやる。で、それは出したりできるのかい?」
「うっ……それは……」

かがみは困った。
アーカードと対峙した時に咄嗟に使ったはいいのだが、あまりにも事態が切羽詰っていたため、
説明書の最低必要限の文しか読まなかったのだ。
もしかしたら外す方法が書いてあったかもしれない。
下手をすれば一生この焼き鳥…マジシャンズ・レッドを宿したまま生きることになりかねない。

「わからない…」
「入ったからには出す方法があるはずだよなぁ~~~。コイツは試してみるしかねェ」
「ごめん…って、どこ行くのよジョジョ!」


そう言うと、ジョセフが思い出したように民家を漁りだし、帰ってくる時には手に油が滴り……

 ◇  ◆  ◇


そして、今に至る。

「まったく、もう!」
「だーからさァー、怒るなよかがみ~ん。ぶっ叩いたら出てくると思ったんだってばよォー」
「だからって危ないじゃない! それに女の子の頭を殴るなんて!」

憤慨するかがみにひたすらジョセフが平謝りを続ける。

――ジョセフの思考は単純明快。
頭の中に異物が入っている。ならば波紋でそれだけを弾き飛ばしてやればいい、と。
波紋は物体によって伝導率が異なる。
つまり人体を通しながらも傷つけることなくそれに繋がる物体を破壊することができる。
今回のものはそれの応用で、かがみの頭の中にあるであろうディスクのみを吹き飛ばす、という荒業。

当然ながら人体の中にあるものを吹き飛ばしてしまえば身体に風穴が開くが、
かがみの頭が虫食いでないというのであれば、それは物質法則を無視して挿入されたということ。
万が一彼女の身体を傷つけるようなことがあったとしても、今の彼女には田園地帯で見せた激戦の再生能力がある。

これらの条件下のもとでジョセフは首輪に力が向かないよう、手にちゃっかり民家の台所で見つけた油を塗り、
万全の状態で力の行使を行ったのだ。
そして、これらの行動は結果的に功を奏した。


言い訳に聞く耳を持ってもらえそうにない、とジョセフは判断した。
そこで気を散らせる意味も含め、ディスクを頭へと挿入する。
すると、かがみの言うとおり、ジョセフの虫に食われていそうな頭の中にディスクは入っていった。

「…ど、どう? 使えそう?」
「やってやろーじゃないの。カモーンッッッ! 焼き鳥ちゃ~~ん!!」

ジョセフが出ろ、と念じるとそこに猛禽の頭部と、格闘家の体格にも勝るとも劣らない人の身体を併せ持つ肉体が現れた。

「シュッ」

ジョセフが右手を繰り出すイメージをすると、同じように右手が繰り出される。

「ハァッ!」

同じように左足で蹴り上げるイメージをすると、また同じように左足が蹴り上げられる。

「うっふゥ~~ン」

ジョセフが両手を左右反対の肩にやり、足を気色悪くくねらせると同じようにマジシャンズ・レッドも……

「マジメにやりなさいよっ!!」


「それじゃあマジメにやるとするぜ」

そういうと、ジョセフは持っていたヨーヨー2つかがみに手渡す。

「ん? 何よこれ」
「ちょっと練習には危ねェから少し離れてくるのさ。それで遊んで暇潰してくれよ」
「ってこんな子供っぽいので遊ばないわよ、ジョジョ……! もう…」

怒鳴ろうとするかがみを背に、ジョセフは走り出していた。全力で。


 ◇  ◆  ◇


(マジメにやるっつったがな……コイツはかなりクセモンだ)

内心でジョセフはかなり苦戦していた。
かがみから離れたジョセフは、街路樹のある大通りで練習…ではなく、街路樹があった大通りで練習していた。
単純なパワーのみで戦うというスタンスは悪くはない。
だが、問題はそのパワーである。
念じすぎれば炎は威力どころか範囲すら定まらない。
加減が過ぎればライターの火から一気に近隣一帯半焼である。

戦いの場において、スタンドで殴る蹴るだけならば加減などせずに全力に打つだけで済む。
また、特定の能力を”発動させるだけ”でも加減はいらない。
だが、ジョセフが操るそれは力を調節できる炎。
万が一味方が近くにいる場合に全力で放ってしまえば、田園地帯でのかがみの二の舞になる。

実は彼がその威力をうまく操ることが出来ない、その理由は波紋の修行に関与していた。
波紋の技の使い方の基本は、何らかの物質にその力を注ぎ込むことである。
対象は人体の一部であろうとコーラであろうと何も問題はない。
しかし、何故か彼は無意識に炎を波紋のように扱ってしまう。
注ぎ込むような力の使い方で炎は使いこなせない。

(クソッ! せっかく使えるようになってもコレじゃ意味ネー!)

せめて炎を操ることができるだけでもジョセフの戦法は格段に広がる。
完全に使いこなせなるまで努力する気はないが、せめて使い方くらいは理解したい。
それがジョセフの心情だった。


(チッ、なんだか疲れてきやがるぜ……やっぱやめてやる、こんな焼き鳥ヤロー)

使えないならば使えないでいい。威嚇など、戦闘以外の使い道だってある。
ジョセフが投げやり気味に道路に寝転ぶ。

(日が暮れるな……)

日が暮れれば訪れるのは深い闇。
夜空に輝くの星や月を尻目に跳梁する吸血鬼達。
そしてサンタナ・エシディシ・ワムウ・カーズといった柱の男達。
サンタナを倒すべく手榴弾で爆発していったシュトロハイム(生きてたけど)、身体を半分喰われたマルク、
そして命を賭けて敗れていったジョセフの戦友、シーザー。

他にも数え切れない人々が吸血鬼に襲われ、恐怖の中死んで逝ったに違いない。
自分の祖父や父もまた吸血鬼の手によって……

(………………)

そのことを思いジョセフは………


ハラが立った。


「こぉぉンのブァカヤローガァァァァ――ッ!
 なんだって俺がそんな思いしなきゃならねェんだヨォォォ―――ッ!!」

身体をバネに立ち上がると、ジョセフは思い切り走り出し、
少し離れた場所に生えていた街路樹を思い切り殴りつけた。

マジシャンズ・レッドで。

その怒りを発散させるべく、その殴りつける手から迸るイメージは……

「な、なんだ!? いきなり燃えあがっただとッ!?」

マジシャンズ・レッドが殴りつけた部分から発した火は瞬時に業火となり、街路樹を炭に変えた。
そう、ジョセフにとってもっとも使いやすいイメージである注ぎ込む動作と炎の合わせ技。
これこそが今のジョセフにとって唯一の炎の威力を操る術だった。


 ◇  ◆  ◇


一方、ジョセフから少し離れた位置にいるかがみはある決意を固めていた。

(ジョジョが過去の人間だとしたら……)

思い当たる節はいくつもあった。
間違っていたらまたバカにされるだろうが、聞いてみる価値はある。

だが、それが本当ならばいくつものとんでもない事実が発覚してくるだろう。
それがかがみにとって恐ろしい。

(ダメだな、私……誰かと一緒にいないとどんどんマイナス思考になっちゃう……)

そんな自分に嫌悪感を抱きながらもジョジョが戻るのをかがみは待つ。


(それにしても暇ね)

思考を一旦やめてしまうとやることがない。
ふと手に目をやると、先ほどジョセフから借りたヨーヨーがある。

「懐かしいなぁ、こういうの。昔つかさや友達と一緒にやったっけ」

そう思い、少しだけとヨーヨーの糸を指にハメて振り下ろす。
もっとも基本的な技であるスリープの技をして、手に戻す。
案外できるものね、と今度はスリープさせたヨーヨーを道路に付け、走らせてみる。

「あれはできるかな……なんだっけ、ループ・ザ・ループ」

かがみの手から前方に投げられたヨーヨーが引き戻され、手首の返しで再び前方へと飛ぶ。
そして戻ってきたヨーヨーをかがみは……キャッチできなかった。

「あはは、やっぱできないかなー………あ」

誰もいないのに笑みを零すかがみ。

それをジョセフが民家の脇からイイ笑顔で覗き見していた。

「子供っぽいかがみんカワイィ―ッ!」
「う、うっさい!!」


 ◇  ◆  ◇


ジョセフがひとしきり笑い転げたところでかがみが喋りだす。

「…で、あれは使えたの?」
「おれ様を誰だと思ってやがる。オメメパッチリでご覧アレ!」

そういうとジョセフは近くに落ちていた大きめの石を上に投げる。
落ちてきた石に向かいマジシャンズ・レッドが拳を放つ。


「赤熱の波紋疾走(プロミネンス・オーバードライブ)!!」


石は砕け、直後に燃え上がると地面に落ちる前に炭と化した。

「にひひッ、気に入ったぜ。名前がほしいな。
 生命エネルギーから作り出され、
 そばに現れ立つパワーある像(ヴィジョン)……名づけて『幽波紋(スタンド)』だ!!」
「……いっとくけど、初めからそれ名前あるわよ。マジシャンズ・レッドって」
「な、なんてこった! 初めにそれを言ってくれよな~~~かがみぃ~~~~~」
「しかもそういえば、そういうのを総称して『スタンド』って言うみたいよ。世の中偶然ってあるものよね」
「チクショ―ッ!! ソイツを名づけたやつはハンサム顔か相当性格悪いヤツに違いねェな!
 いっぺん会ってみてーぜッ!」

頭を抱えて心の底から負けたとジョセフが嘆きの声をあげる。
そんなジョセフを見て、かがみは1つため息をつくのであった。


「よし、じゃあそろそろ駅に向かうとするか」
「待って」

駅へと向かおうとするジョセフをかがみは引き止める。
かがみの疑問。それが今後2人の精神面にどういった影響をもたらすかはわからない。
だが、やらずに後悔するよりはやって後悔しよう。
そう、かがみは思った。

「そっちの問題が片付いたみたいだから私も単刀直入に言うわね」

かがみが胸に手を当て、深呼吸をする。
そして自分を落ち着かせながら口を開いた。

「ジョセフ……あなた、西暦何年生まれの何歳?」
「1920年9月27日、実年齢19歳のてんびん座だッ!」
「星座は余計よ。…それで、間違いないのよね?」
「俺がウソつくよーな人間に見えるのかッ!?」
「見えるから言ってんのよ。…そっか…そうなのね」

波紋使いだというから、もしかしたら見た目は若いが年は相当、ということも予想していた。
だが、予想は裏切られかがみが落胆し、地面にへたれこむ。
それを見て『俺がウソつきに見えるだってェ~~?』と脅そうとしていたジョセフの口が止まる。

「それがどうしたんだ?かがみ」
「私が21世紀の人間だって言ったら分かりやすい?」

「な、なんだってェ!? ってゆーことはかがみは未来人…」
「違うわよっ! アンタが過去から来たの!! …とは言い切れないか」

もう何があってもおかしくはない。
これがかがみにとって1番恐ろしい事態だった。

自分達をここに招いた連中は時を越える技術を持っている。
何故わざわざ21世紀のただの人間であるかがみと、
20世紀の波紋使いであるジョセフが呼ばれたのかはわからない。
『なんでもよかった』などという理由なのだとしたら、それはまさに狂気だ。
技術の無駄遣いにも程がある。

「するってェとアレか…これもそれで説明がつくのか?」
「これ?」

ジョセフが指したのは自分の左腕。
見るからに逞しく、健康的なそれに違和感はない。

「いいか、かがみ。俺はカーズを倒す時に左腕を失っている。
 そして、その後俺はスージーQって女と結婚している。この意味がわかるか?」
「わっ、わかるかもなにもっ、ジョセフの言うことが本当ならおかしいじゃない!?」
「そうだ。確かに俺はあの後から義手をしている。だが、この腕はどうだ?
 切りゃ血は流れる。波紋の通りだってイイ。どう考えてもカーズ…柱の男を倒す前の腕といって間違いねェ」
「じゃあ、ここに来るまでにジョジョの腕が治ったってこと……?
 でも、そんな完璧に腕を治しちゃう技術なんて見たこと……」

そこまで言うとかがみの脳裏にあるものが思い浮かぶ。
”アーカード” 彼のような再生力なら或いは…?
しかし、目の前のジョセフは吸血鬼を倒す力、波紋の使い手だという。
そんな力の持ち主が吸血鬼であるだろうか?
そもそも、義手をつけるくらいなら自然に治るのを待った方ほうがいいのでは?
そう思い、かがみはそれを口に出すのをやめた。
ちなみに波紋使いが吸血鬼になったという例はあるのだが、かがみはそんなことをしるよしもない。

「……こういっちゃあナンなんだけどな」

ジョセフが自分の、かつて義手だったという手を見つめながら口を開く。

「今のこの状態。こいつはおそらく、おれの人生でほぼ最強のコンディションだ。
 はっきり言うぜッ! おれにとってコイツは『都合がイイ』!」
「はぁ!? ちょっと待ってよ! アンタ、19歳なのよね?
 なんでそれなのに、最強のコンディションなんて言うのよ!?」
「まず、俺が呼ばれた時期だ。カーズとの戦いはおれにとってまず間違いなくナンバー1・2を争う激闘だ。
 この経験は確実におれを強くした! 年月が経てばこの記憶はだんだん劣化していく…今がホットなのさ」

ジョセフは究極生命体となったカーズとの戦いで左腕を失い、長い療養を必要とするハメになった。
だが、その戦いの中でジョセフはどう足掻いても倒すことができない絶望、
それとそれに対して抗う意志を感じた。

「それはまあわかるけど……でも、これから修行したらもっと強くなれるんじゃないの?」
「そりゃ~ないな。ボクちゃんこれから修行する気なんてないもんネー」
「でも、波紋の修行って、身体を若く保てるんでしょ? ならやった方が……」

かがみは女性のとって当たり前の意見を言ったつもりだった。
だが、ジョセフは何故かどこか遠い目をしながら言葉を放つ。

「……かがみ、おれはな。波紋の力を使ったり、吸血鬼になってまで長生きした連中を見てきた。
 けどな。そういう連中に限ってロクな人生送っちゃいなかった」

目を瞑るジョセフの脳裏に蘇るのは3人の戦士。
老いを恐れ、吸血鬼へを身を変貌させた男、ストレイツォ。
夫を失ってなお、実の息子を抱きしめることもなく苦心の修行を続けてきたジョセフの母、リサリサ。
そして、1万2千年もの間強者を捜し求め彷徨っていた男、ワムウ。

それらの人物との出会いはジョセフに何を思わせただろう。

「俺はもっと人生ハッピーに生きてェ。
 それに、愛しのマイワイフ、スージーはやきもち焼きだからな。
 いつまでもこんなハンサムボーイが若かったら老後も落ち着いてられないだろうぜ」
「…ジョジョ………」

愛しい人と人生を歩むために自ら歩調を合わせる。
それも、通常の人間よりも遥かに長く生きられる権利を捨てて、だ。
それができるということはなんと素晴らしいことか。
かがみはそこまで頭が回らなかった自分に腹を立てると同時に、一種の感動すら覚えていた。

だが、その一種の感動は一瞬で砕け散る。

「……なァ~んてな! 本当はそんな生真面目なことやってられるかってーのよ
 おれの嫌いな言葉は、一番が「努力」で、2番目が「ガンバル」なんだぜ。
 修行が面倒なだけに決まってんだろーがッ」
「…でしょうね。アンタの場合」

人差し指を突きたて主張するジョセフに対し、かがみが呆れると同時にコートがずり落ちて肩があらわれた。

(まあ、ちょっとだけカッコよかったかな。さっきのは)

結局かがみにはジョセフが言ったことが真実かは皆目検討がつかなかった。


「で、つまり…私達をここに連れてきたやつらはすごい医療技術を持っているってこと?」
「ああ。それもナチスよりも高い、な。シュトロハイムのヤツが聞いたら喜んでスパイしに行くだろーぜ」
(ナチスが1945年になくなったってこと、言っていいのかしら?)
「もしかしたらおれの他にも変な時代から連れてこられて、
 最高にハイな状態にされてるヤツがいるかもしれねェ。いたらそれで決まりだ。
 あの光成ジジイはおれ達を集めてトーナメントでもやろうって魂胆だ。放送でも言ってたしな」
「少し待ってよ。ならどうして私達みたいな一般人が呼ばれるの?
 それも、別に私は今が最強の状態だなんて思わないし……」

ジョセフが言う通り、強者を選び出すためだけというのならば不自然ではある。
それこそアーカードやジョセフ、ZXといった戦士がふさわしく、
かがみ達や三村といった一般人がを並べるべきではない。
それこそかがみ達や三村が後にスゴイ能力を発現する…といえばわからなくもないが、
ならばそのスゴイ能力が発現後に呼び出すのが適切と言えよう。

「ンッン~。確かに、かがみはもうちょっと時期が経ってたら胸もビッグに。そしたらサイキョ…」
「ほっとけ!」
「じゃあテキトーに選ばれた、ってのはどうだ?」
「どうだ…って言われても。納得できないわよ。私がそういう目的でやるんだったら、
 もっと効率的にやるわ」
「そうだな…なら、ジョースター家には伝統的な発想法があってな」


「『逆に考える』んだ 『テキトーに選んだ』のではなく『テキトーに選ばざるを得なかった』ってな」
「…それなら、一応筋は通るわね。それで適当に選ばれたのが私達や三村ってこと…で……」
「サッパリしねェけど、手持ちの情報じゃこれが限界だ」
「うん……」

こうして2人の最優先目的は自動的に、誰かと合流することとなった。


 ◇  ◆  ◇


「さて、これからどうするかね」
「ねえ、ジョジョ。私が暴走してた時のことなんだけど…
 あの時、もう1人いたわよね? あの人は信用できない? 私を助けてくれたんでしょ?」
「難しいな。アイツはかがみの腕をいきなり切りやがったヤローだ。
 ワムウと同じく戦闘大好きみてーだが、戦う約束もしちまったし、会いたくねェ」
「でも……」

なんとか説得できないか、かがみはそう言おうとした。

「そういやアイツ、かがみの裸をマジマジ見てたぜ」
「…合流は後回しにしましょ」
「オーケイ。誰だってそーする。おれもそーする」
「三村は? ジョジョは大丈夫っていうけど……」
「大丈夫さ、アイツは」

ジョセフの強い言葉をかがみは信用することにした。
きっとジョセフが信頼するほど三村は強い男なのだ、と。

「行くぜ、俺達の仲間を探しにな」
「あ、ちょっと……」

早歩き気味に駅へと向かうジョセフの後をかがみが小走りで追いかける。

「駅に行ってことは北に行くってこと?」
「言っただろ。”仲間”を探しに行くってな」
「あ………うんっ」


日は沈み、吸血鬼だけではなくどこにいるかもわからない殺人鬼も活発化するであろう時間になった。
だがしかし、それに怯むことなく生死を問わず仲間を探しに行く者もいる。

(空条承太郎……いったいオメーは何モンなんだ?)
(もし本当に、”適当”に私達や三村をこんな目に会わせたんだとしたら……)


2人は新たな情報を求め、北へ向かう。
それぞれの思惑を秘めて。

To be continued…………


【G-8 駅前 一日目 夜】

【ジョセフ・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康、顔面にマジシャンズ・レッドの拳によるダメージ、精神疲労(微小)
[装備]:ハイパーヨーヨー×2(ハイパーミレニアム、ファイヤーボール)、
     マジシャンズレッド(魔術師の赤)のDISC@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:支給品一式(食料を2食分消費)、食用油1L(現地調達)
[思考・状況]
基本:あのスカタンを一発ぶん殴ってやらねぇと気が済まねぇ~~。
1:S10駅を捜索。何も発見できないようならばS5駅までの各駅とその周辺を探索していく。
2:かがみを三人の友達の死に対して決着をつけさせる。
3:2のために駅周辺を探索。三人を殺した悪党をぶちのめす。
4:三村とそのうち合流。
5:マップの端を見に行く。
6:「DIO」は警戒する、一応赤石も探しとくか……無いと思うけど。
7:空条承太郎の情報を集める。
8:赤ムシ野郎(ZX)にはもう会いたくねぇな
[備考]
※二部終了から連れてこられていますが、義手ではありません。
※承太郎、吉良、DIOの名前に何か引っかかっているようです。
※水を使うことで、波紋探知が可能です。
※村雨が西の方角へ行ったと勘違いしています
※三村の留守電を聞き逃しました。
※主催者は目的は強者を決めることであり、その中にはイレギュラーもいると考えています。
※少なくともかがみとは別の時代の人間であるということを認識しました。
※波紋の力を使うことで対象のディスクを頭部を傷つけることなく強制排出することができます。
 ただし、かなりの集中力を要求します。
※マジシャンズレッドの火力は使用者の集中力によって比例します。
 鉄を溶かすほどの高温の炎の使用は強い集中力を要します。
 火力センサーは使用可能ですが精神力を大きく消耗します
 また、ジョセフのマジシャンズ・レッドは通常の炎の威力の調節が極端に難しい状態です。
 ただし、対象に直接マジシャンズ・レッドの手を当てて炎を出した場合に限り調節が可能です。
 修練をすれば通常の炎の精度が上がる可能性がありますが、今のところ修練する気はないようです。 


【柊かがみ@らき☆すた】
[状態]:左肩、左脇腹に打撲、精神消耗(大)
[装備]:核鉄「激戦」@武装錬金、
    江頭2:50のタイツ、上半身裸に汚れたコート
[道具]:白いエプロン
[思考・状況]
基本:生きる
1:S10駅を捜索。何も発見できないようならばS5駅までの各駅とその周辺を探索していく。
2:みゆきたちの死と決着をつける。
3:そのために駅周辺を探索する。
4:殺し合いには乗らない、脱出を目指す
5:ジョセフについていく。
6:こなた、つかさと合流する
7:三村に謝りたい
8:赤い仮面の男(ZX)をちょっと警戒
9:ま と も な ふ く が ほ し い (誰か助けて)
[備考]
※アーカードを不死身の化け物と思っています。
※「激戦」は槍を手から離した状態で死んだ場合は修復せずに死にます。
 持っている状態では粉々に吹き飛んでも死にませんが体の修復に体力を激しく消耗します。
 常人では短時間で三回以上連続で致命傷を回復すると意識が飛ぶ危険があります。
 負傷して五分以上経過した患部、及び再生途中で激戦を奪われ五分以上経過した場合の該当患部は修復出来ません。
 全身を再生した場合首輪も再生されます。
 自己修復を利用しての首輪解除は出来ません
 禁止エリア等に接触し首輪が爆破した場合自動修復は発動しません。
※精神消耗のためしばらくスタンドは出せません
※三村の留守電を聞き逃しました。
※ボウリング場にかがみのメモを張っています。
※主催者は目的は強者を決めることであり、その中にはイレギュラーもいると考えています。
※波紋、ジョセフが知る吸血鬼の能力について知りました

※2人の主催者に対する見解。
①主催者は腕を完璧に再生する程度の医療技術を持っている
②主催者は時を越える”何か”を持っている
③主催者は①・②の技術を用いてある人物にとって”都合がイイ”状態に仕立てあげている可能性がある
④だが、人物によっては”どーでもイイ”状態で参戦させられている可能性がある。


175:たとえば苦しい今日だとしても 投下順 177:今夜月の見える丘で
175:たとえば苦しい今日だとしても 時系列順 177:今夜月の見える丘で
153:一歩進んで ジョセフ・ジョースター 189:――の記憶
153:一歩進んで 柊かがみ 189:――の記憶