『二人の探偵』

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mangaroyale

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『二人の探偵』 ◆1qmjaShGfE



民家の中、ダイニングキッチンの奥に立つ吉良吉影。
そしてキッチン入り口に服部、コナン、劉鳳、神楽の四人。
劉鳳は事前に示し合わせていたのか、そこからリビングの方へと移動する。
残る三人もゆっくりと吉良を遠巻きに取り囲む。
キッチンと入り口の間に服部、そこから少し離れたリビング寄りの場所にコナン。
リビングの中心に劉鳳、その側に神楽といった布陣だ。
吉良が逃げ出す為には、正面の服部を抜いて入り口から出るか、キッチンとリビングを隔てる調理場やシンクも兼ねるカウンターを乗り越え、リビングのサッシ窓から外に逃げるかのどちらかだ。
正面の服部は例の核金とやらを持ち、その上銃を手にしている。
リビング側には怪力の神楽と、戦力不明の劉鳳が居る。
(いいだろう。そんなに私を怒らせたいのなら、その通りしてやろうじゃないか。だが、決して貴様等の思い通りになぞ行かない事思い知らせてやる)
大人しく、無害な人間を装うのは止めだ。
知恵の回る油断ならない奴と思われてでも、この危機を乗り切り、しかる後全員欠片も残さず消し去ってやる。
吉良は大きく笑い、そして言った。

「そうだ、私がアミバを殺した」

その一言に吉良を除く全員の視線が鋭く変わる。
しかし、すぐに激発はしなかった。
それが少し意外であったが、吉良は構わず言葉を続ける。
「更に言おうか、君達の推理はつまり、志村新八君の殺害犯も私だと言いたいのだろう?」
ここまで言えば激昂するだろう、そう考えていたのだが神楽は微動だにしないまま吉良を見つめている。
吉良は少々困惑する。誰かが怒りを顕にし、それに対するといった形を取ろうとしていたからだ。
だが予定は変わらない。このままでも充分ではある。
「ああ、もう一つ。コナン君、君からは見えなかったかもしれないが実はマリアさんを殺したのも私だ」
コナンが吉良に対してそれなりの距離を取っていてくれているおかげで、このカウンター越しでも彼の顔は良く見える。
「ついでに言うとこの殺し合いを考えたのも私だ。ああそう、この世に重力があるのも天地開闢も全て私がやった。これで満足か?」
遂に服部が激昂する。
「ふざけんな!」
服部が怒鳴るタイミングに合わせて吉良は怒鳴り返す。
「ふざけてるのはどっちだ! いい加減にしたまえ! 私は今これまでに無い程怒りに震えている!
そんなにまでして私を人殺しに仕立て上げたいのかね!?」
好むやり方ではないが、ここは激怒してみせるのが効果的だと吉良は判断した。
「爆弾を作る能力? 誰にでも使える手段でその能力を手にしている君が、私がそれを持つから私を人殺しだと断言する事が、
どれだけ矛盾しているかわかって言っているのか!?」
劉鳳の方に視線を移す吉良。
「劉鳳君! 君も既に社会に出ているのだろう! 何故こんな愚かな真似を黙認したのだ! 子供の無軌道を正すのは大人の役目だろう!」
吉良はわざとらしくため息をつく。
「服部君、君はもう高校生か? いい加減分別も弁えて良い年だろう。それが何だ? この危険な状況も考えずに探偵遊びだと? いい加減にしろ! 人が死ぬという事がどれだけ重大な事か良く考えたまえ!」
コナンが吉良の話に割って入る。
「あの爆弾はどう説明すんだよ」
即座に怒鳴り返す吉良。
「そうだ! あの隠し持っていた爆弾が私の切り札だった! 君達の悪ふざけで失ってしまったがな!
近くで戦ってくれるスタンド以外に戦闘手段が無い私にとって唯一といってよい飛び道具だった! 神楽さんを守るため! 私の身を守る為のだ!」
震える手で目の前のキッチンを叩く。
「危うく私は君達を殺しかけたのだぞ! この私がだ! 君達は万全の注意を払ったつもりだろうが、いつどんな事故が起こるかわからない! あの爆弾の威力があの程度で無かったらどうするつもりだったんだ!」
何かを言おうと口を開きかけるコナンを遮る吉良。
「頼むからこの期に及んでマヨネーズ云々などと戯言を言わないでくれよ。一々反論する気も起きないが、
外にマヨネーズが飛び散っていないから何だ? 切り札の爆弾の名前をマヨネーズにしたとでも言えば満足か?
私は高揚した状態でも冗談の一つも言ってはいかんのか?」
誰も吉良に反論しようとはしない。
それはそうだ、こんな真似をして実は間違いでしたなどとなって、自らを恥じない人間など居るわけがない、と吉良は彼等の沈黙をそう受け取った。
(ふん、私を怒らせるからこういう事になるんだ)
「劉鳳君、君は年は服部君とさして変わらないが仕事をしている人間に相応しい貫禄がある。
ならば私が居ない場所では君が彼等を窘めなければならないんだ。それが一人前の大人としての義務だ、わかるな」
四人共充分に頭も冷えたと判断した吉良は、最後の締めに入る。
「誰も怪我が無くて良かったよ。だが、もう二度とこんな真似はするんじゃないぞ。」

コナンは吉良から目を逸らし、考え深げに顎に手をやって一歩、二歩と歩く。
「……そうだな、俺が最初に会った時から吉良さんは常に誰かと一緒に居た。そんな人が人殺しなんてするはずがない……」
彼得意の無邪気な声ではない。元のトーンは高いが、重みのあるはっきりとした発音で言葉を紡ぐコナン。
「俺が会った時は既にマリアさん、銀時さんと一緒だった。その後も常に誰かと共に居た。
一人になったのは唯一あの顔に傷のある女と対峙した時のみ。その後もすぐに神楽、新八と合流していたな」
この口調は気に喰わないだろうが、吉良を擁護する内容だ。これなら邪魔はすまいとのコナンの読みだ。

「だから不思議なんだよ。何故アミバさんは今際の際に『吉良は殺人鬼』なんてメッセージを俺達に残したのかがね」

服部とコナン以外の三人がコナンの発言に激しく動揺しているのがわかる。
それはそうだろう、神楽にも劉鳳にもこの場では何があろうとコナンと服部の二人に任せ、沈黙を守るよう言ってあるだけなのだから。
新八、そしてアミバ殺害の犯人を確実に追い詰める為という明快な理由が無ければ、二人共納得してくれなかっただろう話だ。
「内容もそうだ。何故『殺人鬼』などと使う? あの僅かな間に、床を叩いてモールス信号という手段を取ったにも関わらず
『犯人』や『殺した』といった単語ではなく文字数の多い『殺人鬼』とした理由は?」
即座に服部が言葉を繋ぐ。
「簡単や。アミバはんは吉良が複数の人間を殺した事を知っていたんや。
もちろんまだこの段階ではアミバはん以外の誰を殺したのかまではわからへんがな」
吉良が何かを言い出す前に更にコナンが言葉を繋ぐ。
「アミバさんの最後の行動、遺体の状態から、彼は発声器官と脚部に何らかの異常を持っていた事ははっきりしている。しかしそこに出血は無かった」
挑むように吉良を見やるコナン。
「さて、犯人がどうやってアミバさんを殺したか。これは繰り返しになるが聞いて欲しい」
吉良は無言だ。コナンが何をどれほど掴んでいるかが不明な以上、余計な口を挟む事が出来ないのだ。
「極小の爆発物を体内にて爆発させた。それも、時限式ないしリモコン操作可能なものでだ」
そこで突然話題を変えるコナン。
「実はずっと不自然に思ってた事があるんだ。吉良さん、あの銀髪の女と戦ったんだよね」
コナンが何か一言言う度に思考を高速回転させているのだろう、吉良はじっとコナンを見つめている。
ここからは一息に決める。コナンは聞き取れないなどという事の無いよう注意深くはっきりと言葉を重ねる。

「俺もルイズさんと一緒に奴に遭遇してる。でもその時銀髪女が負っていた傷は火傷と裂傷。
 まるで複数の爆発に身を晒したみたいにね。切り札の爆弾とやらはそんなにたくさんあったのかい?
 俺達に気付かれず、懐なりに隠しておける程度の爆弾で、あんな大きな傷を作る事が出来るのかい?
 別の誰かがやったかもしれない? 時間的に考えてそれも不自然だ。
 俺達は吉良と別れた後、2キロ先まで移動し、そこで拡声器による呼びかけを行った。
 銀髪女が俺達の前に現れたのはそのすぐ後だ。その間に対吉良戦を含む二度の戦闘を行う?
 限りなく低い可能性だね。今までの俺達の他者との遭遇率考えてみろよ。

 吉良さんが爆発物を作り出せると考えれば全ての辻褄が合うんだよ。
 そしてアンタの爆発物を作る能力は状況から考えるに、自在に爆発の大きさと爆発するタイミングを選ぶ事が出来る。
 それならば、アミバさんが声が出なかった理由も、足が動かなかった理由も、新八殺害の手段も、
 あの女の負っていた怪我も 全てに納得が出来る。気絶した状態のアミバさん相手に極小の爆発を仕掛け、
 爆発させればやられた当人にすら それが爆弾によるもので、
 吉良さんがそれを仕掛けたなんて夢にも思わないだろうしな。
 それからコップの水の中に爆弾に変えた砂糖を仕込めば、
 喉の痛みに苦しむアミバさんなら放っておいても飲んでくれるさ。
 服部の持つ核金を使えば同じ事が出来る? こんな精度の高い使い方をか? 昨日今日使い始めた人間が?
 バカ言うな、こんな難易度の高い作業を一発で決めるなんて、
 よっぽどこの能力を使い慣れてでもいなきゃ無理な芸当だよ。
 冷静に並べてみれば、アミバさん殺害、新八の事故死、銀髪の女の傷、
 いずれも爆弾と吉良の双方が関わっているのは一目瞭然なんだ。
 そしてここからが一番大事な所だ。
 アンタは人殺しを忌避しない。
 そんなアンタがこんな殺し合いの場に放り込まれていながら何故最初に俺達を殺さなかったのか。
 自在に爆弾を作り出せ、そのタイミングも大きさも自分で選択する事が出来る。こんな化物相手に誰が勝てる?
 だがアンタは病院に居た人間を誰一人殺さなかった。
 いや、殺せなかったんだ。それがアンタの弱点を教えてくれた。

 アンタの能力では同時に複数の対象を爆破する事が出来ないんだよ。
 そして巨大すぎる物を爆弾にする事も出来ない。だから常に三人以上で行動していたアンタは、
 俺達を殺す事が出来なかった。
 その内に覚悟さんや銀時さん、あの金髪の巨漢や銀髪の女を見て
 自分の能力だけでは生き残る事が困難だと考え直した。
 神楽から合流した時の事は聞いてる。新八と神楽を一緒に吹き飛ばす気でいたんだろ?
 確かにあの状況なら、二人がすぐ側に居続けると普通は思うからな。けど失敗して方針を転換したんだ。
 それはアンタの能力のもう一つの欠点。爆弾は自分のすぐ側では爆発させられない事からだ。
 だからスタンドの腕力やスピードを大きく超える力、例えば覚悟さんや剣を持った銀時さんに本気で攻撃されたら
 爆弾を使う間も無く倒されてしまう。だから、俺達を殺さず利用する事を考えた」

一気にそこまで説明すると、コナンは聞き入っている全員の顔を見渡す。
何時もはこの説明を直接自分ではやらないので、こうして聞いてくれている相手の顔を見ながらというのはコナンにとってもあまり無い経験である。
そのあまりのやりやすさに、元の世界に戻ったら今後も何とかこの形を取れないか、などという考えが頭に浮かぶ。
気を抜いていた訳ではないが、そこで一瞬間が空いたのも事実だ。
その隙に吉良が考えを纏めたのか反撃に出てきた。
「コナン君。それは服部君が考えたのかね? いや、それにしても流暢にそこまできちっと説明出来るのは、君の年からすれば考えられない凄い事だよ」
吉良の目から視線を離さず、コナンは答える。
「そいつはどうも」
それ以上言葉は続けない。敢えて吉良の反撃を待っているのだ。
余裕の笑みを崩さずに吉良は続ける。
「言葉に迫力がある。そして聞いている人間にそうと思わせるだけの話の組み立て方も見事の一言だよ。ただね、敢えて言わせてもらえば……」
そこで言葉を切ってコナン、服部の表情を確認する吉良。彼はこの企みの首謀者がコナンと服部の二人であると踏んでいた。
「全ての前提が『私が爆弾を作れる』というナンセンスに基づいているという事だな。いずれにしても君の想像の域を出ないのだろう?」
神楽と劉鳳の二人には、吉良の言いたい事が半分しか伝わらなかったようだが、コナンと服部の二人はその意図を完全に把握する。
服部は重要な部分に入ってからは、コナンの話に口を挟まない。コナンを、そして彼の能力を信頼しているが故だ。
吉良は肩をすくめて首を横に振る。
「正直に言うが、あまりの事に怒りを通り越してしまった。探偵ごっこもここまで来れば立派な芸だな、劉鳳君、神楽さん、彼の話には大事な物が欠けている事に気付いているかい?」
吉良もコナンや服部同様気付いている。今この場で大事なのは、被告と原告が議論する事ではなく、傍聴人である劉鳳と神楽をどちらが納得させられるかなのだ。
劉鳳は怪訝そうな顔をし、神楽は何と答えてよいのか返答に迷う。
二人の反応の鈍さに満足しつつ言葉を繋げる吉良。
「理由と証明だ。説明しようか?」
敢えてコナンと服部の方を向いてそう言う吉良。
コナンは即答する。
「アンタが殺人を犯す理由と、殺害方法の証拠だろ。いいぜ、そいつを今から説明してやる」
首もとの蝶ネクタイを締めなおすコナン。

「俺も核金『ニアデスハピネス』の存在を知るまでは、確証が持てなかった。
 核金、アルター、スタンド、これらには俺達の理解を超える特殊な機能がある。
 なら、アンタにもそんな能力があっても不思議ではない。まともな推理が通用しない訳だぜ、こんなの反則も良い所だ。
 吉良の爆弾化能力。これが全ての鍵だったんだ。
 例えば、そんな能力がある人間が普通に暮らしていたとして、その能力を他人に見せるか?
 普通に生活している分にはそんな真似はしない。その必要も無いし、それが元で偏見を持たれるかもしれないからな。
 では危機に陥ったなら? 当然使うさ。自分の命がかかっているんだ、ここで使わず何時使うってんだ。
 だが、アンタは金髪の巨漢に襲われた時、奴を銀時さんに任せて逃げる道を選んだ。何故だ?
 銀時さんと組んだ上で、その能力を銀時さんに知らせていればあの巨漢相手ですら、何とかする手はあった。
 でもアンタはそれを選ばなかった。
 下手をすれば銀時さんが抜かれて自分一人であの男と対する危険があったにも関わらずだ。
 そのリスクを負ってでも、アンタは爆弾の能力を隠したかったんだよ。
 だからあの後銀髪の女に襲われた時も俺達を逃がした。
 見誤ったよ、アンタはあの時隠そうとしていたが、その表情の下から隠しきれない怒りの思いが漏れ出していた。
 だから俺はマリアさんの死に、それを理不尽に為したあの女にアンタが本気で怒ったと思ってたんだ。
 だが、アンタは違う。誰が危機に陥ろうとただ自分の能力を隠そうとしていただけだ。
 知っているんだよ、自分の能力が隠す事で最も力を発揮する能力だってね。
 そして、体に染みこんでるんだ。能力を隠す事こそ自らの生存に繋がるってね。
 だからこそ、スタンドの存在が俺達にバレた時あんなに動転したんだろ?

 俺と服部はアミバさんの遺体を見つけてからずっと、アンタの挙動を見てきた。
 人を殺した人間ってのは、どうしても挙動不審になるか、何かしら不安定な精神状態を見せる。
 普通に人生を送ってきた人間なら、無意識下で人殺しに罪の意識を覚えるからこれは当然の行為でもある。
 だが、アンタからは全くといっていいほどその仕草が見られなかった。
 だからアンタは殺していない? いいや違うね。
 命を天秤にかけるような事態ですら能力を隠す事を優先する冷徹さを考えると、

 アンタはこの場に来る以前から人を殺してきてるって事だ! それに罪の意識を覚えない程にな!

 だがそれを裁くのは元の世界での話だ。今アンタが償うべきは、アミバさん、新八の件。
 その両方でアンタはミスを犯した。
 まずは新八。その目的と能力から考えれば殺しにかかるべきじゃなかった。
 神楽と新八の二人を味方につけ、その中に潜り込んでいた方がずっと生存率は上がってたんだよ。
 それを、怪我のせいだろうな、落ちていた判断力で軽率に二人を殺そうとして失敗した。
 その上新八の死ぬ所を神楽に見られるという、最悪のミスをやらかした。
 そしてアミバさん、これが決定的だ。
 アミバさんの最後は余りにも不自然すぎる。体内に爆弾? しかも声も出ず、身動きも取れない。何故こんな事を?
 ただ殺すだけなら、それこそ水を飲ませるだけで充分だったんじゃないのか?
 お前はアミバさんから何かを聞きだしたかったんだ。口を開かずとも確認出来る事で。
 何を聞き出すか? アンタがここまで無理してでも聞き出し、確認したい事なんてたった一つしかない。
 アンタの爆弾の能力に関する何かだ。それをアミバさんは知ってしまった。だからお前は彼を殺したんだ。

 さて、ここで質問だ。吉良さん、アンタの大事な秘密。どうやってアミバさんは知ったんだろうな?
 少なくともあのディスクを頭に入れる前のアミバさんは、アンタに対して敵意を持っていなかったよな?
 お、気になったかい? 手が大事なディスクを入れてある懐の上に行ってるぜ?
 そうだよ、その上着の内ポケットに入ってるはずのディスクが、鍵になってるんじゃないのかい?」

コナンは吉良に倣うように自分の上着の内ポケットに手をやり、ゆっくりとその中から一枚のディスクを取り出してみせた。

吉良の驚愕に歪んだ顔、すぐに自分の懐をまさぐるが、当然そこには何も入っていない。
コナンは冷笑を浮かべ、服部の方を顎で指す。
「訴えるんなら、そこの手癖の悪い男にしろよ。俺はやっちゃいないぜ」
不満気にコナンを見返す服部。
「俺だけ悪者かい。ああ、コイツが言うたやろ吉良はん、アンタの動きはきっちり監視してたって。せやからアンタが大事そうに懐にしまう所もばっちり見させてもろたわ。全く気付いてへん所見ると、俺も案外この手の才能あるみたいやな」
いつの間にやら吉良からディスクをすりとっていた服部は、そんな陽気な言葉とは裏腹に銃を抜いて吉良に向け構える。
「動くんやないで。もちろん、スタンドを出すのもダウトや」
コナンがトドメを刺すべく神楽、劉鳳の方へと歩み寄る。
「後は既に確信を得ている俺と服部以外、そうだな、神楽がこのディスクを頭に入れて確認すればいい。悪いが、アンタが誤魔化しで言った『死ぬかもしれない』はもう通用しないぜ」

全身伝う嫌な汗が止まらない。
延々生意気な推理とやらを披露してくれたが、どうやらこの小僧はあのディスクの中身を確認しているようだ。
そうでなければ、ここまで正確にこの吉良吉影の能力を言い当てる事など出来ようはずがない。
しかし、この場に来てからの吉良の行動や心理を、例えディスクを見たとはいえ、こうまで見事に見抜いてみせるとは。
鋭い小僧と思っていたが……無理に機会を作ってでも殺しておくべきだった。
いや待て、抜けている。一つ抜けている事があるぞ。
ディスクを見たのなら、シアーハートアタックの事も知っているはず。
なのにそれについて一言も言及が無い。
……いや、奴等にシアーハートアタックは見せていない。ならばここでその説明を私や彼等にする必要も無い。
それに、既にシアーハートアタックは私の手を離れている。全く意味の無い発見だ。
そして肝心要の所だが、私の能力を知った連中にどうやってバイツァーダストを仕掛けるか。
事ここに至っては彼等を全て殺すか、最後の手段であるバイツァーダストを用いて時間を戻すかのどちらかしかない。
先ほどの襲撃さえなければ、神楽を爆弾化したままだったので、幾らでも抜け出す手立てはあったというのに。
そこにクソ忌々しい小僧の声が聞こえてくる。
「俺達が襲撃した理由、もうわかったよな。俺達がアンタを追い詰めるには、アンタが誰かを爆弾化していない状況を立ち上げる必要があったんだよ」
一々癇に障る。いいから少し黙れ、こっちはその小生意気な声を聞くだけで吐き気を催すんだ。
「そして劉鳳さんのアルター能力があれば、お前が目の前の何を爆弾にしようと通用しない。俺は諸共の自爆すら許す気無いぜ。素直に負けを認めて俺の指示に従いな」
ふざけるな、ケツのクソ小汚いジャリガキが。まだ何か手はあるはずなんだ、考えろ吉良吉影。
「もっともそれ以前に、お前がそんな動きを見せるより早く服部がアンタを射抜くがね」
何が何でもコイツは殺す。まだ下の毛も生え揃わないようなガキがこの吉良吉影を追い詰めるなぞ絶対に認めん。
このガキがここまで追い詰めておきながらトドメを刺しに来ないのは、ここまでわかっていても私を殺す気が無いからだ。
ならば、私を捕縛する為必ず誰かがこちらに近づいてくる。そのチャンスを使ってバイツァーダストを……
「吉良、状況が理解出来たんならこの水を飲んでもらう」
何? 水だと?
「コイツの中には服部の持つ核金『ニアデスハピネス』で作った黒色火薬が混ぜ込んである。これを飲めば、アンタは二度と服部に逆らう事が出来なくなる」
小僧は小さめの蓋の付いたプラスチックボトルをカウンターの上に置く。
小憎らしい事に、ちょうど服部と私との中間点である位置にそれを置きやがる。これでは跳びかかってもすぐに避けられてしまう。
「本当はこんな手は使いたくなかったんだけどな。アンタを殺さずに無力化する方法、これ以外思いつかなかったんだ、悪いな」
悪いと思うのなら今すぐ止めろ。善人面して結局これか、人殺しめ、お前は最低の人間だ。

コナンの言葉に、初めて劉鳳が口を開いた。
「コナン、服部、まさかお前達この男を生かしておくつもりか?」
その瞳からは紛れも無い殺意が見てとれる。
コナンは負けじと劉鳳を睨み返す。
「吉良の殺人を見抜いたのは俺と服部だ。だからこいつの処遇は俺達が決める。今の俺のやり方で無力化は可能だろ?」
劉鳳の流儀がコナン達のそれと大きくかけ離れているのは、服部から聞いて知っている。
だから服部のアドバイスに従って、こういう言い方をしてみたのだ。
劉鳳もそれを見抜けなかった負い目があるせいだろう、完全に納得したわけではないが、それ以上この場では口を挟まなかった。
神楽は何を考えているのかわからない表情でじっと吉良を見つめている。
真っ先に騒ぎ出すと思い、それを制する手を幾つか考えていたのだが、不要のまま終わってくれそうだ。
ここが最後の勝負所なのだ。
コナンと服部は今回の仕掛けに関して、確実ではない幾つかの『賭け』を余儀なくされていた。
まずは最初の襲撃。
この時吉良が爆弾化の能力を用いてくれる事。これは吉良の爆弾能力確認の意味もある。
次に吉良の反論を極力押さえつつ吉良の犯行を説明する事。
これはこの殺し合いの場において、各人個別に説明していたのでは同行者を納得させる事は困難だと感じたからだ。
幸い今までそんな事は無かったが、普通なら一歩間違えば集まった仲間達が疑心暗鬼に囚われていたかもしれないような状況なのだ。
だから、劉鳳、神楽が立ち会う場所で、吉良の感情的でない反論を許しながら、彼を論破しなければならない。
それでこそ、劉鳳と神楽の理解が得られるのだ。
そして三つ目。実はこれが一番危険なのである。
コナンはこのディスクを使ってはいなかったのだ。
吉良の言った「死ぬかもしれない」はブラフと見切ったが、それでもアミバが倒れたのは事実だ。
散々検討したが、アミバが倒れた事に吉良が介入している可能性は極めて低い。
死にはしないかもしれない。だが、倒れるような事になっては話にならない。
口でどう言い繕っても、コナンが倒れれば吉良はディスク使用の可能性に思い至る。
舞台が整うまでは決して吉良に気付かれてはならない。それが吉良を無力化する絶対条件なのだから。
故に、コナンはこのディスクに入っていると思しき内容を推理のみで言い当てなければならない。
前後の状況からそれを読み取る事は可能だし、自信もあったが、ここで僅かでも外していた場合、やはり吉良にディスクの件を気取られる。
だから不明瞭な点に関しては特に言葉に気を遣った。冷汗が出てないか確認したいのを堪えるのに苦労したものだ。
まずは吉良の能力が爆弾化である証拠を明示して、しかる後動機の説明とした方が聞いている方にも説得力はあるのだが、敢えて逆にした理由もこれである。
吉良の犯行、能力を証明する唯一の物的証拠を、コナンは確認していなかったのだから、無茶もいい所だ。
これに気付かせない内に水を飲ませて動きを封じ、吉良が自暴自棄になる前に病院に行って睡眠薬を手に入れて昏倒させる。
吉良は劉鳳のアルターに関する知識を持っていない、という点まで利用しての全力全開なハッタリ攻勢であった。
(好きな時に爆弾を作れるなんて無茶な技、まともな手で止められるかっての)
推理で追い詰めるだけなら、ディスクを手に入れた時点で終わりなのだが、爆弾化の能力を無効化しつつ、殺さずに捕えるとなると、正直最初は途方にくれたものだ。
そんな難題も、後一歩で成し遂げられる。

とにかく時間を稼ぐんだ。少しでもいい、考える時間を、妙案を思いつく時間を。
吉良は神楽に訴えかける。 
「神楽さん、君も私が人を殺したと本当に思っているのかい? 一緒にルイズさんを助けようとした私を疑っているのかい?」
この四人の中で、未だに怒りの表情が見られないのは彼女のみ。
やたら賑やかなこの娘が沈黙したままなのは、おそらく迷っているせいだろう。
突如、部屋中に聞いた事も無いような音が響いた。
僅かに視線をずらす。するとその先には、激怒する劉鳳とその隣に尻尾を使って立つスタンドの姿が見えた。
「……この期に及んでまだ足掻くだと? しかも、こんな少女の心を利用してまで生き延びようなどと……」
すぐに服部が劉鳳を落ち着かせるべく口を開くが、あれは止まらないだろう。
「劉鳳はん! ここは俺らに任せるんやなかったのか!?」
「黙れ! これ以上一秒たりともこのクズを生かしておけるものか!」
どうやら強烈な地雷を踏んでしまったようだ。
しかしこれはチャンスだ。今しかこれを突破する機会は無い。
「服部君! 悪いが最低限、自分の身だけは守らせてもらう! まだ私はコナン君の話に納得はしていないからね!」
そう言ってキラークイーンを呼び出す。
コナンは殺人に強い嫌悪感を持っている。ならばその彼と旧知である服部も同じなのでは、といった思考が吉良にはあった。
そしてそれ抜きでも、まだ全てに決着が着いたわけではない今ならば、スタンドを呼び出す言い訳はつく。
そこに僅かでも迷いが生じれば、引き金を引く事は出来ない。殺人に慣れていない人間の性だ。
後は乱戦になってしまえば、あの銃は無力化するだろう。ならば逃げ出すだけなら何とかなる! いやしてみせる!

劉鳳はんにしては我慢した方……と考えるべきやな。
アミバはんの事があったのに、良くもここまで耐えてくれたわ。
俺の事、きっと信じてくれてたんやろな。ありがたいでホンマ。
にも関わらずの暴発。これはもう止められへんやろ、劉鳳はんなら奴の爆弾をかわして勝つ事も出来るかもしれへん。
せやけど、リスクでかすぎや劉鳳はん。劉鳳はんだけやない、下手すりゃこのごたごたで他の誰かが死ぬ事になる。
吉良の能力はどんな状況下でも、捨て身になれば誰かを地獄へ道連れに出来る、そんな能力なんやで。
次は、俺との約束最後まできっちり守ってもらうで、ええな。
俺はあの時、決断すべき時には、決して迷わないと決めたんや。
そして俺は、躊躇う事なくスーパー光線銃の引き金を引いた。



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