神に愛された男

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神に愛された男◆WXWUmT8KJE



 砂で出来た山がいくつも存在し、風が吹くたびに砂が舞い、さらさらと流れ落ちていく。
 ただただ広大な砂漠が広がる中、対峙する男が二人。
 片方は黄金の身体に隻腕、カミキリムシに似た仮面と触角を持ち、黒いマントをはためかせていた。
 もう片方は銀髪の痩身の男。鋭い顎と鼻、猛禽類を思わせるような視線で黄金の怪人を射抜いている。
 銀の髪を持つ者の名は、赤木。
 殺し合いに参加して、プログラムを潰すことにたった一つしかない命を投げだす、酔狂な男である。
 黄金の怪人の名はJUDO。
 仮面ライダーたちに大首領と呼ばれた男であった。
 その外見は参加者の一人、村雨良が変身したZXに酷似していた。赤木はZXの存在を知らないため、その事実に気づくことはないが。
 彼が今しがたコンビを組んでいた相手、パピヨンなら気づいたであろうが、赤木はパピヨンからZXの情報を得ていない。
 そこまで、信頼されていないということだろう。
 もっとも、その情報を得ても赤木は気にも止めなかっただろう。
 主催者と似た姿の男がいる。ただ、それだけの情報が手に入った、そうとしか思わない。
 それよりも、現在の状況が赤木にとっては興味深かった。
 膝をついて、お椀を振り下ろしたままの体勢で大首領を睨みつけているだけの赤木。
 赤木はゆっくりと口を開いた。
「半か…………丁か…………」


 赤木が歩くたびに、木製の床がギシギシ不快な悲鳴をあげてくる。
 視界に入るのはおおよそ、薄汚れたコンクリートの壁。赤錆が浮かぶ古い蛇口。風でガタガタうるさい窓。降りしきる雨。
 かなり年季が入った校舎を見回しながら、赤木はタバコを吸おうとして、自分がタバコを手に入れていなかったことを思い出し、僅かに眉を曇らせる。
 まあ、別に問題ないとパピヨンがいる方向へと視線を向ける。
 特に感情はこもっていない。せいぜい、パピヨンがここに来る。その事実を認識しているだけだ。
 赤木はパピヨンをどう見ているのか?
 覚悟と同じくこの殺し合いを壊す手札となりえるか? それとも、殺し合いを加速させかねない危険人物とみなすか?
(いや……どちらでもないな…………)
 赤木が周囲を見回すと、狙撃により焦げた廊下が眼に入る。
 川田という殺し合いに乗った男の狙撃でこなたはあっさりと死んだ。
 さっきまで運がよかった人間が、運に見放されてあっさりと逝く。
 これがあるから勝負場とは面白い。自分の値踏みさえ、上回る結果の到来。こなたのような少女でさえ、命を賭ける賭博場。
 ここには偽の勝負などありはしない。たった一つの命のやり取りする場。
 まさに狂気の沙汰だ。
 それこそ、赤木の望んだもの。赤木が求め続けたもの。
 もっとも、パピヨンの認識は違う。
 こなたの死に明らかに動揺を見せている。人間らしい感情を浮かばせている。
 おそらく、パピヨン自身もこなたに何らかの好意を持っていたのだろう。
 そして、見たところパピヨンは好意を持つことも、持たれることにも慣れていない。
 好意を持っていたこなたが、逝ってしまったのだ。
 パピヨンは奇しくも、放送直後のこなたと似た精神状態に陥ったのだ。
 とはいえ、あの時とは違い赤木としては馴れ合う気はないうえ、修羅場を潜っているパピヨン相手なら言葉をかける必要ないと放っている。
 同時に、赤木はパピヨンがその感情をどう処理するのか楽しみにしている。
 初めて遭遇するおおきな感情のうねりにどう対応するか。
 対応しだいによって、パピヨンがブタにも最強の手札にもなる。
 人の変わり節、誰にも訪れるそれが、今パピヨンに訪れていたのだ。
 ナギやこなたはそこを乗り切れなかった。なら、パピヨンは?
 クックック……と赤木は口角を上げ、そろそろパピヨンと合流しようかとその場を離れようとする。
 ふと、赤木は振り返った。
 彼の後ろには何もない。赤木は無言で、再びパピヨンの元へと向かう。


 ぴっちりと全身を包む黒い全身スーツに蝶の仮面をかぶる男。
 言われずとも、蝶人パピヨン、その人である。
 爆発の跡を色濃く残す校舎にて、その背中にどこか力がない。
 ここに来てすぐ、月の光に身を晒したときのような、覇気がないのだ。
 普段は目立つ、寝そべれば小山を築く彼の一物も、今は黒いスーツの背景と化している。
 握る黒い核鉄を手に、パピヨンはこなただった物に背を向けて、赤木の元に戻るために道を歩く。
 雨が降りしきる音と、ギシギシと木製の床が鳴り、パピヨンの耳に不快ながらも、気分を紛らわせるのに役に立った。
 パピヨンは苛立つ。蝶人たる自分が、まるで人間みたいな、まるで昔の自分が持っていた感情に振り回されることに。
 彼は全てを捨てたはずだった。
 己の名も、己の家も、己のつながりも、己の家族も。
 全てを捧げて、人型ホムンクルスの力を手に入れた。
 その過程で犠牲になる人間など知ったことではない。なかには泉こなたのような善良な少女もいたのだろう。
 事実を取り繕うつもりなどない。罪だと糾弾したければ、すればいいとも思う。
 幾多の屍を犠牲にしても、死ぬのはごめんだったし、芋虫のように他人に軽んじられる日々など、地獄でしかなかった。
 自分はあの黒色火薬の色をした夜に生まれ変わったのだ。
 自分の人間の名など、捨て去ったはずだった。
 なのに、今のパピヨンはこなたの死に揺れている。
 教室で同級生が恋の話に浮かれているのを内心馬鹿にしていた。
 しょせんは雄と雌の生殖活動。そこにロマンを求めるなど、くだらない。
 そう思っていた。それが彼の感想であるはずだった。
 こなたの死に崩れた今のパピヨンにはそれを否定できるのか、自信はない。
 こなたがいないことが無性に寂しい。
 そんな自分自身が許せず、パピヨンは苛立ちを募らせていった。
 赤木との合流までの時間が、やけに長く感じる。


「ふん。待ちきれずお前からきたか」
「…………クク。お前もまた……随分長い用足しだな……」
 パピヨンは赤木の見透かしたような視線を避け、苛立ちを示す。
 その様子に赤木は、見定めるように泰然と構えている。
 相手に見透かされるのは好きではない。人食い動物のような視線をもってねめつけるが、赤木はそれを面白い、という表情を返した。
 相手にするのも無駄だと判断し、パピヨンは覚悟と赤木よりもたらされた情報を統合し始める。
 パソコンを立ち上げても、『Dr伊藤』からの反応はなかった、ということもある。
 赤木の情報で抜けているところがないか、確認するのも悪くはない。
 いけ好かないが、謎の多い主催者側の情報を持つ貴重な相手。
 覚悟からの情報と合わせて、すべて自らの思い通りになると思い込んでいる主催者たちを叩きのめさねばならない。
 己の苛立ちを敵にぶつける。いささか乱暴だが、今までと変わらない。
 それに、自分ではそう思いたくないが、カズキやこなたなら、パピヨンが主催者を潰すのに賛同しただろう。
 その己の思考に、パピヨンは反吐が出そうになる。死者は喋らない。考えない。
 なのに、自分に都合のいい言葉を死者に求める。これでは津村斗貴子を笑えない。
 パピヨンは幻想を強く頭を振って振り払い、思考をまとめる。
 ツカツカとパピヨンは黒板に向かい、チョークを手にとって赤木に示した。
 赤木は静かに紙と鉛筆を取り出し、パピヨンの行動を待つ。
『お前が得た情報によれば、首輪は外見をステルスされている、ということだったな?』
『ああ。泉との外部の接触により判明したことだ』
『そして、敵の本拠地に迎撃装置の存在。監視体制が万全でない。首輪の構造は単純。赤木、お前は馬鹿か?』
『馬鹿……とは?』
『罠以外なんでもない。しかも、子供でも引っかかるか怪しいほど単純なもの。
こちらに有利な情報が多すぎる。敵に裏切り者が出ない限り、この情報を得ることは不可能だ』
『俺はこの情報、真実だと思う』
『根拠は?』
『一致している……いや、型にはまりすぎている、といった方がいいか』
『どういう意味だ?』
 パピヨンは不快感を示しながら、赤木の顔をうかがう。彼の表情は変わらない。
『俺が遭遇した参加者に、面白い制限を受けた男がいる』
『ほう? どんな制限だ?』
『その男は『人間ワープ』というアルター能力持ちだ。奴の意思一つで自在に移動が出来る。
しかし、奴の能力は制限を受けた。疲労の少ない能力に多大な負担を課し、距離をたった二メートルまでに縮める。
まるで、奴の能力に恐れるように』
『…………なるほど。お前はこの迎撃装置のことを言いたいのか』
『理解が早くて助かる』
 パピヨンは舌打ちをし、赤木から聞いた迎撃装置のことを頭から引き出す。
 時速六百㎞以上の速度でないと避けることのできない雷。
 その攻撃を避けるのなら、何らかの乗り物で乗り越えるか、はたまた『人間ワープ』によって雷を避けながら敵の本拠地へと接近していけばいい。
 つまり、主催者側にとって『人間ワープ』を重く制限するのは必須だといえる。
 ここまで推理できれば、後は子供でも簡単に答えを導けれる。
 赤木は本拠地の情報が信実である根拠をもっている。
 ゆえに、この情報の信憑性が高い。そういいたいのだ。
『しかし、罠を仕掛けるなら美味しい餌を入れておくのが常套手段だろう。
本拠地の話が真実だとして、なぜそこまで信頼する?』
『そうだな。首輪の情報に嘘が仕掛けられていれば、俺たちは終わりだ。慎重になるのも無理はない。
むしろ、状況に流されないその姿勢、評価に値する』
『黙れ。俺はお前の評価など、興味はない』
『知っている。だからこそ、そこを認識しているからこそ、俺はこの情報が信憑性が高いと考えている』
『なんだと?』
 パピヨンは露骨に疑問を浮かべて、赤木を見る。
 赤木は、むしろパピヨンが信じないことが、おかしいという表情をしている。
 パピヨンはさらに苛立ち、チョークがあっさりと折れた。
『この話に虚偽が混ざるなら、首輪の情報だろう。しかし、与えられた情報はどうだ?』
 赤木は少し鉛筆を持ち上げ、やがて箇条書きに首輪の情報を書いていく。
『首輪の機能で、語られたことは、
1.霊的保護で外見をステルスされていること。
2.構造は単純。
3.監視は盗聴に頼りきり。その上、監視体制も万全でない。
俺たちにとって有利すぎる情報だ。警戒心を抱かないほうがどうかしている』
 パピヨンはもったいぶるなと告げようとするが、赤木が右手を差し出して制される。
 相手の思うように動かされるのは不快極まりなかったが、何とか耐えて続きを促す。
『そうだ、一つでも虚偽が混ざれば、俺たちは詰む。なおかつ、どれも俺たちに確証が持てない。
なにせ、俺と泉にこの話が真実だと確信できる情報が何一つないのだからな。なのに、俺たちにこの情報が届いた。
それこそが、この首輪の情報を真実だと告げている』
 確信を秘めた赤木の目がパピヨンを射抜く。絶対を信じるその強さに、パピヨンは不快な表情をさらに深める。
『俺と泉は、この学校に来て間がない頃にこの情報を送られてきた。
つまり、安全圏に逃げ出した俺たちを移動させるために虚偽の情報が送られてきた線は潰れる。
むしろ、禁止エリアで移動させるほうが確実だ。
次に可能性があるのは、俺たちの始末。しかし、先ほどの津村の様子を伺うに、奴らは任意で爆破できる。
そんな回りくどいことをする必要はない。俺たちを始末するための情報でないのは確実だ。この線もなし』
 赤木は次々と可能性を潰していき、鉛筆を一旦止めてパピヨンに向きなおる。
 不敵な笑みは変わらない。やがて、赤木が一文を紙に追加した。

『一番ありえる可能性は……パピヨン、主催者は俺たちに来て欲しがっている』

 その文を見て、パピヨンは眉を顰めた。
 赤木を見つめる視線には、正気を疑う色が混じっていた。


「信じられない……という顔だな……」
「当たり前だ」
「ククク……パピヨン。どう考えても……おかしいだろ?
この参加者……多種多様といえば聞こえはいいが……まるで子供が遊びで選んだように……適当だ……」
 いきなり声に出す赤木に、パピヨンが憤る。
 当然の反応だ。しかし、赤木はやめない。
「パピヨン……お前はこの集められている人間に……何の疑問も持たないのか?」
『疑問などとっくに持っている。ここに集められた連中は規則性がない』
「そうだ……葉隠からの説明から察すれば……目的が二つある。
英霊を集めること。強者を選定すること。しかし……それは正しいのか?」
『今のお前の妄言よりはよっぽど説得力がある』
「クク……考えても見ろ。この弱者が優勝しやすい状況……強者が協力しやすい状況……どう考えても強者を選定するのに向かない……」
 強者が優勝する。そのためだけなら、トーナメントや勝ち抜き戦を行った方がいい。
 騙まし討ち、強者同士の相打ち、協力、明らかな共通の敵『主催者BADAN』。
 この殺し合いには、なんでもあり、そして殺し合いを妨げる要素に満ちている。
 ここに集められた強者は、潰し合いをしやすい者が多い。
 最初の広間での勇次郎の行動をみれば、好戦的でないと感じない奴はいない。
 勇次郎は、強者を、弱者を喰うために動く。強者との戦いは起こしやすい人物だ。
 そして、ラオウ。赤木が見る限り、ラオウもまた強者と戦うことを優先していた。
 この殺し合いは、弱者が強者に殺されるのと、強者が強者と潰しあう確率がほぼ同等である。
 また、恐怖に押し潰れた弱者がいたとしたら、と赤木は思考する。
 ケンシロウの話からすれば、エレオノールは騙まし討ちをした。
 覚悟やケンシロウ、鳴海のような強者は比較的、引っかかりやすいだろう。
 必ずしも強者が戦って死ぬような状況を作れるわけではない。
 それに弱者でも、強者にする手段はある。
 スタンドディスクやパピヨンが言う『本来とは違う形で発動する核鉄』など、弱者を強者にする手段などありふれている。
 どんな弱者でも勝ち抜ける可能性を持たすアイテム、この支給は強者を選定する、という目的とはずれている。
 強者だけにこれらのアイテムが支給される、というなら分かる。
 だが、実際はどうだろうか。御前、とかいう核鉄は三千院ナギに支給された。
 猫草はこなたに支給されていた。僅かとはいえ、彼女たちが優勝する可能性を上げている。
 また覚悟やケンシロウといった同じ志を持つものが戦うような状況を作りにくい。
 そして、『主催』の存在は、ケンシロウや覚悟といった正義感を結ばせるのに、一役買っている。
 この殺し合いは、明らかに強者の選定は不向きだ。
 覚悟の言っていた強者の選定が主催者の目的と外れる、という結論になる。
 パピヨンが黒板に文字を書こうとして、諦め、赤木に向き直って口を開く。
「待て、ならなぜ優勝者を選定するということだ?」
「クク……正しくは強者を選定したかったのだろう……主催者以外のBADAN勢がな……。
実際そうなのだろ? 名も知らない……主催者さん」
 赤木が告げると同時に、教室の端に揺らぎが生じる。
 金のカミキリムシのマスク。黒いマントで黄金のボディをおおう、仮面ライダーZXに似た黄金の怪人が現れた。


 いきなりの登場にパピヨンは警戒心を露にするが、赤木は右手で制する。
「はじめまして…………とでも言うべきか……?」
『構わん。我が名はJUDO。ワームよ、キサマはなぜその考えに至った?』
「……簡単なことさ。こんな酔狂なゲーム……キサマのような奴しか開催しないと思ったからさ……」
『ほう』
「俺はここで……鳴海やパピヨン、葉隠……おおよそ、ありえないような世界の人間とであった…………。
お前は……そいつらを連れ出せる力がある……。ここに俺たちがいる理由……それはお前の力だろ……?
おまけに、主催者連中……BADANだっけか? そいつらを自由にできる力がある……」
『だとしたら、どうだ?』
 赤木の問いにあっさりと答えるJUDO。その答えに、パピヨンが僅かに口角を下げるが、それだけだ。
「それだけの力……組織……権力……お前はこの世で必要なものを持ちすぎている……。
断崖絶壁……誰も立ち寄れない孤高の位置…………終わることなく続く成功の道…………。
お前の異能……どれほどの時を生きていたか……想像もつかない……。
だからこそ……分かる……。お前は……」
 赤木は静かにJUDO……大首領に歩み寄る。
 威圧を……常人なら動けなくなるほどの圧力を、そよ風のように受け流して眼前に赤木は立つ。

「お前は……飽いている…………!!」

 断言する赤木。とたん、風が吹き、窓がガタガタうるさくなる。
 パピヨンはただ傍観する。己の出番はまだだと告げるように。
「ぶっちぎりだと思っているんだろ……? 己の先頭を走るものが……誰もいないと。
誰もいない場所で……誰も届かない場所にいるんだろ……?
だからこそ、満たされない。お前が抱えているのは……大きな絶望だ……!
そういう奴こそが、この殺し合いを開催する……!」
 もはやそれは理論ではない。ただの決め付け、ただの妄想。
 なのに、それこそが真実であるように、それこそが世界の答えであるように、大首領を評していく。
「誰がこようが……誰が優勝しようが……いや、脱出しようが……お前は構いやしない。
ただその渇きが……飢えが満たせれば……それでいい……。
だが、それは無駄だ……JUDO…………!!」
 JUDOが赤木を興味深そうに見つめる。
「お前は俺と同類だ……。ただ、己の持つ力に……発散するものなしに……飽いていく…………燃え尽きていく……!」
 とたん、赤木の首輪が甲高い電子音を発する。
 BADANにとっては敬愛する大首領に向かって、同類だと言い切った赤木が許せないのだろう。
 しかし、赤木は一切首輪の音を、死が近付くのを意に介さない。ただ、大首領のみを視線を入れる。
「俺はここで……充実したぞ……。本物の勝負……いつ命を失うか分からない状況……まさに、命を賭けるのに相応しい。
JUDO、お前も来い……。お前もここに来て……俺たちのように勝負をすれば……その渇きは癒える……!!
成功し続ける生など……死が訪れない生など……何の「酔い」ももたらさない……!!
JUDO……お前こそ……この殺し合いに参加すべきだ……。
こい! 異能者よ、ここには……キサマすら殺せる…………濃厚な「死」がある!!」
 言い終えてただ大首領を赤木は見据える。ピッピッピッピ、と首輪の音は間隔を早くしていく。爆破はもうすぐだ。
 大首領がはじめて動き、顔を赤木へと向けた。
『黙れ』
 大首領の瞳が、輝いた。


 ヘルダイバーのアクセルグリップを握り締め、市街地をかけていく男が一人。
 民家を何軒も通り抜け、無機質に青から赤へと変わる信号のある交差点を疾風のごとく駆け抜けた。
 降りしきる豪雨に全身ぬれねずみだが、構わず進む。
 目指すのは学校。復讐の邪魔をしたと思わしき赤木、もしくはパピヨンの始末。
 今の自分はライダーマンヘルメット、ハルコンネン、ライドル。
 支給品をかき集め、全力で復讐を果たす。たとえ、憧れた正義の象徴、仮面ライダーを汚しても。
 川田にとって柊つかさとは、そういう存在だ。己の全てを賭けて、生かしてやりたかった少女だ。
(思い出すな……最初にプログラムに巻き込まれたときを……)
 あの時、慶子を川田は守れなかった。その苦味を糧に、二回目のプログラムはくそったれな政府にカウンターパンチを食らわせることを誓った。
 まさか、ここで同じ気持ちを味わい、殺し合いに乗って生き返らせるなどという願いを持つとは思わなかった。
 自分が死んでいなければ、きっと二度目の消失の重さに耐え切れず自らの命を絶ったのかもしれない。
 たった一日の付き合いなのに、たった一日傍にいただけなのに、こんなにも想ってしまう。
 坊主頭に無精ひげの自分じゃ似合わないな……と自嘲しながら、身体を傾け交差点を右折した。
 ヘルダイバーの後輪が火花を散らしてすべり、排気音が甲高く無人の市街地に響いた。
(本郷さん……俺は殺す。仮面ライダーの力を使って。
いや、今の俺に『仮面ライダー』の力なんて相応しくない。この力は、この能力は……)
 バイクのスピードを加速させ、川田は進む。まるで、罪悪感から逃げるように。
 そうでなければ、崩れ落ちそうだったのだ。

「俺は……復讐の鬼だ!」

 かつて、ライダーマンヘルメットを装着した男と、同じ宣言をする。
 そうとは知らずに、そうとは気づかずに。
 後に、その男が仮面ライダーと名乗ったことも知らずに。


 ヘルダイバーを停車して、ライダーマンヘルメットによるカメラアイで校舎を探る。
 窓際に移ったのは……パピヨン、そして赤木。
 好都合だ……川田は呟いて、両腕でハルコンネンを持ち上げた。
 ライダーマンの強化服からもたらせる、身体能力はハルコンネンの反動に耐えられる怪力をもたらせてくれた。
 もはや身体とハルコンネンを固定する必要などなくなった。
 銃口を赤木とパピヨンの間を彷徨わせる。
 どちらを殺すか、一瞬だけ迷うが、構わず銃口を固定した。
 川田は照準がぶれないようにハルコンネンのストックを肩に乗せ、ハルコンネンの砲身を左腕で持ち上げる。
 右頬をハルコンネンのストックにつけ、一定箇所に密着させた。膝をついて、銃口を徐々に持ち上げていく。
 かすかなぶれもなく、ハルコンネンが固定された。
 ライダーマンヘルメットと、強化服がなければこうはいかなかっただろう。
 引き金に触れて、目を瞑る。瞼の裏に撃ち抜かれる覚悟の姿が再生された。
 ゆっくりと目を開いていくと、静かな炎が川田の目に表れる。
 急に、ピタリと雨が止んだ。
 ありえないことだったが、川田は構わなかった。いまさら、どんな奇跡が起ころうとも構いやしない。
 川田の右手の人差し指がゆっくりと引き金を押し込んでいく。
 まるで時の流れがゆっくりになったような状況だが、川田には馴染み深い感覚だ。
 凄まじく集中したときに起こる、周囲の認識感覚の異常な発達。
 砲身に火薬が広がる様子が見え、砲弾が放たれていく。反動が川田の肩を駆け抜け、身体が僅かに揺れる。
 砲弾は神速の勢いで飛び出し、校舎の壁に炸裂する。
 再び、花火のような爆発が校舎に轟いた。
 川田はライダーマンヘルメットを取り、タバコを吹かす。じっと、校舎から誰か飛び出てくるのを待ち続けた。


 カラン……と乾いた音と共に金属の塊が零れ落ちる。
 甲高い電子音を首輪は告げない。赤木の首には、一日中拘束していた枷が外れている。
 同時に、雨が降りしきる音が止み、あたりに静寂が訪れた。
 パピヨンは呆気に取られ、大首領を睨んでいる。
 大首領の念動力により首輪の外れた赤木は何事もなかったかのように大首領に試すような視線を送っていた。
『これでうるさい物はなくなった。続きをいってみろ』
 大首領は首輪だけでなく、雨に対してもうるさいと感じたのだろう。
 あっさりと、天候を操作して見せた。
 あまりの非常識な出来事。もっとも、ここにいる二人は気にしなかったが。
「ああ……お前はこの殺し合いに来るべき存在だ……。事実……お前は俺たちに来て欲しがっている……。
でなければ……俺たちに情報が渡るような状況なんてありえないはずだ……。
こうして……この場に現れるのがいい証拠……。お前は……一部始終……全てを知ることができる……。
霊的処置……そんなことができるのに……余りにも情報を得る手段が稚拙……。
つまり……BADANには霊的処置を施せない……。施せるのは……キサマのみ……!
キサマは俺たちの干渉が皆無……つまり、俺たちにキサマの元に来て欲しがっている……。
この殺し合いに……混ざりたがっている……!
首輪の霊的処置……つまり、英霊はキサマ自身……強化外骨格はこの殺し合いに混ざるための、身体……。
優勝者に……強者にBADANは強化外骨格を着せたがっていたが……お前は別。誰が着ようが、関係ない。
ただ、この殺し合いに混ざればいい……その、飢えを満たすために……」


『ただの戯れのつもりだったが……』
 大首領がゆっくりと動く。まるで山が動くような錯覚を感じたが、このにいる二人は揃って狂人。
 その程度で動揺はしない。
『なかなかどうして、面白い。
我にとって、虫けら(ワーム)の動向でここまで心を動かしたのは、キサマが初めてだ。
クク……たしかにどいつが優勝しようが、我は構わぬ』
「どういうつもりだ?」
『お前は虫けらの強弱を気にかけるのか? アリが最強のアリを名乗ったところで、いったい我に何の価値がある?』
 要するに、人間とは違う生物だといいたいのだろう。
 軽んじられることを嫌うパピヨンが不快な顔をする。
「だろうな。それに、たとえ三千院ナギが優勝しようと……そこにいるパピヨンのように……身体を強化できる手段はある……。
肉体の優劣など……何の意味ももたらさない」
 ホムンクルスのことをいわれたパピヨンが不快の表情を深めるが、赤木の意識は大首領に向いていた。
 自分に似ている、異端に。自分と同じく、自らを持て余す存在に。
「JUDO……キサマの目的は……肉体を得ること。そのためにBADANを使っている。
だが……この殺し合いはただの遊び……。肉体を得る手段はすでにある……」
『後は……神降ろしの儀式を待つだけだ。それにしても、ここには邪魔者が多いようだな』
 大首領が呟いた瞬間、教室の壁が爆発をする。
 とっさに赤木とパピヨンは飛び退くが、爆風により壁に叩きつけられる。
 いや、赤木に限っては、叩きつけられるはずだった。
 赤木は宙に浮かぶ自分の身体を見つめ、大首領に視線を動かす。
『少し……移動する。続きはそこでだ』
 魔法陣らしき物体が宙に浮き、赤木がその魔法陣に吸い込まれていく。
 視界に光が広がり、やがて赤木の意識が拡散した。


 瓦礫に埋もれながら、パピヨンは静かに天井を見つめる。
 先ほどの襲撃者……川田とおよぼしき人物が再度襲ってきた。
 一度逃がした獲物を、今度こそはということか。
 パピヨンは笑う。
 先ほどはこなたの死が影響したのか、赤木と大首領の会話に圧倒されるだけだった。
 なんと言う、蝶人パピヨンらしくない反応だと、自嘲する。
 これでは斗貴子を笑えないではないか。パピヨンは瓦礫を跳ね除ける。
 よく考えれば、赤木の言うとおりこの殺し合いには不審な点が多かった。
 弱者の強化、強化外骨格の存在、第ニ回放送で死者の復活を告げるほど、殺し合いに乗る人間の不足。
 一つの目的をかなえるにしては、余りにも不確定の要素しかない。
 だからこそ、赤木の推理は正しかったのだ。今の頭の冷えたパピヨンにも理解できるほど。
 敵は一枚岩ではない。あのJUDOという主催者、少なくともBADANという部下とJUDOは連携が取れていない。
 いや、連携を必要としていない。こちらの協力者の存在もそうだ。
 BADAN側の連中は驚くほど足並みが揃っていない。
 あの様子を見るに、JUDOのワンマン組織だったのかもしれない。なら、あの情報は十中八九正しい。
 首輪の手がかりは得た。JUDOとかいう奴も、こちらの行動を制限する気はないと知った。
 気をつけるのは、不揃いなBADANの連中。
(武藤……俺はやるぞ。やつらを、BADANを、あのJUDOを、そして……俺を翻弄したと勘違いしている赤木を、すべてねじ伏せる!
ああ……俺も甘くなった。泉があんな目に遭ったのが原因だ。もう、それは認める。逃げはしない。
だからだ、武藤、いず……こなた。俺は全てを賭ける。この殺し合いを潰すことに、蝶人パピヨンの全てを!)
 パピヨンは全身に力を込めて、地面を蹴る。
 まさに蝶人に相応しい跳躍。三階から一気に躍り出る。
 外に軽やかに着地して、川田を前にする。心なしか、パピヨンの股間は勢いを取り戻し、隆々とそそり立って存在を主張していた。


「いよ、一つ聞かせろ。お前が津村を殺したか?」
「そうだな。正確には違うが、殺すところまで追い詰めた」
「そうか、ならいい。ちょうどお前に用があるからな」
 川田は右前方にヘルダイバーを止め、ライダーマンヘルメットを両手で掲げた。
 大首領が退いたからだろう。雨がまた、降り始める。
 大雨のなか対峙する二人。それぞれ、抱えるものは闇。
 別に、斗貴子が死んでも川田は心を痛めない。むしろ、自分の手で殺したかったのだ。
 斗貴子を殺せず、川田の心に不完全燃焼する恨みの心が残っている。
 だから、合理的でない、ただの八つ当たりのような感情をぶつけることを平気でする。
 随分道に外れたもんだと、川田は自分に嫌悪を持つ。しかし、ヘルメットを振り下ろす勢いは止まらない。
 そのまま無言で、ライダーマンメットを頭に被る。
 光が包まれ、川田の身体が強化スーツに包まれた。
 青い頭部。Ⅴ字のラインに二つの触角が生える。剥き出しの口元は真一文字に結ばれた。
 赤いプロテクターが鈍く光り、黒いスーツが川田の鍛え抜かれた身体を包んだ。


「奇遇だな。俺もお前に用があった」
「泉さんのことか。皮肉だな」
 たしかに皮肉だ。あのこなたが、楽しそうに語っていた友達と繋がりの深い男なのだから。
 覚悟なら苦悩しただろう。こなたを殺し、友であった川田を殺すことに。
 そんな偽善、パピヨンにはない。
 あるのは罪を贖わせることのみ。斗貴子と共に、パピヨンの中にある確固としたつながりを断った罪は軽くはない。
 パピヨンが全身に力を込めて、筋肉が隆起して両腕を蝶が羽を広げるように、上に持ち上げる。
 どぶ川のように濁った瞳は川田へと向き、左足は膝を曲げて持ち上がる。
 芋虫から蝶への変身。それを果たしたのは自分。
 赤木であろうと、JUDOであろうと、自分を軽んじたことを後悔させる。
 この殺し合いを終らせるのは、蝶人たる自分だ。
 パピヨンは再び羽ばたくためにその構えをとる。
 左手に黒い核鉄を握って。


 二人は無言でにらみ合う。
 川田はライドルとハネルコンを手に。
 パピヨンは黒い核鉄を握り締めて。
 お互いの復讐の心が、黒く燃え上がる。

【C-4 学校・グラウンド 二日目 早朝】

【川田章吾@BATTLE ROYALE】
[状態] 健康 、小程度の疲労、ライダーマンに変身中(ライダーマンのヘルメット@仮面ライダーSPIRITSを装着中)
[装備] マイクロウージー(9ミリパラベラム弾32/32)、予備マガジン4、ジッポーライター、 ライドル@仮面ライダーSPIRITS
    バードコール@BATTLE ROYALE アラミド繊維内蔵ライター@グラップラー刃牙、激戦(核鉄状態)@武装錬金
    ハルコンネン(爆裂鉄鋼焼夷弾、残弾2発、劣化ウラン弾、残弾0発)@HELLSING、ヘルダイバー@仮面ライダーSPIRITS
[道具] 支給品一式×3、チョココロネ(残り5つ)@らき☆すた、ターボエンジン付きスケボー@名探偵コナン 、
    文化包丁、救急箱、裁縫道具(針や糸など)、ツールセット、ステンレス製の鍋、ガスコンロ、
    缶詰やレトルトといった食料品、薬局で手に入れた薬(救急箱に入っていない物を補充&予備)
    マイルドセブン(5本消費)、ツールナイフ、つかさのリボン 首輪探知機@BATTLE ROYALE、不明支給品1(未確認)、
[思考・状況]
基本行動方針:最後の1人になってつかさを生き返らせ、彼女を元の世界に戻す。
1:パピヨンを殺す。
2:こなたを殺したことによる罪悪感。
参戦時期:原作で死亡した直後
[備考]
※桐山や杉村たちも自分と同じく原作世界死後からの参戦だと思っています
※首輪は川田が以前解除したものとは別のものです
※津村斗貴子と、他の参加者の動向に関する情報交換をしました。
※つかさの遺体を、駅近くの肉屋の冷凍庫に保管しました。
※神社、寺のどちらかに強化外骨格があるかもしれないと考えています。
※主催者の目的は、①殺し合いで何らかの「経験」をした魂の収集、②最強の人間の選発、の両方。
強化外骨格は魂を一時的に保管しておくためのもの。 零や霞と同じ作りならば、魂を込めても機能しない。
※覚悟、斗貴子は死んだと思っています
※ライダーマンに変身中のため身体能力が向上しています。勿論、カセットアームなどの機能はありません。
※ライドルの扱い方を一通り理解しました。
※エレオノール、エンゼル御前と情報交換をしました


【パピヨン@武装錬金】
[状態]:疲労。全身に打撲。 核鉄の治癒力によって回復中。深い悲しみ(?)
[装備]:猫草inランドセル@ジョジョの奇妙な冒険、デルフリンガー@ゼロの使い魔(紐で縛って抜けないようにしてます)
    サンライトハート(核鉄状態)@武装錬金
[道具]:地下鉄管理センターの位置がわかる地図、地下鉄システム仕様書
    ルイズの杖、参加者顔写真&詳細プロフィール付き名簿、
    支給品一式、小さな懐中電灯 、首輪(鳴海)
[思考・状況]
基本:首輪を外し『元の世界の武藤カズキ』と決着をつける。
1:こなたを殺した男、川田を必ず殺す。
2:エレオノールに警戒。
3:核鉄の謎を解く。
4:二アデスハピネスを手に入れる。
5:首輪の解体にマジックハンドを使用出来る工場等の施設を探す。
6:覚悟に斗貴子を死に追いやった事を隠し、欺く。
7:赤木、大首領に自分を舐めたことを後悔させる。

[備考]
※参戦時期はヴィクター戦、カズキに白い核鉄を渡した直後です
※スタンド、矢の存在に興味を持っています。
※猫草の『ストレイ・キャット』は、他の参加者のスタンドと同様に制限を受けているものと思われます
※独歩・シェリス・覚悟と情報交換をしました。川田が殺し合いに乗った経緯、つかさやヒナギクの存在も知っています。
※逃げられてしまったゼクロスにさほど執着はないようです
※詳細名簿を入手しました。DIOの能力については「時を止める能力」と一言記載があるだけのようです。
※三村の話を聞きましたが、ほとんど信用していません。クレイジー・ダイヤモンドの存在を知りました。
※こなたの死に動揺しつつ、それに耐えようと必死です
※覚悟は少し快く思っていません。また、アカギは覚悟以上に快く思っていません。
※大首領の目的を確認。また、BADANと大首領では目的にずれがあることを認識。

【その他共通事項】
※大首領の念動力により、一時的に雨が晴れましたが、また降り始めました。






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