拳(四章) ◆1qmjaShGfE



暗闇大使からのお捻りは即座に送られた。
背中を合わせるような位置に居たのだ、暗闇大使の背面から放たれるミサイルを、どうやってかわすというのか。
超近接距離での爆発も、暗闇大使は殻と溢れんばかりのパワーで防ぎ、動く事すらない。
しかしエレオノールは違った。
今まで神秘性すら漂わせる程、触れ得ぬ存在であった事が嘘のように容易く跳ね飛ばされる。
改造人間とは違う、血と肉を持つ人の身である。弾けた弾欠が皮膚を切り裂き、肉をそぎ落とす。
舞い散る木の葉のようにエレオノールは、パピヨンの眼前に落下する。
ゆっくりと身を起こしたパピヨンの目に、エレオノールの赤黒く抉り焦げた背中が映る。
その姿に、思い出したくもない彼女の最後をダブらせる。
「……お、おい、エレオノール……」
恐る恐る声をかけると、エレオノールは苦しそうに身を起こそうとする。
エレオノールには何の感情も持っていなかった。
むしろエサとしての活躍が望めぬのなら、害悪でしかない、そのぐらいに考えていた。
だが、パピヨンはそれが当然すべき事であるかのごとく、エレオノールの体を抱き起こす。
「おいっ! 死んだか貴様!」
「……パピヨン……良かった。もう動けるのですね……」
言われて気付く。確かに体力は回復している。

何故俺は後悔している。
あの時、エレオノールに核鉄の能力を説明しヘルメスドライブを渡していれば、こんな事せずとも二人共逃げられたはずだと。
エレオノールは信用の置ける人物ではないし、そもそもパピヨンは誰かを信じるつもりなぞ欠片も無い。
ならばあの行動は間違ってはおらず、コイツが勝手に動き回った挙句、自爆して死に掛けているだけだ。
だが、胸を締め付けるような想いは確かにココにある。
俺は何故、このロクに話もした事も無い女の生死を気にかけているのだ。



エレオノールの決死の時間稼ぎは、パピヨンの回復を待つ為のものであった。

『……女を……』

それは彼女の望み通り十全の成果を果たし、代償として彼女の生命を要求してきた。

『……俺の前で……』

だが、彼女がこの場で果たした役割はそれだけではない。

『……女を殺すのか……』

見た者誰もが死と断定した一人の男が、再び戦う力を蓄える貴重な時を稼いでいたのだ。

『俺の目の前で、お前は女を殺そうというのか』

千切れたはずの四肢は元の姿を取り戻し、ひび割れ砕け散った体表は蠢きびきびきと音を立てて蘇る。

「……天が呼ぶ……地が呼ぶ……人が呼ぶ……」

体中から迸る真っ赤な閃光は、神の間に居る全ての者の目を大きく引いた。

「悪を倒せと、俺を呼ぶ!」

エレオノールの目から涙が零れる。彼は、死んでなどいなかったのだ。



「聞け悪人共! 俺は正義の戦士、仮面ライダーゼクロス!」





六角形の細長い通路の中で、秀は横たわるタイガーロイドに必死の呼びかけを続ける。
「兄貴! しっかりしてくれよ兄貴!」
暗闇大使のミサイル弾幕の最中、秀は咄嗟にアンダーグラウンドサーチライトの核鉄を使ったのだ。
この核鉄の能力、壁や地面に避難壕(シェルター)を作り出す能力を用いて、床の下部からタイガーロイドを避難させたのだ。
しかし、秀がそれに気付くのが遅れたせいで、タイガーロイドは少なからぬ損傷を負っていた。
「すまねえ兄貴! 俺が……俺がもっとしっかりしてりゃこんな事には……」
ゼクロスより被弾時間が短かったおかげか、辛うじて四肢を残しては居るものの、全身を覆う真っ白な毛並みは既に見る影もない程黒ずみ、抉り取られている。
過剰な程の強度を誇る皮膚は、Xライダーの真空地獄車やXキックを受けて尚破れる事すらなかった。
そんな強固な外皮も、暗闇大使の攻撃により引き裂かれ、内部への直接打撃を許す事となった。
核鉄を体に当てて治療に当てるも、再生は遅々として進まない。
それでも三影ならばまだ戦えるはず。活動限界だといわれていた時間はまだ残っているはず。
そう信じてひたすらに三影が目を覚ますのを待ち続けていた。

どれ程の時間が経っただろう、遂に三影に変化が現れた。
腹部から異音が轟いたかと思うと、口から何とも形容しがたい肉や鉄の欠片を吐き出す。
苦しそうな呻き声と荒い呼吸に、秀は意を決して、三影を引っ張りアレクサンドリアの元へ連れて行こうとする。
その腕を、意識すら定かでないはずの三影の手が力強く掴んだ。





葉隠四郎はエネルギー変換装置の間にたどり着くと、そこに常駐していた三人の科学者にこれの起動準備を始めさせる。
タイガーロイドの光線で神の間に居た配下は全て失ってしまった。
しかし、用心深い彼はここへ辿り着く前に増援の要請を司令部に打電し、渋るコマンダーを暗闇大使の名を出して黙らせつつ、数名の部下を借り受けていた。
戦力に余裕が無いせいか、ロクに知能も無いような奴等ばかりだったが、そいつらに部屋の外を守らせ四郎は作業を見守る。
ついでに戦況を確認したのだが、圧倒的に不利である。
だがそれも暗闇大使が動き出すまでの事であろう。あの力、例え強化外骨格を纏った覚悟とて抗しきれまい。
強化外骨格は四郎の誇りである故、少々気に食わぬ部分もあるが、それでもこの場では頼もしい事この上ない。
ようやく一息。戦闘態勢を解き、鎧を解除する。
てっきりすぐ強化外骨格装着者確保の連絡が来ると思っていたのだが、まだ暗闇大使からの連絡は無い。
おそらく遊んでいるのだろう。無駄な事をする、とも思うが気持ちもわからないでもない。
これだけの事をしでかしてくれた連中を、どうしてただ殺すような真似が出来ようか。
四郎の価値観では全く無意味なのだが、その価値観が暗闇大使達とは異なっている事は理解している。
残る強敵は葉隠覚悟とジョセフ・ジョースターぐらい。どちらもゼクロスと比して圧倒的に優れているという事もない。
ならば、要衝さえ確実に押さえておけば、多少のお遊びも許容すべきだろう。
「これが我が配下ならば即座に処断している所だが、致し方なし。今は雌伏の時よ」
立場を弁える程度には社会性がある模様。それが社会性故なのか、彼我の戦力差を理解した故なのかは判断に迷う所だが。

不意に部屋の外が騒がしくなってくる。
先ほどの司令室との通信で得た情報によると、現在行方知れずな侵入者達は、服部平次、赤木シゲル、柊かがみの三人。
いずれも平凡な人間にすぎない、外の改造人間ならば余裕を持って迎撃出来るであろう。
そう思っていたのだが、数分と経たず開いたドアの前に立つ者を見た四郎は、自らの認識を改める必要があると考え直す。
「貴様、何者だ」
真っ白な襟の高いスーツと帽子のせいで顔の見えない男は、不敵に答えた。

「正義の味方キャプテンブラボー!! ただいま参上や!」



しょっぱなヘルダイバーで轢いて、弱った所でトドメを刺す方法はここのような通路幅だととてもやりやすかった。
一線級の連中と違って体力に限界のある服部は、出来るだけ核鉄の使用を控えた戦闘方法が望ましいので、こういうのは大歓迎である。
軍服の男が一人と、科学者のような男達が三人。
服部が当初予測していたより少ない戦力である。
『案外ヌルいな連中……いや、他に何か手があると見るべきか』
恐れおののく科学者達を他所に、軍服男は腕を胸元に当て、それを水平に振るった。
「憎き鬼畜米英を思わせるその名! 極めて不愉快なり!」
彼の背後に幽鬼のごとく、軍服をまとった兵士が現れる。その数二十人。
四郎の号令が下ると共に、全員同時に服部へと襲いかかる。
「……アホか」
二十本の刀が突き立てられるも、服部のコートを貫く事は出来ず。
「こいつはアミバはんの分! ブラボーダイナマイト!!」
入室時、シルバースキンと一緒に使っておいたニアデスハピネスにて展開した黒色火薬を自身の体を中心に爆発させ、まとまった全員を跳ね飛ばす。
ついでとばかりに煙に紛れて軍服男へと接近。
「そしてこいつはタバサの分や! ブラボーキック!!」
しかし強化外骨格を纏わぬといえど、曲りなりにも四郎は零式創始者。
飛び蹴りの軌道を瞬時に見切り、最小限の挙動でかわしながら拳を服部へと打ち込む。
決して軽くはないはずの服部が、弾かれたビリヤードの玉みたいに跳ね跳んでいき、壁面に叩きつけられる。
「愚か者が! この葉隠四郎にその程度の技通用すると思うてか! そして……」
彼の合図一つで、爆発で四散したはずの兵士達が蘇る。
「我が瞬殺無音部隊、既に生者にあらず。貴様の攻撃なぞ通用せぬわ」
しかし服部もまた、シルバースキンを装備している。並大抵の攻撃でその命を絶つ事は出来ない。
ゆっくりと立ち上がりながら、心の中でぼやく。
『後ろに立ってこっちをじとーっと無言で見つめてるタバサと大騒ぎしながら文句言うてるアミバはんのプレッシャーを感じるのは、
 絶対俺の気のせいや、うん。いやホンマ堪忍やて、ほら俺まだ正義の味方慣れしてへんから……えっと、つまり、そのやな……』
「今のは小手調べっちゅー奴や! ブラボーフラッシュ!」
懐から取りい出したるブツを掲げてそう叫ぶ。
地面と並行に、真横に向かって引かれた光の帯は、触れた兵士を一瞬で消滅させる。
「何っ!?」
「改めてこれがアミバはんの分っちゅー事で一つ」

赤木より無断で拝借した成仏鉄球。やっぱり役に立ったな。いやはや、まさかその後で核鉄くれるとは思わなんだ。
悪く思うな赤木! 俺がきっちり有効活用しといたからな!
力を使い果たした鉄球を、余裕の表情でそこらに放り投げる。すぐに気付いたが、よう考えたら俺の顔アイツに見えへんやん。
軍服男から余裕の表情が消え、憤怒の形に固定される。
「ぬうっ小癪なり! 日本軍壊滅時より付き従いし我が配下をよくも!」
日本軍? もしかしてこいつ同国人か? 頼むから嘘や言うてくれ。色々と絶望したなる。
手に持った鞄から気味の悪い触手がうねうね生えてきたかと思うと、覚悟のと同じ強化外骨格が軍服男に装着される。
軍服男改め、鎧男は服部にすら対応出来ぬ超スピードで接近してくる。
避けようにも後ろは壁だ。横にかわした所で逃げられる自信などない。
『いやこれそもそも反応すんの無理やんっ!』
大慌てで体を庇うべく、両腕を前に組み、左足を上げて防御を固めるぐらいが関の山である。

「螺旋!!」

足から浮き上がるような感覚の直後、力強く背面にあった壁に押し付けられる。
シルバースキンが悲鳴を上げている。この強度と鎧男の攻撃力どちらが上かなど、伝え聞いただけでは判別などつかない。
こうして実際にやってみない事には。
やらずに済ませられるならそれが一番だ。
しかし、強化外骨格を身に纏い、零式防衛術の創始者であると聞かされた葉隠四郎が、葉隠覚悟と比べて弱いなど楽観的にすぎる予測だ。
この時この場に葉隠四郎が居るであろう事は予め読めていたが、異世界の技術が混在するこの場で戦闘能力までを把握する事など出来はしないのだ。
サザンクロスの厚めにしつらえてあるはずの壁がぶち抜かれ、隣室へと殴り飛ばされる服部。
まともにやっては、絶対に勝てない事は承知している。
ならば策を持って対する他無い。
だが、そんな策も、服部が冷静で居られなければ行使する事も出来ない。
「ぐあああああああっ!!」
見も世も無い絶叫を上げる服部。
殴りつけられた左足が大きく膨らんだかと思うと、ぱんっと音を立てて爆ぜたのだ。
シルバースキンで覆っているせいで中がどうなっているのか、服部自身にも伺い知る事は出来ないが、それでも左足が致命的な状態である事ぐらい容易に想像出来る。



痛い! ごっつ痛いてこれ! いやもう話すとか絶対無理!

背筋に避雷針つっこんで、そこに雷落としたみたいな痛みは一体何事や!

足やろ! 痛いの足なのに脳髄が真っ白になってしもて何も考えられへん!

柊かがみは片腕斬りおとされて平気だったとかありえんて! こんなん身動きどころか痛すぎて死ねるわ!

俺今どないな声出してんねや!? もう訳わからん! お前等今までこんなん喰らって平気な顔しとったんか!?

アホやろ! 痛覚神経予め引っこ抜いたとかそーいうんやろ! 俺にも今すぐそれせーや!

うおっ! あの鎧男こっち歩いて来よる! お前こっちはそれ所ちゃうんやからどっか行け!

ああ、いかん、どっか行かれたらアカンねん。でもやっぱ今はどっか消えや! 後ほんの数分でええから待てってこのドアホ!



葉隠四郎が服部の心の声に応えるはずもなく。
ただ、必殺の滅技をかわしたこの男に対する怒りがあるのみ。
それもすぐに終わるだろうが。
四郎の狙い通り、白いコートはその強度故、斬撃などの表層的な破壊行為は効果が薄いが、衝撃全てを殺しきる程の作用は持ち合わせていない。
それでも本来の螺旋ならば脳にまで達していたはずの螺旋の力が、当たった足のみで破裂してしまったのは、衝撃を殺す能力も高い事を示している。
「そのコート、支給品の核鉄のようだが、なるほど強化外骨格に及ばずともそれなりの能力はあるようだな」

カチンと来た。
アホか。お前のヘボ強化外骨格よかブラボーはんの核鉄のが断然強いわい。
くっそ、わかっとるわ! 俺なら無理でもキャプテンブラボーなら絶対動ける!
おしおし、落ち着いてきたらあんま痛なくなってきた。
けっ、油断マキシマムでこっち見下ろしてきよるやんか。
ちょうどええ、今ここでおどれの鼻明かしたる!
トドメの一撃とばかりに構える鎧男。さっきの強烈な打撃と同じ構えである。
そいつの目の前に、へへっ、この距離ならかわせんよな、俺は……


もう一個持っとった成仏鉄球をかざしてやったんや。


うははっ、めっちゃビビっとる。ドアホが、今更手遅れや!
伊藤博士がこんなおいしい切り札一つしか用意しとらんとでも思ったか間抜け。
いやまあ、それでも二つっきゃないんやけどな。
玉から放たれる光線は鎧男を直撃、すると、鎧がぶるぶると震え出した。
おえっ、気色悪っ。
何や触手みたいなん生やしながら、鎧がパーツごとにぼろぼろ落ちてきよる。
よっぽどショックなのか、鎧男再度改め軍服男は見てるだけでイラついてくる濁った目を大きく見開いている。
そんでな、最初にこれ使わへんかったのはや。
突然の事態に対応能力が効かぬ間に、最後のトドメまできっちりぶち込んだる為に決まっとるやろが!
俺はすぐさまニアデスハピネスで作り出した火薬を、自身の背後で爆発させ、全く動かん足を使わず跳ね起きる。
格闘技をやってるんなら尚の事、体に力を入れる事なく動くなんて動作、想像の外やろ!
「武装錬金!」
爆発のコントロールで自らの姿勢を操る。爆風によるダメージはシルバースキンが全て受け止めてくれる。
そして新たに現れたソードサムライX。お前生身の人間なんやろ。せやったら剣刺せば充分死ぬわな!
掟破りのトリプル武装錬金。
気が遠くなりそうな脱力感にも、全身を駆け巡っている激痛故、意識を失う事は無かった。

引き金を引くのとは全然違う、剣先を通して伝わる肉を抉り心臓を突き破るこの感覚は、多分一生忘れられないと思う。



全ての核鉄を解除し大の字に寝そべる服部は、今は亡き仲間達に想いを馳せる。
「……最後ので、タバサの分と劉鳳はんの分って事でどや。文句なんて聞かん、これで手打ちって事にしてもらうで。俺もうホンマ泣きそうなんやから……」
服部はBADANとの戦いに参加出来なかった仲間達の無念を、何としてでも晴らしかった。
自己満足なのは百も承知だが、それでも、そんな馬鹿な事でもやらなければ納得出来ない。そういう類の事もあるのだと服部は思う。
その中で唯一触れなかった誰かさんを最後に想う。
「お前、こういうの心底嫌いやしな……難儀なやっちゃでホンマ……」





暗闇大使は信じられぬといった顔で村雨を見ている。
彼のスペックを把握している暗闇大使は、その能力を超えるこの再生を、理解出来なかったのだ。
「パピヨン、エレオノールを安全な場所に連れて行ってもらえないか」
パピヨンの性格からすれば聞いてもらえないかもしれないが、今頼めるのは彼だけなのだ。
だが、パピヨンはエレオノールを抱きかかえたまま、逆に村雨に問うてきた。
「……お前で、勝てるのか?」
「二度も負けん」
「わかった」
暗闇大使にはさして興味も無さそうに、核鉄を取り出す。
「……後は、任せる」
覇気が失われた声、触れればそれだけで壊れてしまうそうなガラス細工を思わせる程、今のパピヨンはか細く見えた。
村雨はパピヨンにも大丈夫かと声をかけようとしたが、プライドの高いこの男にそこまでしてしまうのは、良くないと思い止めた。
パピヨンが核鉄を操作すると、二人は一瞬でその場から消えてしまった。

驚いたのは暗闇大使である。
完全に追い詰めていたはずの獲物が二匹、前触れもなくいきなり消えてしまったのだから。
とても残念な事だが、暗闇大使は全ての核鉄を頭に入れてはいなかったのだ。
アレキサンドリアの叛意に気付いていながら、彼女に渡してあった核鉄ヘルメスドライブに思い至らなかったのはそういう理由だ。
次から次へと起こる不測の事態に、一時盛り返していた機嫌があっと言う間にメルトダウン。
自分の感情に素直な人である。
ただ、同時に戦闘慣れもしているので、ゼクロスが戻ってきたのなら、全力を出して潰すべきとの判断も出来る。
今度は二度と蘇らぬよう、念入りに、徹底的にすり潰す。



ゼクロスはパピヨン達が姿を消すなり動き出す。
六体の幻影を生み出し、縦横から暗闇大使目掛けて襲い掛かる。
暗闇大使はこれに対し、先ほどゼクロスとタイガーロイドを屠ったミサイル弾幕を早々に展開する。
「同じ手を喰うか!」
幻影はそれらで全て掻き消えるも、本体は暗闇大使の真正面に飛び込んでいる。
『さっき見た。ミサイル発射孔が正面に無い関係上、お前の正面から数メートルはミサイルの届かぬ無風地帯となる事を!』
背後にミサイルの爆風を受けながら、一足飛びに踏み込むと、力強く大地を蹴り出しながら拳を放つ。
これを真後ろに向けてまっすぐ降りぬいてはゼクロスの目論見は果たされない。
少し曲げ、フック気味に降りぬいた拳は、暗闇大使の横っ面を斜め右上から右下方向へと向けて殴り倒す。
腰が曲がり、衝撃に視点をぶらせる暗闇大使。
更にゼクロスは左の拳を下から掬い上げるように振り上げる。
これは先ほどより強く大地を踏みしめながらだ。
ゼクロスの拳をボディに受けた暗闇大使は、その重厚な体から質量が失われたかのように僅かに宙を舞う。
ここで蹴り飛ばしてやりたいが、それは悪手だ。
もう一度、今度は右の拳で下からアッパー気味に顎を打ち抜く。
落下しながらなので、より効果的であったその拳は、頭部のみを跳ね上げていた為、体自身は大地に足を着く。
ここで、蹴りだ。
顎が上がり、上を向いた暗闇大使の側頭部を、渾身の力を込めて回し蹴る。
びしっ、暗闇大使頭部の殻からヒビの音が聞こえる。
ここで止めるつもりは無論無い。頭部への強打を受けた暗闇大使はまだ動きが鈍るはず。このまま、近接格闘を続けて奴の消耗を待つ。

この場に呼び出された当初、ゼクロスは格闘技の技術など持ち合わせていなかった。
それがここまで磨かれたのは、散や範馬勇次郎やラオウとの戦闘経験故だ。
極めて高い学習能力は、実戦の最中で神経が研ぎ澄まされる事により、最早吸収と言っても過言ではない程の技術獲得を可能とした。
特に範馬勇次郎との戦闘において、今までに得た物を用いひたすらに考え、工夫し続けたノウハウはここに来て格闘家ゼクロスとしての昇華を見る。
何をどう組み合わせても通じなかったあの時の技達は、暗闇大使には回避不能の神業と化す。
本来ゼクロスの能力は、その武装を考えるに中距離から遠距離での牽制を含めた撹乱戦法を得意とするはずである。
もちろんそれも苦手ではない。
中、遠距離撹乱戦法に定評のあるジェネラルシャドウとの戦闘において、彼が対応しきれたのはそういった部分もあっただろう。
しかし、近接格闘戦闘も、その特化型である人物達との激戦を潜り抜ける中で、確実に進化を続けていた。
元々他ライダーと比してもそのスピード、パワー、装甲の厚さにおいてトップクラスであったゼクロスは、格闘戦にも向いていたのだ。
未だ経験不足の感あれど、それを補って余りある物を彼は既に持っていたのだ。

格闘の技術差が、ゼクロスの新たな戦術を生む。
近接し、ミサイルを放てぬ位置を維持していれば暗闇には為すすべが無い。
不可視の衝撃も、どうやら放つのに動作が必要なようで、この距離ならば拳をかわすのとさして差はない。
鞭はもちろん論外だ。むしろ片腕を鞭にしてしまっている事で、暗闇大使は格闘戦時に大きなハンデを背負ってしまっている。
パワーは暗闇大使の方が上であろう。スピードは若干ゼクロスが上。
しかし技術に圧倒的な差がある為、暗闇はパワーを活かしてゼクロスを振り払う事も出来ない。
頼みの装甲をすら揺るがすパワーと強固な拳や足を持つゼクロス相手では、近接時対策としての装甲の厚さも重量も思った程効果を発揮し得ない。
怒りに任せて両腕を振り回す暗闇大使。
彼のパワーでこれをやられると、相手をする方はたまったものではないのだが、ゼクロスは冷静に、振られる腕を見切ってこれをくぐり、カウンターの拳を胴中央に叩き込む。
構うものかと腕を振り続ける暗闇大使。
ゼクロスは、その一つ一つを丁寧に処理し、確実にカウンターを積み上げていく。
そんな正確さも、動きの幅の広さも、暗闇大使には無いものであった。

傍目に見ているとゼクロスが圧倒的に優勢に見える。
しかし、実際はそうではない。それはゼクロスが一番良く知っている。
一つ受け間違えば、ゼクロスは容易く吹き飛ばされ、暗闇大使の好む間合いへと変化する。
暗闇大使は既に、ゼクロスがミサイル弾幕の隙を見つけた事に気付いているだろう。
ならば対応する方法はいくらでもある。
それをやられては、突如圧倒的に不利な体勢に逆戻りしてしまうのだ。
あの強力無比なミサイル群、あれは正に必殺の武器だ。
それに加え、縦横から襲い掛かる変幻自在の鞭。広範囲に及ぶ念力攻撃。
中距離以上の距離を取った暗闇大使は、天下無敵と言っても良い。
そうさせぬために、ゼクロスは全ての集中力を傾け暗闇大使との近接戦闘に望んでいたのだ。

しかし、戦闘とは流れる水のごとく展開していくものである。
ルールの決められたスポーツではない。
たった一つの武器のみで全てを決しうる事が出来るのは、一撃で決着を着けられる破壊力を持つ、そんな武器のみだ。
暗闇大使の反撃を、ゼクロスにとって良い体勢で対応出来る時もあれば、そうでない時もある。
そのそうでない時が極まった時、彼我の技術差を埋めるような展開が待ち受けている。
自身に当てる事を厭わず、ミサイルを放つ暗闇大使。
これをかわしつつ、敵の懐への出入りで対応するのがゼクロスの考えだったのだが、暗闇大使は、その上に鞭までを振るってきた。
自分の胴回りに捲き付ける勢いで、振るった長い鞭の先をゼクロスは完全にかわす事が出来なかった。
次いで起こるミサイルの爆発に思わず動きを止めてしまった直後、暗闇大使からの前蹴りが入る。
大きく距離を取らされるゼクロス。
舌打ちをしている暇もない。
この間に暗闇大使は再度ミサイル弾幕を形成するだろう。これを再びもらっては、先ほどの再現となる。
急ぎ踏み込まんとしたゼクロスの眼前を、光の筋が走った。
驚き振り返るゼクロスは、そこに、純白の虎の姿を見つけた。
「三影! お前も無事だったか!」
「ふん、遊んでいる暇は無いぞゼクロス」
暗闇大使はタイガーロイドの光線をまともに受けたせいで転倒していたが、すぐに起き上がり二人へと牙をむいた。



秀の腕を取り立ち上がる三影。
秀は青白い顔のまま訊ねる。
「行くのか……兄貴」
「……ああ」
それ以上秀は三影の意思を問うような真似はせず、この核鉄の仕様を説明する。
アンダーグラウンドサーチライトならば、神の間周辺なら何処へでも飛び出す事が可能である事。
ここの出入りを使えば、うまく奴のミサイルをかわしながら攻撃出来るかもしれない事を。
しかし前者はともかく後者のミサイルをかわす、という点に三影は同意しなかった。
扉が開いた状態でミサイルが飛び込んできて、閉められなくなってしまった場合、隠れ家まで一直線の通路が出来てしまう。
それは今後の動きを考えるに得策ではない。
そう三影が諭すと、秀はそれ以上その案に固執したりはしなかった。
「暗闇大使とゼクロスを倒したら戻る。お前は先にアレキサンドリアの所へ戻って次のプランを用意しておけ」
「わかった。兄貴も頑張ってな」
もう秀も半人前ではない。一人前の男として三影は秀と接しており、秀もそれに応えるにはどうすればいいかを必死に考えていた。
神の間への扉を開く前に、三影は一度だけ振り返る。
秀の表情に常と違う何かを感じ取ったが、それ以上何も言わず、戦場へと戻って行った。

三影がこの場を去ると、秀は脱力したようにしゃがみ込む。
「はっ、ははっ、すげぇ俺。やれば出来んじゃん……兄貴、全然気付いてなかったぜ……」
ズボンの裏にまで滴って来た時はどうしようかと思ったが、自分はそれでも冷静に三影の相手を出来ていたらしい。
どんなもんかと、背中に触れると、べっとりと手の平にこびり付く真っ赤な血。
暗闇大使のミサイル弾幕による流れ弾に、秀は当たっていたのだ。
本当はここに辿り着くなり、すぐにでも三影をアレキサンドリアの元に連れて行きたかったのだが、そこまで体が持つ自信が無かった。
「……情けねぇよな。パピヨンが俺を頼りにしてこんなすげぇもんまでくれたってのに……俺ってばよぉ……」
傍らに置いてあるライダーマンのヘルメットが照明を照り返してキラリと光る。
これのパワーが無ければ三影の重い体を一瞬で引きずり込むなんて芸当不可能であった。
「……せっかくよ、俺の力が、手に入ったと……思ったのによ……かっこ悪いよな、俺……」
徐々に姿勢が横へと崩れて行き、遂に床に寝そべってしまう。
「……俺に出来る事なんてさ、兄貴に気兼ねなく戦ってもらう、そんな程度なんだよな……ごめんな兄貴、不甲斐ない弟分でさ……」
もう目も開いていない。二度と開く事も出来ないだろう。
「…………俺さ、次に生まれ変わったら、今度こそ絶対……兄貴みたいに……強くなるから……また、一緒に……」
そこから先の言葉は、遂に声にはならなかった。





かがみの両目からとめどなく涙が零れる。
聞こえてくる音声は、もうそんなの聞きたくないと心が悲鳴を上げているのにも関わらず、無慈悲に流れ続ける。

かがみが辿り着いたこの部屋は、監視室と呼ばれる参加者達の動向を監視する為の部屋であった。
モニターと盗聴設備が備えられたこの部屋の用途に、ようやく気付けたかがみは、幾つかのデータフォルダを漁った。
その際、検索をかけていた別のウィンドウから結果報告がなされる。
柊かがみ、の名で検索をかけていたのだが、それにHITした幾つかのファイルが羅列されており、その中の音声ファイルがかがみの目に止まったのだ。
置かれているフォルダを見てみると、全参加者分の名前が付けられたファイルがある。
自身のファイルを聞いてみると、これが盗聴していた音声ファイルである事がわかった。
好奇心、そう呼ぶにはあまりに切実な想いから、かがみは柊つかさと書かれたファイルを開く。
総録音時間は24時間を越している。
ならばと、一番最後の記録を、どうやってあの子が死んだかの、その時の記録をと、かがみは音声用アプリケーションについているバーを後半へと、引っ張っていく。

結末がわかっていても、冷静に聞けるようなものではない。
それでもと必死に涙を堪えていたが、つかさがかがみの名を出した所で、もう我慢なんて出来なくなった。
そして音声が途切れ、ファイルが終了したと知らされる。
口元に手を当てながら静かに嗚咽を漏らす。
もう何もしたくなかった。

自動ループになっていたのか、再び音声が流れ出す。
恐怖に怯え、震えるつかさの声が聞こえてくる。
それがしばらく続くと、ある時を境につかさの声に明るさが戻る。
野太い声、聞いてるだけだと恐い印象のあるその声と会話をするつかさは、本当に楽しそうで、いつも自分にそうしてくれていた穏やかな日差しの様な声をしている。
耐えられずキーボードを叩く。
自分で考えていたより大きな音がして、音声は止まった。
涙を袖で拭い、ごんごんと額をモニターの角にぶつける。
何度もそうした後、顔を上げ、今度は両頬を思いっきりひっぱたく。
赤く腫れ上がった顔で、しかしかがみはようやく自分を取り戻す。
「……このデータなら、ここで起こってた事が全部わかる……みんながどんな目にあってたか、どれだけみんなが頑張ってたかが全部わかる!」
かがみは何かに取り憑かれたかのようにキーボードを叩き、カーソルをいじりまわす。
台座の側にあるスロットを確認し、空のメディアが無いかそこらを探して回る。
思いつく事全てを試し、確認し、これらのデータを外へと持ち出す手段を探す。
更に十分程経った頃、かがみの手には一枚のディスクが収まっていた。
中身の確認もした。ここに、全ての音声が記録されている。
他のパソコンで開けるか不安もあったが、これさえあれば、他の誰かにもここであった事を伝える事が出来る。
かがみは大事そうにそのディスクを懐にしまった。





一人の時より格段に安定感が増した。
格闘攻撃というのは、一息に放ち続けられる攻撃に限りがある。少なくとも今のゼクロスにとってはそうであった。
その切れ間を相手に悟られぬよう、最後の一撃を大きめに、もしくは動きを鈍らせるよう狙って次へと繋げる。
それを暗闇大使に繰り返していたのだが、タイガーロイドの参戦により、この切り替えの時に繋ぎを考えなくて良くなったのだ。
こちらが全力で最も効果的に打ち込める数の乱打を放ちきった後、身を翻せば、すぐにタイガーロイドが後を継いでくれる。
その間に間合いを取り直して再度攻撃開始。
ゼクロスが攻撃している間にタイガーロイドは光線をチャージし、次の機会により大きな打撃を狙う。
暗闇大使もこの流れを断ち切らんと、タイガーロイドへのミサイル攻撃や、ゼクロスを鞭にて捕縛せんと試みているが、
タイガーロイドへのミサイルや鞭は距離がある為、全て光線にて叩き落され、ついでに暗闇大使も被弾してしまう。
もし単騎ならば嵩にかかってミサイルを放てば、押し切れるかもしれないが、ゼクロスがそれを許さない。
ゼクロスへの攻撃は、タイガーロイドとの連携によりリズムが取れている事もあって、容易に命中させる事が出来ない。
回避が困難と思うとゼクロスはすぐに分身を使う為、狙いを絞れず、又タイガーロイドの狙撃により行動を阻まれ、追い詰める事が出来ない。

タイガーロイドの光線が、暗闇大使のむき出しの足を焼く。

ゼクロスの拳が、既に数箇所に渡ってヒビの入った頭部の殻に更なる痛撃を加える。

振りかぶった鞭はタイガーロイドに撃ち抜かれ、当然再生は可能だが、そこにもまた力を使わなければならなくなる。

念力を放とうと集中して振り上げた腕は、ゼクロスの足に蹴り飛ばされ念力はあらぬ方向へと飛んで行く。

八方塞り、ただの一行動とてまともにとらせてはもらえない。

暗闇大使に焦りの色が見えてくるも、現状は何一つ変化してはくれなかった。



三影との連携は、特に考えて行っているわけではない。
ただ、何となくだが三影がどうしたいのか、どうされたら嫌なのかはわかるので、それに合わせて動いているだけだ。
三影とは以前に何度か一緒に作戦を行った事もあった。
ノーラッド、ガモン共和国、いずれも消し去ってしまいたい忌まわしい記憶だが、それでもそこで二人は共に戦ったのだ。
何故三影が暗闇大使と戦う気になったのかは良く知らない。
だが、そのつもりがあって、そしてその上で暗闇大使は俺達の戦いの邪魔をした。
だから三影は今はこちらを撃ってきていないのだろう。
確信があった訳では無論無い。それでも三影が現れた時、何故か三影はそう動くだろうと思った。
それがどういう事なのかは、後でも考える時間ありそうだ。そう思い村雨はその事を考えるのを止めた。
今は暗闇大使を倒さなければならない。
このかつてない強敵を今ここで仕留めねばならない。
それは村雨の役目だと、心の中で確信していた。



タイガーロイドもゼクロスも、無限に戦ったりは出来ない。
改造人間とて限界はあり、そもそも二人揃って重傷を負っている身なのだ。
遠からず限界が訪れる。それは二人共が良くわかっていた。
暗闇大使もいつまでもやられっぱなしではない。
徐々に、徐々にだが、ゼクロスに鞭が当たり、タイガーロイドにミサイルが当たり始めている。
本音を言うと、その一撃一撃が今にも倒れてしまいそうなぐらい効いているのだが、そんな事おくびにも出さない。多分三影も同じだろう。
しかし、まだまだ暗闇大使を倒すには至っていない。
奴は再生しながら戦っているが、それ以上の打撃を与え続ければ、奴とて消耗していく。
その見極めが難しい。それを見誤れば暗闇大使の反撃により、二人共先ほどと同じ末路を辿るだろう。
暗闇大使の限界を確実に見極めなければならない。
ゼクロスは集中的に頭部の殻を狙っていた。
一番硬い殻に隠された奥に辿り着いてこそ、暗闇大使を倒しきると、ゼクロスは見ていた。
その殻に、遂に大きな亀裂が走る。
側頭部から頭頂にかけて、まっすぐにヒビわれた傷は深く、これまでに無い程の深度まで至っていると思われた。
もう、ゼクロスにもあまり力は残っていない。三影とてそうであろう。
タイガーロイドの光線によりバランスを崩した暗闇大使に、ゼクロスはこれまでに無い大きな振りの蹴りを放つ。
その威力は大きく、暗闇大使を大きく蹴り飛ばすに充分であった。
彼が地に臥したのは、タイガーロイドとゼクロスとの丁度中間点の位置。
ゼクロスは叫び、構える。

「行くぞ三影!」

タイガーロイドは、当然そう来るべき、とでも思っていたかのように、体中にエネルギーを集中させていた。

「来いゼクロス!」

全身をわななかせ、タイガーロイドがゆっくりと口を開く。
口の前数十センチの場所に光輪が描かれたかと思うと、これまでに無い勢いで光線が放たれた。
輝きの直径は三メートルを越すだろう。
床を嘗めるように伸びる光の軌跡は、それでも足りぬとばかりに進路下の床を半円形に溶かし、蒸発させる。

赤き輝き、これを放つのもこれで最後とばかりにあらん限りの力を込める。
蹴り出す床は、ゼクロスの力に押しつぶされ、へこみ、潰れてしまう。
スピードは、おそらく範馬勇次郎をして反応しきれぬあの時をも越えている。首輪の制限が解かれたゼクロスのこれこそが全力である。
放つは穿孔キックではない。位置もタイミングも狙いもこの場には相応しくない。

三影と共に戦うのなら、俺にはこの技こそが相応しい!


「ゼクロスッ!! キーーーーーーーック!!」



そういえば、三影が俺を庇ってやられた時、頭に来た俺は仮面ライダー一号二号にこいつを食らわせてやったっけな。
何だよ、あの頃から俺充分怒ったりしてたじゃないか。



前面の殻が無い部分から、焼け焦げ、溶け出していく。
頼りの殻も度重なる攻撃によりひび割れ、歪んでおり、これだけの熱量をいつまでも防ぎきれるとは思えない。
顔全体が業火に焼かれる感覚というものは、思いの他厳しいものだ。
絶叫を上げる事すら出来ず、主要な感覚機が麻痺したかのように、何も感じ取れなくなる。

熱い、苦しい、あるのはそれだけだ。

後頭部に衝撃を感じた。
その感じが、私はまだこの世に生きていると思い出させてくれる。
後部の殻は特に固い。そう信じてきたのだが、無敵の盾を名乗るには役不足であった。
殻全体が燃え盛る業火に押し付けられる。
気のせいに違いないが、そのせいで熱がより激しさを増した気になる。
灼熱の溶岩の、更に更に奥へと誘う衝撃は、突如失われる。
ほっとした。安心した。
同時に背筋が凍りつく。熱波に晒されながら、それでも確かに、冷たい何かが全身を貫いたのだ。
私の根幹を守る、絶対無比の最後の砦、殻全体が砕け散る音が響いたせいだ。
待ってくれ。その先には……