帝王と死神 ◆wSaCDPDEl2



南東の市街地F-6で、一人の死神が北を目指し、
そして背後で殺人鬼がその死神の背中を見つめながら少しずつその距離をつめていた。
太陽はその姿を徐々に現してきているものの、辺りはまだ暗い。

(ククッ……ケンシロウと言ったな……)

鷲巣は思う。

(毎朝毎晩欠かさずの苦痛を伴う筋肉トレーニング……
味気の無いプロテインや食事……
毎日決まった生活習慣……
数多くの代償を支払い強靭な肉体を手に入れた一人の男がいるとして……)

追跡相手の実力を目の当たりにしながらも殺人鬼…
鷲巣巌はシルバースキンに隠れた口を大きく横に広げて黄ばんだ歯を見せるように下非た笑みを顔に出す。
敗北の可能性など微塵も考てはいない。

(そんな物が何になる? 何十年もかけて作ったそんな肉体でも……)

自然にショットガンを握る手が強くなっていく。

(しょせん一本のナイフ……、日々何万本と生産されている何の変哲の無い果物ナイフの一本でもあれば…
たとえ空洞のような人生を歩んできた中学生でも……)
そしてソレを肩に構え銃口をケンシロウへと向けてみる。

「………」

(その肉体はいとも簡単に崩れ去るっ……!)

だが引き金に指を掛けることは無く、鷲巣はそのままショットガンを腰に下ろした。

(クックック……ましてわしは今ナイフなど比では無い……言ってしまえば如何なる物も貫く矛っ……!
どのような攻撃も通さぬ盾っ……!)

まだケンシロウを撃つつもりは無い。
ただ、今引き金を引けばケンシロウを殺していた…自分はいつでもケンシロウを殺せるのだと、
そんな優越感を持ちたかっただけである。

(キキキ…ケンシロウとやら…貴様がどれほどの期間と努力で、その実力を手に入れたかは知らんが…ク、ククク…
クク…キキキ…わしは何の苦労も無く貴様を破滅させる能力を持っておるのだっ…!)

干からびた身体の何処にそんな水分があったのだと思うほど汗が湧き出てくる。
もはや笑いを堪えるのも精一杯だった。

(カッカッカッ……!クククククク……)

そしてただひたすら驕り昂る鷲巣は気づいていなかった。

「…………」

銃口をケンシロウに向けた時、ケンシロウが僅かだが反応を見せた事に…。

やがてケンシロウは一つの街灯の下で歩みを止めた。

(?? あ~……?なんだ?)

怪訝に思うが一旦電信柱に身を隠して様子を探る。

「!っ」
途端、街灯が消え辺りが暗闇に包まれる。
再び灯った時すでにケンシロウの姿はそこには無かった。
鷲巣の顔から笑みが消え焦燥が走る。
一体何処へ、と思う間も無く

「一つ言っておく…」

鷲巣の背後から冷たい声が届き、表情に恐慌が追加された。
先ほどとは違う、冷たい汗が体中を走る。
振り返ると予想通り…
「俺は北へ向かうだけだ、関わるな」
自分が先ほどまで追っていた男の冷たい眼が頭一つ上から自分を見下ろしていた。

「き、貴様……何時の間にっ……!?」
「俺は暗殺の訓練を受けてきた…こんな程度わけは無い」

問いかけに特に感情を込める事も無くケンシロウは答える。

「それと…」
鷲巣が腰に構えるショットガン、ケンシロウは自分の頭部に突きつけられたソレを一瞥する。
「それを使うのは止めておけ。この距離ではそんな物何の役にも立たん」
「クッ……!」
(この小僧……!)

強がりでもハッタリでも無いのはすぐに分かった。
これまで数多くの若者の表情を観察してきた鷲巣にとってそれを読み取るのは容易い。
ケンシロウは本気で銃に勝てるつもりでいる。
事実、先ほど見せた力ならばそれが出来てもおかしくは無い。

(舐めおって……舐めおって……このクズッ!クズッ!クズが!!)

だが今更後に退けるハズが無い。
自分は王、神に選ばれたのだ。こんな努力でのし上がった程度の凡愚などに見下されてたまるものか、その思考だけが鷲巣を動かす。

「ほざ───」
鷲巣は引き金に掛けた指に力を入れた───途端、ケンシロウは手の甲でショットガンを押し退け、
照準をずらされた銃口から放たれた散弾は全てあらぬ方向へ飛んで行った。
「ぐっ……!」
銃口を捌かれ鷲巣の体も横に大きく崩れてしまう。
「あたぁ!」
体勢を崩したままの鷲巣にケンシロウは渾身の蹴りを放つ。
ケンシロウの足は見事に鷲巣の鳩尾に突き立つが…
「な…!?」
足の裏からは全く手ごたえを感じない。
自分の二倍は体重はある大男を新記録にしたケンシロウの蹴り…
それが自分より体格の小さい相手を後ずらせる事も出来なかった。
「なんだと!」
此処に来て初めてケンシロウの頬に汗が走る。
「クックック…」
北斗神拳伝承者の蹴りですらもシルバースキンは防ぎきってしまったのだ。

「はっ!」
そして鷲巣の体から伸びてくる『何か』を感じ取り、咄嗟に避けるが一瞬間に合わず肩当ごと肉を多少抉られてしまった。
「クックック、まだまだ…!」
間髪いれずに飛び交う二、三撃目を紙一重で右、左と避けるケンシロウ。
一旦距離を取ってみると鷲巣の体から物が飛んできたわけでは無いのが分かった。
「それは一体…!」
この世のものなのか…?

ケンシロウの目の前にソレは在った。

まるでプラスチックと木材を合わせたような不気味な質感、
毒々しいピンク色、全身に走る網目模様…
人間を模られてはいるものの、遠目で見たとしても人と見間違える事は無いだろう。

だが不気味に感じさせる要素はむしろ顔に集中していた。
フードのように体と同じ網目模様が走っており、
ガラス玉をめり込ませたような無機質な眼球、
額に飾りのようにつけられているもう一つの顔、
異常に小さい唇…そして耳鼻は無い。というより顔面に凹凸自体が殆ど無い。
たくましい体に反し、感情を感じさせる要素が全く無いのだ。

帝王っ…!
常に感情らしい感情を持たず、何者も平伏させる威圧を持るそれはまさに帝王と呼ぶに相応しい代物だった…。


「カッカッカッ……それを知った所でどうにもならんよケンシロウ君……」
背後から勝負を挑むつもりが、背後に回られ…
相手のペースに巻き込まれまくった鷲巣だが自分が優位に立ったと感じてペースを取り戻していた。
顔にもまた笑みが蘇っている。
だがケンシロウは多少の動揺などすぐに抑え、肩に付いた血を指で掬い取り舐めてそれを唾のように吐き出した。

「言っておくが、俺は人形遊びは卒業している」
指をパキポキと刻みのいい音を鳴らす
「キキキ…言いたまえっ……」

脇をしめボクシングに近い構えを取るキング・クリムゾンを前に従えた鷲巣と意に介した様子も無いケンシロウ。
二人の距離は少しずつ、一歩進むごとに近づいて行き…そして

「キング・クリムゾン!!」

先手必勝と言わんばかりに、最初に仕掛けたのは鷲巣だった。
キング・クリムゾンのその拳が真っ直ぐケンシロウに向かってゆく。
破壊力、スピード、あらゆる点において超一流の拳…まともに喰らえばケンシロウですら危うい…が

「なっ…」

あっけなく勝負はついた。
キング・クリムゾンの腕が完全に伸びる前にケンシロウに手首を掴まれてしまったのだ。
いくらスタンドに破壊力があろうが、スピードが速かろうがそれを操る鷲巣は所詮格闘技に関しては素人であり、
攻撃は単調になり予備動作も大きくなる。
その程度の動きなどケンシロウにとっては見切る事は容易かった。

「うがあああ……!」
そのままキング・クリムゾンはケンシロウに手首を締め上げられそのダメージは鷲巣に伝達した。
いかにシルバースキンであってもスタンドからのダメージ伝達を防げるわけが無い。
鷲巣の持つ最強の矛は同時に諸刃の剣でもあったのだ。
「どうやら、この木偶の坊に対する痛みは貴様にも伝わるようだな」
言いながら締め上げる力を強める。
「この小僧っ…ぐっ……!」
残された手でケンシロウを攻撃しようとするがその拳もまたアッサリ捕らえられ同じように締め上げられる。
鷲巣の呻き声が大きくなる。
「言っておくが、そんな玩具では俺は殺せん。これ以上俺に関わらん事だ」
言うが早いか締め付けられていた両手首が開放される。
「失せろ」
捨てるように言い放ちケンシロウは踵を返した。

「くううっ……」
痛む手首を押さえながらも鷲巣は遠ざかっていくケンシロウを睨み付けた。
王である自分をものともせず、むしろ見下した態度を取るケンシロウ…その姿がここに連れて来られるまで戦っていた青年と重なった。
「失せろっ…だと……? わしに言ったのか?あ~??」
再び立ち上がりショットガンをケンシロウに向ける。
「ふざけおってっ……!あの小僧っ……!」
先ほどより距離は遠くなったが外す事は無い。
むしろ近づきすぎたからこそあんな目にあったのだ。
「クックック…」
今度こそ確実に殺す。 確実に。
鷲巣は引き金を───引けないっ
「あっ……!!」
引き金に掛けたはずの指が動かない。
いや、全身が動かせない。

「どうやら口で言っても分からんようだな」

振り向いたケンシロウに視線を向けられただけで、単純な比喩で表すならば蛇に睨みつけられた蛙のように…
鷲巣は体を動かせなくなった。

恐怖っ……!!
アカギとの対決の時とはまた別の恐怖っ……!!
鷲巣がこれまでで一番恐れた相手であるアカギとの勝負……。
それはまだ麻雀での事であり、自分のツキを信じる事が出来た……。
だが今鷲巣は己の強運ですらも頼る事の出来ない相手を目の当たりにしている……。
この男には……今目の前にいる男にはキング・クリムゾン、シルバースキン、
そして己の強運……それら全て併せ持っても……死っ……!
それは揺るがないのでは無いかっ……
この時……ただ一人の男に睨みつけられた……それだけで……鷲巣の思考は全てそれで塗りつぶされた。

(このガキッ……なぜっ……なぜ王であるわしがっ……動けないんだっ……!あいつ以上の悪魔かっ……)
「違うな」
鷲巣の考えを見透かしたかのようにケンシロウが答える。
「俺は……」


「死神だ」


その一言でタガが外れたかのように引き金を引く。
だが散弾が放たれる時すでに鷲巣の腕はケンシロウによって掴まれていた。
「ふんっ!」
途端、鷲巣には何が起こったか分からなかった。
腕に物凄い力がかかり、同時に回りの風景が目の焦点速度を上回ってグチャグチャにかき乱れる。
それがケンシロウに振り回されているからだと気づいたのは、重力から自分の体が開放された時だった……

ケンシロウによって放り投げられた鷲巣の体は綺麗な放物線を描いて、窓ガラスを割り民家の中に放り込まれた。

◆    ◇    ◆

「ググッ……」
顔に鈍いようで鋭い痛みが走る。
割れた窓から入り込む太陽の光は瞼をかい潜って鷲巣の意識を引っ張り出した。
薄く開けた目にまず入ってきたのは白い床だった。
靄のかかった頭で床に手を付いて体を起こそうとするも、その床に手が届かない。
そして床は目の前にあるはず、なのに背中が何かに圧迫されている。
一瞬天井に貼り付けられたのかと思ったが勿論そんな訳が無い。
そこでようやく自分が床だと思っていた物が実は天井だったと気付いた。


上体を起こしあたりを見渡す。
霞んだ視界に入ってきたのはベッド、勉強机、本棚……そして割れた窓に内側に散らばるガラス片…
最初は訳が分からなかった。
まるで夢から覚めた時のような、あるいは夢を見ているような錯覚に陥りかける。
(そうだっ……)
少しずつ思考がクリアになってくると同時にこれまでの事が頭に湧き上がってきた。
(わしはっ……あの男に投げ飛ばされ……!)
思い出すと同時に沸々とした怒りが湧いた。
ショットガンは───ある!
落ちてあったのを拾い上げ窓から身を乗り出し外を覗う。
予想していた通りすでにそこにケンシロウの姿は無い。
「くぅ~…」
逃げられた……。
「クソッ……クソッ……あの小僧がっ……小僧がっ……!」
手始めに本棚に並べられていた本を幾つか掴み、部屋中に投げ飛ばす。
キング・クリムゾンで勉強机を破壊する。
蛍光灯を掴み窓から投げ飛ばす。
無事だった他の窓を叩き割る。
「クッ…くぅ~!!」
しかし鷲巣の破壊行為はそこで終わる。

(グッ落ち着けっ……わしはまだ死んだわけでは無い……わしはあの状況でも生き延びたんだ……!!
わしは……ツイているんだ……!今ここで騒いでいたら周りの連中に位置を知らせてしまうような物……!
ここは耐えるんだ……!)

残っていた理性を総動員して自分を抑え付けた鷲巣は、そのまま玄関へと向かう。
ただ、殺すべき人物が一人増えた。
(あの小僧っ……必ずっ……殺すっ……必ずっ……)

時刻は間も無く放送に入ろうとしている…。

【F-6 民家 一日目 早朝】
【鷲巣巌@アカギ】
{状態}激しい怒り+やや疲労 顔に少しガラスの破片による切り傷
{装備}シルバースキン@武装錬金、ジャギのショットガン@北斗の拳、キング・クリムゾンのDISC@ジョジョの奇妙な冒険
{道具}、支給品一式×2、ジャギのショットガンの予備弾24@北斗の拳、i-pod、泉こなたのスクール水着@らき☆すた
{思考・状況}
基本:殺し合いに乗る
1:優勝する
2:更に強力な武器を手に入れケンシロウだけは殺す
参戦時期:原作13巻終了後
[備考]
※キング・クリムゾンは1秒しか時間を飛ばせません。
時間を飛ばすと大きく体力を消耗する上、連続しては飛ばせません。


【F-5 路上 一日目 早朝】
【ケンシロウ@北斗の拳】
[状態]:カズマのシェルブリット一発分のダメージ有り(痩せ我慢は必要だが、行動制限は無い)
    キング・クリムゾンにより肩に裂傷
[装備]:
[道具]:支給品一式、ランダムアイテム(1~3、本人確認済み)
[思考・状況]
基本:殺し合いには乗らない、乗った相手には容赦しない
1:ジャギ・アミバ・ラオウ・勇次郎他ゲームに乗った参加者を倒す
2:助けられる人はできるだけ助ける
3:乗ってない人間に独歩・ジャギ・アミバ・ラオウ・勇次郎の情報を伝える。北に向けて移動中
[備考]
※参戦時期はラオウとの最終戦後です。


072:自分の選んだ道を行け! 投下順 074:第一回放送
072:自分の選んだ道を行け! 時系列順 074:第一回放送
049:上がれ!戦いの幕 鷲巣巌 085:Drastic Soul
049:上がれ!戦いの幕 ケンシロウ 087:悪魔の子