※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

女子高生ヴィラ子
「バレンタイン編〜目撃者!〜」


大学受験も追い込みに突入した2月の雪の積もった或る夜、
学校の一角に一つだけ灯るあかりに向かって、雪を踏みしめながら近づいてくる黒い影があった…。

赤点補習のテスト問題の採点にはろくな回答がない。
分からないなら分からないなりに、もう少し努力を見せれば評価も上がるというものだ。
『A:わかんない』『A:ねむくなってきた』『A:ニュートンの法則くらい知ってるぜ!』
ああ…、こいつら馬鹿すぎる。
午後8時をまわった頃、突然扉をドシドシと叩く音がした。
ビクッとしてペンを強く握ったら、インクが大量に飛び出た。
幸い着ているジャージにはかからなかったが、たまたま採点中だったキタンの解答用紙が真っ赤に。
なんかすげぇ嫌な予感…。

ドア越しに「だれ?」と呟くと、小さく「嫁です…」と恥じらうような声が返ってきた。
この声は…それにまだ「嫁」じゃないんだけどなぁ。ドアを開けると案の定、そこにはヴィラ子が。
「ヴィラ子ぉ…、お前何しに来たぁ?」
「何って、会いに来ました!」
白い息を吐き出しながら無邪気に笑う。寒さでほっぺと鼻先が少し赤い。
一刻も早く中に入れて暖をとらせてやりたいのだが…、
「だぁめっ!卒業までここに来るのは我慢するって約束しただろ!冷たいようだけど中には入れらんない、ホッカイロあげるから早く帰んなさいっ!」
心を鬼にして「何より俺たちの為でもあるんだから」と諭すように言うと、大層不満そうな目つきをされた。
なんだよ、その反抗的な目は。俺、間違った事言ってないぞ!
「先生、今日何の日?」
「何のって…今日何かあったっけ?」
更にヴィラ子の表情が曇る。あまりに不機嫌な様子に俺も少し戸惑う。
だってヴィラ子の誕生日じゃないし、節分も建国記念日も終わったし…なんだ?
「…バレンタインです」
バレンタイン…ああ!そういえば今日、学校で女子生徒からチロルチョコを貰って、漠然と「今日はバレンタインかぁ、若いなぁ」と頭の隅で思った事は思った。
貰ったチョコは惜しまずその場で全部食っちまったし、一日の仕事を終えてむさ苦しい宿直室に戻れば、そんな浮かれたイベントの事など別世界の話として忘れ去られてしまうのだ。
…ふとヴィラ子の手に持たれた可愛らしい箱が目に入った。それはもしや…。


「何年も自分に関係ないイベントだったからさ、生徒が騒いでいたのは分かったけど全く気ならなかったんだよね」
と言い訳がましく言う俺に、ヴィラ子は少し寂しそうな顔をして「関係なくないじゃないですか」と言った。
確かに、今年からは俺だってバレンタインに期待しても良かったんだ。だって今俺にはヴィラ子がいるんだから。
30過ぎにして再び巡ってきた春なんだ!しかも卒業すれば常春に!
けど、そういうのを我慢するって言ったのは自分じゃないか!俺の馬鹿!

そんな訳で、見事手作りのチョコレートケーキで俺を釣り上げたヴィラ子は、宿直室の掃除をしてくれた上に夜食まで作ってくれた。
なんて気の効いた優しい子…って自分で座敷に上げといて言うのもあれだが、俺は怒ってる!
コタツ布団に顔半分埋めながら、向かい側でお茶をすすっている少女をじと目で睨んでいると、やがてその視線に気付いた。
「先生、なんか言いたそうだね」
「ああ、言いたいことなら山ほどある」
ヴィラ子がここに来るのは2回目。今日は私服だ。
チェックの膝上スカートに黒のタートルネックのニットで体のラインがくっきり…いやいや、普通に清楚な感じでイイ!っじゃねぇ!
困るんだよ!まだ受験期間で、午後8時くらいはまだ教師の出入りがないとも言い切れないのだ。
生徒をプライベートで連れ込む現場をもし学校関係者に見られたら、俺の首は確実に飛し、恐らくヴィラ子も推薦取り消しに…それだけは絶対に避けなければ。
そんな俺の気を知ってか知らずか、ヴィラ子は来てしまった。例え今日がバレンタインでも、これは約束違反だ。
それに、ここに訪ねてくるよりも学校で渡してくれた方がよっぽど安全だ。生徒が担任にチョコの一つくらい不自然じゃないだろうに。
でもそれじゃヴィラ子が満足出来ないに決まってるか。

直接会える学校では、誰もいない廊下や教室で会った時に少し話すくらい。
俺もヴィラ子も今時珍しくケータイを持っていないから宿直室の電話を使うしかないのだが、毎日長電話をするのはまずいのでたまにしか掛けてやれない。
だからお世辞にも付き合っているとは言えない状態。そんな状況で良く我慢していると思ってはいたのだ。
そんな事を一通り考えて、今日は説教じみた事は言うまいと決めた。

「とにかく…もう少ししたら家まで送ってやる。じゃないと人目につくからな」
「ねぇ、泊まっちゃ…」
ブーーッ!っと勢いよくテーブルにお茶を吹き出した。すぐさまヴィラ子がそれを布巾で拭く。
「馬鹿かお前はっ!ここは学校だぞ?それに明日は普通に登校日だろうが!」
「開門前にはちゃんと帰って、遅刻しないで来ます。だから、ね?」
ね?って、布巾握り締めてそんな可愛く言われても先生困まるだろうが。
「だとしてもダメだ。そう言うのは卒業まで一切無しって約束しただろう、お前も納得したんじゃなかったのか?」
あまり同じ事言いたくないのになぁ。バレたらどうなるかくらい、お前だって分ってるだろうに。
「先生はいつも通り寝てもらって構いません。私は朝ご飯作って、先生起して帰るだけだから」
「ダメ」
「……ただ一緒にいてくれるだけでいいのに」
あくまで冷徹に突き放すと、ヴィラ子はさっきの俺みたいにコタツ布団に口元を埋めて目を伏せた。
俺自身少し意固地になってると思う。けど今けじめをつけないと、卒業までの一ヶ月の間にヘマするに決まってる。
それに『ただ』一緒にいて欲しいというのは素直に嬉しいと同時に、ものっ凄い拷問だということにこの子は気付いていないのだろうか?
…まさか、確信的に俺に忍耐を強いて試しているのか?だとしたら恐ろしい子っ!

とにかくこれ以上、ヴィラ子に「ダメ」「我慢」ばっかり言いたくはなかった。
何か別の優しい言葉で帰宅を促せないか悩んでいたら、ヴィラ子が突然立ち上がって帰り支度を始めた。
「…急に押し掛けて、困らせてごめんなさい。私、帰ります」
「どうした急に…待てよ、もう少ししたら送ってくって言ったろ」
「今すぐ帰りますっ!」
弱々しかった口調が急に張りつめたものに変わり、目も合わせようとしない。
なんだよ、拗ねたのか?怒ったのか?…何にせよこの寒い中、午後10時を過ぎているのに女の子一人を帰す訳にはいかなかった。
肩を掴んで静止するが、一人でいいからと突っぱね、振り切って行こうとする。
「ちょっと待てってば、だったら今送ってってやるから!」
「離して下さいっ!一人で帰りたいんです!」
言いながら泣き始めてしまうヴィラ子を見て、こんな隠れた付き合い方にもう我慢の限界だと胸の内で言われたような気がした。
分ってはいたが、あとほんの1ヶ月なんとか堪えて欲しいのだ。
とりあえず落ち着かせようと揉み合ううちに、ヴィラ子が感極まって言った台詞に激昂した事を、俺はその後、長い事後悔することになる。
「先生は私の事そんなに好きじゃないんでしょう?卒業したら終わりにするつもりなんでしょう?私の我が侭に付き合ってるだけで、本当は迷惑だって言ったらいいじゃないですか!」
一気に頭に血が昇った。考えるより早く手が出た。乾いた音が宿直室に響いて、俺はヴィラ子の頬を思いっきり引っ叩いていた。
その時のヴィラ子の凍りついた顔は一生忘れられないだろう。
そうして怯んだ隙に、両手首を掴んで抵抗できないようにして、あの時のように強引に唇を奪った。
「っ…!?」

女の子の顔を叩くなんて最低だ。後悔の大波が押し寄せてきたが、もう遅い。
その上、一体何しているんだろう。最初にヴィラ子が宿直室に来たと時もそうだった。結局俺が無理矢理やってる。本当に我慢出来ないのは自分の方だ。
教師だとか生徒だとか、世間体だとか良識だとか、全部が忌々しい。このまま勢いで押し倒してしたい衝動に駆られるが、僅かに残る理性が全力でそれを阻止する。
それに反発するように、戸惑う唇に舌を割り込ませた。
突然のことに驚いているのか、叩かれたことに呆然としているのか、ヴィラ子は固く口を閉ざしたまま侵入を許してはくれなかった。
そもそも彼女がディープキス自体未経験であろう事への配慮が、頭から完全に抜け落ちていたのだが。
あまりに強く押し付けていたせいで、息が詰まったヴィラ子が身じろいだので、慌てて解放してやる。
「はぁっ…せ…せんせ、くるしぃっ」
深く呼吸をしながら困惑気味に見上げる顔には張り手の痕が赤く浮き出ていて、ひどく居た堪れない気持ちになった。
「ごめん、痛かっただろ…男として最低だ。本当に、ごめん」
引っ叩いた左の頬を割物を扱うようにそっと右手で撫でると、その手の上からヴィラ子も自分の左手を重ね、そのまま押し当てるように強く力を込めた。意外だった。
目を閉じながら俺の掌の体温を直に感じているようで、しばらくして感慨深そうに呟いた。
「まだジンジンしてます。でも凄く、温かい」
手を添えられていない側を見れば、仄かに頬は柔らかい紅色に染まり始めていた。
何故ヴィラ子は自分を傷つけた俺を拒絶しないんだろう。嫌われたって仕方ないと思ったのに。
「今時の先生は生徒に手をあげたりしません。でも私を叩いたって事は、私を生徒と思っていないからでしょう?だったらもっと叩かれたって私は幸せです」
どうしようもないくらいヴィラ子が愛しくなった。今すぐ思いっきり抱きしめてやりたい。
だがその前に本音を吐露してしまおう。二人の苦しみは二人で分け合わないとバランスが悪い。
その不均衡こそが不安の種になり、いずれ失敗を招く原因となる事に俺はようやく気がついたのだ。
「俺もなぁ、本当は結構しんどいんだ。俺達の関係がバレてお前の将来に傷がついたら大変だと思って気ぃ抜けねぇし。お前の事考えて堪んなくなる(もちろん性的な意味で)時だってしょっちゅうあるんだぜ」
「先生も私と同じだったんですね」
ただ抱きしめているだけじゃ物足りなくなった。
今なら誰にも見られてないんだし、もう一回くらいはいいよな…だって世間様は恋人達のバレンタインなんだろ。



誰にも見られていない?…それは違うぞぉお!シモン先生!!
「…う、うそだぁ」
担任とクラスの女子が…これは何かの冗談か?
同じ頃、宿直室の窓の外、僅かに開いたカーテンの隙間から中を伺う者がいた。
あまりの信じがたい光景に氷点の寒空の下で、その者は身動きが取れなくなった。



2回目のキスはヴィラ子も抵抗せず、戸惑いながらも自分から舌を差し入れてきた。あまりにぎこちなくて、たまに逃げるのを引き留めるように絡ませ、何度も繰り返す。
次第に呼吸が乱れて、どちらからともなく唇が離れた。混ざりあった唾液が上気したヴィラ子の口元に一筋流れ、それを優しく舐めとる。
唇が離れても体は離れがたくて、そのまま腕の中に収めておきたいと思った。

「先生、私やっぱり帰ります。先生の気持ちも分ったし、お返しも貰ったからもう大丈夫」
お返しととってくれるとは思わなかった。照れくさいがそう言ってもらえると助かる。
「本当のお返しはまだだ。卒業式にまとめて返してやるから覚悟しろ!一週間遅れのホワイトデーになっちまうけど、それまで保ちそうか?」
冗談ぽく問いかけると、恥ずかしそうに下を向いたまま頷いた。
いつの間にか午後11時をまわっていた。送る予定だった時間だ。
壁掛けのダウンジャケットをとって雑に羽織ると、ヴィラ子が「寒いから前もちゃんと閉めて下さい」とファスナーを閉めてくれた。なんだかお母さんみたいだ。
ブーツを履くと、ヴィラ子は嬉しそうに俺の腕に抱きついてくる。腕を組むのも今日は多目に見よう。

俺は少し浮かれ気味だったかもしれない。
宿直室を出てすぐ、左手の窓の脇に見慣れぬ物体がある事に気付いた。
窓から漏れる灯に左目を切り取られて、宿直室を覗いたまま固まっているのは、
「え!キタン君…?」
「げっ、キタン…!!」
「…………」
俺達の驚嘆の声に反応できないくらい寒さで硬直しているキタンを、光の早さで宿直室に押し込んで内側から鍵をかけた。


ストーブの上に張ってある物干ロープに、半分赤く染まった解答用紙が洗濯バサミで挟まれて干されている。
その下に解答用紙の主を座布団に座らせ、凍えた体をストーブの暖気に当ててやった。
しばらくすると温められていく氷のようにキタンの表情が溶け出し、俺に気付くなり耳まで赤くなった。後ろのドアの前で立ちっぱなしのヴィラ子と苦々しく顔を見合わす。
向き直って、意識の戻ったキタンに問う。
「キタン、何を見た?」
「何って…ヴィラ子が立ち上がって、なんか喧嘩っぽい雰囲気になって先生がいきなりこう…」
平手打ちを再現しようとしたキタンの前に掌をかざす。皆まで言うな。ジェスチャーも余計。そっから見てたなら十分だ。
「お前、それ誰かに言うか?」
「先生がヴィラ子を引っ叩いて無理矢理キスしたことをか?」
「無理矢理じゃないっ!」
見られた恥ずかしさと混乱で真っ赤になったヴィラ子が後ろから叫んだ。
キタンはその言葉に、自分が見たものの真実とその重大さを理解した。
「てことは二人は付き合ってるってことか。まじかよ……でも無理矢理じゃなくたってマズいよな。教師と生徒だぜ?学校にバレたら大変じゃね?」
「だからお前さえ黙ってくれればいい訳だ。キタン、このこと誰にも言わないでくれ。頼むこの通りだ!」
両手をついて、深々と頭を下げた。

担任が、学校の先生が、どこか飄々としているあのシモン先生がこの俺に土下座とは…。
この先二度とないであろう教師との立場逆転だった。キタンは少し悦を覚えると、ニヤリと黒く笑った。

「俺、もう1年ここにいる訳じゃん?その間、色々と世話してくれるんなら黙っててやらないこともないかなぁ」
「世話とは、具体的になんだ?」
「無断欠席と飲酒喫煙の黙認、追試免除、成績改ざん、ついでにwii買ってくれ、それから松坂牛のすきやき!」
もっと大金の絡んだ無茶な要求を吹っかけてくるかと思っていたがやっぱりガキ臭い。欲がない奴だと感心したのだが…、
「貴様ぁああああ!!!!」
後ろからの怒声に空間が真っ二つにつんざかれ、心臓が口から飛び出そうになった。
聞き慣れぬ言葉をヴィラ子が発し、土足で畳に上がるとキタンを突き飛ばして胸ぐらを掴んだ。
と思ったらキタンの顔を引っ叩…いや、グーで殴ったよ、この子!
「キタァン!先生を強請るたぁ、いい根性してるじゃねぇかぁあ!!!」
バキッ!ゴスッ!グヘッ!となんだか生々しい音が連続し、あ、今赤い液体が飛び散ったような。
いきなりのことに無抵抗なままのキタンをボコボコにして、ぐったりさせたところにヴィラ子が更に凄む。
「人に喋ったらどうなるか分ってるんだろうなぁ?簀巻きにして冬の川に放り込んでやるから覚悟しとけ!!」
…この子、本当に俺の未来の花嫁ことヴィラ子ちゃん?
「ちょっヴィラ子!落ち着け!」
俺の呼びかけに振り向き、未来の旦那さまの唖然とした表情にヴィラ子は我に返る。
「あ……………違っ…やだっ、どうしようっ!!」
咄嗟にキタンを突き飛ばし、その場にしゃがみ込んで、恥らう乙女のように両手で顔を覆った。
「えええええっ!?」


キタンは顔面違う人になりながらも一命を取り留めた様で、今はコタツに入ってヴィラ子の作ったケーキの残りを勝手に食べている。
「死ぬかと思った…。あいつ本当にヴィラ子か?」
「いや、どう見たってヴィラ子だろ。そっくりな宇宙人じゃあるまいし」
「だっていつも○○君とか、ですます口調だろ。あんなの今まで見た事ねぇよ」
当のヴィラ子は自分の醜態にすっかりへこんで、壁の隅っこで膝を抱えながら影を落としている。
「ヴィラ子、いい加減こっち来てコタツ入れ。風邪引くぞ。キタンも黙っててくれるってさ」
「おう、全部冗談だぜ。ちょっと先生困らしてやろうと思っただけだ。誰かに告げ口したりしねぇよ」
「……ほんとう?」
か弱い口調に反して、ヴィラ子は怨霊のような目つきで振返る。殺意にも似た狂気を感じ、キタンは大振りに何度も頷いた。
納得してようやくコタツに入ってきたヴィラ子だが、俺のために作ったケーキが無くなっていることに気付き、一瞬額に青筋を浮かせたが何とか耐えた。
「さっきのヴィラ子は別人みたいだったなぁ。普段は全然おしとやかなのに」
「先生…私のこと嫌いになりました?」
不安そうに尋ねるヴィラ子の頭を軽くひと撫でする。
「全然。だって俺がキタンに利用されると思ってあんなことしたんだろ」
「…頭に血が昇って、何がなんだが分らなくなっちゃったんです。何か乗り移ったみたいに。私もあんなの初めてで…」
「そっか、なんかが乗り移ったのか。じゃあしょうがないよな!」
「そうですね」
「しょうがないで済むかぁああーーー!!」
微笑み合いながら二人の世界と言わんばかりの花を浮かす。
キタンに関係を知られたおかげか、人前でイチャつける喜びが二人をささやかに包んでいた。
自分が場違いだと思ったキタンは所在無さげに二人から目を反らす。
そうだ、大体にしてコイツは何でここにいるんだっけ…。
「キタン、そういえばお前何しにきたんだ」
やっと聞いてくれたかという顔をして、きまり悪そうにボソリと呟いた。
「………退学しようかと思うんだ」


一通り聞いて、キタンの筋の通らない話に俺は首を傾げた。
「ヨーコにチョコ貰えなかったから退学する?なんでだよ?意味がわかんねぇ」
「去年はくれたのに、今年はくれなかったんだよ。きっと留年男なんて格好悪いと思ってるんだ。俺、ホワイトデーに告白しようって決めてたんだ!でもバレンタインにチョコ貰えないってことはよぉ、告白する権利もないってことじゃないのか先生!これじゃ100%フラれちまう!」
「そうだな。でも、だからなんでそれが退学に繋がるんだ?退学したって高校中退じゃ大差ないじゃん」
「先生、今さらっとひどい事言いましたね」
「俺、先生の事少し嫌いになった。…退学して自立して、稼げる男になればきっとヨーコに認めてもらえると思うんだ!」
「なるほどな。退学は自由だ。だが俺は絶対認めないぞ。留年は自分で招いたことだろう?それを途中で投げ出した根性なしとしてお前を記憶するのは俺は嫌だ。お前にはきちんと卒業して、ヨーコに胸を張って告白してもらいたい(フラれるかもしれないけどな)」
「先生…(かっこいい)」
「自分の落し前は最後までってことか…。俺、もうちょっと頑張ってみるよ。ヨーコに似合う根性のある男になる!」
「(単純な奴で良かった)よし!それでこそ男だ!納得したなら、キタン、頼みがある!ヴィラ子を家まで送ってってくんねぇか?俺だと万が一誰かに見られたらマズいし」
いい感じで話をまとめたつもりが、ヴィラ子もキタンもとたんに嫌そうな顔をする。
「…お前、ガキじゃねぇんだから一人で帰れよ」
「ふん。言われるまでもなく、貴様に送られるぐらいなら1人で帰る!」
さっそく良くない空気…。ついでにヴィラ子、言葉使いが戻ってないんだけど。
「近頃この辺も物騒なんだ。それに上手い具合に他の生徒に目撃されて、二人に噂が立ってくれると好都合だし。な、ヴィラ子も素直に言う事聞いて…」
「嫌です!こんなのと付き合ってるなんて言われたくない!」
「こんなのだとぉ!?お互い様だ、このぶりっ子!(バキッ)ギャッ!」


嫌がる(乱闘する)二人を何とか言いくるめて、日付けが変わった0時過ぎ、ようやく送り出した。
伸びを一つしてコタツに入り込めば、ふとストーブの上に干された赤いものが目に入った。
「そういえばこれ、キタンの解答用紙だったな。そうか、コレは暗示ってやつか」
ヴィラ子の知られざる一面に驚いたものの、一番最初にここに訪ねてきた時の彼女の気迫を思えばなんとなく頷けるものがある。
そもそも、家庭訪問でヴィラ子の母親(アディーネ母さん)を見たときS嬢を連想したんだった。
あのお母さんの娘だもんなぁ…それにあの家庭には何かがありそう。いずれ分かることだけど。
だがヴィラ子の本質は絶対Mに違いない。それもド級の…。


雪の降り積もった帰り道をとぼとぼと歩く二つの影。端から見れば初々しい高校生のカップルとも言えなくない。
「なぁヴィラ子、お前本当にシモン先生が好きなのか?ひと回り以上おっさんだぞ」
「うるさい。好きなもんは好きなんだから歳なんか関係ないだろうが」
「そりゃそうだけど、意外だよな。それと学校でそんな喋り方してみろ、皆ドン引きだぜ(ロシウとか特に)。早く直せよ」
返事はなく、ヴィラ子の足が止まった。それに気付いたキタンが後ろを振り向くと、ヴィラ子が不安そうに見つめていた。
「…………ねぇ、キタンのこと本当に信用していいんだよね?私、先生といれなくなったら…」
キタンはやれやれという風にため息を一つ吐き出して、誠実な顔をしてみせた。
「安心しろよ。俺だって先生のこと大好きだし、クビになったら困る。人の恋路を邪魔するのは男のする事じゃねぇしな」
「ありがとう…キタン…君」
「うわっ、やっぱそれキモッ(ドカッ)グへッ!…言うよ!俺言うよ!そんな乱暴するなら町中に大声で言っちゃうからなっ!」
尻餅をついて殴られた頬を抑えながら、自分を冷たく見下ろすサタンに涙ながらに訴えた。

朝になり、登校してきたヨーコによって、キタンは雪に埋まった状態で発見された。
雪から掘り出したキタンを学校へと引きずるヨーコの鞄の中には、1日遅れの義理チョコが入っていた。


【次回予告】
女子高生ヴィラ子「卒業式編〜今宵満願!〜」
需要があるか謎だけど、卒業式シーズンに様子を見つつ投下しまつ