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いくら総指令と言えど議会が休みの盆と正月は自宅でのんびりまったりできる。
年の瀬どころか大晦日の夜、紅白を見て年越し蕎麦を愛猫と啜っていても誰にも咎められない。
非番!何て素晴らしい響き!
隣りでは「ぜったいジョヤのカネきくんだ!」と息巻いていたので、
眠気覚ましにと淹れてやった緑茶をちびりちびりと飲んでるヴィラルがいる。
それが、先程から何かのチラシを熱心に見つめて時折「はぁ」とか
「うん」とか呟いてはクレヨンで何やら書き込んでいた。
「……何やってるんだ?」
と問い掛けると、その言葉を待っていたーァ!と言わん許りのキラキラおめめが俺を見据えた。
「あしたのはつうりで、かうプクプクロにしるしつけてた!」
あーこの目は行く気満々だなぁ……
明日は寝坊しつつ昼過ぎ辺りに初詣なんて想定してたんだが、こりゃあそうも言ってられないな。
とシモンは一呼吸置いてから腹を決めた。
「福袋な。うっし、じゃあ明日早起きして初売りに出撃だ!だから早く寝るぞ!」
「めいれいか?」
「いいや、提案だ」
「だったらのったー!ブータもはやくねるぞ!」
「ブミュ」
ウキウキしながら二階の寝室に駆けてく小さい姿を見やって、
自分もコタツから体を引き抜いて伸びをする。
福袋が欲しいなんて、やっぱり女の子なんだなぁ
と思いながら、置きっ放しになっていたチラシを手に取ってどれどれと目を通す。
「……前言撤回」
何故なら、しるしが付いていたのは洋服やアクセサリー等の福袋ではなく、
トビタヌキソーセージ詰め放題の写真にそれこそデカデカと赤いクレヨンで三重丸がついていたからだ。
「……俺も寝よう」
なんだか1年分の疲れがドッと押し寄せた心持ちで、トボトボと寝室へ上がる地球政府総指令であった。


翌朝、腹に強い衝撃を受けて飛び起きた。
「ぐぎゃっ!」
「おきろシモン!あさだ!はつうりだ!」
テンションゲージMAX状態で、俺の腹上で踊り狂う子猫の頭をぽふぽふ叩いて宥める。
「解ったから、とにかく腹の上をのしのしするの止めような。昨日の蕎麦が鼻から出そうだ」
「うん!」
ぴょんと反動を付けて飛び退いたもんだから、再び息が詰まるが何とかかんとかこらえて、
シモンは暖かい布団にさよならした。


早く早くと急かされるままに雑煮を適当に飲み下し、
バスに乗っかってえっちらおっちらたどり着いたデパート前には、既に長蛇の列ができていた。
「正月なのに……みんなのんびり過ごしたいとか思わないもんなのかな」
「サスーンもいくっていってたしな!みんなはつうりがだいすきなんだな!」
わたしもまけないぞ!と気合い十分な愛猫に、
たぶん人間ヴィラルが相手の俺も、今日はこんな感じで初売りに引っ張り出されてるのかなぁ
と思いを馳せて見た。
すると、ぼんやりしていた俺にヴィラルはキリッと向き直って活を入れる。
「いいかシモン、はつうりはオンナのセンジョーなんだぞ!きあいをいれろっ!」
「お、おぅ!」
ちゃんとした返事を聞いて満足したのか、小さな猫手でむんずと俺の手を握って、行列に並ぶべくのしのし歩き始めた。
……が、しかし、あるけどあるけど「列の最後尾です」が見えない。
一体全体何をどう広告に載せればこんなに人が集まるのか!?
心なしかヴィラルの表情が険しくなってきた気がする。
「心配するなって、こんなに人が集まるってお店側は解ってるだろうから、福袋いっぱい用意してあるさ」
だから大丈夫。とフワフワ頭を撫でると、気合いが入ったのか三角耳がピンと立つ。
「わかったぞ!むりをとーしてどーりをけっとばすんだな!」
「んー。使いどころが間違ってる気がするけど。まぁそういうことだ!」
そうさ、折れない心が有る限り人の力は無限なんだ!
なんて思っていたら、正面入口方面からわーっと歓声が聞こえて、次いで拍手何かも聞こえて繰る。
不審に思い見やった行列もゾロゾロ動き始めている気がする。
開店時間にはあと一時間あるはずだよな…と確認のためチラシに目を走らせる。
開店時間10:00よかった合ってる、と思ったのも一瞬で、下方に小さく書かれているただし書きに驚愕する。
『1日に限り9:00開店』
くじかいてん
「いっけねっ!」
?マークを飛ばす愛猫を小脇に抱えて、列の向かう方とは逆方向に全力疾走。
とにかく尻尾にいかなければっ!


結局列の尻尾を見つけたのが9:20、更に店内に入れたのが9:50……
それから目的地たる地下の食品館にたどり着いたのが10:00を少し過ぎた辺りで……
そこは既に合戦の真っ直中だった。
まぁ、案の定いるのは若い女性ではなく妙齢のご婦人ばかりなのだが……
そんな状況に臆することなく、迷子防止で肩車されていた子猫は猫手でペシペシ俺の頭を小突いて急かす。
「シモン!アレをやるぞ!」
「アレ……それも一興ッ!……って逆じゃないか?」
「こまかいことはいわない!とつげきー!」
「あ、はい」
言われるままにおばちゃんの群に近付く……弾かれた。
なにくそ!もう一度売場に近付く……弾かれた。
ま、負けるかっ!……弾かれた。
「もうダメだよ。ヴィラル、家に帰ろう」
「なにいってるんだシモン!むりをとおしてどーりをけっとばす!!」
ペシペシと再び頭をはたかれて気合いが入る。
「解った!アンチスパイラルだって蹴散らせたんだ!おばちゃんの10人や20人なんだってんだ!俺に任せろ!」
うぉおおおおおっ!とは声に出さないまでも、それ相当の気概をもってしておばちゃんの壁に挑む。
「あれ?」
意外とすんなり売場に到達した。
なんだ!その気になれば楽勝だったじゃないか!と、品物が出されているケースを見て固まる。
「……うりきれ?」
悲しげなヴィラルの声が物語っているように、その場には折れたソーセージが数個残っている程度で、殆ど何もない状態だった。
「そんなまさか!だってまだ開店してから一時間しか経ってないんだぞ」
とキョロキョロ辺りを見回して発見した店員に声を掛ける。
「すみません、広告に出てたトビタヌキソーセージ売場に無いんですけど」
「あ、申し訳ありません。出てる分だけなんで、売場に無ければ無いです」
ななななななんだってー!?
あまりの衝撃に返す言葉も無く、スタスタといなくなる店員を呆然と見送るしかなかった。
「うりきれ…」
すんと鼻をすする音が聞こえてハッとする。
「ほら、泣くなよ。代わりに何か美味しいもの食べて帰ろう。正月なんだから寿司とかさ!」
「………うん」
何処となく渋々うなづいた感はあるが、兎にも角にもお腹がいっぱいになったら機嫌もなおるだろう。
一人と一匹は上を目指してエスカレーターに乗っかった。


少し早い時間から並んだからか、飲食店には大して待たされることなく入れて少しホッとしながら腰を下ろす。
「えーと、お子様セットでいいのか?」
「…うん」
ぼんやりメニューを眺めながらおざなりにうなづく子猫に、シモンは肩を竦める。
「そんなに楽しみだったのか」
「うん。このまえ、テレビでみたひとが、イーッパイつめててかっこよかったから…」
へこんと三角耳が頭に突っ伏す。
そうか、そりゃあ家計のことに必死になってる主婦の姿は雄々しかっただろう。
「そっかそっか、俺もカッコいいヴィラルが見れなくて残念だ」
「ちがう」
「ん?俺何か変なこと言ったか?」
「ちがう。わたしじゃなくて、シモンのカッコいいトコロみたかった!」
「俺!?」
考えてもいなかった展開に目を丸けると、目の前の子猫がゆっくりうなづく。
えっ!?俺?詰めるの俺の予定だったの!?いや、やってやれないことはないよ。そーいう細かい作業得意だし…でも、俺!?
「え、えーと。とりあえず寿司頼んじゃおうか」
「うん。おもちゃはコマな!」
話したらスッキリしたのか、気持ちがお食事モードに移行したようだ。
先程と打って変わってウキウキとメニューを眺め始めている。
「すみません。えっと、お子様セットと、寿司盛り松お願いします」
店員に注文をした後は、シモンがぼんやりする番だった。
カッコいい俺?どーすりゃいいんだ?


早めの昼食後、せっかく来たんだから!と各階をぶらぶらして回った。
福袋があらかた履けてしまったからか、新春初売りバーゲンなるものをやっていて、そうだとヴィラル用のコートを買った。
「その色なら迷子になってもすぐ見つけてやれるな」
水色に星の柄がプリントされさコートに着替えたヴィラルが、ニッコリ笑顔でうんとうなづく。
何故だかめちゃめちゃ値引きされてて、買う時店員に苦笑いされたが、ものすごく似合ってるじゃないか。
「でも、シモンとてをちゃんとつないでるから、まいごにはならないぞ!」
ギュッと握り返された手に、何だか暖かい気持ちになる。
「そうだぞ。俺の手を放しちゃダメだからな」
「うん!」
こんなあったかい手、ニアにも握らせてやりたかった。と心中感傷にふける。
「シモン、シモン」
「ん?どーした?」
「フクフクロまだうってる!」
手を引かれてそちらをみると、ヘアアクセサリー等の雑貨を扱ってる店の店頭に、ピンクの紙袋が幾許か鎮座間していた。
「うりきれじゃないんだな!」
「あーうん。というか、欲しいのか?アレ…」
「うん!プクブクロほしい!」
「でも、中身トビタヌキソーセージじゃないぞ」
「いーの!きぶん!」
ぷーっと頬を膨かして断言する子猫に、気分ならしょうがないか。と満更でもなく尻ポケットから財布を引き抜く。
「ほら、どれがいいんだ?」
「かってくれるのか!?」
「だって、欲しい気分なんだろ?」
すると、途端に不安げな顔つきになって、モジモジ猫手をすりあわせる。
「うん。…でも、おかねだいじょうぶか?おスシたべたから、おかねなくなったんじゃないか?」
「そんなもんじゃ俺の給料無くなったりしないよ。心配すんな!」
ポンと黄色い頭に手を置くと、三角耳がシャキンと背筋を伸ばす。
「じゃあ、じゃあね、コレ!」
君に決めたーと言った勢いで引き抜かれた紙袋に、シモンは子猫に代金を握らせた。
「レジに行ってこれ下さいってお金渡すんだ」
できるよな?との問いに子猫は自信満々にうなづく。
「わたしをだれだとおもっていやがる!」
「シモンさん家のヴィラルです。はい、じゃあいってこい」
「うん!」
トビタヌキソーセージ詰め放題だけじゃなくて、ちゃんとこういう女の子らしいものにも興味があったじゃないか。
お代を握り締めてレジに駆けてく小さな背中を見つめてホッと一息。
「シモン!かえた!」
意気揚々と紙袋を掲げて、突進してくるヴィラルを受止めて、ニッコリ笑顔にニッコリを返す。
「よくできました」
「はなまるか?」
レシートを差し出しながらされる問いに、花丸だよ。と返した。
「なかみ、なんだろうな!」
「家に帰ったら開けて見ような」
「うん!はやくおうちかえろう!」
「そうだな。その前に夕飯のおかず買ってこう」
「うん!」
一人と一匹は再び地下の食品館に向ってエスカレーターに乗っかった。


コタツにつかりながら、玄関にさがっていた御重を開ける。
「ヨーコも来るなら来るって言ってくれればいいのにな」
「そーだな。いそくさいな!」
「みずくさい、な。んでも、お節用意するのすっかり忘れてたから助かったよ」
ぱっかり開けられた御重には昆布巻きに海老、黒豆、数の子とヨーコの気遣いがみっちり詰まっていた。
「おいしそうだな!」
おめめをキラキラさせながら見ているヴィラルには悪いが、蓋を閉めて台所に持って行く。
「夕飯にはまだ早いだろ。とりあえず今時間はお茶とミカンだ!」
「りょーかいした!」
ポテポテ階段下の物置に蜜柑を取りにヴィラルが駆けていく。
はぁやれやれ、やっと一息吐けそうだ。と湯飲みを手にコタツに舞い戻った。
「ミカンもってきたぞ!」
ポロッと一抱え(と言っても3、4個)の蜜柑を卓上に置いて、俺の脇にちょんとすまし顔で座る。
「なぁシモン、フクブクロあけてもいいか?」
「あ、すっかり忘れてたな。いいぞ」
よしが出たとなると、おめめキラキラが三割増ぐらいになって、嬉々として紙袋をこじあける。
「?」
それまでニコニコしていた顔が疑問に固まった。
「どーしたんだ?」
「なんかモジャモジャがはいってる」
「モジャモジャぁ?」
モジャモジャって何だ?と恐る恐る中から小分けにされてるビニール袋を取り出した。
「……モジャモジャだな」
「な!」
恐らく付け毛だろう茶褐色の人工毛の束が、ヘアアクセサリーなんかと一色他になって詰まっていた。
取り出してヴィラルの黄色い頭に乗せて見る。
「……プリンアラモード」
「うまくない!」
お気に召さなかったようで、ぶんむくれにむくれながら頭上の毛束をはたき落とす。
「あーもー。物を粗末にしちゃダメだろ!」
と拾いあげたそれをコタツの脇に寄せて、新年会の一発芸で使うかさもなきゃロシウにあげるかな。と思案した。
「ほら、可愛いヘアピンだって入ってるんだからそんなにホッペ膨ますなよ」
「ふくれてない!」
明らかに膨れていたが、言及せずに取り出したヘアピンをつけてやる。
「お、印象変わるな」
「そーか?おねーさんみたいか?」
「うんうん。似合ってるぞ」
おでこが見えるだけで随分雰囲気が変わるんだな。と半ば関心しつつ、その後とっかえひっかえ髪飾りを付けて遊ぶ。
「ブィ!」
頭にリボンを結ばれたブータが紙袋から最後の小袋を取り出してみせた。
「お?髪飾りじゃないのも入ってるのか?随分お得なんだな福袋って」
その小さな包みを小さな手(前足)から受け取って、中身を引っ張り出す。
「ブレスレットか?にしては長い気もするけど…」
細い鎖に小さな星型チャームが一つぶら下がっている。
それをしげしげ眺めていたシモンが、ふとした思い付きでヴィラルの首にかけてやると、ちょうどよく巻かさった。
「ネックレスだったんじゃないか?」
「うーん…タグにはアンクレットって書いてあるけど……まぁピッタリだからそれでいいよな!」
「わたしはかまわないぞ!」
元々は何処に着けるんだかサッパリ解らないが、似合ってるし丁度いいんだからそれにこしたことないじゃないか!
と己を納得させて、袋からピンクのブタモグラストラップを取り出してヴィラルのポシェットに吊す。
「シモン、なんかおちた!」
掲げて見せるそれが目に止まった瞬間、シモンの中で全てが制止した。
「ん?…ゆびわだ!」
その通り、愛猫が手にしているのは指輪だった。
それもよりによって、ニアに渡した婚約指輪と色も形状も瓜二つというとんでもない代物だ。
恐らく、ニアの指輪に便乗した類似商品なのだろう。石の部分もよく見ればプラスチックかガラス玉で光彩が微妙に違うではないか。
「どーしたんだ?シモン、おなかいたいのか?」
おずおずよってきたヴィラルを抱き締める。
「どこも痛くないよ」
嘘だ。強いて言うなら胃と心臓の間ぐらいがギュ~ッと締め付けられて呼吸がし辛い。
しかし、心配したヴィラルが頬を舐めてくれるので、だいぶ楽になってきた。
「それ、かして」
小さな猫手から指輪を受け取って、首に巻かさった鎖にそっと通した。
「それなら無くさないだろ」
ペンダントヘッドに早変わりした指輪をしげしげ眺めていたヴィラルが相好を崩す。
「おそろいだな!」
コアドリルの代りに首から下げてる指輪のことをさして、愛猫がニッコリ笑う。
「そうだな。おそろいだ」
「うん!すっごくうれしいぞ!シモンありがとう!」
「俺こそ、いてくれてありがとうな」
アンチスパイラルを倒してニアを救出す事に全力を注ぎ、注ぎ切った対象がサラッと己の掌から零れ落ちた。
悔いは無かった。悔いどころか何もない空虚な心を埋めてくれたのはこのフカフカの小さな毛玉だったのだ。
ギュ~ッと抱き締めた子猫がキョトンと俺を見上げる。
「なにをいってるんだ?わたしはシモンとずーっといっしょだぞ!」
だからそんな顔をするなとばかりに肉球がぽふぽふ額に当たる。
「うん。ありがとう」
抱き締めた子猫が照れくさそうに喉をクルクル鳴す。
――暖かいな――