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夕方の一般職員が帰宅を始めるその時間帯に鳴り始めた雷は、治まるどころか豪雨を引き連れよりいっそう激しく鳴り響く。
総指令府議事堂の正面玄関内、地球のNo.1とNo.2がそろって悪天候の夜空を見上げて溜め息を吐く。
「シモンさん。流石に今日はガンタクで帰ってください」
地響きがするほどの威力で空をのたうつ雷にロシウが顔をしかめながら進言する。
「うーん。そうしようかな」
さしもの俺も今日ばかりはその提案に乗ろうと、レインコートのポケットからガンフォンを取り出して業者のダイヤルを回しかける。
「あ、着信」
番号が中途半端に押しかけだが、自宅からの着信を優先して受話器を取る。
『もしもし、シモン!カミナリすごい!だいじょうぶか!?』
焦り100%な声音で電話を掛けてきた相手を宥めるように「大丈夫だよ」と一言。
 『そっか。よかった』
ホッと溜め息を吐くのが解って口許が緩む。
そんな緩んだ顔見たらロシウはいい顔しないだろうなぁ…と一歩二歩自然な調子で彼から離れる。
「今日はガンタクで帰るからいつもよりちょっぴり早く帰れるかも」
一歩前進すれば自動ドアが開いて直接外の景色が目に入る。
それにしても凄い雨だな、景色が白い。
あ、光った。つか目の、前、真っ白…なん…だ……けど
目が潰れるかと思うほどの閃光が駆け抜け、鼓膜を裂くような音が過ぎ去った後には、ポツリと玄関前に倒れるシモンが…
「―っシモンさん!?だ、誰かっ!早く!」


気付くと俺は知らない畔道に一人で立っていた。
よく分からないが目の前を小振りのシロスナワニウサギが歩いているので、それを追いかけることにした。
一歩踏み出す……と暗い穴に真っ逆様に落ちた。
「早過ぎだろぉおおおおおっ!」
落ちた穴の底には小さいドアがあって…大きくなったり小さくなったり流されたり
誕生日?パーティーに参加したりと、とにかく以下省略的な怒濤の勢いで揉みくちゃにされて最果て。たどり着いた先で俺はうっかり立ち尽くす。
「アニキ?ニア!?」
確かに正面に立っているのはその二人だ…でも、何でオイコミサギなんかさかしまに持ってるんだ?
と言うか足元に転がってるちっさいのってブタモグラ?つか何すんの?これ?
「シモン!」
その不自然な出で立ちはぬきにして、嬉しそうに顔を綻ばせてニアが駆け寄って来る。
パッと広げた腕に彼女を抱き締め微笑みかけるが、腕の中の彼女はもう笑っていなかった。
「シモン。どうしてここに来てしまったの?」
「え?それは、シロスナワニウサギを追いかけて穴に落ちて、大きくなったり小さくなったり流されt」
「そうじゃなくて!」
「???だから、シロスナワニウサg」
「そんなことはどうでもいいのです!」
強い語調で説明を遮られて、俺は途方に暮れる。
久し振りにあったニアはやっぱりニアで、話もやっぱりどこか噛み合っていないようだ。ニアは一体全体何が聞きたいんだ?
困り果てた俺は助けを求めてアニキを仰ぎ見るが、その人の表情も険しい。怒ってる?何で?
「シモン、チビ助おいてこんなとこ来てんじゃねーよ」
「チビ助?ブータのことか?」
「ちげーよ!ったく!そんな大事な事も解んなくなっちまったのか!?」
困ったもんだと言わんばかりのアニキの横で、ニアも静かにうなづく。
チビ助?チビ助って誰だ?大事な事?大事な―――あ。
「二人ともゴメン!俺、家に帰らなきゃ!待ってるんだ!」
「何謝ってんだ。思い出せたならそれでいいじゃねーか」
ニカッと気持ちのいい笑顔をみせるアニキにぽんぽんと頭を叩かれる。何だか懐かしいな。
「ありがとう…俺行くよ」
「あ、ちょっと待て。それには正しい帰り方ってのがあるんだよ。な、姫さん」
「そうなのです!」
肝心なところで気概を挫かれながら、アニキの陰に立っているニアを見れば、更に呆然とする。
「…どこからツッコミ入れればいいのかな?」
それは着ぐるみなのか、被ったフードには細長い耳が付いていて、平たいジグザグな尻尾と全体的に黄色な格好をしたニアが気合い十分に俺を見つめている。
「細かい事は気にしてはダメ!」
「あ、はい」
俺の返事を聞いてニッコリ笑ったニアがガッツポーズの要領で手を上から下へ…
「シモンのにぶちん!」
掛け声と同じぐらいの衝撃で閃光が俺を貫く。
にぶちんって何ッ―――――


目覚めると真っ暗闇だった。
じゃなくて、顔の上に乗っかったフカフカの物体をソッと退ける。
「…ん。ふにゃ、……シモン!」
フカフカの物体の正体ヴィラルが寝ぼけ眼をガン開きして、俺の顔に向かってボディープレス。
「ふげっ!重い!」
再び閉ざされた視界に抗議の声を上げれば、慌てて上体を起こして鎖骨のあたりに腰掛ける。そこも結構重いんだけどなぁ…
しかし、涙目で俺を見るヴィラルにそんなこと置いとく事にして、フワフワの頭を撫ぜた。
「ごめんなさい。ごーめーんーなーさーいー!」
何がなんだか解らんが、泣きながら謝るこねこをギュッと抱き締める。
「どうした?何で謝ってるんだ?」
ポロポロこぼれる涙を拭ってやると、三角耳が頭に突っ伏す。
「だって、シモンなんかカミナリおっこちてしんじゃえって、いったらカミナリおちた」
あぁ、そういえば先日の非番に「七五三しなくちゃ!」と慌てて連れてった時。よく解らないけど喧嘩になってそんなようなこと言われた気がする。
「なーんだ。そのこと気にしてたのか?大丈夫。偶然だって」
伏せっていた耳の後ろを掻くと、気持ち良さそうに目が細められ、クルクルと喉を鳴らす。
「ぐうぜんなのか。よかった」
ニッコリ笑う顔に、生きててよかったと痛感する。そりゃあアニキもニアもこんな状態で三途の川なんか渡っちゃったら怒るよな……
「あら、シモン起きた?」
戸口から置き電片手に現われたリーロンに「あ、ここ家じゃない」と気付く。
「今さっき自然災害対策本部がたったの。生きてるって電話してあげなさい」
差し出された電話を受け取った瞬間、窓の外に閃光が走ってやや遅れて地響きを伴った音がやってくる。
「!?」
尻尾を歯ブラシみたいに膨らませたヴィラルが飛び付いて来るので、その体を抱え直してから受話器を取る。
「あ、ロシウか?」
『シモンさん!生きてたんですね!』
表現するなら面倒な葬式の準備しなくてよくなった!とでも言う調子で出られた電話に苦笑を返す。
「まぁお陰様で。それより俺、そっちもどろうか」
『いいえ。こちらは大丈夫です。怪我人はおとなしく静養していてください』
うむ。螺旋力バリアのおかげか全くピンピンしていると言っても過言で無いのだが…
と、また外に光が走り近くに落ちたのか、音とともに一瞬室内電気が消えると俺のシャツにしがみついていたヴィラルがビクリと身を竦ませる。
「うん。今日はお言葉に甘えさせてもらうよ」
『えぇ、そうしてください。何かあったらその回線に連絡しますので』
「あぁ。その場合は夜中でもすっ飛んで行くさ」
『頼もしいです』
「じゃあ、後は頼んだ」
『任せてください』
とりあえず災害対策本部の指揮をロシウがとっているなら安泰だ。と受話器を置いてホッと一息。
「シモン、おしごといくのか?」
不安げな猫目に見つめられてふと苦笑。
「怪我人はゆっくりしてってねだってさ。今日は病院にお泊まりだ」
ぽふぽふ柔らかいねこっ毛の登頂部を叩けば、満足そうに目が細ばめられる。
「やっぱりそういう運びになったのね」
電話線の辺りで作業をしていたリーロンが事も無げに言う。
「さてと、こっちのお仕事も完了したから邪魔者はそろそろお暇するわね」
とひらひら後ろ手を振りながらテキパキ片付けをする。
「手間を掛けてすまなかった」
「いいのよ。おチビさんとの話も楽しかったしね」
ネっとウインクをされたヴィラルが尻尾の先っちょをもわもわにさせながら、しーだぞ!と内緒である事を念押す。
「はいはい解ってるわよ。あ、それからこのベッドリクライニングするから」
と渡されたリモコンの△ボタンを押すと頭の辺りがせり起きてきて背も垂れのようになった。
「「おぉおおおおおっ!」」
こういう機能があるとは知ってはいたが、実際に体感してみると感動はひとしおだ。
「シモンやらせて!わたしもやりたい!」
目をキラキラさせるヴィラルにリモコンを渡す。
▽ボタンを猫手で器用に押すとゆっくり背も垂れが下降して元のベット型に戻る。
「はいはい壊さないように楽しんでちょうだいね。じゃあ私はこれで、チャオ☆」
「ちゃお~」
小さい手を目一杯振って彼を見送ってから、こちらに向き直ると小首をかしげた。
「どうした?」
腹の上に乗っかっているヴィラルに声を掛けると、かしがっていた首が元に戻って、ニッコリ笑顔になる。
「おもいだした!きじょーゆ!」
「生醤油?」
「うん!このまえしゅーかいでおはなしした!」
生醤油って事は料理の話でもしたのかな?まぁ女子の集まりなんだからそう言う話もするよな。
と考えを巡らせて、黄色い頭を撫ぜる。
「そうか。よかったな」
「うん!」
外の豪雨とは対極の晴々とした笑顔にふと思い出す。
「そういえば、お前ご飯食べたのか?」
「うん。リーロンがおうちにきてつくってくれたぞ。それで、たべてからシモンをむかえにいこうっていわれたからきた」
ついたらびょーいんだったからビックリした。と言うヴィラルの頭をよしよしと撫ぜる。
「びっくりさせてごめんな。もうd」
大丈夫と言いかけたところに雷が被さって来て、びっくらこいたヴィラルが布団の中に飛び込んで来る。
「避雷針ついてるから大丈夫だよ」
布団の端からはみ出ている尻尾の先をちょいちょいつつくと、ピャッと引っ込む。
「しっぽであそばない!」
「んふふっ」
「わらわない!」
こんもりしていた膨らみがもそもそと移動してぴょっこり仏頂面が顔を出す。
「…その顔おもしろいな」
「おもしろくない!」
膨れっ面が更にぷくーと膨らむのが可愛くて、思わず写メ写メと携帯を探して思い出す。
もしかして俺の携帯雷の直撃受けてお亡くなりになってない?
「うわーっ…牧場行った時の写真も変な寝相の写真もメールデータも全部お釈迦!?何でバックアップ取って無かったんだ俺のバカー!」
せめてメモリーカード変えときゃよかった…と大後悔している俺の頬に肉球がプニプニと当たる。
「シモンげんきだせ。しゃしんならわたしももってるぞ!」
ポッケから取り出した子供用ガンフォンには、俺の変顔写メとか寝顔、背中…とにかく俺がみっちり入っていた。
「何だよーこんなのいつの間に撮ったんだ?」
「ナイショ」
なんだよなー。撮るならもっとカッコいい写真撮ってくれよー。と文句を言うと、何故だか真剣なまなざしで見つめられる。
「シモン」
「ん?」
「カワイイおようふくきて、カッコいいシモンとしゃしんとりたい」
何を言われるのかと身構えていたが、存外可愛らしいお願いだったので、快く承諾する。
「いいよ」
「ホント?ィヤッター!」
枕元に正座して万歳三唱する子猫に、ホント可愛いなぁ…と親バカ全開で相互を崩す。


「―ってことで、携帯買い換えた帰りにおめかしヴィラルとプリクラ撮ったんだ!可愛いだろ!」
食堂でたまたま会ったリーロンに、携帯裏に貼り付けたプリクラを自慢げに見せつける。
「はぁ…シモン」
「何?」
何やら物憂げに俺を見る相手に首をかしげる。
「鈍いのも罪ね」
「???」
わたし忙しいからと足早に去って行く彼に、頭がもげんばかりに首がかしがる。
飼い主シモンが「カワイイおようふくきて、カッコいいシモンとしゃしんとりたい」の真意を知るのは、子猫に語彙が身に着くまで来なさそうである。