「戦火の中犯される娘達」SS保管庫

屈辱と悲劇の許容、その果てに

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月の無い夜だった。真っ黒に染められた窓の外からは、虫や蛙の鳴く音がしている。
それに混ざって女が啜り泣く音と男の荒い息づかいが、食堂まで響いてくる。
ぼんやりと窓の外を眺めていたマセッティは、やれやれと思いながら、テーブルの上に脚
を乗せ、木の杯に注がれた紫色の液体をあおった。葡萄を発酵させて作る半島名産の酒は
一気に空になる。

『おーい、親爺ー。酒ー。』

部屋の奥から前掛けの肥満体がデキャンタに注がれた葡萄酒を持って現れ、ぶっきらぼう
にテーブルに置いた。
親爺はマセッティと同じくらいの歳の筈だが、禿げた頭と突き出した太鼓腹のせいか、見
かけ以上に歳老いて見える。いつもなら、ぶつぶつと小言を言いながら食堂へと帰ってい
く親爺は腰に手を当てて、マセッティを見下ろしたままだ。

『儂はあんたらに感謝しとるし、出来ればずっとここに居てほしいとも思っとる』
『何だよ、急に』

親爺はマセッティの言葉を無視して言った。

『黒き民が来てから、半島はしっちゃかめっちゃかだ。そんな中、こうやって宿屋で商売
が出来るのも、あんたらがこの村に居てくれるおかげだ。村の連中もそう思って感謝しとる。
だから、あんたらがやる多少の悪さにも目をつむるし、黒き民から分捕ったものをど
うしようが知ったことじゃない』
『ほんで?』

マセッティはコップにデキャンタの酒を移し替えながら面倒くさげに親爺に応える。

『じゃがな!年端もいかんような子供にあんな仕打ちをして、恥ずかしくないのか!』

親爺が食堂の奥の部屋を指差す。先程の啜り泣く声は悲しげな嬌声に変わり、荒い息遣い
は唸り声になっていた。

マセッティは呆けたように口を開けて親父の指差す方を見遣る。次の瞬間、一際大きな唸
り声があがり、後はシクシクと女が啜り泣く音とはぁはぁと男が息を荒げる音が響いた。
親爺は舌打ちをし、腕を組む。マセッティはまた一気にコップを空にして、酒を注ぎながら、
親爺を見ずに口を開く。
『仕方ねぇだろ。年頃の女が居ねぇんだから』

部屋のドアが開く。
『ふう…。お、隊長』
細見ながら筋肉質の上半身を露にさせて、ズボンをずり上げながら部屋から出てきたのは副長だった。
『今回のは中々でしたぜ。見かけによらず、歳もいってるみたいで』
開け放されたドアの向こうでは、親爺の言うように年端もいかない少女が、ベッドの上に
座っている。布団を掻き抱いて、見開いた目からはボロボロと涙を流していた。
『まぁ、初めてだったみたいですけど』『ッ!戦争の犬共が!』
親爺は副長を払いのけ、少女の居る部屋に駆け入る。親爺は優しく『大丈夫か』と少女に
声をかけるが、聞こえたのは少女の悲鳴だった。
『イヤァァッ!来ないで!来ないでよぉ!!』
親爺の後ろ姿からも動揺しているのが伝わり、マセッティと副長は目を見合わせて苦笑し
てしまう。
『おいおい、ガキ相手に犯り過ぎたんじゃねーか?』『ええ、まぁ、月のものが来てる女を抱くのは久しぶりでしたから。見た目がガキっぽい
んで黒い奴らも見逃したんでしょうね』
マセッティは葡萄酒をまた、ぐびと飲み干し、杯につぐ。

『葡萄酒ですか?』
『ああ。飲むか?』
『いえ、私はちょっと苦手でして。故郷(くに)の林檎酒が懐かしいです』
『そうだねぇ』

いつの間にか、少女の叫び声は耳を突く泣き声に変わっている。
親爺は呆然と立ち尽くしていた。

『おーい、親爺。うるさいから、扉閉めろよ。あと、エールくれ』

親爺が真っ赤に腫らした目を副長に向ける。しかし、副長はニヤニヤとするばかりで、
全く動じることはない。

『嫌われたか?まぁ、あと5-6人に抱かれれば静かになるさ。その後、抱かせてやるよ。
いつもの御礼にさ』
『貴様ッ!』

鬼の形相を浮かべて、親爺は副長に詰め寄ろうとするが、すぐに諦めたようにうなだれた。
副長を睨み上げ、一言、『北蛮が』と呟く。余裕の笑みを浮かべていた副長の顔がにわかに
曇る。

『親爺、間違えてもうちの若いのに向かって、その言葉を使うんじゃねーぞ』

副長は先程までとは違うドスを効かせた言葉で親爺に告げた。親爺は副長の余裕を壊した
ことで溜飲を下げたのか、ふんと鼻を鳴らして、台所へと姿を消した。
『あんまからかうなよ。泊めて貰ってんだからさ』
『すみません、ちょっとやり過ぎましたね』
マセッティは葡萄酒を啜ると、椅子の背もたれに寄り掛かり溜息をつく。

『はぁ…それなりに稼いだし、そろそろ潮時かなぁ』
『もう、今年は大きな会戦も無いみたいですしねぇ。ここは居心地良いですけど、冬営し
てまでって程、儲かる戦じゃないみたいですし。宿代で稼ぎも減っちまうし』
『年頃の女も居ねぇしな』
そう、『年頃の女』が居ない。前線の町や村に居るのは年寄りとガキばかり。マセッティの
駐留している村にはそれなりに居るが、世話になっている以上、人妻や箱入り娘を家族の
前で犯す訳にもいかない。
かと言って、娼婦さえ居ないのだから、異常である。後方の街に行けば、それなりに居る
のだろうが、戦争を生業にする傭兵団が女が居ないからと言って、いつまでも、戦場を離
れる訳にもいかない。

雪崩の様に攻め寄せてくる黒き民を抑え切れない『大陸』を離れ、大枚をはたいて比較的、
戦の進行がゆっくりしている『半島』に来たのは、女を含む戦利品で一儲けしようとした
からで、それなりに戦果はあがっている。

しかし、年頃の女だけは居ない。

今日の様に黒き民の隊商を襲撃しても、有るのは財宝、白き民の土地の名産品、そして、
奴隷となったのであろう子供達のみ。

普通の戦争なら、そういう隊商の戦利品には必ず奴隷となった若い女が何人も居て、『救出
した』という名目で教会へ売り飛ばす前に、たっぷりと『救出の御礼』をしてもらう訳だ
が、何十回と隊商を襲っても、何故か若い女が一人も居ないのだ。

懐と腹が膨れ、寝床まで確保された傭兵が欲しいものはただ一つ。ただ、その一つがどう
しても手に入れられない。荒くれ者の傭兵達はいつ駐留している村の娘に手を出すとも知
れず、“個人的な理由で”気が進まないながらも、マセッティは部下達に、子供達から
『救出の御礼』を貰う事を許可したのだった。

『南の金髪女を散々、抱いてやろうと思ってたのになぁ…』

マセッティは赤い自分の髪の毛をボリボリと掻きながら言った。

マセッティも副長も所謂、『白き民』ではあり、肌は雪のように白い。違うのは赤い毛、薄い唇の色、
グレーの瞳。大陸の北方、『中央大陸』や『半島』の『白き民』が『北蛮』と呼び蔑む地の人間達だった。

『隊長、何でガキが嫌いなんです?俺も最初抵抗有りましたけど、突っ込んで、吐き出したら一緒ですよ』
『んー、まぁ、ちょっと苦手でして』
カラカラと鐘が鳴る音が響く。ドアが開き、フードを被った女が宿屋に入ってきた。顔は
見えないが、フードの脇からは金髪がちらりと見え、背丈、身体つき、胸の膨らみからす
ると若い女らしい。村の娘が遣いで来たのだろうか。

『おーい、親爺ー。客だぜー』

親爺は台所から顔を出し、ブツブツと独り言を言いながら、玄関に立つ娘のもとへと歩い
ていく。マセッティの前を横切る際、『親爺、用が済んだらあの娘、俺の所に呼んでくれよ』
と声をかけた。親爺はマセッティに一瞥をくれ、ふん、と鼻を鳴らしてスタスタと玄関に
向かった。

『俺はね。あれくらいの年頃の女が良い訳よ。わかるか?』
『ええ、わかりますとも。村には俺達が護ってやった娘がたくさんいますしねぇ。北に帰
る前に派手に『御礼』を頂くことにしますか。『黒き民』共にやっちまうのも勿体ないし』

村を護っていた筈の男達が恐ろしい算段を立てていると、親爺が娘を連れてスタスタと
こちらへと歩いてきた。

『親爺、ものわかりが良いじゃねぇか。用事は終わったか?』
『あんたに用だそうだ』

親爺は後ろに立つ娘に首をしゃくると、『え?』と呆気に取られた二人を無視して、また、
ブツブツと独り言を言いながら、台所へと入っていった。食堂にはマセッティと副長、
そして娘だけが残された。

『あなたが、マセッティ隊長ね?』

透き通るような冷たい美声。声の感じからして、正に『年頃の女』だろう。それに、親爺
の対応の仕方から、村の娘では無いらしい。

『そうだが、お嬢さん。俺に何の用だい?「売り」なら、大歓迎で抱かせてもらうぜ』

マセッティと副長はニヤつきながら、娘の反応を待つ。マセッティの細かな仕種と雰囲気
から、副長は阿吽の呼吸で娘を寝所に引き込むべく身構えた。しかし、娘は全く動じる
気配が無い。
『お相手するのは構わないけど、そんなことしてる場合じゃないかもね』
『どういうことだ?』
副長がいつ飛び掛かろうかと身構えながら、問い質すが、その時、ハッとあることに気付いた。
(この娘、隙が無い…)
それは、長く戦場に居る者しか判らない空気のように不確かで、それでいて、確実に存在
するもの。それを感じ取れないものは、いち早く戦場では命を落とすことになる。副長は
マセッティを見遣る。我等が隊長はとっくにその事に気付いたようだった。嫌らしい笑み
は既に、戦の前の様な不適な笑みに変わっている。

『俺にも教えて欲しいね。ちょうど女日照りで、こっちはもう、あんたの声を聞くだけで、
おっ勃っちまってんだ』

副長はマセッティがテーブルの横に置かれた剣に、さりげなく手を伸ばすのを見た。

自分は丸腰だ…

重い沈黙が食堂を支配する。

『副長、お嬢さんの前なんだぜ。上着くらい着てこいよ』

マセッティは副長を見ながら、気安い口調で声をかける。目は笑っていない。

『おっといけねぇ。服、取ってきますわ』

副長が部屋の扉を開けると、少女が再び大声を上げはじめた。重たい沈黙の代わりに、
少女の悲痛な叫び声が食堂に響く。

『あれは?』
『ん?あぁ、黒き民の隊商に捕まっててね。お嬢さんには少々、キツいかもしれないが、
助けた御礼をしてもらったのさ』

『そう。可哀相だけど、黒き民に犯されるよりは良かったわね』

何の躊躇いもなく言葉を発する娘に、流石のマセッティも余裕が有る風を装うことが
出来なかった。
少女の泣き声が響く中、再びの沈黙。副長が上着を着て食堂に戻って来るまで、
その奇妙な時間は続いた。

『いやぁ、すいません』

当然、副長は腰に剣を差している。

『んで?何で時間が無いんだ?』
『村が黒き民の兵隊に囲まれそうになってるわ』

二人に衝撃が走る。

『…見たのか?』
『えぇ。てっきり、あなた達は気付いてるんだと思ってたけど』
『何で?』
『駐留してる割にはみんな村に行かずに宿に固まって暮らしてるみたいだし、馬車も荷物
が積まれて、いつでも動ける状態みたいだし。そろそろ、逃げる算段でも立ててたんじゃ
ない?』

図星だった。潮時などではなく、黒き民の隊商や斥候との接触の頻度で、近々この村にも
大規模な侵攻が有ることは分かっていた。しかし、思ったよりも早い。襲撃のどさくさに
紛れて逃げることは可能だろうが、戦利品の大部分は放棄しないといけないだろう。村を
出る迄に村人達にも伝えてやるつもりだったが、もう逃げるのには遅すぎる。

『クソッ!』

副長が悪態を突く。

『証拠がないぜ。流石に今日の今日なんてことはねぇだろ』
『証拠なら有るわ』

娘はマントの中から、黒いものが数珠繋ぎになった紐を取り出し、テーブルに置いた。
無数の黒き民の耳だった。

『ここに来るまでに、武装してる斥候に会ったわ』
絶句する二人を意に関せず、といった風に娘が続ける。
『何騎か逃がしちゃったけど』
『逃がした、って…これ、あんたが殺ったのか?』
『そうよ』
『隊長、これこそ証拠がねぇですぜ。ただの娘がこんなこと…』

外が騒がしくなる。馬が駆ける音。男達の騒がしい声、『ヒャーッ!』と一声叫び声が上がると、
宿屋の扉がバタリと勢いよく開く。

偵察に出ていた兵隊だった。

『た、隊長!ご無事で!』
『どうした?』
『ハァハァ…街道沿いの野原に黒き民の兵隊達の死体が…何故か耳が切り取られてて…』

息を切らしながら、報告する兵隊の声を聞き、マセッティは副長と顔を見合わせる。

『それだけじゃねぇ…囲まれてます!何百人も黒き民が村の周りを…!
ハァハァ…宿の前に黒き民の騎兵みたいな飾りの馬があるから…てっきり、手遅れかと…』

マセッティは娘の顔を見る。

『私のよ』
『クソッ!クソッ!信じらんねぇ!』
『落ち着け、副長。ブラン、助かったぜ。皆を起こしてきてくれ』

偵察兵は『起きろー!敵だー!』と叫びながら、宿を駆け回った。

『夜襲かよ!隊長、荷物置いて森をいけば大部分は逃げられますぜ!』
『多分、無理だ。連中は何もかんも用意周到だ。森も兵隊だらけだろうよ。それに…』

マセッティはチラリと台所を見る。ブランの声を聞き、顔面を蒼白にさせた親爺が呆然と
立ちすくんでいた。

『何もせずに平民を見殺しにして逃げ出したとあっちゃあ、勇猛果敢な北蛮の名折れだぜ』
『じゃあ…』
マセッティは隊の中で一番若い5人の名前を挙げた。
『馬をぶっ飛ばして、砦まで増援を呼んでこさせろ』
副長は胸が熱くなる。きっと増援は来ない。それでも、若い連中は村を出られる。こんな人だから、俺達はこの人に…
『待って』
娘が声をかける。
『何だ?嬢ちゃん。情報は有り難かったが、もう手遅れみたいだな。俺達は今から戦争だ。
抱かせてもらうのは終わった後にさせてもらうぜ』『村に篭城しても、半時ももたないわ。あなた達の数なら、今から、あいつらを皆殺しに
出来る』『何を…!』
怒りに満ちた口調の副長をマセッティは手で抑えた。
『村の周りの地図はある?』『親爺!地図だ!でかくて正確な奴を!』
いつもとは違うマセッティの怒鳴り声に、親爺は『へ、へい!』と慌てて台所へと駆け出す。
『隊長、こんな娘の言うことを聞くんですかい?』『良いじゃねぇか。どうせ、皆の準備が整うまで暇なんだし』
親爺が『地図です』とテーブルに『グラフス村周辺の観光名所一覧』と書かれた地図を拡げた。
『こんな地図で良いか?馬車に俺達が作ったのがあるが』『見やすいし、正確みたいだからこれで充分よ。早速だけど、この「みんなで遊べる大き
な木」の近くに……』
半刻も立たないうちに、マセッティの隊の兵隊達は準備を整えたが、報告に来た各支隊長
は奇妙な光景を目にすることとなる。
フードを被った女が、観光名所の書かれた地図のあちこちを指差し、それを隊長と副長は
真剣に眺めている。

時折、隊長はニヤリと笑い、副長は腕を組みながら、手を口にやっている。考え事をする
時の二人のいつもの癖だ。

『あの…副長。全員、揃いました』
『ん?あぁ…ちょっと待て』

副長は隊長の肩を叩き、耳打ちする。

『この娘、確かにこの辺りの地形を正確に把握してます。敵兵の潜み具合も“それらしい”
です。』
『それにこれだと確かに、連中を“皆殺し”に出来るしな』
『あとは…』
『うん。この娘を信じるかどうか…』

マセッティは笑みを浮かべながら娘を見る。

『嬢ちゃん。あんたの言うことは確かに“それっぽい”。あとはあんたを信じるかどうかだ。
黒き民に嵌められてるかもしんねぇしな。それに取り敢えず、顔も名前もわからねぇ奴の
言う事は信じらんねぇ』

娘はフードを外す。

乱れるままにまかせた肩まで伸びた金色の髪、髪の毛と同じ金色の薄い眉、宝石の様な蒼
い瞳、つんと高く立った鼻、薄桃色の唇、ほっそりとした顎が細長い白い首の上に乗って
いる。顔つきは少し幼い印象を与えるが、それが何かしらの危うさを感じさせて、逆に神
秘的な美しさを醸し出していた。

『私の名前はシャーリー。シャーリー・ミルズ。あなた達が信じないのなら、私一人で
出来るだけのことをするわ』


シャーリーの姿に呆気に取られる副長と各支隊長にマセッティは告げた。

『副長、さっきの5人だけどな。やっぱ3人にして砦に送り出せ。人数足りねぇや』
『じゃあ、隊長…』
『どの道、死ぬか生きるかだしな』

マセッティは副長の肩に手を置き、言った。

『ただな、副長。生き残っても林檎の酒はしばらくお預けかもしんねぇぜ』
窓から隣の建物の光が差し込む部屋に、二つの人影がうごめいていた。一つは大理石のように
白い肌と美しい金髪の女。もう一つは真っ黒な全裸の男。
男は女に覆いかぶさり、その隆々たる黒い筋肉を汗で光らせて、激しく上下運動を繰り返
している。その突き上げを受け止める女は顔を横向きにして、窓の外を眺めていた。

今日は月が出てない、とぼんやりと知覚する。男に抱かれる時、窓の外を眺めてしまうの
は、初めての時と同じ。あの時見た異様な程の空の青さをクリスティンは忘れることは無
いだろう。いま、その時と同じ男が息を荒げ、激しく身体を上下させて、自分の上にいる。
この男に抱かれてからしばらくは、意識を飛ばすために外を眺めていたが、今は違う。

身体が触れ合う部分で感じる男の体温が心を温かく満たす。男が動く度に、下腹部から性
的な快感の波が押し寄せる。今では意識を集中させるために窓の外を見る。無駄な思考を
飛ばして、意識が身体だけに向くように。

【はぁはぁ…クリスティン…はぁはぁ…】
『あッ…あッ…ジャルス…あッ…あッ…』

私が感じる様に目の前の男も感じてくれているだろうか。クリスティンはかつて自分を犯
した男の事が、今では心配にさえなる。


思い切って、問い掛けようか。快楽に溺れ、狂った風に見せかけて。現にそうなりつつあ
るのだから。

【はぁはぁ…クリスティン…気持ちいい…はぁはぁ…】


クリスティンが問い掛ける前に、黒き民の男は、声をあげる。

【はぁはぁ…クリスティン…気持ちいいか?】

叫び、肯定したかった。でも、それは駄目だと心が必死にクリスティンの行動を押し止め
る。


相手は黒き民の男なのだ。街を占領し、父親を殺し、私達を犯し、母親を孕ませた黒き民
の男達。妹が居なくなったのも、こいつらの…
妹の事が思い浮かび、男の体温で熱く満たされていた心に、別の熱がこもる。
(シャーリー…)
気付くと、黒き民の男は動きを止めていた。

【痛かった?】
【どうして?】
【泣いているから】

頬に涙が伝っているのに気付く。


【ごめんなさい…急にシャーリーのことを思い出して…】

黒き民の男の顔が曇る。

【そうか…】
【ごめんなさい、してる時に…おかしいな…涙が止まらない…すぐ収まるから…】

クリスティンは作り笑いを浮かべながら、手で涙を拭う。

【今日はもう辞めとく?】


心配げな顔で黒き民の男は問い掛ける。クリスティンは胸が熱くなり、涙が更に零れるの
を感じた。妹のせいではなく、“夫”であるジャルスの優しさに。

『黒き民』の男達は占領し、駐留する街の女性から特定の女を『妻』として選び、その『妻』
としか性行為をしない。
それは性病の蔓延や、女性が軽く扱われ殺されるのを防ぐため、とされているが、一番大
切な理由は占領地の『白き民』の女に一人残らず確実に『黒き民』の子供を孕ませ、出産
させることである。

金髪、白い肌、青い目を特徴とする『白き民』が、黒髪、黒い肌、黒い目の『黒き民』と
交わり、子をなした場合、産まれた子供はほぼ、黒き民の形質しか受け継がない。

『黒き民』は『男は殺し、女は犯せ』だけでなく、『男は殺し、女は犯して孕ませろ』を『白
き民』の土地の占領政策として、取っているのだ。
占領地では、子供が産める歳の女達は、街にいくつか作られた収容所に収容され、同じ人
間とは思えない程、姿形が違い、言葉も通じない男達に繰り返し犯されることとなった。

19歳の美しい白き民の女、クリスティンは、黒き民が街に侵攻してきた時に自分を犯した
男の“妻”となった。異民族の兵隊に乱暴に処女を奪われ、それ以来、子をなすために半
年以上、“夫”ジャルスに抱かれ続けている。

クリスティンが他の女達と違うのは、貿易商であった父の手伝いをしていたため、黒き民
の言葉を話すことが出来たことだった。最初は犯されながら、黒き民達の目的を知るため、
そして、クリスティンと同じく収容所となった旧『病院』に収容された家族や侍女達を守
るために、言葉を使って交渉した。

そして逆に家族や侍女達に、黒き民の『目的』と『抵抗しなければ衣食住は確保されるこ
と』を伝え、軽率な行動を取らないように、諌めてきた。

白き民にとっては化け物にしか見えず、言葉もわからない黒き民に犯され続け、絶望に沈
む家族達に簡単な黒き民の言葉を教え、とかく乱暴に交わりたがる兵隊達から身を守る術
を与えた。

ある程度、意思疎通が出来、強制的とは言え、身体の交わりを持ち続けている特定の男女
が、占領者、被占領者の関係から、徐々に男と女の関係に変わっていくのは、自然なこと
だった。

黒き民との激しい交わりの快楽に溺れていった女達もいる。しかし、大部分の女はそうで
は無い。人間の精神は自分が屈辱を受け続けていることを、耐え切れる程強くは無い。女
達は自分達が『占領者達に無理矢理犯されている』と“考えること”を辞めた。

これは言葉が通じる通じないに関わらず、他の黒き民の占領地でも多かれ少なかれ起きて
いた現象であった。

白き民の女達の多くが抵抗を止め、夫や恋人を殺し、子供達を攫い、大切な人を傷つけ、
自分を犯した黒き民の男達に対し、クリスティンのように心のどこかに強い罪悪感を感じ
ながら、身体だけでなく、心も許していった。


しかし、それに反抗する者も当然、居た。
ある者は“夫”との交わりを拒絶した。
ある者は宿した黒き民の子を堕胎した。
ある者は占領地から逃げ出した。
しかし、全ての反抗は圧倒的な力で捩じ伏せられた。
夫との交わりを拒絶した者は、一定時間、身体を動けなくさせられる薬を飲まされ、犯された。
堕胎した者は夫だけでなく複数の男達に妊娠するまで、犯された。
逃げ出した者は連れ戻され、脚の腱を切られて、犯された。
抵抗しなければ、苦痛なのは間違いない。しかし、抵抗すれば更なる地獄が待っている。
逃れられない屈辱と悲劇。反抗する者は徐々に“消えて”いき、女達は“考えること”を
辞めていったのだった。
クリスティンの妹、シャーリーはそれでも“抵抗”した一人だった。親友グリートが“夫”と交わっ
ていた最中に、“夫”を殺し、逃げ出したのである。
始めは誘拐されたとされ、ジャルスをはじめ、兵隊達は必死にシャーリーを探した。担当
する収容所から女が消えたとなれば、自分達もただでは済まないから、という理由は
もちろんある。
しかし、兵隊達は貧しい生まれの者が多かった。誰もが幼い頃、家族や大切な人をさらわれ、
失う事の悲しさを知っていたのだった。泣き叫ぶクリスティンを励まし、八方手を尽くして
妹を探したのはそういう兵隊達だった。
シャーリーが消えて、半月ほどした頃、グリートが真実を打ち明けたのは、クリスティンが泣
き叫び正気を失いかけていたからだった。呆然とするクリスティンは“夫”ジャルスにも真相を告げる。
事情を察したジャルス達は、クリスティンを憐れみ、シャーリーへ捜索の手が及ばない様に、
シャーリーは強盗に殺されたことにするよう、再び八方手を尽くしたのだった。
【大丈夫…】
クリスティンは上体を少し浮かせた黒き民の男の脇から腕を背中に回す。腕に力を込め、
身体を密着させる。

泣き叫び自分を優しく励ましてくれた男。狂気の縁に居た自分を救い出してくれた男。

クリスティンは“考える事を辞めた”のでは無く、人間として、男としてジャルスを愛し
始めているのを感じていた。

ジャルスはクリスティンの言葉に、覚悟を決めた様に、一言、【わかった】と伝えると、
クリスティン以上の力で、クリスティンを抱きしめる。
【いくよ、クリスティン…】
クリスティンはジャルスの問いに答えず、何度も首を上下に振った。

ジャルスと呼ばれた黒き民の男は、先程まで以上に激しく身体を上下させる。ベッドのシ
ーツが擦れる音、二人の肉がぶつかり合う音、結合部から漏れる湿った生々しい音、ジャ
ルスの唸り声。

クリスティンは既に全ての音を聞き分ける事は出来なかった。全身でジャルスの体温、下
腹部から脳髄を貫く快感を、余すところなく感じるために集中する。激し過ぎる快楽に耐
えるため、ジャルスにしがみつき、歯を食いしばって耐える。

【はぁはぁ…あぁっクリスティン!…はぁはぁ…出して良いか…?】

ジャルスが息を荒げ激しく動きながらクリスティンに問い掛ける。

【待って…もう…ちょっと…】

ジャルスは更に激しくクリスティンを突き上げる。

【もう…我慢…出来…ない!】

【良いわ!来て…!んッ…】
クリスティンの唇にジャルスの唇が強く押し付けられた。ジャルスは舌をクリスティンの
舌に激しく絡ませながら、一際激しく腰を突き上げて、身体の動きを停める。
流し込まれるジャルスの唾液を飲み込みながら、クリスティンは自分の膣内が激しく脈動
するのを感じた。そして、次の瞬間、まるで腹の中をノックされているかのような衝撃が
走り、下腹部に生暖かい感触が拡がっていった。
理性ではなく、本能で感じる雌としての悦びに、クリスティンの記憶と思考は徐々に塗り
潰されていく。
父の死も、母の悲劇も、妹の消失も…
心の奥深くに澱の様に溜まったそれらの出来事、逃れられない屈辱、憎むべき男を愛し、
抱かれる事に悦びを感じている罪悪感が、女として最も重要で深い部分から感じる快感に
よって全て埋もれた時、クリスティンは自分自身の膣が激しく痙攣するのを感じた。そし
て、それと同時に、膣から脊髄を貫く鋭い快感が走った。
獣の様な唸り声をあげて、自分の胎内に放出されるジャルスの精液を感じながら、
クリスティンの意識は白く濁っていったのだった。
頬を叩く感触で、ハッと目を覚ますと、目の前には自分の『夫』の姿があった。

【大丈夫?】


ジャルスは心配げにクリスティンに問い掛けた。

【どれくらい…気を失ってた?】
【ほんのちょっと。俺が全部、種を出すまでだから…】

クリスティンは下腹部を見遣ると、重みで少しだけ押し潰された自分の乳房の向こう側で、
先程と同じ様に、ジャルスの黒い下腹部と自分の白い下腹部が繋がっていた。

【そう…全部出た?】
【取り敢えずは。でも、今晩はまだ出来る。一度抜いて良いか?】
【良いよ】

喪失感を伴うズリュリズリュリという感触と共に、胎内の奥深くから、ゆっくりとジャル
スの黒い生殖器が引き抜かれていく。
全てが引き抜かれると、クリスティンの体液と、ジャルス自身の吐き出した精液で、
テラテラと濡れたそれは、大きく、太く、長く、肉の塊のようにぶらりとジャルスの股間から
ぶら下がっていた。毎回思うことだが、クリスティンはあんな巨大なものが自分の胎内に
入っていたとは信じられない。

ジャルスは先端に付着する体液を手で軽く拭うと、体液が着いた指を、クリスティンの膣
壁に優しく擦りつける。気をやった後の敏感な身体は、その程度の刺激でも、十二分に反応し、
『あッ!』と声をあげて身体をのけ反らせてしまう。

【ふぅ…】

ジャルスは一人用の狭いベッドのへりに腰掛けて、息を整えているようだった。

ジャルスと交わっている時は意識の外だったが、かつて病院の病室だった大きな部屋では、
クリスティン達の他にも数組の男女が声を上げて交わっている。
始めは病室のベッドが足りず、床に寝かせられたり、壁に手をついて立ったまま犯される
こともあった。夜ごと女達の悲鳴と男達の唸り声が部屋に響き渡り、クリスティンは地獄
の釜の底に放り込まれたように感じた。
見渡せば自分の家族や親しい人達が、啜り泣き、苦痛に叫んでいた。母、妹、自分と三人
で並ばさせられ、見せつけ、競い合うように犯されたこともある。聞いたことの無い母親の
絶望に満ちた嬌声、妹の激しい拒絶の叫び声をクリスティンは忘れることは出来ない。

今では、多くの女達は妊娠させられ、この部屋にくる者も少なくなった。

ここに来るのはクリスティンのようにまだ妊娠していない女、夫に口などで奉仕するため
に妊娠後、安定期に入った女、時折、稼ぎの噂を聞き付けてやってきてそのまま、『妻』に
させられた娼婦達である。

クリスティンは膣から流れ出ようとする体液を手で抑える。

【明日は『病院』?】
【ううん。明日は船が出るから。『積み入れ』の手伝い】


【そうか…】とジャルスはクリスティンに背中を向けたまま小さく応えた。クリスティン
は膣口を抑えていた手を離し、窓から漏れる明かりにかざす。暗がりでもわかるほど、
べっとりと付着した白い液体を、クリスティンは指で弄ぶ。

(生命の種…)

黒き民の言葉では、精液のことをそう呼ぶ。これを私達の胎内に出すために、黒き民の男
達はクリスティンの住む『半島』にやってきたのだ。

クリスティンは細く白い指の間で糸をひくジャルスの体液を眺め続けた。人を殺し、自分
が殺されそうになっても、黒き民の男達はこれをあの肉の塊から女の胎内に出したいのだ。

【何をしてるの?】
【あなた達はこれを出すために『大陸』や『半島』に来たのね】
【そんな理由じゃないけどね。皇帝陛下の命令だよ】

ジャルスは顔を綻ばせて言った。

【でも…】
【でも?】
【俺がここに来たのはクリスティンに出会うためだったのかもしれない】

優しく微笑むジャルスの白目と歯が、暗闇に異様なほどの白さで浮かび上がっていた。
初めて犯された時にも観た光景。あの時はジャルスが化け物にしか見えなかったが、今は違う。
クリスティンは指に付着した黒き民の男の精液を自分の膣口に擦りつけると、その手を
ジャルスの股間へと伸ばした。

【来て…】

柔らかくなっていたジャルスの生殖器は直ぐに、固さと大きさを取り戻す。自分の上に
覆い被さるジャルスを感じながら、クリスティンは願った。

ジャルス、私の全てを貴方で埋めつくして…
目覚めると窓の外は白み始めていた。
クリスティンはゆっくりと上体を起こす。裸で寝ていたため少し肌寒い。ジャルスはクリ
スティンに黒い背中を向けて寝息を立てている。まだ、起き出す時間ではないが、尿意を
覚えたクリスティンは一度起きだし、便所に行くことにした。立ち上がると、昨夜、
ジャルスが放った体液が、膣口から内股に伝った。小用をさっと済ませて、ベッドに戻る。
寝ているジャルスの背中に身体を寄せる。
【朝か?】
【まだ】
【そうか…】
ジャルスは身体をクリスティンの方に向け直した。
【『積み入れ』の仕事、辛いんだろう?】
【うん。でも、いろんな物もらえるし】
港での作業を思い出し、クリスティンの顔が曇る
【ゴルシャ元帥閣下が、通訳を探しているらしい。どうだ?クリスティンなら出来ると思うけど】
【う~ん】
ゴルシャは『半島』に攻め込んだ『黒き民』の軍団の長だ。
【考えとくね】
ジャルスはクリスティンを抱きしめる。
【子供の兆候はある?】
クリスティンは胸がきゅっと締め付けられるのを感じた。
【ごめんなさい…】
【良いんだ】
ジャルスは優しく答えた。
【私、石女なのかな?】
【わからない。でも、相性っていうのは有るよ。いくらしても出来ないのに、相手を変えれば、
一発で出来ることもある】
【私も変える?】
クリスティンは一度ジャルスに聞いたことがある。黒き民の兵隊は占領した街の女を犯し、
孕ませ、別の街に行くときは、何の後悔もなく、本土からの開拓民に腹の大きくなった“妻”
を譲るのだそうだ。
【変えない】
ジャルスはクリスティンを抱きしめる力を強くした。
【半島に来てから、何十人も女を抱いて、子供を妊娠させた】
クリスティンの心の中に赤黒い感情が渦を巻くのを感じた。黒き民の非道に憤ったのではない。


嫉妬。

愛する人が過去に自分以外の女を抱いたことへの…
【でも、交わった後にこんなに満ち足りた気持ちになるのはクリスティンだけだ】
嫉妬は直ぐさま正反対の感情に変わった。私はジャルスが今まで会った女の中で一番なんだ…
【起きる時間になるまでに、もう一度していいか?】
クリスティンは心を満たす暖かい感情を噛み締めながら、一言、【良いよ】と答えた。
点呼の声が起床時間を告げるまで、二人は三度交わった。
ジャルスが訓練に行ってからしばらくして、クリスティンは身嗜みを整え、『病室』から出た。
親友のグリートが窓辺に座り、腹をさすっている。

『おはよう、クリスティン』
『おはよう、グリート。悪阻はどう?』
『もう、殆ど無いわ。今日から「病院」の仕事も出来そう』

優しく微笑むグリートは、クリスティンのように端正な顔立ちではないが、見るものに
柔らかい印象を与える優しい顔をした美人だ。
少しだけ膨れている腹に目をやる。妹のシャーリーが殺したのはグリートの“夫”だった。

グリートの家で仕えていた黒き民の奴隷で、かつての主の娘を執拗に犯していたのを、
クリスティンは記憶している。
“夫”が死ねば新たな黒き民の男が“夫”に割り当てられるが、グリートの場合、次の“夫”
が来る前に妊娠が判明し、“再婚”の話は立ち消えとなった。優しく微笑む天使のような
グリートは、その胎内に黒き民の賎しい奴隷の子供を宿しているのだ。

中絶はもとより許されていなかったが、妊娠を受け止め、奴隷との子供を産むことを決意
したグリート。
黒き民と子供を成すことについての抵抗はクリスティンにはもう無いが、背を曲げた、
卑屈で汚らしい奴隷の生前の姿を思い出すにつれ、グリートの強さが信じられない。

聞くところによると、性交に恐怖を覚えるようになってしまったらしく、妊娠することで
男に抱かれなくてよくなったのを歓迎しているらしい。男を知らなかった少女にどれ程の
屈辱と苦痛が与えられたのかと思うと、クリスティンは背筋が冷たくなる。

『そう、無理しないでね』
『ありがとう。クリスティンは今日は港に行くのよね?色々、よろしくね』
『うん…』
『おば様を呼んできてくれる?朝食の準備をするから』

クリスティンはクリスティンは2階の寝室へと向かった。扉の前で一呼吸して、『お母様』
と声をかけた。扉が開く。出てきたのは、『萎びた』という表現がよく似合う初老の黒き民
の男だった。
『ボニ、お母様は…』
『おぉおぉクリスティンじゃねぇか。「嫁」か?寝てるぜ。朝飯か?』
『うん。起きたらで良いから、下に』
『はいよ』
『ボニ…』
扉を閉めて室内に戻ろうとする初老の男にクリスティンは声をかけた。
『いつも言ってるけど、お母様の身体に障ることは…』
『わかっとるわかっとる。最近はずっとご無沙汰でのう。ジャルスとクリスティンが羨ま
しいわい。今度、ジャルスの代わりに、儂と寝てくれんかの?良ければ母娘一緒に…』

クリスティンはボニが全て言い終わる前に扉を乱暴に閉じた。ボニはクリスティンの母親
の『夫』であり、クリスティンの母を妊娠させて久しい。


クリスティンはドタドタと階段を降りたが、途中で足を止め、音を出さないように注意し
ながら、そっと、部屋の前まで戻った。鍵穴から、部屋の中を覗く。部屋に備え付けられ
たベッドの上にボニとクリスティンの母が居た。
ボニは仰向けに寝ており、その腰の辺りに金髪を後ろにまとめた母の顔がある。ボニの股
間から伸びる肉の棒に、妊娠で腹を膨らませた母の舌がせわしなく動いているのが見えた。

もうすぐ40歳近くにもなる母も、その歳を感じさせない美貌から、『子供が産める年齢の
女』と見なされ、黒き民の古参兵ボニの『妻』となった。
尽きることを知らないかのようなボニの性欲を全て受け止め、子供を宿したとわかったの
は半年前のこと。酷い悪阻で裸のまま『病室』から飛び出してきたのをよく覚えている。
その日の夜、シャーリーは居なくなった。

おぞましく目を背けたい筈の光景から、クリスティンは目を離すことが出来なかった。窓
から朝の光が差し込み、金色の髪に反射している。神々しさすら感じさせる母はまるで
女神か、おとぎ話のエルフのようにも見えた。

その美しい母は黒き民の萎びた老人の肉棒に奉仕を続けている。ボニは『あっあっ』と声
を上げながら、目をつぶり、苦痛に悶えるかのように目を固く閉じていた。男との交わり
を経験しているクリスティンはその意味は良く知っている。

ボニが母の後頭部を掴み、腰に押し当てる。一瞬、目を見開き、『んんッ』と声を上げる母。
『出すぞぉ。わしの目を見ろ』

母は喉奥にまで達しているであろう、ボニの肉棒を咥えながら、ボニのほうを見た。
次の瞬間、『うッ』というボニの声と共に、再度、母は目を見開く。
ボニは『くッ…くッ…くッ…』と声を上げ、苦痛に満ちたような顔をしながらも母の顔を見ながら何度も腰を突き上
げる。

何度も何度も腰を突き上げた後、ようやく、ボニの顔に安堵の表情が浮かぶ。『ふぅ…』と
安らかな顔でベッドに身体を預ける。
『見せてみ』
母の口の中から萎びた黒い肉の棒が現れ、力なくボニの腹の上に垂れ下がった。母は両手
を口にあて、口の中のものを吐き出す。鍵穴からは良く見えないが、口から手に粘つく液体が
糸を引くのが見えた。手のひらをボニに良く見えるようにかざす。
ボニは満足したかのように『口でするの上手くなったのう。こんなに出てるとは思わんかったわい』と言い母に『飲め』と告げた。
母は口から一度出したものを、再び口の中に戻した。目をつぶり、喉を鳴らして、口の中
のものを飲み込む。喉が動く回数が多いのは、量が多かったためか、それとも喉に絡まっ
たためかは分からない。

母が口を開ける。ボニは満足したかのように、母の髪を撫でると、髪をつかみ、腰に押し
当てた。弱った軟体動物のようになっていたボニの生殖器は、再び重力に逆らい、天井を
向いている。クリスティンは音を立てないように立ち上がり、階段を下りた。

しばらく、ボニと母親は食堂に降りてこなかった。クリスティンが港へ行く準備を整え、
家を出る際に、食卓で朝食を取る母親が居た。朝食の椀には少量の粥のみがよそわれていた。

『お母様、もっと食べなくては。お腹の子にも障ります』

クリスティンの言葉に母は『お腹が空いてないの』と優しく微笑み、『行ってらっしゃい』
とだけ告げた。クリスティンは零れ落ちる涙を悟られないように、『行ってきます』とだけ告げて、家を出た。
港の喧騒はクリスティンにとっては妙に落ち着くものだった。小さな頃から、父によく連
れて来てもらっていたからだろう。昔と違って波止場にいくつも停まる巨大な船は
黒き民達のものだったが…

船の舷梯の傍で帳簿をつけている肥満の男に、クリスティンは声をかけた。

【おお、クリスティン。いつも助かるぜ】
【『積荷』は?】
【こっちだ。今日もよろしく頼むぜ】

肥満の男とクリスティンは倉庫へと向かって歩く。クリスティンは扉の前に立ち何度も
深呼吸をし、心を決めてから、扉を開けた。

薄暗い倉庫の中には何十人もの白き民の子供達がひざを抱いて座っていた。突如開いた扉に、
怯えた目を向ける子供、意に関せずといった風に座ったままの子供、状況を理解出来ずに
遊んでいるのか、無邪気にはしゃぎまわる子供も居た。

クリスティンはほっと、胸を撫で下ろす。今回は泣き叫ぶ子供は未だいないみたいだ。
一人が泣き始めると、これだけの子供だと収拾がつかない。

クリスティンは大きい声で子供達に話しかけた。

『こんにちは。私はクリスティンと言います。みんな、私の言うことを聞いて』

クリスティンは胸を引き裂かれそうになりながら、言葉をつなぐ。

『この中の女の子で、月のものが来てる子はいる?分からない子は、脚と脚の間から、
血が出たことある子はいるかな?』

既に生理の来ている11歳と12歳の女の子が4人程いた。肥満の男の前はその4人を倉庫
の外に連れ出した。
【クリスティン、悪いがここ頼むわ。税関行ってくる】
クリスティンは倉庫の中で一人立ちすくむ。
一人の幼い女の子がクリスティンの下へとやってきた。
『お姉ちゃん…』
『どうしたの?』
『ここはどこ?私たちはどこに行くの?お母さんやお姉ちゃん達に会いたい…』
クリスティンは泣きそうになる女の子を抱きしめ、優しく伝える。
『大丈夫よ。あなたは少しだけお船に乗って、外国に行くの。そこでいっぱいお勉強して、また、ここに帰ってくるのよ』
『本当?お母さんにも会える?』
『本当よ。約束するわ』
泣きそうになっていた女の子に笑顔が戻る。
『お母さんとお姉ちゃん達も家で待ってるから、いっぱい勉強するのよ』
『うん』

笑顔の戻った少女は安心しきった風にクリスティンに身体を寄せてきた。とりとめも無い
ことを話し、時間を潰す。
『そう。エミリーにはお姉ちゃんが3人もいるのね』
『うん。そうだよ。でもね。他のお姉ちゃんはみんな家にいるの。お母さんとお姉ちゃんね。
真っ黒なお化けが街に来てから、ベッドで黒いお化けたちと一緒に寝てたのよ。お化け達はね、
こうやって真っ黒なお尻をお姉ちゃん達のうえでふりふりするの』
楽しげに故郷の思い出を身振り手振りを加えて話す少女を見て他の子供達もクリスティン
の下にやってくる。

『今度お父さんに乗馬を教えてもらうのを約束したんだ』
『家族で来月から、大陸へ行くのよ』
『僕はお兄ちゃん達と戦争へ行くんだ』
『私は綺麗なお嫁さんになるの』
『僕は…』
『私は…』
『…』

クリスティンは一人一人に『ちゃんと勉強すれば、すぐに帰ることが出来るわ』と伝えていった。

泣き出しそうになる子供も居たが、大部分はクリスティンの優しい声と微笑みに安心したのか、
すぐに静かになった。安らかに眠る子供達を脇に抱えて、クリスティンは静かに
待った。


【クリスティン、時間だぜ】
クリスティンの指示に従い、子供達は無邪気に船に乗り込んでいった。笑いながら手を振る子供達に、
クリスティンも微笑みながら、手を振る。

『お姉ちゃーん、ありがとう!元気でねー!』

出港の鐘が鳴り、小さなボートに曳かれて、ガレー船は港の外へとゆっくりと移動していく。

【ふぅ…やれやれ、ガキの相手は疲れたぜ。今回もありがとうな】
【ねぇ、あの子達、戻って来ることはあるの?】
【ん?前にも話しただろ?】
【教えて…】

肥満の黒き民の男は一呼吸置いて、クリスティンに答えた。

【難しいだろうな。男のガキは兵隊に訓練されて、「東夷」の国境に連れて行かれるらしいし、
女のガキは器量が良けりゃ王族や将軍のハレム、悪けりゃ農奴の嫁だ】
【そう…】
【女は「子供が産める」って言われて、こっちに残れるのが良いのか、それとも、
連れてかれるのが良いかはわかんねぇな。ま、男の方はどっちにしろ、そんなに生きられねぇ
だろうからどっちもどっちだが】
【…そうなの?】
【ああ。「東夷」を見たことあるか?気持ち悪いぜ。顔がなめくじみたいにのっぺりしてやがる。
肌は黄色くてな。しかも、べらぼうに強いときて…】
肥満の男の言葉が遠くなる。船の舷悌を上っていく子供達の無邪気な笑顔が頭を満たしていく。

【おい、クリスティン聞いてるか?】
【え?えぇ…】
【とにかく、いつもありがとうな。この前、チョスの野郎、5人も生理の来た女を船に乗せ
ちまったらしくてな。本国の税関で絞り取られやがって破産寸前らしくてよ】
男は殺し、女は孕ませる。子供達も、男は使い捨て、女は育ててから、孕ませる。
彼等は白き民に苦痛を与えるためにそれを行うのではない。勝者の余韻に浸りたいからでもない。

【白き民を黒く染め上げよ】

彼等の皇帝が発した言葉。それは『狂気』ではなく『正気』で行われる彼等の『事業』なのだ。

【んで、今日は何を持ってく?本国の酒でも胡椒でも何でも持って行きな。あぁ、
それに載せきれなかった小麦がある。後で『病院』まで運ばせるよ】
【ありがとう】
【良いってことよ。あんたが手伝ってくれるようになってからこっちは大助かりだからな。】
【……】
【ところで、クリスティン、なんであんなにガキの扱いが上手いんだ?】
【前にね。手伝ってたの】
【手伝ってた?】
【お父さんの仕事をね】

クリスティンの父は『貿易商』をしていた。宝石、酒、胡椒、売れるものなら何でもござれ。
その中でも白き民に一番高く売れるものは…

港の風景はあの時と何も変わらない。いくつもの大きな船。せわしなく動く船員や商人。
不安と恐怖の余り、泣きそうになっている倉庫の子供達。【勉強すればすぐに帰れるよ】と
彼等にかける優しい言葉。自分に身体を預け、安らかに眠る子供達の体温。

違うのは、子供達が船に乗るのではなく、降りてきたこと。船員や商人の肌の色。
暗闇に目だけ白く光らせた子供達の黒い肌の色。
クリスティンにとって、同じ人間とは思えなかった黒き民の肌の色…
手に持てる物だけを持って、クリスティンは『病院』に戻った。食事の支度をする腹の
膨らんだ女達、訓練を終えたらしい黒き民の兵隊達が食堂でたむろしていた。

『お帰りなさい、クリスティン』
『ただいま、グリート。今日、貰ってきた分よ。後で小麦も来るわ』
『まぁ、こんなに。いつも助かるわ』

既にクリスティンはグリートの言葉を聞いていなかった。黒き民の兵隊の中からジャルス
を見つけると、つかつかと早足で歩み寄り、手を掴んで寝室へと引っ張る。

【おっ。お熱いねぇ…】
『やだぁ、クリスティン様ったら』
【流石、ジャルスだぜ。俺もあんな綺麗な白き民の女に、ベッドに引きずり込まれたいなぁ】

寝室の扉を強く閉め、クリスティンはジャルスに身体を強く寄せた。

【おいおい、クリスティン…】
【…抱いて】
【抱いて、って…晩飯も食ってないし、まだ、こんなに明るい時から…】
【良いから、抱いてよ!最初は昼も夜も関係なく、私のことを抱いたじゃない!】

クリスティンはジャルスの後頭部を掴むと、自分の唇をジャルスの唇に押し付け、
舌をジャルスの口の中に潜り込ませた。
最初は訳もわからずといった体で動揺していたジャルスも、クリスティンの後頭部を掴み、
押し付け合うように唇を重ねる。

クリスティンは右手を後頭部から離し、ジャルスのズボンの中に差し入れる。少々、
柔らかかったそれは、クリスティンが2~3度、扱き上げると、直ぐにいつものように硬くなった。

それでも、クリスティンは扱くのを辞めず、激しくジャルスの肉棒を擦る。ジャルスの
眉間に皴が刻まれ、強い力でクリスティンを引き離す。

【はぁはぁ…痛いよ】
【来て】
クリスティンはジャルスを強引にベッドに仰向けに寝かせると、ジャルスのズボンを
膝までずり下ろした。むせ返るような雄の臭いと共に、巨大なジャルスの生殖器があらわになる。

【クリスティン、何を…あッ】

クリスティンは既に硬く大きく傘を拡げている亀頭を口に含み、舌で押し付けるように、
舐めまわした。それは、自分からしたことなど一度もなく、今までは無理矢理、もしくは、
懇願されて仕方なくしてきたことだった。朝、母がボニにやっていたことが一瞬頭をよぎるが、
クリスティンは脇目もふらずやり続ける。

亀頭に刺激を加えた後は、竿の部分、睾丸へと舌を移していく。ジャルスは既に眉間に
皴を寄せ、はぁはぁと息を荒げ出している。

【はぁはぁ…クリスティン…ヤバい…出そうだ…】

クリスティンはジャルスの別の生き物のようにひくつくジャルスの生殖器から、口を離す。クリスティンの桃色の唇から透明の粘液が糸をひいた。

クリスティンはジャルスの股間に顔を埋め、大きく息を吸い込んだ。肺を満たす雄の臭い
に反応し、膣が熱く潤む。湿った自分の下着をベッドの横に放り、ジャルスの腰の上に跨がった。
状況が理解できず、目を見開いているジャルスを無視して、その熱い肉の棒を
自分の膣口にあてがう。

固く目をつむり、歯を食いしばって、ぐっと腰を降ろした。

【お、おいクリスティン…】

『…!!…痛い…』

唾液を垂らし、膣を少々緩ませた程度では、ジャルスの巨大な生殖器を受け入れることは出来ない。
激痛が股間から脊髄を走り、声にならない叫びをあげてしまう。

それでも、クリスティンは腰を下ろすのを辞めない。半分程しか挿入されていなかったジャルスの生殖器は、
クリスティンがぐっぐっと力を入れる度にゆっくりとクリスティンの
胎内に侵入していく。
【クリスティン…】
【良いの!お願い!動かないで!あぁッ…あぁッ…あぁッ…】

腰を下ろす度に鳴き声をあげながら、クリスティンはその胎内にジャルスの生殖器を納めていく。
遂に全てが体の中に入り、はぁはぁと息を切らせながら、クリスティンはジャルス
の唇に自分の唇を押し付けた。再び自分から舌を潜り込ませ、ジャルスの口内をくまなく舐め回す。

無抵抗だったジャルスも、黒き民特有の旺盛な性欲が刺激されたらしく、クリスティン
の上体を強く抱きしめ、舌を絡め合わせ始めた。
クリスティンは自分の胎内でジャルスの生殖器が更に硬く大きくなるのを感じたが、
既に膣はジャルスの全てを受け入れることが出来るほど、充分に緩んでいる。
クリスティンは唇を離し、ジャルスの腰に跨がったまま、身体を上下させ始める。

【えっ?えっ?クリスティン?ちょ…】

驚くジャルスを無視して、クリスティンは更に身体の動きを加速させる。生殖器の結合部分から
湿った淫らな音が部屋に響きはじめる。ジャルスはまるで、犯されているかのような
羞恥を感じながら、今まで感じたことのない快楽に、はぁはぁと息を荒げ、なすがままにされていた。

そうしている間にも、クリスティンの上下運動は早く、激しくなっていく。嬌声を上げながら、
上着の紐を引きちぎり、豊満な乳房をあらわにさせると、ジャルスの黒い手首を掴み、
白い胸の膨らみに強く押し当てた。

【あぁッ!ジャルス!ジャルス!気持ち良いよぉ!ジャルス!】
【はぁはぁ…クリスティン…はぁはぁ】

ジャルスの上に跨がるクリスティンは扉の隙間からの視線に気付いていた。誰かに
見られているという事実が、感じたことのない興奮と快楽をクリスティンにもたらす。
【クリスティン…】
【良いの!お願い!動かないで!あぁッ…あぁッ…あぁッ…】

腰を下ろす度に鳴き声をあげながら、クリスティンはその胎内にジャルスの生殖器を納めていく。
遂に全てが体の中に入り、はぁはぁと息を切らせながら、クリスティンはジャルス
の唇に自分の唇を押し付けた。再び自分から舌を潜り込ませ、ジャルスの口内をくまなく舐め回す。

無抵抗だったジャルスも、黒き民特有の旺盛な性欲が刺激されたらしく、クリスティンの
上体を強く抱きしめ、舌を絡め合わせ始めた。
クリスティンは自分の胎内でジャルスの生殖器が更に硬く大きくなるのを感じたが、
既に膣はジャルスの全てを受け入れることが出来るほど、充分に緩んでいる。
クリスティンは唇を離し、ジャルスの腰に跨がったまま、身体を上下させ始める。

【えっ?えっ?クリスティン?ちょ…】

驚くジャルスを無視して、クリスティンは更に身体の動きを加速させる。生殖器の結合部分から
湿った淫らな音が部屋に響きはじめる。ジャルスはまるで、犯されているかのような
羞恥を感じながら、今まで感じたことのない快楽に、はぁはぁと息を荒げ、なすがままにされていた。

そうしている間にも、クリスティンの上下運動は早く、激しくなっていく。嬌声を上げながら、
上着の紐を引きちぎり、豊満な乳房をあらわにさせると、ジャルスの黒い手首を掴み、
白い胸の膨らみに強く押し当てた。

【あぁッ!ジャルス!ジャルス!気持ち良いよぉ!ジャルス!】
【はぁはぁ…クリスティン…はぁはぁ】

ジャルスの上に跨がるクリスティンは扉の隙間からの視線に気付いていた。
誰かに見られているという事実が、感じたことのない興奮と快楽をクリスティンにもたらす。
でも、足りない。

こんなものでは、まだまだ足りない。

【ジャルス!来て!もっと!もっと欲しいの!】
【あぁ…クリスティン!】

仰向けでなすがままにされていたジャルスは、上体を起こし、クリスティンを強く抱きしめた。
唇を重ねて、激しく舌を絡め合わせながら、下から腰を突き上げる。

クリスティンの体重とジャルスの突き上げにより、二人の生殖器は、今までにない程、
深く激しく擦れ合う。それは、感じたことのないほどの快楽をもたらし、二人は声を上げながらお互いを求め合った。

薄明かりの中、美の女神の様に白く、滑らかなクリスティンの身体と、化け物の様に黒く、
筋肉の塊の様なジャルスの身体が、お互いの肉体を求めて絡まり合い、密着し合う。

部屋の外から、驚愕と羨望の眼差しで見られている事にジャルスも気付いたが、
そんなことはお構いなしに、お互いの名前を呼び合い、感じたままを叫んだ。

【ジャルス!気持ち良い!気持ち良いよぉ!】
【クリスティン!あぁ…クリスティン!】

若い二人が余りにも強い刺激にいつまでも耐えられる訳がない。二人はすぐに絶頂に近付き、
お互いの身体の兆候から、それを察した。

ジャルスはクリスティンの背中に伸ばした手で更に強く抱きしめる。クリスティンは
ジャルスの後頭部を掴み、貪るように唇を重ね合わせながら、白い乳房をジャルスの黒い身体
に押し付けるようにする。

快楽の余り、意識が飛びそうになる。

全ての記憶を消し去ってくれる快楽。

屈辱と悲劇を許容しても良いと思うほどの本能的な幸福。

ジャルスの動きが一層早くなり、抱きしめる力が強くなる。終わりの時が近付くことの寂寥よりも、
更なる快楽を求める欲望が勝り、クリスティンも、腰の動きを早めた。
すぐに、くぐもった唸り声がジャルスからあがり、膣内の生殖器がビクビクと脈動するのを感じる。

クリスティンは上下運動を辞め、子宮口にジャルスの亀頭が密着するように、
腰を深く沈めた。
【ウォッ!】

今までとは比べものにならない下腹部を叩く衝撃。それに伴い拡がる生暖かい感触。自分の胎内に放出されているであろう、ジャルスの体液と同じ色に意識が霞んでいく。
記憶がべっとりとした粘液に覆われ、見えなくなっていく。

父も、母も、妹も、笑顔で手を振る白い子供達も,倉庫の中の黒い子供達も…

有り得ない程長く続いたジャルスの射精は、クリスティンの胎内に熱い疼痛を残し、クリスティンの意識を飛ばして終わる。

はぁはぁと荒く息を吐きながら、ジャルスも未だかつて感じたことが無い快楽のに浸っていた。
女を初めて抱いたのは兵隊になり、白き民を『妻』にした時だった。
それから、何十人もの白き民の女を犯し、孕ませた。泣き叫び、暴れる女を組み伏せ、乱暴に交わり、欲望の
ままに精液を吐き出すのが女を抱くことだと思ってきた。
長く駐留した街では、妻が大人しくなり、交わりを受け入れることもあったが、
言葉も通じない女とそれ以上の関係になることはほぼ無かった。
そんなジャルスにとって、クリスティンとの交わりは、言ってみれば『初めて』の経験だった。
身体だけでなく、心も交わり、お互いが快楽を得るために躍動する。今日に至っては、
クリスティンの方から積極的に動き、二人で絶頂に達することが出来た。
今までは心を通わせると言っても、ジャルスが上位で、クリスティンは黒き民の性欲を、
静かに胎内に受け入れてきただけであったのだ。

しかし、今までとは全く違う満足感に浸りながらも、ジャルスはクリスティンの積極的な
動きの中にある、何らかのあやうさも感じていた。妹が居なくなり、泣き叫んでいた時のような…
『…ッ…ッ…』

嗚咽が寝室に響く。クリスティンが両手を顔にやり、肩を震わせて泣いていたのだった。

【クリスティン?大丈夫か?ちょっと乱暴にし過ぎた?】

ジャルスは慌ててクリスティンに声をかける。

【違う…違うの…】
【じゃあ、どうしたんだ?】
【私…港で子供達を…『すぐに帰れる』って言って…あの子達、あんなに笑って…
私のことを信じてたのに…】

ジャルスはすぐにクリスティンの嗚咽の意味を察する。

【やっぱり、港での作業は辞めて、朝言った元帥閣下の…】
【違うの!】

青い瞳の回りを真っ赤にさせて、叫ぶようにクリスティンは言った。

【小さな頃から、何千人も黒き民の子供達を…あの時は何も思わなかったのに…お父さん
に褒められて嬉しくて…あぁ…今更…何て…何て酷いことを…私は…】

それから先はクリスティンは声を上げて泣き、ジャルスがいくら声をかけても、首を振り、
答えることは無かった。扉の隙間から覗く好機の目も、一つ、二つと消えていく。
ジャルスには泣き叫ぶクリスティンを抱きしめることしかできない。

クリスティンは気付いたのだった。

どう足掻いても、自分の大切な人達は、黒き民に犯され、肌の黒い子供を産む。
自分は、半島中の白き民の子供達を騙して船に載せ、奴隷にさせる。そして、全ての苦痛と悲劇の
原因である黒き民の男を愛しあい、子供を産む。

愛する男はいずれ去る。その後は見ず知らずの黒き民の男に抱かれ、何人も何人も肌の黒い子供を産まされる。

父の死。母の妊娠。妹の消失。友人達。白き民の子供達。黒き民の子供達。

いくら快楽と粘液で塗り潰そうとしても、一瞬の後に消えはしないことに気付かされる。

屈辱と悲劇の許容、その果てにあるもの。

それは一言、『絶望』と呼ばれていた。
朝の光の中を、粗末な格好の騎兵が三騎、駆けぬける。そしてその後ろには、
三騎とは比べものに成らないほど立派な鎧を身に纏った数十騎が、前を走る三騎を
土煙を上げて追随していた。

先頭の馬に乗る三人は必死に馬を操り、自分達の心が絶望に沈まぬよう勤めていた。

『貴様らクズは足手まといだから、砦まで行って増援を呼んで来い。良いか?増援が
集まるまで、絶対に帰って来るんじゃねぇぞ!』

副長から尻を蹴られ、グラフス村を飛び出してから、二晩も経ってしまった。

砦に到着したのは深夜。砦の指揮官に事情を伝え、増援を頼み込む。しかし、初老の
指揮官の男は『もはや、助かるまい』と諦めたように三人に告げた。

『そなた達は生かされたのだ。その命、決して無駄にしてはならぬ。今後は我らで貴君ら
の面倒を見よう』

三人は指揮官の言葉が終わる前に部屋を飛び出した。
砦に駐留している部隊に声をかけ必死に増援を懇願した。皆、指揮官の様に『気の毒だが』
と述べ、首を縦に振る者は居なかった。『斥候ということなら行っても良い』と言う者も
居たが、三人は即座に断った。必要なのは偵察では無く、増援なのだ。

三人は、指揮官の初老の男に言われるまでもなく、隊長と副長が自分達を
遣いに出した意図は十分、分かっていた。

絶対絶命の状況でも、部下への気配りを忘れない。それがマセッティ隊長。
いつか、隊長や副長、古参兵に認められ、共に戦えるような男になろう、と最年少の若者達は
いつも語り合っていたのだ。

だから、のうのうと生き延びることなど出来ない。『若いから』と皆の温情に助けられ
生き残るなど、戦場で野垂れ死ぬのと同じか、それ以上に耐えられないことだった。

最後に増援を頼んだ部隊の指揮官が、申し訳なさそうに首を横に振った時、三人はその場に崩れ落ちた。
歯を食いしばり、目を固く閉じても、目から溢れ出す涙が止まることはなかった。

偵察に出ていた騎兵の一隊が砦に戻ってきたのはその時だった。

朝の光の中を、粗末な格好の騎兵が三騎、駆けぬける。そしてその後ろには、
三騎とは比べものに成らないほど立派な鎧を身に纏った数十騎が、前を走る三騎を
土煙を上げて追随していた。

先頭の馬に乗る三人は必死に馬を操り、自分達の心が絶望に沈まぬよう勤めていた。

『貴様らクズは足手まといだから、砦まで行って増援を呼んで来い。良いか?増援が
集まるまで、絶対に帰って来るんじゃねぇぞ!』

副長から尻を蹴られ、グラフス村を飛び出してから、二晩も経ってしまった。

砦に到着したのは深夜。砦の指揮官に事情を伝え、増援を頼み込む。しかし、初老の
指揮官の男は『もはや、助かるまい』と諦めたように三人に告げた。

『そなた達は生かされたのだ。その命、決して無駄にしてはならぬ。今後は我らで貴君ら
の面倒を見よう』

三人は指揮官の言葉が終わる前に部屋を飛び出した。
砦に駐留している部隊に声をかけ必死に増援を懇願した。皆、指揮官の様に『気の毒だが』
と述べ、首を縦に振る者は居なかった。『斥候ということなら行っても良い』と言う者も
居たが、三人は即座に断った。必要なのは偵察では無く、増援なのだ。

三人は、指揮官の初老の男に言われるまでもなく、隊長と副長が自分達を
遣いに出した意図は十分、分かっていた。

絶対絶命の状況でも、部下への気配りを忘れない。それがマセッティ隊長。
いつか、隊長や副長、古参兵に認められ、共に戦えるような男になろう、と最年少の若者達は
いつも語り合っていたのだ。

だから、のうのうと生き延びることなど出来ない。『若いから』と皆の温情に助けられ
生き残るなど、戦場で野垂れ死ぬのと同じか、それ以上に耐えられないことだった。

最後に増援を頼んだ部隊の指揮官が、申し訳なさそうに首を横に振った時、三人はその場
に崩れ落ちた。歯を食いしばり、目を固く閉じても、目から溢れ出す涙が止まることはなかった。

偵察に出ていた騎兵の一隊が砦に戻ってきたのはその時だった。
砦の指揮官の三男であり、騎兵隊の隊長であったバロス・サロシュタインは、赤毛の若者
3人が砦の広場で嗚咽を繰り返しているのを不思議に思い、馬上から3人に声をかけると、
3人は涙で声を詰まらせながら、バロスに経緯を伝えた。

しばし考え込み、バロスは『わかった。私たちがそなた達の仲間を助けに行こう』と3人に告げた。

指揮官である父は、当然、バロスを止めたが、『偵察の必要があるし、それなりの護衛が必要なため』
と父を説得し、バロスは隊を率い、グラフス村へと向かったのだった。

バロスは自分の隊を率い、疾走する3人を追いかけたが、その手綱捌きには驚愕せざるを
得なかった。信じられないような挙動で自在に馬を操り、普通は避けるであろう道でさえも、
ひるむことなく駆け抜ける。

(北蛮は馬の操りに長けているとは聞いていたが、これ程までとは…しかも、あの3人、
あれで、傭兵隊の中では最年少なのか?)

バロスが増援に出向く気になったのは、北蛮の生き残りを自分の隊に接収することが
出来るかもしれないと踏んだからである。バロスは半島中の馬の扱いが上手い男達を集め、
自分の隊に入隊させていたのだった。

『兄上!そろそろ、皆を休ませなくては、馬が潰れます!』
バロスに弟レイニーが声をかける。顔立ちは幼いが、馬の扱いについては天賦の才を持っている。
その弟でさえ、3人を追うのがやっとの風だった。
『わかってる!だが、前の3人はおそらく聞かん!ロッシ!何騎、脱落した?』
『既に13騎、居なくなっております!』
お目付け役でもある隊の古参兵はバロスの質問に即座に答えた。
『殿!このままではレイニー殿の言うとおり、村に着く前に兵隊が居なくなってしまいますぞ!』
『もうすぐ着く筈だ!』

そう話しているうちに、前の3騎が突如として馬を停めた。バロス達の隊の騎兵達も、
慌てて馬を停める。グラフス村が一望できる丘の上に着いたのだった。村のあちこちからは
煙が上がり、村の周りには馬の死体や黒き民のよろいなどが散乱している。

『ぐぬぬ…やはり手遅れだったようですな…』

ロッシの言葉に赤毛の3人の一人が叫び声を上げて、剣を抜いた。

『俺は…俺は…あの人たちと一緒に行きたい!』
『俺も!』
『俺もだ!行こう!!』

『待て!』と制止するバロスの言葉も聴かず、3人は村へと駆けていった。

『なんと!3騎で征くとは!やはり、北蛮、勇猛果敢さでは常軌を逸しておりまするな…』
『いや、あれは北蛮というよりも、マセッティの傭兵隊だからだろう』

以前、バロスは傭兵隊長のマセッティと何度か会ったことがある。傭兵らしい形(なり)
と喋り方をしていたが、戦の仕方、馬の扱い、部下への思いやりなどは丁寧で、バロスには信頼できる戦士のように感じられた。
3人に着いてきたのも、北蛮の兵隊が欲しかったのは勿論あるが、3人の仲間を思う気持ちに、
感激家のバロスが素直に心を打たれたからだった。

一瞬、考え込む。あの3人だけでも助けたい。しかし、感激家と言っても、感情に流され
るまま、兵を無駄に死なすわけにはいかない。
村の周りを見る。動いている黒き民の兵隊は一人も居ない。略奪に疲れ、眠りこけているのか。

これなら、上手くいけば掠めるように3人を救い出すことが出来るかもしれない。

『騎士達よ!聞いてくれ!』

バロスは部下達に向かって声を上げた。

『赤毛の若者が、勇猛果敢にも仲間を救うため、たった3騎で敵陣に乗り込んだ!
おそらく、彼らの仲間は既に皆殺しにされ、あの3人もすぐに死ぬだろう!』

必死に着いてきた騎士たちは、息を切らせながら、隊長の言葉を聞く。

『しかし、私はあの3人だけでも助けたいと思う!見てみると、勝利に奢った黒き民達は、
村の防備を疎かにしている!我等ならあの、勇敢な若い3人を救うことが出来る!』

バロスは一呼吸置き、騎士たちを見遣る。疲労が見えるが、その目は戦意に満ちている。

『無理強いはせぬ!しかし、蛮勇の赤毛の若者のために、その命、捨てる覚悟ある者は、
剣を抜け!』

いくつもの剣が鞘から抜かれる音が響く。銀色の剣に朝の光がキラキラと反射する。

『総員、抜刀確認しました!』

ロッシがバロスに告げる。

『よし!北蛮の子供に後れを取ったとあらば、白き民の騎士の名折れぞ!続け!』

白き民の男達は肩に剣を押し当て村へと向かって、馬を向けた。

『突撃!!』
バロスが兵達に突撃の命令を発したとき、叫びながら村に突進した3人は剣を闇雲に振り回しながら、敵を探していた。
あちこちから煙が上がっているが、一人も黒き民の兵隊には会わない。

走り回り、村の端にまで到達すると、そこには、隊長、副長、それに傭兵隊の面々が
村人達と黒き民の死体を穴に放り投げていた。

『ん?おお、戻ったか』

マセッティ隊長が赤い髭をかきながら、3人に声をかけた。

『隊長…』
『ご、ご無事で…』
『てっきり手遅れかと…』
『てめぇら、何たらたらやってやがったんだ、コラ!』

副長が3人を馬から引き摺り下ろし、何が起こっているのかもわからないまま足蹴にする。

『まぁまぁ、副長、それくらいに…』

マセッティ隊長が副長を止めに入ろうとすると、突如として、地響きと馬のひづめの音、
男達の怒号が鳴り響いた。

『こちらだ!我に続け!!』
『オオオオオオオ!!!!』

剣を抜いた騎兵の群れが、突撃してくるが、マセッティ達を見た先頭の男の合図で、
騎兵達は急停止した。遠目からでも、相当驚いているのが分かる。

『これは、これは、バロス殿ではありませぬか。この度はどうされましたか?』
『どうしたも何も、あの3人の若者らの要請で、貴君らの加勢に来たのだ…』

副長は鬼の形相で3人の顔を見遣る。

『てめぇら、いい加減にしろ!ちんたらやってるから、騎士の皆さんに迷惑かけちまったじゃねぇか!やる気あんのか、コラ!死ね!』
副長は一人ずつ若者3人を殴り倒していく。
『すいません。うちの若いのの不手際で、ご迷惑かけてしまったようで…』
『いや、貴公らが無事であれば良いのだ。それよりも、黒き民達は…』

マセッティはニヤリと笑い、後ろを指差した。

『皆殺しにしました。一人も生きてやいません。あれで最後です。あとは全部、燃やしちまいまして』
『皆殺し、にしたと?貴公らのみでか!?』
『ええ、ええ、その通りでございます。いやー流石に骨が折れましたわ』

マセッティは村人達が黒き民の死体を穴に入れる作業を続けているのを見遣った。

『どうやって皆殺しにしたことをご説明しようかと思ってましたが、バロス殿に
証人になって頂ければ、父君にも信じて頂けるでしょう。いやぁ、その点では、
来て頂いて大変ありがたい。他の火葬場も見ます?』

3人の若者は副長の暴力に晒されながらも、安堵と嬉し涙で、顔をぐちゃぐちゃにしていた。
若者の一人が、黒き民の死体を収める穴のほうを見遣る。松明を持った白き民の娘が、
金髪をなびかせて立っていた

『隊長、全部入りやした。油も撒きましたぜ』
『よし。シャーリー!火をつけろ!』

松明を持った娘は穴に松明を投げ入れた。すぐに火の手が上がり、肉の焼ける臭いが周囲に充満する。

『さぁさ、バロス殿、どうぞこちらへ』

隊長たちはバロスたちを別の場所に案内するようだった。

『てめぇ、何よそ見してんだコラ!舐めてんのか!』

副長の拳骨が頬に食い込む。顔を後ろに吹き飛ばして倒れこんだ若者は、穴の傍で炎を見つめる娘を見た。
炎に照らされたその顔は全くの無表情だったが、三日間、一睡もしていなかった若者はその姿に妙な安心感を覚え、気を失った。

突撃以下の下りは7スレからとってきて編集しました。

イスラムものですかね?

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