悪戯 ◆6lu8FNGFaw氏
兵藤和也は、標の死体を見下ろすように佇んでいた。
赤松が、道の中央から茂みの中に標の亡骸を移動させ、姿勢を整えて仰向けに寝かせておいたのだ。
暗闇の中で遠めに見る限りでは、眠っているだけのような印象を受ける。
しかしよく目をこらして見ると、真っ赤に染まった上着と、無残にも零れだしている腸に気づく。
そして異臭。生臭い血の匂い。
暗闇の中で遠めに見る限りでは、眠っているだけのような印象を受ける。
しかしよく目をこらして見ると、真っ赤に染まった上着と、無残にも零れだしている腸に気づく。
そして異臭。生臭い血の匂い。
「……フン…!」
和也は、標を茂みの中に隠した人間のことを鼻で笑う。
死体を安置する…。この殺戮の舞台で、こんな行為に何の意味がある…。反吐が出る…!
和也は、標を茂みの中に隠した人間のことを鼻で笑う。
死体を安置する…。この殺戮の舞台で、こんな行為に何の意味がある…。反吐が出る…!
大儀そうに持ってきたチェーンソーを地面に置くと、茂みを掻き分けて歩を進める。
そして無造作に標の髪をつかむと、力任せに死体を茂みから引きずり出した。
そして無造作に標の髪をつかむと、力任せに死体を茂みから引きずり出した。
死者を冒涜する行為…。だが、和也には微塵も恐れなどなかった。
死んだモノには何の価値も無い…。
生きた者でなければ、悲鳴を上げさせることも、恐怖に慄かせることもできねえじゃんか…。
死んだモノには何の価値も無い…。
生きた者でなければ、悲鳴を上げさせることも、恐怖に慄かせることもできねえじゃんか…。
◆
「何だ、何だ…。がっかりだな…!」
今から数時間前。
アトラクションゾーンに聳え立つ展望台の上。
和也は覗き込んでいた双眼鏡を降ろし、低くつぶやいた。
まるで、前評判を聞いて期待して見に来た映画が、つまらなかったと文句を言う客の様に。
アトラクションゾーンに聳え立つ展望台の上。
和也は覗き込んでいた双眼鏡を降ろし、低くつぶやいた。
まるで、前評判を聞いて期待して見に来た映画が、つまらなかったと文句を言う客の様に。
拡声器の声が周囲に響いてから、展望台へと昇り、双眼鏡でずっと周囲を観察していた。
一時期など、10人前後の「役者」がこのB-3の区画に集まってきていたのだ。
さぞや多くの殺し合いが見られると思っていたのに…。
一時期など、10人前後の「役者」がこのB-3の区画に集まってきていたのだ。
さぞや多くの殺し合いが見られると思っていたのに…。
死んだのはたった一人の子供だけ…!
拡声器を使ったらしい(声の質で老人と判断した)、いかれた爺さんは結局華々しい活躍をせず、
マシンガンを持った男も、非力なガキ一人殺しただけで、舞台袖に引っ込みやがった。
まるで期待外れ。本当にがっかりだ…!
拡声器を使ったらしい(声の質で老人と判断した)、いかれた爺さんは結局華々しい活躍をせず、
マシンガンを持った男も、非力なガキ一人殺しただけで、舞台袖に引っ込みやがった。
まるで期待外れ。本当にがっかりだ…!
その後、一回目の放送を聴き、自分が思っていた以上に死亡者の数が多いことに喜んだ。
(…しかし、ちとめんどうだな…。)
(…しかし、ちとめんどうだな…。)
和也は、開会式で殺し合いの説明を聞いてから、ある計画を思いついていた。
その計画を実行するためには、これから死体を探し回らなければならないのだ。
拡声器の一件から、たくさんの死体が一箇所で手に入ることを期待していた和也にとって、
一人という結果は全く期待外れだったのである。
その計画を実行するためには、これから死体を探し回らなければならないのだ。
拡声器の一件から、たくさんの死体が一箇所で手に入ることを期待していた和也にとって、
一人という結果は全く期待外れだったのである。
◆
和也の計画とは何か。
和也の計画とは何か。
先ず、和也の目標。
『全員殺してただ一人生き残る。完全なる勝利。そのためにはどんな手段も選ばない。』
和也は、この殺し合いゲームの参加者全ての中で、一番はっきりとその目標を意識していた。
『全員殺してただ一人生き残る。完全なる勝利。そのためにはどんな手段も選ばない。』
和也は、この殺し合いゲームの参加者全ての中で、一番はっきりとその目標を意識していた。
そのために取るべき行動は二つ。
まず、帝愛関係者を子分とし、利用しておいて最終的に殺す。これが一つ目。
もう一つは、このゲームを全力で引っ掻き回すこと。
まず、帝愛関係者を子分とし、利用しておいて最終的に殺す。これが一つ目。
もう一つは、このゲームを全力で引っ掻き回すこと。
今のところ子分を見つけ出す目処は立っていない。
一時B-3に村岡がいたが、鎖鎌を持った大柄の男…天と行動していたので、接触の機会を見送ったのだ。
天の名前と顔は把握している。裏社会の中で数々の修羅場を潜り抜けてきた猛者の一人…。
接触するには、まだ時期が早い…。そう判断してのことだった。
一時B-3に村岡がいたが、鎖鎌を持った大柄の男…天と行動していたので、接触の機会を見送ったのだ。
天の名前と顔は把握している。裏社会の中で数々の修羅場を潜り抜けてきた猛者の一人…。
接触するには、まだ時期が早い…。そう判断してのことだった。
なら、もう一つの行動を起こすまでだ。それに…。これは暗闇に紛れて仕掛けないと効果半減…。
日の落ちた今が、行動を起こすには絶好の刻……。
日の落ちた今が、行動を起こすには絶好の刻……。
◆
和也は展望台の階段を降りた。今自分のいる区画、B-3が禁止エリアになってしまったためである。
放送直後から30分のうちにエリアの外に出なければならない。
その限られた時間の中で、一つやっておかねばならないことがあった。
和也は展望台の階段を降りた。今自分のいる区画、B-3が禁止エリアになってしまったためである。
放送直後から30分のうちにエリアの外に出なければならない。
その限られた時間の中で、一つやっておかねばならないことがあった。
手始めに標の死体がある場所まで移動した。
道の中央に血だまりがあり、その周辺を探すと、茂みの中にすぐに見つけることができた。
しばらく標の死体を眺めていたが、やがて茂みを掻き分けて中に入っていき、死体をひきずり出す。
道の中央に血だまりがあり、その周辺を探すと、茂みの中にすぐに見つけることができた。
しばらく標の死体を眺めていたが、やがて茂みを掻き分けて中に入っていき、死体をひきずり出す。
淡々と、地面に置いていたチェーンソーを拾い上げ、標の首に当てる。
周囲に音が響くため、なるべく短い時間で作業したほうが良い。
チェーンソーのスターターを引き、ためらいなく標の首を切断にかかった。
周囲に音が響くため、なるべく短い時間で作業したほうが良い。
チェーンソーのスターターを引き、ためらいなく標の首を切断にかかった。
チュイーーーン…シャアアア……
チェーンソーのかん高い音は、刃が標の首にかかってからは低く周囲に響いた。
ガリガリガリッ…
骨を削る刃の音。その堅い部分さえ過ぎればあっという間に首が落ちた。
死後数時間が経過しているため、首の切断面から血が溢れたりはしない。
ポタ…ポタ…と、体液とともに僅かに濁った血が垂れ落ちる。
首の離れた胴体のほうから、首輪を回収する。
死後数時間が経過しているため、首の切断面から血が溢れたりはしない。
ポタ…ポタ…と、体液とともに僅かに濁った血が垂れ落ちる。
首の離れた胴体のほうから、首輪を回収する。
すぐにチェーンソーを止め、標の首と首輪を持ち、まずはその場を立ち去った。
音を立てた場所にずっといるのはまずい。
音を聞きつけてきた、銃火器を持った連中に狙い撃ちされないとも限らない。
音を立てた場所にずっといるのはまずい。
音を聞きつけてきた、銃火器を持った連中に狙い撃ちされないとも限らない。
早足で南へと移動する。地図でB-3の区画を抜けたことを確認する。
足を止め、周囲に人の気配がないことを確認すると、身近に植えてあった木の枝をつかんだ。
木の枝が十分重さに耐えられるかどうか確認すると、その枝に標の髪の毛をくくりつけた。
ちょうど自分の顔の高さになるように首をぶら下げる。
そうしておいて、標の口に通常支給品のメモの切れ端を咥えさせた。
メモには「TEIAI」の文字が薄く印刷されている。
その字が目立つように位置を調整する。
足を止め、周囲に人の気配がないことを確認すると、身近に植えてあった木の枝をつかんだ。
木の枝が十分重さに耐えられるかどうか確認すると、その枝に標の髪の毛をくくりつけた。
ちょうど自分の顔の高さになるように首をぶら下げる。
そうしておいて、標の口に通常支給品のメモの切れ端を咥えさせた。
メモには「TEIAI」の文字が薄く印刷されている。
その字が目立つように位置を調整する。
(…こんなもんか)
少し離れて眺めてみる。
アトラクションゾーンの広場の真ん中にぽつんと立っている木にぶら下げたそれは、
日が昇れば、遠目からでも十分に目立つだろう。
確認が済んで、和也はその場を離れた。
少し離れて眺めてみる。
アトラクションゾーンの広場の真ん中にぽつんと立っている木にぶら下げたそれは、
日が昇れば、遠目からでも十分に目立つだろう。
確認が済んで、和也はその場を離れた。
……これが、和也の仕掛けたトラップ…。目に見える地雷…!
ゲームを引っ掻き回すための奇策…!
ゲームを引っ掻き回すための奇策…!
このトラップの狙いは、三つ…。
一つ目の狙いは、参加者の動揺を誘うため。
あのトラップに相対した時に取る人間の行動は、3パターンに分かれると予想する。
一つ目のタイプは、『怒り』…。
死者への冒涜。または、子供に対する残虐なる行為への義憤。
このタイプは怒りによって自らを奮い立たせるが、感情で動くのでうまく突けば判断ミスを誘うことが出来る。
一つ目のタイプは、『怒り』…。
死者への冒涜。または、子供に対する残虐なる行為への義憤。
このタイプは怒りによって自らを奮い立たせるが、感情で動くのでうまく突けば判断ミスを誘うことが出来る。
二つ目のタイプは、これが一番多いと考えられるが、『恐怖』…。
殺し合いゲームの中で、その参加者は弱い人間であっても、まだかろうじて正気を保っているとする。
その人間にとってショッキングなものを見せることで、内に眠る恐怖を引き出すことが出来る。
あの首を見て、想像力のある彼らはこう考えてくれるだろう。
殺し合いゲームの中で、その参加者は弱い人間であっても、まだかろうじて正気を保っているとする。
その人間にとってショッキングなものを見せることで、内に眠る恐怖を引き出すことが出来る。
あの首を見て、想像力のある彼らはこう考えてくれるだろう。
『このゲームの参加者の中には、趣味の悪い快楽殺人者がいる』
『次は、自分があの首のようになるかも知れない』…と。
『次は、自分があの首のようになるかも知れない』…と。
また、この手の恐怖は連鎖する。集団で行動していた場合、周囲の人間にも恐怖を伝播させ、巻き込む。
恐怖という名の爆薬に種火をつけることで、予想以上に大きい爆発が得られるやもしれない。
結果、互いに殺し合い、潰し合いでもしてくれれば最高だ。手間が省けるというものだ。
恐怖という名の爆薬に種火をつけることで、予想以上に大きい爆発が得られるやもしれない。
結果、互いに殺し合い、潰し合いでもしてくれれば最高だ。手間が省けるというものだ。
三つ目は、この首を見ても冷静でいられるタイプ…。
おそらく、和也が猛者と認識している人物の半分以上が、このタイプであるだろう。
裏社会に生きている彼らには、こんなこけ脅しは通用しない。
むしろ、首の様子やメモを観察し、こちらの意図を探ってくるかもしれない。
だが、それでもいい。元々首を切って晒すこと自体に深い意味などない。単なる演出である。
おそらく、和也が猛者と認識している人物の半分以上が、このタイプであるだろう。
裏社会に生きている彼らには、こんなこけ脅しは通用しない。
むしろ、首の様子やメモを観察し、こちらの意図を探ってくるかもしれない。
だが、それでもいい。元々首を切って晒すこと自体に深い意味などない。単なる演出である。
二つ目の狙いは、首輪の回収。
『対主催』などと考える連中が真っ先に思いつくことは、首についている機械からの開放である。
そのため、首輪を調べるために、死者の首輪を回収しようとするであろうということは想像がつく。
その回収を邪魔する。
先回りして首輪を回収し、『対主催』の連中が調べるための材料を奪う。
首を切断して、首輪をあっさりと外すことができるので、この回収は容易である。
そのため、首輪を調べるために、死者の首輪を回収しようとするであろうということは想像がつく。
その回収を邪魔する。
先回りして首輪を回収し、『対主催』の連中が調べるための材料を奪う。
首を切断して、首輪をあっさりと外すことができるので、この回収は容易である。
三つ目の狙いは、帝愛関係者へのメッセージとしての役割である。
(カンのいい奴なら…『TEIAI』の字が印刷されたあのメモを見落とさず、
帝愛の人間の仕業だと気がつくだろう…。
その上で、そいつが帝愛の関係者なら、オレがこういうことをやりかねない人間だって認識してるだろうからな…。)
帝愛の人間の仕業だと気がつくだろう…。
その上で、そいつが帝愛の関係者なら、オレがこういうことをやりかねない人間だって認識してるだろうからな…。)
(とんだ誤解だけどなっ…!オレが好きなのはあくまで生きた人間への行為…!
死体の損壊なんかしたところで大して嬉しくもねぇ…。
…だが、いい…。生かせるっ、その誤解…!)
死体の損壊なんかしたところで大して嬉しくもねぇ…。
…だが、いい…。生かせるっ、その誤解…!)
(気の利いた部下なら、オレの意図を汲んで、同じ行動に出るかも知れないが…。
そいつの支給品次第か。首を落とす道具なんて都合がいいもの、そうそう持ってないだろうからな…!
オレがチェーンソーを手に入れられたことは僥倖…。ツいてる…。
音がうるさい点さえ目を瞑れば、これほど目的を遂げるのに便利な道具もねえ…!)
そいつの支給品次第か。首を落とす道具なんて都合がいいもの、そうそう持ってないだろうからな…!
オレがチェーンソーを手に入れられたことは僥倖…。ツいてる…。
音がうるさい点さえ目を瞑れば、これほど目的を遂げるのに便利な道具もねえ…!)
周囲に気をつけて移動しながら、和也は笑みを浮かべた。
悪魔のような思考とは裏腹に、ただただ、嬉しそうに嗤う。
………まるで、子供が悪戯を仕掛けるような無邪気さで、彼はこの凶行をやってのけたのだ。
悪魔のような思考とは裏腹に、ただただ、嬉しそうに嗤う。
………まるで、子供が悪戯を仕掛けるような無邪気さで、彼はこの凶行をやってのけたのだ。
鬼は夜の中を闊歩する。チェーンソーをぶら下げ、死体を求めて彷徨う姿は、
さながら鎌を携えた死神…………………。
さながら鎌を携えた死神…………………。
【C-3/アトラクションゾーン/夜】
【兵藤和也】
[状態]:健康
[道具]:チェーンソー 対人用地雷三個(一つ使用済)
クラッカー九個(一つ使用済) 不明支給品0~1個(確認済み) 通常支給品 双眼鏡 標の首輪
[所持金]:1000万円
[思考]:優勝して帝愛次期後継者の座を確実にする、子分を見つける、死体を探して首を狩る、首輪を回収する
※伊藤開司、赤木しげる、鷲巣巌、平井銀二、神威秀峰、天貴史、原田克美を猛者と認識しています。
[状態]:健康
[道具]:チェーンソー 対人用地雷三個(一つ使用済)
クラッカー九個(一つ使用済) 不明支給品0~1個(確認済み) 通常支給品 双眼鏡 標の首輪
[所持金]:1000万円
[思考]:優勝して帝愛次期後継者の座を確実にする、子分を見つける、死体を探して首を狩る、首輪を回収する
※伊藤開司、赤木しげる、鷲巣巌、平井銀二、神威秀峰、天貴史、原田克美を猛者と認識しています。
※C-3に標の首がぶら下げられています。胴体はB-3地点の道の真ん中に放置されています。
072:埋葬 | 投下順 | 074:心の居場所(前編)(後編) |
072:埋葬 | 時系列順 | 076:決意 |
053:孤島の鬼 | 兵藤和也 | 084:帝図(前編)(後編) |