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闇 ◆JsK8SvgrFA氏


夜の闇は全ての参加者の上に等しく訪れる。
眼が見える者にも、眼が見えぬ者にも。
市川は、闇を視覚では感じえなかったが、夜の気配は臭いで嗅ぎ取っていた。
「……暗かろうが明るかろうが、儂にとってはどちらにしても同じじゃが……。」
この闇は眼あきの奴等にしてみれば多少は心細いかもしれんの、と、声には出さずに哂った。


仲根は焦っていた。
『聞けっ……!ここに一千万ある……!!得たくば、奪いに来いっ……!!』
あの声を聞いてから、かなりの時間が経った。
途中、二人連れの男に出遭ったが、彼等は大量のダイナマイトを持っていた。
その量に恐れをなし、逃げるようにその場を去ったのだが。
それ以降いくら歩いても、目標である声の老人に出会うどころか、ますます人の気配から離れていくような感覚がするのは気のせいか。
ついに夕日が落ち、第一回目の放送を聞いた。思ったよりも多くの参加者が死んでいた。黒沢の兄貴の名前はその中には無かったが。
……多くの者が死んでいる、ということは、多くの者が殺されている、ということ。
それだけ多くの殺戮者がこの闇にはまぎれているのだ。
もはや、自分は狩る者であるとは限らない。
「殺さなきゃ……。……殺される前に!!」
このまま無駄に歩き回っても、疲労のみが蓄積されていく。
仲根の心にも、闇は少しづつ浸透していった。


「おおーい!! どこだぁーーーーっ!!」
闇の中から、まだ若い男の叫ぶ声が響く。
市川は見えない眼を声のする方向へ向ける。
「……おやおや、ずいぶんと判りやすいことを……」
思わずつぶやいてしまったが、この相手なら聞こえても問題は無いだろう。
「ここじゃ! ここまで来い!!」
もう拡声器は手元に無かったが出せるだけの大声で、声が聞こえたのとは違う方へ向けて怒鳴った。
その声に驚いた声の主が思わず声をあげたのは、やはり市川が怒鳴った方であった。
「……ひっ……!!」
仲根は度肝を抜かれてしまった。なぜ、自分がいる場所が相手に知れたのか。
最初に出遭った少年には、一時的にとはいえ通用したICレコーダーが、この老人には役に立たない。
敏感な市川の耳は、ICレコーダーの声より早く仲根のたてるわずかな物音をとらえていたのであった。
「……何じゃ、来んのか。
 なら、儂から行くぞ」
杖を持たない盲人の市川は、地面に這いつくばりながら確実に仲根との距離を狭めて行った。
眼を使わずに手探りで進むその姿は、明らかに異形の者。
「お前は、先ほどの儂の声を聞いて、たかだか一千万ぽっちの金に興味を持って来たものであろう。
 金ならくれてやる。
 ほれ、受け取れ」
市川は一千万円分のチップを、たじろぐ仲根に向けて無造作に投げ散らした。
たしかに金は欲しい。黒沢と自分の為に。
しかし、参加者なら誰だって欲しい筈の金に執着しないこの老人は一体何者。
「儂が怖いのか?
 安心せい、儂はただのめくらの爺じゃ。
 何で儂が、お前に軽々しく一千万もの金をくれてやるか?
 ……それは、ここにもう一千万持っておるからじゃよ」
そう言って市川は、更に一千万円分のチップを見せびらかした。
仲根は市川を恐れた。
一千万円以上の金を持っている、ということは、殺戮者である可能性が有る!
一瞬、逃げるかそれとも殺してしまおうか! と考える仲根を見透かす様に市川は続ける。

「金を集めておる、ということは、お前さんも踊らされておるようだの。
 無駄じゃ。
 仮にお前さんが一億円集めたところで、このゲームから降りることはできぬ。
 バトルロワイアルの主催者共は、そんなに甘くはないぞ。
 こんな金には意味が無い、ということだ」
「うるさい!」
仲根は、辺りに飛び散った金を拾うこともなく、逃げ出した。
「行っちまったか……。人の話を聞かねぇ奴だ……。
 杖がわりにこきつかってやろうと思ってたのによ……。
 まあいい、こいつは使えるかもしれねぇな」
市川は、仲根が残していったICレコーダーを拾い上げた。


走りながら、仲根は市川が発した言葉の意味を考えていた。
「……金を集めても無駄、だと?」
気配からして、あの老人は只者では無い。
そして、本当に金をぞんざいに扱っていた。扱いがぞんざいなのはその命のほうもだったが。
俺は本当にこのゲームに踊らされて、人殺しをしているのか?
「わかんねぇよ、兄貴……」
黒沢は今、どうしているだろう。
生き延びている、ということは、どこかで戦っているのだろうか。
こんな時こそ、黒沢に全てを打ち明けて相談したかった。
今更ながら、黒沢に出会ったタイミングが悪すぎたことが悔やまれる。
「……このバトルロワイアルって奴は、俺一人の手には余るやっかいな代物だ……」
仲根は立ち止まった。
「そういえば、あの爺さんは眼がが見えないって言ってたよな……」
地面を這いつくばっていた。もし眼が見えていれば、そんな無用心な格好はしないだろう。
「……あの爺さんを脅して、更に情報を聞き出す……もしふざけた事を言うようなら、殺せばいいだけのこと……」
仲根は注意深くナイフを構え、今来た道を戻り始めた。


「戻ってきたか」
仲根が市川に気づくより早く、市川の方から仲根に呼びかける声がした。
仲根は慌てて声のした方へ振り向く、と誰もいない。
「しまった!」
と思った時にはもう遅かった。足を何者かに掴まれて転倒、思わずナイフを取り落としてしまう!
「ICレコーダーとは便利だの。
 自分の道具を相手に使われたのが、そんなに意外だったかい?
 こんどこそ、ゆっくり儂の話を聞いて見る気になったか?
 ……まあ、儂の言うとおりにしなければどのみちお前はいづれ死ぬ。
 誰かに、殺されての……」
市川は仲根の顔を見上げ、ニタァッと哂った。
仲根は、自分の足にしがみついている市川が心底恐ろしかった。
底が知れない。
思えば、このバトルロワイアルに参加するまで仲根が戦ってきた相手は、肉体的には強い者もあったが精神的にどこかに弱さを持った者がほとんどであった。
真に心の強さをも併せ持った男は、黒沢以外には皆無。
しかし、この老人はどうだろう。
ナイフを持った大柄な体格の仲根に対しても、年老いた細い体で無謀に見えるほど物怖じせずに立ち向かい、余裕の表情すら見せている。
盲目であることは本当らしい。だが、拡声器での発言といい仲根に対する態度といい、この殺人ゲームの真っ只中にいるとは思えないほどのふてぶてしさ。
そして、その真意がわからない。
「……あんたの目的は」
「まあ、そう焦るな。
 お前さん、怖いのだろう?
 儂の目的は、このふざけたゲームをひっくり返すことじゃ。
 儂の目論見どおりに事が進めば、これ以上死者は出ぬ」
仲根は耳を疑った。
「考えてもみるがいい。
 こんなゲームを行って、参加者に何の得がある。
 儂らは、この小さな島で主催者共の掌の上。
 この首輪で繋がれて、常に奴等から監視され。
 どれだけあがいても、奴等の気に食わなければ、一瞬であの世行きよ。
 要は、死ぬまでにどれだけあがいて殺し合い、主催者を楽しませられるか、それだけが儂らの価値。
 一億円払って、棄権だと? 甘い甘い。
 それだけの金を集めるまでに、どれだけの犠牲が必要かね?
 そして、一億円払ったとして、必ずしもバトルロワイアルから脱出できるという保障はどこにある?
 そんなことも考えずに、お前さんは殺し合いに乗っていたのかい?」
言われるとおりであった。
市川の言うことが正しいのかどうかは判らない。
しかし、迂闊にも自分はこのゲームについて今まであまり深く考えず、ただ殺し合い金を集め黒沢を助けることばかり考えていた。
主催者に対する不信感は、平常時の仲根なら真っ先に感づいていたはずである。
だが、状況はあまりにも早く仲根を包み込み、深く考える隙を与えなかったのであった。
「……それでじゃ。
 儂は、主催者共を倒そうと思う。
 お前さん、協力してくれんか?」
仲根は答えず、考え込む。
主催者を倒し、このゲームが無効になれば、黒沢も自分も、その他の不幸な参加者達も助かるだろう。
確かに、市川は途方も無く頭が切れる。
しかし一参加者、しかも盲目の老人が主催者を倒すなどとは可能であろうか。
そして、自分が協力する意味、とは。


市川はほくそえんだ。
(……考えておる……。フフ、愚かなものよ。
 主催者倒しなど、他の手空きの連中にさせておけばよい。
 こやつにはせいぜい、ダイナマイトを取り返すくらいの働きをしてもらおうかの……)
「…………無理強いはせんよ。
 そうだ、先程の一千万円とこの一千万円、計二千万円でお前を雇うというのはいかがかな?
 さっきも言ったとおり、儂は眼が見えんものでな。
 少しばかり、この辺りを歩くのを手伝ってくれると助かるのじゃが……」
仲根は顔を上げた。
「……悪い話じゃないな」
市川を信じるかどうかは別にして、とりあえず人を殺さずに金が手に入る。
それに、行動を共にすれば市川の実力や真意も見えてくるだろうし、このバトルロワイアルについて更に情報を得て考える時間もできる。それが現時点では最良の選択。
しかし、理性では確かにそれが正しいと思っているのに、この得体の知れない冷ややかな感覚は何だろう。
あたり一面に広がった闇が、特にこの市川の周囲には濃くまとわり着いていて、それが仲根の皮膚にもからみついてくるようだ。
仲根はあたりに散らばった一千万円分のチップとナイフを拾い、自分を鼓舞するように市川に言った。
「爺さん。残りの金は」
「それは、後払いにさせてくれ。
 金だけ奪われて逃げられてはかなわんでな」


夜の闇は、次第に深さを増していく。

【B-2/アトラクションゾーン/夜】

【市川】
 [状態]:健康
 [道具]:モデルガン 手榴弾 ICレコーダー 支給品一式
 [所持金]:1000万円
 [思考]:ダイナマイトを取り返す 仲根を利用する
     ※有賀がマーダーだと認識

【仲根秀平】
 [状態]:前頭部と顔面に殴打によるダメージ 鼻から少量の出血
 [道具]:カッターナイフ バタフライナイフ 支給品一式×2
 [所持金]:3000万円
 [思考]:市川に一時的に協力する 黒沢と自分の棄権費用を稼ぐ 黒沢を生還させる 生還する



076:決意 投下順 078:抜刀出陣
076:決意 時系列順 074:心の居場所(前編)(後編)
054:十に一つ 市川 096:夜行
050:混乱 仲根秀平 096:夜行




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