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残光 ◆IWqsmdSyz2氏


例えば、とひろゆきは思う。
ギャンブルルームの陰で、改めて探知機の画面を見つめた。

ひろゆきが目指す光点――仮にそれがカイジだとしよう。
カイジは今、五つの光点に追われているような形だ。
無論、カイジとそれら五つの光点、
つまり五人の人間とがどのような関係なのかすら
現段階では判断できずにいる。
しかし状況はどうであれ、数十分もかからないうちに
五つのうち先頭の光点はカイジに追いついてしまうだろう。

怪我人のカイジが ゲームに乗っている人間の視界に入ってしまえば
それはこの上ない標的、獲物、狙われるのは明らかである。

では、カイジの安全を確保するためにどうすればよいか。
答えは簡単だ。
カイジの背後に光る五つの点のどれよりも速く、
ひろゆきがカイジの元へ辿りつければ良い。

探知機の画面で見る限り、カイジとひろゆきの距離は遠くない。
数百メートル。走れば間に合うだろう。
間に何の障害もなければ、の話だが。

当然、事態はそうシンプルには収まらない。
実際問題、アトラクションゾーン内にいるひろゆきが
アトラクションゾーンの外を北上するカイジと出会うには
鉄の柵が いささか邪魔であると言えた。
アトラクションゾーンを囲うフェンス。
決して乗り越えられない高さではないが、
その際は武器、支給品を先に向こうへ投げてから
フェンスをよじ登ることになるだろう。
僅かなリスクだとしても、間違いなく危険が伴う行動である。


どこかでリスクを負わなければならないのは承知している。
しかし、どの場面でそれを負うべきなのか、判断を見誤ってはならない。

ひろゆきは探知機の電源を切り、静かに日本刀を握りなおした。
夜の静寂が、寒くもないのに肌を粟立たせる。

兎にも角にも、ここギャンブルルーム前から
フェンスが見える範囲まで進むこと。

フェンス越しだろうと、つまるところ
カイジに身の危険を知らすことが出来れば良いのだから、
探知機で光点を確認しつつ ひろゆきも北上していけば、
運がよければフェンスを越えることなくカイジに言伝られる。
もちろん、その可能性は決して高くない。

カイジがフェンスからある程度距離を置きながら進んでいるケースも考えられる。
それは探知機を100メートルに範囲設定しなければわからないことであり、
何にしても、接近しなければ埒が明かない。
カイジがフェンス沿いに行動していなかった場合は
カイジと思われる光点に十分に近づいたところでフェンスを越えれば良い。

敵――その可能性があると見做した五つの光点と
ひろゆき自身との間にフェンスを隔てたまま進むことが出来るというのは
精神的にも幾分か楽である。

「よし・・・!」

自らを鼓舞するかのように呟くと、
ひろゆきはギャンブルルームから離れ、急ぎ足で歩き始めた。

井川ひろゆきという男は
「思うより先に手が出る」という経験を殆どしてこなかった。
つまりは、行動を起こすよりもまず思案。
元来聡明で思慮深い性質であり、慎重さも相俟って
“子供”という立場を脱した頃から すっかり
どうするべきかということを考えた上で実行するようになっていたのだ。

その人間性が良いことなのか、はたまた悪いことなのかというのは関係なく
それが井川ひろゆきであるという揺るがない事実のみが存在する。
考えなしの体当たりなどはしない。
否、出来ない人間、出来ないと自覚した人間だった。

「そういう性格なんだ」
片付けようとすれば ただそれ一言で済む話。
とはいえ ひろゆきは その性格が招いた自身の生き方、本質について思い悩んだ。
社会人になり、自ら選び取った道で日々を送ることになれば、
多くの人間が考える、特に珍しくもない有り触れた迷いだった。

『もしも、別の生き方を選んでいたら・・・』

あの時、麻雀で生きていく道を捨てたのはひろゆき自身だ。
それで納得していた。納得しようと思っていた。
自分を客観的に見つめた上で、“まとも”であることを選んだ。

待っていたのは空しさを覚えることも茶飯事、そんな燻った毎日。
甘んじて受け入れるしかない。
それが社会なのだから――。

ひろゆきの選択は現代に生きる青年として、決して間違いではないのだろう。
だが、彼自身の心に後悔は深く根差した。

天や赤木を尊敬し、彼らに憧憬を抱いても
ひろゆきは、天のようにも赤木のようにも麻雀を打つことが出来ない。
技術如何では解決しようもない、本質的な問題だ。
それは、ギャンブルというステージを離れた日常生活に置いても同じこと。
彼らのように生きることが出来ない。
持って生まれた才覚の違い、越えられぬ壁。

それでも・・・
もっと好きなように生きられたなら。
「こうあるべきだろう」という概念を無視できたなら。
その先にあるのは、質量を持った毎日だっただろう。
空虚ではなく・・・ただ過ぎゆく時間などではなく・・・
“生きている”のだと、感じるはずだ。

己の性格を呪ったこともある。
天が、世間体を気にしているだろうか。
赤木が、自分自身を見限ってしまうことなどあるだろうか。

仕事を終えて一息吐くとき、どうしても考えてしまった。
間違っていたのだろうか、と。

彼らと同じように生きようとしたところで――
無論、劣等感は付きまとうであろう。
悔しくて情けなくて、
それこそ、死んでしまいたくなるような出来事にぶつかったかもしれない。

真っ当な仕事に就き、社会の歯車として働き、
やりがいもなく、気がつけば“もしあの時こうしていたら”ばかりを考え
薄く死んでいくような日々と、
いったいどちらがマシなのだろうか。
天秤にかけたところで、答えなど出はしなかった。

東西戦以降 実に9年もの間、ひろゆきは進めずにいた。
時は経ち、否が応にも老けていく。
それでも、ひろゆきは振り切れなかった。
そして、そんな自分を知りつつも、あえて認めずに過ごし続けていた。
このままぼんやりと死んでいくのだろうか、と情けなくも諦めかけていたのだ。

しかし、ひろゆきの心境はたったの一夜で変化を見せることになる。
そう、赤木しげるの告別式を切欠に。

以降――
相も変わらずひろゆきの麻雀は理詰めであったし、
彼は「思うより先に手が出る」経験を重ねることなく今日まで来ている。
だが・・・ひろゆきは己の生き方に確信を持っていた。

赤木しげるのように生きる。
神域の打ち手になる必要も
潔く死ぬ覚悟をする必要もない。
ただ、己の心に沿って生きること。

バトルロワイアルという社会の中にあっても、ひろゆきはそれを実行してきた。

そのせいだろうか。
理不尽なゲームを目論んだ主催者に対して、
不思議なほどに怒りが湧かない。
元より“赤木しげる”に強く惹かれての参加であり、
ホテルの広間で彼の姿を見止めたときの印象が
怒りや絶望といった類の意識を越えて、ひろゆきの指針を定めさせたのだ。

死を望んでいるわけではない。
しかし保身、という感覚が消えるほどに
ギャンブルに対する気概が心を燃やしていた。

実際 死に直面したとき
本来の弱さが顔を覗かせることもあるだろうが
それでも、死ぬのが怖いからという理由で選択肢を減らすつもりはない。

ただ、“死ねない”という思いはあった。
赤木しげると・・・
あの赤木しげると勝負をするまでは・・・死ねはしない。



ギャンブルルームから数分ほどすれば
建物の陰から鉄のフェンスが見えてくる。

街頭と月明かりを反射する様子は
まるで内側から発光しているようで、
ひろゆきは少し目を細めた。

再び探知機を取り出し、電源を入れる。
幸い、光点はまだ交わっていない。
それらは数分前より更に北へ歩いた、あるいは走っただろう事に加え
ひろゆき自身が移動したことにより画面上の表示は変化したが
実際のところ光点同士の位置関係は殆ど変わらず、
先刻 そのままの状態を保っていた。

(カイジについては・・・まだ何も起きずに済んでいるが・・・)

しかし、
カイジ、そして後続の五つの光点の位置関係に問題はなくとも、
探知機の画面上で、ひろゆきにとって芳しくない変化が表れていた。
彼にとって想定外の動きをしている光点が見受けられたのだ。

(誰かが大きく移動してきたな・・・)

そう、ある光点が、ひろゆきの進路を遮るような形で停止していた。
当然、その正体は カイジや田中沙織と思われる光点などではなく
先ほどまではひろゆきの眼中になかった何者か、である。

ギャンブルルーム内で確認した際に気付いていたことだが、
画面上には ひろゆき自身、カイジ、田中沙織、
そしてアトラクションゾーンの外を北上している五つの光点の他にも
複数の光点が存在している。

これまでのひろゆきは探知を100メートルに設定したまま行動してきたため
カイジと分かれた直後、範囲を1キロメートルに変えたとき
想像以上に付近に光点が密集していることを知り驚いたものだ。

とはいえ、全ての光点に気を使っていては頭がいくらあっても足りない。
そもそも、さほど大きくもない島、それも中心部付近となれば
多数の人間が集まっていても何らおかしいことはない。

そのため、カイジと田中沙織だと思われる光点、及びそれに近付く光点、
そして100メートルに範囲設定した際に表示された、
“ひろゆきにとって注意すべき光点”以外は
当分は関わる必要もないものとして思考の外に置いていた。

(俺がこのままフェンス沿いに直進すれば進路上の光点と搗ち合う可能性は極めて高い・・・)

無論、探知機を持っているひろゆきは
この島に閉じ込められた参加者の中で圧倒的優位な存在だ。
どの光点と接触するか、どの光点から逃げるか、
そういった選択の余地がある人間は限られている。

(とりあえずは・・・フェンスに沿って北上・・・!
その考え自体を変える必要はない・・・・)

目下、カイジに危険を知らせるべく動いている状況だが
他の光点に関しても、多少の興味はある。
それらの中に、手練のギャンブラーや
あるいは――赤木しげるが含まれているかもしれないからだ。

ゆえに、行く手を遮る光点に対してひろゆきが選んだのは
『限界まで接近し、相手を窺ってから如何を決める』という行動。
結局のところ今までとスタンスは変わらない。

ひろゆきは探知機をやや乱暴気味にポケットにしまうと
荷物を背負いなおし、走り出した。

フェンスが続く暗闇の向こう、
そこにいるであろう何者かに僅かに期待を寄せながら。



バトルロワイアルの参加者は、一体どのような目的を持って行動しているのだろうか。
優勝のために人を殺すこと。
殺し合いなど馬鹿げていると、ゲーム自体に反旗を翻すこと。
死に恐れを抱き、生存のために逃げ回ること。

井川ひろゆきの“目的”は他の参加者とは異なる、異質なものだった。
強者とのギャンブル。
資金を貯めての脱出を無視しているわけではないが、
重きをおくべきは脱出ではなくギャンブル。
ギャンブル自体の賭け金に多寡は問わない。
そして赤木しげるとの闘い・・・。

長い間 社会の柵(しがらみ)に囚われていたひろゆきが
バトルロワイアルにおいて
生死の選択を迫られるという異常事態に縛られることなく、
己の思うままに行動していることは、
ひろゆき自身にとってしても不思議であった。

しかし、赤木しげるが関係するとなれば
何故か説明がついてしまいそうなことに気付き、
それ自体にまた、ひろゆきは不思議な気分になるのである。

ともあれ、井川ひろゆきから見て赤木しげるは尊敬に値する人物であり
ひろゆき自身の人生を変えた人物であり、
そして今この瞬間にも影響を受け続けている人物なのだ。


昔に比べて随分体力も落ちたものだと実感しはじめたころ、
ひろゆきは探知機を取り出し、再び画面に目を落とす。

気に留めるべきポイントは3つ。
まず、ひろゆきの進路上の光点は、相も変わらずそこに存在しているということ。
カイジの後続の光点はいずれも変わらず北上を続けていること。
最後に、カイジと思しき光点が動きを止めたこと、だ。

(まずいな・・・怪我が悪化したか、何らかの問題が起きたんだろうが・・・・)

後続の5つの光点のうち、先頭のものがカイジのすぐ傍まで近付いている。
ひろゆきが全力で走ったとしても、
先頭の光点とカイジが接触するまでに間に合うことは出来ないだろう。

(いや・・・案外立ち止まったってのは悪くない・・・
走っている最中は後ろから誰か近付いても気付きにくいだろう、
つまり、立ち止まったことにより 背後からの気配に気付く可能性はある・・・!
その上、何らかのハプニングが起きて移動が困難になったとなれば・・・
まずは身を隠そうと考えるはず・・・)

ひろゆきはフェンスの向こう側、アトラクションゾーンの外を見やる。

(林が続いている・・・これだけ暗ければ隠れてやりすごすことも出来るだろうが・・・
もし足の怪我に何かあった場合、隠れるのも厳しいか・・・・?)

呼吸を整えながら、ひろゆきは探知範囲を100メートルに設定しなおす。
画面上に表示される光点が、大きく減った。

中心に光るのはひろゆきを表す点。
そしてその真北に光るのが、進路を遮る「何者か」である。

(80メートルほど先か・・・建物に隠れて見えないが・・・
こいつに気付かれないように移動するには
少し大きめに迂回しなければならないな・・・・。
ここでフェンスを乗り越えるという手もあるが・・・どうするか)

範囲設定を100メートルにしたことにより、
先ほどまでに比べて画面上で動きを視認しやすくなる、はずだった。
つまり、行く手の先の光点が、どこを目指してどの方向に進んでいるのか、
ひろゆきは それを見極めようと考えたのだ。

しかし、ひろゆきの予想に反して、光点はびくとも動かない。
ただ休んでいるだけかもしれないし、
ひょっとしたら死んでいるのかもしれない。
この探知機が首輪自体に反応するシステムなのだとしたら、
生死の判別まではつかない。

兎にも角にも、ひろゆきからは見えない位置・・・
売店の陰に、光点の正体はいる。

(先刻まで移動していたことを考えると、死んだという可能性は低いが・・・)

カイジの身に迫る危険、
そして80メートル先の光点の正体、
ひろゆきは考える。

どうしたいか、どうするべきだろうか。
一刻を争うような状況にあっても、
やはり自分は考え込んでしまうんだな、と自虐的に笑みを浮かべてから
ひろゆきは移動を始めた。

(行くか・・・!)

日本刀を持ち直し、探知機を確認しつつ、売店へ注意深く進む。
70メートル、60メートル、50メートル。
相手方が動く気配はない。
40メートル、30メートル、20メートル。
ひろゆきの心拍数が上がる。
光点との間を遮るものは売店のみとなり、
いよいよひろゆきの手にも力が入る。

(よし・・・)

ひろゆきが更に一歩踏み出そうとした瞬間。
ぱらららららら、と渇いた音が遠くない場所から響いてきた。

「なっ・・・!なんだ今のっ・・・・!」

思わず声をあげてしまい、はっと口を噤む。
銃声、だろうか。
近かった。方角は、北。
まさか、と心臓が脈打つ。

(カイジかっ・・・!撃たれたのかっ・・・?!)

急いで探知機を1キロメートルに設定しなおすも、
指が震えて上手く動かない。

「クソッ・・・!」

悪態を吐きながら、探知機に浮かび上がる1キロ範囲内の光点を確認する。
カイジと思しき点、そして後続のうち先頭の点が重なって見えた。

(間に合わなかったか・・・!)

今すぐにでもカイジの元へ助けに向かうべきだ。
しかし、相手が銃を持っているとわかった以上、迂闊に近付くことなど出来はしない。

(ぐっ・・・)

探知機の淡い光が、ひろゆきの心を余計に焦らせた。
カイジの光点は動く気配もなく、後続の光点たちも徐々に追いつこうとしている。

「ん・・・?」

(カイジは・・・さっき立ち止まった地点のままだとすると・・・
こっちがカイジ・・・)

ひろゆきは、
ほぼ重なっている二つの点のうち、南に位置する方を指差して確認した。

(となると当然・・・後続の先頭だった点がこっち・・・・?)

まだ耳に残る銃声を振り払うように首を振ると、ひろゆきは考える。

(おかしくないか・・・?
一度カイジの傍を通り過ぎたのに・・・振り返って撃つって形は・・・。
むしろ状況としては・・・カイジが撃ったって方が納得いく位置関係っていうか・・・)

1キロメートルに範囲設定した状態では、
詳細な位置関係まではわからない。
しかし、どちらの光点がより北に位置しているのか、という程度ならば
一目で視認することができる。

(・・・カイジが銃を隠し持っていた可能性・・・・
そもそも・・・田中って女に逃げられたわけではなく・・・・
互いに納得した上での離別・・・単なる別行動・・・・・?)

探知機では生死の確認は出来ない。
そのことを悔しく思いながらも、ひろゆきは冷静さを取り戻していく。

(・・・あとは・・・・・カイジだとしてきた光点が・・・・田中である可能性・・・)

不確定な要素が多すぎる。
先頭の光点との接触を阻止できなかった以上、
重なる二つの光点同士で何らかのやり取りがあったのは ほぼ確実だとみる。
尤も、その“先頭の光点”も、他の後続の光点から
追われる側であり、逃げる側だったはずだ。
つまり、より危険なのは 更に続く4つの光点が追いついたそのときだろう。

(どうするか・・・・。
銃を持っているのがカイジか田中であれば良いが・・・
相手方だった場合・・・俺が行ったところで敵うはずがない・・・!
俺自身が危険に晒されるとわかりきっている状況・・・身を投じるべきじゃない・・・。
とはいえ・・・平山のこともあるし・・・
光点がカイジだった場合を考えると・・・見殺しにするのは憚られる・・・・。
せめて当初の予定通り様子を見に行くだけでもしたいところだが・・・・・
先の銃声を聞いてからじゃあそれさえ危険・・・・
  ・・・・・・・平山には悪いが・・・
フェンス越しにC-3の様子をかるく窺うくらいしか俺には出来ないな・・・)

ひろゆきは重々しく溜息をつくと、銃声の鳴った方向を見つめる。
もしもこの瞬間カイジが殺されようとしているのであったら・・・
抱かなくても良い罪悪感を、抱えていかざるをえなくなるな、とひろゆきは思った。

突然。がしゃん、とフェンスが揺れる。
目を丸くするひろゆきだったが、即座に状況を理解した。

誰かがフェンスを、よじ登っているのだ。
これだけ大きく揺れたのだから、すぐ近くでその行動は為されている。
当然、答えはひとつ。

(“光点”が移動してるんだ・・・!)

ひろゆきは売店を回りこみ、
光点が存在するはずの場所へと駆ける。

「待てっ・・・!」

売店の横には 外灯に照らされてぽつりとベンチが置かれ、
先ほどまで存在していたはずの“光点の正体”はどこにも見当たらない。
ベンチの上で、一枚のメモがひらひらと存在を誇示していた。

(もうフェンスを乗り越えた後っ・・・!)

顔をあげ、目をこらすと、
フェンスの向こう、林の方角に人影が見える。
白髪の男、ひろゆきがこの島で強く邂逅を望んだその姿。

「あ、あかぎっ・・・?」

赤木しげる。
ここに居た光点の正体は、赤木しげるだったのだ。

赤木しげるが生きていたことに対する安堵、
これならば警戒ばかりせず、素直に接触すればよかったという後悔、
間近で見たことにより得られる“赤木しげる”が“赤木しげる”であるという確信。

様々な感覚が ひろゆきの胸中を巡った。

今からひろゆきがフェンスを上り、追いかけて彼を引き止められるか。
走ればあるいは・・・。

ふと、今は亡き赤木しげるの言葉を思い出す。
「負け」の可能性など考えるな、と。

本当に赤木に会いたいのならば、追いつけないなどと考えず、
すぐさまフェンスを飛び越えるべきなのだろう。

考えることで、己の可能性を狭めてきた。
それを赤木に諭されてからというもの
反省もしたし、自分を変えようともした。

その必要がないことに――
つまり、赤木に近付くために必要なのは己が己で有り続けることだと
本当の意味で気付くことが出来たのはごく最近であったが、
それでも時として、考えすぎるという性格は足を引っ張るのである。

ひろゆきは相変わらずなおらない
己の悪癖ともいえる長考に呆れながら
ベンチに置かれたメモを拾い上げ、目を落とす。

『第二回放送後 病院』

綺麗とも汚いともいえない、ただ乱雑な字だという印象だった。
簡潔な単語が二つ。考えるまでもない。
第二回放送後に病院へ来いという伝言。
何を考えての行動かは知れないが、
ここにいた男――アカギからのメッセージ。
あの男が残した ひろゆきにとっての光・・・。

「赤木さんっ・・・・!」

ひろゆきの声に、アカギは一瞬立ち止まったように見えたが、
振り返ることもなく すたすたと歩き去ってしまった。

(間違いない・・・あれは赤木しげる・・・・!)

ひろゆきは赤木の残したメモを大切そうに折りたたむと、ポケットにしまった。
その際、ベンチ周辺に何かが落ちていることに気がつく。

「パンくず・・・?」

ベンチの周りに散らかっているのは、
そう、正真正銘パンくず。

「ってことは・・・・」
食事。
支給された食料――食パンを夕食としてとっていたのだろう。

殺し合いの最中、ひろゆきも相当にズレた人間だと自負していたが、
赤木しげるという人間はそれ以上である。
ベンチに座って悠々と食事していた様子を思い浮かべると
あまりに滑稽で、ひろゆきは思わず笑ってしまった。

(ますます・・・赤木しげるだな)

そして、ひろゆきは確かに
林の奥へ消えていった赤木しげるに、己の望む道を見た気がしたのだ。



【D-3/アトラクションゾーン/夜中】

【赤木しげる】
 [状態]:健康
 [道具]:五億円の偽札 不明支給品0~2(確認済み)支給品一式
 [所持金]:600万円
 [思考]:もう一つのギャンブルとして主催者を殺す 死体を捜して首輪を調べる 首輪をはずして主催者側に潜り込む

※主催者はD-4のホテルにいると狙いをつけています。
※五億円の偽札
五億円分の新聞紙の束がジェラルミンケースに詰められています。
一番上は精巧なカラーコピーになっており、手に取らない限り判別は難しいです。
※2日目夕方にE-4にて平井銀二と再会する約束をしました。
※鷲巣巌を手札として入手。回数は有限で協力を得られる。(回数はアカギと鷲巣のみが知っています)
※鷲巣巌に100万分の貸し。
※鷲巣巌と第二回放送の前に病院前で合流する約束をしました。
※首輪に関する情報(但しまだ推測の域を出ない)が書かれたメモをカイジから貰いました。
※参加者名簿を見たため、また、カイジから聞いた情報により、
帝愛関係者(危険人物)、また過去に帝愛の行ったゲームの参加者の顔と名前を把握しています。
※過去に主催者が開催したゲームを知る者、その参加者との接触を最優先に考えています。
 接触後、情報を引き出せない様ならば偽札を使用。
 それでも駄目ならばギャンブルでの実力行使に出るつもりです。
※危険人物でも優秀な相手ならば、ギャンブルで勝利して味方につけようと考えています。
※カイジを、別行動をとる条件で味方にしました。

【井川ひろゆき】
 [状態]:健康
 [道具]:日本刀 首輪探知機 不明支給品0~2(確認済み)
     村岡の誓約書 ニセアカギの名刺 支給品一式×2
 [所持金]:1500万円
 [思考]:赤木しげるとギャンブルで闘う ギャンブルで脱出資金を稼ぐ 
      極力人は殺さない 自分の進むべき道を見つける C-3の様子が気になる

※村岡の誓約書を持つ限り、村岡には殺されることはありません。
※平山と21時にアトラクションゾーン事務所で落ち合う約束をしました。
※赤木しげるの残したメモを読みました。



088: 希望への標(前編)(後編) 投下順 090:抵抗
088: 希望への標(前編)(後編) 時系列順 101:回想
070: 陰陽 赤木しげる 101:回想
078:抜刀出陣 井川ひろゆき 098:追懐




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