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天の采配(後編) ◆mkl7MVVdlA氏


『盗聴の可能性有り 棄権は出来ない D-4が禁止エリアだから』

平山が示したメモは、ひろゆきを困惑させた。
当初、ひろゆきはギャンブルで一億稼ぎ、脱出する方針だった。
それ以外にも裏道的な方法で現状から逃れる術があるのかもしれないが、
あらかじめ設定されているルールをあえて破ろうとは思わなかった。

ゲーム序盤から『首輪探知機』という戦闘回避型のアイテムを所持していたことも影響している。
道程は順調とは言えなかったが、少なくとも、自分が思うとおりに行動することはできた。

だがここで、ひろゆきが選んだ道は一方的に塞がれる。
メモに書かれている内容は、少し考えればすぐに理解できた。
棄権を申請できる場所が「D-4」に限られているのだ。
ギャンブルルームならばどこでも棄権申請ができると思っていたが。
どうやら、そう簡単にはいかないらしい。


「……そんな…、これは……?」
「……カイジが…俺に……」
「本当なのか?」
「わからない。だがこの状況で嘘をつく意味がない。
 それにあいつが、嘘をつくとも思えない」
「……確かにな」

平山の言うとおり、カイジがわざわざこんな手のこんだ嘘をつくとは思えない。
ひろゆきが見た限りでは、カイジは信頼に値する人間だった。
強かな部分はあるが、それはあくまでもギャンブルの最中での話。
つまらないことで他人を騙し、陥れるような男ではない。
どこで情報を得たのかは不明だが、おそらくメモに書かれている内容は真実。

(カイジは、棄権申請という制度そのものを疑っていたからな…)

何かのきっかけで、確信を得たのだろう。
つまり、一億円集めても棄権はできない。
そう考えるべきなのだ。

「なあ、……どうするんだ。これから?」


平山が不安そうにひろゆきを見ている。
ひろゆきはメモを手にして、暫し考えた。

(俺はこれから、どうすればいい?)

ルールに則って考えるならば、殺し合いに乗るしかない。
だがそれは非常に勝算が低い勝負だ。
参加者には、原田のような荒事に慣れている人間もいるだろう。
そんな連中とやりあったとして、はたして勝てるだろうか。

(それに……)

最後の一人になるまで殺しあうということは、隣にいる平山を殺す、という意味でもある。
殺し合いに乗る以上、避けて通れない道だ。
むしろそれができないのならば、最初からそのようなくだらない勝負に乗るべきではない。
もっと別の生存手段や、脱出方法を考えるべきだ。

「……安心しろ。…俺は、殺し合いには乗らない」
「…ひろゆき……」
「向いてないんだ。殺し合いなんて…!
 そんな手段、選んだ時点で失敗するに決まってる…!」
「俺だって、生き死にが絡んだギャンブルはゴメンだ…!」
「そのメモは、見せる相手を選んだほうがいい。
 追い詰められてる人間が見たら、逆上して襲いかかってくる可能性がある」
「……ええっ!」
「地獄に垂れ下がってるクモの糸を目の前で切るようなものさ…」


平山に忠告しながら、ひろゆきは先ほど目にした光景を思い返していた。
田中沙織という女。彼女は確か、一億円を手にしていたはずだ。
今頃は、ギャンブルルームで棄権の申請をしているだろう。

この狂ったゲームから生還できる。
罪を犯したかもしれないが、それでも、命だけは助かったのだと。

罪悪感に苛まれながらも、安堵し、希望を抱くはずだ。
そこでもし、棄権は不可能だと主催側から告げられたら――

(……自暴自棄になる)

田中沙織は脱出の希望を打ち砕かれ、絶望するしかない。
生き残るために、殺人ゲームに乗るか。
それとも、生存そのものをあきらめて自殺するか。
これまでに見てきた彼女の性格からすれば前者だ。

あの場で傷ついていた赤松達の事が気にかかった。
今頃、無事でいればいいが。
もしどこかで田中と遭遇していたら、悲惨な状況になりかねない。


ひろゆきは探知機を取り出し、単位を1キロに設定して状況を確認した。
先ほど確認した時と比べ、光点の配置が大きく動いている。
即座に田中や赤松の位置を割り出すことはできなかった。

自分たちが身を休めている事務室に接近している光はない。
アトラクションゾーンを移動している光点はいくつかあった。
念のために、範囲を100メートルに切り替えて様子を探る。
さすがにそこまで接近している人間はいないようだ。

「それは?」

ひろゆきが取り出した道具を見て、平山がたずねてきた。

「コイツは首輪探知機。俺の切り札さ」
「……探知機……?そんなに便利なものがあるのか…?」
「ああ、こいつをもっている限り、無駄な戦闘は避けられる。
 とはいえ、バッテリーの問題があるから常時使用するわけにもいかないけどな」
「そんな、相手の位置がわかるなんて、反則じゃないか…っ!」
「俺だって、最初からコイツを持っていたわけじゃない。ギャンブルで巻き上げたのさ」
「ギャンブルで…?」
「村岡っていう男が相手だった。セコイが頭の回る奴だ。
 どこかで勝負する事になったら、裏をかかれないように気をつけた方がいい。
 勝つためには手段を選ばない。必ず何かしかけてくる。
 それより、切り札をわざわざ君に見せたのには、理由がある」
「……理由?」
「もしこの先、やるべき事がないなら。一緒に来ないか……?」



首輪探知機の存在を平山に見せたのは、ある種の賭けでもあった。
持っているだけで、生存確率が跳ね上がる道具だ。
生き残りを願う人間の目には、さぞや魅力的に映るだろう。
平山が奪いにかかってくれば、当然、争いになる。
とはいえ、いつまでも所持していることを隠しておくわけにもいかない。
この先、何度か画面を確認する必要が出てくるはずだ。
その度に言い訳を考えるのは面倒だし、誤魔化しきれるとも思えない。
一緒に行動するならば、最初のうちに見せてしまった方がいい。
たとえ争うことになっても、構わない。
決定的な場面で裏切られるよりは、ここで確かめるべきだ。平山という男の性根を。

「その、探知機。……範囲はどれくらいなんだ」
「………100メートルと、1キロだ」
「移動している人間の位置もわかるのか?」
「ああ。そのまま画面上に反映される」
「だったら、その道具、次に使うときは画面を俺に見せてくれ。多少は役に立てると思う」
「……え?」
「得意なんだ。何かを覚えたり、計算したりするのが。
 その証拠に、俺は今、地図を持っていない。
 さっき会ったカイジに渡してきた。内容は全部頭の中に入っているからな」
「……そんなことが…できるのか?」
「ああ。…それで食ってきたようなもんだ…。
 あんたは俺に、切り札の探知機を見せてくれた。
 だから俺も、頭の中に入っている情報は全部話す。
 といっても……、たいしたものじゃないがな。
 俺の所持品は参加者名簿と島内施設のパンフレットだった。
 そいつは全部カイジに渡した。内容はもちろん、頭の中に入っている」
「どうやら……まんざら嘘ってわけでもなさそうだな…」

ひろゆきは、平山の意外な才能に驚いていた。
この状況下で地図を手放すなど、自殺行為に等しい。
たとえある程度地形や建物を覚えたとしても、禁止エリアの追加や、
自分自身の移動にどこまで対応できるか怪しいものだ。
つまり平山は、地図を手放せるレベルで暗記ができる人間ということになる。
先程の言葉通り、暗記や計算で生計を立てていたとするならば。
――カメラや計算機のような精確な能力。
それはこの先、自分達が生きていく上で有効な武器になる。
問題は、平山につけられた厄介な道具だが…、
これは利根川に遭遇さえしなければいい。
そしてこちらは、他人との不用意な接触を避けられる首輪探知機がある。

(お前を、信用していいんだな……?)

平山は探知機を見ても、奪う気配は見せなかった。
それどころか、自分が持っている手札を開いて見せた。

(あとは俺が覚悟を決めるだけだ…)


「……平山、……俺は、このゲームと闘おうと思う…」
「ゲームと?」
「所詮は人間が決めたルールだ。どこかに綻びがあるかもしれない。
 この首輪だって、絶対に外せないとは限らない。殺し合わずに済む方法を探す。ここから、生きて脱出するんだ」
「ああ!こっちこそ、よろしく頼む…!もし、どこかで会えたら、カイジを…」
「仲間にしたいんだな?」
「俺の命がかかっているんだ!本当は、一緒に行動したいくらいだったが…。
 今は、田中って女を追いかけているはずだ」
「…それは…不味いな…」
「何が不味いんだ?」

ひろゆきは、アカギが残したメモの裏側に文字を記して平山に見せた。
『田中は、1億円持っている』
「え……!でも…っ……」

棄権はできないはずだ、と平山が視線で訴えてくる。
ひろゆきはそれに同意を示し、頷いた。

「じゃあ、今頃は……?」
「多分…な…。君だったら、どうする?」
「……わからない。かなりショックを受けると思うが。 その後は、何をやるか、見当もつかない…」
「俺でも、似たような状況に陥ると思う。もしかしたら、ヤケになって手当たり次第に人を殺しているかもな」
「そんな…っ、カイジが危ない……ッ!あいつは武器なんて何も持ってない。丸腰なんだぞ!」
「とは言っても、カイジがどこにいるか分からない以上、助けにはいけない」
「…あ、ああ……そうだな…」
「どこかでカイジと会ったら、その時点で協力を持ちかけよう。
 もともと俺を仲間にしたがっていたくらいだ。きっと力になってくれる。
 それまでは、生き延びてくれることを祈るしかない」

ひろゆきは改めて、自分が辿るべき道を考えた。

『第二回放送後、病院』

アカギが残していったメモ。そこに残された文字を見る。
何よりもまず、「アカギ」が何者なのか、確かめたい。
ゲームの綻びを探し、脱出することを目的にするとしても、それだけは譲れない。
そもそもこのゲームに参加した理由が、そこにあるからだ。
この先、どこでアカギに会えるか分からない。
カイジは心配だが、この機会を無駄にする事はできない。

(アカギ、まずはお前が何者か、見定めてやる!)

ひろゆきは平山に、病院への移動を提案した。
第二回放送後に待ち合わせをしている人物がいる旨を告げると、
カイジを心配しながらも同意してくれた。

「なあ、その、待ち合わせをしている奴って……」


歩きながら、平山が聞いてきた。
出発前に、相互に持ち物は確認してある。
ひろゆきは地図を二枚持っていたので、余った一枚を平山に渡した。
平山の記憶能力を疑っているわけでないが、念のためである。
平山が持っていた「防犯ブザー」の使い道は今のところ思いつかなかった。
引っ張れば大音量が鳴る道具がある、ということだけを記憶にとどめている。

「ああ。言ってなかったっけ。……アカギさ」
「……え…!?」

言った途端、硬直した平山を見てひろゆきは笑った。
まるでヘビに睨まれたカエルのような顔をしていたからだ。

「大丈夫さ」

何の根拠もなく、平山を励ます。
きっと大丈夫だ。あの青年が赤木しげるとは縁のない人間だとしても。
その名前をかたるのではなく、継ごうと考える人間ならば。
それはきっと、信頼するに足る人物であると、ひろゆきは自分自身に言い聞かせた。


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「光点が三つ…」
「どうする。まさか、中に入るつもりか……?」
「いや、まずは様子を見よう。ほかにも近づいてくる光点がある」
「集まってきてるっていうのか。アカギが呼んだ連中が」
「分からない。アカギが呼んだとは限らないだろう。もしかしたら、追われているのかも」
「何……ッ!」

病院付近まで辿り着いたひろゆきと平山は、念のために一度、首輪探知機を起動した。
範囲を100メートルに設定すると、病院周辺には意外な程多くの光点が集まっている事が分かる。
平山は画面を凝視し、停止している光点の位置と、移動中の光点を暗記した。
ひろゆきに合図をおくり、覚えたことを知らせる。
軽く右手を挙げるだけの単純な動作だ。


ここに辿り着くまでの道中、ひろゆきと平山はある一つの打ち合わせをしていた。

「…君が、暗記が得意ってことは、バラさない方がいいかもしれない」
「どういうことだ……?」
「一度見たものを全部覚えていられるなら、なるほど、心強い。
 カードでも麻雀でも、勝負を有利に運ぶことができる。
 だけど、それを相手に知られていたんじゃ意味がない。
 むしろ逆手に取られるのがオチだ」

ひろゆきは、これまでに自分が戦ってきた歴戦の猛者たちの顔を思い浮かべた。
原田、曽我、天、そして赤木しげる。
通常の打ち手が相手ならば、平山は無双に近い勝率を誇るだろう。
けれど、彼らのような怪物クラスが相手となるとまるで話が違う。
間違いなく、平山の暗記能力を逆手に取ってくる。
彼らは計算どおりに勝負を運ぶことなど許してくれない。
予想外の手段でこちらを打ちのめしてくる。
事実、ひろゆきは何度となく自分が持つ常識という壁を崩されてきた。
平山が持つ、自分にはない能力。
それは、理論的に物事を考えたがるひろゆき自身の性質と相性がいい。
だがそれを生かすならば、常識の枠を破る必要がある。
手始めに、その能力を隠す。徹底的な凡夫を装い、油断を誘う。
ひろゆき自身、かつて成功した奇襲はその一手につきた。
小物を装い、警戒を解く。その隙に懐にはいりこみ、一撃で勝負を決める。



「…こっちだって、そこまで馬鹿じゃない。悟られないようにする工夫くらいはできる」
「普段はそれでいい。覚えた事を他人に悟られないようにしていればいそれで…。
 だけど、勝負の時はそれだけじゃだめだ…」
「じゃあ一体、どうしろって言うんだ」
「考えるんだ。…俺も考えるから、君も考えてくれ」
「……ああ、……分かった…」

以降、平山は通常は短い動作や視線でひろゆきに「覚えた」ことを知らせるようにしている。
ひろゆきは平山の合図を受けて、首輪探知機のスイッチを切った。
物音をたてないよう警戒しながら、光点が誰であるか確認するために移動を開始する。
病院の外側を、物陰に隠れながらゆっくりと歩いた。
駐車場からつながっていると思われる裏口、二階に続く非常階段脇の非常口には誰の姿も見えなかった。
人影が見えたのは、表玄関にさしかかってからである。

「あれは……?」




先に気づいたひろゆきは、闇の中で目をこらした。
病院周辺に明かりはない。その先に小さな建物の影が見える。

「一人、だな…。ほかの二人はどこだ…?」
「あっちに建物の影が見える。…多分、ギャンブルルームだ」

一度ギャンブルルームを使用したことがあるひろゆきは、それが同じ建物だと判断した。
ギャンブルルーム周辺ならば、人の数が多いことも頷ける。
残り二つは、あの部屋の中かと思ったが、平山がそれを否定した。

「さっき見た光点の位置からして、残り二つは病院の中…」
「……そうなのか?」
「位置関係からするとそうなる。どういうことだ。待ち合わせをしているなら…っ、あ…!」

平山はその時になって初めて、病院の表玄関に立っている男が誰だか察した。
見る間に青ざめ、小刻みに体を震わせはじめた平山の様子にひろゆきが慌てた。

「おい、大丈夫か!」
「……と、……とね、とねがわぁ…ぁぁッ」



その場に尻餅をついて座り込み、裏返り、掠れた声で平山が呟いた。
病院前に立っている男が、平山の首に厄介な道具をつけた張本人だと知って、ひろゆきが表情を変える。

「あれが、利根川…」
「に、逃げよう、頼む、見つかったら俺の命が…ッ!」
「大丈夫。まだこっちは見つかっていない。
 それに、あそこで待っているということは、利根川がアカギと組んでいる可能性が高い。
 だとしたら、俺は警戒されずに接近する事ができる。
 うまくいけば、ギャンブルで君の起爆スイッチを奪えるかも」
「そんな無茶な!あそこに立っているのは偶然かもしれないだろう!
 中にはほかに2人いるんだ。そっちがアカギの可能性だってある。
 だとしたら、中と外に分かれて待っている理由がない。
 もしかしたらアカギも、利根川に追われているのかも……!」
「……それなら、尚更、ここで逃げるわけにはいかない」
「ひ、ひろ……っ?」
「俺は、どうしてもアカギに会いたい。多少の火傷は覚悟の上だ」
「……死ぬかもしれないんだぞ…」
「……たとえ……死んでも…」
「……ひろゆき」
「死んでも、悔いはない。…ごめんな、平山。
 一緒に組もうって言ったばかりで、こんなこと言って。
 危ないと思ったら、一人で逃げてくれ」
「…ば、……馬鹿、お前……今更そんな…」


平山は、ひろゆきの言葉を聞いて首を振った。
ここまで言われて、ひろゆきを置いて逃げることなどできない。
さすがに利根川の前に出て行く勇気はないが。
ここで隠れて、状況を見守るだけならば。
その程度ならば踏み止まることが出来ると、自分に言い聞かせた。
足は震え、寒気がひっきりなしに襲ってきているが、なんとか身を起こしてひろゆきの隣に並んだ。

二人が話している間に、病院の玄関口には人影が増えていた。
病院内部から人が出てきた様子はない。
先ほど首輪探知機を起動した際、こちらに向かい移動している光点が2つあった。
そのうちのどちらかだろう、と平山は判断した。
利根川は、新たに現れた男と親しげに言葉を交わしている様子だ。
少なくとも敵対しているようには見えない。

「アカギじゃない。……利根川の知り合いか?」


平山は利根川から命じられていた、捜索人リストを思い浮かべた。
兵藤、一条、遠藤、カイジ。
このうちカイジは除外するとして、残るは兵藤、一条、遠藤の三人。
ただし、遠藤は見つけ次第殺すべしとされていた。
つまり利根川とは敵対していると考えていい。
そうすると、残っているのは兵藤と一条だけということになる。

「兵藤か、一条の可能性が高いな…」

利根川ともう一人はその場で殺し合うでもなく、
むしろ楽しげに話し合っているように見える。
会話の内容までは定かではないが、何らかの協力関係を結んでいるように思えた。
平山が暗記している参加者名簿によれば、
利根川も一条も旧帝愛の社員ということになっている。
そして兵藤は帝愛会長の息子と記されていたはずだ。
もしも利根川以外のもう一人が、一条か、兵藤だとすれば。
帝愛という繋がりで協力体制が生まれていたとしても不思議ではない。



「…外が2人で、中が2人か。人数を集めて、今から内部を襲撃するつもりか?」
「わからない。だとすればますます、中の様子が気になる」
「……だとしても、中に誰がいるかは分からない以上……」
「つまり、中にいるのはアカギじゃないと言い切れないってことさ」
「…無茶だ。それに、利根川は銃を持ってる……」
「拳銃を…?」
「…ああ……どこに持っているのか、パッと見では分からない。俺は、それに騙されて…」
「どこかに隠し持ってるのか…?」
「気がついたら手の中に銃があった。かなり小さかったと思うが、定かじゃない。
 とにかく、気がついたら撃たれてたんだ……!」
「分かった。中に入ったら怪我の手当てもしよう…」

ひろゆきは、いつの間にか日本刀を片手に握っていた。
鞘を払い、白銀の刃を闇の中に晒す。
平山はそれを見て、酸素不足の金魚のように口をぱくぱくさせた。
冗談じゃない。ここでひろゆきを死なせてしまえば、自分はまたひとりになる。
死ぬだけならばまだいい。
利根川一派にとらえられて、自分が生きていることを喋りでもしたら。

――考えただけで、目の前が真っ暗になった。

「頼む、後生だ!……いかないでくれ…」
「……大丈夫だ。裏口に回る。利根川たちとは接触しない。中にいるやつらを外に連れ出す」
「その前にあいつらが入ってきたらどうするんだ!」
「いますぐに入ってくるって雰囲気でもないだろう。むしろ早く動いた方が勝算は高い」
「罠だったらどうするんだ。中にいる連中も、外にいる二人の仲間だったら」
「……その時は、一目散に逃げるさ」
「逃げ切れるわけが、ないだろう!お前、どうしてもアカギに会いたいんだろう。
 だったら、聞き分けてくれ。意地をはるのも結構だが、死んだらそれまでなんだ。
 死んでもいいとか、死ぬ覚悟はできているとか、俺にはさっぱり理解できない。
 俺はカイジと会って、約束した。次に会うまでは、何があっても、生き延びる。
 だからお前も、約束してくれ。せめてアカギと会うまでは死なないって」
「……平山…」
「……頼む……」

話しているうちに感情がたかぶったせいか、平山は涙を流していた。
自分の死を恐れてひろゆきの無茶な行動をたしなめるつもりが、
いつの間にか本当にひろゆき自身のことを心配していた。
鼻水を啜りながら必死で訴える平山の様子を見て、ひろゆきは柔らかく笑った。

「分かった。…少しだけ、考えをかえる」
「……ひろ」
「裏口か、非常口。そこから中に入ろうと思う。それは譲れない。
 だが、もし、鍵があいていなかったら、その時点で侵入は諦める」
「鍵があいていたら、入るっていうのか……」
「中にいる人間に気づかれないように、できるだけそっと入る。
 そこにいるのがアカギだったら、外に連れ出す。
 もしアカギじゃなかったら、即座に逃げる」
「……本気なんだな…?」
「……ああ。それから、君にはこれを渡しておく」
「…探知機……、そんなもん手放してどうするつもりだ…!」

ひろゆきは、自分が持っている首輪探知機を平山に手渡した。

「万が一、中の連中が殺し合いを楽しむような危険人物だったり、
 外にいる利根川達の仲間で、俺が捕まったり、殺されたりした場合。
 首輪探知機が奪われたら、それは、とても危険なことだと思う…」
「……確かに。悪用されること間違いなしだ」
「カイジや君や、原田さんや…、とにかく、
 俺が知ってる人たちの危険がグンと跳ね上がる。
 だから、これは中に持っていけない。危ないと思ったら、君が持って逃げてくれ。
 そのかわり、こいつを借りるよ」

そう言って、ひろゆきは平山の持ち物から防犯ブザーを借り受けた。
武器とブザーを持ち、一人で病院の中に入る。
もしも内部で危険な目にあったら、大音量が流れるブザーを鳴らすつもりだ。
外にいる平山にも、危険を知らせるために。

「いいのか。…中で、何もなくても、俺が、持ち逃げするかもしれないだろう」
「……その時は、預けた俺が悪かったって思うことにする。恨んだりしないから、安心してくれ」
「……お前、……お前は、…ッ、…どうして、そんなに強いんだ」
「俺が、……強い?」
「こんな状況で、どうして他人を信じられるんだ。誰かを助けにいこうなんて思えるんだ。
 俺には出来ない。逆立ちしても真似できない。
 どうしてわざわざ、自分を捨てるようなことを……、
 死ぬかもしれないような危険を選択できるんだ!」
「…分からない。……ただ…、俺の中には、熱があるんだ」
「……熱…?」
「ただ……やる事…。その熱、行為そのものが……生きるってこと…!
 いいじゃないか…三流で…! 熱い三流なら上等よ…!
 フフ…、実際俺は、三流だよ。だけど、それで構わない。
 死のうと思っているわけじゃない…。
 死を恐れるあまり、足を止めてしまうこと…。
 今の俺が恐れているのは、それだけさ…」

ひろゆきは、抜き身の日本刀を片手に茂みの影を縫うようにして移動していった。
その場に残された平山は、それ以上、ひろゆきを引き止めることができなかった。

「……何だよ……、何だよ、……何なんだよ…っ…!」

誰もいなくなり、一人きりの闇の中で、小さく呟く。

「……なんで、……お前も、カイジも……ッ」

平山は泣いた。わけもわからず、泣いた。
これまでに感じたことのない熱を感じて、その場でぼろぼろと涙をこぼした。
死が怖い、死にたくないと思う。
それのどこが悪い。生物として、あたりまえの事ではないか。
それなのになぜ、カイジもひろゆきも、それを目の前にしてあそこまで熱くなれるのか。
わからない。まるでわからない。
わかるのはただ、自分は、ここから動いてはならないということだけだ。
間違っても首輪探知機の持ち逃げはできない。
万が一、ひろゆきの身に何かあれば、この場から逃げるのではなく、踏み止まる。
せめて何がおきたのか、すべて見届けてやろうと思った。
すべてを見届ける。
それが、死地に飛び込むことのできない男ができる、唯一の行為だ。

だがその決意も、次の瞬間には大きく揺らぐ。
(人が、増えた……!)

利根川が立っている玄関に、もう一人の男の影が見えた。
しかもその男は、利根川たちと敵対するどころか、迎合する動きを見せている。

(利根川の他に二人。…やはり、兵藤と一条か……?)

可能性は決して低くない。
よく見れば三人の関係は対等ではなく、上限関係のようなものすら感じられる。
だとすれば、帝愛というつながりにも現実味が沸いてくる。
なにより、病院の外に立つ人数が3人に増えたことで、中に向かったひろゆきの危険が増した。

(……どうする。追いかけて、知らせるべきか…?)

今から走っておいかければ、ひろゆきの無謀な行動をとめられるかもしれない。
だが、もし間に合わなければ。ひろゆきが中に踏み込んだ後だったら…?

(…やっぱり、…駄目だ…!)

いくらこの場で待ち合わせをしているからといって、中の人間がアカギだと確信は持てない。
そうである以上、平山の理屈や感性では、ひろゆきの行動はリスクが高すぎる。
ギャンブルとして論外。認められる選択ではない。

平山は首輪探知機の電源を入れた。範囲は100メートルのままだ。
病院内部の光点2つは相変わらず不動。外側の3つは、玄関をはさむ形で固まっている。
移動している光点が一つ。病院内部に入り込んでいるようには見えない。

(もしかしたら、まだ外壁を移動しているのか?)

病院への侵入経路は、平山が見た限りでは三つ。
表玄関、裏口、非常口。ひろゆきが向かったのは、裏口か非常口だ。
鍵がしまっていたら、中に入ることは諦めるといっていた。

(鍵が閉まっていた……?)

ひろゆきは病院の中に入れずにいるのかもしれない。
だとすれば、まだ間に合う。まだ引き返すことができる。
危険すぎる選択の回避。それは何も、恥じる事ではない。

(俺は、……俺たちは、生き延びるんだ…!何があっても…!)

平山は、茂みの影から離れると、ひろゆきが走っていった方角を目指して走り出した。
探知機は作動させたまま。走りながら位置を測る。
まだ三人は動いていない。中の二人の場所も変わらず。
自分だけが、ひろゆきに近づいている。

(あと少し、この林を抜ければ……!)

木々の間を走り抜けたところで、非常口の前に立つひろゆきの姿が見えた。

「……ひろ、待て、……やっぱり駄目だ!」

周囲に響かぬよう小声で言ったせいか、ひろゆきには聞こえなかったようだ。
それどころか、小走りに近づいている平山の存在に気がついてもいない。
片手に日本刀を握り締め、ドアの手をかけた。
病院内部に対して意識を傾け、緊張しているせいで、かえって周囲が見えていないようだ。
平山は首輪探知機の電源を切ると、上着のポケットに放り込み、走る速度を上げた。

「……ひろ、待て!」
「――――ッ!」

突然平山の気配が背後から迫ってきたことに気づいたひろゆきは、驚いて日本刀を振り回した。
刃物が目の前を通り過ぎ、平山が恐怖のあまり前のめりに転倒する。

「うわっ!」
「……ひいいぃ!」

ひろゆきは相手が平山だったことを知るや否や、日本刀を手放した。
そのおかげで刃が平山を傷つけることはなかったが、
片手で握ったままの非常口のドアノブの存在を忘れていた。
倒れこんできた平山と、ドア口のひろゆきがぶつかる。
ドアに響く重い金属音とともに…

――――ガチャ。

非常口のドアが開いた。
背の支えを失い、ひろゆきが中に倒れこむ。
平山は咄嗟に壁をつかんでこらえようと思ったが、重さを支えきれず、ひろゆきの上に倒れこんだ。

「……誰だ…!」

運悪く、内部から声がかかる。ドスの聞いた男の声。
平山は慌てて、ポケットの首輪探知機を取り出そうとした。
外と中の人員配置がどうなっているのか、確認しようとしたのだ。
しかしそれを、下敷きになっているひろゆきの手がとめた。

「……ひろ、…お前」
「…迂闊に、人に見せたら、駄目だ…。それに、心配しなくても、大丈夫」

ひろゆきは、平山の体の下から抜け出すと、腕をさすりながら立ち上がった。

「……きっと、どこかにいると思ってました。――久しぶりです。天さん」

ひろゆきの視線の先には、白髪の老人と、顔に無数の傷を負った大柄な男が立っていた。




【E-5/病院内/真夜中】

【天貴史】
 [状態]:健康
 [道具]:鎖鎌 不明支給品0~2 通常支給品 懐中電灯
 [所持金]:500万円
 [思考]:助けが必要な者を助ける アカギ・赤松・治・石田に会いたい
 “宇海零”という人物が気になる 主催に対する怒り
※鷲巣から『特別ルール』を聞いています。確信はしていませんが、可能性は高いと思っています。


【鷲巣巌】
 [状態]:疲労、膝裏にゴム弾による打撲、右腕にヒビ、肋骨にヒビ、腹部に打撲
     →怪我はすべて手当済
 [道具]:防弾チョッキ 拳銃(銃口が曲がっている)
 [所持金]:0円
 [思考]:零、沢田、有賀を殺す
     平井銀二に注目
     アカギの指示で首輪を集める(やる気なし)
     和也とは組みたくない、むしろ、殺したい

※赤木しげるに、回数は有限で協力する。(回数はアカギと鷲巣のみが知っています)
※赤木しげるに100万分の借り。
※赤木しげると第二回放送の前に病院前で合流する約束をしました。
※鷲巣は、拳銃を発砲すれば暴発すると考えていますが、その結果は次の書き手さんにお任せします。
※主催者を把握しています。そのため、『特別ルール』を信じてしまっています。


【井川ひろゆき】
 [状態]:健康
 [道具]:日本刀 防犯ブザー 不明支給品0~2(確認済み)
     村岡の誓約書 ニセアカギの名刺 アカギからのメモ 支給品一式×2
 [所持金]:1500万円
 [思考]:赤木しげるとギャンブルで闘う この島からの脱出 
      極力人は殺さない 
※村岡の誓約書を持つ限り、村岡には殺されることはありません。
※赤木しげるの残したメモ(第二回放送後 病院)を読みました。
※カイジからのメモで脱出の権利は嘘だと知りました。
※二枚ある地図のうち、一枚を平山に渡しました


【平山幸雄】
 [状態]:左肩に銃創 首輪越しにEカードの耳用針具を装着中
 [道具]:支給品一式 首輪探知機 カイジからのメモ
 [所持金]:1000万円
 [思考]:田中沙織を気にかける 利根川から逃れる術を探る
     カイジが気になる
※利根川に死なれたと思われていることを知りません。
※カイジからのメモで脱出の権利は嘘だと知りました。
※ひろゆきから地図をもらいました




103:同盟 投下順 105:慙愧
103:同盟 時系列順 109:劇作家(前編)(後編)
079:天恵 天貴史 119:盲点
084:帝図(前編)(後編) 鷲巣巌 119:盲点
098:追懐 井川ひろゆき 119:盲点
098:追懐 平山幸雄 119:盲点




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