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英雄(後編) ◆uBMOCQkEHY氏


「治を、どこかに埋めてやりたいんだが…。手伝ってくれるか」
「は…?」
何を言っているのか理解しかねるといった遠藤を横目に、黒沢は言った。
「生きている者の自己満足かも知れないが…、少しは心が楽になる。田中さん、アンタもだ」
しかし、黒沢の言葉が耳には入らないのか、沙織は呆けた表情のまま遠くを見つめている。

遠藤は肩をわなわなと震わせ、憤激を露わにする。
「オレは反対だっ・・・!なんでそんなことをしなくちゃいけないっ・・・!」
確かに黒沢の言う通り、もしかしたら、罪の意識は薄れるかもしれない。
しかし、埋葬という儀式の間、遠藤は頭から血を流して息絶えた治を直視し続けなければならないのだ。
治の亡骸は無言のまま訴え続けるだろう。
“どうして、僕は死ななければならなかったのですか?”
“僕は死にたくない・・・”
“とても痛い・・・助けて・・・”
この黙然たる訴えは、遠藤にとって、鋭利に研ぎ上げた刀で切りつけられるに等しかった。
本人は気付いていないが、その刀は取り返しのつかない罪を憎む遠藤の良識でもあった。

遠藤はどこまでも常人であった。
常人であったが故に持ち合わせていなかった。
涯のように己の罪科を受け入れる勇気を、沙織のように罪と己を放棄する勇気を。
だからこそ、遠藤はいつまでも罪の重さから抜け出すことができず、
己を責め立てる声に怯え続けなければならなかった。
まさにそれは出口のない迷路のような悲嘆の責め苦。
遠藤の駄々っ子のような反論は良心の呵責からの逃避に他ならなかった。

しかし、遠藤の心情など知らない黒沢は尚も突っぱねる。
「何が何でも三人で埋葬するんだっ・・・!」
「嫌だっ!!」
「なんで、反対するんだっ・・・!」
「嫌だからだっ!!!」

こんな子供の口喧嘩のような押し問答が何度も繰り返された。
やがて、黒沢はふと尋ねる。
「そういえば・・・どうしてアンタはダイナマイトのこと・・・知っていたんだ・・・?」
「それは・・・」
遠藤は気まずそうに口ごもる。
先程、治のことを問われ、言い訳の如く口を滑らせてしまったことを思い出した。
あの時は遠藤も黒沢も治の死に重きを置いていたため、軽く流されてしまっていたが、
ここに来て運悪く黒沢がそのことを思い出してしまったのだ。
勿論、遠藤がダイナマイトのことを知りえたのは参加者のデータを送信するフロッピーを持っていたからである。
遠藤は己の失態に舌打ちをし、無言を貫く。
黒沢はなぜ、遠藤が石田の持ち物であったダイナマイトの存在を知りえていたのかを考えていく内にあることに気付いた。
遠藤のディバックが不自然に膨らんでいることを。

黒沢は遠藤に近づき、手を伸ばす。
「支給品に秘密がありそうだな・・・お前のバック・・・ちょっと見せてくれないか・・・」
「えっ・・・ふざけるなっ!!!」
遠藤は思わず、自身のディバックを抱え込む。
一種の防衛本能から生まれた行動であるが、それはディバックに秘密があると告げているようなもの。
いよいよ確信を覚えた黒沢は遠藤のディバックに掴みかかる。
「一体、お前は何を持っているんだっ!!!」
「やめろっ!!!」
黒沢の猛攻に対して、遠藤はディバックを奪われまいと、必死に抵抗する。
しかし、骨折など大けがを負った遠藤に対して、無傷の黒沢。
しかも、黒沢は仕事柄、体力だけには自信がある。
どちらに軍配が上がるのかは至極当然の結果であった。
はたして、黒沢は大人が赤子からおもちゃを取り上げるかのように、遠藤からディバックを奪ってしまった。

「か・・・返せっ!!」
遠藤が渾身の力で黒沢に掴みかかる。
しかし、所詮、満身創痍の人間の“渾身”の力である。
黒沢にとっては子犬がじゃれている程度の抵抗でしかない。
さして大した反抗ではないが、やはり気になるものは気になる。
黒沢は遠藤に親指の腹に引っかけた中指を突き出した。
「ちょっと・・・待ってくれないか・・・?」
この直後、遠藤の眉間にぺチンと痛みが炸裂した。
遠藤は“ぐあぁぁぁ・・・!”とうめき声をあげ、仰向けに転倒してしまった。
「え・・・嘘だろ・・・?」
黒沢は“すまなかった・・・”詫びながらも、複雑そうにため息をつく。
「そこまで痛がらんでも・・・」

黒沢が遠藤にしたのは、世間一般で言う“デコピン”。
勿論、黒沢は牽制目的で放ったため、力はまったくかけていない。
しかし、20年間の土木作業で培かわれた松の幹のように硬い指ともなると話は少し変わってくる。
本人は意識していないが、その威力は遠藤の額を赤く腫れあがらせる程だった。
遠藤は額を抱えながら、あることを思い出した。

――そう言えば、こいつは平手打ちで一人殺してるんだっ・・・!

殺された相手は三好。
頭の打ちどころが悪かった事故だったこともあるが、素手で他者を殺したのは意外なことに現時点では黒沢一人。
裏返せば、黒沢の腕力が規格外の金剛力であるという証明でもあった。

――もし・・・これ以上、抵抗すれば・・・

次の死亡者リストに名前が載るのは自分である。
遠藤からみるみる反発心がそぎ落とされていく。
遠藤は捨て鉢な態度で叫んだ。

「この野郎っ・・・もう勝手にし・・・」
しかし、その言葉はとまった。
遠藤は部屋をきょろきょろと見回す。
「おい・・・田中沙織はどこだっ・・・!」
黒沢も沙織を探すが、リビングにはその姿はすでに存在しなかった。
どうも男二人がもみ合っている最中に姿を消したらしい。
「どこにいったんだ・・・アイツ・・・」
「早く見つけるんだっ!!!」
遠藤は怯え混じりの金切り声で黒沢を怒鳴りつける。
黒沢も焦ってはいたが、沙織の脅威を黒沢以上に直接経験しているだけに、遠藤のおののきは黒沢の比でない。

黒沢は遠藤の狼狽に思わず閉口する。
「お・・・おい・・・確かにアイツは殺し合いに乗っていたが・・・
今は頭がおかしくなっていて・・・殺意はもうないんだ・・・」
「フン・・・どこまでもヌルい奴だなっ・・・!」
遠藤は危機感の欠片も無い黒沢の当惑をせせら笑う。
「殺意がないだと・・・アイツはな・・・助かるためなら何だってするっ・・・!
現に、石田のほかに、二人も殺しているんだっ・・・!」
「ふ・・・二人もだと・・・!」
黒沢もこれには絶句する。
あの華奢な身体で、そんな凶行に及ぶことができるのか。
色を失う黒沢に、遠藤は理解の兆しを見届け、更なる追撃をする。

「両方男で、しかも、片方は “平成の殺人鬼”・・・有賀研二っ・・・!」
「あ・・・有賀・・・」
有賀研二、この名はニュースに疎い黒沢でも耳にしたことがある。
かつて、関東一円の1都6県で7件の連続殺人事件を起こし、世間を震撼させた殺人犯。
女性や子供など弱者を生きたまま体を切り刻むなどの逸脱した凶悪さは、日本の犯罪史上類を見ない。
「あと・・・もう一人は・・・確か・・・」
ここで遠藤は言葉を詰まらせる。
有賀研二はそのネームバリューから印象深い。
しかし、もう一人の方は無名の一般人であるため、中々名前が出てこなかった。
遠藤は少し考えた後、思い出したらしく、おぼろげな口調で呟く。
「・・・確か・・・赤松修平・・・って名前だったか・・・」

この直後、黒沢は弾けるように廊下へ飛び出した。
赤松修平。
黒沢の同僚であり、黒沢の理想の生き方を常に歩む男だった。
土木の資格を大量に取得し、仕事は出来、家庭を持ち、仲間からは信頼され、穏健で、無欲で――。
あまりにも理想的すぎたために、赤松がどこかで活躍したという話を耳にする度に、
不愉快さを覚えることさえあった。
その男がなぜ、このゲームに参加し、田中沙織に殺されたのか。
それを問い質したい一心で、黒沢は沙織の姿を探した。

「馬鹿なヤツだ・・・」
遠藤は黒沢の醜態を唾棄するように嘲笑う。
あの様子だと、黒沢と赤松という男は面識があるようだ。
今、思い出した事であるが、赤松は工藤涯という少年を殺そうとした沙織を説得し、2000万円を渡した。
しかし、棄権は不可能。
それを知った沙織は無差別殺人、優勝というスタンスを取り、
手始めに助けてもらった赤松達に対して恩を仇で返すかのように、その命を狙った。
ここで赤松達が沙織を殺害していればよかった。
現に、赤松達は沙織を気絶させることに成功し、そのチャンスがいくらでもあった。
だが、そのチャンスを“可哀そうだ”という甘っちょろい理由で、見逃したのだ。
結果、赤松は重症の身体で無茶な逃亡を図り、その寿命を縮めてしまった。
その愚鈍さがどこか黒沢と相似しているように思えてならなかった。

――何処までも甘ちゃん・・・!そういう隙を付け込まれた・・・!

赤松や黒沢のようなお人よしは、この謀略渦巻くゲームの中では付け入れられるためにあるようなものだ。
良いように利用され、価値がなくなれば即刻消される。

――そうさ・・・このゲームでは甘さこそ命取りっ・・・!
   とにかく勝てば官軍・・・!
   どんな外道な行為、理由でも・・・相手が誰であろうと・・・

遠藤は笑った。
赤松の聖者の如き清らかな暗愚さを。
その聖者を死にたくないという俗物的な欲望で惨殺した沙織の痛快さを。
しかし、その嗤笑はやがて陰りを見せる。
「罪のない男を自分本位な理由で殺すか・・・オレと一緒じゃないか・・・」
遠藤の笑いはどこか自嘲めいたものだった。



黒沢は廊下を見渡した。
廊下はねっとりとした墨汁のような闇が広がり、黒沢の行く手を阻む。
しかし、例外的に先程まで黒沢達がいたリビング、廊下の先にある台所、
この二か所には窓があるためか、扉の隙間からぼやけたような光が漏れている。
玄関が開閉する音は聞こえなかった。
だとすれば、沙織はまだ、この民家の中にいると思われる。
歩くのに不自由するほどの闇の中で目指すとすれば、それは光。

――田中沙織がいるのは・・・台所っ・・・!

意を決し、黒沢は台所の扉を開けた。
台所は何もない部屋だった。窓辺に設置されているガスコンロと流し台が、
ここは台所であると薄弱な主張をしているが、別段、物置と言っても差し支えがなかった。
窓から月明かりが射しこんでいるとは言っても、その閑散さは閉館したダンスホールにどこか通じる。

その部屋の中央に沙織はいた。
漂う霧のようにおぼつかない足取りで台所を旋回する。
沙織の視線は虚空に据えたきり、はたと動かない。
明らかに、沙織は現実ではなく、幻想の中を彷徨っていた。

それが分かっていたとしても、黒沢は沙織の真正面に立ち、その腕を掴む。
「お前・・・赤松を殺したのは・・・本当なのか・・・!」
「あ・・・あ・・・」
呼びかけた所で、沙織の視線は黒沢と交わることはない。
今の沙織は現実を正しく認識する能力を失っている。
誰の目から見ても、話が通じるようには思えなかった。
それでも黒沢は問い直す。
「頼む・・・教えてくれ・・・赤松は・・・どうなっちまったんだ・・・」
沙織にそれを尋ねるのは砂漠でオアシスを探すほどに無謀で且つ見込みのない行為かもしれない。
けれど、黒沢はそれでも知りたかった、否、知らなければならなかった。事実を。
事実を渇望し、問い質し続ける黒沢の声は怯えた子供のように脆弱に震えていた。

黒沢が何度尋ねたことだろう。
「あ・・・赤松・・・さん・・・」
突然、沙織から言葉が漏れ出したのだ。
「お・・・思い出したのか・・・!」
黒沢は沙織を凝視する。
その直後、黒沢の目に飛び込んできたのは予想だにしなかった光景だった。
「ご・・・ごめんなさい・・・」
沙織の瞳から涙が滲んでいた。慟哭に喉を震わせる。
「ごめん・・・なさい・・・ごめんな・・・さい・・・あ・・・赤松さ・・・ん・・・」
この告白は沙織が赤松の殺害を認めたことに他ならなかった。

「分かった・・・」
沙織の謝罪は黒沢を叩きのめした。
黒沢は俯いたまま、沙織を手放した。
支えを失った沙織は糸が切れた人形のように、へたり込む。
「あぁ・・・ごめんな・・・さい・・・ごめんなさい・・・あぁ・・・」
謝罪を言うべき相手がすでにこの世に存在しない事実を知ってか知らずか、沙織は懺悔を繰り返す。

黒沢はその場に立ち尽くしながら、拳を震わせ、涙を流した。
赤松の死を知るきっかけは思えばあったのだ。
その機会を黒沢は逃してしまった。
否、逃してしまったのではなくて、目を逸らしていただけなのかもしれない。
心の底で理解することを拒んでいただけなのかもしれない。

嫉妬深く思いながらも、同時に羨望を抱いていた男が、こんな下劣なゲームで自分より早く命を落としていたなどとは――。


赤松には妻がいた、子供がいた。
家族を置いて、客死したことはさぞや無念だっただろう。
赤松の心中を察すれば察するほど、涙を止めずにはいられなかった。
黒沢は嗚咽を洩らしながら、亡き赤松に問いかける。
「どうして・・・赤松っ・・・死んじまったんだよぉ・・・」

「赤松が死んだ経緯・・・知りたいか・・・」
黒沢は背後からの声に振り返る。
遠藤が壁に寄りかかりながら立っていた。
遠藤はディバックを黒沢に差し出す。
「オレの支給品は参加者の動向を追うことができる・・・それで確認しろ・・・」
黒沢は涙を拭いながら、そのディバックを受け取る。
「アンタ・・・あんなにディバックの中身見られたくなかったのに・・・どうして・・・」
遠藤は長い沈黙の後、それに答える。
「さあな・・・」
遠藤は話をはぐらかすように“とにかく早く見ろ・・・”と黒沢を急かす。
黒沢は言われるがまま、ディバックからノートパソコンを取り出し、電源をつけた。
慣れない手つきでありながら、必死に事実を知ろうと奮闘する黒沢の様子を遠藤は静観する。

遠藤の行為は助け舟以外にほかならない。
それどころか、自分の手の内を見せてしまったのだから、
今後、黒沢と駆け引きを行う上では不利になるのは必至。
遠藤とて、このゲームでは慈愛という甘さが命取りということはよく弁えている。
しかし、消えぬ罪に懊悩する沙織、知り合いの死に切歯扼腕する黒沢の姿は、
殺人という罪から逃れようと足掻く自分と重ねずにはいられなかった。
遠藤が黒沢に参加者のデータを見せようと思ったのも、自分と重なる彼らを助けることで、精神の枷を外したかったため。
つまりは、まやかしの罪滅ぼし。
それが最もたる理由であるが、更に言及すれば、黒沢という男に同情を覚えたからというのもある。
しかし、哀れなことに本人はその両方の感情に気づいてはいない。
遠藤は呆れかえったようなため息を洩らし、もっともらしい言い訳を自分に言い聞かせる。

――今、この場で頼れるのはコイツぐらい・・・
   まず、号泣を止めねぇと、話にならねぇからな・・・




「嘘だろ・・・」
黒沢はパソコンの画面を直視しながら、愕然とする。
赤松が死んだ記録を改めて確認したということもそうであるが
、黒沢が目の当たりにしてしまったのは、それ以上に残酷な事実であった。
「なぁ・・・」
黒沢は半ば抜け殻のような眼差しで遠藤を見上げる。
「“対主催”って・・・何だ・・・?」
「“対主催”・・・か・・・」
読んで文字の如くだろと遠藤は心の中で突っ込むも、黒沢は裏社会とは無縁の生活をしていた人間なのだから、
その概念を受け入れることができなくて当然かと、一人納得する。
「あぁ・・・“対主催”ってのは、このゲームを企てた主催者を倒そうって考える・・・
ご立派なスタンスをお持ちの命知らずの連中さ・・・」

「そうか・・・」
黒沢は視線をパソコンの画面に戻し呟く。
「赤松は・・・“対主催”だった・・・」
「え・・・」
言われてみれば、赤松のスタンスは“対主催”である。
しかし、今回、このゲームの参加者の半数以上は、“対主催”派のため、遠藤は特別気に止めていなかった。
「そう言えば、そうだな・・・だが、そんなに珍しいことか・・・」
「オレのスタンスは“不明”なんだぜ・・・」
「そうか・・・で・・・?」
遠藤は黒沢の言葉を軽く受け流す。
“不明”とは、要は“マーダー”“対主催”のどちらにも属さない者を指す。
その分類は“脱出”“状況未把握”“日和見”など細かいため、
“不明”という大雑把な形式で表わしているにすぎない。
その人物の真のスタンスを知りたければ、履歴で行動を追えばいい。

しかし、なぜ、そんなつまらないことを気にかけるのか。
遠藤が疑問を投げかけようとした時、黒沢の変化に目を疑った。
黒沢は再び、すすり泣いているのだ。
「お・・・おいっ・・・一体どうしたってんだっ!!」
遠藤は黒沢にどう声をかければいいのか分からず、おろおろと困惑する。
知り合いの死を改めて思い知って泣いているのか。
では、なぜ、スタンスのことなど尋ねたのか。
黒沢は一頻り泣き終えると、嗚咽混じりの自嘲を浮かべた。

「アイツ・・・やっぱり・・・“英雄”・・・だよな・・・」
「アイツって・・・赤松のことか・・・?まぁ・・・そう捉えられなくもないが・・・」
確かに赤松の功績には評価すべき点もある。
だが、なぜ、黒沢は泣くのか。
ますます遠藤は黒沢の意図が分からなくなる。
そんな遠藤に対して、黒沢も言葉が足りなかったことを察したのか、ぼそぼそと力なく語り始める。

「オレと赤松は同じ職場で働いていた・・・
だが、出来が悪い男だったオレと違って赤松はトントン拍子に仕事を覚えてしまった・・・
で、オレよりも早く家庭を持って、子供に恵まれて・・・
アイツはオレより若いのに、仕事でも人生でも常にオレの先を歩いていた・・・
この殺し合いの場でもそうだ・・・
いち早く“対主催”ってカッコいいスタンスを選んで率先的に行動していた・・・
で、最後は涯という少年のために命を落とした・・・
まるで、物語のヒーローっ・・・圧倒的主人公っ・・・!
それに比べてオレは・・・そんな考え、微塵も思い付かず、石田さんや治や美心を守れず、ただただ状況に流されて・・・」

遠藤は黒沢の独白を聞きながら、頭を悩ませる。
黒沢の涙は言わば、人の見本となるような生き方を貫いた赤松への嫉妬。
男は社会で比較され続ける分、この手の嫉妬は女のそれよりも根深かったりする。

――こりゃ・・・黒沢の立ち直りは遅いだろうな・・・

遠藤は黒沢を一瞥しながら、“黒沢の精神が落ち着くまで、この民家でどう過ごすか”や
“ただ、治の亡骸、沙織は何とかしたい”などと一考する。
遠藤も治を殺害し、その罪の重さから情緒不安定であったが、
黒沢達に対してまやかしとは言え、罪滅ぼしをしたこと、
年甲斐も無く号泣する黒沢や、己以上に精神崩壊をしている沙織を目の当たりにし、
自分が彼らをまとめなければという義務的な考えが生まれたこと、
これらの要因から、遠藤の精神は皮肉にも安定してしまったのである。
更なる一歩を踏み出すこともできず、逆に狂うこともできない常人故のバランス感覚の賜物とも言える。

――とりあえず、当分の間はこの台所で過ごすか・・・

ここの床はビニール製の素材を使用しているのかと益体ない考えに耽っていた時だった。

「だけどよぉ・・・本当に悔しいのはさぁ・・・」
遠藤はその声が黒沢であることを察し、顔をあげる。
黒沢の言葉はあくまで中断していただけであり、終わってはいなかったのだ。
黒沢は怯えているかのように肩を震わせる。

「その赤松がゲームに参加した理由が・・・“オレの治療費の引き換えのため”だったんだよぉ・・・」
この告白こそが黒沢の涙の理由である。
いよいよ黒沢の咽び泣きは、火がついたような号泣へと変わる。
「なんで・・・なんで・・・オレなんかのために死んじまったんだっ!!!」
黒沢はその場で跪くと、母親を失った幼子のようにおいおいと慟哭する。
その慟哭は獣の遠吠えのように激しく、愁傷がにじみ出ていた。

――確かに・・・黒沢にとっては・・・“英雄”・・・だろうな・・・

遠藤は床に置かれたノートパソコンを手繰り寄せ、赤松の履歴を確認する。
確かに、その参加理由には“黒沢の治療費回収”と記載されていた。
一度、家庭を持つと、男はそれを守ることに徹し、得てして保守的となる。
赤松も、黒沢という男に出会わなければ、そんな保守的な人生を歩んでいただろう。
だが、赤松はその人生を捨てて、一人の男を救うため、ギャンブルという危ない橋を渡ることを選んだ。
見ようによっては、一度は男子が憧れる“侠”の生き様。
だが、同時に、黒沢にとっては己さえいなければ、赤松は死ななかったのだという罪の意識を持たせる結果となってしまった。

――どうしたもんかな・・・

それこそ黒沢の慟哭は周囲にただ漏れであり、近くに殺し合いに乗った者がいれば、すぐに飛びつくだろう。
しかし、遠藤はノートパソコンの情報からこのエリアには自分たちしかいないことを知っていた。

――まぁ・・・しゃあないか・・・

遠藤はその場にしゃがみ込むと、黒沢が泣きやむまで傍観に徹することに決めた。



【E-3/民家/早朝】

【伊藤開司】
 [状態]:睡眠中 足を負傷 (左足に二箇所、応急処置済) 鳩尾にごく軽い打撲
 [道具]:果物ナイフ 地図
 [所持金]:なし
 [思考]: 田中沙織を探し説得する (最優先)
      仲間を集め、このギャンブルを潰す 森田鉄雄を捜す
      一条、利根川幸雄、兵藤和也、鷲巣巌に警戒
      赤木しげる(19)から聞いた情報を元に、アカギの知り合いを捜し出し、仲間にする
      平井銀二の仲間になるかどうか考える
      下水道(地下道)を探す
※2日後の夜、発電所で利根川と会う予定です。
※アカギのメモから、主催者はD-4のホテルにいるらしいと察しています。
※アカギを、別行動をとる条件で仲間にしました。
※明日の夕方にE-4にて待つ、と平井銀二に言われましたが、合流するかどうか悩んでいます。
※カイジ達は田中沙織に関する情報を交換しました。 その他の人物や、対主催に関する情報は、まだ交換していません。
※参加者名簿、パンフレットは一時的に零に預けてあります。

【工藤涯】
 [状態]:健康 右腕と腹部に刺し傷 左頬、手、他に掠り傷 両腕に打撲、右手の平にやや深い擦り傷 (傷は全て応急処置済み)
 [道具]:鉄バット 野球グローブ(ナイフによる穴あり) 野球ボール 手榴弾×8 石原の首輪 支給品一式×3
 [所持金]:1000万円
 [思考]: 田中沙織を探し、殺人を止める 零と共に対主催として戦う 
※石原の首輪は死亡情報を送信しましたが、機能は停止していません。

【宇海零】
 [状態]:睡眠中 健康 顔面、後頭部に打撲の軽症 両手に擦り傷
 [道具]:麻雀牌1セット 針金5本 標のメモ帳 不明支給品 0~1 支給品一式 参加者名簿 島内施設の詳細パンフレット(ショッピングモールフロアガイド、 旅館の館内図、ホテルフロアガイド、バッティングセンター施設案内)
 [所持金]:0円
 [思考]:田中沙織を探し説得する 対主催者の立場をとる人物を探す 涯と共に対主催として戦う 
※標のメモ帳にはゲーム開始時、ホールで標の名前が呼ばれるまでの間に外へ出て行った者の容姿から、
どこに何があるのかという場所の特徴、ゲーム中、出会った人間の思考、D-1灯台のこと、
利根川からカイジへの伝言を託ったことなど、標が市川と合流する直前までの情報が詳細に記載されております。
※カイジから参加者名簿、パンフレットを預かっています。目を通すまで借りていられます。

【沢田】
 [状態]:健康
 [道具]:毒を仕込んだダガーナイフ ※毒はあと一回程度しかもちません 高圧電流機能付き警棒 不明支給品0~4(確認済み) 支給品一式×2
 [所持金]:2000万円
 [思考]:田中沙織を探し説得する 対主催者の立場をとる人物を探す 主催者に対して激しい怒り 赤松の意志を受け継ぐ 零と涯とカイジを守る
※第三放送まで見張りをし、他の皆を寝かせておくつもりです。



【C-4/民家/早朝】

【黒沢】
[状態]:健康 号泣 軽い疲労
[道具]:不明支給品0~3 支給品一式×2 金属のシャベル 小型ラジカセ 特殊カラースプレー(赤)
[所持金]:2000万円
[思考]:カイジ君を探す 美心のメッセージをカイジ君に伝える 情報を集める 今後について考える 沙織を保護する 治を埋葬したい 自分のせいで赤松が・・・
※メッセージは最初の部分しか聞いてません。
※田中沙織を、石田さんの遺志を継いで守ろうと考えていますが、まだ警戒しています。
※デイバック×3は【C-4/民家】に放置されています。石田のダイナマイト4本は民家の床下収納内に置かれたままです。

【遠藤勇次】
 [状態]:右肩銃創(痛むが腕を軽く動かすことは可能) 左足首を複雑骨折(応急処置済)と咬み傷 頬に火傷 微熱 疲労 精神消耗
 [道具]:参加候補者名簿 コルトパイソン357マグナム(残り4発) キャリーワゴン(島内を移動する為に使う)
     ノートパソコン(データインストール済) バッテリー多数 CD-R(森田のフロッピーのデータ) 不明支給品0~1 支給品一式
 [所持金]:800万円
 [思考]:森田、南郷、佐原から逃げる 沙織と治の死体をなんとかしたい 黒沢が泣きやむまで休む ダイナマイトを回収したい
※森田に支給品は参加候補者名簿だけと言いましたが、他に隠し持っている可能性もあります。
※森田の持っていたフロッピーのバックアップを取ってあったので、情報を受信することができます。 データ受信に3~5分ほどかかります。
※遠藤の首輪は、大型火災によって電池内の水分が蒸発し、夜中3時頃に機能停止しています。データには偽の情報が送られているため遠藤はまだ気がついていません。

【田中沙織】
 [状態]:精神崩壊 重度の精神消耗 肩に軽い打撲、擦り傷 腹部に打撲 右腕に軽い切傷 背中に軽い打撲
 [道具]:支給品一式×3(ペンのみ1つ) 30発マガジン×3 マガジン防弾ヘルメット 参加者名簿 ボウガン ボウガンの矢(残り6本) 手榴弾×1 石田の首輪
 [所持金]:1億200万円
 [思考]:石田(の首輪)を守りたい 絶望 武器が欲しい 死にたくない 一条、利根川幸雄、兵藤和也、鷲巣巌に警戒 カイジから逃れる 涯、赤松、その二人と合流した人物(確認できず)に警戒
※沙織の首輪は、大型火災によって電池内の水分が蒸発し、2日目夜18時30分頃に機能停止する予定。(沙織は気がついていません)
※標の首を確認したことから、この島には有賀のような殺人鬼がいると警戒しています。
※サブマシンガンウージー(弾切れ)、三好の支給品である、グレネードランチャー ゴム弾×8 木刀 支給品一式、有賀が残した不明支給品×6がD-5の別荘に放置されております。
※イングラムM11は石田の側にありますが、爆発に巻き込まれて使用できない可能性があります。
※石田の死により、精神的ショックをさらに受けて幼児退行してしまっています。
※石田の首輪はほぼ無傷ですが、システムに何らかの損傷がある可能性があります。

※B-6,C-6,D-6のどこかにダイナマイトが落ちています(残り4本)
※石田の荷物は【C-4/民家】に放置されています。
※この火災により、他のダイナマイトが暴発する危険性があります。
※ショッピングモールの火災は、C-6,D-6まで燃え広がり、収まりつつありますが、まだ落ちているダイナマイトに引火すれば、この他にも燃え広がる可能性があります。
※石田の死体の側にイングラムM11がありますが、爆発に巻き込まれ使用できない可能性があります。



138:疲労 投下順 140:正義
142:逆境の闘牌(前編) (中編) (後編) 時系列順 147:分別
126:本心 伊藤開司 147:分別
126:本心 工藤涯 147:分別
126:本心 宇海零 147:分別
126:本心 沢田 147:分別
138:疲労 黒沢 愚者(前編)(後編)
138:疲労 遠藤勇次 愚者(前編)(後編)
138:疲労 田中沙織 愚者(前編)(後編)




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