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「I」の悲劇 ◆kwtr6FMpzM氏


集められた面々、きっとその誰よりも最弱であるのは自分だ。
だって勝てない人間だから。いつもと同じ。そういう役割。真っ先に敗者となる自分。
いくら頑張っても人並みになどなれず、負けっぱなしの人生。
何をしても八方ふさがり、気付けば四面楚歌。それが今日これまでの自分。

それが、「石田光司」という人間のすべて。

しかしそれは、もしかして今この時。その瞬間の為に背負ってきた業なのだろうか。
自らの手でつけた首輪を撫でながら、困ったように笑う。笑うしかなかった。


 ――― 自分が「石田」であることに、これほど感謝したことはない。


互いに殺し合いをして勝敗を決めるゲーム。バトルロワイヤル。
今まで築き上げた地位も名誉も金も権力も関係ない。結局は最後まで命を持っている者が勝ち。
誰もが八方ふさがりの四面楚歌になりうる状況で、石田には信じられる「味方」がいた。
それは、果敢にもこの残忍なゲームの進行役である黒崎に立ち上がり、声を上げた勇者、山口。
ではなく、その隣で彼を止めていた男がそれ。

 ――― その名も「伊藤カイジ」

カイジの姿を見つけた時、石田は喜びに震えた。
今までの不遇、自分のカテゴリーを考えれば信じられないような幸運、サプライズ。
彼には二度も助けられたことがある。自分一人ではてんで駄目でも彼とならばもしかして。
石田はそう思いカイジに声をかけようとした。が、しかし、それはかなわないことだった。
件の勇者山口に、黒崎は淡々とその勇気を褒め称え、手に持ったリモコンを向けた。
小さな警告音が聞こえ、あっという間もなく勇者は敗者となる。
今触れているこの首輪には爆破装置がつけられています。そんな説明の為に山口は死んだ。

不用意に声を上げたら死ぬ。

新たなルールが加わったかのように、しんと静まり返ったホール。
そんな最中、石田もカイジに話しかけることなどできなくなってしまった。
石田は必死に考える。このホールを出た後、言うなれば戦場で周りにいる屈強な敵たちを避け
カイジのみを探し出す、そんなことは無理だ。大事なのは今。このホールにいる今しかない。
神に祈るか、カイジに念を送るか。駄目だ、そんな運否天賦にすがって勝ったためしがない。

やはり自分はどうしても駄目なのだ。
一応は念を送ってみたものの気づかないカイジに、石田はしょんぼりと肩を落として自分を呪う。
たったひとりの人間にも気づいてもらえない自分。ここにいるのに存在を認めてもらえない自分。
カイジのように勝てる人間にもなれず、山口のように勇者にもなれず、ただひとり名もなく死ぬ。
それが自分。変わらない。あきらめるしかない。そう思った。

「最初に、赤木しげる様…」

その名前を聞いた瞬間、石田ははじかれたように顔を上げた。

「……赤松修平様…」

「……有賀研二様…」

白髪の男に続き、体格のいい男と普通の男がホールから消えていく。
これはまさか。

「……安藤守様……」

「……井川ひろゆき様…」

進行役である黒崎が選んだ戦場、惨劇への招待順。

「……石田光司様…」


 ―――― やはりそうだ。「敬称順」



ふらふらと人波をぬって黒服から鞄を受け取り、石田は惨劇への門に向かう。
今はもう、カイジが自分に気づいても気づかなくてもどちらでもよかった。
自分がカイジの存在に、そして「これ」に気づいていればいい。
そう、「石田」である自分が気づいていれば。

もしも自分が石田ではなく、例えばそう「和田」とか「橋田」とか
いやもうぎりぎりの差で「糸田」だったりしたらどうだろう。
彼よりも先にこのホールを出なかったら。

「敬称順」で、自分が「石田」で、そしてカイジが「伊藤」カイジならば。

そうだっ……ホールで声をかけずとも……
出口で待ち伏せ、合流すればいいっ……!!!
石田は今しがた出てきたばかりのホテル、その側面にある茂みの中にいた。
「石田」と「伊藤」、運がよければ自分の次に彼はやってくる。間に敵を挟まず合流できる。
しかし迂闊に姿を見せ、それがカイジではなくこのゲームに乗っている殺戮者だとすれば。
自分ではない誰かの立てる物音が聞こえると、その姿を見違うまいと石田は目をこじ開けた。


「石田」以降に現れた、一人目のイニシャル「I」

高校生…いや、中学生かもしれない。その男は学生服を着ていた。
石田から見れば自分の子供よりも幼かったので、男というより少年だ。
しかしだからこその恐怖があった。増加する少年犯罪、話題になった親父狩り。暴走族、ヤンキー。
疑心暗鬼かもしれないが、若気の至りとか反抗期とか。石田にはそれだけで十分少年が怖ろしい。
彼は出口で一度立ち止まり2、3度辺りを見回した後、支給された鞄を胸に抱え走り去っていった。


 二人目のイニシャル「I」。

ゆらりと現れたのはカイジと同じ黒髪長髪。しかしシルエットがまるで違う。
伊藤カイジはあんなおしゃれなパーマではない。もっと不精、ザンバラした長髪だ。
先ほどの少年の方が何倍も解りあえ、安全に見えるほどガラの悪い長身の男。
だって白いスーツ、そんなもんはヤクザしか着ないだろう。見つかれば殺される確率大だ。
石田はガチガチと震える口元を手のひらで押さえつけ、その男が去るのを待つ。
彼は鞄を肩にひっかけ、現れたときと同じようにパーマ頭を揺らして去っていった。

それぞれが一瞬の出来事かもしれない。時間にすれば10秒、いや5秒もない。
しかし石田にはそれが、いちいち気が遠くなる那由他のように思えた。

(早くっ…カイジ君早くっ……!)

神に祈ろうと、カイジに念じようと、戸籍なんて役所で変えるものなのだが、
石田は指を組んでうなるように待つ。次、次こそはきっと「伊藤」。頼みの綱、伊藤カイジ。


 三人目のイニシャル「I」。

コツ…コツ…と地面をつつく、足音とはまったく違った物音に、石田は思う。
何人いるんだイニシャル「I」。いや、もしかしたら支給品か何かの立てる音なのだろうか。
それが何かなど検討もつかなかったが、カイジならばもう何でもいい。早く姿を見せてくれ。
石田はそんなすがるような気持ちで、茂みの中から出口へと視線をやる。
今までと同じように、まず覗き見えたのはイニシャル「I」の黒い影。

(………?…なんだ……?)

しかし三人目は頭ひとつ分の影を出口から伸ばしたまま、なかなか姿を現そうとはしない。

「……誰だ…」

石田の心臓が、大きく跳ねる。

「……出て来い」

男の立っている出口。そこからこの茂みは見えない。

「逃げはせん、出て来いっ……!」

低く落ち着いた怒号。

それはもちろん、カイジでは、ない。

(…殺される…殺される殺される殺される殺される殺されるっ………!!!!)

コツ…コツ…と再び響く正体不明の音。出口から伸び上がる黒い黒い影。
石田が悲鳴を上げてその場から立ち去ろうとした、その時。


「…ク……ククク……」

どしゃ。という鈍い音と、

「……なんで、バレたのかな………?」

砂利を踏む新しい物音。

(俺…じゃ、ない……)

石田は静かに息を呑んだ。
足音はホテル正面、その少し先からこちらに向かい、やがて一点でぴたりと止まる。
そこは石田が潜んでいる茂みから少し離れたところ。ホテルの出口。

「…………」

しん、と止んだ物音に石田は視線だけをゆっくり出口に向ける。
見えたのは白い杖をついた老人。三人目のイニシャル「I」と、その鼻先に光る細身のナイフ。

「………あ……そうか…目が、見えないんだ……」

そして、老人にナイフを突きつけて笑う、石田よりも先にホテルを後にしたはずの「有賀」
その隣、死体になって戻ってきた学生服の少年。一人目のイニシャル「I」。

石田は血がにじむほど唇をかみ締め、悲鳴を耐えた。
あのホールでの出来事と同じだ。今声を上げたら敗者。不用意に声を上げたら死ぬ。
いや、それ以上だ。見つかれば殺される。物音ひとつ上げればアウツ。まばたきすら怖ろしい。
石田はできるだけ死体を視界に入れないよう、ナイフの切っ先を見た。
が、視線を泳がせた。これからあのナイフで、老人は死ぬのかもしれない。
目の前で人が殺されるところなど見たくはなかった。

「ねぇ…武器、ちょうだい。君は特別……鞄を置いたら助けてあげる…」

思ってもみない有賀の慈悲に、石田は心中で叫ぶ。是が非でもそうしてくれっ…!
盲目の老人。自分よりもずっと弱い立場の人間を助けたい気持ちはある。
いや、普通の日常、社会の中でなら石田はいくらでも手を貸しただろう。
しかしこの場に至って石田には何もできない。正しい事をしても声を上げたら殺されるから。
非情かもしれないが、弱者はそうして生きるしかない。慈悲があるのなら全力でそれにすがる。
生きるために挙手、ホールド・アップ。今あの老人が助かるには有賀の言う事を聞き入れるしかない。

「わざわざ戻ってきて、武器くれ、か……気違いめ…」

「ククッ…クククク……カカカ…!」

憮然としたままの老人に、何がおかしいのか有賀はニタニタと笑い続ける。
ゆっくりと膝を上げ、老人が手にしていた杖を足で払った。

「君は、目が見えない……とてもかわいそう…かわいそうっ…!」

「……おめぇは、置いても置かなくても殺す…」

「…うふふふふふふふ……なんで?…殺さない、殺さないっ……」

空になった右手を下げ、老人は放るように鞄を置く。
そうだ、そのままおとなしく言う事を聞いて…!そんな石田の願いとは裏腹に
有賀の手が伸びるより先、老人はパンっと音を立てて鞄を蹴り飛ばした。

「……俺が、お前を殺すと言ってるんだ」

有賀は眉を寄せ、飛ばされた鞄から視線を上げ老人の見えない目をねめつける。
老人はコートの前掛けを解き、その裏地と腹部に巻きつけている武器を見せた。

「……お前は、俺と…ここで死ねっ……!」

びっしりと連なったそれ。有賀は再び目を細めて笑い出した。
老人の見せた武器、それは産業用爆薬。3号桐ダイナマイト。
人体二つ壊すには一本で十分すぎる代物だ。しかしその量。一度に炸裂したらどうだろう。

「うふっ…うふふふふふ……カカカカッ…!」

「ククク……」

「カカカ……どっちがっ…気違いなんだろうねっ……!」

屈んだ状態からゆらりと身を起こす有賀を咎めるよう、
右手でライターを取りだし、老人は腹部にあった一本を抜く。
カチ。という軽い音を立て、ライターに火がともった。

「なぁに…「狂気の沙汰ほど面白い」ってな……!!」

これはもう、ここにいるだけで、
声を上げても、上げなくても。


「死ぬっ……!」

とうとう小さな悲鳴をあげ、石田が茂みから顔を出したとき

「ア、アホタレッ……!…俺まで巻き込むなっ……!!!」

老人の後方、ホテルの出口から四人目のイニシャル「I」が飛び出した。

彼の手にはトカレフ。様子見をしていたのだろうか、声を上げたと同時に何発かの銃声を響かせる。
それらを皮切りに、有賀は再び蹴飛ばされた鞄の方へ、老人はその反対側、白い杖のもとへ走る。
四人目のイニシャル「I」は有賀に銃口を向けながら、その真ん中を縫うように走り去った。

「くっ…何処だっ……!」

見えないながらも手探りで、あと数センチ、老人の手が杖に届くか否か。
あった!今指先に触れた!そう、老人の手が正しく杖に伸びた。その時。

「ひぃ…っひぃ…っ…うわああああああああああああ!!!」

「なっ!おめぇっ……馬鹿野朗っ……!」

ところがどっこい、そんな老人の手を石田が掴み、走った。

「こっち!こっち!こっちに逃げるんだぁああああ!!!!!」

石田はもう自棄になって老人の手を取り走った。
四人目のイニシャル「I」。それは身なりのいい色男だった。それはもちろん伊藤カイジではない。
なのに声を上げてしまった、姿を見せてしまった。そうなればもう石田には逃げることしかできない。
有賀とは反対側に走り出し、石田の進行方向、目の前にうずくまるのは杖のない盲目の老人。
ならばもうついでだっ…!!と老人の手を取ってしまった。


「離せっ…!馬鹿っ…!離せええええええええええぇぇぇぇぇ!!!!!」

「うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

老人の怒号に石田の泣き声がかぶさって遠のく。
鞄を手にした有賀が、それを追おうと足を踏み出した時、

「わっ!うわわ……!!」

五人目のイニシャル「I」が、持っていた鞄を取り落としながら声を上げた。
せわしなく動くその視線は、有賀の手にあるナイフと学生服を着た死体を行ったり来たりする。
ここで何があったのか。ホテルから出てきたばかりの五人目にもすぐにわかった。

「こ、殺した……お前が、殺したっ…!」

有賀は手に持った老人の鞄を抱きしめ、ニタ…と笑みだけを返す。
人狩りを邪魔され、しらけたと同時に少しだけ冷静になり考えをめぐらせる。
やはりナイフ一つじゃ駄目だ。獲物を取り逃がしたとき、いちいち時間がかかりすぎる。
ホテルから少しだけ離れた一点、学生服の少年を殺した場所に鞄を二つ置きっぱなしにしてあった。
まさかとは思うが、これ以上時間を割きたくはない。

「クク…クククク……!…君は、すごく運がいい……!」

「…ふざけろっ……!……人殺しっ…!!」

有賀は笑う。自分が微弱だと判断した武器、ちっぽけなナイフを向けるだけで
さっと血の気が引く男がとてもかわいそうでおかしかった。
人を殺しても咎められない、賞賛に値するこのゲーム。最高だ。有賀には楽しくてしかたがない。
武器をそろえて。そうしたら。たくさんたくさん人間がいる。時間はまだまだいくらでもある。

「カカカ…キキ……」

有賀は五人目に向かってナイフを光らせながらホテルを立ち去る。
その姿を見届け、五人目のイニシャル「I」、伊藤カイジは息を吐いた。



【D-4/ホテル/真昼】
【石田光司】
 [状態]:健康
 [道具]:不明支給品0~3(未確認)、通常支給品
 [所持金]: 1000万円
 [思考]: カイジと合流したい。人を殺すどころか自分が殺される。
      常識の範囲内で困っている者は助けるが、状況による。
     ※有賀がマーダーだと認識。
     ※市川を盲目の老人=困っている者と認識。


【市川】 (三人目のイニシャル「I」、老人)
 [状態]:健康? (盲人用の杖をホテル前でなくしました)
 [道具]:産業用ダイナマイト(多数)、コート(ダイナマイトホルダー)、ライター
 [所持金]:1000万円
     ※有賀に鞄を奪われた為、上記以外、食料など通常支給品を持っていません。
 [思考]: 石田馬鹿野朗。
     ※有賀がマーダーだと認識。


【有賀研二】
 [状態]:健康
 [道具]:果物ナイフ、不明支給品0~5(確認済み)、通常支給品×2
     市川の鞄(不明支給品0、通常支給品)(未確認)
 [所持金]: 2000万円
 [思考]: 本編どおり、マーダー。
      ナイフだけでなく、強い武器がほしい。


【一条】 (四人目のイニシャル「I」)
 [状態]:健康
 [道具]:黒星拳銃(中国製五四式トカレフ)、不明支給品0~2(確認済み)、通常支給品
 [所持金]: 1000万円
 [思考]:※有賀がマーダーだと認識。


【伊藤開司】
 [状態]:健康
 [道具]:不明支給品0~3(確認済み)、通常支給品
 [所持金]:1000万円
 [思考]:※有賀がマーダーだと認識。
     ※石田が合流したがっていることに気づいていません。


※以下エキストラなので省略します※

  • ホテルにて、黒崎に名前を呼ばれた者
【赤木しげる】【赤松修平】【安藤守】【井川ひろゆき】
  • 二人目のイニシャル「I」
【板倉】

※ここまで※


【石原 死亡】 (一人目のイニシャル「I」、学生服の少年)
【残り 42人】


005:敬愛 投下順 007:
000:序章 ~狂宴~ 時系列順 001:本質
初登場 石田光司 022:
初登場 市川 022:
初登場 有賀研二 024:武器
初登場 一条 016:復讐人
000:序章 ~狂宴~ 伊藤開司 014:危険人物
000:序章 ~狂宴~ 赤木しげる 018:試験
初登場 赤松修平 008:天才
初登場 安藤守 016:保険
初登場 井川ひろゆき 003:
初登場 板倉 020:野望の島
000:序章 ~狂宴~ 黒崎義裕 061:第一回定時放送 ~謀略~







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