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十に一つ ◆X7hJKGoxpY氏


「誰だっ!」
天は何者かに向かって怒鳴りつけた。
だが、無論返事は返ってこない。
「……不味いことになったな。おそらくは……爺さんの声に釣られた奴か……」
ボソリ、と天は呟いた。

まさしく窮地である。
市川が拡声器を使った時点でこのギャンブルに乗った連中に襲われる――それは覚悟していた。
だが、実際に危険にさらされてみると、やはり即座に冷静な対処をすることはかなわない。
救いは事前に敵の存在に気づけたこと、それから事前に市川からダイナマイトを取り上げたことだろうか。
「ククク……なかなか面白いことになってきたな……さあ、どうするんだ?」
「ぐっ……」
市川が楽しそうに顔を歪める。
いっそこのじじいを囮に逃げるか、といった考えが頭を横切った。
そもそも市川の死にたいがための行為が全ての元凶なのだ。
しかも目が見えない――囮には適任である。
が、天は大きく頭を振る。
(ダメッ……出来るか……そんなことっ………!!まともな考えじゃねえ……!)
しかし、それならばどうすればいい。
いろいろな考えが天の頭の中を回る。
どれが正解なのだろうか。


「焦る必要はないよ」
少年――標が声を発した。
「……どういうことだ?」
「言うなら、運が良かった………そこにいる村岡さんの大声……そのイレギュラーがいい方に傾いた」
そこにいる全員が標に注目する。
「皆、周りへの警戒は怠らないで……そう、そのイレギュラーはそこに隠れてる誰かにとっても予期しないものだったんだ。
だから気が逸り、うっかり音をたてた……いや、音を立てなかったとしても周囲に警戒はしたでしょう……?
その警戒……それこそ襲撃者にとっては最大の脅威………自身が死にかねない……下手に攻め込めない……
事実未だに攻撃してこないのがその証拠……本能的な死への恐怖が危険へ飛び込むのを避けさせる……
或いは諦めてもう逃げたかも……まあそこまでは分からないけどね」
標は言い終えてじっと気配の方向を見つめる。
なるほど、標の言葉には説得力があった。
ここまで説明されて天も気付く。
「なるほど……そういうことか、坊主。警戒を怠らないまま見通しのいいところまで行けば……」
「そう……それが多分一番いい選択……それなら全員助かる可能性は高い」
「よし、そうとなれば全員武器を用意しろ……極力傍から見て目立つようにな」
そう言って天は鎖鎌を手に持った。
標は銃を、赤松は手榴弾をそれぞれ構える。
何があったのか身一つの村岡は、武器が無いのが不安なのか、赤松に声をかけていた。
「赤松さん、お願いしますっ……その手榴弾……一つだけ……一つだけでいいから………
ちょうだいとは言わないから……しばらく貸してほしいざんすっ……!」
「……まだあなたを信用しきれません、ダメです」
「………赤松さん、いつになったら信用してくれるざんすか?」
「さあ……」
天はやりとりを横目で見ながらも周囲の気配を探ることを怠らない。
だが、彼は一つ失念していた。
もう一人、警戒せねばならぬ人物がいることを――


* *


「赤松さん、いけないっ!」
標が声を発した、その時にはもう遅かった。
一瞬の出来事である。
市川が老人とは思えぬ機敏さで赤松に覆いかぶさりその手の手榴弾を奪い取ったのだ。
「クク……大したもんだ、坊主………その発想……冷静さ……いつぞやのガキを思い出させる……
儂の前に爆発物があると知らせるその危険性……それにもいち早く気づいたようだ……
そこの赤松、村岡とやらの会話………
その通りさ……目の見えぬ儂が人を殺すとなれば広い範囲に攻撃できる武器は必須っ……
儂の目的をあわせて考えれば尚更な……
だが坊主、お前の声は儂の決断の速さに一歩及ばなかったようだ………」
市川は手榴弾を掲げた。
「……そこの天とやらにダイナマイトを奪われてからはどうしたもんかと考えていたが……
面白い……なるようになるもんだ……なあ……?
ククククク…………儂を置いていけ……これまでは儂を殺そうとする奴に焦点を絞っていたが……
今度ばかりはその対象を妥協することになるぞ……」


一分ばかり沈黙が流れた。
一同困惑の表情を消すことは出来ない。
結局は天の「仕方ねえ」の一言で市川を置いていくことにきまったが、その表情からはやるせなさを感じた。
「行きましょう……」
赤松が皆に声をかける。
だが、この時標だけは全く別のことを考えていた。
標は赤松の袖をクイッと引っ張り、そっと耳打ちする。
「赤松さん……僕も一人でここに残る……後で合流しよう」
「えっ!……なんで?」
「今は言えない……ただ……ちょっと気になることがあるんだ」
「……ダメだよ……危険すぎる」
「そうかな……?」
標は一旦言葉を切った。
「実際お爺さんに関しては口でああ言っててもわざわざ僕一人を巻き添えにするなんて考えにくい……
赤松さんもそれはわかるでしょ?
問題は正体不明の人物……でもそれだって大抵の相手ならとっくにこの場を離れてる……
こっちに見つかるリスクを恐れてね……」
「でも……残ってる可能性だってあるわけだし……」
「それでもここまで姿を現さないっていうのは相当用心深いってことだよ……
それに向こうはお爺さんが盲目だとは思わない……盲人用の杖も持ってないし距離も離れてるからね……
手榴弾を持ってる人間と銃を持ってる人間が周囲を警戒してるんだ……易々とは出てこれない。
たとえそれが子供と老人であっても……」
「……いや、危険だよ………仮に十に九は安全だとしても……」
「十に一つは死ぬ可能性がある……でもそれくらいの価値があるんだよ……
尤もいい情報を得れる可能性も十に一つ程度だけど……その一つが大きい」
「…………」

「大丈夫……死なないよ………信じてほしい」
「……わかった………信じる……信じるよ……」
赤松は神妙な面持ちで頷く。
これで赤松の了解は得た。
――次は他の二人にも声をかける。
「……村岡さん、それから……」
「天だ……どうしたんだ?」
「……天さん。…………引っかかることがあって」

説得。
天は渋い顔をしたものの、先ほど標の頭脳を目の当たりにしたこと、
付き合いの最も長い赤松も了解したという二点が決め手となり標を残していくことを了承した。
村岡は元より早くこの場から離れたいだけであり、始めから反対すらしていない。
ともあれ、標は一人この場に残ることとなった。
標は最後に赤松に声をかける。
「赤松さん……行く前に一つだけ………
もし十に一つの時は……宇海零………彼に、僕と一緒に見たことを話してみて……
きっと彼なら分かるはず」
「……十に一つってのはどっちのことだい?」
「……今、赤松さんが思い浮かべた方だよ」
「………わかった」
赤松は気弱そうに笑いかけ、そのまま去って行った。


「ククク……奴らは行ったか………それで、気になること……聞きたいことってのは?」
「良くそんな細かいことまで聞こえてたね……小声で話してたつもりだけど」
「まあな……儂にとって耳は生命線………聞こえていながら水を差さなかったのは………
坊主、お前の気になったこととやらに興味があったからだ……聞かせな」
市川は光の無い目で標を睨みつける。
「……ダイナマイト」
標は一言、そう答えた。
市川にはそれだけでわかるはずである。
「………なるほど…………そういうことかい……それなら残念だがお前の期待通りにはいかねえな……
生憎だが……十に九の方さ………」

* *


市川がバトルロワイアルに参加することを決めた、その日のことである。
「ともあれ、細かい話をするにはここでは拙いですね。
私共の経営するホテルで話し合いましょう……車は用意してあります」
「……スウィートにでも泊めてくれるのかい?」
「お望みとあらば……ですが、まずは打ち合わせをお願いします」
誰に話を聞かれてもおかしくはない居酒屋である。
確かに打ち合わせの場としては相応しくない。
市川はおとなしく車に乗り込み、ホテルへと移動することになった。


そしてスターサイドホテル、VIPルーム――
「どういうつもりだ……?何故儂を選んだ……
こんなめくらのじじい、参加させる意味があるのか……?」
「いえいえ、とんでもありません………市川様の実力の程は伺っております……
その頭脳……それだけでもこのギャンブルに参加する権利はございます。
それに貴方には耳がある……この夜景は見れずとも、美しき風の音は聞こえる……」
「もういい」
市川は男の言葉を遮った。
「そんなふざけた言葉を聞きに来たとでもおもっているのか……?
要するに死にたがりの儂にバトルロワイアルとやらを掻き回せ………面白くしろ……
本音はそう言いてえんじゃねえのか……?」
「……有り体に言ってしまえばその通りです。ご理解があって助かります」
市川からすれば面白くない。
道化として我々のために働け、そう言われているのだ。
だが、それはそれとして、バトルロワイアルが魅力的なこともまた事実としてそこにあった。
「道化だろうがなんだろうが結構……儂が死んで華となる………儂の中でその結果が得られればな……」
「ありがとうございます。『協力』していただけるのであれば我々としましても優遇せねばなりません。
主に武器、或いは情報ですね……
市川様は華となることを望まれる……とのことですが、具体的にはどのようなことを希望されるので?」
「……儂を殺そうと群がる連中を儂もろとも殺せる武器……そうだな………
ダイナマイトだ……目が見えぬ儂にもなんとか扱えるように……」
「かしこまりました………手配いたしましょう。
もう一つ……この『協力』は貴方の行動を束縛するものではありません。
途中、気が変って最後まで生き残ろうとすることも、無論自由です」
「ククク……そうなればそうなったで金持ち連中が覚悟の無い儂を嘲笑し酒の肴にするんだろう……
だが……そこまで道化になるつもりはないさ」
「……恐れ入ります」


* *


「……まあそんな塩梅だ。別に主催者連中の関係者って訳じゃねえ」
「そう……やっぱり……」
「………だが大したもんだ……儂が死にたがっているという見極め……そして儂のたった一言……
しかも混乱の中で発した儂がダイナマイトを持っていた、それだけの言葉だ。
材料はその二つだけ……
それだけでお前は、儂が目的を目指す上で完璧すぎる武器を手に入れたというそのきな臭さ………
それを嗅ぎつけてきやがった………
この状況下で気付くことがまず至難……よしんば気付いたとしても普通の奴なら偶然で済ましそうなもんさ」
市川がニヤリと笑う。
そう、標が得たかった情報は主催者のもの。
市川と主催者との繋がりの可能性、それを確かめたかった。
主催者との繋がりがあるとすれば、市川の存在は主催者に対する隠された武器ともなりうる。
尤も、その確率は標の見たところ一割程度――十に一。
案の定、市川には主催者との繋がりは無かった。
しかし、標には落胆は無い。
もとより期待などしてはいなかった。
駄目ならば他の策を考えれば良いことである。
期待通りに事が進まなかったときの動揺、それはこのギャンブルにおける危険の一つ。
過度な期待を持つべきではないことを、標は知っていた。


「じゃあ僕は行くよ……お爺さんはどうする…?」
市川に尋ねる。
別段死にたいというものを引き留めるほど標はお人好しでは無い。
ついていきたいというのならば良し、残ると言われてもそれはそれで構わなかった。
「……行かねえ……一人で何とかするさ………」
「分かった……それじゃ」
標はそのまま市川に背を向け走り出す。
もし襲撃者が残っていたとしても急いでこの場を去れば狙われるのは残った市川で、まず自分は安全である。
この際囮になってもらうのもやむを得ない――
そこまでの計算があってのことである。

そしてその数秒後――標は死体となっていた。

* *


有賀研二はこと殺人に関して、その衝動的な欲求とは裏腹に極めて優れた機知と忍耐を持っていた。
声の主、その獲物を探していた時に、突如として発せられた大声。
見つけた――有賀はニヤリと笑みをこぼした。
しかし、まだ殺せない。
今はまだ警戒されている。
殺すことは楽しくとも、殺されることはつまらない。
すぐにでも飛び出そうという感情を抑え、有賀は様子を垣間見た。

何やらもめている。
いつぞや殺し損ねた老人――彼が武器を奪い取ったらしい。
だが、まだ早い。
狩りは己の安全を確保してからのこと――
確実に殺せる、その状況にはまだ至らない。
万全を期しても、時には失敗することがある、それは以前学習している。
ぎりぎりまで粘り、その時を見極めなければならない。

子供と老人、二人が残った。
――これなら殺せる。
だが、本能がまだその時では無いことを知らせた。
老人は先程会ったため覚えている。
彼は、目が見えないのだ。
計算に入れる必要はない。
問題は子供の方である。
銃を持っていることばかりでは無い。
その子供自体が違和感の正体。
下手に行けば足をすくわれる、そんな予感。
殺したい、今すぐにでも。
そんな衝動を必死に抑え、有賀は機が来るのを粘り続けた。


(クククククク…………来た……来た……)
少年が背を向けて走り出す。
今なら反撃できない。
待ちに待ったチャンスが来た――
そう思ったと同時に有賀はもう動いていた。
殺すべきは、狙いやすい老人では無く子供の方。
老人はダイナマイトを身につけている。
撃てば、間違いなくそのまま爆発。
殺すために死んでしまっては、その喜びは味わえないのだ。
自分も子供に向かって走り出し、マシンガンを乱射する。
子供の躯が銃弾で踊った。
そして直後迎える静寂――
有賀は歓喜に打ち震えた。

* *


激しい銃の乱射音に市川はとっさに身構えた。
この音は機関銃――うかうかすれば即座に殺されるだろう。
だが、襲撃者は市川を撃とうとはせず、笑いながら声をかけてきた。


「クククク……カカッ……カカカッ………!また会ったね……お爺ちゃん………」
「……またお前か………よっぽど縁があると見える……」
「クククッ……面白い……面白い………」
市川は声との距離を必死に測る。
だが、有賀は常に動きまわっておりその距離感が掴めない。
「うふふふっ………慌てない慌てない………いつでも殺してあげられるんだから……今回は見逃してあげるよ……」
有賀は市川にそう言ってのける。
冗談では無い。
千載一遇の好機なのだ。
ここを逃せば盲目の市川にいつチャンスが訪れるか分からない。
しかし、
「またね……」
と有賀は決して市川には近寄ろうとはせずそのまま去って行った。

有賀は市川に手榴弾を投げる、その隙すらも与えるつもりは無かったらしい。
尤も、投げようにも目が見えない上、爆発までにはタイムラグがあり有賀の息の根を止めることは難しかっただろう。
己が殺されずに済んだその理由はおそらくただ一つ。
襲撃者が、いまだに市川がダイナマイトを持っていると勘違いしてくれたこと、ただそれだけ。

市川はよたよたと周囲を捜索し、標の死体からバッグを剥ぎ取った。
(ククク……坊主、こっちは十に一つだったな……)
標の選択はここに一人残ったことも含めて、全て最善のものであった。
標が死んだ理由は不運が三つ重なっただけ。
襲撃者が殺人に対して予想以上に執念深かったこと。
襲撃者が市川は目が見えぬことを知っていたこと。
そして、襲撃者が市川はダイナマイトを持っていると勘違いしていたこと。
(お前が死んだのはついてなかっただけ………だが……この世は合理性じゃ量れねえもんだな……)


市川はバッグを背負い立ち上がる。
時間は無限には無い。
時間を無駄にするべき時でも無いだろう。
(さて……思いの外手榴弾は使い勝手が悪い………取り敢えずはやはりダイナマイトを取り返すか……)


【B-3/アトラクションゾーン/夕方】
【天貴史】
 [状態]:健康
 [道具]:鎖鎌 不明支給品0~2 通常支給品
 [所持金]:1000万円
 [思考]:アカギ・殺し合いに乗っていない者を探す 標と合流する

【赤松修平】
 [状態]:健康
 [道具]:手榴弾×9 石原の首輪 支給品一式
 [所持金]:1000万円
 [思考]:できる限り多くの人を助ける 標を守る 標と合流する 標が死んだ場合宇海零を探す
※石原の首輪は死亡情報を送信しましたが、機能は停止していません
※利根川のカイジへの伝言を託りました。

【村岡隆】
 [状態]:健康 やや興奮状態
 [道具]:なし
 [所持金]:0円
 [思考]:ひろゆきとカイジに復讐したい 生還する
※村岡の誓約書を持つ井川ひろゆきを殺すことはできません。


【市川】
 [状態]:健康
 [道具]:モデルガン 手榴弾 支給品一式
 [所持金]:2000万円
 [思考]:ダイナマイトを取り返す
     ※有賀がマーダーだと認識

【有賀研二】
 [状態]:健康
 [道具]:果物ナイフ 不明支給品0~3 サブマシンガンウージー 防弾ヘルメット 
     支給品一式×1
 [所持金]:6800万円
 [思考]:人を殺したい

【標 死亡】
【残り 31人】

053:孤島の鬼 投下順 055:魔弾
053:孤島の鬼 時系列順 055:魔弾
050:混乱 天貴史 079:天恵
050:混乱 赤松修平 059:子供
050:混乱 村岡隆 079:天恵
050:混乱 市川 077:
047:純愛 有賀研二 062:変化




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