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再考 ◆6lu8FNGFaw氏


「くそ…くそっ…」
落ちていた木切れを杖代わりにして、骨折した左足を引きずり逃げながら、毒づいた。
空気が熱い。火の手はなおも勢いよくショッピングモールを包み込み、空までも燃やさんとばかりに高く立ち昇る。

遠藤は炎上するショッピングモールを避けながら、北の方へと回りこんでいた。
ショッピングモールを挟んで西側には先程遭遇した“死神”田中沙織、南には森田や南郷、佐原がいる。
皆、今となっては敵同士である。この怪我を見て、反撃されては敵わない。

(とにかく、このままじゃ逃げるのも困難…一旦『安全地帯』で、インターバル入れねえと…)
遠藤は人目を避け、北西の森の中に踏み込んでいった。
ただ闇雲に移動していたわけではない。遠藤はその『場所』を目指して歩いていた。
森の中に一部開かれた場所があり、ぽつんとその建物は立っていた。

「一時間の利用だ…」
「一人か…?」
「そうだ」
「……入れ」
200万分のチップを受け取り、黒服は遠藤をギャンブルルームの中に通した。

田中沙織に遭遇する前、CD-Rにデータを移す前に、遠藤はギャンブルルームの場所を検索しておいた。
『ギャンブルルームで1億円を支払えば、安全な時間を買うことができる』という宇海零の戦略を利用する為である。
結果、参加者がすでに使用したか否かに関わらず、島内のギャンブルルーム設置箇所全てを把握することが出来た。

遠藤は室内に入ると、ソファーに腰を下ろし、まずノートパソコンの電源を入れ起動させた。
そうしておいて傷の手当てを始める。


右肩は、主要な筋肉を避けて弾が貫通したらしく、痛むがゆっくりとなら腕を上げることもできる。
血が固まり傷口が塞がれば、ひとまず問題無さそうだ。

恐る恐るズボンの裾を持ち上げてみる。
左足首の先があらぬ方向に曲がり、骨折箇所と思しき辺りの皮膚は黒ずんだ紫色に腫れ上がっている。

「チッ…」
舌打ちしながら、遠藤はデイパックを漁り、足を固定できそうなものを捜した。
だが、コレといったものがない。溜息を吐きながら無意識に上着のポケットに手を突っ込むと、ゴワゴワしたものが手に触れる。
シーツの切れ端だった。炎を背にして逃げるとき、無意識に手に握っていたシーツの端を突っ込んでいたらしい。
先程はこれのせいで怪我をしたのだが、今はこれのおかげで手当てが出来る。
何が役に立つか分からんもんだ、と感心しながら、遠藤は足にシーツの端を巻きかける。

(だが…これだけでは固定しきれないな…)
遠藤はギャンブルルームの中を見回した。添え木代わりになるものがないかと思ったのだ。

ふと、ルーレット台の傍に置いてあるキャリーワゴンに目を留める。
「おお……!」
今の遠藤にとってそれは、素晴らしい道具に見えた。
もちろん添え木にするために使うのではない。
遠藤はキャリーワゴンに載っているチップを全て脇のテーブルへどけ、キャリーワゴン上部に両肘をつき、端をしっかり握って体を固定した。
左足を浮かせたまま、右足で床を蹴ると、ゴロゴロと車輪が回り移動する。
しばらく室内を動き回ってみたが、右肩への負担も少ない。ワゴンも、体重をかけ続けても耐荷重に問題はないようである。


「動ける…動けるぞ!」
これで左足が動かずとも、外の移動が楽になる。多少車輪の音がするのが難点だが。
遠藤は思わずにやりと笑った。
遠藤の不審な行動を、黒服は黙って遠目に眺めている。そんな黒服と目が合い、微妙な空気が流れる。

「……ゴホン」
遠藤は咳払いを一つした。キャリーワゴンを押してソファーに戻る。
杖が必要なくなったので、杖代わりにしていた木切れを適当な長さに折り、添え木にして足の手当てを終えた。

「さて…」
遠藤はノートパソコンに目を落とす。
先程電源を入れ立ち上げた後、動作を少しでも軽くする為CD-Rに入れておいたデータをノートパソコンにインストールしておいた。
インストールが完了し、デスクトップに新しく表示されたアイコンをクリックする。
データのダウンロードが始まった。やはりコピーしたデータだと転送に五分程かかるようである。

(ま…仕方ない。デスクトップ型パソコンの中にデータがあるままじゃあ持ち運べなかったしな……)
CD-Rに入れていなければ今頃、データはパソコンもろとも炎の中である。不幸中の幸いといったところか。

データの受信完了を待ち、まずは先程聞き逃した第二放送の内容を把握する。
「禁止エリアは…『G-4』、『H-1』か…。」
遠藤は眉根を寄せる。
(『G-4』はともかく…『H-1』ってのは何故だ…?)

地図で見ると、『G-4』は人工的にコンクリートで舗装されているように見える。
(港……)


この島には先程までいたショッピングモールを始め、様々な施設が存在する。港があっても何らおかしくはない。
そこに主催の隠したい何かがあったとしても…。
(ただし…本当に重大な何かがあるのなら最初から禁止エリアになっているだろう)
遠藤は、『G-4』に関してはそこで思考をストップした。

(だがこっちの『H-1』は何だ…?)
地図で見ると『H-1』は南西、地図の一番端。ただの海である。

(島から離れた海上だ、調べる術はないが…。いや、本当に何かがあるのか…?
だとしても腑に落ちない…。何かが引っかかる。なんというか…他の禁止エリアに比べ異質すぎるというか、目立つというか…。
ミスリード…?不審な場所であるように見せかけ、本当に参加者から隠したい場所から意識を逸らす為の…。
だとしたら…『過剰』だ…。ネタを知っているが故の過剰反応……!
つまり……本当に隠したいのは『H-1』ではなく、『H-1』以外のどこかの海上……!
おそらく“何か”ある…。島から少し離れた海上のどこかに……!)
しかし、それが何なのかまでは思い至る事が出来なかった。

(田中沙織の現在位置はD-6…か…隣のエリア…くそっ…)
先程の遭遇。尋常でない沙織の様子を思い浮かべ、改めて背筋が寒くなる。

(次の受信はあと15分後…。次の受信で、沙織がもう少し南下して離れていてくれればいいのだが…)
腕時計を見ると、30分が経過している。遠藤がギャンブルルームに滞在できるのはあと30分。
(あと800万、金が尽きるまでギャンブルルームに滞在するわけにはいかんな。この手は緊急時の切り札に取っておかなきゃならん)
遠藤は掌の上のチップを眺め、デイパックにしまう。

(ならば残る策は…森田の時の様に、使役できそうな人間に近づき、己の安全を確保する事。
何せ今は手負いの身…。田中沙織のように殺し合いに乗った人間に遭遇してしまえばひとたまりも無い)


遠藤は、モニターに表示されている参加者の現在地を眺めた。
手負いの遠藤を守れる人間であり、遠藤が取り入る隙があり、動かせそうな、森田よりも賢しくない人間…。
(一度休息を取り、体制を立て直すためだ…)

その目的に見合った人物は、容易に割り出すことが出来た。
『C-4』、黒沢、治、石田のグループである。
データによると今、民家で手負いの治を介抱している。治の昏睡状態が続く限り、このグループは民家から移動しないだろう。
黒沢、石田の二人に絞って行動を検索してみる。
二人ともゲームが始まって以来誰かから逃げるか、誰かを守り助けるといった発言、行動をしている。一貫している。
何より、他の参加者を何の見返りもなく介抱する。この一点においても、遠藤にとっては一番適役と考えられる人物である。
黒沢はマシンガンを持った参加者と戦って退けたこともあり、腕力にも多少期待出来る。
石田は、かつてスターサイドホテルでのギャンブル斡旋のとき、一度話をした程度の顔見知りである。
元帝愛ということで警戒されるだろうが、あの男なら得意の弁舌で何とでも丸め込む自信がある。

「次に向かう先は、ここだな…」
遠藤は広げてあった地図を手元に引き寄せ、C-4の位置に丸く印をつけた。



【C-6/ギャンブルルーム内/深夜】

【遠藤勇次】
 [状態]:右肩銃創(痛むが腕を軽く動かすことは可能) 左足首を複雑骨折(応急処置済) 頬に火傷
 [道具]:参加候補者名簿  コルトパイソン357マグナム(残り5発) キャリーワゴン(島内を移動する為に使う)
     ノートパソコン(データインストール済) バッテリー多数 CD-R(森田のフロッピーのデータ) 不明支給品0~1 支給品一式
 [所持金]:800万円
 [思考]:次のデータ受信を待つ 黒沢、石田の元へ向かう 黒沢、石田を利用する 沙織、森田、南郷、佐原から逃げる
※森田に支給品は参加候補者名簿だけと言いましたが、他に隠し持っている可能性もあります。
※森田の持っていたフロッピーのバックアップを取ってあったので、情報を受信することができます。 データ受信に3~5分ほどかかります。



121:慕効 投下順 123:活路
115:金の狩人(前編)(後編) 時系列順 127:帝域
115:金の狩人(前編)(後編) 遠藤勇次 134:偶然と誤解の末に




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