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深緋な虚言 ◆zreVtxe7E6氏


「生憎、まだ持ち合わせが無いんだ。
今は、本当にお宅らが『棄権』の権利をちゃんと交換してくれるのか、それを確かめに来ただけ…!」
「成程、疑われていたのか。実に心外だ」
黒崎は部屋の中央に置かれた椅子に座り、指を組んだ。
 「…まぁ、ここまで来て手ぶらで帰れと言うのも可哀想な物だ。良かろう…話だけは聞いて行くが良い…」


…――佐原君、何故棄権するのに1億と言う大金が必要なのか、考えてはみたかね…?

黒崎の問い掛けに、佐原はピクリと眉を動かす。
 「それは……―」
言い掛け、淀む。
何処かでそれが、当たり前だと思い込んでいたのだろうか…。そう、問いかけられる事自体に違和感を感じた。
だが、そう言われれば考えずにはいられない。
そもそもこのギャンブルは、ただの一人の人間が考えた道楽なのだろうか?
借金に苦しむ人間の救済…では森田や南郷には当てはまらない。ましてやこんな、金を溝に捨てるような…。
そこまで至り、佐原は弾かれたように俯いていた顔を上げた。
 「………そうか…。あの時と同じ…賭けてやがるのか…てめぇら…っ!」
そう、話は単純明快。
 「要するに…お前等はオレ達に争って貰いたいんだ…。必ず勝者を作り出すために…。そう…焚き付け…!
1億と言うのは言わば焚き付けだ…っ!
お前等帝愛お得意の…“ギャラリーを退屈させない”措置…っ!」
目頭が熱くなる。あの時と同じでは無いか。無意味な生の賭け…その言葉が正に相応しい、あの狂気に満ちた夜と…!
言葉にせずとも、佐原には良く分かっている。自らがそうだった様に。

佐原の場合は即ち“死”
屠どのつまり、彼等が望むものは絶望の後に待つ“再起不能”なのだろう。
一体何人がこの甘言に惑わされ、絶望し…自我を喪ってしまうのか。気付けば佐原の頬は幾重にも筋となって雫が伝っていた。
何よりも、この様を見てほくそ笑んでいるであろうギャラリーの存在が佐原を震わせた。
一度ならず…二度までも…っ!!
その事実が佐原には堪え難かったのだ。

その様を見かねたのか、南郷が口を開く。
 「ほ…本当なのか…?」
場を取り繕うだけの確認…とでも言うのか。実の所、南郷は状況が上手く飲み込めていない…当たり前であろう。
殺し合いに加え、己が賭けの対象になっているなど、最早話の次元が違い過ぎるのだ。

 「ククク…その通りだ…御名答…とでも言っておこう…。だが…そこで思考を止めてしまっては…本当の意味での理解は出来ぬぞ…?
その先…つまり、根本…ククク…核心を掴まねばな…」
その意味深めいた言葉に南郷が声を上げようとした、その時である。
 「く…黒崎様っ…!大変な事が………!」
けたたましい扉を開く音と共に、慌ただしく駆け込んできたのは、全身を烏羽に包む彼の部下。思わぬ来客に黒崎は眼光鋭く言い放った。
 「場を弁えろ…っ!報告は後に……」
佐原と南郷を意識したのか、咄嗟に発した叱咤…。しかし、黒崎の脳裏に幾時分前の出来事が浮かぶ。背中に嫌な汗が滲んだ。
 「…………待て…ここで良い…。話せ…」
黒崎は客人二人を一瞥しつつ、その場から二、三歩下がる。黒服は口元を右手で隠しつつ、黒崎だけに伝わる声で事情を説明した。
 「…………っ!?」
黒服からの報告は、あまりに黒崎の想像を上回っていた。
それも、動揺を隠せない程に…。
話の内容は、突然リアルタイムで配信している、全ての監視カメラの映像が停止してしまった事。
そして、点在するギャンブルルームに滞在する黒服と全く連絡が取れない事であった。

しかしそれだけであれば、黒崎もここまで取り乱したりはしない。問題なのは最後の一言であった。
「それと…一瞬だけ復旧した際に…その…何処かのギャンブルルーム内で、黒服と参加者の一名が血塗れになっている映像が…。
それに対して会長が…来賓の方に説明をしろ…と」
この一言で黒崎は全てを理解したに等しかった。
 「…………くっ…」
悪態を吐きそうになる己の口と、壁を殴り付けたくなるような衝動を、奥歯を噛み締め拳を握る事で制し、瞳を閉じることで落ち着かせる。
そして、決して口には出さず黒崎は思うのだった。
 ―…あの古狸めっ…!
恐らくは全て兵藤の自作自演…。確証はないがそう仮定する。兎に角今は、事態の把握が先決…!
そう手短に思考を結論付け、深く息を吐き、開眼。そんな黒崎の眼前に、先程からの先客が映る。
 「…あぁ…待たせてしまって申し訳ない…。会長からの通達でね…」
その不可解な一言に、黒服は思わず声を掛ける。
 「黒崎様…何を…?」
黒崎の口角が、獲物を狙う蛇の首のように、不気味に吊り上がった…。
―――――

エレベーターの中で、佐原は黒崎から得た情報を頭の中で必死に理解しようとしていた。
 ―いや、そうじゃない…。理解しなきゃなんねぇのは…要するに……。

南郷は先にエレベーターで上に行っている。つまり今、佐原は一人である。
 「取り敢えず…感付かれないようにしねぇとな…」
 「押さなきゃ…押される…。そうだ…奪わなきゃ…奪われる…!」

――――――

 「会長からの特別な計らいで…もう一つ、重要な情報を与えよう…!只し、情報を得られるのはどちらか一方のみ…。
そして、我々が用意したルートで地上に戻って貰わねばならない…。どうするかね…?」
突然の提案に、佐原と南郷は思わず顔を見合わせる。
 「どうする…って…」
先に口を開いたのは佐原である。
先程の情報だけでは煮え切らず、願ってもない話ではあるが、何せ相手は帝愛…。
相手が如何な存在か良く知る佐原には、“好意”だとか“特別に”何かは俄には信じられない物があった。
 「良いんじゃないか…?寧ろ、願ってもない話だろう…?」
 「……………まぁ…ここまで来たんだしな…。分かった…その話、聞かせてくれ…」
確かに、こんな機会は二度と無いかもしれない。勘繰り過ぎだろう…と、佐原は考え直し条件を呑むことにした。
 「よろしい…では…どちらが残るか…このコインで決めよう。裏か表か決めたまえ…」
その言葉と同時に黒崎が取り出したのは、“帝”と“愛”が裏表に書かれた一枚のコイン。
これを受け佐原が表、南郷が裏にする事とした。
 「では…最後の確認だ…。このコインが示さなかった一方は、直ちにこの部屋から立ち退いて貰う。その際は黒服の指示に従いたまえ…。
 選ばれた一方も話が終わり次第、退室して貰う…。良いかね…?」
 「それは分かった…が、一つだけ確認させてくれ…。」
鋭い射抜くような視線で、佐原は問う。
 「ここの事…誰かに話しても良いのか…?」
 「フッ…まぁ、そう焦るな…。そんなことは話を聞いてから考えても良いのではないか…?」
腹に一物抱えたように黒崎ははぐらかす。佐原もそれ以上は追求しなかった。
 「………フン…まぁ、良いさ…。じゃあ…さっさと決めようぜ…!」
その言葉に南郷も頷く。続いて黒崎の親指がコインを弾いた。


キィィン…―

 「ほう…出目は表の“帝”…確認したまえ」
開かれた手の甲を佐原と南郷が確認する。確かにそこには“帝”の字が浮かんでいた。
 「では…申し訳ないが南郷君…あちらの扉から行きたまえ」
その扉は先ほど入ってきた入り口でも、黒崎が出てきた扉でも無かった。
 「…分かった…。じゃあな…佐原」
 「あぁ…」
軽く笑い、右手をさっと上げた。佐原は扉に吸い込まれ消える南郷を見届けると、黒崎へと向き直した。

 「で…?情報って何だよ…まさかここまでして…」
 「…今時の若者は…少し短気すぎだな…」
わざとらしいため息の後、勿体振るような前置きを挟む。
 「短気は損気だ…そんなんだから…最後の最後…足を掬われるのだ…。なぁ?」
そして、突き付けるように言い放つ。
 「鉄骨渡り…あれを体験した君なら…いやと言うほど思い知った筈だ…ククク…」
冷や水を頭から浴びせられたような衝撃が佐原に走る。帝愛の人間であれば、知っていてもおかしくは無い。が、面と向かって言われるのは嫌な心地しかしない。
あの恐怖…墜ちて行く四肢…思い出すだけで息が上がりそうになる。出来ることならば忘れ去りたい…そんな過去だ。
 「…くっ……」
たいした反論も出来ず、佐原は黒崎の次の言葉を待つしかなかった。
 「クク…では、本題に入ろうか…」
その言葉を待っていたと言わんばかりに、佐原は顔を上げる。黒崎も一瞬の間を置いて開口した。
 「配られた配当金…参加者の人数…棄権費用…考えてみたまえ…。地下にこの部屋が存在する事…」
「え…?」
謎掛けにも似た問いに、佐原は困惑する。
 「……何が言いたい…?」
脈絡の無い話に意味を見出だせない。だが次の瞬間、黒崎の言葉に佐原は驚愕する…!
 「ククク…果たして、棄権希望者全員の申し出を…統べからく…我々が受理するとでも思っているのかね…?
橋を渡り切った先に…ゴールと言う名の罠を仕掛ける“帝愛”が…!!」

 「………!!!!」
―そんな…そんな仕掛けが有ったのか…!
鼻から怪しいとは思っていた。こんな措置が有ること事態が…!
まさに、二重苦…。棄権の権利を買う場所が禁止エリア。更に、例え此処に辿り着いても…先着順…早い者勝ち…!!
 「…解釈は君の自由だ…。だが、分かるだろう…勇者よ…」
 「え…………?」
本当の意味で、佐原がその意味を理解するのに、そう時間は掛からなかった。
 「鉄骨渡りを制した君になら…出来る筈だ…押さなかったら…押される…!」

 ―…押せっ…!!

こうして佐原は、南郷の待つ扉の先へと向かう事になった。扉の先はエレベーターになっており、ボタンも表示板もない。
だが、浮游間が上へ向かっている事を告げていた。黒服もいない事から行き先は一つだけなのだろう。

―――――

 「………ら!おい、佐原…!」
南郷の呼び掛けにはっとする。どうやら黒服が大事な説明をするらしい。
 「わ…悪い。続けてくれ…」
 「………佐原…」
話の内容は此処を出てから、と南郷には言ったが、出来るものなら誰にも話したくない…と言うのが本音であった。
必然的に口数が減るのは至極当然と言えよう。そんな重い沈黙を破ったのは黒服だった。
 「では…この扉から外へ出て貰う事になる…。が…分かっての通りこのホテルは禁止エリアの中にある…。
扉を開けた瞬間から…首輪の時限装置が作動する…」
淡々と語る黒服の言葉に、動揺を隠せないのは南郷であった。
 「ま…待ってくれ…!」
足を怪我している南郷は切羽詰まった叫び。だが黒服には通用しない
 「首輪の警戒音が止むまで走り続ければ良いだけだ…」
腹をくくるしかないのか…。諦めたように佐原と目配せをする。

―そうだ…俺は独りじゃない…仲間が…佐原がいるんだ…!
しかし南郷の思いとは裏腹に、佐原の脳裏には一点の翳りが生じていた。
 ―これは…もしかしたら…好機なのかもしれない…
そう…そうだ。南郷は棄権希望者。ライバルは少ない方が良い…。
例えば…南郷が少しバランスを崩した時…。
オレガ……

手ヲ貸サ無ケレバ……

「では、カウントだ…。3…2…」
互いが互いに覚悟を決める。
「1…!」

竜胆に萌ゆる空に、二人の哀れな生け贄達は足を踏み出す。響く足音の先に、悲劇は待ち受けているのだろうか。
渦巻く思考が若者を揺り動かす。
このゲームの冒頭で、佐原は今回のギャンブルを“押さなきゃ押される”そう、称した。
今がその時なのでは無いだろうか…。
ここで南郷が死ねば、金を得る事は難しいが、少なくとも此処を知る者を確実に葬り去る事が出来る。
押すだけ…いや、彼が転ぶだけで…。
そしてそれは、次の瞬間現実の物となる。
彼の一時でも相棒であった彼が、足のバランスを崩したのだ。南郷は押されるまでもなく地に伏してしまう。
 「南郷…っ!?」
警戒音が刻みの間隔を早くする。もう数メートル先に行けばその刻みも止むだろう。
―――――
佐原が去った後、貼り付けていた笑みを引っ剥がし、荒々しく戸を開け放し部屋を後にした、黒崎。
 ―あんな物で気が晴れるかっ…!
殴り付けるようにエレベーターのボタンを押し、苛立ちを眉間に寄せた皺が物語る。
 ―だが…あの嘘は中々効果的で有ったかものな…
幾分かマシになった眉間を携え、黒服と共にエレベーターへと消える黒崎。

そう、あの話は全くの嘘であった。
最初の話は知られても良い…いや、既に知られている情報を与えたに過ぎない。
後の話は他の人間に話す気を無くさせる…口止めを狙ったものと、細やかな鬱憤晴らしに過ぎなかったのだ。
だから会えて佐原を狙ったのだ。疑心暗鬼に陥りやすく、少し背を押してやればその気になれる性格。
だからコインで残る方を決める際、“帝”か“愛”ではなく、裏か表、と言ったのだ。そうすればどちらが側が上を向いても、表の…と付け、佐原を残すことが出来る。
案の定、何の疑問も持たれず佐原を残し、爆弾を仕掛けられたのだった。

―…それにしても…君の解釈に任せるとは…我ながら良く言ったものだ…ククク



【D-4/ホテル/黎明】

【佐原】 
 [状態]:健康 首に注射針の痕
 [道具]:レミントンM24(スコープ付き) 弾薬×29 懐中電灯 タオル 浴衣の帯 板倉の首輪 支給品一式
 [所持金]:1000万円
 [思考]:これからチップを稼いで脱出する 自力で生還する 森田を信用しない 遠藤と会いたくない
※森田が主催者の手先ではないかと疑っています
※一条をマーダーと認識しました
※佐原の持つ板倉の首輪は死亡情報を送信しましたが、機能は失っていません
※黒崎から嘘の情報を得ました。他人に話しても問題はありません。

【南郷】
 [状態]:健康 左大腿部を負傷  精神不安定
 [道具]:麻縄 木の棒 一箱分相当のパチンコ玉(袋入り) 懐中電灯 タオル 支給品一式
 [所持金]:1000万円
 [思考]:生還する 赤木の動向が気になる 森田の首輪集めを手伝う  森田ともう一度話したい
※森田と第3放送の一時間前にG-6のギャンブルルーム前で合流すると約束しました。
※一条をマーダーと認識しました。
※黒崎から情報を得ました。他人に話しても問題はありません。



140:正義 投下順 142:逆境の闘牌(前編) (中編) (後編)
132:抜道 時系列順 131:一致
132:抜道 佐原 143:我欲
132:抜道 南郷 143:我欲
132:抜道 黒崎義裕 155:第三回定時放送 ~契約~




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