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我欲 ◆uBMOCQkEHY氏


「南郷…っ!?」
佐原の視界の中で南郷の身体が地面に倒れていく。
石か何かに足を引っ掛け、バランスが崩れてしまったのだ。
佐原の脳裏に黒崎の言葉が蘇る。

――ククク…果たして、棄権希望者全員の申し出を…すべからく…我々が受理するとでも思っているのかね…?
  橋を渡り切った先に…ゴールと言う名の罠を仕掛ける“帝愛”が…!!

この言葉は権利購入が“先着順”であり、その先着から漏れれば、いくら1億円を用意した所で無効ということを示唆している。
しかし、この言葉は佐原に疑心を植え付けるため――佐原に殺し合いに乗らせるために言った黒崎の方便。
そんな黒崎の胸中など知るはずもない佐原は、ものの見事にその話術に嵌り、迷いが生じている。

「な…南ご……」
佐原は南郷に手を伸ばそうとする。
しかし、この直後、首輪の警告音の間隔がより短く、けたたましくなった。
「えっ…!!」
佐原は思わず、自身の首輪を抑える。
その間隔の変化は爆発の時間が迫っているサインであった。

(オレは……どうすればっ……!)
禁止エリアを駆け出す前、“もし、南郷が転倒してくれれば、助かる確率が上がるのでは…”という邪な考えが佐原の心を支配していた。
だが、これはあくまでも、その可能性があるという“もしも”の話でしかない。
その展開は佐原にとって都合がよすぎる上に、現実で起こるとすれば天文学的確率。
ありえるはずがないからこそ、“もしも”として考えることができた。
その“もしも”が起こってしまった今、佐原は南郷を助けるかどうかという選択に迫られている。

(オレは…オレは…!)
自分の命も風前の灯なのだ。
南郷に構っている余裕などない。余裕など――。


「うおおおおおぉぉぉ!!!!!」
佐原は咆哮のような叫び声をあげながら、南郷の元に駆け寄るや否や、その身体を持ちあげた。
南郷の肩を強く掴み、尋ねる。
「時間がないっ!!歩けるよなっ!なっ!」
佐原の尋ね方は肯定以外の解答は許さない荒々しさだった。
「さ…佐原……」
南郷は佐原の剣幕に一瞬言葉を失うも、状況が状況なだけに黙って立ち上がる。
「もたもたすんなよっ!走れっ!!!」
南郷に外傷がないことを確認すると、佐原は突き放すように駆け出した。

本来なら肩を貸すなど、佐原は南郷を気遣うべきだったのかもしれない。
しかし、一刻の猶予もならない状況。
献身的なことなどしてやれるはずもない。
南郷を起き上がらせることが、佐原ができる精一杯の情けであった。

佐原は無我夢中で禁止エリアを駆け抜ける。
その姿は荒波の中をもがく漂流者のようであり、大きな津波が来ればそのまま藻屑になってしまいそうな危うささえある。
裏返せば、走り方に構っていられないほどに佐原は必死であった。
死にたくない。生き残りたい。
これが今の佐原の思考の全てであった。

その佐原の願いは天に聞き遂げられたらしい。
佐原の首輪の警告音が消えたのだ。
「ま…マジっ!?」

佐原はその場で足を止め、耳を澄ます。
首から響く断末魔のような悲鳴は確かにない。
「た…助かったっ!」
佐原の胸に歓喜が込み上がった。
「やったぜっ!南郷っ!」
佐原は快哉を叫びながら、南郷を振り返る。

この直後、佐原の思考が止まった。
南郷は遥か遠くにいた。
先程の転倒の際に足を攣ってしまったのであろう。
その足を庇うように引きずりながら、一歩一歩ゆっくり歩いている。

「南郷っ!!!」
佐原が踏み出した瞬間だった。
佐原の首輪から再び、あの警告音が鳴り響き始めたのだ。
「なっ……!」
佐原は慌てて飛び退く。
すぐに音は消えた。
つまり――
「次の一歩が……禁止エリアとの境界線っ……!」

この一歩を越えれば、佐原はまた命の危機に晒される。
しかし、越えなければ、南郷を助けることもできない。
南郷を助けなければいけないのは分かっている。
しかし、足は死の恐怖と命の惜しさから動こうとはしない。
佐原はその場に立ち尽くし、南郷を見守ることしかできなかった。

「佐原……」
南郷は佐原に向けて顔をあげた。
「え……」
佐原は南郷と視線を合わせて愕然とした。
南郷は今にも泣き出しそうな程に崩れた笑みを浮かべていた。
自分の命が助からないことを悟ってしまった諦念の笑みを――。

「南郷ぉぉぉぉおおおおおお!!!!!!」
佐原は言葉にならない声で叫んだ。
その声が佐原自身の耳に届くと同時であった。
ボンという音と共に、南郷の頭部から鮮やかな赤い火花が飛散した。
まるで川辺で咲き誇る彼岸花のように美麗な紅。
その火花を散らしたまま、南郷の身体は地面に叩きつけられた。
「な……南郷……」
実際の時間としては1秒ほどの出来事であったが、佐原にとっては映画のフィルムを静止画で見せられているかのように長く、
鮮烈に脳に焼きつけられるには充分過ぎるほどの時間であった。
南郷の首からは蛇口を閉め損ねたホースの水のように混混と血が流れ、周囲には焼け焦げた鉄と人脂の臭いが広がっていく。

「あ…あぁ……」
悲嘆は認識の後に襲ってきた。
佐原の膝が力なく地に落ちる。
「な…南郷ぉ……!」
佐原の口から嗚咽が漏れ、涙が滝のように流れ落ちる。
足が攣れば、痛みは当然伴う。
南郷自身、気付いていただろう。
しかし、南郷はそれを佐原に訴えなかった、否、訴えることができなかった。
その理由を、佐原は悟っていた。

「オレが……南郷の言葉を……遮っちまったから………」

佐原が南郷の元に駆け寄った時、佐原は南郷の態勢を起こし、怪我の有無を確認した。
追いつめられていた故に当然のことではあったのだが、この時の佐原は取り乱していた。
南郷は佐原を気遣い、従順についてきていた男である。
そんな心優しい男が、生に執着する佐原の神経を逆撫ですることなどできなかったのだ。

「すまない…本当に……すまないっ……」
なぜ、南郷に手を貸そうとしなかったのか。
なぜ、先に逃げてしまったのか。
己の臆病さ、優柔不断さ、卑劣さ、その全てが腹ただしく、情けなかった。
佐原は懺悔を口にしながら、絶泣する。
それは声が枯れるまで続いた。

やがて、泣き疲れた佐原はその場に横たわる。
殺し合いの状況下では無防備というほかないが、今の佐原の意識は霞みがかり、これから先のことを考慮できる状態ではない。
南郷を殺したという罪は佐原にとって、あまりに大きすぎる十字架であった。
佐原の精神のキャパシティを越えてしまっていた。

「南郷……すまない……」
溶けた思考の中で、うわ言のように詫びを繰り返す。
次第に、森の闇に白い靄が混じり始める。
その時だった。
一陣の風が森に吹きぬけていった。
その風になびかれ、木々がガサリッとざわつく。

「えっ…」
佐原はハッと目を見開く。
誰かが隠れ潜んで佐原の命を狙っているのではないのか。
背筋を駆け巡る戦慄。
「だ…誰だっ!」
佐原はライフルを掴み、それを音の方へ向けた。
森全体を包み込む静寂。
森の奥は薄らいだ闇と白い霧に閉ざされ、人の気配はしない。
風によって引き起こされた偶然なのだから、それも当然である。
しかし、神経が疲弊した佐原にはその偶然を見分ける力は存在しない。
「誰だっ……!出てこいよぉ……!」
弱弱しく咽び泣きながら、佐原はライフルを3発、森に放つ。
銃弾は『誰か』に当たることなく、霧の中に吸い込まれていった。
「そ…そんな……」
巨岩を相手にしているような圧倒感。
恐怖だけが嵩を増し、佐原の神経をさらに摩耗させる。
佐原は本能のままに絶叫する。
「死にたくねぇっ!死にたくねぇ!」
佐原の悲痛な訴えは誰かに届くことなく、靄の中に溶けて消えていった。



【C-4/森/早朝】

【佐原】 
 [状態]:情緒不安定 首に注射針の痕
 [道具]:レミントンM24(スコープ付き) 弾薬×26 懐中電灯 タオル 浴衣の帯 板倉の首輪 支給品一式
 [所持金]:1000万円
 [思考]:死にたくない これからチップを稼いで脱出する 自力で生還する 森田を信用しない 遠藤と会いたくない
※森田が主催者の手先ではないかと疑っています
※一条をマーダーと認識しました
※佐原の持つ板倉の首輪は死亡情報を送信しましたが、機能は失っていません
※黒崎から嘘の情報を得ました。他人に話しても問題はありません。



【南郷 死亡】
【残り19人】



142:逆境の闘牌(前編) (中編) (後編) 投下順 144:願意
150:記録 時系列順 148:愚者(前編)(後編)
141:深緋な虚言 佐原 148:愚者(前編)(後編)




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