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計略(前編) ◆xuebCgBLzA 氏


「宇海零…決勝進出っ…!決勝大会は5日後の―――」

 * * *

「ううっ…零ぉ~…ごめん…」
辛くも『王への道』に予選落ちしてしまったヒロシが泣きついてくる。
「へ、平気だから泣くなよ、ヒロシ!
それより、決勝大会はどこかの島でおこなわれるらしいから…」
ユウキをチラと見る。
「ああ、わかってる。まかせてくれ…!
ミツルのことも…いつか来るかも知れぬ僥倖っ…敗者復活のこともっ…」
ユウキも予選落ちしてしまったが事実を受け止めて、涙を呑んでいる。
ヒロシはともかく、ユウキは排ガスでの自殺未遂、ヤクザからの軟禁、
そしてこのドリームキングダムでの予選という数々の修羅場を乗り越えて確実に大きく成長していた。
「それならいいんだ…それならっ…」
「……?…どうかしたのか?零…こっちの事ならまかせておけって!」
たしかにこちら側の具合も気に掛かるが本当の意識はもう決勝の地にあった。
「いや…どうも非合法な香りがしてさ…決勝っての」
「そんなっ…予選でも非合法なことばかりだったじゃないか」
ヒロシが鋭く指摘する。
「それは…まぁ……そうなんだけど…」
その時…血の匂いが鼻をなでたような気がした。

―――そして5日後、零は在全グループ側に指定されていた公園でじっと決勝の時を待っていた。
予選でさえ過酷だった数々のギャンブル…。
どんなギャンブルが用意されていても決して面食らわぬように心構えだけは万全にしているつもりだ。
目を閉じると、色々な不安が頭をよぎってしまう。
「宇海…零様ですね。在全グループのものです。お迎えに上がりました」
2人の黒服がこちらを見つめている。いままで見てきた黒服とは違う…。どこか軽率に見える…。
「あ、あぁ…よろしくお願いします…」
目を閉じ、考え事している時に声をかけられるのは好きではなく、思わず不意を突かれた気分になった。
「そういえば、決勝は孤島でやるっていうことを聞いたんですが…なんでこんなところで待ち合わせなんでしょうか…?」
返ってくる答えは解っていたが、冷静さを取り戻すために会話を持ちかけた。
「はい。ここから港へ移動し、そこからは船で在全グループが姉妹グループである誠京、帝愛両グループと共に所有している島に渡っていただき、
決勝はそこで執り行われる手はずになっております」
この場で誠京、帝愛の名前が出ることに違和感を覚えた。
(世界の富豪が参加するギャンブルで、唯一日本から出場する在全グループの代表を選ぶ事になんで誠京?帝愛?
関係ないんじゃないのかっ…?他はっ……)
考えさせてくれる暇も与えてもくれず、
「それでは早速移動しましょう…これをつけてください」
そう言うと黒服は自分のスーツの胸元からアイマスクをとりだした。
必然っ…。決勝を開催する場所を特定されないようにこの公園を指定されたのだ。
このぐらいの処遇は覚悟していた。零はアイマスクを装着し黒服の車に誘導され、乗り込んだ。
車のエンジンがかかり、車が動き出す…。
揺れる車内で思いをめぐらせる…。気がかりな事は山のようにある。
ギャンブルの内容。参加人数。
同じく決勝に進出したはずの標…、板倉…、末崎…、山口…。
残った仲間達の安否。
そして、なぜか一番気になるのが、誠京…。帝愛…。
どうしても引っ掛かるのだ…。日本の一大企業の十指に入るであろうグループが3つも関わるイベント…。
しかもそのグループの会長等の噂は似通っている。
「変態」であり…「狂人」っ…。

考えているうちに車はどこかの港についたらしい。
車を降りると、港の雰囲気…。
磯の香り…。
カモメかウミネコかの鳴く声…。
防波堤が波を砕く音…。
目隠しをしていても伝わってくる港の雰囲気…。
「それでは、ここからは船での移動です」
「あ、あの…。他の参加者って…別移動なんですか?」
「はい。零様はご理解のある方なので任意同行していただけとの命令を在全から受けておりますので…」
「お、おいっ…!喋りすぎだぞっ…!」
ひとりの黒服が口を滑らせた…。明らかに焦りを見せるもうひとりの黒服…。
(オレは任意同行…。と、いうことは他の奴らは拉致…強制連行…ってことか…?)
「そ、空耳っ…!今の話は空耳です…!」
「あはっ、あはは…」
2人の黒服は冗談っぽく笑った…。異様な焦り…。
この焦りようをみると…本当によくない事を喋ってしまったようだ。
誠京…。帝愛…。在全…。拉致…。連行…。
いくつかのワードをつなぎ合わせてできる答えは何度考えても一つしか出てこなかった…。
決勝のギャンブル…

狂気の沙汰っ……!

 * * *

ピッ、ピピピピピピピピピ…

―――パァン…
「山口っ……」
山口が―――死んだ…。
あまりに簡単に…。知人が死ぬことが圧倒的な恐怖だということが身に染みた…。
涙も出てこず、ただただ唖然としてしまった…。
山口は間違えてしまった…。
制止してくれた男の尾につけばここまでの事態は起こらなかった…はずっ…。
(いつかお前は言ったよな・・・『クズは切り捨てろ』って…。言い方は悪いかもしれないが…お前は…)

―――切り捨てられたんだっ……!

説明を漏らさず聞こうと思っていても…ちらつく…『亡霊』が…。
(くっ…切り捨てられてるのは必然っ…!あいつはいつでも誰かの腰巾着でなければ生きられないような男だったっ…!
殺し合いが個人プレーだから先走りっ…、要らぬ所で尖りっ…、切り捨てられたっ…!)
自分に言い聞かせる。
知り合いが死んでしまったという現実から目をそらすために…。
説明の中に生還を見出す事に全力を注いだ。
黒崎という男からの『殺し合い』の説明は終わった…。『殺し合い』と『ギャンブル』はちがう…。
そこだけははっきりと区別をつけておきたくて、もう今回の『殺し合い』をギャンブルと呼ぶのはやめることにした。
出発の時を待ち、悶々としている時、意識はもう死んだ山口より生きているあの男にいっていた。
山口を制止していた男…『伊藤カイジ』と呼ばれて出て行ったあの男は…

泣いていた…。
(まさか…誰かも知れぬ男のために泣いているのか……。呆然でもなく…、発狂でもなく…、涙っ…!
しかも阿鼻叫喚ではなく、間違いなく山口に対する哀れみの涙っ…!)
容姿もさることながら『どこか』が自分と似ているような気がする…。

そして時が来た…。
支給品が配られ、ついに放たれる…。

殺し合いの場へ…!

3年付き合った男の死よりも、高々30分空間を共有しただけの男の涙に思考が走っている自分は異常な人間なのだろうか…。
もしかして、このような思考を持った人間が、この殺し合いにふさわしいのではないか…。
零の疑問に答える者はいない…。

殺し合い。
優勝賞金は10億円。
減っていた。100分の1に。
(やはり…、騙されたのか…?この殺し合いは決勝とは違うだろう…。
在全は…予選を勝ち抜いた俺達に…違う何を望んでいる…?
そりゃあっ…もちろん殺し合いだろうけれども…
生還っ…!絶対にっ…生還してみせるっ…!)
生き残りの術として人を殺すつもりは毛頭ない。
(それにしても汚いっ…!あんな殺し方をされちゃあ退路なんてあったもんじゃないっ…
拉致されて参加させられた人や、ギャンブルの内容を聞かされずに来た人が決起し、
クーデターなんかを起こそうたって一蹴っ…。そのことを自覚させるための見せしめっ…!)
40もの赤い花火が上がる情景を想像し、身震いした。
(そうだっ…!このバッグっ…!各々の武器が入ってるって言ったな…)
当てもなく動いていた足を止めその場に座り込んだ。
背負っていたバックパックを下げ、一呼吸おいて決心する…。
(気持ちを切り替えろ…!この中に人を殺さずに生き残る方法、オレにとっての『光明』が…あるっ!)
希望を込め、懇願しつつ、一気にバックパックの口を開いた。
食料、水、地図、コンパス…これらの下に『光明』はあった。

5本の針金…。

そして1セットの麻雀牌…。

(……!?……ハハ…。なるほど…!)
あらかじめ両端をねじり1つにした2本の針金の間に、役の出来上がっている13牌をしかけ、懐にしまっておく。
それを本来の配牌の上に置き、針金を配牌の真ん中まで下ろしそれを持って帰る…。
完成っ…!
役満、天和確定のイカサマっ…!
(課題はひとつ…。すり替えのタイミング…
理想は暗転だが…こればかりは実際のギャンブルルームを見なければわからない…
だが、多少の想像はつく…。まず、窓はない…いや、あるにはあるがカーテンは閉まっているはず…
外からの傍観者を遮るために…。そしてあまりに明るすぎるのも主催側にとってよくない…。
黒崎はギャンブルルームについて『過程はどうあれ結果にはしたがってもらう』と言っていた…。
つまり、許容しているはずっ…バレない程度のイカサマはっ…。願わくば照明は一つっ…!麻雀卓上に…!
ともかく…この『光明』とギャンブルルームを使えば…。
一億を稼ぎ、棄権は出来うる…!
殺しをしたくないから運否天賦のギャンブルで金を稼ぎ…棄権。
殺しをしたくない人間の……定石っ…。
カモられる人間には悪いがそのスキを利用させてもらう…。
だが…何人にまで通じるか……。)
確定された勝利により、純粋な心を持っている零は既に罪悪感を抱いていた…。
(いや…、『負』を考えるな…!
何にせよ…移動っ…!
ギャンブルルームへっ……!)
零の浮遊していたココロがしっかりと地に付いた瞬間だった。

しばらく歩くと、建物を見つけた…。
(…っ!見えた…!ギャンブルルームっ…!)
他の建造物とは、かもし出す空気の違う、異様な雰囲気の建物が目に入る。
すぐに建物に接近するわけではなく物陰から様子を伺うことにした。
(あの黒服は…受付か?たしか…。30分、100万…。)
よくよく観察していると、一人の男がやってきた…。
銀髪のオールバック…。胸元が開いた派手なシャツの上に派手なスーツ…。
この男は……!
異様っ…!
ヤクザという風貌でもなく、
かといって堅気には到底見えない…。
(あの男が初っ端のカモ…?)
そう思うと、足が震え、額には汗っ…。
全身があの男を敵に回すこと拒んでいる…。
(いやっ…!ビビってなんかいられるかっ…!
こちらにはあるんだっ…!勝ちへの布石っ…!)
そう思いながら急いで針金牌を準備し始めた…。

選んだ形は…

1萬、9萬、1ピン、9ピン、1ソウ、9ソウ、南、南、西、北、白、發、中…

袖口には東を仕込み、子の1順目で東をニギり…

地和…。国士無双…。三倍満…。
(国士無双は使える牌が多いから相手に被られる心配が少ない…
それに…イカサマ『らしさ』をなくすためラス親は相手に譲り、地和…
13面待ちじゃないのも『らしさ』隠し…!それに…二人打ちなら負けていても三倍満で十分ひっくり返せるはずっ…!)
自分の計画をもう一度確認し、最後に下準備の仕上げとして落ちている小石をポケットに潜める。
覚悟を決め、その男を警戒させぬよう両手を挙げ、静かに近づく…。
男は近づいてきた零に気づいたようだ。
「坊主…ギャンブルか?」
零は両手を挙げたまま、男と3メートルのところまで歩く。
この時点で零は男が拳銃などの飛び道具を持っていないことを確信…。
(普通の人間が飛び道具を持っているならばまずここでその武器を構えるはず…。
3メートルという間合いは…許されるはずがない…)
零なりの、しかし的確な判断で男を測る。
(まずクリアー…!このおっさんが普通じゃないという可能性を除いてっ…!)
男の手前で止まり、そこではじめて手を降ろし、答える。
「えぇ…。おじさんも…ですか?」
「クククッ…まぁ…な。しかしおじさんはよしてくれねぇか…?
オレは平井銀二っていうんだ…」
平井と名乗る男は笑いながら自己紹介をする。
「あっ……す…すみません…!オレは零…!宇海零です…」
恐縮しながらこちらもさりげなく自己紹介をする。
「いや…何…。それにしてもなかなか礼儀のきちんとしているな…君は…
気に入った…君も一人だろう…。あまり外で立ち話もしたくない…とりあえず中に入ろう…」
銀二はあごでギャンブルルームへ…とサインを示す。
「入るぞ」
「ハッ。どうぞ…平井銀二様に…宇海零様ですね…」
うんと小さくうなずき銀二はギャンブルルームへ入る…。
銀二に続いて零も中に…。
(暗い…)
零の計画通りだった。窓はあるがカーテンが閉まっており日の光は完全遮断…。
天井に一つだけ…。頼りない照明が垂れ下がっており、
その光が部屋の中央のマルチに使えるであろうテーブルとそれをはさんで置かれている椅子だけを照らしている…。
銀二は入り口から向かって左の椅子に腰掛けた。
零にも座るようにジェスチャーで促し、零はそれに従った。
「さて…何のギャンブルを…」
「待ってください」
何のこともないようにギャンブルを始めようとする銀二を零が止めた。
「なぜ無償で…ギャンブルルームには入れたのでしょうか…?」
零は率直に疑問を銀二へぶつけた。
「あぁ…。これだ…」
そういうと銀二はバックパックの中から一枚の紙切れを取り出した。

『ギャンブルルーム 1時間無料ペアチケット』

薄暗くてもはっきりと見える程大きくそう書かれていた。
「これが…オレの支給品のひとつとして入っていたんだ…。
こいつだけは死ぬ前に使わないとな…折角なんだから早めに楽しみたかったんだよ…『生き死にのギャンブル』を…」
零はハッとした。
(そうだ…。ギャンブルでも命のやりとりが有り得るんだ…)
「さぁ…!オレは晒したぜっ…命綱をっ…!」
銀二は不適に微笑む。
「あっ…あぁ…!オレも晒しましょう…。命綱っ…!」
零はバックパックから取り出した…。

針金をっ…。

「クククッ…!こりゃあ…確かに…走りたくなるよなぁ…運否天賦のギャンブルに…」
零は心中でほくそ笑んだ。
(誰がっ…。これはギャンブルじゃない…踏み台だ…!
常勝っ…! 悪いが…乗り越えさせてもらうっ…!)
「零君と命の取り合いは無しだな……
これじゃあ、半ば『いじめ』っ……」
零は助かった…という空気を出すフリをした。
「じゃあっ…何を賭けるんですか…!?」
「もちろん…金……。この地の獄ではじいさんも子供も平等な金を持っている…
ならば…搾り取らせてもらおう…零……」
銀二に呼び捨てで呼ばれた時、零はじりじりと心が焦がされるように感じた…。
(やはり、こいつを選んだのは間違いだったのかっ…?空気が違うっ…!
普通の人間とっ…!!)









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