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デッド・ライン」(2008/11/10 (月) 10:24:29) の最新版変更点

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**デッド・ライン ◆TJ9qoWuqvA 「……ついたぜ。鳴海」  グリモルディのキャタピラが土埃を舞い上げるのを止め、朝日に照らされる校舎へ赤木は降り立つ。  白髪を揺らし、とがった顎先と高い鼻を持つ顔。怜悧な瞳で周りを見渡し、安全を確認した。  鳴海のほうを向くと、彼は怒りに満ちた表情をしていた。  定時放送を聞いたときから彼は押し黙り、身体中に熱を持ち押し黙っている。  彼の知り合いはフェイスレス一人。その名が呼ばれなかったことから、知人が死んで怒っているわけではない。  ならなぜ怒っているのか?  答えは単純。多くの犠牲者が出て、それを仕込んだ主催者、たしか徳川とかいった爺さんに対して怒りを感じているからだ。  六時間ほど共にして、鳴海がそういう男だというのは理解した。  同時に赤木は考える。  この定時放送で呼ばれた知り合いはいる。だが、どちらも自分が『下した』格下の男だ。  偽者の無頼である市川。凡夫といっていい平山。  どちらも生死の境目であるこの殺し合いで生き残れるとは到底思えない。  だから彼らの死を聞いたときは、やはりとしか思えなかった。  鳴海が自分の知り合いが死んだかどうか尋ねたときはいないと答えた。  その方が面倒が少ない。 「鳴海、二手に別れて校舎を探索しよう。合流場所は…………一時間後の校庭の真ん中だ」 「別れると危険じゃないか? 殺戮者が潜んでいたら、一人で対応できるのか?」 「それを含めて、人を探すために別れる。理由は合流したときに教えよう。 ……なに、核鉄がある以上、そう簡単に遅れは取らない。そして……」  赤木が五指を操作すると、瞬く間に二メートルはあるキャタピラを持つ人形が折りたたまれていき、トランクに収められた。  グリモルディがおさめられたトランクを右手に持ち、赤木は校舎へと身体を向ける。 「こいつは持ち運びに便利だ。何かあったら派手に暴れて知らせるさ」  説明が足りず不満なのか止める鳴海に振り向かず、歩を進める。  赤木の意識は校舎内に向いている。秘密組織のアジトにすると鳴海は冗談めかして言っていたが、自分は本気だ。  何をするにも拠点は必要。それはここに来る前、鳴海に告げたことでもある。だが、その拠点に篭るのはマイナスだ。  ここに来る途中、あるいはここで対主催者……殺し合いに乗っていない人間と数人合流するのが理想だった。  学校で待機させ、自分や鳴海が情報収集へ向かえる。  もっとも、そんな状況、ポーカーでいきなりフルハウスが揃うくらい可能性が低いから期待はしていない。  赤木は教室を覗きながら、誰かが潜んでいる事を期待する。  この殺し合いに参加させられてから、彼はまだ死線に遭遇していない。  鳴海と一緒に人形の把握。それを使っての実践の仕方の把握。この殺し合いですべきことの確認。拠点の確保。  いずれも上手くいっている。無理をせず学校で『待ち』に徹すれば協力者を増やすのも比較的安全に進めるだろう。 (だが、それでは実入りは少ない。大きい利益は死ぬか生きるかの境目で発生する。 ……安全策は目先の小さい利益を得たとしても、いずれ限界が来る。そんな凡夫が取るような策では到底『勝利』に辿り着けはしない。なら……)  廊下を歩き、赤木は立ち止まると同時に思考を停止する。開けた先の部屋は保健室。  そこで薬品を回収しながら、赤木は今後の方針を固め始める。  「くそっ、好き勝手いいやがって」  鳴海は悪態をつきながら校舎を回り、物色を開始する。  盗みを働いているようで気が引けるが、今後のためだと割り切り、手をつける。  それにしてもと、放送の内容を思い出し、怒りが蘇る。  筋肉が盛り上がって、銀のメッシュが入った黒い長髪がザワザワと震えたような気がした。  八名も死んだのだ。なのに自分は救いに向かえなかった。 (何やっているんだ、俺は。「しろがね」となって死に難くなった。戦闘向きの左腕もある。 何年も功夫を積んだ。なのに、いまだに誰一人として守れていないッ!!)  鳴海は悔しさに眉間に皺を作り、歯を食いしばった。血の通った右手からは爪が皮を破って血が滴っている。 (のんびりなんかしてられねえ。一時間後合流したらここの維持は赤木に任せて俺は打って出る! もう誰も殺させはしねえ。俺が戦う)  思い出すのは、人形になす術も無く殺されていく無力な人たち。  あの光景がこの舞台の片隅でひっそりと行われているかと思うと、鳴海は怒りで頭がどうにかなりそうだった。  一歩、力を込めて地面を踏みしめる。  加藤鳴海の瞳は、前をまっすぐに射抜いていた。 □ 「で、理由とやらを聞かせてもらおうか」  先に校庭の中央で仁王立ちしていた鳴海を前に、赤木は立ち止まる。  ストレートな物言いに思わず唇の端が持ち上がった。  それを馬鹿にしたと受け取ったのか、鳴海が不機嫌な表情を見せる。 「……なに、簡単なことさ。二手に別れてまで学校の探索速度を上げたのは、ここを拠点として一時破棄しようと思っているからだ」  今度は驚いたらしく、マヌケな顔に変わる。  結構表情が豊かな男だと思いながら、続きを告げる。 「もともと二人でここを拠点として維持できるとは思っていない。 先に殺戮者さえいなければ、再び出発する心積もりだったさ。 ……本来なら、人数が少ない今は守りに徹するのが安全策。だが、それでは得る物が少ない。 打って出る。ここを維持するのも……反旗を翻すのも……強敵に対抗するにも……人数と情報がいる。 そのために繁華街へ向かう。いいな、鳴海」 「危険だから避けるんじゃなかったのか?」 「……そうだ、本来なら殺戮者が集うであろう、繁華街へ向かうのは愚かの極み。 だがそれも、殺戮者に抵抗できない状態である場合のみだ。鳴海、俺たちの手に何がある? 戦闘向きといっていい核鉄が二つに……グリモルディ……敵に対抗できる手段はある。 なら、危険を冒しても利益を得るほうを選ぶべきだ。 それに、そんな危険な場所には、お前が保護したいと考える無力な人間も集まるかもしれないぞ。 迷う理由はあるのか?」  言い終えると、こちらを呆れた顔で見つめる鳴海が視界に入る。  だが、彼はこの提案に乗るはずだ。赤木にはその確信があった。 (鳴海の性格は直情型。そして、俺と出会ったときの言葉から察するに、無力な人間を守る事を優先する。 そのためなら危険を承知で突っ走りかねない性格。 放送で怒りを覚えている今なら……俺の提案に乗ってくる!)  朝日の下で佇む二人に、風が吹いて僅かに土埃が舞う。  十数秒ほど沈黙の時が流れ、やがて鳴海の口元が動き始める。 「……たとえばだ、目の前で殺されそうな人間と放置された支給品があったとして、無力な人間と役に立ちそうな支給品、どっちを優先する」 「支給品にもよるな……」 「なら、お前が考えられる限り欲しい支給品と、人の命、どっちを優先する」  その言葉を受けて、赤木は不敵に笑う。  答えなど、とっくの昔に出ている。 「主催者の都合のいいほうを優先する」  意外だったらしく、鳴海はあんぐりと大口を開ける。  失笑しながらも、視線を逸らさずに続きを紡ぎだす。 「……もし、俺たちが脱出に近付けば近付くほど、主催者は俺たちを警戒し、マークする。 だが、逆に俺たちが脱出に遠ければ遠いほど、警戒は薄くなる。 じわじわと進めるのは駄目だ。一見、調子がよく見えても遠からず行き詰るのは目に見える。 重要なのは水面下で準備を進めることと、一気に主催者へ抉りこむ方法を見つけること。 そのために目の前の勝利は捨てることも考えなければならない」 「そのために、誰かが危険な目にあっても構わないのか?」 「違うな。他人が危険な目にあっても、俺たちに利益は無い。 逆に俺たちが危険な……いや、死線に立つことが重要だ。 そして、俺たちが接触する必要がある男は勇次郎」  ククク……と低く笑う。  尋常でない男との出会いを望む自分はどこか捻じ曲がって見えるだろう。  しかし、最初のやり取りで勇次郎なる危険人物と主催者は顔見知りなのは伺えた。  これは、危険な手に見えるが、脱出を目指す者なら一度は通らなければならない道である。  なら、その一番手には自分がなる。 「俺はこの殺し合いに踊らされる殺戮者と刺し違える気は無い。 やるのは……主催者からの完全勝利! 行くぞ、鳴海。敵から毟り取れるだけ……毟る!!」  語気を強めて言い放ち、糸を繰り出してトランクから折りたたまれたグリモルディを組み立てる。  鳴海はこちらを睨みつけるだけだった。 □  三十分ほど経ったとき、赤木はバイパスを通り、繁華街へ向かっていた。  隣に並ぶ鳴海はグリモルディに乗り込んで以来、一言も発していない。  自分の答えに満足いっていないのだろう。だが、それで構わない。  赤木は仲良しごっこするために彼と組んだわけではない。勝利のために手を組んだ。  鳴海はその点に関する認識が自分とずれている以外は、頼もしい相棒だ。  今しばらくは組んでいたい。  だが、赤木は鳴海にわざと『勘違い』をさせた。  この殺し合いにおいて、水面下で事を進めるのは難しい。  既に自分たちが反逆の意思を示していることは、何らかの手段を持って主催者側に伝わっているだろう。  鳴海に対する自分の言い方なら、主催者に自分たちの意が伝わっていないと思っているはずだ。  だが、それこそが赤木の狙い。  こちらを監視できると敵を安心させる。すぐには無理でも、半日、一日も経てば隙ができるはずだ。そのサインを赤木は見逃す気は無い。  もっとも、赤木は監視の手段に思いあたりがあるわけではない。  自分がこの殺し合いの主催者なら、監視手段を用意することが当たり前のことだからだという程度の問題だ。  勇次郎と接触するのは、その手段に思い当たることが無いか吐かせるためでもある。  もちろん、手段は選ばない。 (優先順位が高い確認事項は、主催者の正体と監視の方法か。 ここに来る前の俺と、来た後の俺の違いは首輪と支給品の入ったデイバック。 デイバックは破棄することもできるから、常に身につけなければならない首輪に、監視する手段が存在すると見るのが自然だ。 ……機能を停止した首輪と機械関係に知識のある参加者を手に入れるのが急務か。 ククク……光成……そしてその協力者。俺たちは命を賭けたんだ。 お前たちも相応のものを支払ってもらうぞ)  赤木の人形を操る指に力が入る。キャタピラは地面を進む音を一段上げ、速度が増していく。  そして、ふと脳裏に鳴海の怒る表情を思い出す。 (鳴海の怒りは浦部のように保身が無い。そしてここには偽の怒りも、偽の勝負も無い。生きるか死ぬか! クク……それに参加できたことだけは感謝してやる。だから行こう。死線を潜りに……!!)  赤木は正面をまっすぐ見据え続けた。  鳴海はグリモルディの腕を掴んで、身体を固定させながら、視界の端で赤木を確認する。  合理的な考えに基づいた行動をとる。短い間に鳴海が知った赤木はそういう男だ。  合理的に行動するのは、鳴海の知る『しろがね』たちに似ているところがある。  ゆえに、鳴海は気にかかることがある。 (こいつはギイのように合理的に見えて、子供や一般人を守るような奴なのか、しろがね・Oの連中みたいに冷淡な奴なのか知りてえ。 殺し合いを止める理由はなんだ? 生き残りたいだけか? それとも主催者に恨みがあるのか? ……しばらくは一緒に行動するしかないか)  内心、犠牲を厭わない人間であって欲しくないと不安になる。  だが、もしそういう男なら、 (俺の拳で止めてやる。ゾナハ病の病院でいた、ジョージというしろがね・Oのように。赤木、俺の鉄拳は痛いぜ)  と、決意を固めるように拳を握る。  赤木と同じように正面を見据えなおした。 □  大幕が左右に開き、スポットライトが当たる。  照らし出された男は、身体の中心から左右に赤と黒の色に塗り分けられている、派手な大きい衣装に身を纏っている。  笑顔しか浮かべない仮面。鼻の部分に大きく赤い球体が取り付けられている。  それはサーカスで『ピエロ』と呼ばれる者だった。  ピエロはこちらを見えているように、一礼をする。 「ナルミとアカギの活躍、いかがだったでしょうか? ゾナハ病をとめるために人形たちと死闘を繰り広げていた加藤鳴海は、突然「バトルロワイアル」に巻き込まれ、赤木と協力することになりました。 この殺し合いに乗り、率先して人を殺しまわる者。 この殺し合いを止めるため、主催者に抵抗をしようとする者。 大切な者を守るためだけに動く者。 優勝以上に執着するものがある者。 殺し合いで自分の存在に疑念を持つ者。 既に死んでしまった者。 この「バトルロワイアル」が始まって六時間以上、さまざまな出来事が起こり、鳴海たちはいずれの人物と出会うのでしょうか? 鳴海と赤木、炎と水のような二人がお互いを計りながら演じる共演は、どの道を行くのか? まだまだ二人の脱出への旅は続きます。 ですが、戦いに巻き込まれ、あっけなく死ぬこともあるでしょう。 逆に、脱出への手がかりを得ることができるかもしれません。 さてさて『漫画キャラバトルロワイアル』、鳴海と赤木の活躍には心惹かれますが、この物語は全員が主人公。 彼らだけの活躍を見続けるにはしばらくの時間が必要です。 優勝か、脱出か、全滅か。くくっ、観客のみなさんはいずれの結末がお好みですか? では、長の口上失礼つかまつりました。 それでは、次の演目のため『デッド・ライン』を閉幕いたします。 いずれ、お会いしましょう」  カーテンが閉まっていき、ピエロを隠した。  スポットライトが落ちると同時に、リングは暗闇へと溶けてく。 【C-4北東バイパス通り/1日目 朝】 【赤木しげる@アカギ】 [状態]:健康 [装備]:グリモルディ@からくりサーカス [道具]:核鉄(モーターギア)@武装錬金、傷薬、包帯、消毒用アルコール(学校の保健室内で手に入れたもの)。 [思考] 基本:対主催・ゲーム転覆を成功させることを最優先 1:繁華街へ向かい、情報を得る(首輪、主催者、勇次郎に関する情報が優先) 2:ゲーム打倒のために有能な参加者と接触して協力関係を結ぶ 3:このバトルロワイアルに関する情報を把握する(各施設の意味、首輪の機能、支給品の技術や種類など) 4:人数が揃えば、学校を拠点として維持する 【加藤鳴海@からくりサーカス】 [状態]:健康 [装備]:聖ジョルジュの剣@からくりサーカス [道具]:支給品一式×2、核鉄(ピーキーガリバー)@武装錬金、輸血パック(AB型)@ヘルシング、     グリース缶@グラップラー刃牙、道化のマスク@からくりサーカス [思考] 基本:対主催・誰かが襲われていたら助ける 1:繁華街へ向かい、情報を得る(首輪、主催者、勇次郎に関する情報が優先) 2:ゲーム打倒のために有能な参加者と接触して協力関係を結ぶ 3:このバトルロワイアルに関する情報を把握する(各施設の意味、首輪の機能、支給品の技術や種類など) 4:誰かが襲われていたら救出し、保護する 5:人数が揃えば、学校を拠点として維持する 6:赤木の人柄を見極める [備考] 聖ジョルジュの剣は鳴海の左腕に最初からついていますので支給品ではありません 参戦時期はサハラ編第19幕「休憩」後です サハラ編から参戦しているので勝、しろがねについての記憶は殆どありません |092:[[続:ハッキング]]|[[投下順>第051話~第100話]]|094:[[仮説]]| |092:[[続:ハッキング]]|[[時系列順>第2回放送までの本編SS]]|095:[[いま賭ける、この――]]| |054:[[貴重な貴重なサービスシーン]]|赤木しげる|110:[[バトルロワイヤルの火薬庫]]| |054:[[貴重な貴重なサービスシーン]]|加藤鳴海|110:[[バトルロワイヤルの火薬庫]]| ----
**デッド・ライン ◆TJ9qoWuqvA 「……ついたぜ。鳴海」  グリモルディのキャタピラが土埃を舞い上げるのを止め、朝日に照らされる校舎へ赤木は降り立つ。  白髪を揺らし、とがった顎先と高い鼻を持つ顔。怜悧な瞳で周りを見渡し、安全を確認した。  鳴海のほうを向くと、彼は怒りに満ちた表情をしていた。  定時放送を聞いたときから彼は押し黙り、身体中に熱を持ち押し黙っている。  彼の知り合いはフェイスレス一人。その名が呼ばれなかったことから、知人が死んで怒っているわけではない。  ならなぜ怒っているのか?  答えは単純。多くの犠牲者が出て、それを仕込んだ主催者、たしか徳川とかいった爺さんに対して怒りを感じているからだ。  六時間ほど共にして、鳴海がそういう男だというのは理解した。  同時に赤木は考える。  この定時放送で呼ばれた知り合いはいる。だが、どちらも自分が『下した』格下の男だ。  偽者の無頼である市川。凡夫といっていい平山。  どちらも生死の境目であるこの殺し合いで生き残れるとは到底思えない。  だから彼らの死を聞いたときは、やはりとしか思えなかった。  鳴海が自分の知り合いが死んだかどうか尋ねたときはいないと答えた。  その方が面倒が少ない。 「鳴海、二手に別れて校舎を探索しよう。合流場所は…………一時間後の校庭の真ん中だ」 「別れると危険じゃないか? 殺戮者が潜んでいたら、一人で対応できるのか?」 「それを含めて、人を探すために別れる。理由は合流したときに教えよう。 ……なに、核鉄がある以上、そう簡単に遅れは取らない。そして……」  赤木が五指を操作すると、瞬く間に二メートルはあるキャタピラを持つ人形が折りたたまれていき、トランクに収められた。  グリモルディがおさめられたトランクを右手に持ち、赤木は校舎へと身体を向ける。 「こいつは持ち運びに便利だ。何かあったら派手に暴れて知らせるさ」  説明が足りず不満なのか止める鳴海に振り向かず、歩を進める。  赤木の意識は校舎内に向いている。秘密組織のアジトにすると鳴海は冗談めかして言っていたが、自分は本気だ。  何をするにも拠点は必要。それはここに来る前、鳴海に告げたことでもある。だが、その拠点に篭るのはマイナスだ。  ここに来る途中、あるいはここで対主催者……殺し合いに乗っていない人間と数人合流するのが理想だった。  学校で待機させ、自分や鳴海が情報収集へ向かえる。  もっとも、そんな状況、ポーカーでいきなりフルハウスが揃うくらい可能性が低いから期待はしていない。  赤木は教室を覗きながら、誰かが潜んでいる事を期待する。  この殺し合いに参加させられてから、彼はまだ死線に遭遇していない。  鳴海と一緒に人形の把握。それを使っての実践の仕方の把握。この殺し合いですべきことの確認。拠点の確保。  いずれも上手くいっている。無理をせず学校で『待ち』に徹すれば協力者を増やすのも比較的安全に進めるだろう。 (だが、それでは実入りは少ない。大きい利益は死ぬか生きるかの境目で発生する。 ……安全策は目先の小さい利益を得たとしても、いずれ限界が来る。そんな凡夫が取るような策では到底『勝利』に辿り着けはしない。なら……)  廊下を歩き、赤木は立ち止まると同時に思考を停止する。開けた先の部屋は保健室。  そこで薬品を回収しながら、赤木は今後の方針を固め始める。  「くそっ、好き勝手いいやがって」  鳴海は悪態をつきながら校舎を回り、物色を開始する。  盗みを働いているようで気が引けるが、今後のためだと割り切り、手をつける。  それにしてもと、放送の内容を思い出し、怒りが蘇る。  筋肉が盛り上がって、銀のメッシュが入った黒い長髪がザワザワと震えたような気がした。  八名も死んだのだ。なのに自分は救いに向かえなかった。 (何やっているんだ、俺は。「しろがね」となって死に難くなった。戦闘向きの左腕もある。 何年も功夫を積んだ。なのに、いまだに誰一人として守れていないッ!!)  鳴海は悔しさに眉間に皺を作り、歯を食いしばった。血の通った右手からは爪が皮を破って血が滴っている。 (のんびりなんかしてられねえ。一時間後合流したらここの維持は赤木に任せて俺は打って出る! もう誰も殺させはしねえ。俺が戦う)  思い出すのは、人形になす術も無く殺されていく無力な人たち。  あの光景がこの舞台の片隅でひっそりと行われているかと思うと、鳴海は怒りで頭がどうにかなりそうだった。  一歩、力を込めて地面を踏みしめる。  加藤鳴海の瞳は、前をまっすぐに射抜いていた。 □ 「で、理由とやらを聞かせてもらおうか」  先に校庭の中央で仁王立ちしていた鳴海を前に、赤木は立ち止まる。  ストレートな物言いに思わず唇の端が持ち上がった。  それを馬鹿にしたと受け取ったのか、鳴海が不機嫌な表情を見せる。 「……なに、簡単なことさ。二手に別れてまで学校の探索速度を上げたのは、ここを拠点として一時破棄しようと思っているからだ」  今度は驚いたらしく、マヌケな顔に変わる。  結構表情が豊かな男だと思いながら、続きを告げる。 「もともと二人でここを拠点として維持できるとは思っていない。 先に殺戮者さえいなければ、再び出発する心積もりだったさ。 ……本来なら、人数が少ない今は守りに徹するのが安全策。だが、それでは得る物が少ない。 打って出る。ここを維持するのも……反旗を翻すのも……強敵に対抗するにも……人数と情報がいる。 そのために繁華街へ向かう。いいな、鳴海」 「危険だから避けるんじゃなかったのか?」 「……そうだ、本来なら殺戮者が集うであろう、繁華街へ向かうのは愚かの極み。 だがそれも、殺戮者に抵抗できない状態である場合のみだ。鳴海、俺たちの手に何がある? 戦闘向きといっていい核鉄が二つに……グリモルディ……敵に対抗できる手段はある。 なら、危険を冒しても利益を得るほうを選ぶべきだ。 それに、そんな危険な場所には、お前が保護したいと考える無力な人間も集まるかもしれないぞ。 迷う理由はあるのか?」  言い終えると、こちらを呆れた顔で見つめる鳴海が視界に入る。  だが、彼はこの提案に乗るはずだ。赤木にはその確信があった。 (鳴海の性格は直情型。そして、俺と出会ったときの言葉から察するに、無力な人間を守る事を優先する。 そのためなら危険を承知で突っ走りかねない性格。 放送で怒りを覚えている今なら……俺の提案に乗ってくる!)  朝日の下で佇む二人に、風が吹いて僅かに土埃が舞う。  十数秒ほど沈黙の時が流れ、やがて鳴海の口元が動き始める。 「……たとえばだ、目の前で殺されそうな人間と放置された支給品があったとして、無力な人間と役に立ちそうな支給品、どっちを優先する」 「支給品にもよるな……」 「なら、お前が考えられる限り欲しい支給品と、人の命、どっちを優先する」  その言葉を受けて、赤木は不敵に笑う。  答えなど、とっくの昔に出ている。 「主催者の都合のいいほうを優先する」  意外だったらしく、鳴海はあんぐりと大口を開ける。  失笑しながらも、視線を逸らさずに続きを紡ぎだす。 「……もし、俺たちが脱出に近付けば近付くほど、主催者は俺たちを警戒し、マークする。 だが、逆に俺たちが脱出に遠ければ遠いほど、警戒は薄くなる。 じわじわと進めるのは駄目だ。一見、調子がよく見えても遠からず行き詰るのは目に見える。 重要なのは水面下で準備を進めることと、一気に主催者へ抉りこむ方法を見つけること。 そのために目の前の勝利は捨てることも考えなければならない」 「そのために、誰かが危険な目にあっても構わないのか?」 「違うな。他人が危険な目にあっても、俺たちに利益は無い。 逆に俺たちが危険な……いや、死線に立つことが重要だ。 そして、俺たちが接触する必要がある男は勇次郎」  ククク……と低く笑う。  尋常でない男との出会いを望む自分はどこか捻じ曲がって見えるだろう。  しかし、最初のやり取りで勇次郎なる危険人物と主催者は顔見知りなのは伺えた。  これは、危険な手に見えるが、脱出を目指す者なら一度は通らなければならない道である。  なら、その一番手には自分がなる。 「俺はこの殺し合いに踊らされる殺戮者と刺し違える気は無い。 やるのは……主催者からの完全勝利! 行くぞ、鳴海。敵から毟り取れるだけ……毟る!!」  語気を強めて言い放ち、糸を繰り出してトランクから折りたたまれたグリモルディを組み立てる。  鳴海はこちらを睨みつけるだけだった。 □  三十分ほど経ったとき、赤木はバイパスを通り、繁華街へ向かっていた。  隣に並ぶ鳴海はグリモルディに乗り込んで以来、一言も発していない。  自分の答えに満足いっていないのだろう。だが、それで構わない。  赤木は仲良しごっこするために彼と組んだわけではない。勝利のために手を組んだ。  鳴海はその点に関する認識が自分とずれている以外は、頼もしい相棒だ。  今しばらくは組んでいたい。  だが、赤木は鳴海にわざと『勘違い』をさせた。  この殺し合いにおいて、水面下で事を進めるのは難しい。  既に自分たちが反逆の意思を示していることは、何らかの手段を持って主催者側に伝わっているだろう。  鳴海に対する自分の言い方なら、主催者に自分たちの意が伝わっていないと思っているはずだ。  だが、それこそが赤木の狙い。  こちらを監視できると敵を安心させる。すぐには無理でも、半日、一日も経てば隙ができるはずだ。そのサインを赤木は見逃す気は無い。  もっとも、赤木は監視の手段に思いあたりがあるわけではない。  自分がこの殺し合いの主催者なら、監視手段を用意することが当たり前のことだからだという程度の問題だ。  勇次郎と接触するのは、その手段に思い当たることが無いか吐かせるためでもある。  もちろん、手段は選ばない。 (優先順位が高い確認事項は、主催者の正体と監視の方法か。 ここに来る前の俺と、来た後の俺の違いは首輪と支給品の入ったデイバック。 デイバックは破棄することもできるから、常に身につけなければならない首輪に、監視する手段が存在すると見るのが自然だ。 ……機能を停止した首輪と機械関係に知識のある参加者を手に入れるのが急務か。 ククク……光成……そしてその協力者。俺たちは命を賭けたんだ。 お前たちも相応のものを支払ってもらうぞ)  赤木の人形を操る指に力が入る。キャタピラは地面を進む音を一段上げ、速度が増していく。  そして、ふと脳裏に鳴海の怒る表情を思い出す。 (鳴海の怒りは浦部のように保身が無い。そしてここには偽の怒りも、偽の勝負も無い。生きるか死ぬか! クク……それに参加できたことだけは感謝してやる。だから行こう。死線を潜りに……!!)  赤木は正面をまっすぐ見据え続けた。  鳴海はグリモルディの腕を掴んで、身体を固定させながら、視界の端で赤木を確認する。  合理的な考えに基づいた行動をとる。短い間に鳴海が知った赤木はそういう男だ。  合理的に行動するのは、鳴海の知る『しろがね』たちに似ているところがある。  ゆえに、鳴海は気にかかることがある。 (こいつはギイのように合理的に見えて、子供や一般人を守るような奴なのか、しろがね・Oの連中みたいに冷淡な奴なのか知りてえ。 殺し合いを止める理由はなんだ? 生き残りたいだけか? それとも主催者に恨みがあるのか? ……しばらくは一緒に行動するしかないか)  内心、犠牲を厭わない人間であって欲しくないと不安になる。  だが、もしそういう男なら、 (俺の拳で止めてやる。ゾナハ病の病院でいた、ジョージというしろがね・Oのように。赤木、俺の鉄拳は痛いぜ)  と、決意を固めるように拳を握る。  赤木と同じように正面を見据えなおした。 □  大幕が左右に開き、スポットライトが当たる。  照らし出された男は、身体の中心から左右に赤と黒の色に塗り分けられている、派手な大きい衣装に身を纏っている。  笑顔しか浮かべない仮面。鼻の部分に大きく赤い球体が取り付けられている。  それはサーカスで『ピエロ』と呼ばれる者だった。  ピエロはこちらを見えているように、一礼をする。 「ナルミとアカギの活躍、いかがだったでしょうか? ゾナハ病をとめるために人形たちと死闘を繰り広げていた加藤鳴海は、突然「バトルロワイアル」に巻き込まれ、赤木と協力することになりました。 この殺し合いに乗り、率先して人を殺しまわる者。 この殺し合いを止めるため、主催者に抵抗をしようとする者。 大切な者を守るためだけに動く者。 優勝以上に執着するものがある者。 殺し合いで自分の存在に疑念を持つ者。 既に死んでしまった者。 この「バトルロワイアル」が始まって六時間以上、さまざまな出来事が起こり、鳴海たちはいずれの人物と出会うのでしょうか? 鳴海と赤木、炎と水のような二人がお互いを計りながら演じる共演は、どの道を行くのか? まだまだ二人の脱出への旅は続きます。 ですが、戦いに巻き込まれ、あっけなく死ぬこともあるでしょう。 逆に、脱出への手がかりを得ることができるかもしれません。 さてさて『漫画キャラバトルロワイアル』、鳴海と赤木の活躍には心惹かれますが、この物語は全員が主人公。 彼らだけの活躍を見続けるにはしばらくの時間が必要です。 優勝か、脱出か、全滅か。くくっ、観客のみなさんはいずれの結末がお好みですか? では、長の口上失礼つかまつりました。 それでは、次の演目のため『デッド・ライン』を閉幕いたします。 いずれ、お会いしましょう」  カーテンが閉まっていき、ピエロを隠した。  スポットライトが落ちると同時に、リングは暗闇へと溶けてく。 【C-4北東バイパス通り/1日目 朝】 【赤木しげる@アカギ】 [状態]:健康 [装備]:グリモルディ@からくりサーカス [道具]:核鉄(モーターギア)@武装錬金、傷薬、包帯、消毒用アルコール(学校の保健室内で手に入れたもの)。 [思考] 基本:対主催・ゲーム転覆を成功させることを最優先 1:繁華街へ向かい、情報を得る(首輪、主催者、勇次郎に関する情報が優先) 2:ゲーム打倒のために有能な参加者と接触して協力関係を結ぶ 3:このバトルロワイアルに関する情報を把握する(各施設の意味、首輪の機能、支給品の技術や種類など) 4:人数が揃えば、学校を拠点として維持する 【加藤鳴海@からくりサーカス】 [状態]:健康 [装備]:聖ジョルジュの剣@からくりサーカス [道具]:支給品一式×2、核鉄(ピーキーガリバー)@武装錬金、輸血パック(AB型)@ヘルシング、     グリース缶@グラップラー刃牙、道化のマスク@からくりサーカス [思考] 基本:対主催・誰かが襲われていたら助ける 1:繁華街へ向かい、情報を得る(首輪、主催者、勇次郎に関する情報が優先) 2:ゲーム打倒のために有能な参加者と接触して協力関係を結ぶ 3:このバトルロワイアルに関する情報を把握する(各施設の意味、首輪の機能、支給品の技術や種類など) 4:誰かが襲われていたら救出し、保護する 5:人数が揃えば、学校を拠点として維持する 6:赤木の人柄を見極める [備考] 聖ジョルジュの剣は鳴海の左腕に最初からついていますので支給品ではありません 参戦時期はサハラ編第19幕「休憩」後です サハラ編から参戦しているので勝、しろがねについての記憶は殆どありません |092:[[続:ハッキング]]|[[投下順>第051話~第100話]]|094:[[仮説]]| |092:[[続:ハッキング]]|[[時系列順>第2回放送までの本編SS]]|095:[[いま賭ける、この――]]| |057:[[無明の住人]]|赤木しげる|110:[[バトルロワイヤルの火薬庫]]| |057:[[無明の住人]]|加藤鳴海|110:[[バトルロワイヤルの火薬庫]]| ----

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