「一瞬のからくりサーカス(後編)」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

一瞬のからくりサーカス(後編)」(2008/12/22 (月) 13:56:10) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

**一瞬のからくりサーカス(後編) ◆05fuEvC33. 「威力を保ったまま二段変化する蹴りか、器用なもんだ。  けど全然効かねぇよ、テメエの蹴りなんざ」 鳴海は頭を前に出し、打点をずらしていた。 打点をずらしたと言えど、勇次郎の蹴りは肉を切り裂き頭蓋まで振動が伝わる。 「家族も……夢も……人生すら……奪われた人が居るんだ」 それでも鳴海の体は揺るがない、心は折れない。 「勝があれだけ傷付けられるまで、何にも出来なかったんだ」 勇次郎の蹴り足の、膝を踏み打つ。 腹への崩拳は、勇次郎の内臓まで発剄によるダメージを浸透させた。 「その痛みに比べりゃ、テメエの蹴りなんざ効いた内にも入らねぇよ!」 勇次郎は重心を落とし、全身に溜めを効かせる。 溜めを瞬発力にして、全体重で鳴海に突っ込んでいく。 渾身の体当たりに挑んだ、勇次郎の胸に鋭い痛み。 鳴海の左腕からの聖ジョルジュの剣が刺さっていた。 (刺さる直前、身を捻って心臓を外しやがった……) 聖ジョルジュの剣が当たった瞬間、勇次郎は反射的に心臓を避ける動きをしていたが 胴体には刺さった為に、内臓の損傷は避けきれなかった。 (…………剣が抜けない!?) 筋肉の締めで聖ジョルジュの剣が抜けない事に、鳴海が驚いた隙に 勇次郎の足刀が、鳴海の喉に入る。 鳴海は勇次郎の体を蹴り飛ばし、無理矢理聖ジョルジュの剣を抜く。 (こいつ、まだ戦るつもりか!?) 勇次郎は、未だ覇気が衰えず立ち続けるが 内臓を切り付けられ、このまま治療が為されない場合は確実に死ぬ状態だ。 「ククク、今の一閃で決められない甘さが、お前の命取りだな」 勇次郎の言葉を聞き、鳴海と勝は呆れを通り越した戦慄を覚える。 立っているのも奇跡的と言える、致命傷にあるのに その声には一片の虚勢の響きも無く、その目には一片の陰りも無い。 二人は直感した。勇次郎は戦いを諦めない以前に、自分の勝利を未だに微塵も疑っていないと。 (…………ちっ、結局殺すしか無いのかよ。  放って置いても死にそうだが、さっさと勝の治療に行きたい……  手早く勝負を付けさせて貰うぜ!!) 聖ジョルジュの剣で、横薙ぎに切り掛かる。 勇次郎は垂れ下がった右腕で受ける。 体毎で剣に向かっていき、斬撃の威力を相殺。剣は右腕の骨で止まった。 (しぶといヤローだ! だが次は避けられないだろ!!) 鳴海の右拳が、勇次郎の顎を捉える。 勇次郎は首の捻りで、それを横に流していく。 「…………!!!」 横に逸れて行く鳴海の右手首に、激痛が走り鮮血が迸った。 「鳴海兄ちゃんっ!!!」 勝の悲痛な声にも、勇次郎に手首を噛み締められている鳴海は応えられない。 手首には勇次郎の歯が食い込んでいき、吹き出る血が勇次郎の口中に流れ込んで行く。 勇次郎の噛み付きは、その異常に発達した咬合筋力のみで成り立っていない。 全身の力を、咬合に集約させる技術までが使われていた。 手首を噛まれ体勢の崩れた鳴海が、何度か殴る蹴るを繰り返しても勇次郎の噛み付きは緩まない。 鳴海は丹田の気を用いた左拳の発剄で勇次郎を吹き飛ばすも、手首を噛み千切られた。 鳴海は、右手首の状態を確認する。 (しろがねの治癒力で直りそうだが、この戦いの間は使えそうに無いか……。それより問題は…………!!) 自分の右手首を見ていた鳴海の顎先に、勇次郎の蹴りが入る。 顎の振動が脳まで伝播し、鳴海の膝が崩れた。 (こいつまだこんな力が! いや、やっぱりこれは…………) 勇次郎は鳴海から離れ民家の壁際まで行き、関節が外れた右肩を当てる。 (……あの人、何をやってるんだ?) 訝しむ勝を余所に、勇次郎は右肩で民家の壁を押し壊す。 民家の中で何度も破壊音を立てた後、勇次郎は壊れた壁から出て来る。 その右手は、自力で指を開閉させていた。 (そうか、あの人は肩関節を力付くで填めていたんだ!) 勇次郎の体の切り傷や銃創が、見る間に小さくなり消えていく。 「待たせたな悪魔(デモン)」 (やっぱりこいつは、俺の血中からアクア・ウィタエを吸飲してやがる!!) 半身の構えの鳴海に、勇次郎は背を向ける。 その背中には、鬼が哭いていた。 (狙いは首だ。首を撥ねれば、アクア・ウィタエの効果があっても奴は死ぬ!) 聖ジョルジュの剣が、勇次郎の首目掛け一閃。 切れたのは首の皮一枚。 殴られた鳴海は、後方へ飛ぶ。 悪魔(デモン)の一閃より早く、悪鬼(オーガ)の一撃が決まっていた。 「勝ッ!!!」 勝は飛来する鳴海に巻き込まれる。 「良かったじゃねぇか、仲良く出来てよ」 仰向けに倒れた鳴海は、頭だけ起こして周囲を見る。 体の他の部位は、微動だにしない。 近くにうつ伏せで倒れる勝と、その向こうから近付いて来る勇次郎が確認出来た。 「…………勝……大丈夫か……」 鳴海が声を掛けても、勝に反応は無い。 勇次郎は勝を跨いで、鳴海に迫る。 その勇次郎の足に、勝が飛び付いた。 (勝、起きていたのか!!) 勝の狙いは、勇次郎の足首の関節。 「えっ?」 勇次郎の手が勝の左肩の近くを、通ったと思った次の瞬間 勝の左腕は、力無く垂れ下がっていた。 「僕の肩が……分解された?」 「クク、惜しかったなボウヤ」 勝は背中から踏み潰された。 「ぐああああああああああああああああああっ!!!」 「勝……ちくしょう…………」 「無様なものだ、おとなしくしていれば生き長らえたかも知れぬものを」 脊髄を潰された勝は、潰れた右手で勇次郎に喰らい付こうと試みる。 「まだ、もがいておるか」 「…………おじさんは……強いんだね……」 言葉を紡ぐのにも精一杯な勝を、勇次郎は黙って見下ろした。 「……そんなに…………強いなら……他の人と一緒に…………生き残る……  努力を…………すればいいのに…………何で……そう…………しないの?」 勇次郎は勝の頭を乱暴に掴み、鳴海の方へ突きつける。 「お前の甘っちょろい思想の果てにあの姿がある!!」 鳴海は瞳から涙と血を流していた。 「たかだか人間の肉体を破壊し合うという単純な行為に、友情だの結び付きだの愛だのと  上等な料理にハチミツをブチまけるがごとき思想!!!  その心根がいかに勝利を遠ざけ、闘いの純性を損なうこととなるか  そこにいる鳴海を目に焼き付け―――――とくと知れい!!!!」 勝が勇次郎に向き直る。 「……………………そんなものが…………おじさんの考える強さなんだ…………」 腫れと出血で、勝の顔は元の面影も残っていない。 「……僕はねぇ…………昔は泣いてばかりいた……弱虫だったんだ…………  でも…………鳴海兄ちゃんにたくさんのものをもらって……………………少しは強くなれたんだ……」 その勝の傷だらけの顔からも、強い意が感じ取れた。 「おじさんは…………誰かに……何かをあげれるの? …………何かもらえるの……………………  誰にも…………なんにも……あげられないんじゃ…………おじさんの強さなんて……何の価値も無いよ……」 「…………聞いたか鳴海よ、このボウヤ俺に説教しやがったぜ」 勇次郎は勝の頭から手を離した。 「大した性根だ、あれだけ痛めつけられながらな。……尊敬に値するぜ」 そしてゆっくりと鳴海に歩を進める。 「まだ幼年でありながら、力も知恵も勇気もある。ここで殺すのは惜しいと思う程だ」 勇次郎は屈み込んで、鳴海の顔を覗き込む。 「お前もそう思わないか?」 鳴海と勝は、勇次郎の意図を汲みかねて呆けた。 「俺はオーガなんて呼ばれちゃいるが、本物の鬼だって勝の崇高な姿を見たら悔い改めるぜ」 「お前、まさか……」 ようやく言葉を発した鳴海に、勇次郎が笑い掛けた。 勇次郎が地を蹴り、勝の頭部のある部分に拳を通過させる。 ―――――鳴海には飛び散る肉片が、誰のものか分からなかった。 ―――――鳴海には舞い落ちる脳漿が、誰のものか分からなかった。 ―――――鳴海には崩れ落ちる体が、誰のものか考えられなかった。 「屈服しねぇ以上は俺との勝負を続けたってこと、決着をつけさせてもらったぜ。 勇次郎の言葉を聞き、鳴海はようやく何が起こったか理解した。 「ギザマアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」 「悪いな、手が滑って勝クンを殺しちゃったよ。鳴海兄ちゃん」 鳴海が勇次郎に駆け寄り、聖ジョルジュの剣を振り被る。 「人が謝ってるのに、ボーリョクはいけないなぁ」 勇次郎は鳴海に足を引っ掛ける。 勢いのまま鳴海は転がった。 鳴海は立ち上がろうと手足をばたつかせるが、思う様に動かない。 「仇を見据える力も無いウジ虫が、俺に挑もうなどと」 「オーガ!!」 独歩が気勢を上げ、勇次郎へ向け駆ける。 「愚地独歩か、良い所に来た」 新たな餌の来訪に、勇次郎が喜色ばむ。 勝の死体に視線を向けた独歩は、沈痛な面持ちとなった。 (すまねぇな坊主、遅れちまった上……すぐに仇をって訳にもいかねぇ) 勇次郎と鳴海の間に入った独歩は、懐から取り出した紙を広げた。 間を詰めようとする勇次郎は独歩の紙から突然現れた馬、黒王号の巨体に弾かれる。 尻餅をついた勇次郎の隙に、黒王号の予想外の巨体に驚いていた独歩も気持ちを切り替ると 鳴海と近くに有った勝のデイパックを抱え、黒王号に飛び乗る。 黒王号は乗者を選ぶ馬である。独歩が拒絶されなかったのは僥倖と言えよう。 独歩は勇次郎から逃げるべく、黒王号を走らせた。 「ケッ、人喰い愚地が逃げを打つとはよ」 鳴海と独歩に逃げられた勇次郎は、つまらなそうに吐き捨てる。 済んだ事には拘らない勇次郎は、興味を自分の体の変化に移した。 鳴海の血を図らずも飲んで以来、最近の負傷が治っていっているのだ。 勇次郎はデイパックから氷漬けにしていた、自分の左腕を取り出す。 切断面は左腕を切り落とした坂田銀時の、鋭い剣筋によって一切乱れが無い。 おかげで切れ端同士を、完全に重ね合わせられた。 切断面がずれないよう、服の切れ端で強く縛る。 「……とりあえず、飯でも喰うか」  ◇  ◆  ◇ 黒王号に跨りながら、独歩は先程の勇次郎を思い返す。 独歩は当初勇次郎を見付け次第、1対1の素手による勝負を挑もうと思っていた。 勇次郎は常に成長を続けている、地下闘技場で闘った時より強くなっているのは予想していた。 だが先程見付けた勇次郎は、もうそんな次元の相手では無い。 その存在感は自分の、と言うよりどれだけ鍛えても只の人間に喧嘩相手が務まる者ではない事が読み取れた。 それを認める事は独歩にとって、死をも凌ぐ屈辱である。 しかし先程闘いを挑んでいたら、独歩と鳴海は確実に殺されていただろう。 そして勇次郎を何としても殺さなければ、この場に居る者は確実に皆殺しにされるだろう。 そうと分かったからこそ、先程は躊躇いも無く逃げを選んだのだ。 (楽しく闘り合う筈が、とんだ事になったな。……でもしゃーねぇ、ここは大人になるか) 独歩は肩に抱えている鳴海を見る。 その表情は、空虚としか表現出来ない。 それでも勝の死が、衝撃だった事は充分推測出来る。 (勝に報いる為にも、犬死は出来ねぇよな) 独歩は何れ来るべき勇次郎対策に、思いを馳せる。  ◇  ◆  ◇ 勇次郎は支給食料である、ビニールでパックされた市販品と思しき握り飯を食べていた。 生命の水(アクア・ウィタエ)の影響で活性化された細胞が、それを栄養として吸収して行くのが自覚出来る。 不意に自分の左肘に、注意を向ける。 微かに、だが確実に自力で動いた。 「クククク、こいつぁいいや!!! ハーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!」 一人分の食料を食べ尽くしたが、食の太い勇次郎は満足を得ない。 そして食事以上に、勇次郎は餓えているものがあった。 強者への、闘争への餓えが。 (今なら、何時まででも闘えそうだ) 勇次郎の体内の、生命の水(アクア・ウィタエ)は かつてない巨凶を、生み出そうとしていた。 【才賀勝@からくりサーカス:死亡確認】 【残り32人】 【D-3東部/1日目 夕方】 【範馬勇次郎@グラップラー刃牙】 [状態]闘争に餓えている 左腕切断(アクア・ウィタエの効果により自己治癒中) [装備]ライター [道具]支給品一式、打ち上げ花火2発 [思考] 基本:闘争を楽しみつつ優勝し主催者を殺す 1:戦うに値する参加者を捜す 2:首輪を外したい [備考] ※自分の体力とスピードに若干の制限が加えられたことを感じ取りました。 ※ラオウ・DIO・ケンシロウの全開バトルをその目で見ました。 ※生命の水(アクア・ウィタエ)を摂取しました。身体にどれ程の影響を与えるかは後の書き手さんに任せます。 【D-4北部/1日目 夕方】 【加藤鳴海@からくりサーカス】 [状態]:胸骨にひび 肋骨2本骨折 左耳の鼓膜破裂 右手首欠損 全身に強度の打撲 出血多量 極度の疲労 自己治癒中 茫然自失 [装備]:聖ジョルジュの剣@からくりサーカス [道具]:支給品一式×2(刃牙、鳴海)  輸血パック(AB型)@ヘルシング グリース缶@グラップラー刃牙 道化のマスク@からくりサーカス [思考] 基本:バトルロワイアルの破壊、誰かが襲われていたら助ける。赤木がいう完璧な勝利を目指す。 1:…………勝………… 2:喫茶店へ向かい、エレオノールと合流する 3:誰かが襲われていたら救出し、保護する 4:赤木との約束の為に、8時に学校へ行く 5:いつか必ずDIOと勇次郎をぶっ潰す 6:殺し合いに乗っている奴を成敗する 7:DIOの情報を集める [備考] ※聖ジョルジュの剣は鳴海の左腕に最初からついていますので支給品ではありません ※参戦時期は本編18巻のサハラ編第17幕「休憩」後です ※勝とエレオノールの記憶を取り戻しました。 【愚地独歩@グラップラー刃牙】 [状態]:健康 [装備]:黒王号@北斗の拳、キツめのスーツ [道具]:支給品一式×2(独歩、勝)、不明@からくりサーカス、書き込んだ名簿、携帯電話(電話帳機能にアミバの番号あり) [思考・状況] 基本:殺し合いには乗らない、乗った相手には容赦しない。 1:何処かで加藤鳴海を治療する。 2:その後、駅に戻ってシェリスと合流。そのままシェリスの服を見立てる為に繁華街に行って、服を探す。 3:アミバ・ラオウ・ジグマール・平次(名前は知らない)と接触、戦闘。 4:乗っていない人間にケンシロウ・上記の人間・タバサ(名前は知らない、女なので戦わない)の情報を伝える。 5:シェリスとともに劉鳳を探す 6:勇次郎を手段を選ばず殺す [備考] ※黒王号に乗っている場合、移動速度は徒歩より速いです。 ※パピヨン・勝・こなたと情報交換をしました。 ※不明@からくりサーカス 『自動人形』の文字のみ確認できます。 中身は不明ですが、自立行動可能かつ戦闘可能な『参加者になり得るもの』は入っていません。 ※刃牙、光成の変貌に疑問を感じています 【D-3南部/1日目 夕方】 【才賀エレオノール@からくりサーカス】 [状態]:健康 [装備]:ピエロの衣装、メイク@からくりサーカス [道具]:青汁DX@武装錬金、支給品一式 [思考・状況] 基本:殺し合いに優勝し、人間になる。 1:人形以上に強力な武器が欲しい。 [備考] ※参戦時期は1巻。才賀勝と出会う前です。 ※オリンピアは懸糸の切れた状態でD-3東部に放置してあります。 [共通備考] ※地下鉄線路内には、地上に出る避難口が存在します。 ※勝の首輪は遺体の側にあります [[前編>一瞬のからくりサーカス]] |157:[[男達、止まらず]]|[[投下順>第151話~第200話]]|159:[[殺人鬼は密かに笑う]]| |157:[[男達、止まらず]]|[[時系列順>第3回放送までの本編SS]]|159:[[殺人鬼は密かに笑う]]| |149:[[大乱戦]]|範馬勇次郎|160:[[繋がれざる鬼(アンチェイン)]]| |146:[[更なる舞台(ステージ)へ]]|愚地独歩|161:[[夕闇に悪魔、慟哭す]]| |146:[[更なる舞台(ステージ)へ]]|&color(red){才賀勝}|&color(red){死亡}| |146:[[更なる舞台(ステージ)へ]]|加藤鳴海|161:[[夕闇に悪魔、慟哭す]]| |148:[[『歯車』が噛み合わない]]|才賀エレオノール|162:[[燃える決意――Resolution――]]| ----
**一瞬のからくりサーカス(後編) ◆05fuEvC33. 「威力を保ったまま二段変化する蹴りか、器用なもんだ。  けど全然効かねぇよ、テメエの蹴りなんざ」 鳴海は頭を前に出し、打点をずらしていた。 打点をずらしたと言えど、勇次郎の蹴りは肉を切り裂き頭蓋まで振動が伝わる。 「家族も……夢も……人生すら……奪われた人が居るんだ」 それでも鳴海の体は揺るがない、心は折れない。 「勝があれだけ傷付けられるまで、何にも出来なかったんだ」 勇次郎の蹴り足の、膝を踏み打つ。 腹への崩拳は、勇次郎の内臓まで発剄によるダメージを浸透させた。 「その痛みに比べりゃ、テメエの蹴りなんざ効いた内にも入らねぇよ!」 勇次郎は重心を落とし、全身に溜めを効かせる。 溜めを瞬発力にして、全体重で鳴海に突っ込んでいく。 渾身の体当たりに挑んだ、勇次郎の胸に鋭い痛み。 鳴海の左腕からの聖ジョルジュの剣が刺さっていた。 (刺さる直前、身を捻って心臓を外しやがった……) 聖ジョルジュの剣が当たった瞬間、勇次郎は反射的に心臓を避ける動きをしていたが 胴体には刺さった為に、内臓の損傷は避けきれなかった。 (…………剣が抜けない!?) 筋肉の締めで聖ジョルジュの剣が抜けない事に、鳴海が驚いた隙に 勇次郎の足刀が、鳴海の喉に入る。 鳴海は勇次郎の体を蹴り飛ばし、無理矢理聖ジョルジュの剣を抜く。 (こいつ、まだ戦るつもりか!?) 勇次郎は、未だ覇気が衰えず立ち続けるが 内臓を切り付けられ、このまま治療が為されない場合は確実に死ぬ状態だ。 「ククク、今の一閃で決められない甘さが、お前の命取りだな」 勇次郎の言葉を聞き、鳴海と勝は呆れを通り越した戦慄を覚える。 立っているのも奇跡的と言える、致命傷にあるのに その声には一片の虚勢の響きも無く、その目には一片の陰りも無い。 二人は直感した。勇次郎は戦いを諦めない以前に、自分の勝利を未だに微塵も疑っていないと。 (…………ちっ、結局殺すしか無いのかよ。  放って置いても死にそうだが、さっさと勝の治療に行きたい……  手早く勝負を付けさせて貰うぜ!!) 聖ジョルジュの剣で、横薙ぎに切り掛かる。 勇次郎は垂れ下がった右腕で受ける。 体毎で剣に向かっていき、斬撃の威力を相殺。剣は右腕の骨で止まった。 (しぶといヤローだ! だが次は避けられないだろ!!) 鳴海の右拳が、勇次郎の顎を捉える。 勇次郎は首の捻りで、それを横に流していく。 「…………!!!」 横に逸れて行く鳴海の右手首に、激痛が走り鮮血が迸った。 「鳴海兄ちゃんっ!!!」 勝の悲痛な声にも、勇次郎に手首を噛み締められている鳴海は応えられない。 手首には勇次郎の歯が食い込んでいき、吹き出る血が勇次郎の口中に流れ込んで行く。 勇次郎の噛み付きは、その異常に発達した咬合筋力のみで成り立っていない。 全身の力を、咬合に集約させる技術までが使われていた。 手首を噛まれ体勢の崩れた鳴海が、何度か殴る蹴るを繰り返しても勇次郎の噛み付きは緩まない。 鳴海は丹田の気を用いた左拳の発剄で勇次郎を吹き飛ばすも、手首を噛み千切られた。 鳴海は、右手首の状態を確認する。 (しろがねの治癒力で直りそうだが、この戦いの間は使えそうに無いか……。それより問題は…………!!) 自分の右手首を見ていた鳴海の顎先に、勇次郎の蹴りが入る。 顎の振動が脳まで伝播し、鳴海の膝が崩れた。 (こいつまだこんな力が! いや、やっぱりこれは…………) 勇次郎は鳴海から離れ民家の壁際まで行き、関節が外れた右肩を当てる。 (……あの人、何をやってるんだ?) 訝しむ勝を余所に、勇次郎は右肩で民家の壁を押し壊す。 民家の中で何度も破壊音を立てた後、勇次郎は壊れた壁から出て来る。 その右手は、自力で指を開閉させていた。 (そうか、あの人は肩関節を力付くで填めていたんだ!) 勇次郎の体の切り傷や銃創が、見る間に小さくなり消えていく。 「待たせたな悪魔(デモン)」 (やっぱりこいつは、俺の血中からアクア・ウィタエを吸飲してやがる!!) 半身の構えの鳴海に、勇次郎は背を向ける。 その背中には、鬼が哭いていた。 (狙いは首だ。首を撥ねれば、アクア・ウィタエの効果があっても奴は死ぬ!) 聖ジョルジュの剣が、勇次郎の首目掛け一閃。 切れたのは首の皮一枚。 殴られた鳴海は、後方へ飛ぶ。 悪魔(デモン)の一閃より早く、悪鬼(オーガ)の一撃が決まっていた。 「勝ッ!!!」 勝は飛来する鳴海に巻き込まれる。 「良かったじゃねぇか、仲良く出来てよ」 仰向けに倒れた鳴海は、頭だけ起こして周囲を見る。 体の他の部位は、微動だにしない。 近くにうつ伏せで倒れる勝と、その向こうから近付いて来る勇次郎が確認出来た。 「…………勝……大丈夫か……」 鳴海が声を掛けても、勝に反応は無い。 勇次郎は勝を跨いで、鳴海に迫る。 その勇次郎の足に、勝が飛び付いた。 (勝、起きていたのか!!) 勝の狙いは、勇次郎の足首の関節。 「えっ?」 勇次郎の手が勝の左肩の近くを、通ったと思った次の瞬間 勝の左腕は、力無く垂れ下がっていた。 「僕の肩が……分解された?」 「クク、惜しかったなボウヤ」 勝は背中から踏み潰された。 「ぐああああああああああああああああああっ!!!」 「勝……ちくしょう…………」 「無様なものだ、おとなしくしていれば生き長らえたかも知れぬものを」 脊髄を潰された勝は、潰れた右手で勇次郎に喰らい付こうと試みる。 「まだ、もがいておるか」 「…………おじさんは……強いんだね……」 言葉を紡ぐのにも精一杯な勝を、勇次郎は黙って見下ろした。 「……そんなに…………強いなら……他の人と一緒に…………生き残る……  努力を…………すればいいのに…………何で……そう…………しないの?」 勇次郎は勝の頭を乱暴に掴み、鳴海の方へ突きつける。 「お前の甘っちょろい思想の果てにあの姿がある!!」 鳴海は瞳から涙と血を流していた。 「たかだか人間の肉体を破壊し合うという単純な行為に、友情だの結び付きだの愛だのと  上等な料理にハチミツをブチまけるがごとき思想!!!  その心根がいかに勝利を遠ざけ、闘いの純性を損なうこととなるか  そこにいる鳴海を目に焼き付け―――――とくと知れい!!!!」 勝が勇次郎に向き直る。 「……………………そんなものが…………おじさんの考える強さなんだ…………」 腫れと出血で、勝の顔は元の面影も残っていない。 「……僕はねぇ…………昔は泣いてばかりいた……弱虫だったんだ…………  でも…………鳴海兄ちゃんにたくさんのものをもらって……………………少しは強くなれたんだ……」 その勝の傷だらけの顔からも、強い意が感じ取れた。 「おじさんは…………誰かに……何かをあげれるの? …………何かもらえるの……………………  誰にも…………なんにも……あげられないんじゃ…………おじさんの強さなんて……何の価値も無いよ……」 「…………聞いたか鳴海よ、このボウヤ俺に説教しやがったぜ」 勇次郎は勝の頭から手を離した。 「大した性根だ、あれだけ痛めつけられながらな。……尊敬に値するぜ」 そしてゆっくりと鳴海に歩を進める。 「まだ幼年でありながら、力も知恵も勇気もある。ここで殺すのは惜しいと思う程だ」 勇次郎は屈み込んで、鳴海の顔を覗き込む。 「お前もそう思わないか?」 鳴海と勝は、勇次郎の意図を汲みかねて呆けた。 「俺はオーガなんて呼ばれちゃいるが、本物の鬼だって勝の崇高な姿を見たら悔い改めるぜ」 「お前、まさか……」 ようやく言葉を発した鳴海に、勇次郎が笑い掛けた。 勇次郎が地を蹴り、勝の頭部のある部分に拳を通過させる。 ―――――鳴海には飛び散る肉片が、誰のものか分からなかった。 ―――――鳴海には舞い落ちる脳漿が、誰のものか分からなかった。 ―――――鳴海には崩れ落ちる体が、誰のものか考えられなかった。 「屈服しねぇ以上は俺との勝負を続けたってこと、決着をつけさせてもらったぜ。 勇次郎の言葉を聞き、鳴海はようやく何が起こったか理解した。 「ギザマアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」 「悪いな、手が滑って勝クンを殺しちゃったよ。鳴海兄ちゃん」 鳴海が勇次郎に駆け寄り、聖ジョルジュの剣を振り被る。 「人が謝ってるのに、ボーリョクはいけないなぁ」 勇次郎は鳴海に足を引っ掛ける。 勢いのまま鳴海は転がった。 鳴海は立ち上がろうと手足をばたつかせるが、思う様に動かない。 「仇を見据える力も無いウジ虫が、俺に挑もうなどと」 「オーガ!!」 独歩が気勢を上げ、勇次郎へ向け駆ける。 「愚地独歩か、良い所に来た」 新たな餌の来訪に、勇次郎が喜色ばむ。 勝の死体に視線を向けた独歩は、沈痛な面持ちとなった。 (すまねぇな坊主、遅れちまった上……すぐに仇をって訳にもいかねぇ) 勇次郎と鳴海の間に入った独歩は、懐から取り出した紙を広げた。 間を詰めようとする勇次郎は独歩の紙から突然現れた馬、黒王号の巨体に弾かれる。 尻餅をついた勇次郎の隙に、黒王号の予想外の巨体に驚いていた独歩も気持ちを切り替ると 鳴海と近くに有った勝のデイパックを抱え、黒王号に飛び乗る。 黒王号は乗者を選ぶ馬である。独歩が拒絶されなかったのは僥倖と言えよう。 独歩は勇次郎から逃げるべく、黒王号を走らせた。 「ケッ、人喰い愚地が逃げを打つとはよ」 鳴海と独歩に逃げられた勇次郎は、つまらなそうに吐き捨てる。 済んだ事には拘らない勇次郎は、興味を自分の体の変化に移した。 鳴海の血を図らずも飲んで以来、最近の負傷が治っていっているのだ。 勇次郎はデイパックから氷漬けにしていた、自分の左腕を取り出す。 切断面は左腕を切り落とした坂田銀時の、鋭い剣筋によって一切乱れが無い。 おかげで切れ端同士を、完全に重ね合わせられた。 切断面がずれないよう、服の切れ端で強く縛る。 「……とりあえず、飯でも喰うか」  ◇  ◆  ◇ 黒王号に跨りながら、独歩は先程の勇次郎を思い返す。 独歩は当初勇次郎を見付け次第、1対1の素手による勝負を挑もうと思っていた。 勇次郎は常に成長を続けている、地下闘技場で闘った時より強くなっているのは予想していた。 だが先程見付けた勇次郎は、もうそんな次元の相手では無い。 その存在感は自分の、と言うよりどれだけ鍛えても只の人間に喧嘩相手が務まる者ではない事が読み取れた。 それを認める事は独歩にとって、死をも凌ぐ屈辱である。 しかし先程闘いを挑んでいたら、独歩と鳴海は確実に殺されていただろう。 そして勇次郎を何としても殺さなければ、この場に居る者は確実に皆殺しにされるだろう。 そうと分かったからこそ、先程は躊躇いも無く逃げを選んだのだ。 (楽しく闘り合う筈が、とんだ事になったな。……でもしゃーねぇ、ここは大人になるか) 独歩は肩に抱えている鳴海を見る。 その表情は、空虚としか表現出来ない。 それでも勝の死が、衝撃だった事は充分推測出来る。 (勝に報いる為にも、犬死は出来ねぇよな) 独歩は何れ来るべき勇次郎対策に、思いを馳せる。  ◇  ◆  ◇ 勇次郎は支給食料である、ビニールでパックされた市販品と思しき握り飯を食べていた。 生命の水(アクア・ウィタエ)の影響で活性化された細胞が、それを栄養として吸収して行くのが自覚出来る。 不意に自分の左肘に、注意を向ける。 微かに、だが確実に自力で動いた。 「クククク、こいつぁいいや!!! ハーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!」 一人分の食料を食べ尽くしたが、食の太い勇次郎は満足を得ない。 そして食事以上に、勇次郎は餓えているものがあった。 強者への、闘争への餓えが。 (今なら、何時まででも闘えそうだ) 勇次郎の体内の、生命の水(アクア・ウィタエ)は かつてない巨凶を、生み出そうとしていた。 &color(red){【才賀勝@からくりサーカス:死亡確認】} &color(red){【残り32人】} 【D-3東部/1日目 夕方】 【範馬勇次郎@グラップラー刃牙】 [状態]闘争に餓えている 左腕切断(アクア・ウィタエの効果により自己治癒中) [装備]ライター [道具]支給品一式、打ち上げ花火2発 [思考] 基本:闘争を楽しみつつ優勝し主催者を殺す 1:戦うに値する参加者を捜す 2:首輪を外したい [備考] ※自分の体力とスピードに若干の制限が加えられたことを感じ取りました。 ※ラオウ・DIO・ケンシロウの全開バトルをその目で見ました。 ※生命の水(アクア・ウィタエ)を摂取しました。身体にどれ程の影響を与えるかは後の書き手さんに任せます。 【D-4北部/1日目 夕方】 【加藤鳴海@からくりサーカス】 [状態]:胸骨にひび 肋骨2本骨折 左耳の鼓膜破裂 右手首欠損 全身に強度の打撲 出血多量 極度の疲労 自己治癒中 茫然自失 [装備]:聖ジョルジュの剣@からくりサーカス [道具]:支給品一式×2(刃牙、鳴海)  輸血パック(AB型)@ヘルシング グリース缶@グラップラー刃牙 道化のマスク@からくりサーカス [思考] 基本:バトルロワイアルの破壊、誰かが襲われていたら助ける。赤木がいう完璧な勝利を目指す。 1:…………勝………… 2:喫茶店へ向かい、エレオノールと合流する 3:誰かが襲われていたら救出し、保護する 4:赤木との約束の為に、8時に学校へ行く 5:いつか必ずDIOと勇次郎をぶっ潰す 6:殺し合いに乗っている奴を成敗する 7:DIOの情報を集める [備考] ※聖ジョルジュの剣は鳴海の左腕に最初からついていますので支給品ではありません ※参戦時期は本編18巻のサハラ編第17幕「休憩」後です ※勝とエレオノールの記憶を取り戻しました。 【愚地独歩@グラップラー刃牙】 [状態]:健康 [装備]:黒王号@北斗の拳、キツめのスーツ [道具]:支給品一式×2(独歩、勝)、不明@からくりサーカス、書き込んだ名簿、携帯電話(電話帳機能にアミバの番号あり) [思考・状況] 基本:殺し合いには乗らない、乗った相手には容赦しない。 1:何処かで加藤鳴海を治療する。 2:その後、駅に戻ってシェリスと合流。そのままシェリスの服を見立てる為に繁華街に行って、服を探す。 3:アミバ・ラオウ・ジグマール・平次(名前は知らない)と接触、戦闘。 4:乗っていない人間にケンシロウ・上記の人間・タバサ(名前は知らない、女なので戦わない)の情報を伝える。 5:シェリスとともに劉鳳を探す 6:勇次郎を手段を選ばず殺す [備考] ※黒王号に乗っている場合、移動速度は徒歩より速いです。 ※パピヨン・勝・こなたと情報交換をしました。 ※不明@からくりサーカス 『自動人形』の文字のみ確認できます。 中身は不明ですが、自立行動可能かつ戦闘可能な『参加者になり得るもの』は入っていません。 ※刃牙、光成の変貌に疑問を感じています 【D-3南部/1日目 夕方】 【才賀エレオノール@からくりサーカス】 [状態]:健康 [装備]:ピエロの衣装、メイク@からくりサーカス [道具]:青汁DX@武装錬金、支給品一式 [思考・状況] 基本:殺し合いに優勝し、人間になる。 1:人形以上に強力な武器が欲しい。 [備考] ※参戦時期は1巻。才賀勝と出会う前です。 ※オリンピアは懸糸の切れた状態でD-3東部に放置してあります。 [共通備考] ※地下鉄線路内には、地上に出る避難口が存在します。 ※勝の首輪は遺体の側にあります [[前編>一瞬のからくりサーカス]] |157:[[男達、止まらず]]|[[投下順>第151話~第200話]]|159:[[殺人鬼は密かに笑う]]| |157:[[男達、止まらず]]|[[時系列順>第3回放送までの本編SS]]|159:[[殺人鬼は密かに笑う]]| |149:[[大乱戦]]|範馬勇次郎|160:[[繋がれざる鬼(アンチェイン)]]| |146:[[更なる舞台(ステージ)へ]]|愚地独歩|161:[[夕闇に悪魔、慟哭す]]| |146:[[更なる舞台(ステージ)へ]]|&color(red){才賀勝}|&color(red){死亡}| |146:[[更なる舞台(ステージ)へ]]|加藤鳴海|161:[[夕闇に悪魔、慟哭す]]| |148:[[『歯車』が噛み合わない]]|才賀エレオノール|162:[[燃える決意――Resolution――]]| ----

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
目安箱バナー